男(仕事帰りの楽しみはやっぱりスパ銭でのサウナだ……)ガラッ
男(……ん)
若者「……」
中年「……」
男(今日の“敵”はこの二人か……)
若者「……」
中年「……」
男「……」スッ
元スレ
男「サウナで『扉が開かない!』ってやるの楽しすぎwww」
http://mi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1643965324/
男(く……ちょっとキツくなってきた。出ようかな。水分補給して再挑戦……)
若者「……」ニヤッ
中年「……」ニッ
男(こいつら……今笑った!?)
若者「……おっと」
中年「失敬」
男(後に入ったくせにってツラしてやがる! 許せん! ……そうだ!)
男「……」ガシッ
男「あれ!? 開かない!」
若者「え!?」
中年「なんだって!?」
男「どうしよう! この扉開かない! 出られない!」
若者「マジかよ!」
中年「ひいい、大変だ! 蒸されて死んでしまう!」
若者「……!」
若者「開くじゃねえか!」
中年「ホントだ!」
男「……」ニヤッ
若者「くそっ、やられたぜ!」
中年「こんな嘘に引っかかってしまうとは……」
男(上手く騙せたおかげで、気力を回復できた。もうちょっと中にいるとしよう)
男「……」ダラダラ
若者「……」ダラダラ
中年「……」ダラダラ
男(いよいよきつくなってきたな……だが、これを耐えてこそ後のビールが美味いってもんだ)
若者「……」スッ
男(お、やっと行くか? これでおっさんとの一対一か)
若者「あれ!? 開かねえ!」
男「!?」
中年「!?」
若者「やべえ、マジやべえ! 出られねえ!」
男(嘘つけ……どうせ俺への仕返しのつもりだろ。引っかかるかってんだ)
若者「どうしよう! 干からびちまう!」
男(だけど本当だったら……!)
男「俺も手伝うよ!」
中年「私も!」
男「開くじゃん!」
中年「くっ……!」
若者「へへっ、さっきのお返しだよ!」
男「ぐぬぬ……」
若者「さ~て、もう少し中にいるかな」
男「……」
中年「……」
男(こうなったら意地でもこいつらより後に出てやる!)
男「……」ダラダラ
若者「……」ダラダラ
中年「……」ダラダラ
男(二人とも粘りやがる。若い方はともかく、おっさんは無理すんなよ。本当に倒れちゃうぞ)
中年「……」スッ
男(お、やっと出る? よかった……流石に先に入ってたおっさんには負けられないもんな)
中年「開かない!」
男「!?」
中年「どうしよう、開かないよぉ!」
男(いい加減にしろよ……二番煎じどころか三番煎じじゃねえか)
男「流石にもうだまされませんよ」
若者「三度目はウケねーぞおっさん」
中年「開かない! もうダメだぁ!」
男「……!」
男(こんなおっさんがウソつくとは思えない……真面目そうだし)
男「大丈夫ですか!」
若者「手伝うよ!」
男「……開くじゃねえか!」
中年「……」ニヤリ
若者「いい加減にしろよ、おっさん!」
男「そうだ! いい年して!」
中年「おいおい、最初にやったのは君たちだろうが!」
若者「そうだぜ! あんたが下らないことしたから……」
男「俺のせいかよ!? お前が二番煎じやらなきゃよかっただけだろうが!」
若者「なんだと!?」
中年「まあまあ、喧嘩はやめたまえよ」
男「同じ穴のムジナのくせに中立ぶらないでもらえますか!」
若者「ホントだぜ、いい年してイタズラなんてよ!」
中年「何を言うか!」
男「……やめよう。ただでさえ熱いのに、さらに熱くなる」
若者「ちっ……」
中年「……」
男「……」
若者「……」
中年「……」
男(こうなったら純粋な我慢比べだ。先に出た奴が負け! 一番最後に入ってる俺は絶対負けるわけにはいかない!)
男「……」
若者「……」
中年「……」
男「……」
若者「……」
中年「……」
男(ダメだ……きつくなってきた。出よう……)フラッ
男(もういいや、負けで……。プライドより命だ……)フラフラ
男「……あれ?」
男「開かない……!」
若者「もういいって!」
中年「さすがにもう引っかからんよ」
男「いやホントだって!」
若者「うぜえ……」
中年「さっさと出たまえよ。見苦しいよ。勝ち誇ったりしないから」
男「ホントなんだって!」
男(マジで開かねえ……!)
男「頼むよ、手伝ってくれ! 俺もうヤバイんだ!」
男「開けてくれたら金払うから! お願い! 頼む!」
若者「……ホントに金もらうからな。金払わなきゃぶっ飛ばす」
中年「やれやれ、そこまでしてイタズラしたいかね。近頃の若者は……」
男「早くぅ!」
若者「あれ!?」
中年「開かない……!」
男「な、開かないだろ!?」
若者「扉を押しても……」
中年「引いても……」
男「ビクともしないだろ!?」
三人(どうすんだよ……!)
男「まさか……本当にこんなことになるとは……」
若者「こういうのって……なんて言うんだっけ? ことわざで……」
中年「ええと、たしか瓢箪から、瓢箪から……」
男「やべえ、こんな小学生レベルのことわざすらすぐ出てこない……。熱さでIQ落ちてる……」
若者「タコじゃなかった?」
男「全然違う!」
若者「じゃあ、駒?」
男「なんで瓢箪から駒が出てくんだよ!」
中年「バカかね、君は! もっと考えて発言しろ!」
若者「す、すんません!」
男「ひええ……とうとう汗も出なくなってきた……」
若者「俺も……」
中年「典型的な脱水症状だねえ……」
男(俺は……サウナで死ぬのか……)
男「あのさ……二人とも……」
若者「あ……?」
中年「なんだい……?」
男「どうせ死ぬなら……最後にとっておきの秘密暴露して、死なないか……」
若者「そりゃいい……」
中年「いいね、やろうやろう……」
男「じゃあ……俺から……」
男「実は俺……もう30近いのに、女と付き合ったことないんだ……」
若者「へえ……そうなんすか」
中年「今はそういう人が多いと聞くねえ……草食系、だっけ……?」
男「草食というか、絶食……ですね……。今まさに絶命しそうですけど……」
若者「ってことはヤったことも?」
男「ない……」
若者「へえ……見た目はわりといいのに……もったいない」
男「え、そう?」
中年「うん、若い頃の○田×夫に似てる……」
若者「誰すかそれ?」
中年「私の世代にとってはスターだけど……知らないか」
男「俺は……ギリ知ってますね……」
若者「なんなら……合コンでもセッティングしますよ?」
男「え、マジ?」
若者「大マジ」
中年「うん、こういうのは結局きっかけがあるかないかだからね。ガンガン行った方がいいよ……」
男「そっか……そうしようかな。もし生きて出られたら……合コンしよう……」
若者「じゃあ、次は……俺が……」
男「おお……どんな秘密があるんだ……?」
若者「実は俺……結構女の子向けアニメ好きで……」
男「え、意外……」
若者「日曜朝やってるやつとか大ファンなんす」
男「プで始まるやつ……?」
若者「プで始まるやつっす……」
男「へえ……だけどあれ大人が見ても面白いらしいし……いいんじゃない?」
若者「そうっすかね……?」
中年「うん、私も漫画好きだしね……」
若者「そっすか……よかった……」
若者「じゃあ、最後は……」
中年「私だね。実は今度……娘が結婚するんだ」
男「ええっ……!」
若者「おめでたいっすね……」
中年「ありがとう……二人とも」
中年「だけど晴れ姿を見ることは……できそうにない。最後に……このことを話せてよかったよ……」
男「……」
若者「……」
男「そんな秘密知っちゃったら……なおのこと倒れてられませんよ。なぁ?」
若者「うっす」
中年「まさか……」
男「最後の力振り絞って……サウナの扉を開けてみせます。行くぞっ!」
若者「おうっ!」
男「うおおおっ……!」ググッ
若者「うおおおっ……!」ググッ
中年「やめるんだ……残り少ない体力を使ってしまう!」
男「いいんです……何とかこの扉を押し開いてみせる……!」
男「動けっ、動けぇっ!」
ガラッ!
男「うおっ!?」
若者「え……開いた!?」
客「うわっ、びっくりした!」
男「え……なんで開いたの……? あんた、今どうやって開けたの……?」
客「どうやってって、ドアを横にガラッと」
男「……」
男(どうりで……押しても引いても開くわけないわけだ……)
男(ホントにIQ落ちてたんだな……)ドサッ
カチンッ!
三人「カンパーイッ!」
グビグビッ!
男「いやー、生き返るねえ!」
若者「ホントホント!」
中年「こんな美味いビールは生まれて初めてだよ!」
男「娘さんの式にはさすがに行けないけど、ちょっとしたお祝いぐらいはさせて下さい」
若者「俺も!」
中年「ありがとう、二人とも!」
男「あと合コン……忘れるなよ?」
若者「男さんにマッチしそうな女の子、連れてくるっすよ!」
男「頼むぞ~!」
アッハッハ……
男(サウナの扉は開けなかったけど……三人の心の扉は開くことができたな)
おわり