111 : ミサカの穴 - 2010/12/13 23:01:39.99 33WCNu2o 1/7

 ミサカは穴に落ちた。と思った。

 そこまでは覚えている。

 次に気がつくと、ここにいた。

 なぜだか周囲の様子がわからない。

 鼻を摘まれてもわからないほどの真っ暗闇。それなのに、何となく周囲の気配がわかる。どことなく懐かしい、温かい気配。

 思い当たる節は、ただ一つ。

「誰かいるのですか? とミサカは当惑気味に周囲へ問いかけます」

「いますよ、新入りさん。とミサカは少々の優越感を持って答えます」

 やっぱり、この気配はシスターズだった。

「ここはどこですか? とミサカ18932号は至急に情報を要求します」

「まずは落ち着きなさい。とミサカ10032号は慌てている個体を窘めます」

 おう。と18932号は呟いた。

 10032号と言えば、実験を生き延びたシスターズの中で最も若い個体番号である。

 そのためか、ミサカの代表的存在だとお姉さまや上条当麻にも認識されていたはずだ。行動を共にすることも多い。

 妹達の中では最も頼れる存在の一人と言ってもいいだろう。

 だから、18932号は素直に指示に従うことにした。

 待っていれば、周囲の状況に自分の感覚も慣れていくかも知れない。

 視覚、嗅覚は今のところ全く当てにならない。聴覚はとりあえず大丈夫のようだが。

「ところで、ミサカは周囲の視覚情報を取得することが出来ないようなのですが、とミサカは不安を感じていることを告白します」

「それに関しても、もう少し待つことを、ミサカはさらに勧めます」

「わかりました。とミサカは先達を尊重して了解します」

 少し黙って待つことにした。

 その間でも周囲が見えるようになるかどうか、じっと目を凝らしてみる。

 しかし、輪郭すら見えない。

 声の様子からしてすぐ近くにいるはずの10032号の姿も見えないのだ。そもそも自分のいる場所もわからない。

 いや、自分の姿すら見えないのだ。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-19冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1292144549/

112 : ミサカの穴 - 2010/12/13 23:02:18.34 33WCNu2o 2/7

(……もしかして、ミサカは目を負傷したのでしょうか)

 治療されたという覚えも感覚もない。だからといって、痛みもない。

(……不安感はありませんね)

 実験の順番を待っていた頃なら、それもわかる。不安を感じる心など同時の自分たちにはなかったものだ。

 しかし今は違う。不安も喜びも感じることは出来る。

 それなのに、暗闇の中だというのに不安は全くない。

(10032号の存在でしょうか)

(それとも……)

 自分たちは常にMNWで繋がることができる。最悪、自分の目が駄目になったとしても、他のミサカと視覚共有すれば、脳神経が無事である限りは、物を見ることが出来る。

 と、そこまで考えて18932号は気付く。

 今の自分はMNWに接続できない。

「再び質問します。とミサカは姿の見えない10032号に問いかけます」

「質問は何ですか? とミサカ10032号は尋ねます」

「10032号はMNWに接続可能ですか? と接続できないミサカは不安を隠せずに尋ねます」

「上位個体がここにやってくれば、使えるようになるかも知れません。とミサカは誤魔化します」

「今、誤魔化すと言いましたか? とミサカは自分たちの話し言葉による情報の漏洩可能性を今更ながらに再認識しながら確認します」

「間違えました。MNWに関しても、もう少し待てばわかります。とミサカは含みを持たせて答えます」

 少し考えて、18932号はわかったと答える。

 同じミサカを疑うことは出来ない。ある意味では、ミサカにとってのミサカはお姉様以上に信用できる存在だ。

 ミサカの相違点はすなわち経験の差。この場所にいるのが自分よりも長い10032号が、自分よりもこの場所に詳しいのは当然のことだ。

 そのミサカが「少し待て」と言うのだ。ここは待つべきなのだろう。

113 : ミサカの穴 - 2010/12/13 23:03:03.14 33WCNu2o 3/7

「ところで、18932号に聞きたいことがあるのですが」

「はい? 何でしょう。とミサカはいかなる質問にも答える心準備を整えます」

「貴方がこの環境に適応するまでの間、お話を聞かせてもらえませんか?」

 これは10032号ではない。とミサカは判断した。しかし、声からするとミサカの一人ではあるようだ。

「構いませんが、どのようなお話を聞きたいのですか? とミサカはMNWのデータベースにアクセスできないことを悔やみながら尋ねます」

「大丈夫です。私たちが聞きたいのは貴方の経験ですから」

「経験ですか。ミサカは上位個体や番外個体、御坂妹と呼ばれる10032号とは違い、それほど特異な個体ではありません。とミサカはやや凹みながら事実を伝えます」

 某変態とか某スネークのような、妙に個性を伸ばしたミサカ達とも違う。平々凡々、単なる一ミサカなのだ。

 そのミサカの経験など、他のミサカに話して面白がってもらえるような代物でもない。

「それでいい。というより、それがいいの。貴方の経験を話して。そう、ここ数ヶ月くらいの」

 上条当麻はどうしているのか。一方通行は。お姉様は。上位個体は。

 どんなことでもいい。

 ミサカ達の知る人たちについて、この数ヶ月何をしていたか、どんなことを言っていたか。

 出逢ったのか。話したのか。見かけたのか。動向を耳にしたのか。

「10032号の方が……」

 詳しいはず。と言いかけて18932号は絶句する。

 何故。

 どうしてこんなことを忘れていたのか。

 こんな重大なことが記憶から欠落していたなんて。

114 : ミサカの穴 - 2010/12/13 23:04:03.33 33WCNu2o 4/7

「10032号。いますか? とミサカは疑念と共に尋ねます」

「はい。ここにいますよ。とミサカは疑念とは何かと首を傾げながら答えます」

「貴方はどうしてここにいるのですか。とミサカは重大な疑惑を抱きつつ尋ねます」

「その質問の意味がわかりません。とミサカは努めて冷静に聞き返します」

「10032号、貴方は……」

 死んだはずだった。

 友人とのショッピング中、暴走車に巻き込まれ、正面から轢かれて即死。

 近くにいた友人達にも何も出来なかった。特に、助けられる可能性があったはずだと本人が言い張った白井黒子は、見ている方が怯えるほどに狂乱していたものだった。

「もし、あれが死んだふりだというのなら、ミサカは貴方を許しませんよ。とミサカは親友となった白井黒子の憔悴しきった姿を思い出して憤然とします」

「では、その白井黒子のお話をしてもらいましょう」

 10032号のものではないミサカの声に、18932号は尖った口調で言葉をぶつける。

「まずは自分が何者なのかを言うべきでありませんか。とミサカは他人の気持ちを察しようとしないミサカに苛立ちます」

「……まだ、気付かないの?」

 さらに尖った声をぶつけようとして、ミサカは気付いた。

 何かがおかしい。

 いや、おかしいと思っていたことを受け入れつつある自分がいる。

 これは……

 自分が、この環境に適応しつつある。

 ああ。

 ここは。

 この場所は。

 そうか。

 そうだったのか。

「自己紹介が遅れました。とミサカ00001号は謝罪します」

115 : ミサカの穴 - 2010/12/13 23:05:02.09 33WCNu2o 5/7

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「最後は18932号だって、ミサカはミサカは哀しいけれど思い出してみる」

「あァ、わかってンよォ。……その花ァ、供えるンだろォ? 三下よォ」

「ああ。でも、それは俺の役目じゃない。美琴の役目だ」

 打ち止めと一方通行。そして、上条と美琴。四人は年に何度か、ここに集まるようになっていた。

 学園都市の共通墓地から少し離れた場所。そこには、小さな特別製の墓碑がある。

 美琴は上条から花を受け取ると、墓碑の前に跪いた。

「私も打ち止めも元気。他の妹達も、元気でやってるわよ」

 一人一人別々の墓などいらない。そう言ったのは誰が最初だっただろうか。

 打ち止めに聞けば、MNWですぐにわかるだろう。

 それでも、美琴はその答えを聞く気にはなれない。

 妹達の共通の望み。それだけで充分だ。

 00001号から10031号までの墓碑があると知ったとき、他のミサカ達も死後はそこに納められることを希望した。

 そんなつもりで作ったわけではない。と墓碑を作った男は言った。

 それでも、墓碑のあることが嬉しいのだと、ミサカ達は答えたのだ。

 もし、ミサカの一人としてではなく、別の誰かとして死ねるのなら、それを認めた者が墓を作ってくれるだろう。

 でも、最後までミサカであったのなら、そのままミサカとして葬られたい。

 それは贅沢な望みですか? とミサカは尋ねた。男に返す言葉はなかった。

 そして、わかったと答えたのは別の男だった。だから簡単に死ぬなんて言うな、とその男は言った。

 わかりました、ミサカは答える。

 その翌年、ミサカの一人が死んだ。

 殺されたのではなく、死んだのだ。

 一人の人間として。単なる事故で。

 それは祝うべきことだと、ミサカは言った。

 実験体でなく。標的でもなく。兵士でもなく。クローンでもなく。ただの事故として、一人の平凡な人間として死んだのだ。

 だから哀しまなくていい。それは、ミサカが一人の人間になれた証なのだから。

 だから、かつてミサカを殺した男は哀しまない。

 だから、かつてミサカを助けた男は哀しまない。

 だから、かつてミサカを認めた女は哀しまない。

 だから、ミサカは哀しまない。

 きっとミサカ達は、何処かでまた集まっているのだろうから。

116 : ミサカの穴 - 2010/12/13 23:06:03.45 33WCNu2o 6/7



以上、お粗末様でした。

117 : 以下、三... - 2010/12/13 23:09:32.52 ZiKsYdIo 7/7



しんみりくる良い話だった

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