2 : ◆6RLd267PvQ - 19/07/22 22:54:48 am1 1/12

夜の街、寝静まった世界はまるで、何もかもが死に絶えたように穏やかで。

煩わしいしがらみも、鬱屈した世界の喧騒も。
何もない。 何も、ないのだ。

3 : ◆6RLd267PvQ - 19/07/22 22:55:01 am1 2/12

強いて言うなら孤独。
闇をひた歩き、心に溜まってしまった凝りや雑念を

ただ、吐き出したくて。
甘えてみたくて、歩くのだ。

4 : ◆6RLd267PvQ - 19/07/22 22:55:16 am1 3/12

「…変わらないな、ここも」

昔から、歌が好きだった。
一日、誰もいない公園で一人、特に意味のないフレーズを並べて。がむしゃらに、それらしく、格好だけつけて歌っていた。

意味なんてなかったし、先行きなんて真っ暗だった。
たまたま気の合う仲間を見つけて、テキトーなフレーズに、曲をつけて、歌って。

「でも…楽しかったよな」

5 : ◆6RLd267PvQ - 19/07/22 22:55:31 am1 4/12

公園のベンチに腰かける。夜風はほんのりと湿っていたが、暑くもなく、寒くもなく。

「今…変われてるのかな、アタシは」

ふと空を見上げる。月は、見えなかった。

6 : ◆6RLd267PvQ - 19/07/22 22:55:58 am1 5/12

~~~~~

朝が来て、今日も一日が始まる。
空の向う側が少しずつ白んできて、眩しいくらいでかい大陽が昇っていく。

特に何をするでもなく。一晩中空を見つめていた。
センチメンタル、なんざアタシには似合わないってのに。

そんなもんは、歌い続けると決めた時に、とっくにどこかに捨ててきた、つもりだった。

7 : ◆6RLd267PvQ - 19/07/22 22:56:17 am1 6/12

「そうそう、変われるもんじゃないのかね…人間なんて」

それでも…踏み出した事に悔いはないし。
昔のままじゃ見えなかった景色を、今確かに見ているはずなんだ、きっとな。

8 : ◆6RLd267PvQ - 19/07/22 22:57:00 am1 7/12

「はっ、はっ、はっ…!…あれっ?凉さんっ?」

「よう、悠貴。朝早いな。ランニングか?」

「あ、はいっ。日課なので、毎朝この辺りを走っててっ。凉さんはどうしてここにっ?」

「…んー、何となく」

「何となく、ですかっ…?」

「ああ、寝付けなくてさ、何となくだ」

9 : ◆6RLd267PvQ - 19/07/22 22:57:32 am1 8/12

「何か、悩み事ですか…?それなら、私、聞きますよっ!話してくれませんかっ?」

「…いや、何に悩んでるのか自分でもわかんなくてな。モヤモヤしたままってのも嫌だから、ここに来てみたんだよ」

「そうなんですか…」

「あと…何となく、誰かに会える気がしてな」

「…会えましたね、私にっ」

「そうだな。…会えてよかった。」

10 : ◆6RLd267PvQ - 19/07/22 22:58:03 am1 9/12

「あのっ、凉さん。悩み事が何なのか、わからないんですよね」

「ん、ああ」

「だったら…一緒に走りませんか?ちょっとだけ…」

「おいおい、お前はトレーニングだろ?アタシが邪魔するわけには」

「いえ、ほっとけないですよっ。私でよければ、話し相手にはなれないかもですけど…一緒に走ることならできますからっ」

「…そうか」

「はいっ。…あ、嫌ならいいんですけどっ…その…えっと」

11 : ◆6RLd267PvQ - 19/07/22 22:58:35 am1 10/12

「いや、走ろう。一緒に走ってくれ、悠貴。」

「…はいっ!」


何に悩んでたのか、何がキツくてここに来たのか

そんなこと、考えたって時間の無駄だし、どうせつまんないことに決まってる。

12 : ◆6RLd267PvQ - 19/07/22 22:58:51 am1 11/12

だから、今は走り続ける事にした。
横に並んで走ってくれる、ダチがいてくれるから

面倒でどうしようもないしがらみを、吹き飛ばすために。

気付けば夜は明けていて、きっと今日も笑って生きていけるんだろう。

隣を走る、アタシよりほんの少し背の高い妹分に。その屈託のない笑顔に。
釣られるよう、不器用にアタシも、微笑みを返したんだ。

13 : ◆6RLd267PvQ - 19/07/22 22:58:58 am1 12/12

おしまい。

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