アイドル。華やかに聞こえるけど、その実かなり難儀なお仕事。
きらめくステージで自由に振る舞える人間は一握りで、殆どは大人の事情に振り回される。
言ってしまえば自分じゃ何もできない、操られるまま踊るお人形さんだ。
個性を無視したデビュー、スポンサーの意向に合わせたキャラづくり。
1000人に聞いたら、999人ぐらいがそんな経験があると答えると思う。残りの1人は、特別なんだ。
そしてそれは、ボクも例外じゃない。
ファンが見ているのは、飾り棚に並ぶオブジェだ。
そしてそこに立っているのは、既に王子様の服を着させられたボク。
真「ボクは君が羨ましいよ」
涼「えっ、いきなり何ですか?」
元スレ
真「着せ替え人形の」涼「シンドローム」
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とある休日、久しぶりに愛弟子と会う。
秋月涼。女の子アイドルから、男の子アイドルとして見事に転身した、奇跡の少年。
それだけ聞くと、性転換をしたのかと言われそうだから説明すると、
彼は最初、女の子アイドルとしてデビューしていた。
つまり女装っ子だ。いくら大アイドル時代とはいえ、そんな隠し玉が来るなんて、誰も思ってなかっただろうな。
涼とは、彼が駆け出しのころからの付き合いだけど、あの頃はまさか男の子とは思っていなかった。
それは僕だけじゃない。うちの事務所で、事情を知っていたのは、元凶のたる律子と、
響『涼? 見たら男だって分かるぞ』
野生の勘と、
貴音『ええ、皆様も気付いているかと思ってましたが……』
とっぷしぃくれっとの2人だけだった。
貴音はまだ良い、彼女は何をしても貴音だからで許されるから。
だけど、1回しか会ったことのない響に分かって、
師匠として鍛え上げたボクが気付かなかったのは、なんかムカつく。
響『まっ、自分完璧だからな!』
真『つまりそれは響以下ってことだよね……』
響『それどういう意味!?』
言葉通りの意味だよ。
と言っても、涼だって思春期の男の子だ。今じゃ背も少し高くなり、
甘く柔らかかった声も低くなって、自分が男であることを主張している。
それでも、まだ可愛らしさは残って、女性ファンよりも男性ファンが多い、なんて実に珍しいアイドルになったんだ。
誰かがボクの鏡写しなんて言ってたけど、まさにそうだと思うな。
真『ロミオ~ジュリはここよ~んきゃるる~ん』
涼『俺がお前を絶望の淵からレスキュー!』
真『やーん! 12時の鐘が鳴っちゃう~! 家までダーッシュ!』
涼『いやーん、待ってー!』
ロミオがボクで、ジュリエットは涼。王子が涼で、シンデレラがボク。
一度配役を逆にして、互いに痛い目にあったのはよく憶えているよ。
真「ほらっ、皆認めてくれてるじゃんか。男の子再デビュー」
涼「あー。それですか……。みんなって訳じゃないです。今まで女の子の僕を応援していた人の中には、男の子と言う事実を受け入れられない人もいて、アンチスレが盛り上がったぐらいですから」
アンチスレなんて、人気者の常だから、気にするものじゃない。
いちいち気にしていたら、アイドルなんてやってられないしね。
真「でもそっちの方が少数派じゃないのかい? えっと、マイリノティリポートだっけ」
涼「マイノリティリポートじゃないですか?」
真「そだっけ?」
指摘されて恥ずかしくなる。似たような言葉なんだから、同じ意味にしちゃえばいいのに。
真「それでも、アイドルランクは変わらない。文句を言うファンも黙らせるぐらいの勢いじゃん」
正直言うと、今の涼を止める自信はない。師匠を超える日が遅かれ早かれ来ると思ってはいたけど、
こんなに早く来ちゃうなんて。
嬉しいような、悔しいような。
涼「そんな! 僕にとって、真さんは憧れの存在です! 僕なんてまだまだです」
声を強くして否定する。
涼「真さんの方が凄いです。IU制覇と男子デビュー。どっちが凄いかなんて、一目瞭然です」
そうは言うけど、もし涼がもっと早くデビューしていたら?
もう少し早く男の子アイドルとして再デビューしていたら?
もしものことなんて、考えるだけ不毛だけど、IUの結果も変わっていたかもしれない。
勝負は実力と時の運。
ボクは運が良かったんだ。つくづくそう思う。
真「そこまでのものでもないって。それに、君が羨ましいのは本当さ」
ボクに出来なかったことを、やってのけたんだから。憧れって言ってもいいさ。
だからこそ、涼に聞いて欲しかったんだ。
真「ねぇ、1つ愚痴っていい?」
ボクが今抱える悩みを。
涼「はぁ。構いませんよ」
真「サンキュ。まずさ、初めて会った時、休止してたの覚えてる?」
涼「はい。そのおかげで真さんに指導してもらえましたし」
真「うん。そうなんだけど、なんで休止してたか教えたっけ?」
涼「いえ、聞いてなかったかなと思いますけど」
真「まぁ何でもいいや。あれさ、プロデューサーと揉めたんだ。売り出しの方針についてちょっとね」
今思えば懐かしいな。
揉めただけなら良かったけど、それが尾を引いて、事務所やテレビ局に大きな損害を与えてしまった。
休止なんて綺麗なものでなく、その責任を取って、謹慎って言うのが事実だ。
まぁ頭を冷やしてきなさいって、休暇を貰ったともいえるけど。
真「ご存じのとおり、世間はボクを王子様と見ている。だけど、ボクは女の子として見られたい。まさに涼の真逆だ」
だからこそ、律子はボクを選んだのだろうな。理想も現実も、涼と正反対なボクを。
涼「僕は真さんの女の子らしいところを知っています」
すかさずフォローを入れる。
真「流石にプライベートはそうだよ。ファンシーショップにも行くし、親に隠れてこっそりとスカートも履いている」
少女漫画も好きだし、虫が苦手。うん、実に女の子だ。でもそれは、菊地真と言う1人の女の子の話。
みんなが応援する、アイドル「菊地真」は、そうじゃない。
真「だけど、世間が見ているボクは」
涼「真王子」
真「そういう事」
誰よりも凛々しく、男らしい。それが世間のボクの評価だ。
事務所で唯一、男性ファンより女性ファンが多いっていうのが、それを物語っているだろう。
真「でもまぁ、今着ているのはラフな格好だけどさ。部屋には一応女物の服もあるからね」
涼「分かってますよ」
真「話を戻すね。プロデューサーもさ、さっきの涼みたいなことを言ってくれたけど、それでもボクは皆に認めて貰いたかった。それこそがボクがこの場所にいる意義なんだから」
ボクだって1人の女の子ってことを。可愛くなっていいんだってことを証明したかった。
そのために、アイドルになったんだから。
真「でもね、それは……、ボクの地位を揺るがしてしまう。君と同じだよ。王子様を捨てるってことは、ファンを裏切ってしまうことになるんだから」
涼は黙ったまま聞いてくれている。
真「勇気を出して一歩踏み出したら、案外上手くいくかもしれない。男性ファンも増えて、女性ファンもついてきてくれるって。そう、涼みたいに」
涼「真さんなら出来ます。ボクが保証します」
真「偉大なる先人様にそう言ってくれるのは嬉しいけどね」
でも涼と僕は、事情が違う。
例えばファン層の違い。涼はもともと男性ファンが多く、それに女性ファンが付いた。
消えると思われた男性ファンの多くも、涼の漢気に魅せられて、そのままファンを続けている人も多い。
だけど僕は逆だ。改造計画とは名ばかりの、萩原雪歩自己満足ショーでもそう。
僕が望んだ可愛いは誰にも望まれておらず、格好いい姿のみがチヤホヤされる。
ファンにとって、ボクは着せ替え人形だ。
『○越シェフと照○が泣きながら、真ちゃんとまっこまっこっりーんしている画像をください!!』
ボクでコラを作った人、怒らないから出てきなさい。
真「上手くいくと思ったんだけどな……」
ふいに思い出す。あれは僕がIUを制覇した次の日の事だった。
P『やったぞ真! トップアイドルだ!』
真『へへっ! やーりぃ!! ねえ、プロデューサー!』
P『どうした、真』
真『えっと、そろそろですよ? ボク……、いや私! 女の子らしく活動したいんです!』
P『……』
真『ダメ……、でしょうか?』
P『いや、確かに真の望んでいたのは、可愛い服を着たアイドルだからな。誰もが認めるレベルにまで到達したんだ。そろそろ解禁する方が良いのか……』
真『それって!』
P『ああ、方向転換してみるか! 可愛い真を、独り占めできないのは残念だけどな』
真『も、もう! 何を言うんですか!!』
この人は誰にでもこんな感じなので、今の一言でコロッと恋に落ちた……、
なんてことはなかったけど、ドキッとしたのは事実。
にしても、ニンジンを目の前に釣らされた馬みたいな扱いだよなぁ。
P『そうと決まれば、社長に相談……』
社長『ふむ、私がどうしたのかね?』
P『あっ、社長! 良いところに!』
真『社長! ボク、いや私!』
涼「それで、社長さんは何って言ったんです?」
真「拒絶はしなかった。だけど」
涼「だけど?」
真「賛成もしなかった」
社長『それは……、君のアイドルとしての価値を下げてしまうことになる』
真『そんなっ!』
普段はボクたちの自主性に任せてくれるのに、この時に限って、
彼は社長として、アイドルを商品と見ていた。
その事実に少し、ボクはゾクッとする。
P『社長、お言葉ですが、真はもうAランクアイドル、それにIUで優勝しました。それに、彼女の夢は』
社長『分かっているよ。勿論、君の持つ女の子らしさも重々承知済みだ』
真『えへへ……』
P『なら』
社長『しかし、同時に私は菊地君の持つ凛々しさ、格好良さを知っている。それはファンも知るところであるし、残念だが君に求めているものだ』
真『だからダメって言うんですか?』
社長『もし、方向転換をしたのなら、間違いなく今までのファンは減るだろう。それも、先の秋月君の比じゃないぐらいに』
真『そんな……っ!』
分かってはいた。涼の場合が、特殊すぎたってことぐらい。
だけどこう、応援してくれると思った人から宣告されるなんて思ってもなかった。
死刑宣告って、こんな気持ちなのかな。
P『ですが社長! 俺は真ならいけると』
社長『君は菊地君に入れ込み過ぎじゃないかね? 私も菊地君の高いポテンシャルを知っている。しかしだ。審判を下すのは君でも私でも、ましてや菊地君でもない。彼女を応援する何百万人のファンだけだ』
熱くなるプロデューサーをよそに、社長は静かに続ける。
社長『王子様ルックに乙女心、俗にいうギャップ萌え。それが君の売りだと思っている。だが、王子様を捨てると、そこに残るのは乙女心だけだ。言いたいこと、分かるよね』
乙女心だけ。それはつまり、
真『ボクは……、どこにでもいる普通の女の子って言いたいんですか』
P『真……』
社長『そう捉えてもらって構わない。ファンの皆は、君に完璧な王子様像を求めている。それは、君が彼女たちの理想を具現化した存在なのだからね』
人よりダンスが上手くて、人より度胸がある、そんな女の子。
そんなもの、珍しくもなんともない。
つまり、仮面を被った王子様だからこそ、ボクはここまで来れたんだ。
なんと皮肉な話だろう。
ありのままでいることが、こんなにも難しいなんて思ってもなかった。
涼「そうだったんですか……」
涼は自分のことのように落ち込んでいる。そんな顔されると、申し訳なくなるじゃん。
真「なんで涼が落ち込むのさ」
涼「僕と同じ境遇なのに、どうして真さんはダメなんですか? 僕は許されて、貴女は許されないんですか? すみません、同情するつもりはないんです。でもそんなの可哀想すぎます」
真「涼……」
可哀想か。振り返ってみると、意外にも自分の境遇を可哀想と考えることは無かったな。
それは誇っていいと思う。
真「切られたカードで勝負するしかない、か」
白い犬のお話を思い出す。あんな可愛らしい外見から、
よくもまぁあそこまで渋いセリフが出るもんだと感心したっけ。
涼「スヌーピーですか?」
真「うん。涼はさ、切り札を2枚持っていたじゃん」
女の子のように可愛く、男らしく格好良い。歌の新たな時代を作っていける存在、そう評されていたっけ。
真「でもボクにあるカードは、王子様菊地真だけ。欲しいと思ったカードをさ、涼が持ってちゃったから」
涼「うっ、僕はいらなかったんですけどね……」
真「そんなものなのかな、理想と現実って」
世間の期待、トップアイドルの地位と、ありのままでいたいというボクの夢。
2つは見事に、シーソーみたいに均衡していた。
社長『しかしだ。評価を下すのはファンだが、方向転換をするのは君だ。やってみないと分からないこともある』
社長『もし、君が考え抜いて、王子様の仮面を捨てるというのなら、その時は私も力を貸そう。だから……、少し考えたまえ』
真『分かりました……』
P『そうですね。俺も一緒に考えるよ、真』
真『ありがとうございます、プロデューサー』
社長がそう言ってくれたのは、救いだった。完全に拒絶されたわけじゃない。
だけど今一度、ボクは自分の理想と現実に対峙しなければならなくなった。
真「ホント、ボクらって難儀な仕事してるよね」
涼「ははっ……、同感です」
2人して、情けなく笑う。
可愛くなりたい王子様と、格好良くなりたいお姫様。まさにアベコベだ。
涼「プロデューサーさんは、何って言ってるんですか?」
真「プロデューサーは僕の味方さ」
それもかなり力強い味方。
P『俺は真のしたいようにやって欲しいと思っている。』
真『それって……』
P『ここまで、本当の自分とは違う王子様を演じてきたんだ。ランクが下がったとしても、すぐに戻してやるさ』
自信満々に言う彼からは、出会ったばかりの頃の頼りなさは感じれなくなっていた。
涼「僕も真さんの味方です。その、なりたい自分と世間の期待のジレンマ、誰よりも分かっているつもりですから」
芸能界を敵に回そうとも、涼は最後まで夢を諦めなかった。そして涼は夢を叶えた。
理想の自分を、あるがままを手に入れたんだ。
ボクにだって出来るはずだ。
真「ねえ、涼。この後も暇?」
涼「えっと、はい。暇ですけど」
真「じゃあさ、遊びに行かない? なんかさ、色々ストレスたまってて。そろそろガス抜きしないと爆発しそうなんだ」
涼「遊びにですか? そうですね。良いですよ。どこに行きますか?」
真「そーだね。カラオケとかどうかな?」
イライラが募ったときは、体を動かして発散していたけど、今日はなんとなくそんな気分になれなかった。
真「って、こういうのは涼がエスコートしてよね。男の子なんだから」
涼「あはは……。でも僕も最近カラオケ行ってないし。そうしましょうか」
真「そうと決まれば行くよ」
よくよく考えると、ボクと涼は男と女。要はデートなわけで。
すっぱ抜かれたら大変なことになるんだけど……、まっいっか!
涼「あっ、待ってください!」
真「店員さんは」
涼「はい」
真「ボクらがアイドルなんて気付いてないよね」
涼「まぁ一応変装してますし」
案外ばれないものだ。向こうも、名の売れたアイドルが来ているなんて思ってもないだろうし。
真「じゃあ涼から歌ってよ」
涼「僕からですか?」
真「名前の順だよ。それに、ボク決めるの時間かかるから」
2人しかいないのに、名前の順もないと思うけど。
涼にマイクと予約機を渡すと、ボクはカタログをパラパラとめくる。こういうのって、結構悩むよね。
真「どれにしようかな……」
涼「えっと、じゃあこれで」
涼は慣れた手つきで、入力していく。
真「久しぶりって言う割に、手慣れてるね」
涼「デビューしたての頃、色々我慢してたんで、結構行ってたんですよ。楽しいですよ、ヒトカラ」
真「ヒトカラね……」
1回してみたいと思うけど、なかなかその一歩が踏み出せずにいる。
そう考えていると、聞いたことのあるイントロが流れてくる。
真「あっ、この曲」
涼「コホン! 1番、秋月涼。曲は、Alice or Guilty」
まさかのジュピター。普通に考えて、男の子が歌う曲なんだけど、涼が歌うと考えるとちょっぴり違和感。
言ったら傷つくから、黙っておくけど。
涼「~♪」
真「そろそろ終わっちゃう!」
自分の曲でもいいけど、いつも仕事で歌ってるんだ。どうせなら、普段歌わないような可愛い歌が良いな。
えっと、確か曲名は……。
真「あったあった。これで」
涼「~♪ え?」
歌詞を見ていた涼は面食らってしまったようだ。それもそのはず。
入れた曲はDazzling World。他ならぬ涼の持ち歌だ。
涼「~♪」
真「涼、上手いよ」
拍手の代わりに、タンバリンでシャカシャカ鳴らす。
涼「ありがとうございます。でも真さん、Dazzlingって」
真「たまにはさ、ボクだって可愛い歌を歌いたいんだって」
涼からマイクとリモコンを貰うと、自分の声域にキーを合わす。
真「~♪」
いつもとは違う、キュートなガールズポップ(実は男性が歌っても問題がないように作られているけど)にボクの心も自然とウキウキする。
涼「~♪」
自分の曲だからか、ノリノリでハミングを入れてくれる。
観客はいないけど、ちょっとしたステージだよな。
真「~♪」
涼「~♪」
真「ふー、歌った歌った」
結局2時間の予定が、ヒートアップして延長、延べ2時間半、ボクらは歌い続けた。
普段歌えないような可愛い曲をいっぱい歌って、モヤモヤ吐き出せたからか、気分は晴れやかだ。だけど、
涼「……」
真「涼? どうしたの、浮かない顔して」
彼は神妙な顔つきをしている。
涼「すみません、少し考え事を」
真「どうしたの?」
涼「いえ。真さんが方向転換したら、今日みたいに可愛い曲をいっぱい歌うのかなって思って」
真「そりゃ可愛い服、可愛い歌をバリバリやってきたいと思うよ」
だってアイドルだし。
真「でもそれじゃあダンスの方向性も変わってくるし、ボクのハスキーボイスじゃ……」
とはいえ、今までと180度違うことをするんだ。方向転換するということは、
新たな自分をみんなに見せること。レッスンも大変になるんだろうな。
涼「ですよね……」
真「へっ、何が?」
涼「なんでもいないです、はい」
なんでもないという割には、どことなく寂しそうだ。こっちがモヤモヤする。
時計を見ると、まだ時間はたっぷりある。まだまだ、帰る気にもならなかった。
真「さて、次はどこに行こうかな。涼、エスコートしてよね」
涼「えっとそれじゃ……」
あれこれ考えてもらった結果、
涼「服、買いに行きませんか?」
真「服?」
涼「はい、服です」
ますますデートっぽくなって来ました。
真「えっと、涼?」
涼「あっ、これとかどうかな?」
真「あのー、涼くーん」
僕の呼びかけが耳に入っていないのか、楽しそうに女物の服を物色している。
えっと、君男だよね?
涼「真さん、これなんてどうです?」
真「いや、どうですって言われても……」
笑顔で3着服を渡される。彼は自分が男の子ということを忘れているんじゃないのか?
涼「菊地真改造計画番外編です。ささっ、着てみてください」
真「わ、分かったよ!」
さっきとは打って変わって、妙に強引な涼に押し込まれるように試着室へ入る。
真「センスは……、悪くないかな」
ボクが着たいフリフリッとした服ではないけど、
いつも着させられるような格好いい系の服じゃないし、折角だから着てみるか。
そういえば、こうやって、男の子に服を選んでもらうのって、初めてかも。
真「どう……、かな?」
カーテンを開けて、選んだ本人に感想を聞いてみる。
涼「……良いです」
真「E?」
涼「素敵です真さん!!」
真「うわっ!!」
涼「すっごく可愛いです! えへへっ、僕の目に狂いはなかったなぁ、うん。これに化粧をしたら……、もっと可愛くなるかも!」
真「そ、そうかな……」
涼「じゃあ次の服も着てみてください! きっと可愛くなりますから」
勢いのまま、キラキラと目を輝かせる涼。
どことなく、雪歩に通じるものがあると思うのは、ボクだけかな?
真「これは?」
涼「最高です!!」
真「それじゃあこれは?」
涼「すっごく可愛いです!」
この調子ならいける! せーのっ!
真「まっこまっこりーん!」
涼「それはキモいです」
真「酷い!!」
涼「すみません、キモいです」
真「大事なことなので2回言った!?」
これの良さを分からないなんて……。涼もまだまだだね。
真「って、これじゃあボクが着せ替え人形みたいじゃないか!」
涼「えっと、気に障りました……?」
弱弱しく聞いてくる涼に、ちょっとばかしの母性本能がくすぐられる。
真「いや、そんなことは無いよ。寧ろ、嬉しかったな」
涼「へ?」
真「こうやってさ、女の子の服を着せてくれたの、涼だけだから」
涼「僕だけですか?」
真「うん。君だけだよ。いつもさ、菊地真ちゃん人形は、可愛い服を着たいのに、裏腹に格好良い服を着させられていたんだ。時々可愛い服を着ると、みんなに笑われた。それはなんの冗談? って」
あれは結構心に来たなぁ。
どうもボクの可愛いと、世間の可愛いには大きすぎるぐらいの差異があるみたいだ。
真「でもいつの間にかさ、それも悪くないかなって思いだしたけど、本心は自分の欲しいものと違うって、自分をごまかすなってずっとボクに怒ってくる」
真「そんな中、君はボクに可愛い服を着せてくれた。ボクは女の子だ。当たり前なのに、それが凄く嬉しかった」
着せ替え人形だとしても、好きな服なら嬉しいもんね。
涼「真さん! 僕は……」
真「でもさ、涼は変わってるよね。男の人って、女の子の買い物の長さにイライラするものかと思ってたから」
漫画やドラマでもよく見る光景だ。だけど涼はむしろ積極的に参加してきた。
ボクに可愛い服を着て貰おうと。
涼「愛ちゃん絵理ちゃんとよく買いに行ってましたからね」
同期の2人か。876事務所の3人って、兄妹みたいに仲が良いんだよなぁ。
涼「でも、こんなに楽しかったのは、真さんだからです」
真「ボクだから?」
涼「はい。きっと愛ちゃんや絵理ちゃんと一緒にいても、ここまで楽しくなったことは無いと思います」
真「そこまで言うの?」
涼は至って真剣な眼差しで言う。
真「それ、からかってる?」
涼「まさか。嘘偽りもない、僕の本心です。だってこんなに可愛い真さんを見ることが出来たんですから。僕は幸せ者です」
真「は、恥ずかしいこと言わないでよ……」
涼は、自分の言葉の意味を分かっていっているのだろうか?
その言葉が、ボクをどれだけドキドキさせているのか、気付いているのかな?
真「ね、ねえ涼。私、可愛いのかな?」
自然と自分のことを私と言ってしまう。まるで恋する女の子みたいに――。
涼「はい。とっても可愛いです」
真「じゃ、じゃあさ。涼は私みたいな女の子、彼女にしたいと思う?」
一瞬がこんなに長いと感じたのは、いつ以来だろうか? 初めてのオーディション? なら目の前の涼は、審査員。
審査員が結果を告げる。
涼「はい。独り占めしたいぐらいです」
えっと、合格?
真「り、涼……」
涼「あぁ! えっと、今のはその……」
ダメだ。恥ずかしすぎて涼の顔を見てられない。
涼「うぅ……」
それは向こうも同じで、顔を真っ赤にしているボクの顔を直視できないでいる。
涼「何言ってるんだよ僕は~!」
真「ホ、ホントだよ!! もう涼なんか知らないよ!!」
涼「ま、真さーん!!」
恥ずかしそうにボクの名を呼ぶ涼を無視して歩く。涼の声から、挙動から、ドキドキしているのが伝わってくる。
そしてボクも情けないぐらいに、涼にドキドキしていた。
真「何やってるんだろ、ボク……」
あの後気まずくなって、さっさと解散した……。
けど、その後こっそり、さっきの服を買いに行った。選んでくれたし、僕も気に入っていたから。
少しお金はかかったけど、仮にでもトップアイドルの1人だ。一括で払えるぐらいには稼いでいる。
真「はぁ……」
僕はベッドの中で、今日のことを思い返していた。色々あったのは確かだ。
お茶を飲んで、カラオケに行って、服を見て。
だけどその全てよりも、涼の放った一言が、ボクの心をとらえて離さなかった。
真「涼は……、バカだよ……。あんなにストレートに言われたら……。ドキドキしちゃうじゃん」
少女漫画みたいなシチュエーションに酔っていたのかもしれない。
だけど、涼はそんな駆け引きが出来るやつじゃない。
愚かなぐらいに、正直で真っ直ぐなんだ。彼が付いた嘘は、性別ぐらいなんだから。
真「眠れない……」
寝ようとしても、心がざわめいていた。
涼『はい、独り占めしたいぐらいです』
涼『はい、独り占めしたいぐらいです』
涼『はい、独り占めしたいぐらいです』
涼の言葉がリフレインする。何度も何度も、波のようにボクの中で響いた。
真「だああああああ!!! 恥ずかしいよー!!」
真一「うるさいぞ真!!」
恥ずかしさをごまかすように、クマのぬいぐるみを強く抱きしめる。
親に怒られるまでボクは、あっちにこっちに転がっていた。
涼、君はボクの事、本当に……。
真「おはようございます!」
P「ああ、おはよう……。真?」
真「えへへ、どうですか?」
雪歩「真ちゃん!?」
美希「えっと、お笑い芸人さんの真似?」
真「どういう意味だよそれ!!」
事務所内は混乱している。えっと、そこまで大袈裟なもの?
P「どうしたんだ、その格好。もしかして、覚悟を決めたのか?」
真「すみません。まだ答えは出そうにないです。これはただの気分転換ですよ」
P「気分転換? ま、まぁ見事に転換してるけど……」
真「一度、みんなに見てもらいたくて。結構似合うと思うんですけどね、お墨付きです」
昨日買った服で事務所に入っただけなのに。涼は褒めてくれたのに――。
雪歩「そんなの真ちゃんじゃないよ!」
美希「ミキ的に、ちょっと違うと思うな」
真「ええ!?」
事務所の評判は最悪で……。
雪歩「やっぱり、真ちゃんは格好良い服が一番だよ!」
美希「うん。同感なの。その服、センス悪いよ?」
冗談なのか、本心なのかは置いておいて。服を選んでくれた、褒めてくれた涼まで否定されたみたいで。
ボクはそれが許せなかった。
真「じゃあ、本当のボクってなんだよ……」
雪歩「えっ?」
一度口に出したネガティブな感情は、炎のように燃え盛る。
真「答えてよ!! あれもダメ、これもダメ! だったらボクはなんなんだよ! 馬鹿にしないでよ!」
美希「真君……」
真「ボクはみんなの着せ替え人形じゃない!! 好きな服を着て、何が悪いんだよ!!」
P「真!! 落ち着け!!」
真「ボクはっ!」
P「真!!」
プロデューサーに肩を掴まれ、我に返る。
真「あっ……」
見ると雪歩と美希は怯えていた。そんなに怖がった顔初めて見た。そしてその原因は、他ならぬボクだ。
真「……すみません。熱くなってしまって。頭冷やしてきます」
静まり返った事務所を出て、買ったばかりの服なんてことも気にせず、屋上で一人寝転がる。
肌を撫でる風が、心地良い。だけどそれと裏腹に、僕の心はどんよりとしていた。
P「服、汚れるぞ」
真「プロデューサー」
ボクを心配してか、プロデューサーが隣にやって来た。
真「えっと、すみませんでした」
P「俺に謝っても仕方ないだろ。まっ、喧嘩両成敗ってとこだな。だけどあんなに怒るなんて、何があったんだ?」
ボクに冷えたスポーツドリンクを渡して聞いてくる。
真「大したことじゃないんです。ただ、ボクがカッとなって」
P「大したことがないなら、あそこまで怒らないだろ」
真「そうですね。訂正します。割と大切なことでした」
昨日の一件を余すことなくプロデューサーに話す。
涼のことは伏せるべきかと思ったけど、身の振り方が分からないんだ。アドバイスを受けるべきだろう。
P「涼君がねぇ……。どうりで彼の女の子アイドル時代の服に似てると思ったわけだ」
真「そうですか?」
P「気付かなかったか? でも、流石女の子アイドルをしていただけあって、真を引き立てる服を選んでいるなって印象はあるぞ」
真「プロデューサーは似合っていると思ってるんですか?」
プロデューサーは考えるそぶりも見せずに答える。
P「似合ってると思うけどなぁ」
真「適当に答えてません?」
P「まさか! 俺はいつでも真剣だよ。確かに、今までの真のイメージとはかけ離れている服だ。それこそ、涼君の方が似合うと思う」
きっと涼はぎゃおおおおん! っと叫んで嫌がるんだろうな。
P「現に雪歩と美希の評価は辛辣だっただろ? あの2人は、どちらかと言うと真に対して格好よくあって欲しいっていうエゴを持っているからな」
真「それって」
ボクのファンと同じ目線ってことだよね。
P「身近なファンってとこだな。俺と涼君は男だから、真のその服を可愛いと思うし、涼君みたいに独り占めしたいって気持ちもわかる」
P「だけど、真のファンは女性がメインだ。さっきの雪歩と美希の反応が、ファンの反応の1つ捉えても良いんじゃないか」
真「やっぱり、望まれてないんですか……」
P「たかだか2人の反応じゃないか。100人いれば、100通りの真像があるんだ。残り98人が、否定的な意見を出すとも限らないぞ」
真「と言いますと?」
P「俺や涼君のような反応をするファンもいるだろう。そればっかりは、ふたを開けなきゃ分からないな。シュレディンガーのまこって奴さ」
ネガティブという沼に嵌ってしまいそうなところで、プロデューサーに引き上げられる。
P「きっとまだ結論を出せてないと思うけど、焦らなくていい。今後の身の振り方を左右するんだ。一時のテンションに身を任せても、後悔するだけだからな」
真「はい」
と言うけど、ボクは高校3年生だ。女の子と呼べる時間は、短くなっていく。
早く、早く答えを出さないと。
P「にしても涼君がそんなことを言うなんてな。向こうは案外マジじゃないのか?」
プロデューサーはニヤニヤとボクを見る。
真「ええ!? マ、マジって……」
P「分かってるだろ。リップサービスじゃないことぐらい」
真「や、やっぱり本心でしゅか……?」
涼は嘘なんて吐けるやつじゃない。だけど、出来るなら否定して欲しかった。だって……、
涼『独り占めしたいぐらいで』
真「うわあああああああ!!」
P「ま、真!?」
思い出すだけで恥ずかしくなるんだもん!!
真「まっこまっこりーん! まっこまっこりーん!!」
P「落ち着けー! 真!!」
真「まっこまっこりーん!!!」
P「メダパニにかかった人間ってこうなるんだな」
真「ぜぇ……、ぜぇ……」
P「落ち着いたか?」
真「ええ、なんとか……。すみません、何度も何度も」
P「気にしなくていいさ。寧ろ面白かったし」
真「面白いってどういう事ですか!?」
言葉の意味だよとプロデューサーは笑う。興奮状態で何をしていたか思い出せないけど、
思い出さない方が良い気がしてきた。
現実に目を向けちゃだめだよね。
P「さて、それじゃまずは」
真「謝って来ます。雪歩も美希も、悪意なんてないんですから」
可愛くなりたいというのがボクのエゴなら、格好良い王子様であって欲しいなんてのも、ファンのエゴだ。
大声出して責めるのも、お門違いだよね。
真「雪歩、美希! ごめんなさ……い?」
雪歩「あっ、その……」
美希「ミキたちなりに考えたの。真君のことを……」
考えてくれたのは嬉しい。でも、
真「……なんで男装?」
屋上から戻ってきたら、何故か男物の服を着ている雪歩と美希がいた。本当になんで?
雪歩「私たち、真ちゃんに自分の理想を押し付けていたから。だから……」
美希「反省して王子様ルックしてみたの」
どんな理論だよ!!
真「しかも似合ってない……」
まず胸のある王子様なんていない! 王子様舐めるな!
真「ってそれじゃあボクが貧乳みたいじゃないか! そうだけど!!」
事務員K「眼福眼福♪」
犯人はあの人だろうな、うん。
真「はぁ、もしかして、ボクの女の子ファッションって、こう見えるのかな……」
雪歩「うん」
美希「気付いてくれた?」
真「ねえ、泣いていいかな……」
どうやら自分の事を、客観的に見れてなかったのかもしれない。
でも、この服良いと思うけどな。それは涼が選んでくれたから?
真「って涼は関係ないだろ!!」
雪歩「へ?」
美希「涼ちゃんがどうしたの?」
真「ふぇ?」
P「何自滅してるんだ……」
呆れるようにプロデューサーは溜息をもらす。
雪歩「真ちゃん! まさか涼さんと!」
美希「浮気しちゃダメなの! 真君とハニーは美希のものなんだから!」
真「うわぁ!!」
勢いよくボクに食い掛かる男装ペアに振り回される。
真「な、何でもないよー!!」
アイドルとは思えないような、世にも恐ろしい表情を見せる2人を振りほどいて逃げる。
説明しようにも筆舌にしがたいぐらいだ。
真「はぁはぁ……、どうしよう。ジャージとか向こうだもんな」
今日の予定はダンスレッスン、ただこの格好でレッスンを受けるわけにいかない。
でも、流石に765プロに戻る勇気はない。
真「仕方ない、謝って借りよう」
レッスンスタジオにジャージが破れたからと適当な嘘を吐き、向こうのジャージを借りることに成功する。
真「お疲れ様でした!」
厳しくも楽しいレッスンを終え、レッスン場を出る。さて、どうしようかな?
お昼でも食べようかなと考えていると、声をかけられる。
??「チャオ☆今日は可愛い服を着ているね、真ちゃん」
真「言っておくけど、ナンパはNGですよ、北斗さん」
北斗「あらま、それは手厳しいな」
真「トップアイドルなんですから、そういうの控えた方が良いと思いますけど。どうせ他の女の子にも言ってるんじゃないですか?」
伊集院北斗。人気男性アイドルグループジュピターの1人だ。
高身長で爽やかな容姿で女性ファンが多いものの、どこか抜けている性格から男性ファンも少なくないとか。
まぁそんなキャラクターだから、女の子にモテてモテて仕方のない人のはずなんだけど……。
北斗「言ってくれるね。嫉妬してくれるとこ悪いけど、俺は真ちゃん一筋なんだ」
真「うへぇ、良くそんなセリフ言えますよね」
北斗「君がそう言わせるのさ」
何が受けたのか、妙にボクを気に入っているようだ。一応振ったはずなんだけどな……。
正直しつこい気もするけど、悪い人じゃないし、話していると面白い人なので、
ボク自身嫌いって訳じゃない。
北斗「しかし、今日はどういう心境の変化だい? 可愛らしい服を着て」
真「一応聞いてあげます。似合ってますか?」
北斗「ああ、お似合いだよ。まるで天使さ」
真「て、天使って……」
聞いてから気付いたけど、この人の場合誰にでも言ってそうだから、あまり参考にならないよね。
北斗「俺だけじゃないさ。男は皆、君に惚れ直すよ。俺が保証する」
真「調子良いこと言いますね」
胡散臭いけど、それでも少し自分に自信が持てた。
北斗「本心さ。で、どうだい? 一緒にお昼でも」
真「北斗さん、スキャンダルとか怖くないんですか?」
北斗「スキャンダルを怖がってて、天使達と戯れることが出来ると思うかい?」
この人、自分の立場分かってるのかな……。
真「分かりましたよ、断ってもしつこく来そうですし。奢ってくれるなら考えてあげます」
北斗「当然さ。女の子に払わせるほど、不出来な男じゃないよ」
ニカリと歯を光らせる。こういうのに女の子は弱いんだろうなぁ。
北斗「さてそれじゃ、君と俺の初デートに、乾杯」
真「いや、これデートじゃないですからね」
北斗さんにお洒落なお店に連れてかれる。北斗さんは高そうなお酒を飲んでいるが、
ボクはドリンクバーのスポーツドリンクだ。色気もムードも減ったくれもない。
真「お昼からお酒飲んで、仕事はないんですか?」
北斗「まあね。夜から天使ちゃんたちと約束はあるけどね」
真「ほらっ、やっぱり一途じゃない!」
北斗「冗談さ」
どこまでが本当で、どこまでが嘘か分からない。貴音も謎が多いけど、この人も大概だと思う。
北斗「天使たちに優劣をつけるのも失礼な話だけど、君だけは特別さ」
真「えっ、ちょっと!」
そう言ってボクの手を取る。そしてそこに口付けを……。
?「こんにちわー!! 子供3人です!」
阻止するかのように、馬鹿でかい声がレストランに響く。皆が声の方向を見ると、見知った顔が3つ。
??「愛ちゃん、流石に煩いよ」
?「そうだよ。みんな静かにお昼を……」
北斗「チャオ☆」
愛「チャオです!」
絵理「チャオ?」
876の3人組、つまりそこには、
真「りょ、涼!?」
涼「へ? ま、真さん!?」
ボクの心をざわめかせる最大の要因もいるわけで。
真「……」
涼「……」
き、気まずい……。
愛「どうしたんでしょうか?」
絵理「何かあった?」
北斗「これはこれは……」
3事務所(ジュピターは元961だけど)のアイドルが一堂に会するというカオス空間の中、
ボクと涼は一言も話せずにいた。
真(なんで涼がいるんだよー!)
北斗「君たちはどうしてここに?」
愛「あっ、はい。社長が美味しいお店があるって教えてくれたんです」
絵理「お食事券ももらえました」
石川社長、寄りによって今日に渡さなくても……。
涼「……あ、あのっ」
真「な、何かな?」
涼「やっぱりなんでもないです」
真「そ、そうかな」
真(うぅ、モヤモヤする……)
ボクと涼は食事中、一言も話すことなく、ただただ微妙な気持ちで時間を過ごしてしまった。
愛「ごちそうさまでした!!」
絵理「本当にお金良いんですか?」
北斗「1人分と思ってたから、思わぬ出費だな……。まっ、天使ちゃんたちとも知り合えたからよしとするか。おっと、こんな時間だ。もう少し君たちと話していたかったが、あいにく待っている子がいるからね。じゃあまた会おうね」
北斗「チャオ☆」
女殺しのウインク1つ、北斗さんは去って行った。
愛「北斗さん、目が痛かったのかな?」
絵理「それは違うと思うよ。悪い人じゃないけど、ちょっと気障?」
この2人に効果はなかったみたいだけど。
真「ちょっとどころじゃないと思うけどなぁ」
涼「……」
北斗さんを複雑そうな顔で見送る涼。
真「ねえ、何かあったの?」
涼「なんでもないです……」
何でもある反応を見せる。ナメクジみたく湿っぽい涼に、イライラが募っていく。
真「嘘だ、何か言いたそうな顔してるもん」
涼「気のせいですよ……」
真「あー! ウジウジするなよ! 男の子だろ!! ちょっと涼借りるよ!!」
愛「あっ、はい」
涼「えっ、ちょっと!」
真「そんな女々しい涼は、一から鍛え直してやる!」
絵理「行ってらっしゃい、涼さん」
涼「助けてよー!!」
涼は助けを求めているけど、当の2人は笑顔で手を振っている。
真「覚悟を決めろ! 徹底的に行くからね!」
涼「ぎゃおおおおん!!」
涼の咆哮が、市街地に響く。
「おい、あれ見ろよ」
「ああ、すっげーかわいい子が涼ちんを引っ張ってるぜ」
「なんだなんだ?」
周囲の視線が痛いけど、無視無視。
涼「ま、真さぁん……」
情けなく怯える涼を連れて、神社にやって来た。そういえば、涼と初めて会った場所はここだったっけ。
真「さて、涼。ここならボクたち以外に誰もいない。言いたいこと、あるんだろ?」
涼「言いたいことなんて……」
あくまで否定を続けるか。ならば。
真「じゃあ当ててあげるよ。君はずばり、北斗さんに嫉妬していた。違うかい?」
涼「ええ!? 何で分かってあっ」
真「いきなり当たっちゃったよ……」
本当に分かりやすいやつだよね。顔を赤らめて、いじらしそうに僕を見る。
真「北斗さんとは君が思ってるような関係じゃないよ」
涼「でも北斗さん、真さんの手にキスを……」
真「未遂だって! 君のとこの豆タンクのおかげで、助かったんだから」
あの時愛が叫ばなかったら、きっと北斗さんはしていただろう。
それに、手にキスって欧米じゃ珍しいことでもないんだよね。
されて嬉しいかどうかは別としてね。
涼「北斗さん、ボクなんかよりもイケメンだから……。すっごくお似合いでした」
それは喜んでいいのか、悪いのかどっちなんだい?
真「はぁ……、そんなことを気にしてるの? 涼と北斗さんの良さは違うだろ?」
言葉が足りないのなら、もっと言ってあげるよ。
真「友達を救うためだけに、芸能界を敵に回したんだ。ボクは涼程、漢気がある人間を知らないよ」
涼「でもボクは嫉妬しました。北斗さんみたいに、真さんと話せたらって。北斗さんが褒めるその服を選んだのは僕なのに、って。女々しいですよね……」
真「あのね……、出来れば北斗さんだけはマネしないで欲しいんだけど」
涼まであんな気障ったらしい言葉づかいをされたら、ボクの身は持たなくなる。
北斗『チャオ☆この世に降りた天使ちゃん』
涼『おお、ジュリエット……。マイラーブ!』
想像するだけで、笑えてくる。
真「あははっ! やっぱり似合わないよ、涼」
涼「そんなー!! うぅ、イケメンじゃないのかな……」
どうも、秋月と言う名字の人間は、自分を過小評価するきらいがあるみたいだ。
真「別に北斗さんだけがイケメンじゃないだろ? それに、涼は十分イケメンだよ。ボクが保証する」
涼「真さん……」
真「気は楽になった?」
涼「ええ、真さんに褒められると、とっても嬉しいです」
真「そんな、当たり前のことを言っただけじゃないか」
涼は女の子のボクが悔しくなるぐらい、可愛らしい笑顔を見せると、
涼「真さんだから嬉しいんです」
またボクの心をざわめかせた。
真「ま、またそうやってボクを特別扱いして……」
涼「えっ、あっ、その……」
真「ねえ、涼。君はボクの事……、どう思ってるの?」
涼「え?」
真「ボクの事、好きなの?」
聞いてしまった、悪魔の問い。どんな答えが返ってきても、もうボクたちは元に戻れない。
師匠と弟子の関係も、似た悩みを持つ友達と言う関係も、終わってしまうんだ。
それが、出会った場所でなんて。皮肉な話だよね。
涼「僕は……。はい、真さんのことが好きです。こんなに可愛い真さんを、僕だけのものにしたいと思うぐらいに」
真「涼……ありがとう、ボクなんかを好きになってくれて」
涼「なんか、じゃありません。ボクは真さんだけが好きなんですから」
真「照れるだろ……」
涼「照れちゃってください。そんな真さんも好きですから」
何で涼は、こんなにボクをドキドキさせるのが上手いんだろう? まるで、ボクの心を読んでいるみたいだ。
吐きそうなぐらい甘い空間の中、涼が口を開く。
涼「すみません、今度は僕から。1つだけ、愚痴聞いてもらいますか?」
真「愚痴? なんだい?」
涼「真さんのことです。ボクの前でだけ可愛くいて欲しいとも思いますけど、同時にこの真さんの可愛いところをみんなに見て欲しいって思うんです」
涼「おかしいですよね、独り占めしたいのか、みんなに自慢したいのか。ぎこちないままなんです」
涼の言葉が、ボクのシーソーを揺らす。理想と現実は、今日も仲良く均衡状態だった。
だけど涼の言葉が、可愛い女の子と言う理想を強くする。
それと同時に、現実のままで良いじゃん、誰かが可愛いって言ってくれるなら、とも思える。
やっぱりシーソーは、均衡状態だ。ただ、どちらも重みだけが増して。
真「涼、ゴメンボクはまだ、答えを出せそうにない。告白の返事も、これからの菊地真のビジョンも」
涼「大丈夫です、きっと真さんは悩むんだろうなと思いましたから」
真「申し訳ないと思ってる、だけど待っていて欲しいんだ」
涼「いくらでも待ちますよ。だって僕、待つのは得意ですから」
真「そっか……。ありがとう、涼」
ドキドキして自分でも何が何だか分からないボクと、さっぱりと笑う涼。
本当に、涼はボクのことを苦しめてくれるね。
『遠征に出てきます。しばらく帰ってこれない』
『お母さん、町内会のカラオケ大会に行くからね!』
家に帰ると、置手紙が2枚。母さんはともかく、レーサーの父さんは、こうやって家を空けることが多い。
その間は、ボクは女の子になれる。鬼の居ぬ間に試着ってやつだ。
真「へへっ、まっこまっこりーん!」
昨日買った可愛らしい服を着て、鏡の前で踊ってみる。
真「やっぱり、踊りにくいな」
長いスカートが、却ってダンスの邪魔になる。もしステージで着ることになるなら、
今までみたいに激しい踊りもできなくなるってことだよね。
真「あー、あー!」
ボクの声も、周りの女の子に比べたらハスキーだ。電話越しに男の子と間違えられたこともある。
そんな声で、可愛い歌を歌っていいのかな?
真「適正と理想は、違う。か……」
勿体無い、そう言ってしまえば楽かもしれない。
自分で言うのもなんだけど、確かに僕は女の子の求める理想の王子様像なんだ。
だけど、ボクが望んだアイドルは、正反対のお姫様。
助けてもらうよりも、助けて欲しい。ガラスの靴を拾うよりも、落として王子様が来るのを待っていたい。
そう望むのは、ダメなのかな?
『~♪』
真「電話? はい、プロデューサーですか? あっ、そう言えばそうですね……。完全に忘れてました。えっ、届けに来る? すみません、お手数おかけしちゃって」
事務所に戻らず帰って来たから、荷物を置きっぱなしだったことを忘れていた。
真「明日には落ち着いていてくれたらいいんだけどさ……」
男装コンビも熱が冷めていることを、切に願う。
P「ほらっ、忘れ物」
真「わざわざすみません」
P「あの2人がいたら帰りにくいのは分かるが、せめて終わったら連絡の1つは欲しかったぞ」
どうやら、律子が騒がしい2人に説教したらしい。その時に涼の名前が律子の耳に入ったみたいだ。
多分今頃涼は、絶賛説教中なんだろうな。
真「あはは……、色々あって忘れちゃいました」
P「? まあいいか。じゃあ俺は帰るぞ」
真「あっ、ご飯食べてきませんか? 今日、ボク一人なんです」
P「いや、流石に家の中に入るのはちょっとなぁ。どこに記者がいるか分かったもんじゃないし」
真「そうですか……、残念です」
P「悪いな。この埋め合わせはまたどこかでするからさ」
真「あっ、プロデューサー!!」
帰ろうとドアに手をやる彼を呼び止める。
P「どうした?」
真「えっと、プロデューサーは言ってくれましたね。ランクが下がっても、すぐに戻してやるって。その言葉、信じて良いですか?」
P「当り前だろ? 方向転換したとしても、今以上に連れて行ってやるさ」
この人に言われると、不思議と自信が出てくる。
――夢を見ていた。群がる周りの人はとても大きく、ボクを食い入るように見ている。
『これとかどうかな?』
『きゃー! 格好良い!! 真王子―!!』
大きな彼女たちは、とっかえひっかえボクの服を変える。ここに来て気付いた、彼女たちはファンで、ボクは今着せ替え人形そのものになっているということに。
『こっちの方が良いよー!』
真(違う……、それはなりたいボクじゃない!)
『センスないわね! これが一番に決まってるでしょ!』
『でも世界で一番かわいいのはボクですけどね!』
『見なさいよ! 私の方が可愛いわよ!!』
『ぴぎゃああああ! イケメンよー!!』
『イケメンで強いのね! 嫌いじゃないわ!!』
真(でもみんな、楽しそうだ――)
着せ替え人形は、理想の服を着せることが出来る。時にはホストのように、時には王子様のように。
ファンの持つボクへの期待を、身に纏わされる。
真(だけど……、違うんだ。ボクは……)
いつの間にか女の子たちは消えて、目の前には頼りなさげな、だけど王子様みたいに格好良い服を身に纏った少年がいた。
真(涼……)
涼『もう、分かってないなぁ。この子は、格好良い服よりもさ』
慣れた手つきで、服を変えていく。
涼『可愛い服の方が、お似合いだっていうのに』
涼の目に映る人形は、今までと打って変わって可愛らしい女の子の服を着ている。
涼『一緒に踊りませんか?』
真『はい、王子様』
着せ替え人形は、理想の服を手に入れた。
その時、魔法は解かれて、ありのままの自分を受け入れてくれる王子様と一緒に踊る。
誰もいない、2人だけの舞踏会だ。3拍子のリズムが、2人を狂わせる。
そして踊りは、終わりを迎える。月明かりの下、涼は僕を強く抱きしめた。
涼『真姫……』
真『涼王子……』
物語の締めは、いつも幸せなキス。2人の影が1つになるその瞬間……。
『きゃっぴぴぴぴーん! まっこまっこりーん!!』
真「うわぁ!!」
無粋にも目覚まし時計が、強制的に夢を終わらせた。
真「あーもう! なんて恥ずかしい夢を見ていたんだ僕はー!」
涼王子って! 真姫って! 冷静に考えなくてもすっごく恥ずかしいんだけど!!
真「……でも、嬉しかったかな」
夢の中で、涼はボクを助けてくれた。彼が夢を奪われた少女を助けた時と同じように。
真「涼も格好良かったしさ……。駄目だダメだ! 頭の中が涼一色になっちゃう!」
寝ても覚めても、涼のことで頭がいっぱいだ。自分がどうにかなってしまいそうで怖い。
別のことを考えよう。
そうだ、これからのことを考えないと。
真「結局、ボクは……」
ファンの期待を背負ったまま、着せ替え人形のままで行くべきか。
それとも、自分のありのままを受け言えて貰えるように頑張るか……。
シーソーは揺れている。でもそこに、みんなの言葉がのしかかる。
社長『それは……、君のアイドルとしての価値を下げてしまうことになる』
雪歩『そんなの真ちゃんじゃないよ!』
美希『ミキ的に、ちょっと違うと思うな』
北斗『ああ、お似合いだよ。まるで天使さ』
P『方向転換したとしても、今以上に連れて行ってやるさ』
『真王子ー!!』
涼『真さんが好きです。こんなに可愛い真さんを、僕だけのものにしたいと思うぐらいに』
真「みんな……。覚悟、決まったよ。ボクは……」
可愛い服を手を取り、身に纏う。隣にかけてあった、ジャージが物悲しそうに項垂れていた。
真「ごめん。ボクの夢、諦めれそうにないや。……バイバイ、真王子」
私は、私で頑張っていく。
社長「ふむ、それが君の結論でよいのだね」
真「はい。考え抜いて、いろんな人の声を聴いて、それで選んだ結果です」
P「俺からもお願いです。真は自分で答えを見つけました。彼女の理想を、現実にしたいんです」
社長「そうか……。良し分かった。ならば、お披露目の場を用意しよう。そこで、ファンのみんなは審判を下す。残酷な結果になるかもしれない、それでも」
真「私はもう、我慢することを止めましたから」
社長「菊地君、良い目をしているよ。王子様をもう見ることが出来ないと思うと寂しくも思うが、それが君の選択なんだ。私は、支持しよう」
P「ありがとうございます、社長」
真「ありがとうございます!」
私はもう引き返さない。それが茨の道でも、エゴを押し通す。
誰のためでもなく、自分のためだけに輝いてみせる。
あれだけ悩んでいたものも、一度決まってしまうとトントン拍子に話が進んでいく。そして――。
真『みんなー! 今日から私は、可愛い系アイドルで頑張っていくんだから―!! せーの、まっこまっこ』
『りーん!!』
『菊地真乱心!?』
それが翌日の芸能誌の一面だった。乱心ってなんだよって突っ込みを入れたくなったけど、
みんな混乱しているってことなんだよね。
世間の評価は、物の見事に真っ二つだ。
『なによそれ! 今まで応援してきたのがバカらしいじゃない!』
私の本当の姿に失望したファンと、
『そんな声気にしなくていいよ! 私たちは、王子様じゃない、真ちゃんそのものを好きになったんだから!!』
私を受け入れてくれて、変わらずに応援してくれるファン。
『まっこまっこりーん!!』
そして念願の男のファン。
荒れに荒れて、肯定派と否定派で、ちょっとした戦争になったぐらいだ。
それを私は、苦笑いで見ることしか出来なかった。
P「ま、人気者の常だな。それもトップアイドルが、大胆すぎる方向転換を果たしたんだ」
プロデューサーはかく語る。
P「涼君と言い真と言い、これは芸能史に残る大事件といっても過言じゃないかもな。日高舞に匹敵するレベルだぞ。そのアイドルをプロデュース出来たんだ、一生自慢できるよ」
真「それで肩を並べても困ります……」
P「素直に喜んでいいんじゃないか? それだけ、お前を応援してくれる人がいたんだ。否定派だって、期待の裏返しなんだしさ。いつか分かってくれるさ」
プロデューサーの言葉に、美希と雪歩もうなずく。
美希「ミキ達は真君のこと、応援するよ?」
雪歩「だって私たち、真ちゃんの人が好きだから!」
真「ありがとう。でも出来たら、真君は止めて欲しいかな……」
美希「そこだけは譲れないの」
いつかがいつになるか分からないけど、応援してくれる人のためにも、頑張らないと!
北斗「もう少し、可愛い真ちゃんを俺だけのものにしたかったんだけどな」
真「ボ……私は北斗さんのものになった憶えはないんだけど」
北斗「冗談だよ」
この人は、私がどうなろうと変わることなく、いつもの調子で口説いてくる。
北斗「でも、ライバルが増えちゃうな」
真「ライバル?」
北斗「そっ、世の男は君の魅力にいちころさ。俺もそうだし、彼だってね」
真「彼?」
北斗さんが目をやる方向には、
涼「真さーん!」
真「涼!」
今世紀私を最もドキドキさせたで賞受賞者、秋月涼がいた。
涼「えっと、お邪魔でしたか?」
真「全然! ちょうどいいところに!」
北斗「それは傷つくなぁ」
北斗さんはそこまで傷ついてなさそうに、おちゃらけて答える。
北斗「でもまっ、俺は諦めたわけじゃないからね。ぼやぼやしてると、貰って行っちゃうからさ。じゃあね、チャオ☆」
手を振り、その場を去っていく。
真「本当によく分からない人だよね……」
涼「でも、危険です」
真「いや、悪い人じゃないよ?」
涼「でも危険です!! 少なくとも僕にとっては」
それはつまり、嫉妬してるってことだよね。真っ直ぐな涼の気持ちが眩しい。
涼「あっ、今まで言えませんでしたね。真さん、とても素敵です」
真「い、いきなりそういうこと言わないでよ! 恥ずかしいじゃん」
涼「そういう恥ずかしがっている顔も、可愛いですよ」
真「はぁ、調子狂うなぁ……」
方向転換してから、涼の好意は日に日に膨らんでいくのが見えた。
涼『他の人に取られるのは嫌です!』
とは本人の談。子供の我儘もいいところだ。
真「まっ、悪い気はしないけどさ」
だけど今は、返事を出せない。
私はファンの皆を一度裏切ったんだ。もし今、スキャンダルなんか起こしてみなよ。
大変なことになるのは火を見るより明らかだ。
真「ねえ、涼」
涼「なんですか?」
真「もう少し、少しだけ待ってほしいの。我儘かもしれないけど、今はまだ返事を言えそうにないから」
涼「そう……、ですか。仕方ないですよね」
真「うん、待たせちゃってごめんね。でも私、ちゃんと返事を出せると思うから。それまで……」
涼「待っています」
真「うん」
私は着せ替え人形じゃなくなった。可愛い服を着て、可愛い歌を歌う。
無理だと思ってたことが出来るようになった。
だけどいつの日か、私は着せ替え人形に戻る日が来るだろう。その時、誰が白いドレスを着させてくれるのかな?
その時、隣にいるのが、
涼「じゃあ遊びに行きましょう!」
真「話聞いてた!? って涼!」
涼「えへへ!」
このヘタレでイケメンな王子様だったら、嬉しいな。
Fin.