妹「どうしようもないのです」
妹友「へえ」
元スレ
妹「うちの兄さまが変人ド畜生すぎてつらい」
http://mi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1647779722/
喫茶店
妹「ああああふぐぅぅ……もうやだぁ」
妹友「妖怪顔面テーブル拭きがなんか鳴いてる」
妹「妖怪顔面……なにそれ」
妹友「顔面でテーブルを拭く妖怪さん。あまり害はないけどちとウザい」
妹「ひどくない? 友だちが病みかけてるのに」
妹友「別に。病むなら勝手に病めばいい」
妹「あんまりだ……」
妹友「わたしタヌキにしか興味ないの」
妹「なにその唐突なカミングアウト」
妹友「正直タヌキ以外の生物と交流してる今この瞬間が信じられない」
妹「せめて人間扱いしてよ……」
妹友「そういうわけであんたのことは結構好きなの」
妹「急にデレられるとそれはそれで怖いね」
妹友「だからなんか話すならさっさと話しな。タヌキ画像あさりの片手間に聞いたげるから」
妹「なんかこう、今かなり複雑な気分……いいけど」
妹「兄さまが変人なんですよ」
妹友「さっきも聞いた。いつも聞いてる」
妹「何回言っても足りないくらい変人なんですよ」
妹友「地底人はいるだっけ。地底人はいないから作ろうだったっけ?」
妹「惜しい。地底人はいないし作れなかったから自分たちが地底人第一号になろう、が正解です」
妹友「馬鹿だねー」
妹「他人事だからそんなことが言えるんすよ。マジでよくわからない地底空間に引きずり込まれそうになったら涙出る余裕すらないっすよ」
妹友「知らんよ」
妹「そういうわけで疲れました。もう動きたくない」
妹友「やっと終わった?」
妹「そんなに長く話してないよ……」
妹友「つまんない話って時間が長くなるよね。なんか有効利用できればいいのに」
妹「友ちゃん本当にわたしのこと好きなの?」
妹「兄さまは変人だし友ちゃんは冷たいし踏んだり蹴ったりだ……」
妹友「これくらいで大袈裟な」
妹「だって! 愛がどこにもない!」
妹友「そんくらいでぴーぴー騒ぎなさんな」
妹「やだ! 断固騒ぐ! 公序良俗なんぞ知ったことかー!」
妹友「あー知らないよ?」
妹「なにが!」
妹友「あれ」
兄さま「妹が元気で兄さまはうれしい」
妹「」
妹「兄さま! なんでここにいるの!」
兄さま「薄汚れた街を歩いているとふと清涼な風が吹いた気がした」
妹「は?」
兄さま「その風に導かれるまま俺は歩きに歩いた。路地から路地へ。影の隙間を縫うように」
妹「???」
兄さま「すると聞こえたのだ。兄さまの助けを呼ぶ声が!」
妹「……一応言っとくとわたしじゃないよ」
兄さま「そう、愛しい妹の声だ」
妹「違うってば」
兄さま「そういうわけで行くぞ」
妹「行かないよ! っていうかどこに!?」
兄さま「愚問だな。人間は行くべき時に行くべき場所を知っている」
妹「知らないよ! 知りたくもない!」
兄さま「耳をふさいでも無駄だ。使命はいつだってお前の心の扉を叩いている」
妹「聞こえないそんな音ー!」
兄さま「まあそれはそれとして抵抗は無駄なのだ。理由は兄さまの腕力だ」
妹「ぎぃやぁぁー! 助けて友ちゃーん!!」
妹友「いってらっしゃーい」
電車
妹「……」
兄さま「……」
妹「兄さま」
兄さま「なんだ」
妹「結局どこへ向かってるの」
兄さま「どこへ行きたい?」
妹「え?」
兄さま「どこへ行きたい、と聞いている」
妹「聞いてるのはわたしなんだけど」
兄さま「俺も聞いている。大事なことだ。どこへ連れていかれるかではなく自分がどこへ行きたいか、ということはな」
妹「わたし帰りた」
兄さま「山へ向かっている」
妹「……」
妹「ねえ、なんで聞いたの? 選択権ないならなんで聞いたの?」
兄さま「言ったはずだ。大事なことなんだ。どこへ行きたいかというのは。なぜならそれがお前の心の扉を叩く使命の声だからな」
妹「なら」
兄さま「だがそれとは別に俺が行きたいのだ。以上」
妹「……そう」
兄さま「ああ」
妹(こんにゃろーめ)
兄さま「さあ着いたぞ。山だ」
妹「ん」
兄さま「緑のいい匂いだ」
妹「そだね」
兄さま「だがやや鬱陶しいので燃やそうと思う」
妹「やめた方がいいと思う」
兄さま「根拠は?」
妹「法律」
兄さま「問題ない」
妹「と、わたしの涙」
兄さま「やめておこう」
妹「ん」
兄さま「さて早速山歩きだ妹よ」
妹「やだよ。こっちの動物園にしない?」
兄さま「動物など山にいくらでもいるぞ」
妹「キリンさんは山にいないじゃない」
兄さま「それもそうか……ちょっと待っていろ」
妹「動物園行くの?」
兄さま「ああ。すぐ戻る」
妹「兄さまだけ!? ずるい!」
妹「あーあ。タヌキの写真撮って帰ったら友ちゃんも喜ぶのに……」
兄さま「待たせた」
妹「遅い! 今度こそ入るんだよね? 動物園!」
兄さま「何を血迷うか。今度こそ山に入るんだ」
妹「行ってらっしゃーい」
兄さま「無論一緒にだ」
妹「なんでこっちだけ!」
兄さま「馬鹿者! 兄さまの苦労も知らないで!」
妹「意味わかんないよ! なんの話!?」
兄さま「言われてみれば俺が苦労とか意味わからん。だがまあとにかく入山なのだ。いざゆかん。ふはは」
妹「ぎゃー! ホントに意味わかんない放してー!」
動物園
「あれ、こっちの檻の動物いなくない?」
「こっちも空っぽ」
「妙に少ないよね、動物」
「一体どうしたんだろう……」
妹「兄さまー蚊に刺された」
兄さま「奇遇だな、俺もだ」
妹「別に奇遇じゃないよ……虫よけちょうだい」
兄さま「ああ」
妹「……兄さま、この山高い?」
兄さま「いや。上り下りで二時間もかからんぞ」
妹「よかったー。ちゃっちゃと終わらせて帰ろうよ」
兄さま「終わるのならば別に構わんが。果たしてどうなることやら」
妹「なにが? 登って降りるだけでしょ?」
兄さま「何を言っている」
妹「そっちこそ何言ってるの」
妹「なんでー!? なんでわたしこんなことー!?」
兄さま「黙って掘れ」
妹「普通さ! 山に来たら登山でしょ! 何歩か譲って虫取りや山菜摘みでもいいよ! でもトンネル掘りはないって絶対ー!」
兄さま「そうか。俺たちの場合あった。さあ掘れ」
妹「ううう自分でやれと言う前に兄さまはもう二メートルぐらい掘り進んでる……」
兄さま「人を動かすには自分からだ」
妹「ふぐぅぅ隙がないぃ」
兄さま「さあ掘れ掘れ! 今日中に終わらせてしまうぞ!」
妹「普通に無茶だと思うけどその前になんで掘るの!? 向こうに何があるの!?」
兄さま「ここにはないものが」
妹「違う! なんかいいなって思っちゃったけどそうじゃない!」
兄さま「……実はな、お前に隠してたんだが俺はあるおばあさんと知り合いなんだ」
妹「?」
兄さま「足が悪い人だ。入院しているんだが気が塞ぎがちで。俺がたまに会いに行くとすごく喜んでくれるんだ」
妹「まさか」
兄さま「その病院が山の向こうにあるのだよ」
妹「じゃあ兄さまは」
兄さま「さてまあ関係ない前置きはここまでとして」
妹「え」
兄さま「俺はついに突き止めたんだ。地底人の国の入り口がどうやらこの山のどこかにあるらしいと」
妹「……」
兄さま「今度こそ絶対見つけて引きずり出す。手伝ってくれるな?」
妹「嫌」
兄さま「そうか」
兄さま「残念だ……」
妹「自分で歩いてよー」
兄さま「駄目だ……兄さまは生きる希望を失った」
妹「引きずる身にもなってよ。体力いるし」
兄さま「わざわざ登る必要もないだろうに」
妹「せっかく来たんだし登っとかないと損じゃん」
兄さま「そうか。ならば兄さまも存分に引きずられないと損だな」
妹「よくわかんない損得勘定やめてってばー」
妹「兄さまがようやく自立歩行できるようになった」
兄さま「誤解なきよう言っておくが、もともと自立歩行は可能だった」
妹「知ってるってば。その方がたち悪いってば」
兄さま「まあそんなことよりもだ。もう夕方だな。頂上からの夕日もいいものだ」
妹「ああうん疲れたね」
兄さま「なぜ兄さまをにらむ」
妹「わからないなら死んじゃえ」
兄さま「呪いか。受けてたとう」
妹「はあ……取り消してあげるからさっさと下山しよ?」
兄さま「うむ」
妹「ねえ兄さま。前から思ってたんだけど」
兄さま「ああ」
妹「なんで兄さまって変なの?」
兄さま「ああ」
妹「もっと言うと、気を悪くしないでほしいんだけど、頭おかしいんじゃないかっていうか」
兄さま「……」
妹「……ごめん。怒った?」
兄さま「いや。実を言うと夕日に見とれて聞いてなかった。怒った方がいいか?」
妹「兄さま……」
妹「だからさ! 兄さまにはもうそろそろついていけないっていうかさ、わたしもうそろそろ高校生なるし自由な時間なくなるっていうかさ!」
兄さま「……」
妹「ねえ聞いてる!?」
兄さま「すまん聞いてなかった」
妹「夕日がそんなに綺麗ならずっとここで見てなよ!」
兄さま「いや、夕日じゃない。ついでに言うと今気づいたがそんなに見とれるほどでもない」
妹「じゃあ何!?」
兄さま「すぐそばにトラがいる」
妹「……え、なに?」
兄さま「すぐそばにトラがいるんだ」
妹「は!?」
トラ「グルル……」
兄さま「俺としたことがぬかった」
妹「どどどどういうこと?」
兄さま「忘れていたんだ。動物園の動物をいくらか脱走させていたことを」
妹「脱走……なんで!?」
兄さま「兄さまのかわいい妹が言うのだ。山でキリンさんがみたいと」
妹「おおよその事情は察したかも。でもそういう風に大曲解されるとは思わなかったな……」
兄さま「そんなに下唇をかんだら痛いぞ?」
妹「知っでる……! でも泣ぎぞうだがら……!」
兄さま「はははなんと大袈裟な」
妹「うるさい!」
トラ「ガルルルル!」
妹「やだー! 死にたくないー!」
兄さま「走れ走れ! 足を動かせ!」
妹「駄目だよ追いつかれちゃうよおおお!」
兄さま「よし、なら木だ! 兄さまが足台になる。いちにのさんで行くぞ!」
妹「わわわ!」
妹「わっと!」
兄さま「よし登ったな!」
妹「兄さまも早く!」
兄さま「いや、兄さまはやめておく。間に合わん」
妹「そんな!?」
兄さま「さらばだ妹よ」
妹「駄目だよ兄さま!!」
兄さま「最後に伝えたいことがある」
妹「な、なに?」
兄さま「トラは気に登れない」
妹「知ってる」
兄さま「だが世の中には例外があるものだ。よかったな。レアトラだぞ」
妹「どういうこと?」
兄さま「あのトラは木に登れる。木登りトラのまさるくんだ」
妹「……」
妹「兄さまああぁぁッ!」
兄さま「はぁーははは!」
妹「お願い行かないで! せめて一回殴らせて! 後生だからー!」
トラ「……」
妹「……」
トラ「グルル……」
妹「ストーップ! 木に登るのそこでウェーイト!」
トラ「?」
妹「あああええとええとうちの兄さまが変人ド畜生すぎてどうしようもないんだけど興味ない!? ありませんでしょーか!?」
トラ「???」
妹「兄さまは頭おかしいの! ネジがぶっ飛んでる! っていうか一本も残ってません! 興味あるよね!? ね!!」
トラ「ガ、ガウ」
妹「うちの兄さまの奇行はなんと小学二年生の時に始まります! 兄さまは神童と呼ばれていたそうです!」
妹「兄さまは勉学スポーツ芸術さまざまな分野に秀でていましたがその中でも特に音楽、バイオリンが得意でした!」
妹「ですがある日、どこかに出かけてきた後兄さまは言いました!」
兄さま『ねえ、バイオリンって水によく浮くよね』
妹「意味が分かりません! なぜならバイオリンは水に浮かべるものじゃないからああぁぁーっ!」
トラ「!?」
妹「ぜい、はあ……」
妹「何やらわかりませんけど兄さまはバイオリンを海に流したそうです」
妹「もっと聞くとバイオリンが唐突に船に見えたからだそうですがどのみち意味わかりません」
妹「いまだに謎です。でも兄さまのバイオリンは今もハワイあたりを漂っているのでしょう。多分」
トラ「……」
妹「聞いてくれてありがとう」
トラ「ガウ」
妹「でもまだこれだけじゃありません!」
トラ「!!??」
妹「兄さまは言うんです!」
兄さま『バイオリンをたくさん並べたら本当に船になるよね』
妹「なりません」
兄さま『綺麗な音色の響くいい船になるよ』
妹「なりません」
兄さま『あ、ところで僕、いや俺のことはこれから兄さまと呼ぶように』
妹「そうでした。兄さま呼びになったのはこの時からでした」
兄さま『というわけでバイオリンをいくつか買ってきてくれ。ここに一千万ある。なに安物でいいよ』
妹「小学生の身分でどこにそんな財力が……聞けませんでしたが」
妹「なにやら怖くなってお母さんに相談したら怒ってくれました。バイオリンを粗末にしたらバチが当たりますよって」
妹「そこかなあと思いましたがとにかくこれで懲りると思いました」
妹「甘かった」
兄さま『ティッシュ箱に弦を張ればバイオリンになるんじゃないか?』
妹「なりません」
兄さま『次の発表会はこれ行こう』
妹「それが兄さま最後の発表会になりました」
妹「素晴らしい演奏ではあったんですけどね。なぜか」
妹「それからまだいろいろありますが、まあとにかく今日にいたります」
トラ「……」
妹「聞いてくれてありがとう。なんだかすっきりしました。もう食べていいですよ」
トラ「!」
妹「これでようやく楽になれる……」
トラ「ガーウ!」
シュッ プス ドサ
妹「え」
トラ「っ……」ピクピク
兄さま「待たせたな」
妹「い、一体……」
兄さま「麻酔銃だ。こんなこともあろうかと向こうに用意していたのだ」
妹「あ、あ……」
兄さま「いやあ危ないところだったよ。さすがの俺も肝を冷やした」
妹「兄さまぁ!」
兄さま「うむ」
ボグゥ!
妹「兄さまのド畜生ー!」
兄さま「ふぐぅ……なぜだ」
妹「妹をこんな危ない目に遭わせる奴なんて兄さまじゃなーいー!」
……
…
喫茶店
妹「ぶへぇぇ……」
妹友「妖怪貧乳ちんまりが今日も顔面でテーブルを拭いている」
妹「何とでも言って……」
妹友「大変だったみたいだね。興味ないけど」
妹「あの後動物を全部こっそり檻に返すとこまでやって疲れた……」
妹友「触れ合い!? タヌキは!?」
妹「いたかな。いたかも。生キリンさんだけははっきり覚えてる」
妹「もうやだ……だれかわたしを解放して」
妹友「あんたがなんだかんだ楽しそうだからその馬鹿兄貴も張り切っちゃうんでしょうよ」
妹「は!? 何言ってんの!?」
妹友「自覚なしと」
妹「楽しくないよ! ホントだよ! 兄さまが奇行に目覚めて以来、わたしは振り回されてばっかりで! 本当に大変で……」
妹友「へー」
妹「……」
妹友「ん?」
妹「……あ、いや。兄さまがあんな風になった時のこと、思い出した」
妹友「前言ってたバイオリン事件?」
妹「の、付け足し」
妹友「付け足し?」
妹「わたしの家族はみんな出来がいいの」
妹友「妖怪キリン狂い娘が急に一家の自慢する」
妹「いや、そういうつもりじゃないんだけど他に表現が思いつかなくて」
妹友「まあセーフとしよう。続けて」
妹「でね、お父さんもお母さんも兄さまもみんな頭よくてさ。何でも知ってたし、何でもできた」
妹「みんなバイオリンが得意でよく一緒に演奏してたんだ」
妹「幼稚園入ったばかりのわたしはまだ弾けなかったけど、みんなの演奏を聴くのは好きだった」
妹「わたしも早く弾けるようになって、家族全員で演奏しようって決めてたんだ」
妹友「でも弾けなかった?」
妹「……わかる?」
妹友「見ればすぐね。あんたそういうの向いてない」
妹「はは……頑張ったんだけどね。全然だった」
妹「で、ようやく気付いたの。出来のいい家族のなかで、わたしだけが凡人なんだって」
妹「馬鹿だし運動音痴だし絵も描けないし歌も下手」
妹友「それで親に疎まれた?」
妹友「聞くね……。いや、あるわけないじゃん。でも気を使われてる感じはあって、それはショックだったかもね」
妹「できるのが普通の家族の中で、できないわたしだけが普通じゃなかった」
妹友「大袈裟だよ」
妹「でも寂しかったのはホント。悔しかったのもホント」
妹友「馬鹿兄貴が馬鹿になったのはその頃?」
妹「部屋でぼーっとしてたら兄さまが来て、バイオリンって水によく浮くよねって」
妹友「馬鹿もそこまで行くとあっぱれだね」
妹「でもあれはわたしを慰めようとしてたのかな」
妹友「?」
妹「バイオリン演奏のことはわたしの心のつっかえだった」
妹「でも兄さまはそんなの大したことないよって言いたかったのかなって」
妹「兄さまが簡単にバイオリンを捨てちゃったのはショックだったけど、スカッとしたのも確かにあったんだよね、今思うと」
妹「だから、兄さまは……」
妹友「……」
妹「……」
妹友「あんたそれ本気で言ってる?」
妹「ないかな?」
妹友「ないない。絶対にない。話聞いてる限りそんな細かいこと考えてる人とは思えないよ」
妹「そっか……」
妹友「でも」
妹「?」
妹友「あんたのこと大好きなのは間違いないよ。わたしもそうだからよくわかる」
妹「……え?」
妹友「じゃ、わたしはこれで。また明日学校で」
妹「う、うん」
妹「……」
「どうした呆けて。まだ午前だぞ」
妹「兄さまのせいなんだからね」
兄さま「何がだ?」
妹「わからないなら死んじゃえ」
兄さま「なら死ななくてもいいな」
妹「……もっと死んじゃえ」
電車
兄さま「さて、今日は海へと向かうわけだが」
妹「どうせ竜宮城探しとかでしょ」
兄さま「惜しい、地底人探しだ」
妹「惜しくない! ていうかまだこだわってるの!?」
兄さま「まあ一度決めたことはやり遂げねばな」
妹「その熱量、もっと別のところに生かせばいいのに……」
兄さま「例えばなんだ?」
妹「親孝行とか? お母さんたちすごく心配してるよ。あの子はいつかなにかやらかすって」
兄さま「はっはっは、異なことを」
妹「うん、なんていうかすでにいろいろやらかしてるのに気づいてないのもどうかと思うけどさ」
兄さま「それに俺が愛を注ぎ込めるのは妹にだけだ」
妹「えっ……!?」
兄さま「俺はな、お前の喜ぶ顔を見るためならなんでもするのさ」
妹「兄さま……」
兄さま「なんだその微妙な顔は」
妹「そりゃ微妙な気分だからだよ」
兄さま「まあ、とにかくだ、言うべきことだけ言っておく。その人にはその人が見るべき景色がある」
妹「?」
兄さま「天才だからすべての景色を見れると思ったら大間違いだ。それだけは覚えておけ」
妹「……わかった。多分」
兄さま「というわけで心置きなく海底人探しに行けるな」
妹「……海底人だったっけ?」
兄さま「ん? 違ったか? まあどっちでもいい。お前と行けるなら些細な問題さ」
妹「わたしと行くことが重要ってこと?」
兄さま「そう言っているが。嫌か?」
妹「……えっと」
兄さま「そうか」
妹「! まだ何も言ってない!」
兄さま「案ずるな、兄さまは心が読める。しかと受け取った」
妹「な、なにを?」
兄さま「……ふふふ」
妹「……」
妹「……はあ」
兄さま「兄さまは思うのだよ、幸せだ、と」
妹「妹は思うのです、疲れるなあ、と」
兄さま「では行こうか」
妹「はぁーい、早く帰ろうね」
兄さま「あ」
妹「な、なに?」
兄さま「いや、些細なことだ。忘れてくれ」
妹「一応聞かせてみて?」
兄さま「本当に大したことはないんだが、そういえば今から行く海岸は人食いザメが出るとかで封鎖されていたな、と」
妹「……」
妹「帰るううぅぅ! 降ろしてええぇぇ!」
兄さま「はっはっは妹よ、電車では静かにしてような」
妹「放してお願い死にたくなーいー!」
兄さま「大丈夫、兄さまがしっかり守るから」
妹「助けてーっ! 誰か兄さまからわたしを守ってーっ!」
兄さま「こらこらそろそろ兄さまも本気になっちゃうぞー具体的には頸動脈への圧迫とかだー」
妹「ぐ、ぐえ……」
兄さま「はっはっは、あっはっはっは!」
妹(こんな感じでうちの兄さまはホントにどうしようもないのです)
58 : 以下、5... - 2022/03/20(日) 22:12:44.621 YJcdKH0k0 48/48以上再編
終わり