―――風が優しく吹いた
千早「……少し疲れたわ」
小さく零した
すっかり夜もふけた
もうすぐ朝が訪れる
夜が終わる前に、この坂道を乗り越えられるかしら
いいえ、考えても無駄ね
千早「私は、私のペースを守りましょう」
自分に言い聞かせる
元スレ
千早「あなたはどれくらい遠い場所にいるんだろう」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1358091191/
千早「……綺麗ね」
立ち止まり、空を見た
星があった
消えそうだけど、それでも精一杯輝いていた
あなたも同じ空と星を見ているのかしら
いいえ、同じ空も星も見えるはずがない
私は再び歩き始めた
千早「……もう少し荷物を減らしても良かったかしら」
背負うリュックサックはずしりと重たい
あなたはどう言うだろう
いつも曖昧な事ばかりを言うあなたならば
いつか誰かが言った
言葉は伝わらないことが多いって
だから、曖昧なのは私も同じ
むしろ私のほうが、もっと言葉が足りないのかしれないわね
ポケットからイヤホンを取り出す
それを耳に付けて、曲を流す
機械を使えない私のために、必死に使い方を教えてくれたあなた
その機械を使って、音楽を聴いている
唄が口から出た
曖昧な、足りない言葉を補う私の唄
千早「……――」
こうして、私は今も歩き続ける
千早「――――」
あなたはこの消えそうな星を見ていますか
この星に気付けたのはあなたのおかげなのだから
だから、あなたにも見ていて欲しいと願う
この道のずっと先にいるあなたにも
千早「……くす」
まるで詩ね
思い浮かんだ言葉が少し、私には可笑しく思えた
千早「……あ」
歩き続けると、それだけで困難に出逢う
歩かなくても出逢うけれど
困ったわね
あなたならこの道もまっすぐ進むのでしょうけれど
私には無理そう
だから、ちょっとだけ遠回りをすることにした
……なんて、思わない
だから、私は手を使っても登ってみようと思う
怪我をしていなければいいけれど
千早「……っくち」
くしゃみが出た
いざ進もうと思うと、ちょっと怖くて立ち止まってしまう
それで気付いたのだけど……寒い
千早「……ふふ」
それも、笑うくらい
リュックサックを下ろして、上着を取り出す
持ってきたかどうかすら忘れていたけど、確かにあったそれを確認して安心した
千早「……行きましょう」
自分を鼓舞した
どうしてこんなに頑張っているのかしら
そんな疑問は持たないことにした
だって、あなたに会って伝えたい言葉がある
伝わるかどうかも分からないけど
千早「……がんばれ、私」
伝えようとすればするほど、言葉は迷子になってしまうもの
千早「……?」
少し足が痛む
確認すると、靴ずれが起きそうになっていた
でも、険しい道はもう終わり
問題が無さそうだから、進むことにしましょう
千早「少しでも、近づきたいわね……」
でも、以前の私たちは近くても遠かった
だから、行動にしてみた
あなたに会いたい、ということだけを行動にしてみた
言葉で伝えるよりも呆気なくてすごく判り易い
千早「でも、少し疲れるわね」
最近、一人が多いせいでまた独り言が増えた気がする
けれど楽しいと思う
まだあなたを見失っていないもの
朝が訪れる前、私は街についた
そこで、写真を片手に慣れない言葉を使って人尋ねをする
すると何故かあなたの向かった場所がわかる
千早「……あなたは、どの場所でも人を笑顔にしているのね」
お節介焼き、でも少し羨ましい
少し滞在して、私はまた歩き出す
この旅と、この道の先にあなたがいることだけをいつも願う
祈りといってもいい
思い返せば、アイドルすらも休業して何をしているのかしら私
千早「でも、諦められない……」
あなたにもう一度会わないといけない
そうしないと、もう一度アイドルとして生きていけない
風が優しい
朝も昼も過ぎた
再び夜が差し迫る頃でも、私は歩いていた
その中で、風に揺れる花を見つけた
千早「まるで私みたいね……」
風に揺れるその姿が震えているように見える
でも、私はこの闇なんて怖くない
だって、あなたもこの道を歩いたのでしょう?
千早「――――」
また私は唄いだす
あなたはどれほど遠くにいるの、と
唄しかないと思っていたけれど
唄の他にも、私には色んなものがあった
それを教えてくれたのがあなた
千早「――――」
夜空に向かって、唄った
千早「……ふぅ」
一つ唄い終わって、ため息をついた
思えば、この旅を始めるときたくさんの人に迷惑をかけた
アイドルとして一区切りした後に始めたけれど、それでもたくさん迷惑をかけた
千早「ごめんなさい」
仲間の顔を夜空に思い浮かべて、謝罪した
試しに、あなたのように舌を出してみた
誰も見ていないけど、すごく恥ずかしくなった
千早「……どうして」
あなたはどうして居なくなったのかしら
別に、言いたいことはないわ
聞きたいことだってないもの
でも、たった一つ、伝えたい事があるの
千早「……――」
それを伝える方法を、私はまだ見つけられずにいるけれど
せめて唄に載せて伝えられたなら
ここまであなたを追いかけて
ここまであなたに付いて生きた今までを
価値なんてないわ
でも、伝えたい、知って欲しい
千早「あなたはどれくらい遠い場所にいるんだろう」
私はあなたを見つけられるでしょうか
あなたはいつも私を見つけてくれたけれど
千早「……あら」
思い出を浮かべて、泣きそうになったとき
靴紐が解けていることに気付いた
私は道を少し逸れて、しゃがみ込んでから靴紐を結ぶ
そしてそのまま、寝転んだ
こんなこと、あっちじゃとても出来ない
水筒がからんと音を立てて、世界は静まり返った
静寂だった
世界が私に微笑みかけているようだった
涙を浮かべた目で、月が滲んで揺れた
泣いてたまるものか
それだけの気持ちで、再び私は立ち上がった
また歩き出す
千早「……くっ」
嗚咽を堪えた
この心が、よく分からない何かで一杯になった
こんなに疲れても、私の弱い足は動いてくれた
あなたが今、何をしているのか知らない
千早「……私は、あなたのいる場所に向かっている訳じゃなかった」
ただ、あなたに向かって歩いているだけ
私はあなたになれないから
千早「――――」
唄いながら思う
いっしょに生きている事は、本当はすごい奇跡だった
あのとき、いっしょに居られたことが奇跡だった
当たり前じゃない
それでも、懸命にあなたの呼吸を読んで、こんな所まで生きてきた
あなたもきっとそう
私はさらに声を大きく唄う
周りには誰もいないけれど、あなたに届けばいいなと思って
千早「――――」
あなたにだけ向けた唄
気付いているかしら
それとも気付いていないのなら
いつまでも唄おう
私はあなたを必ず見付ける
あなたは私を必ず見付けてくれるから
ほら、お互い様ね
――風が吹きすさぶ
私は、逃げ込んだ
この嵐が過ぎ去るのを待つ
海では波が荒れ狂い、船を襲っている
それでも私は唄う
あなたは、どれだけ先にいるの? どれくらい離れているの?
私はどれくらい追いつけたかしら
千早「……セントエルモの火」
――ねえ、どんな唄を歌う
終わり
32 : 以下、名... - 2013/01/14(月) 02:11:25.47 midrKtmv0 24/24読んでくれた人がいたなら、ありがとうございました
原作はありますが、知っていなくても大丈夫
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千早「私のもの」
https://ayame2nd.blog.jp/archives/2225182.html
美希「こんな終わり方ってないの!!」
https://ayamevip.com/archives/56084883.html
たまに見るけど何故か変な恥ずかしさを感じるのは私だけかな…?
何故このキャラクターに喋らせてるのかもよく分からないし、何を伝えたかったんだろう
私の読み解く力が足りないのかな