男「あち~、なんか飲みてえ……」
男「ん?」
50円 50円 50円 … …
男「あの自販機ずいぶん安いな! 100円でお釣り来るじゃん!」
男(あ、だけど工場の敷地内にあるのか……)
男(でもいいよな! ちょっと入るだけだし、売上に貢献するんだから!)スタスタ
男(100円入れて、と)チャリン
女「コラーッ!」
元スレ
男「工場の敷地内にある自販機安いな!」女「コラーッ!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1629451032/
男「(作業着の女が出てきた……)な、なんだよ?」
女「その自販機は、この工場に勤務してる人達のものだ。部外者は買っちゃダメだ」
男「別にいいじゃねえかよ、安いし」
女「ダメだ。不法侵入だ」
男「不法侵入って……たった数歩じゃないか」
女「数歩だろうが、がっつり入ろうが、侵入は侵入だ!」
男「ケチッ!」
女「ケチで結構!」
女「ほら、今入れたお金持って、とっとと帰れ」
男「どうしてもダメなの?」
女「ダメだ」
男「いいじゃん、一本ぐらい……」
女「ダメだ」
男「分かったよ……」スゴスゴ
男(って、こんな安い自販機、諦めきれるか!)
男(少し時間経ってから……)
男「よし、今なら買える!」ダッ
女「コラーッ!」
男「ひっ、また来た!」
女「ほらとっとと出てけ」
男「お願いしますよ。買わせて下さい!」
女「下手に出たって買わせないぞ。帰れ帰れ!」
男「くそ~~~~!」
次の日――
男(また来てしまった)
男(あそこまで拒絶されたら、どうしてもあそこで買いたくなる!)
男(今日こそ――)
男「……」キョロキョロ
男(よし、今ならみんな仕事してて誰もいない!)
男「今だっ!」ダッ
女「コラーッ!」
男「うわあっ!?」
女「昨日の敵は今日も敵……やっぱり来ると思ってたぞ」
男「ぐ……!」
女「ほら帰れ。回れ右」
男「その可愛い顔に免じて一本ぐらい買わせてよ~」
女「おだてたってダメだ。帰れ」
それから三日後――
男(二日空ければ、さすがにもう諦めたと思うだろう)
男(今日こそあの自販機で……!)
男「……」スタスタ
女「コラーッ!」
男「な、なんで……!」
女「時間を空ければ油断すると思ったのだろうが、浅はかすぎる。お前の考えなんてお見通しだ」
男「く、くそおおお……!」
ある日の夜――
男「……」コソコソ
男(黒タイツに身を包み、大泥棒になった気分だぜ。ルパンルパーン)
男(さすがに夜中ならあの女も工場にいないだろう……)ババッ
男(侵入成功……!)
男(あとは……自販機で買うだけ……!)
女「コラーッ!」
男「うぎゃああっ! な、なんでまだ残ってるんだよ……」
女「なんだその格好は」
男「これはその、ルパンみたいになりたくて……」
女「ルパンというかコナンの犯人だな」
男「うぐ……」
女「通報はしないでおいてやる。とっとと帰れ!」
男「あばよとっつぁ~ん!」
女「誰がとっつぁんだ!」
……
男「……」ザッ
女「来たな……」
男「今日こそ……買わせてもらうぜ」
女「来い」
男「……」サッ
女(懐に手を入れた! 飛び道具か!?)
男「……」ヒュッ
チャリンッ
女(こいつ、小銭を投げて直接投入口に入れた! なんて器用な奴だ!)
男「あとは……ボタンを押すだけェ!」ダッ
女「ちいっ!」
男「もらったァァァァァア!」
ボグッ!
男「ぐふっ!」
女「……」
男「なんて……ボディブロー、だ……」
女「工場では力仕事もあるからな……。これぐらいのパンチは打てる」
男「無念……」ドサッ…
女「だが……危なかった。腕を上げたな」ニコッ
……
ガサ…
女「この音、また来たか」
作業員A「ウチの自販機使いたいっていつもの兄ちゃんか?」
作業員B「あいつも懲りねえなぁ、アハハ」
作業員C「買わせてやればいいのに」
女「ダメだ。私にも意地があるからな」
女「行ってくる」
女「おい」
男「……」
女「今日の侵入はずいぶんお粗末だな。すぐ分かってしまったぞ」
男「……」
女「無視するな!」
男「……」
女「なにか喋ったらどうだ!?」ガシッ
男「……」ポロッ
女「え……?(首が落ちた……!)」
女「なんだこれ……偽物(ダミー)!? こんなもの作ったのか!」
男「かかったな!」ダッ
女「本物はあっちか!」
男(間に合うッ!)ダッ
女「だああああっ!」ガシッ
男「うぐあっ!」ドザッ…
女「はぁ、はぁ、はぁ、残念だったな」
男「うぐぐ……なんてタックルだ……」
女「工場で鍛えた足腰は伊達じゃない」
男「ダミー作戦もダメだったか……」
女「……」
男「負けたよ。完敗だ。もはや俺にあの自販機で飲み物を買う方法はない……」
女「一つだけある」
男「え?」
女「この工場の人間になればいいんだ」
男「なればいいって、お前にそんな権限……」
女「私は工場長の娘だ。ある程度経営も任されてる」
男「そうだったのか……!(どうりで夜にもいたわけだ……)」
男「だけど、なぜ俺なんかを……?」
女「お前の器用さ、粘り強さ、諦めない心。きっといい工員になれる」
女「どうだ、入らないか?」
男「……入る! 俺、あんたの力になりたい!」
…………
……
男「……」サッサッ
男「……」ガンッガンッ
作業員A「兄ちゃん、手先器用だな!」
男「ありがとうございます!」
作業員B「難しい作業でも諦めずやってくれるしよ!」
男「諦めの悪さが取り柄ですから!」
作業員C「これは頼もしい戦力が入ったもんだぜ!」
工場長「ほれ、給料だ」
男「ありがとうございます!」
工場長「今時手渡しで悪いが……」
男「いえいえ、風情がありますよ!」
女「おーい、給料もらったか?」
男「うん、今もらったよ!」
工場長「……近い将来、別のもんも君に渡すことになるかもしれねえな」
男「へ?」
工場長「いや、なんでもねえ」
女「給料でなに買うんだ?」
男「もちろん、この自販機で!」チャリンッ
男「……」グビッ
男「ぷはぁ~、やっぱりちゃんと工場の人間になって飲む缶ジュースはうまい!」
女「アハハ、よくいうよ」
男「なんならおごってやろうか?」
女「たかが50円でえらそうにいうな!」
アッハッハッハッハ…
やがて――
工場長「もうすっかりこの工場のNo.1だな。ほら、特別ボーナスだ」
男「いいんですか!?」
作業員A「いいっていいって! 兄ちゃんにゃ助けられっぱなしだ!」
作業員B「お前さんいなきゃ出来なかった仕事も多いしな」
作業員C「誰も贔屓とは思わねえ。堂々と受け取ってくれ」
男「ありがとうございます!」
女「……」
男「……」
女「お前が工場に入ってくれてよかった」
男「俺も……この工場に入ってよかった。誘ってくれてありがとう」
女「私はこのまま父から工場を継ぐだろう。どうだ……私と二人で工場を盛り立てていかないか?」
男「俺からもお願いする。結婚しよう」
ギュッ…
……
パチパチパチパチ…
司会「それではここで、お二人の馴れ初めをうかがいましょう」
司会「奥様との出会いはどのような形だったのでしょうか?」
男「えーと……出会い……どんなんだっけ」
女「ほら、工場の自販機を……」
男「――あ、そうだ。思い出した」
男「自販機にお金入れたら出てきました!」
おわり

