ミミズ「……」
少女「あ、ミミズさんが干からびてる」
ミミズ「……」
少女「かわいそー」
ミミズ「俺は干からびてるわけじゃねえ……」
少女「え!?」
ミミズ「日光浴してるだけだ」
少女「あ、そうなんだ。じゃーねー!」
ミミズ「ま、待てっ!」
元スレ
ミミズ「俺は干からびてるわけじゃねえ……日光浴してるだけだ」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1631007016/
ミミズ「どうしても、どうしてもというなら……」
少女「?」
ミミズ「助けてくれてもいい」
少女「助けて欲しいの?」
ミミズ「助けて欲しいわけじゃないが……」
少女「じゃあ、行くね」
ミミズ「助けてくれっ!」
少女「最初からそういってよね」
ミミズ「ミミズにも意地があんだよ!」
少女「助けるってどうすればいいの?」
ミミズ「とりあえず水が欲しい。体がカラカラでな」
少女「水ね」
ミミズ「水と湿った土と涼しい場所、それと葉っぱなんかがあればなおいいかな」
少女「注文多いなぁ」
――――
――
少女「これでいい?」
ミミズ「おお、いい土だな。ここは?」
少女「あたしの家だよ。お庭」
ミミズ「へえ、こんな庭のある家に住めるってことは結構裕福なんだな。毎日楽しいだろ」
少女「そんなこと……ないよ」
ミミズ「ふうん? ま、いいや。しばらくここで厄介になるぜ」
少女「うん、いいよ!」
少女「ところでミミズさんってなに食べるの?」
ミミズ「デトリタス」
少女「デト……え?」
ミミズ「デトリタス。ざっくりいうと動物や微生物の死骸を元とする栄養のかたまりってとこだ」
少女「死骸……」
ミミズ「引くことないだろ。人間だってどっかの動物を食べてんだぞ」
少女「まあそうだけど」
ミミズ「デトリタスなんて初めて聞いただろ。学校で話してみろ。きっと自慢できるぜ」
少女「うん、話してみる!」
少女「それとよく干からびてるミミズさんを見るけど……なんで干からびるの?」
少女「湿った土が好きなミミズさんが道路にいたら干からびるに決まってるのに」
ミミズ「色々あるが……多くの場合は息が苦しくなるからだな」
少女「息?」
ミミズ「ミミズだって呼吸してんだ。雨が降ると俺らがいる土の中は雨水が溜まって、酸素がなくなる」
ミミズ「だから外に出るわけだが、そこで太陽に照らされて、どんどん体力を奪われ戻れなくなって……」
少女「干からびちゃうんだ」
ミミズ「そういうこと」
少女「なんだか可哀想。でもこのところ、雨降ってないけどなぁ……」
ミミズ「俺の場合は、マジで日光浴しようとしてああなったから」
少女「アハハ、ミミズさんったらドジ!」
ミミズ「うるせえ!」
母「ご飯よ」
少女「あ、お母さん」
母「いつまでも庭で遊んでないで、おうちに入りなさい」
少女「はーい!」
少女「じゃ、ミミズさんまたね。くれぐれも見つからないように……」
ミミズ「そんなヘマはしねえさ」
ミミズ(誰か来た)
父「……」スタスタ
ミミズ(ん、これは親父か。ずいぶん遅いお帰りなこって)
父「ただいま」ガチャッ
バタン
ミミズ(さて、俺もそろそろ寝るか。久しぶりに快眠できそうだ)
少女「おはよー!」
ミミズ「おう、おはよう」
少女「学校行ってくるね」
ミミズ「しっかり勉強してこいよ」
少女「なんなら一緒に行く?」
ミミズ「行くわけねーだろ。小学生男子なんてミミズの大敵だわ。何されるか分からん」
少女「いえてる!」
……
少女「ただいまー」
ミミズ「ちゃんと勉強してきたか?」
少女「うん。ああそうそう、勉強といえばみんなにデトリタスのこと教えてきたよ!」
ミミズ「お、どうだった?」
少女「みんな、驚いてて、先生もよく知ってるなーって褒めてくれた!」
ミミズ「よかったじゃんか」
少女「みんなにいいすぎて、あだ名がデトリタスになりそう!」
ミミズ「あんまりよくねえな」
ミミズ(俺が毎日楽しいだろって聞いた時の暗い顔が気になったが……)
ミミズ(どうやら、学校でいじめられてるとかはなさそうだ……)
父「……」スタスタ
父「ただいま」ガチャッ
ミミズ(この親父、今日は早く帰ってきたな)
ミミズ(これなら家庭的にも問題はなさそう、か)
少女「……」ガチャ
ミミズ「ん?」
少女「……」
ミミズ「どうして外に? もう夜だぞ?」
少女「おうちにいたくないの」
ミミズ「なんで?」
少女「ケンカしてるから……」
少女「お父さんとお母さん、二人でいるといつもケンカするの」
ミミズ「原因は?」
少女「いくらでもあるよ。ご飯のことだったり、お仕事のことだったり、あたしのことだったり」
ミミズ「そっか……」
ミミズ「何とかしてやりたいが、いい知恵が思い浮かばねえ……」
少女「ううんいいの。いつものことだし、平気」
ミミズ「……」
ミミズ(毎日が楽しくないってのはこういうことだったんだな)
……
少女「……」タタタッ
ミミズ「ん? なんだそれ?」
少女「植木鉢! 先生に学校にあるのをもらってきたの!」
ミミズ「そんなもの、どうするんだ?」
少女「あたし、お花育てることにしたの」
ミミズ「花を?」
少女「うん、あたしがお花をプレゼントしたら、二人を仲良くできるかもと思って」
ミミズ「なるほど……」
ミミズ「いいアイディアかもしれねえな!」
少女「でしょ!」
少女「じゃ、さっそく種を埋めて……」サッサッ
ミミズ「三日坊主になるなよー」
少女「あたし、坊主頭になんかしないもん!」
ミミズ「いや、そういう意味じゃなくてね……」
それから――
少女「ふんふ~ん」
ミミズ「毎日ちゃんと水をあげてるな」
少女「お父さんとお母さんに仲直りして欲しいから」
ミミズ「きっとさせられるさ」
少女「だけど……」
ミミズ「ん?」
少女「お花が咲くのが間に合うかなぁ……」
「あなたはいつも仕事のことばっかり!」
「黙れ! 誰のおかげで食えてると思ってんだ!」
「子供のことも私に任せきりで……」
「愚痴ばかりいうな! うんざりする!」
ミミズ「今日は激しいな……声が外まで漏れてんぞ」
ミミズ(いつ決定的な亀裂が入ってもおかしくねえな……)
ミミズ「よし……俺が手伝ってみるか!」
ミミズ(ミミズは土を食って排泄することで、土壌をよりよい状態にすることができる)
ミミズ(まして俺ほど知能が発達し、土を知り尽くしたミミズがやれば、その効果は絶大ッ!)
ミミズ「うおおおおっ! 花咲けっ! 花咲けっ!」
ホリホリ… バクバク…
ミミズ「花咲けえええええええっ!!!」
ミミズ「ぜはー、ぜはー」
少女「あっ、芽が出てる!」
ミミズ「おお……よかったな」
少女「うん!」
ミミズ「このまま愛情持って育てていけば、きっとすぐ花が咲くさ」
少女「そうだね、がんばる!」
ミミズ(俺も頑張らねえと……)
父「おい、なんだよこの飯は! もっとちゃんとしたの作れよ!」
母「今日は忙しかったから……」
父「なにが忙しいだよ! 一日家にいるくせに!」
母「なによ! いつもいつも細かいことで文句つけて……」
少女「……」
少女(お花……早く咲いて……!)
少女「お花……」チラッ
ミミズ「咲けええええっ!」ホリホリ
ミミズ「咲けえええええええっ!」ズブズブ
少女(ミミズさん……手伝ってくれてたんだ……)
少女(ありがとう……!)
やがて――
少女「咲いたーっ!」
ミミズ「よかったな……」
少女「ミミズさん、ありがとう!」
ミミズ「俺はなにもしてねえって」
少女(ウソつき……意地っ張りなんだから)
父「ふざけるなよ! お前とはもう――」
母「ええ、私もうんざりだわ! あなたとはもう――」
少女「待って!」
父「! なんだ……お前か」
母「今は大人同士話し合いをしてるの。子供が入ってくる場じゃないのよ」
少女「お父さん、お母さん……はいこれ」
父「これは……花?」
少女「うん、ずっと育ててたの。二人にあげたくて」
父「え……」
母「そうだったの……?」
父「ふふっ……」
母「え?」
父「いや、こうして花をまじまじと見るなんていつぶりかなと思ってさ」
母「私も……」
父「それに我が子がこんな花を育ててくれてるなんて全然知らなかった」
母「私もよ。いつも庭で何してるのかとは思ってたけど……」
少女「あたし、二人に仲直りしてほしくて……」
父「ごめんな。お父さんとお母さん、喧嘩ばかりで」
母「ごめんなさい……」
少女「ううん、いいよ。でも……なんとか仲直りしてくれない?」
少女「お願い……」
父「……」
母「……」
父「うん、分かったよ……。すまん、もう一度……」
母「私こそ……」
ギュッ…
少女「よかった……」
ミミズ「あとは……夫婦ミミズいらずだ」
少女「うん!」
……
少女「あれからお父さんとお母さん、すっかり仲良くなって!」
ミミズ「あんだけ喧嘩してたのにな。反動ってのはホントにあるんだな」
少女「夜遅くまで、二人で起きてることもあるし」
ミミズ「もしかしたら、弟か妹ができるかもな」
少女「え、どうして?」
ミミズ「あ、いや……なんでもねえ」
少女「えー、教えてよ!」
ミミズ「大人ってのは色々あるんだよ!」
少女「これもミミズさんのおかげだよ」
ミミズ「俺は何もしてねえって」
少女「ううん、ミミズさんがいなきゃあたし……くじけてたかも」
少女「だから……はいこれ!」
ミミズ「これは?」
少女「お花! ミミズさんにもプレゼント!」
ミミズ「……」
少女「どしたの?」
ミミズ「危うく照れて干からびちまうところだったよ」
~おわり~