記者「まずは魔王討伐成功おめでとうございます。本日はお忙しい中、取材に応じて下さってありがとうございます」
勇者「いえいえ」
戦士「ったく特別だぜ?」
女魔法使い「なるべく美しく書いてよね、あたしのことは!」
女僧侶「うふふ、女魔法使いさんったら」
記者「取材といっても堅苦しくならず、こちらの質問に気楽に答えて下さればいいので」
勇者「分かりました」
元スレ
記者「あなた方四人はまさに理想的な勇者パーティーですね!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1634980506/
記者「まず最初に、勇者パーティーのそれぞれの役割を知りたいのですが……」
記者「勇者さんは隊列でいうと、いつもどのあたりに?」
勇者「二番目から三番目ですね」
記者「これは意外ですね。てっきり勇者さんは先頭に立つというイメージがありまして」
勇者「勇者はパーティーの司令塔ですからね。うかつに先頭に立つのはむしろ悪手なんですよ」
記者「なるほど!」
勇者(なーんてな。正直いって先頭に立つの怖かったんだよ。いったいどんな敵が出てきて、どんな攻撃してくるか分かんねえしさ。ま、戦士がすぐ突っ込むバカだったおかげで、俺が先頭に立つことなくて済んだけど。対抗心からか、俺の前でやたらはりきった動きしてくれるし)
戦士(おいおい、俺は知ってるぜ勇者。お前がいつもビクついてたのをよ。だから、いつもいつも俺が先頭に立ってやってたんだ)
女魔法使い(勇者ったら、臆病だから先頭に立ってなかったのバレてなかったと思ってんのかしら。急に敵が出てきたらいつもいつも悲鳴上げるし)
女僧侶(勇者さん、一番後ろに立つのも嫌がってたんですよね。後ろから襲われたら真っ先に狙われますし。勇者の名が泣きますよホント。はっきりいって殺意が湧きましたね)
記者「司令塔ということは、仲間の皆さんには勇者さんが指示を?」
勇者「はい、どうしろとか、どう動けとか、俺が全部指示を出してました」
記者「おお、さすがですね」
戦士(指示? 指示なんて立派なもんかよ。『頑張れ!』とか『耐えろ!』とか『やばい!』とかそんなんばっかだ。具体性一切なし)
女魔法使い(あれが指示なら、そこらの子供だって司令官が務まるっての)
女僧侶(面の皮が厚いというのはこういうことをいうんですね)
記者「となると、一番先頭に立ってたのは戦士さんですか」
戦士「まあな!」
記者「未知のモンスター相手に、かなり危険な立ち位置だったと思いますが……」
戦士「危険を恐れてちゃ、戦士はやれねえからな!」
(んなことねー、勇者が怖がってるから、仕方なく前に立ってただけなんだよ。みんな、俺のことを頼れる戦士だと思ってくれてただろうなー。ま、前に立ってたのは他にも理由があるんだけど……)
勇者(こいつは確かに役に立った。俺の代わりに先頭に出てくれたんだからな。だけどよ、猪突猛進が過ぎるんだよ。いつでもどこでも敵に突撃しやがって!)
女魔法使い(いつだったか、寝てるドラゴンにわざわざ突撃してった時はホントふざけんなと思ったわ。おかげでしなくていい戦いをして、装備も道具もボロボロになっちゃった)
女僧侶(この人は本当に猪でしたね。いえ、猪だってもう少し時と相手を選びますよ。しなくていい突撃をして、いらぬトラブルを引き起こすことも多かったです。はっきりいって殺意が湧きましたね)
記者「女魔法使いさんはどのような役割を?」
女魔法使い「あたし? あたしはもっぱらサポート役ね」
記者「攻撃魔法や補助魔法で、勇者さんや戦士さんをサポートというわけですか」
女魔法使い「そういうこと」
(なーんて、実質パーティーの司令塔だったのはあたしよ! 勇者があまりにもあてにならないから、あたしが必死に指示出してさ! どうせみんな気づいてないだろうけど。縁の下の力持ちってつらいわー)
勇者「よくやってくれたよ」
(こいつ、出しゃばりなんだよな。俺が的確に指示出してるってのに、わざわざ自分でも指示出して……うざったいったらありゃしなかった。頭は二ついらねえよ)
戦士「ホントだぜ」
(ぶっちゃけ勇者の指示といえない指示より、女魔法使いのが頼りになった……。『回復して!』『後ろの奴倒して!』てな具合にどう動けばいいか、具体的に教えてくれるしよ)
女僧侶「ええ、助かりました」
(女魔法使いさんがいなければ、パーティーはどうなってたか分かりませんね。だけど、『なにしてるのバカ』『早くしてよ!』なんていわれることもあって。はっきりいって殺意が湧きましたね)
記者「女僧侶さんはやはり回復を担当なされてたのですか?」
女僧侶「はい、そうです」
勇者「彼女は俺たちがどんな怪我を負っても、笑顔で回復してくれるんです。とても救われました」
女僧侶「そういって頂けると嬉しいです」
勇者(だけど……今思うと、あの笑顔結構怖かったんだよな。癒やしを与える天使というよりはむしろ……)
戦士(女僧侶って、傷を見て笑顔になってる節があるんだよな。特に重傷を負った時なんか満面の笑みでさ……)
女魔法使い(この子、はっきりいって怖いわ。勇者と戦士が揃って大怪我した時は、笑いをこらえるような仕草してたし)
女僧侶(私、他人が痛がってるところや、傷を見るのが大好きなんですよね。出来たばかりの傷をしっかり観察できるのは回復役の役得ですね!)
記者「質問を変えまして、例えば道中で町に寄った時、皆さんはどういう風に過ごされてたんですか?」
勇者「それはもちろん修行ですよ」
記者「おや? てっきり町で遊びを楽しんだりするのかと……」
勇者「そんなことしませんよ。我々は勇者パーティー、遊んでる暇などありません」
記者「さすが勇者さんたち、真面目ですね」
勇者(なーんてな。財布は女魔法使いが握るっていうから、遊びたくてもできなかったんだよ。ったくあの女、いちいち仕切りやがってマジうぜえ。金さえあればいくらでも酒飲んだり、女遊びしたってのによー)
記者「戦士さんは?」
戦士「俺も修行だよ」
(ホントは剣とか買いたかったけど、女魔法使いが金の管理してたからなぁ。とはいえ、勇者と二人きりで修行できるってのはよかったけど)
女魔法使い「二人とも、ちゃんと修行してたよね」
(お前らに金渡すと絶対ろくなことに使わないから、あたしが財布握ってたんだけどな! 特に勇者は金渡したら絶対豪遊してたはず。外面はいいけど、そういう性格よあいつは)
記者「女性陣のお二人はどうしてました?」
女魔法使い「あたしは宿屋でゴロゴロしてたわよ。かよわいから」
(といいつつ、お金の計算や今後のスケジュール組み立ててたわよ! いわないけど!)
記者「ハハ、なるほど」
女僧侶「私はお薬屋さんに立ち寄ってました」
記者「さすがはパーティーの回復役、町にいる間も準備を欠かさないというわけですか」
勇者(そういや女僧侶はよく薬屋に立ち寄ってたよな。ありゃなんでだ? 魔力の回復薬なら、ちゃんと別に調達してたってのに)
戦士(なーんか怪しいんだよな、こいつ。薬屋行った後は妙にうきうきしてるし。そう、まるで俺が新しい武器を買った時みたいに……)
女魔法使い(一度だけこの子が薬屋から出てきた時をバッチリ目撃したんだよね。そしたらこの子、持ってたの! 毒薬の瓶を!)
女僧侶(町にいる時は思う存分毒薬の勉強をさせてもらいました。楽しかったですねえ……)
記者「どうされました、皆さん?」
勇者「なんでもありません。取材を続けて下さい」
記者「下世話な話になってしまうのですが、パーティー内で恋愛沙汰などはあったのでしょうか?」
記者「興味がある人も多いでしょうし、ぜひ聞かせて頂ければと」
勇者「恋愛ですか」
記者「はい、ちょうと男性二人、女性二人ですし。何かあったのでは、と」
勇者「ご期待に沿えないようで申し訳ありませんが、なかったですね」
記者「そうなんですか」
勇者「それに我々は勇者パーティー、恋などしてる余裕などありませんから」
(つーか、こいつも無能だな。このパーティー見たら恋愛なんてありえないって分かるだろ。戦士は当然として、女魔法使いはうるせえし、女僧侶はどこか怖いし、恋愛対象にするなんてありえない。女魔法使いに財布さえ握られてなきゃ、町で遊んで出会いもあったかもしれねえのによ。もっと可愛くて素直ないい子がパーティーにいればなぁ、今頃……)
記者「戦士さんも?」
戦士「ああ、恋なんかする余裕なかったぜ」
(ホントは俺……勇者のこと好きだったんだけどな。パーティーでいつも先頭に立ってたのも、勇者を守りたかったからで、なおかつ俺の逞しい姿を見て、勇者が俺に惚れてくれないかなって思ったからなんだ。結局、勇者は俺に振り向いてくれることはなかったけどな……。だけど、町で修行してた時はいつも楽しかった……。デートしてる気分だった……)
女魔法使い(嘘つけ。あんたが勇者が好きだってのはバレバレだったっての。先頭に立つ時、やたらお尻をふりふりして、勇者にアピールしてたしね。妙にくねくねした動きで気持ち悪いったらありゃしない!)
女僧侶(戦士さんって、絶対勇者さんのこと好きでしたよねえ。惚れ薬でも作って、勇者さんに飲ませたら、男同士結構面白いことになったかもしれませんね。ま、やりませんでしたけど。やってればよかったかなぁ)
記者「個人的には少々残念ですが、おかげで雑念なく魔王を倒せたともいえますね」
勇者「そういうことですね」
記者「一番死にかけたのはどんな時でしょうか?」
勇者「一番死にかけた、ですか……あなたもなかなか嫌な質問をしなさる」
記者「他の人が聞きにくいことをあえて聞く、が本日の裏コンセプトでもありましてね」
勇者「ちょっと待って下さい。うーん……どれだろう」
記者「じっくり考えてもらって結構です」
勇者「ああ、間違いなくあれだ!」
記者「なんでしょう? やはり強敵との戦い? ドラゴンやゴーレムなど……」
勇者「いや、違います。食あたりです」
記者「これは意外ですね。戦いではなかったんですか」
勇者「たしかあれは……女僧侶が作ってくれたまんじゅうだったかな」
女僧侶「そんなこともありましたね。恥ずかしい……」
戦士「たしか材料が古くて、みんな苦しんだんだよな。腹は痛いわ、吐き気が止まらないわで」
女魔法使い「だけど体調の戻った女僧侶ちゃんが、みんなを助けてくれたの」
勇者「あれは本当に苦しかった……」
女僧侶「その節は本当に申し訳ありませんでした」
勇者「わざとじゃないだろうし、気にしなくていいさ」
女僧侶(まあ、わざとなんですけどね。旅の途中で新しく調合した毒薬をどうしても試したくて……それに私の中に三人への不満が溜まってました。臆病で無能な勇者さん、猪突猛進な戦士さん、仕切り屋の女魔法使いさん。だからつい魔が差して、毒まんじゅうを食べさせてしまったのです。むろん、私も苦しんだふりをして……。ひとしきり苦しむ姿を見たらスッキリしたので、さも自分は体調がよくなったふりをして治療しましたが)
勇者(今思うとさ、こいつが毒盛ったとしか思えないんだよな。こいつが作ったまんじゅうだし、一人だけ回復が早かったのもなんか怪しい)
戦士(女僧侶……俺が苦しんでるのを見て、ちょっと笑ってたんだよな……。泣いてるように見せかけてたが、あれは絶対笑ってた! 俺視力いいし! 間違いない!)
女魔法使い(いわなかったけど、あの事件、この子が毒盛ったって疑ってるのよね。証拠がないけど、この子絶対怪しいわよ! 他の二人はバカだから気づいてないけど、私はごまかせないわよ!)
勇者(うすうす思ってたけど、こいつの本性マジでヤバイ奴なんじゃ……)
戦士(女僧侶は危険だ。俺のセンサーがビンビンいってる!)
女魔法使い(放っておいたら、そのうちとんでもない事件を起こすかも)
勇者(せっかくの機会だし、ここで暴露しちゃうか?)
戦士(女僧侶を糾弾した方が、世の中のためになるかもしれねえ……)
女魔法使い(どうしよう、記者さんに言っちゃおうかな……)
三人(いや、やめとこう。怖い……)
記者「皆さん、どうされました?」
勇者「いえ、なんでもないです。本当に苦しい思い出だったので」
記者「さて、いよいよ本題に移りましょう。魔王との戦いについて詳しく教えて下さい」
勇者「魔王はやはり強かったですね。今までの敵とはまるで格が違いました」
記者「というと?」
勇者「いきなり戦士が倒されてしまって」
戦士「ああ、斬りかかったら、思い切り殴られていきなり瀕死になっちまった。面目ねえ」
勇者「だが、おかげで魔王の実力が分かった。感謝してる」
(ったく、いきなり倒されやがって。マジ使えねーなと思ったわ)
戦士「へへ、そういってもらえると嬉しいぜ」
(想いは届かなくても、勇者の力になることだけが俺の生きがいだったんだ)
女魔法使い「瀕死になった戦士は、すぐ女僧侶ちゃんが回復したけどね」
(すっごい邪悪な笑顔で。正直魔王より怖かったんだけど)
女僧侶「ああいう時こそ私の出番ですから!」
(顔面がひしゃげてる戦士さん、面白かったなぁ……。間違いなく私的重傷ベスト3に入りますね)
記者「強いだけではなく、ピンチをすぐ立て直せるのもあなた方の強みですね」
勇者「はい、ピンチこそチャンス! これが俺たちのモットーですから!」
女魔法使い(嘘こけ。あんた戦士がいきなりやられて、めちゃくちゃビビってたじゃないのよ。戦士がすぐ復帰しなかったら逃げ出してた勢いだったわよ)
戦士(俺が回復して復帰した時の勇者のほっとした表情、今でも忘れねえ。一生の宝物だ)
女僧侶(私の場合、ピンチこそエンジョイですけどね。痛がってる人苦しんでる人を見るのは楽しいです)
勇者「その後、しばらく魔王の一方的な攻撃が続きましたが……やっと俺が一太刀を浴びせたんです」
記者「やはり嬉しかったですか?」
勇者「まさか。そんなことで喜んでいたら勇者とはいえません。ですが、一つのきっかけにはなりましたね」
(嘘です。めっちゃ嬉しかった! わりと、いやほとんどまぐれだったけど)
戦士「ああ、あれでムードが変わったんだ」
(絶対まぐれだけどな。逃げ腰で戦ってたら、かえって魔王の裏をかけただけだ)
女魔法使い「戦いでムードって大事だもんね」
(あの時、女僧侶ちゃん、ぼそっとこう呟いたのよね。『勝った』って。なんだったのかしら、あれ)
記者「そんなに戦いの流れが変わったんですか」
勇者「ええ、俺の一撃がきっかけで、魔王の動きが鈍くなり始めまして」
戦士「それでも手強かったが、俺たちの攻撃も次々決まり出した」
女魔法使い「そしたら、いきなり魔王が血を吐き出したのよ」
記者「血を?」
女魔法使い「そう、ゲボッてね」
記者「不思議ですね……」
勇者「きっと俺たちの攻撃がじわじわを効いたんでしょう」
(最初、攻撃かと思ってマジでビビったけどね)
戦士(あの時の勇者、『ひゃんっ!』なんて声出して可愛かったな。永久に記憶しとこ)
勇者「そこで俺たちは一斉に斬りかかった!」
戦士「ああ、二人でな!」
記者「おおっ!」
勇者「そして首を斬り落とし……魔王を倒したわけです」
(俺一人で倒したかったのに……余計なことしやがって、このバカが。空気読めってんだよ)
戦士「会心の一撃だったぜ!」
(最初で最後の勇者との共同作業……ケーキカッティングならぬ魔王カッティング。勇者と結婚はできねえが、この思い出だけで一生生きていける)
記者「その時、後方にいたお二人は?」
女魔法使い「そりゃもちろん、喜んだわよ! ねえ?」
女僧侶「はい!」
女僧侶(まあ、二人が魔王を倒せたのは、私が二人の武器に猛毒を塗ってたからなんですけどね。それも私が独自に開発した猛毒を……。二人が誤って自滅する可能性もありましたが、そうなったらそうなったです。ギャンブルとしてのスリルも味わえました)
女魔法使い(やっぱりこの子、何かしらの方法で、魔王に毒を盛ったんじゃないかしら? あの『勝った』って絶対そういう意味よね。あの吐血、いくらなんでも不自然だし。魔王を弱らせる毒を作れるようになってたなんて……怖い子だわホント)
記者「勇猛果敢な勇者さんと戦士さん、名サポートの女魔法使いさん、回復役の女僧侶さん、四人が揃ったことでの大勝利だったというわけですね!」
勇者「おっしゃる通りです」
(ホントは俺一人の手柄だけど、そうした方が喜ぶだろ? そうしといてやるさ、ケッ)
記者「最後に……今後の予定を教えて下さい」
勇者「ひとまず使命は果たせましたし、しばらくは自由にさせてもらうつもりです」
(女遊びしてやる! 豪遊してやる! 勇者の名声がありゃどんな女だって口説けるぜ!)
戦士「俺はひとまず田舎に帰って、静かに暮らすかなぁ」
(勇者への叶わぬ恋を胸に秘め、ひっそりと暮らすよ……愛してたよ、勇者)
女魔法使い「予定ってほどのもんもないわ。普通に生きてくわ、普通に」
(こんなアクの強い奴らと付き合ってくのもう懲り懲り! 普通が一番! 普通に仕事して、普通に結婚して、普通に死んでやる!)
女僧侶「私は好きなことをして生きていきます」
(うふふ……もちろん、毒薬の調合。これを用いた商売を始めるのもありかもしれませんね)
記者「四者四様ですね。今後の皆さんのご活躍を期待してます」
記者「本日はありがとうございました。それでは私からも一言、賛辞を送らせて頂きます」
記者「あなた方四人はまさに理想的な勇者パーティーですね!」
四人「はいっ!」
この後、四人が仲違いしただとか、何か事件を起こしたという記録は残っていない。
おそらく一生こんな感じだったのだろう――
END