―会社―
男「……」カタカタ
後輩「先輩、ちょっと聞いたんスけど」
男「ん?」
後輩「先輩ってあの“小便小僧”だったんスか?」
男「なんでそれを……」
後輩「ギャハハハ、マジでそうなんスか! どうりでいつも小便がやたら長いと思った!」
後輩「先輩、一世を風靡してたッスもんね~!」
後輩「近所の家のボヤを小便で消し止めたなんて逸話もあったし! マジぱねぇッス!」
男「……!」
元スレ
男「だから俺はもう小便小僧じゃねえっつってんだろ!!!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1578314042/
男「さては、君が教えたのか?」
OL「はい」
男「なんで教えるんだよ! 内緒にしとけっていったのに!」
OL「いいじゃないですか、別に。減るもんじゃなし」
後輩「先輩、今も昔みたいにみんなの前で小便したりするんスか?」
男「するわけないだろ。俺はもう小便小僧じゃない」
後輩「いやいや、んなことないッスよ。先輩は永遠の小便小僧ッスよ~!」
男「だから俺はもう小便小僧じゃねえっつってんだろ!!!」
後輩「ちょっ、マジになんないで下さいよ~」
OL「男のヒステリーってこわ~い」
男(こいつら……!)
課長「君、ちょっと来なさい」
男「は、はい」ガタッ
課長「例の案件はどうなった?」
男「はい……。競合も入り込んできて、厳しい状況で……」
課長「君は小便小僧だけあって、小便はよく出るが、仕事では全然成果が出ないねえ」
後輩「ぶっ!」
OL「クスクス……」
男(くうう……!)
男(どうしてこうなったのかというと――)
男(俺は生まれつき、少し水を飲んだだけで大量の尿が出るという体質だった)
男(しかも健康的には全く異常はないのだ。脱水症状になったこともない)
男(子供の頃の俺はそれが面白くて、今思えば立派な軽犯罪なのだが)
男(水を飲んでは近所の広場や公園でみんなにロング立ち小便を披露していた)
男(そして、ついたあだ名が――≪小便小僧≫)
男(いつしか俺は地元名物となり、マスコミの取材を受けたことがきっかけで大ブレイク)
男(日本版・小便小僧は全国的に有名となった)
男(アザラシのタマちゃん、レッサーパンダの風太君などの系譜だ)
男(どこぞの番組の企画でやらされた、一度の放尿時間のギネス記録は現在も破られていない)
男(だが、思春期に入る頃には、そんな思い出はただの黒歴史になってしまう)
男(中学、高校に上がると、“小便小僧”は格好のイジリやイジメの材料になった)
男(いつしか俺は、自分があの小便小僧であるとバレないよう生活するようになった)
男(しかし、完全に隠し通すのは難しく、どこかの段階でバレて、こうしてバカにされてしまうのだ)
男(今いるこの会社でも……)
男(俺はふと思う)
男(本家の小便小僧だというジュリアン少年も、きっといじめられたのでは、と……)
―居酒屋―
カンパーイッ!
男「……」
後輩「あれ、先輩飲まないんスか?」
男「俺はあんまり酒が好きじゃないから……」
後輩「ンなこといって、酒飲むと小便大量に出るのが嫌なんでしょ?」
後輩「先輩は小便小僧なんだから、ガンガン飲んでどんどん出さないと~」トクトク…
男「だから小便小僧じゃねえって……」イライラ
課長「おい、小便小僧!」ウーイ…
男「!」
課長「せっかくだからビール瓶を股につけて、小便する格好で酒注いでくれ」
男「勘弁して下さいよ……なんでそんなこと……」
課長「いいからやれ! 仕事できないんだから、せめて飲みの場でぐらい芸見せてみろ!」
男「分かりましたよ……」
男「ビール注ぎます……」トクトク…
課長「ハハハハ、いいぞ!」
後輩「おもしれ~! 小便小僧の復活だ!」
OL「やだ~、きたな~い。キャハハハッ」
男(なんなんだろう、俺の人生……)トクトク…
―公衆トイレ―
男(あー……ビール飲むといつもこれだ)ジョボボボボ…
男(利尿作用のせいで、飲んだ量の何十倍も小便が出てくる)ジョボボボボ…
男(ったく、もう5分ぐらいになるぞ……)ジョボボボボボ…
酔っ払い「……」
酔っ払い「オイ!」
男「は、はいっ!」ジョボボボボボ…
酔っ払い「いつまで小便してんだよォ! さっきからずっと待ってんだぞ!」
男「す、すいません。まだ出終わらなくて……」ジョボボボボボ…
酔っ払い「あぁん!? いくらなんでも長すぎだろ!」
男「もうすぐ終わるんで……」ジョボボボボボ…
酔っ払い「ふざけんな! どけ!」ドンッ
男「わっ、危ないっ!」ジョボボボボボ…
ビチャッ
酔っ払い「てめえ、俺にかかったじゃねえかよォ! ふざけんなッ!」
男「ひいいいっ!」
男(中断して逃げるしかない!)タタタッ
酔っ払い「あっ、待ちやがれ!」
男「ふぅ、どうにかコンビニで用を足せた」
男「はぁ~……」
男(今日もみんなにバカにされ、飲み会ではネタにされ、酔っ払いに絡まれ……)
男(なんで俺はこんな体質に生まれちまったんだ……)
男(子供の頃はこの体質が誇らしかったけど、今はもう……)
ある日――
後輩「先輩、今度合コン行かないッスか?」
男「いや、俺はそういうの興味なくて……」
後輩「お願いしますよ~、男の数が足りなくて……。お願いしますよ、ね?」
男「分かったよ……行くよ」
後輩「さっすが先輩! 小便小僧!」
男「だからそう呼ぶのやめろ!」
ワイワイ…
男「……」
茶髪女「飲まないんですかぁ?」
男「う、うん」
茶髪女「えぇ~? せっかくの合コンなのに」
後輩「あ、その人そういう人だから、ほっといて俺らと飲も飲も!」
クラーイ ノリワルーイ アハハハハ…
男「はぁ……」
男(数合わせ要員で合コンなんて来るもんじゃねえな。金と時間の無駄だ……)
男「ふぅ……」
女「あのー」
男「は、はいっ!?」
女「さっきから大人しく飲んでますけど、どうされたんですか?」
男「あ、いや、あんまり酒が好きじゃなくて……」
女「そうなんですか。よかったら、お仕事の話を聞かせて頂けませんか?」
男「は、はい」
男(なんで俺なんかに……)
アハハハハ…
男「お互い大変だよね、社会人はさ」
女「ホントですね。学生時代が恋しくって」
後輩「じゃあそろそろお開きにしまーす!」
後輩「次はどうする? カラオケ行くぅ?」
イクイクー! モットノモー!
女「あのー……この後二人きりになりません? こういう会はどうも落ち着かなくて」ボソッ
男「……!」
男「うん、行こう!」
―屋台―
主人「はいよ、がんもどき」
女「私、こういうところの方が好きで」ハグハグ
男「まだ若いのに変わってるね」
女「やっぱり……変ですかね?」
男「いや違う! 褒め言葉だよ!」
男「チャラチャラしてなくて、とても魅力的だなって思ったんだ」
男(そもそも変わってるっていうなら、変な体質持ちの俺の方がよっぽど変わってるしな)
女「今日は楽しかったです」
男「俺もだよ」
女「また……会えませんか」
男「……ぜひ」
女「じゃあ連絡先を……」
男「お、お願いしますっ!」
…………
……
―会社―
後輩「先輩、連れションしません? ナマ小便小僧見せて下さいよ」ニヤニヤ
男「一人で行ってこい!」
OL「いくら体質だからって、トイレ多すぎですよ。さっきも電話かかってきたのにいなくて……」
男「ごめん……」
課長「いいか、今度こんなミスしたらホントに全裸で小便してもらうからな!」
男「申し訳ございません……!」ペコペコ
男(会社では辛いことばかり……)
だけど――
男「今日はどこに行く?」
女「おいしいもの食べたいなー、なーんて」
男「だったら蕎麦にしない? いいところ知ってるんだ」
女「あ、いいですね!」
男(この子と会ってる時だけは……救われる)
男(だから彼女には俺が小便小僧だと、絶対知られてはならない……!)
男(トイレもなるべく行かないようにして、気づかれる要素は排除する……!)
ある日――
男「やぁ、お待たせ」
女「今日はショッピングに付き合ってもらってもいいですか?」
男「いいとも。よかったら俺が金出すし」
女「そこまでお世話になれませんって」
アハハハハ… ハハハハ…
男(よし、順調だ……)
男(まだはっきり告白してなかったけど、今日こそ正式に交際を申し込もう!)
男「この辺り、今日は混んでるな~」
女「ホントですね」
男「はぐれないよう、しっかりくっついて」
女「はいっ!」ピトッ
男(おいおいマジかよ……最高なんだけど)
ザワザワ…
男「ん? なんだか騒がしいな」
女「どうしたんでしょうか?」
男「行ってみようか」
メラメラ… メラメラ… ゴォォォォ…
ザワザワ… ドヨドヨ…
「ビル火災だ!」 「ガス爆発らしい!」 「まだ人残ってんぞ!」
男「火事!?」
女「炎の勢いがすごいですね……」
男「これは……消防車を待つしか……」
「消火器持ってこい!」 「消防車は!?」 「通報したけど混んでるから……」
ザワザワ… ガヤガヤ…
男(一つだけ……この火事を消し止める方法がある)
男(だけど、これをやっちまったら俺は――)
「また燃え移ったぞ! カーテンだ!」 「ヤバイ!」 「水ないのか水ゥ!」
男(んなこといってる場合じゃねえ!)
男「……よし!」タタタッ
女「どうしたんですか!?」
―コンビニ―
店員「いらっしゃ……」
男「ほら、お金! 釣りいらない!」パサッ
男「水飲ませてくれ!」グビグビ
店員「ちょっ、お客さん!?」
男「……」グビグビグビグビグビ
グビグビグビグビグビグビグビグビ…
男(間に合ってくれ……!)グビグビグビグビグビ
男「ぷはぁっ! うぇっぷ……」
男(これだけ飲めば……大丈夫だろ)
男(頼むぜ……俺の腎臓! 早く尿にしてくれ!)
男「……」
男「――きたっ!」
男「チャック開けて……」ジーッ
ジョバァァァァァァァァァッ!!!
男「うおおおおおおっ!!!」
ジョバァァァァァァァァァッ!!!
「なんだあいつ!?」
「小便で……消火!?」
「すげええええええええ!!!」
女「……!」
ウー… ウー… カンカンカンカン…
男「消防車が来た……もう大丈夫だな」
ワイワイ… ガヤガヤ…
「あいつ、小便でほとんど火を消しやがった……」
「死人も出なかったってよ!」
「あれって、もしかして……小便小僧だった人じゃ……」
男「……」
男「ごめん……俺、小便小僧だったんだ」
女「……」
男「人前であんなことして……。ドン引きだよな、こんな男……」
女「いえ……とてもステキでした」
男「え?」
女「あの時と同じ……。私の家がボヤになった時、助けてくれた時と……」
男「あっ!」
男「君はあの家の子だったのか!」
女「そうです。あなたがいなければ、家はもっと燃えてたかもしれません」
女「さらにいうと、初恋の人はあなただったんです」
男「俺が……初恋……!?」
女「だからあの合コンであなたを見かけた時は本当にビックリして……」
男(そうか……この子は俺が小便小僧だと、最初から知ってたんだ……)
男「だったら俺も……君にいいたいことがある」
男「好きだ……付き合ってくれ!」
女「はいっ!」
オオッ…
野次馬「見ろ……。小便でできた虹が……二人を祝福してやがるぜ」
キラキラキラ…
……
―会社―
男「おい、連れション行かないか?」
後輩「へ?」
男「小便を先に出しきった方が、昼飯おごるってのはどうだ?」
後輩「えぇ~? そんなの俺勝ち目ないじゃないッスかぁ~!」
OL「彼……変わりましたね」
課長「ああ、自信がついて、まるで別人のようだ……。もう小便小僧などとからかえんな」
男「今日も一日お疲れ! カンパーイ!」
女「乾杯!」
カチンッ
男「……」グビッ
女「……」ゴクッ
男「おいしいね」
女「ええ」
男「……!」
男「……っと、ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」
女「どうぞ、ゆっくり行ってきて」ニコッ
男「ホントごめぇん! この体質は治りそうもないや!」タタタッ
かつての≪小便小僧≫は、今や立派な大人となっていた――
~おわり~