「私達、春から大学生だぜ」
「そうっすねー。じゃあ、別れる?」
「なんでだよ」
「レズって、色々とイキグルシそうだし。ほら、今までは女子校だったから抵抗なかったけどさ」
「お前は別れたいの?」
「いや、全然」
「なんじゃそりゃ」
私達はスターバックスのテラスにて、さらさらその気も無いクセに、ちょっとした別れ話の真似事をしていた。
後々の為の予行演習になるかもしれないなあ。と思いながら。
元スレ
女子校生「もうすぐ大学生」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1358944493/
「私は全然そんなつもりないんだけどさ、あんたはどう思ってるのかなって」
「別に、大学生になるからって、私とお前は何も変わんないだろ」
「そーやって言ってもらえると、うれしい」
「うれしい要素なんてあったか?」
「うーん、じゃあ安心、かな」
大学もなにも、結局は女子大。
今までとなんら変わらない筈だ。なにをそんなに、不安がることがあるのだろうか。
私がレズになって5年。こいつと付き合い始めてから、もうじき三年がたつ。
高校一年の春。同じクラス、隣の席。
自然に話すようになって、すぐに、お互いの事を「友達」として認識し始めた。
波長が合う、というのか。
一緒に登下校するようになるには、一週間とかからなかった。
夕暮れの帰り道にて、私は告白された。
「好きです」だとか「付き合ってください」とか、所謂、愛の告白っていうわけじゃない。
「私、レズなんだよねー。まじで」と私の顔を見ないまま、適当に、投げやりにそう言った。
ポロリと口をこぼすっていうのは、まさしくこういう事なんだろうなと思った。
なるほど、反りが合うわけだ。
なんの臆面もなく、余裕をぶっかましてそんなことを言うものだから
私もなんとなく「そういえば、私もレズだったぜ」と対抗してみた。
今思えば「そういえば」だなんてとんでもない。
あの頃は、生き物として間違っているのだろうか。欠陥品なのだろうか。
などと四六時中、暇さえあれば自問自答を繰り返していたのだから、一時でも、自分がレズであることを、忘れやしなかった。
だから、共通の欠陥のある仲間と、寄り添っていたかったのかもしれない。
「チョウチンアンコウの雄と雌みたく、出会いなんてそうそう無いだろうからさ、いっそ付き合っちゃおうよ」
そんな、目茶苦茶な口説き文句に応じてしまったのも、その所為だろう。
とにかく、私の事を分かってくれる奴と、一緒にいたかった。
広い世界に、自分の味方を見つけたような気がして、一瞬で好きになってしまった。
こういうのを、依存というのだろう。
数ある愛の形の中でも、最も歪んでいるものだと、噂には聞く。
我ながら低俗だと思ったけれど、この際そんなことはどうだっていい。
目の前に、一筋の光明が見えたのだ。
とりあえず、一人でうじうじと悩んでいるよりかは、ずっと都合がいい。
それから今まで、デートやセッ○ス。喧嘩と、普通の恋人同士がするようなことを、ほとんど一通りやってきた。
私もあくまでレズビアンとして、大人になっていった。
昔みたいに、どうでもいいことで思い悩んだりはしなくなった。
割り切った恋愛観だとか、人生観だとか、呼び方はどうだっていいが、そういうモノの見方をするようになった。
所詮、同性愛なんていうものは認められなくて当然である。
それは、有性生物としての基本的な価値観で、常に存在するものだ。
つまり、レズビアンである私たちにとって、恒久的な敵であって、水と油のように反発しあうものなのだ。
そんなものにいちいち反抗するのは、無駄な労力である。
だから私は、世間体という圧力を右から左へ聞き流すように、飄々と構えることにしている。
生物として間違っているということが必ずしも、致命的とはなりえない。
正しくあるということが、勝れているということでもない。
物事には優劣があるが、勝敗というのはどこまでも二次的で、時として敗北は、優れた結果を齎す。
つまり、正しい生命というのは、間違った生命が無価値なのと同じで、またそれも無価値なのである。
だから私たちは、なにも気にすることがない。
レズがどうこう言われたって「へいへい、そうですか。そりゃよござんしたね」と、適当に流してしまえばいい。
二人で、生きたいように生き、死にたいように死ねばいいのだ。
そうするために、大学ではルームシェアをして事実上同居するつもりでいる。
私を育てた家族だって、この一面では味方ではないのだ。
寄り添っていられるのはこいつだけ。
なら、そんな大概な生き方だって、許されるだろう。
「今更、不安がることなんてないだろ」
「ほら、世間体とかあるじゃん」
お前が言うか。と私は思った。
そもそも、私をそういうしがらみから解放してくれたのは、こいつ自身だ。
「私を助けてくれたのは、お前だろ?」
「だから、そうじゃないって」
「さっきも言ったろ。今までと変わらないって」
「ホントに、そうなのかな?」
「そうだよ。私達の障害になるものがあったって、私はお前のことを離したりしない」
「じゃあさ」
「うん」
「ここで、キスしてよ」
「人前だぞ?」
「人前だからだよ」
「なるほど、いいんだな?」
私達は見せ付けるようにキスをした。
おしまい