1 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/20(月) 23:33:14.82 z3041dTe0 1/36

ゴトン・・・ゴトトン・・・


「・・・男君ねぇ・・・」

「・・・」

「ついこの間まで、都会で暮らしたいと言ってたのは、どこの誰なのかしら」

「・・・それは」

「いや、もちろん気持はわかるけど」

「・・・」


「でもちょっと、未練もいい加減にしてほしいところよ」

「・・・」

「いいじゃないの、都会・・・しかも、こんなに大きな市場があるのよ?」


「まぁ馬車はうるさいけどぉ・・・いいじゃないの、山の暮らしよりも、断然」

「・・・」

「山にいた人たちの多くは、そのままこっちで暮らすらしいわよ」

「・・・」


ゴトン・・・ゴトトン・・・


「・・・うるせぇー」

「がまん」



元スレ
男「・・・早く山に帰りたい」
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1248100394/

3 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/20(月) 23:37:59.72 z3041dTe0 2/36

「っはー!まったくよぉ!息苦しくてたまんねぇーよ!」

「うるさいわよ」

「我慢しろ」

「それこそ我慢よ」

「あ」


「都会の息苦しさがなんだっていうのよぉ」

「ここにはちゃんと安定した水もある、食事だって」


「・・・」

「ちょっと都会人に冷たくされたくらいで、何すねてるのよ」

「あんなの気にしてねぇよ」

「嘘ねぇ、ずっとぐちぐち言ってたじゃない、“挨拶しても返事しねぇ”って」

「・・・」

「普通は見ず知らずの相手には話しかけないものなのよ」

「・・・う、うるさい、そんなの知ってる」

「どーだか?」


「・・・とにかく!」

「・・・俺は、早く山に帰りたい」


「・・・」

「・・・山に・・・やっぱりこの目で、見とかないと・・・駄目なんだよ」

「・・・」


「・・・私も」

「ん」


「・・・私だって、帰りたいわよ」


4 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/20(月) 23:43:09.83 z3041dTe0 3/36

「・・・なんだい」

「なんだい、お前だってホームシックじゃねーか」

「そ、そうに決まってるでしょ!」


「誰が、自分の実家が全焼したなんて・・・目で見てもいないのに、信じられるのよ」

「・・・まぁ」

「・・・ママからもらったブローチ・・・焦げ炭になってたらどうしよう・・・」

「(そーいう心配かよ)」


「・・・俺はよ」

「?」

「俺の、俺らのいた山にはよぉ、やっぱよ・・・故郷じゃん?色々さ、あったんだよ」

「・・・そんなの」

「くそつれぇ坂道とか、降らない雨とか、全部さ」

「わかってるわよぉ、私だって山は好きよ」


「なら」

「行くしかないだろ」

「・・・」

「いや、行くだけじゃねぇ、戻るんだ」

「ちょ・・・戻るって・・・」

「山の暮らしにだ、決まってるだろ」

「(・・・馬鹿・・・)」


5 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/20(月) 23:50:19.78 z3041dTe0 4/36

「ねえ、男君?あなたも見たわよねぇ?」

「何を」


「山が噴火して、頂から・・・ずっとずっと下にも火が降りて来たの」


「・・・ああ見たさ、見たよ」

「燃えるのも見たわよね?焦げくさい匂いも、蒸し暑い夜の風も」

「・・・見たさ、かいださ」


「ではこれは見たかしらぁ?“危険区域指定”の立て看板」

「・・・見たよ、見たに決まってんだろ」


「俺が一番にそれを見ただろうよ、噴火したその晩に山へ戻ろうとしたんだからな」

「・・・馬鹿・・・」

「・・・・馬鹿・・・?戻って何が悪かった」

「当然よ、悪いわよ、戻ったら焼け死ぬのよ?」


「その立て看板とロープで山への入り口が封鎖されていなかったらあなた、黒焦げだったのよ?」

「いいえ今だってそう、今だって、山は戻れる状況じゃない」

「・・・まだ山は封鎖されているし・・・また次にいつ噴火するかも・・・」


「だから!戻って何が悪いんだ!」

「死ぬからよっ!」

「ああ死ぬよ!いや死んだ方がよかったね!俺も一緒に死ねば良かった!」


6 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/20(月) 23:56:20.45 z3041dTe0 5/36

「“あいつ”は戻ったぜ・・・自分の命を顧みずに、頂から流れる火炎にも怯えずな」

「それが何よ、友君のことを“勇気がある”って褒めたたえたいの?尊敬しているの?死ぬと半分わかっていて、救助のために山に引き返した彼を?」

「そして、彼と比べてあなたは!自分に罪悪感を抱いているのでしょぅ?そうでしょ?」

「違う、俺は」

「考えなしに命を投げ出すことはただの蛮勇よ、男君、あなたは正しかった」

「正しいもんか、俺は間違っていた!」

「・・・あの時・・・噴火から、逃げようと・・・俺は」

あいつを見捨てた

9 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 00:02:02.11 /eOpB3bM0 6/36

その日の夜、静かな山で噴火が起きた。

被害を被ったのは小さな村だった。そう、俺らの村。

だか被害は小さくなんてない。山の肌が大きく焼けただれるほどの、そりゃあ酷いもんだった。

俺は真っ先に逃げようとしたが、俺と一緒にいた“友”は、急に走る方向を変えて、

“助けなくちゃ”と、山の方へと駆け出した。

俺はそこで奴を、あいつをとめることができたんだが、だけど、

「ごめん」 と、

あいつに、別れ際に言われて、それで、

俺は何も言えなくなって、それで、

それで、・・・

それだけだ。

俺と、そして俺と同じ学校の同級生だったこいつ、女・・・とまぁ、村人の大多数は避難することができたのだが、

・・・友は。


10 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 00:08:28.62 /eOpB3bM0 7/36

「いらっしゃい、いらっしゃい、美味しい洋ナシがあるよー」


「・・・っち、いつもいつも市場には洋ナシか・・・腹が下っちまうぜ」

「なら2個も買わなきゃいいじゃないの」

「・・・腹が減ってんだよ」

「あまのじゃく」

「っせ」


しゃもしゃも


「・・・っあー、空気最悪、帰りたい」

「だから、無理って言ってるじゃない」

「山の澄んだ空気を腹いっぱいに吸い込みたい、むしろ吸い込んで破裂しt」

「いい加減にしなさい」


「とにかく山は封鎖中なの」

「ん」

「封鎖が解かれるまでは・・・家も、友君の安否もまだ、駄目よ」

「・・・」トントントン

「貧乏ゆすりしないの」


「・・・封鎖が解かれるのっていつだよ?いつ?すぐ?」

「・・・」

「1年後とかだったら国王をぶっとばしてやる」

「王様は政治してないわよ」

「じゃあ将軍・・・あ、やっぱり国王で良いや」


「・・・くっそ・・・封鎖なんて・・・」

「・・・」


12 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 00:13:42.98 /eOpB3bM0 8/36

「あーあー日がたけえ」ゴロン


「あ、お魚!」

「何!?女、獲れ!」

「いや無理よ、河のあっちの方だもん、深いわ」

「泳げ!」

「自分で行きなさい」


「・・・」ゴロン

「・・・それでふて寝するのね」

「都会の河なんかつまらん」

「いいじゃない、すごく広いしきれい」

「どこがだ、整備されてる河なんてちっとも・・・」

「(今はしゃいでいたのはどこの誰よ・・・)」


「・・・はー・・・暇だな・・・」

「・・・そうねぇ」

「先生が腰打って寝込んでなけりゃ、今頃は授業してたんだけどなぁ」

「そうねぇ・・・」


13 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 00:20:59.30 /eOpB3bM0 9/36

「噴火の後、学校も開かれてないし・・・結局理学の授業も半端なところで終わっちゃったわよねぇ」

「(やべぇ、聞いてなかったからわかんねー)」

「せっかく応用に入ったんだから、もっと話を詳しくねぇ・・・」

「・・・」

「まぁ男君は授業のことなんて頭に入っていないだろうけど」

「てめぇ女、わざとか」


「・・・はー、思い出しちゃうと、私も山に戻りたくなるわぁ・・・」

「・・・だろ?」

「ええ・・・だって、友君がいて・・・あ」

「・・・もういねえよ」

「・・・」


「・・・あいつ、良い奴だったなぁ」

「・・・うん」

「川で水かけてやると“ひゃあっ”ってな」

「なにそれ初めて聞いた」

「うん・・・まぁ、そういう事が色々あったりな」

「・・・あぁ・・・友くぅん・・・」

「んのやろー、彼女と一緒に昇天しやがって・・・」


15 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 00:27:09.26 /eOpB3bM0 10/36

チャプチャプ


「つめたぁい」

「ねみー」

「こっちに来て顔でも洗いなさんな、目がさめるわぁ」

「やでぇ、汚い」

「都会の水とはいえそこまで・・・」

「女が今足つけてるし」

「よし、来なさい男、沈めてやるわ」


ナンダテメー ナニヨー


ザッザッ・・・


??「・・・」


バシャバシャ

「ちょ、顔は反則・・・」

「ルールなんてあってないようなもんよー!」


??「・・・見つけた」


「・・・ん?」

「・・・ん、どうした女・・・」

「あの人・・・」

「え?ああ・・・あのつばの広い帽子の人か?」

「こっち見てるけど・・・」

「・・・知り合いか?」

「・・・うーん・・・」


16 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 00:32:21.74 /eOpB3bM0 11/36

??「あまり抵抗してくれるな・・・?」


カチャッ


「!! ちょっとあれ・・・!」

「じゅ・・・銃か!?いやいや・・・嘘だろ・・・そんな偽物・・」


??「・・・」ザッザッ・・・


ガシャッ


「な、なななんかものすごくリアルなリロード音だけど」

「いや、冗談にきまってる・・・」


ザッザッザッザッ・・・


「あの人こっちに歩いてきてるけどぉ!」

「知るか!俺はあんな奴に恨まれるようなことなんて何も・・・!」


??「やっと追いつめた・・・!」


「あなた何かしたでしょぉー!?」

「してねぇえええ!」


??「一思いに・・・逝けッ!」


ドンッ・・・ッ・・・


18 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 00:37:30.86 /eOpB3bM0 12/36

「グルぁ・・ァ・・・」


「・・・・え・・・・」


ドシャッ・・・


「(背後にこんな大きな魔獣が・・・いつの間に・・・)」

「(うわぁ・・・死んでる・・・)」


??「ふー、いや、危なかった・・・あんたら、怪我は無かったか?」

「あ・・・どうも・・・(この人が仕留めてくれたのか)」

「あ、はい・・・怪我は何も」


??「つい最近の噴火の影響でね、山にいたこいつらも住処を追われたんだ」

「あ、なるほど・・・」

??「安心しな、都会じゃ普通はこんな、魔獣になんかは出会わない」


グッ


「! あ、・・・あなたってもしかして・・・」

「・・・お」


猟師「よっ」


「イチさん!」

「イチさま!」

猟師「いや・・・猟師で良いよ、猟師で」


19 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 00:43:28.05 /eOpB3bM0 13/36

ガッ、ガッ、


猟師「まー兼業猟師さ、普段は荷物関係の力仕事をしてる」ガッガッ

「へ、へー・・・」

「そ、そうなんですかぁ・・・」


猟師「山での暮らしの方が狩りも多かったけどね、でもこっちでの方が安定するかな」

「は、はぁ」

猟師「あんたらは学生だったよね?学校はどうなった?」ガッガッ

「あ、あの、先生が腰を悪くしちゃいまして・・・」

猟師「あー・・・あの先生は老いぼれだからな、しかし生きていたか、それなら良かったよ」ガッガッ


「・・・あのー・・・」

猟師「ん?」ガッガッ


「・・・それは・・・何を?」

猟師「解体だよ、決まってるだろ」ガッガッ

「(ちなまぐさい・・・)」


21 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 00:49:07.01 /eOpB3bM0 14/36

猟師「・・・へぇ、一応生活の補助はされているんだ」

「両親ともに仕事を失いましたからね、次の仕事を見つけるまで・・・ですが」

猟師「・・・なんだ、私も補助受ければよかったなぁ・・・自力で見つけた意味無かったな・・・」

「いや、あはは・・・」


「イチさんはこの近くに住んでいるんですかぁ?」

猟師「ん?あー・・・近く・・・っていうわけでもないかなぁ、微妙なところ」

「西側・・・?」

猟師「ああ、多分ね」

「(あ、じゃあ逆方向だ)」


「・・・噴火ではあまり死傷者は出なかったみたいです・・・聞いてますよね?」

猟師「そりゃね、三日三晩の新聞で見たよ」

「・・・じゃあ、誰が死んだかは?」

猟師「・・・誰」


「・・・」

「・・・」

猟師「・・・まさか」


22 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 00:53:52.06 /eOpB3bM0 15/36

猟師「・・・そうか、あのちびっ子が・・・」

「・・・」

「・・・」

猟師「・・・そっ、か・・・あの子がか・・・信じられないけど・・・」


猟師「・・・あんたら二人・・・ときたら、あの子も一緒だったからな・・・」

「・・・はい」

猟師「よくウチに遊びに来てくれたけど・・・そうか・・・」

「・・・」


「・・・あ!イチさん、暴れ木はどうなりました?」

猟師「え」

「イチさんの家の脇に植えてあるあの、昔よく友を吹っ飛ばしてた木です」

猟師「あ・・・あーあれ?あれは・・・」

「・・・やっぱり、噴火で・・・」

猟師「あーうん、うん」


猟師「・・・とにかく、そうか、友は死んじゃったのか・・・そりゃ、残念だ・・・」

「・・・はい」

猟師「・・・ナムアミダブツ・・・」

「・・・」


23 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 00:59:11.59 /eOpB3bM0 16/36

パチパチ・・・パチ・・・


猟師「まぁせっかく久々に村人に会えたんだ、バーベキューといこうじゃないか」


「(・・・イチさんって日頃あんなんなのかな)」

「(・・・俺が知るかよ)」


「・・・でもよかったよ、イチさんは前と変わってないんだな」

「・・・ふふ、そうねぇ、変わらずかっこいいわぁ」


「・・・でも、」

「ん」

「俺らや・・・みんなのほとんどは、変わっちまったよ」

「・・・」

「大人は都会の便利さにうっとり、子供は新しいものに釘付けだ」

「・・・そんなものじゃないの」

「・・・俺は、」

「山のが良かった?」

「・・・ああ、何度でも言ってやる」


「・・・お前だって、そうだろ」

「当然」

猟師「焼けたぞー」


25 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 01:05:12.33 /eOpB3bM0 17/36

猟師「まぁ都会の方が住みやすいさ、物流もしっかりしてるし、何より安全だ」


がつがつ


猟師「レンガならアリに柱を食われる心配もないし、魔獣も来ない・・・居心地は良いと思うよ」


がつがつ


猟師「誇りの持てる仕事は、そりゃ減ったけどね・・・でも私はここでの生き方も悪くは無いと思ってる」


がつがつ


猟師「ねえ聞いてる?」

「はひ」ガツガツ

「んぐぐぐ・・・(固い・・・)」


猟師「・・・どいつもこいつも食い意地張りやがって・・・ま、学校に行けなくとも生活には困らないだろうよ」

「・・・」ゴクン

「・・・」ガジガジ


「・・・イチさん、俺」

猟師「・・・ん?」

「・・・」


26 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 01:12:16.57 /eOpB3bM0 18/36

猟師「山に戻りたい」

「はい」

「・・・」


猟師「・・・そうか」

「・・・駄目ですかね、やっぱり」

猟師「・・・まだ登山は禁止されているんだろう?」

「う・・・はい・・・」

猟師「なら駄目だ、何が起こるかわかったもんじゃない」

「・・・」

「ほらみなさい」


猟師「山はただでさえ危険なんだ、それに噴火とあれば・・・」

「・・・でも俺、どうしても・・・」

猟師「アンタの両親だって、行きたがるアンタを“どうしても”行かせたくはないだろう」

「・・・」

猟師「両親には相談してみたか?なら、そんな反応が返ってきたはずだよ」


猟師「・・・故郷や友達を大切に思う気持ちはわかるよ」

猟師「私だって、あそこには沢山の思い出を残してきたからさ・・・わかるよ」

「・・・」

猟師「けど、そんなわがままはいけないな」

「・・・はい」

猟師「・・・友達思いなのは良いことだよ、うん・・・はは、友は素敵な親友を持ってたんだな」

「・・・ごめんなさい」

猟師「ん、いいんだよ」


27 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 01:20:52.10 /eOpB3bM0 19/36

カポッ


猟師「飲むか?緑茶でよければ」

「あ・・・いただきます」

「・・・」

猟師「そっちのアンタもどう?」

「良いんですか?」

猟師「遠慮すんな」


猟師「・・・はー、しかし、山か・・・懐かしいな・・・」

「・・・」

猟師「やっぱり自分の育った場所っていうのはね、良いよ・・・良かった」

「イチさんも、戻れたらな・・・とか、思うんですか?」

猟師「そりゃね」


猟師「まー、私ゃ独り身だったからな・・・寂しい暮らしではあったけどさ」

「え、イチさんって独身なんですか?」

猟師「いまさら何を」

「じ、実はわ、私もフリーでして・・・」

「諦めろ、性別の垣根は越えられない」


猟師「・・・そうか、山か・・・」


29 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 01:26:40.05 /eOpB3bM0 20/36

猟師「よし、じゃあ山に行くか」

「ん?」

「ん?」

猟師「まだ日は高い、それに夏だ、さあ急ごう、馬車に乗ればすぐだ」


「あのイチさんちょっと待ってください」

猟師「どうした」

「あの、イチさん、さっき山に登っちゃ駄目って・・・」

猟師「私は駄目とは言ってないぞ」

「(いやいやいや)」


「ちょっと・・・イチさん、山は危険って・・・!」

猟師「魔獣なら私に任せればいい、噴火の再発は・・・また、逃げれば良いさ(ニコッ」

「(イチさんカッコイイ!)」


「いや・・・いやいや、でも立て看板とか・・・」

猟師「そんなもの踏み倒しとくんだよ」

「(いやいやいや・・・)」

猟師「帰りたいんだろう?山の暮らしにさ、良いと思うよ」


猟師「・・・ただし」

「は、はい」

猟師「・・・いや、やっぱり良い、行こうか」

「・・・?」


30 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 01:31:27.67 /eOpB3bM0 21/36

山の女は山に似て気性が荒いというが、イチさんもその類なんだろう。

俺ら二人は半ば強引に安い馬車へと連れられて、しかしお金はイチさん持ちで。

懐かしの山行きの馬車は、緩やかに出発した。

イチさんは馬車の中で「危険の事は心配するな」とにこりと笑っていた。

女は背徳感と期待が入り混じる複雑な表情で、馬車の外の景色を眺めていた。

それにしてもなぜ商業用馬車なのだろう。

まるで俺らは荷物みたいだ。


ゴトン・・・ゴトトン・・・


31 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 01:36:38.91 /eOpB3bM0 22/36

猟師「案外早く着いたな」

「・・・まぁ、もともと街道に近い山ですし・・・」

「・・・山の見た目はあまり・・・変わってないけど・・・」

「あ、でもちょっと削れてる」

「え、本当?」


猟師「さて、さあ、早く登るぞ二人とも・・・もともと山の民だろう?なら暮れない内に急いで登るぞ」

「は、はい」

「はーい」


ザッザッザッザッザッザッ・・・


「(・・・本当にいいのかしら・・・山に入っちゃって・・・)」

「(・・・さあ・・・)」


「・・・でも」

「?」

「この土の感触さ・・・・」


「・・・なんかうれしい」

「・・・」


「・・・ええ」


33 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 01:43:05.45 /eOpB3bM0 23/36

ザッザッザッザッ・・・


「うわ、枝がひっかかる」

猟師「ナイフがあれば払ってやるんだけどな・・・くそぅ、手入れされてないからってこいつら調子に乗って・・・」

「やっぱり、いつもの山とは少し違うわねぇ・・・いたた」

猟師「そうさ、人がいてこそ人がいられる山、人がいなければ人の住める山じゃない」


猟師「足元を見ろ、獣の足跡は沢山ある・・・今まではこの近くにはいなかった小さな動物の痕跡だ」

「・・・本当だ」

猟師「人がいなければ生態系も変わる・・・生態系が変われば、山の表情もね」


猟師「・・・どこにでも言えることだけどさ」


ザッザッザッザッ・・・


「ちょ、ちょっとまってー、早いわよぉ・・・」

「急げ急げ、おいてかれるぞ」

「いたー、また枝がひっかかったー!」

猟師「休んでる暇はないぞ」


ザッザッザッザッ・・・・


34 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 01:49:18.59 /eOpB3bM0 24/36

「・・・」

「わぁ・・・」

猟師「ふー、やっと村への道についたな」


「・・・ひでぇ、これ、あの道か・・・」

「う・・・臭っ・・・」

猟師「さすがにもう熱は無いから、そんなにオドオド歩かなくても良いんじゃないか」


ザッザッザッザッ・・・


「・・・なんだか、怖いな」

「・・・えぇ・・・」

「木は半分枯れてる・・・この先・・・村に着いたら・・・」

「いや・・・なんだか、想像したくない」

「・・・ああ」

猟師「・・・」


猟師「・・・さ、早くいくぞ、ここでゆっくりしている暇は無い」


37 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 01:55:36.84 /eOpB3bM0 25/36

猟師「あーらら」


「・・・」


「・・・」


ザッ・・・ザッ・・・


猟師「・・・これが現実ってとこか」

「・・・そんな」

「・・・」


「・・・まるで墓場だ」

「・・・やだ・・・吐きそう」

猟師「驚くほど何もないな・・・木は黄土色に立ち枯れ、土は焦げ灰、草は無いときた」


猟師「・・・で?」

「・・・は、はい?」

猟師「アンタはどうするんだ」

「・・・俺・・・ですか」

猟師「ああ」


猟師「山の生活に戻りたい?」

「・・・」

「・・・男・・・」

猟師「これがそうだよ、自然ってやつ・・・山ってやつだ」


猟師「・・・私もこれは、初めての経験だったけどね、はは」


38 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 02:00:18.37 /eOpB3bM0 26/36

―噴火・・・!そんな、この山が噴火するなんて・・・!―


―ここは・・・危ない!男、逃げよう!―


「・・・・」


「男・・・」

ぽん


猟師「・・・」

「・・・イチさん」

猟師「アンタは自分の家の場所、わかる?自分の家に入る?」

「・・・私は・・・なんだか、怖いので・・・」


「今の、今のこの・・・家をみたら・・・なんだか、心が砕けちゃいそう」

猟師「・・・ああ、そうだな」


「・・・」


「(・・・友・・・)」


41 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 02:04:23.76 /eOpB3bM0 27/36

―急げ急げ急げ急げ急げー・・・一気に駆け下りるぞ!―


―! おい!何立ち止まってるんだよぉ!―


「(・・・)」

「(あの時、無理やりにでも俺が、)」

「(あいつの腕を掴んだりして、そんで引っ張っていけば・・・)」


―ばっ・・・!小屋なんてもうとっくに通りすぎちまっただろうが!―


―行かないと・・・!あの子が死んじゃう・・・!―


「(・・・馬鹿野郎・・・)」


―・・・うう・・・お、男ぉ・・・―

―うう・・・ごめん―


―ばっ・・・かやろ・・・!―


―く・・そ、くそ!先に行ってるぞ!?―


「~・・・!!!」


42 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 02:08:46.38 /eOpB3bM0 28/36

猟師「ほら、力抜け、唇を食う気か?」

「・・・あ」


猟師「そろそろ暮れる、夕日になる前に降りてしまおう」

「・・・」

猟師「・・・やれやれ」


ぽん


猟師「どうした?」

「・・・イチさん・・・俺は」


「・・・もしも、もしもですよ」

猟師「・・・ああ」

「もしも女がここに残るって言って・・・夜の暗くなる寸前のこの村に、残ったとします」

「わ、私は残らない」

「わかってる」

猟師「ふむ・・・それで?」


「・・・そうして、俺は・・・そうなったら、女を止めるべきなんでしょうか」


43 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 02:14:11.85 /eOpB3bM0 29/36

「・・・」

猟師「止めるべき・・・っていうのは」

「あの、つまり・・・“夜のここはあぶないから”って、女を引きとめたり・・・」

猟師「ああ、そういうこと」

「・・・」


猟師「・・・さあ、どっちでも良いんじゃないかな?」

「え」

猟師「山の日はすぐに暮れる・・・傾き行けば、気もはやる・・・そんな中で冷静な答えを出すのは難しい」


猟師「人はパニクると正常な判断ができなくなるからな、自分の身を守るためだけに動いても、助けに行ってもどっちでも良いと思う」

「ちゃんと引きとめるんでしょうね、男」

「あ、ああ・・・」


猟師「・・・そう」


猟師「今は、ちゃんと引きとめる人がいてくれる」

「・・・」

「・・・」

猟師「・・・今はね、今だけのことだ・・・いや、今のことだけ考えれば良い」


猟師「・・・ふふ、難しい話は私には合わないなぁ・・・さあ、山を降りよう」

「・・・はい」

「・・はい」


45 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 02:18:24.03 /eOpB3bM0 30/36

ザッザッザッザッ・・・


「・・・」

猟師「まー数年、十年かすれば山も形を取り戻すだろう」

「本当ですか?」

猟師「ああ、たぶんね・・・そうなればまた、人も住み着くようにはなるだろう」

「・・・そうかぁ・・・」

猟師「その時に戻るかどうかは、まー今は考えなくても良いんじゃないかな」

「どうしようかなぁ・・・」


ザッザッザッザッ・・・


「・・・」

ザッ


「・・・?男・・・?」

猟師「・・・どうした」


「・・・!」


くるっ ダッダッダッダッダッ!!


「ちょ・・・!あなた村に戻るつもり!?」


「・・・!」ダッダッダッ・・・


猟師「・・・いや・・・」


46 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 02:22:25.05 /eOpB3bM0 31/36

ダッダッダッダッダッ・・・


「はっ・・・はっ・・・!」

「くそっ・・・登りはつれぇなぁっ・・・!」


ダッダッダッダッ・・・


「はっ・・はあっ・・・!でも俺は・・・はっ・・・!」


ダッダッダッダッ・・・


「友ぉ・・・!ヒョロヒョロなお前なんかより早く登れる・・・早く、追いついてやれるんだぜ・・・・!」


ザザッ


「あ、止まった・・・」

猟師「・・・」

「・・・?何か・・・掴むそぶりをしてるけど・・・」

猟師「・・・ふふ」


猟師「捕まえたんじゃないか?」

「え?」

猟師「さあ行こう、暮れたら危ない、手を引いてやる人は、一人はいなくてはね」

「え?え?イチさん、何を捕まえたんですか?男は何も掴んでませんよ?」

猟師「どうかな」


48 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 02:26:58.13 /eOpB3bM0 32/36

陽は暮れそうだ

今にも、まるであの日のように赤く燃えそうだ

あの夕焼けを見ると俺の胸は苦しくなる

噴火の日の焦げくささにも、あの時の焦燥感にも似ている

だから俺はあの太陽から、あの噴火と同じように、そう、逃げるように走り始めた

女は俺に「どうしたの?」と心配そうにいってくれた


・・・そうか

手を引いてくれる人、か・・・

・・・

さて、俺らの都会に戻ろうか

新しい生活が待ってるぜ


「(・・・じゃあな、友・・・いつか、またちゃんと来るよ)」


49 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 02:31:29.84 /eOpB3bM0 33/36

チャプチャプ・・・


「・・・ふぁぁ・・・良い陽気・・・」

「・・・あらぁ、お魚・・・足元に・・・」


「(・・・獲れるかな・・・)」


「・・・えいやぁ!」


ドッパン


「・・・」ビショビショ


「おーい、女ー」

「・・・あ、お、男・・・」

「・・・どうしたんだ、随分と楽しそうだが」

「黙りなさいな」


「・・・って、え・・・?」

「ん?」

「・・・なによ、その格好・・・」

「ああ・・・これか?」


「俺はもう19だしな・・・そろそろ仕事をってことで、レンガ工を始めたのよ」

「へぇえ・・・仕事、見つけたのね」

「へへ、まあな」


50 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 02:35:27.70 /eOpB3bM0 34/36

チャプチャプ


「私もそろそろ仕事始めないといけないわぁ」

「お前はまだ17だろ?まだまだ大丈夫だよ・・・それこそ先生が治ったら、復学すりゃいい」

「でも、なんだか負けた気分」

「どういう意味だ」

「さぁねぇ~」


「・・・まー、あの老いぼれ先生もだ、腰が治って早々、生徒が0人ってのも切ないじゃねえか」

「・・・それもそうね」


「決めた、復学する」

「そうしとけ、お前は俺と違って頭が良い」

「そうね」

「・・・」


「・・・女、俺さ」

「ん?」

「都会で暮らすわ」

「何をいまさら」


51 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 02:39:35.53 /eOpB3bM0 35/36

良く見たら空は高い。


良く見たら水は澄んでいる。


良く見たら緑は多い。


良く見たら人の表情は明るい。


良く見たら、良いところなんて沢山あるもんだ。


ほら、こんな身近なところにも。


「・・・ねえ、聞いてるぅ?」

「ん、あ、ああなんだ」

「あの魚、どうにかして獲れない?」

「・・・んー、どうだろうな」


「・・・ずぶ濡れになってでも獲りに行くってのも・・・悪くはないかもな」


   おわり


54 : 1 ◆1pwI6k86kA - 2009/07/21(火) 02:43:39.98 dkJD+k4gO 36/36

ビバ夏休みと言う他無い


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