爺「なんじゃ?わしに何ぞ用か?」
鬼「お前を食う。」
元スレ
娘「お前は今日から私の家来なの!」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1316863000/
爺「ほぉ・・・初めて見たの。お前さん鬼か?」
鬼「そうじゃ、お前を食う。」
爺「まだ子供ではないか。帰れ帰れ。」
鬼「子供じゃろうが鬼ぞ!わしが怖くないのか!?」
爺「婆さんのほうが怖いわ。」
鬼「じゃあ婆さんから食う。だからわしの方が怖いぞ。」
爺「タワケ!婆さんはとっくにおっ死んどるわ。だから婆さんの方が怖い。」
鬼「生きておれば食っておる!だからわしの方が怖い!」
爺「譲らん奴じゃの・・・ならどっちが怖いか、一勝負じゃ。」
鬼「おお、何を競うのじゃ!?」
爺「簡単じゃ。今から先にまばたきをした方が負けじゃ。」
爺「ほっほっほ・・・他愛ない。だがこれで決まったわ。婆さんの方が怖い。」
鬼「仕方がない、婆さんの方が怖かった。だが、お前は食う。」
爺「わしなんぞ食ってもうまくないぞ。食えるところも少なかろう。」
鬼「だが腹の足しにはなる。わしは腹がへっとる。」
爺「ならばまた勝負じゃ。今から先に『わかった』と言った者が負けじゃ。よいか?」
鬼「わかった。」
鬼「ぐぬぬ・・・」
娘「おじじ!今晩泊めてくれ!」
爺「ここへは来てはいかんと言っておるじゃろう。」
鬼「・・・仕方がない。お前は食わん。こいつを食う。」
爺「ならんぞ。お前は負けたのだから帰れ。」
鬼「食ったら帰る。」
娘「この子はだーれ?」
爺「鬼じゃ。」
鬼「鬼ぞ。」
娘「なんと!」
爺「なんでまた来た?」
娘「新しい母さまが、また私のことを苛めるの。」
爺「また悪さをして叱られたのか?」
娘「掃除も水汲みもちゃんとやったの!なのに、お前に食わせる飯はないというの。」
爺「お父には相談したのか?」
娘「父さまはまだ戻って来ないの。」
鬼「・・・腹が減った。」
娘「だから、おじじ、私を泊めて欲しいの。もうあの家の子はやめるの。」
爺「わしにもし孫がおったら、こんな感じなのかのう・・・」
娘「あ!おじじ、また干し芋食べてもいーい?」
爺「ああ、ええぞ。」
娘「この子にもあげてもいーい?お腹空かせてかわいそーなの。」
爺「・・・まあ、ええじゃろ。そうじゃ、お前ら勝負をしてみせろ。」
鬼「受けて立つぞ。こいつに負けることなぞ何一つないと思うがの。」
爺「じゃあ、干し芋は縁側に置いとるから、食えるだけ持ってこい。」
鬼「なんじゃ?そんだけしか食えんのかお前は。」
娘「あんまり取ったらおじじが食べる分がなくなっちゃうの。」
爺「持ってきたか?食い切れんほど取ってはおるまいの?」
鬼「わしの勝ちは火を見るより明らかじゃ。食って証明するまでもなかろ?」
爺「誰が大食いの勝負じゃと言うた?早食いの勝負じゃ。」
鬼「は?」
爺「持っとるぶん全部、先に食い切った者の勝ちじゃ。途中で水を飲んではならんぞ。」
爺「ほっほっほ・・・惜しかったのう。」
鬼「きたないぞ。」
爺「ふん、これに懲りたらホイホイ勝負に乗らんことじゃな。」
鬼「なんじゃと?」
爺「人間は非力だが小賢しい。内容も聞かずに勝負を受けるな。お前のためじゃ。」
鬼「むう・・・」
爺「もし、今の勝負に命を賭けておったら、お前はたかが芋の早食いで死んだのだぞ?」
鬼「むう・・・そういえば何を掛けておったのじゃ?」
爺「お前の命だと言ったら、お前は大人しく殺されるつもりかえ?」
鬼「うぬぬ・・・だが、勝った者には逆らわん。さっさと殺せ。」
爺「まあ、勝ったのはわしではないしのう。その子に聞いてみたらどうじゃ?」
鬼「何が望みじゃ?」
娘「今決めてもいーの?」
鬼「今回だけじゃ。聞かずに勝負したわしもアホじゃったからな。」
娘「今日からお前は私の家来なの!」
鬼「なんと!」
爺「・・・それで、本当に帰る気はないのか。」
娘「おじじの家の子になるの。ぶたれるのも、火箸ももういやなの。」
爺「なんじゃと?ちょっと袖をめくって見せい。」
娘「・・・・・」
爺「これはひどい。」
鬼「なんじゃ?そんなもので・・・見よ!わしの方が傷は多いぞ!」
娘「むー!私は腕より背中のほうが凄いの!ほら!」
鬼「確かにの。じゃが、毛で見えにくいがホレ、わしは頭にもたくさん傷が・・・」
爺「比べんでもええ!」
爺「まあ、仕方がないかの・・・継母が頭を冷やすまでは置いてやるか・・・」
娘「ありがとうなの!」
爺「だが、いつまでもは置いてやらんぞ。それに自分の事は自分でするんじゃ。よいな?」
娘「わかったの!私、いっぱいいっぱいおじじのお手伝いするの!」
爺「自分のことだけでいいわい。だが、わしはただの炭焼きのジジイじゃ。贅沢はできんぞ。」
娘「大丈夫なの!私、食べられる草もたくさんたくさん知ってるの。」
爺「不憫な奴じゃのう・・・」
爺「次はお前じゃな。」
鬼「わしがどうかしたのか?」
爺「このあたりに鬼は住んでおらんかったはずじゃ。少なくともわしは聞いたことがない。」
鬼「だから来たのじゃ。他のもんが住んどる山には住めんからな。」
爺「流れてきたのか?一人でか?その年でようやるわ。」
鬼「兄者と一緒に来た。手分けして住めそうな場所を探すために一旦別れたのじゃ。」
爺「この山に住むつもりなのか?」
鬼「住んではいかんのか?」
爺「お前らは人を食うからだめじゃ。」
鬼「別に山はお前のもんではなかろ。勝手に住むわい。」
爺「ならわしと知恵比べじゃ。わしが勝ったら人は食わんと約束しろ。」
鬼「その手には乗らんわい。もうお前の勝負は受けてやらん。」
爺「む!?入れ知恵したのが裏目に出てしもうたの・・・」
娘「お前は私の家来だから、この山で人を食べてはだめなの。」
鬼「なんじゃと!?」
爺「ほっほっほ・・・上様の言う事に逆らってはいかんのう。」
鬼「付き合っていられんわ。わしは帰る。」
爺「どこへじゃ?」
鬼「昨日見つけた洞穴じゃ。兄者との待ち合わせもある。」
娘「じゃあまた明日いらっしゃいなの。力自慢にお手伝いしてもらうの。」
爺「ほっほっほ・・・上様にはかないませんなあ。」
娘「やくそくなのー!」
鬼「・・・干し芋じゃ。」
爺「芋がどうした?」
鬼「しばらく人を食うのはやめる。そのかわり芋を用意しろ。」
爺「さて、寝床は婆さんの使っておったのでよいかの。」
娘「おふとん?」
爺「そうじゃよ。干しとらんから、ちぃとホコリくさいかもしらんが我慢するのじゃ。」
娘「お布団使ってもいーの?」
爺「なんじゃ?布団も取り上げられとったのか?ええぞ。婆さんのをやるわ。」
娘「うーん・・・やっぱりいらないの。」
爺「妙な遠慮をしよるのう。」
娘「おじじと一緒に寝るの!」
鬼「おほん!う、うえさま?今日は何を御所望か?」
娘「お馬はもう飽きたの。今日は抱っこ。」
鬼「こうすればいいのか・・・?」
娘「痛いの!もう少し力を抜くの!」
鬼「すまぬ・・・・・・あ?うぐ・・・!?」
娘「そのまま頭を優しくなでなで・・・・・ぎゃんっ!!」
娘「いきなり突き飛ばすなんてひどいの!柱にぶつかるところ・・・・?」
鬼「フゥー・・・フゥー・・・」
娘「どうしたの?どこか痛いの?」
鬼「寄るでない!」
娘「ひっ!」
鬼「もう少しで、お前にかぶりつくところだった。」
娘「私を食べるの?」
鬼「食いはせん。食いはせんが・・・今日はもう帰る。」
娘「あ、待つの!食べたくなったのを我慢してるの?」
鬼「そうじゃ。このままでは本当に食い付いてしまう。」
娘「少しだけなら食べてもいいから。もう少し一緒に居てほしいの。」
鬼「馬鹿を言うでない!血がいっぱい出るぞ!?」
娘「今日はおじじが炭を卸しに行っているの。おじじが戻るまで待ってて欲しいの。」
鬼「お前は一人になるのが怖いのじゃな。」
爺「それで食べるフリしてずっと噛みついておったのか。」
娘「痛かったけど、食べるのは我慢しててくれたの。」
爺「あやつも律儀なやつじゃのう。」
娘「約束はちゃんと守るの。」
爺「それだけではあるまい。あやつはお前に情がわいとる。」
娘「なんと!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
娘「では行ってきます。お爺さん。」
爺「すまんのう。怪我の治りが遅い。つくづく自分がジジイじゃと実感するわい。」
鬼「もう歳じゃ。なんて言える歳はとっくに通り越しとるからな。」
爺「余計なお世話じゃ。お前が卸しに行ければ一番いいんじゃがのう。」
鬼「わしも途中まで運ぼうと思っておったがの。上様が、騒ぎになるといかん。だと。」
娘「大丈夫ですよ。私はこう見えて丈夫なんです。すぐに戻ってきますから。」
爺「やれやれ、行ったか?」
鬼「そうじゃの。で、ホントのところはどうなんじゃ?その足。」
爺「知っておったのか。」
鬼「当たり前じゃ、わざとらしく杖など突きおってからに。もとより怪我などしておらんのじゃろ?」
爺「ああそうじゃ。家族の良さを思い出してしまっての・・・つい長居させてしまっておるからの。」
鬼「あやつはいつまでもここに居たいと思うておるのではないか?それは悪い事かの?」
爺「わしとていつまでもは生きてはおれん。少しずつでも人中へ慣れさせておかねばならん。」
鬼「継母のところへ返すつもりか?」
爺「まあ、そういう事じゃ。もう子供ではないし。継母も無碍には出来まいよ。」
鬼「あやつが帰らんと言ったらどうするのじゃ?」
爺「なぜそんなことを聞く?ははぁ・・・お前はあやつと一緒に居たいのか?」
鬼「ち、違うわい。肩身の狭い家来の身分から解放されるのが待ち遠しいだけじゃ。」
爺「自分から居なくなれば良いではないか。兄から周りの山の様子は聞いておるのじゃろ?」
鬼「ふん、そんなかでもこの山が一番住み易いだけのことじゃ。」
爺「そういう事にしておくかのう。」
鬼「・・・・・」
爺「・・・・・」
娘「お洗濯終りましたよ。今日は朝から何をしているんですか?」
爺「こいつは意外と手先が器用でな。竹細工を教えとる。」
鬼「・・・こうか?」
爺「そうじゃ・・・こっちに編み込んで・・・ここで揃えて切るのじゃ。」
娘「何でも作ってしまうんですね。」
爺「次の卸しにはわしが行くからの。」
娘「無理はしなくても、私が行ってきますよ。」
爺「いや、ちょっと他に用事があって寄らねばならんところがある。なので少し遅くなるかもしれん。」
娘「・・・わかりました。」
爺「心配するでない。晩までには戻ってくるわい。」
娘「はい。」
爺「遅くなったが、今戻った。」
娘「おかえりなさい。」
爺「あのな・・・」
娘「はい。どうかしましたか?」
爺「うむ・・・ちょっと話がある。まあ座りなさい。」
娘「はい。」
爺「実はの・・・お前のお母に会ってきた。」
爺「もっと早くこうするべきじゃったが、ついついわしも流されてしまってな。」
娘「私はここに居てはいけない・・・という事ですか?」
爺「そういう事だ。いつまでも置いてはやれん。と、最初に言ったはずじゃ。」
娘「私は・・・何か悪い事をしてしまいましたか?」
爺「違うぞ。お前を嫌ったり、お前が邪魔になったのではない。」
娘「ではどうして!?」
爺「わしがここへ隠居してから久しい。お前まで付き合う事はない。今一度、人の中へ戻るのだ。」
娘「でも・・・」
爺「わしが死んだ後はどうするのじゃ?」
爺「お前は利口者じゃ、そのことが頭をよぎったことがないわけではあるまい?」
娘「・・・・・」
爺「おそらくはすぐさま蓋をして奥へ奥へしまい込み。先送りにしてきたのじゃろう?」
娘「・・・はい。」
爺「もうそれも終わりじゃ、しなくともよい。わしの生き死にに関係なく、お前はお前のために生きていけ。」
娘「お爺さんは・・・いえ、それがお爺さんの望みなのですね?」
爺「そうじゃのう。わしはお前のことを本当の孫のように思うておる。」
爺「わしらは子供に恵まれなんだが、お前はわしの孫じゃ。」
娘「!」
爺「短い間ではあったが・・・いや、長い間じゃの。孫ができて本当に幸せじゃった。」
娘「お爺・・ちゃん・・・」
爺「今度は孫にも幸せになってほしい。そう思うのはおかしいかの?」
爺「わしの独りよがりかもしらん。だとするなら、孝行するつもりで受け取ってはもらえんか?」
娘「わかりました。私、家に戻ります。」
爺「明後日に発つと言うてある。短い間じゃがあとちょっとだけ老いぼれにつきあってくれるかや?」
娘「はい。お爺ちゃん。」
爺「ほっほっほ・・・家族とは良い物じゃのう。」
爺「お前さんにゃ悪い事をしたかもしらんのう。」
鬼「構わんよ。わしがお前でも同じことをしたかもしらんわ。」
爺「何か言うておったか?」
鬼「いや、挨拶はしておらん。結局会わなんだ。」
爺「どうしてじゃ?」
鬼「辛くなると思うてな。」
爺「ほっほっほ・・・どちらがかは聞かずにおいてやろうかのう。」
爺「お前さん。酒は飲めるのか?」
鬼「飲んだことはないが、おそらくは飲めるじゃろう。しかし、なぜじゃ?」
爺「なに、一緒に飲もうかと思ってな。どうじゃ?ひとつ飲み比べというのは?」
鬼「ほほお、面白い。受けて立つぞ。」
爺「そうこなくてはの。」
鬼「して、何を掛けての勝負だ?」
爺「そうじゃな――――」
かあさまえ
とつぜん●のおてがみ おどろきのこととおもいます
かあさまがすすめてくだ●すった ほうこうさきで
わたし●はだんなさまにきにいられ いま よみかきをならっています
まだひらがなしかつかえませんが こうしておてがみをかけるようになりました
おくさまはとてもきびしいかたですが いたらないわたし●へのごしどうでしょう
ながらくいえでしていたわたし●を またむかえいれてくださり かんしゃしております
これまでのおやふこうのつぐないを これからすこしずつしていくしょぞんです
おしょうがつにはおひまをいただいてかえれるとおもいます
それから すみやきのおじいさんはげんきにしていますか
母より
家の方はあまり変わりはありませんが、お父様が戻ってこられました。
本来ならば家族そろって新年を迎えたいところですが、
お父様は重い病を患っておられます。
お前にうつるといけないとおっしゃっていますので、今年は戻るべきではありません。
また、お父様のお薬はとても高価なものです、お前に負担を掛けたくないのですが、
少し仕事を増やし、賃金を上げてもらう事はできませんか。
お爺さんの件ですが、あの山には恐ろしい鬼が居て、お爺さんは鬼にたぶらかされていたようです。
お爺さんが鬼をかばったので鬼は逃げてしまいましたが、お爺さんは死にました。
母上様へ
その節は御心配をおかけしたことと思います。
お爺さんの訃報を聞き、我を失っておりました。
悲しみに暮れていた私でしたが、月日の流れはそのような思いも流し去ってくれました。
最近、修行に出ていた若旦那様が戻ってこられました。
若旦那様は私を見染てくださり、ゆくゆくは妻に迎えたいとおっしゃってくれています。
そのようなこともあり、今ではもう落ち着いております。
旦那様も私のことを気にかけてくださり、先日から琴と歌のお稽古を受けさせていただいております。
奥さまは私の出自からか、あまり良い顔をしてはくれませんが、
旦那様と若旦那様が橋渡しをしてくださるそうで、少しずつ打ち解けていけたらと思っています。
未だ正式に婚儀を決めたわけではありませんが、母上様には一番にお伝えしたく、筆をとった次第です。
お正月には長めのお休みを頂けるそうなので、戻って詳しいお話をしたいと思います。
母より
お父様の具合がいっそう悪くなりました。戻ってきてはなりません。
治療には貴重なお薬が必要になるとのことですので、
結納に先だっていくらか工面してもらえるよう、お前から頼んではもらえませんか。
母上様へ
お許しください。私は汚れております。
祝言の日取りを決めた翌日、稽古の帰り道で暴漢に穢されました。
若旦那様は気にすることはないとおっしゃってくださいましたが、
あの日以来、私は男の方が怖くなり、一緒に生活できるとはとても思えません。
旦那様のご厚意で今でも住まわせてもらっていますが、
今では仕事も満足に手につかず、部屋に籠ってばかりの毎日です。
このままご迷惑になってもいけないので、お許しを頂いて奉公を終えるつもりです。
今一度、家族皆で支え合って暮らして●●●いきたいです。私は帰ります。
母より
稼げなくなったお前にもう用はありません。
お父様の件はすべて狂言です。
兼ねてから付き合いのある家に後妻に行くことにしました。
どこへなりと好きなところへ行き、誰にも迷惑をかけずに死ね。
女「ハァ・・・ハァ・・・」
-おい、見つかったか?-
-こっちには来てないぞ-
女(一体どうして・・・?)
-だが、本当に持っているのか?-
-ああ、間違いない。奥さんが言ってたからな-
女(奥様が・・・?)
-大旦那は祝儀をたんまり用意していたそうだ-
-それを手切れ金として渡したってわけか-
-全部じゃあるめえがな-
-しかし、奥さんも相当人が悪いな-
-それを言うなら大旦那が良すぎじゃねえのか?-
-知らねえんだよ。奥さんが襲うように頼んだってことをな-
女「!!」
-居たぞ!追いかけろ!-
-待ちやがれ!-
女「ハァ・・・ハァ・・・」
-「手こずらせやがって。」
女「・・・お金は差し上げます。ですから、見逃してはくれませんか?」
-「説明しなくてもわかるだろ?そういうわけにはいかねえ事くらいよお。」
女「誰にも言うつもりはありません。どの道私は死ぬつもりです・・・」
-「だったら今すぐ手伝ってやるよ。」
女「あの山で・・・お爺ちゃんと一緒に眠りたいのです。」
-どうする?-
-ここだと隠すのが面倒だし、山なら鬼の仕業と噂を流せば・・・-
-運ぶのも面倒だしな、山まで自分で歩かせてから・・・そこで・・・-
-「よし、じゃあ山まで送って行ってやる。逃げようなんて思うなよ?」
女「このあたりで結構です。ありがとうございました。」
-「礼には及ばねえよ。だが、ちょっと気が変わった。」
女「何を!?おやめください!」
-「遠慮すんなよ!死ぬ前に思い出の一つでも作ってやろうってんだよ。」
-「あーあ、好きだねお前も。後で代われよ?」
女「ひっ!」
女(・・・ここはどこ?・・・私、どうなったの?)
鬼「お怪我は有りませんかな?上様。」
女「・・・あ!」
鬼「御無沙汰しておりました。お許しくだされ。」
女「うっ・・・うっ・・・」
鬼「狼藉者は成敗いたしましたゆえ。ご安心召されよ。」
女「うわぁぁああん!」
鬼「落ち着いたか?」
女「ええ、ありがとう。ここは・・・お爺さんの小屋、ですね。」
鬼「そうじゃ。もう、ところどころ腐っとるがな。・・・で、一体何があった?」
女「いろいろなことがありました。」
鬼「そうじゃろうな。」
女「聞いてくれますか?」
鬼「言うのを待っておるのじゃが。」
鬼「・・・そうか。いろいろとあったのだな。」
女「本当に・・・」
鬼「わしはじじい以外の人間の事はよう知らん。」
女「そう?・・・ですね。」
鬼「それにお前の心が読めるわけでもないし、わかると自惚れておるわけでもない。」
女「・・・・・?」
鬼「その上で言わせてもらう・・・・・・大変だったな。」
女「!」
鬼「ああ、これ、泣くな。」
女「ずっとこの山に居たのですか?」
鬼「ずっとではないの。3つの山を時節ごとに回っておる。居合わせたのはたまたまじゃ。」
女「私が見えていたのですか?」
鬼「わしの目は一里先だろうと見通せるからの。」
女「なぜ、3つもの山を?」
鬼「魚が欲しければ、魚が獲れる川へ行くのが当然じゃろう?」
女「ええ、そうですね。」
鬼「とある御方の言いつけでな。この山では人を食ってはならんのじゃよ。」
女「なっ!?・・・では他のところでは・・・」
鬼「たまには、な。」
女「でも、まだ守ってくれているのですね。」
鬼「優秀な家来であろ?」
女「私は死ぬつもりでこの山へ来ました。」
鬼「そうか。」
女「ですが、最後にあなたに会えてよかった。」
鬼「まだ死ぬ気でおるのか。」
女「はい。私はもう、疲れ切ってしまいました。」
鬼「んなら、その前にわしを家来から解放しろ。」
女「一つだけお願いを聞いてもらってからでもいいですか?」
鬼「なんじゃ?」
女「・・・抱っこ。」
女「・・・もう、結構です。ありがとう。」
鬼「気が済んだか?」
女「はい。もう家来でも主人でもありません。これからはご自分の好きなようになさってください。」
鬼「では、そうさせてもらうとするかの。」
女「・・・帰らないのですか?」
鬼「お前を食う。」
女「なんと!」
鬼「まずはお前をさらう。わしが食うまで勝手に死ぬことは許さん。」
女「ですが、私はもう・・・」
鬼「お前の言う事を聞く理由はもうない。わしの好きなようにする。」
女「・・・ではどうぞ、召し上がってください。」
鬼「芋を食い過ぎたからの。生憎と今は腹いっぱいじゃ。まずはわしの住処に連れて帰る。」
女「わかりました・・・」
鬼「もう、人と関わることは叶わんじゃろう。何かやり残したことはないか?」
女「何の未練もありません。」
鬼「ではもう寝ろ。明日迎えに来る。」
女「明日ですか?」
鬼「夜の山を登るのはお前にはキツかろう。先に兄者に言うておくこともあるしの。」
女「お兄様に?何をですか?」
鬼「お前はわしのもんじゃから、勝手に食うてはならぬ。とな。」
鬼「ここがわしの住処じゃ。中は案内するまでもあるまい。」
女「私を食べるのではないのですか?」
鬼「もちろん食うぞ。」
女「ではなぜ、まだ生かしておくのですか?」
鬼「いつ何どき食おうがわしの勝手じゃ。」
女「本当は・・・食べるつもりなどないのではないですか?」
鬼「わかるか・・・まあ、わしらは嘘をつくのが下手じゃからのう。」
女「どうして・・・」
鬼「じじいとの最後の勝負じゃ。万が一、お前がそんな顔をして戻ってきたら・・・と、な。」
女「お爺ちゃん・・・」
鬼「酒に酔うという事があんなにキツイものとは知らなんだ・・・」
女「飲み比べをしたのですか。」
鬼「それから、これを渡すように言われておる。」
女「これは・・・竹の櫛・・・ですか。」
鬼「じじいにならってわしが作ったものじゃ。受け取ってくれるか?」
女「・・・はい。大事にします。」
鬼「よいよい。壊してしもうたら、また作ればよいだけじゃ。」
女「そういうわけにはまいりません。」
鬼「なんでじゃ?」
女「・・・ひょっとして櫛を贈る事の意味を御存じないのですか?」
鬼「はて、じじいは何も言ってはおらんかったが?」
鬼「これが求婚の証じゃと!?」
女「やはり、知らなかったのですね。」
鬼「・・・何から何まで食えんじじいじゃ。」
女「ふふっ。」
鬼「おお、ようやく笑ったの。」
女「知らなかったのであれば、反故にしますか?」
鬼「まあええわ、一人くらい人間と契る鬼がおってもええじゃろ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
鬼「兄者がお前の歌を褒めておったぞ。」
女「なんだかちょっと恥ずかしいですね。」
鬼「なにを歌っておったのじゃ?」
女「この子に子守唄を聞かせておりました。」
鬼「この子?」
女「あなたの子です。私の中に居ます。」
鬼「なんと!」
――――――――――――――――――――おわり