男(しまった……間違えた……!)
娘「なにいってんの!」
父「……」
男「お義父さん……?」
父「私も妻子ある身、君の気持ちに応えることは……難しい」
男「で、ですよね」
父「しかし……デートの一回ぐらいなら、まあ……」
男「は?」
元スレ
男「お義父さんをボクにください!」彼女の父「……!?」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1630833012/
男「ちょ、ちょっと待って下さい」
娘「まあまあ、いいじゃない」
男「え!?」
娘「ここで一対一で、男の対話でもしといた方が後々のためにもいいでしょ」ヒソヒソ
男「そうかもしれないけど……」
父「いつなら大丈夫だね?」
男「ボクは土日休みですけど……」
父「では今度の日曜日にしよう。楽しみにしているよ」
日曜日 駅前――
男(とりあえず、待ち合わせ場所に来たけど……本当に来るのかな)
男(もっとちゃんとした格好してくればよかったかも。スーツとか)
父「やぁ、待ったかね?」
男「お義父さん!? ずいぶんラフな格好ですね!」
父「ハハハ、オフの時はこんなものだよ」
男「そ、そうですか」
父「ではデートの定番、映画館にでも行こうじゃないか」
男「そうですね。すぐ近くにありますよ」
男(映画なら会話せずに済むから気楽だ……)
男「ラインナップは……」
≪兵士達の戦場≫
≪ドローン殺人事件≫
≪氷少女アイスちゃん ~南国パラダイス~≫
男(戦争映画、サスペンス、アニメか。まぁ、上二つのどっちかにすべきだろうな)
男「お義父さん、なにか希望あります?」
父「じゃあアイスちゃんで」
男「!?」
男「これ……アニメですけど、いいんですか?」
父「たまにはこういうを見たくてね」
男「お義父さんがいいのなら、いいですけど……」
……
父「いやぁ、なかなか楽しめたね」
男「ええ、近頃のアニメもあなどれませんね!」
父「南国の熱気でアイスちゃんが溶けていくところはハラハラしたよ」
男「その後、レイド君が駆けつけてきたところは熱かったですね」
男(90分、退屈せずに見てしまった……いや、恐ろしい)
男「そろそろお昼にしましょうか。どこで食べます?」
父「うーん……」
男(この辺で定食屋や蕎麦屋は……)
父「カフェ……なんてどうだろう?」
男「カフェ?」
父「ほら、スパゲティやサンドイッチを食べられるカフェってあるだろ?」
男「ありますね。じゃあ、そういうところに入りましょうか」
父「……」ハムッ
父「うん、うまい」モグモグ
男「いつもこういうところで昼食を?」
父「まさか。いつもは会社近くの定食屋だよ。割引サービスも使えるし」
父「だけど、こういう特別な日はいつもと違うところで食べたくてね」
男「なるほど」
父「あ、そうだ。食後にパンケーキも食べようかな」
男(あれだけ厳しそうだったお義父さん像が崩れていく……)
店員「パンケーキです」コトッ
父「ありがとう」
父「おおっ、久しぶりに食べるねえ」
父「私は最初に切り分けてから食べるんだよね、こういうの」スッスッ
男(なんかちょっと可愛いな)
父「シロップをかけて……」パクッ
父「うん、うまぁい!」
男(本当においしそうだな……)ゴクッ
父「君も食べたいかね?」
男「あ、いやボクは……」
父「よかったら一口どうぞ」
男「それじゃ、いただきます」
父「それじゃ、あーんして」
男「え、あーんですか!?」
父「一応今日はデートだしね」
男「そ、それじゃ……あーん」パクッ
父「どうだね?」
男「おいしいです!」
父「ハハ、よかった」
水族館――
男「水族館に来るのは、学校の行事以来かもしれません」
父「それはずいぶん御無沙汰だったね」
男「こうして泳いでる魚を見てるだけで……退屈しないっていうか、落ちつきますね」
父「うん、魚を見ることによる癒やし効果は研究もされていて、アクアリウムセラピーとも呼ぶらしいよ」
男「へぇ~、お義父さん、物知りなんですね!」
父「よしたまえ。照れてしまうよ」
男(全体的に青色の水族館で赤面するお義父さん……悪くないな)
男「こっちにはアザラシがいますよ」
父「飼育員さんに魚をもらってるね」
男「おいしそうに食べてますね」
父「おおっ、可愛い!」
男「……お義父さんも可愛いですよ」ボソッ
父「えっ!?」
男「……」
父「ありがとう」
男「いえ……」
男「今日は楽しかったです」
父「私もだよ」
男「最初はどうなるかと思いましたが、とてもいい一日を過ごせました」
父「デートしたかいがあったというものだよ」
男「よかったら……ライン交換しませんか?」
父「ああ、いいとも!」
父「え、と、どうやればいいんだっけ……」
男「スマホ貸して下さい。ボクがやりますから」
会社――
男「ん、お義父さんからだ」
父『今夜空いてる?』
男『空いてまーす』
父『じゃあちょっと飲まない?』
男『喜んで!』
同僚「お、なんかご機嫌だな」
男「まあね」
男「こんなオシャレなバーを知ってるんですね」
父「2、3回入っただけだけどね」
男「職場の人とは来ないんですか?」
父「まさか。私にもイメージってものがある。普段はもっぱら居酒屋さ」
男「ということはボクは特別、と」
父「オホン、そういうことになるかな」
男「ありがとうございます」
父「礼などいらんよ。君と私の仲じゃないか」
父「娘とはどれぐらい……?」
男「もう……だいぶ経ちますね」
父「娘は幸せ者だ。君のようなしっかりした若者を見つけることができてね」
男「いえ、そんな……」
父「しっかりしてるよ。なにせ、自分の言い間違いが元で私とデートすることになったのに」
父「こうしてしっかり付き合ってくれてるんだからね。君は……娘を託すに値する人間だ」
男「!(言い間違いに気づいてたのか……)」
父「娘のこと……よろしく頼むよ」ヨロッ
男「おっとと、大丈夫ですか」ガシッ
父「ふふ、酒が弱くなったかな。それと君といると、つい無防備になってしまう」
男「お義父さん……」
父「ウ~イ……」
男「ここからだとボクの家の方が近い。一緒に行きましょう」
父「悪いね……」
男「すみません、タクシー呼んで頂けますか」
マスター「分かりました」
…………
……
男の自宅――
男「水です」
父「ありがとう」
男「気分は?」
父「だいぶよくなったよ」
男「何もない部屋ですけど、ゆっくりしていって下さい」
父「いやいや、よく片付いてるじゃないか。娘にも見習って欲しいものだ。娘は物を捨てられないタチだからね」
男「おかげでボクも捨てられずに済んでますよ」
父「ハハ、上手いことをいう。座布団一枚!」
父「……ん。これは……アルバム。見てもいいかい?」
男「どうぞ」
父「ふふ、たまには人の成長記録を見るというのも……」
父「これは小学校の入学式。こっちは中学の部活……」
父「……」
父「突っ込んだことを聞いてしまうが……君、父親は?」
男「いないんです。母子家庭で……」
父「そうだったのか……」
男「今思うとボクはあの時……お義父さんに初めて会って……」
父「?」
男「これが父親なんだなぁ、と思ったことを覚えています」
父「だいぶ出来の悪い父親ではあるがね」
男「だからボクは……無意識のうちに、『お義父さんをください』といったのかもしれません」
男「決して、ただの言い間違いではなく……」
父「……!」
父「今夜は……甘えていいぞ」
男「えっ!」
父「私を実のお父さんだと思って……思い切り甘えなさい!」
男「はいっ、お義父さんっ……!」
………………
…………
……
男「こないだ借りた本、返すよ。面白かった」
娘「へへっ、でしょー!」
娘「あ、そうだ。今日はあたしの家来ない?」
男「! 行く行く!」
娘「ずいぶん乗り気なのね」
男「ハハ……まあね」
男「お義父さん、こんにちは!」
父「おおっ、よく来たね!」
男「いやー、お元気そうでなによりです」
父「私はいつも元気さ。将棋でも指さないかね?」
男「ぜひ!」
娘「いつの間にかすっかり仲良くなっちゃって……」
父「将棋が終わったら、広場でキャッチボールでもどうだい?」
男「あ、いいですね!」
父「ボールとグローブは買ってあるから、たっぷりやろう!」
男「はいっ!」
娘「そろそろお父さんに“彼を私にちょうだい!”っていうべきなのかな」
母「ま、しばらく好きにさせてあげなさい」
おわり
とても良い話だった