1 : 名無しさ... - 19/11/24 02:19:29 pxq 1/31

腹ペコシスターを餌付けするシリーズ、5作目です。今回は少し早いですが冬をイメージして書きました。
保奈美ちゃんSSRやばすぎでしょ…ワイド劇場も面白かったし可愛かった……ということでお腹空かせてみました。
意味わからんこと言ってる自覚ありますが趣味全開ってやつです。
よろしければぜひ。よろしくお願いします。

元スレ
【モバマスss】腹ペコシスターの今日の一品;カップスープ・リゾット
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1574529569/

2 : 名無しさ... - 19/11/24 02:20:05 pxq 2/31

【オードブル:旅の終わりにご褒美を】


 
 空は少しばかり暗く。肺に吸い込まれる空気は一段と冷える。
 紅葉の時期はゆるやかに去り、別れの季節が靴を履く。だがドアに手をかけたところで躊躇いがちにその手を引っ込めたらしい。きっと彼女自身、まだ早い、まだ早いなんて思っていたんじゃないのだろうか。

3 : 名無しさ... - 19/11/24 02:20:18 pxq 3/31

翻って我が身を省みよう。

 今日は燃えるゴミを出そうと思っていつも以上に早起きをしたのだ。たまったゴミ袋を二つ両手に抱えると、朝の冷気が両の手の指を刺す。出来る限り素早く終えようと決意して階段を駆け下りる。
 ゴミ捨て場に着くと、意外なことに一番乗りだったらしい。いや、そんなバカなことはあるまい。二つ隣の部屋に住んでいる大学生くらいの女性は前日の夜にゴミ出しをすることを俺は知っている。
 なぜそんなことを知っているか? いやたしかに、少し変態っぽい発言になってしまったが、もちろん俺は変態ではない。それはショッキングピンクの髪型で妙に整った顔立ちをしていたこと彼女が前日にゴミ捨てをする姿を目撃してしまったからだ。
 まぁ、そんなことはいいじゃないか。
 しかしそれにしても一つもゴミ袋がないというのは変だ。時間は6時を少し回ったところだが、それでも世界はすでに動き始めているのだから。時間を確認しようにも携帯なぞ持ってきていない。仕方がなく、通りを挟んだ先にあるコンビニで日にちを確認することにした。

4 : 名無しさ... - 19/11/24 02:20:38 pxq 4/31

 結果は、想像の通りである。

「マジかー……来週まで待たないとだな……」
 そう、今日は土曜日。学生と多くの社会人にとって、ようやく訪れた週末。無論俺のような業種に休みはないのだが、しかしそれでも仕事量は格段に減る。日にち感覚をずらす原因となった三徹などという忌まわしい行為とは無縁な1日である。

5 : 名無しさ... - 19/11/24 02:20:59 pxq 5/31

 空を見上げると、こんな時間だというのに飛行機が飛んでいるのが見えた。あの飛行機はどんな夜を超えてきたのだろうか。それとも朝を超えていくのだろうか。しかし、たった今思い出した予定が感傷に浸らせる暇もなく俺を突き動かす。

「……っ!? …ってことは、じゃあ……! ヤバい、こんなことしてる場合じゃなかった…!」

6 : 名無しさ... - 19/11/24 02:21:15 pxq 6/31

 ゴミ袋を抱えて駆け足で部屋にもどる。ゴミ袋を玄関先に投げるや否や俺はシャワーをつけ、冷蔵庫に備えてあった十秒メシを飲み干す。シャワーのお湯が暖まり切る前にスーツ一式を用意し、歯ブラシを持ちながら浴室のドアを勢いよく開ける。

 シャワーの温度が高く感じる。温度設定はこれまでと変わらないというのに。指先から背中の奥まで気を溜め込んだ後、顔に思い切りお湯を浴び、ぷはぁと一息、熱を吐く。エントロピーの変化と共に、季節の変化をも同時に感じる。
 

 ああ、今年も冬が聞こえる。


 急いでシャワーを切り上げる。そのあとは少しばかり丁寧に、でも急ぎつつ。『それ』を小ぶりなクーラーボックスに詰めたら、身支度も粗雑に車を走らせる。

 行き先は、空の玄関。目的は……約束と、サプライズのため。

7 : 名無しさ... - 19/11/24 02:21:41 pxq 7/31



「……あ! あれ、プロデューサーじゃないかしら? おーい、こっち、こっち!」
「す、すまん保奈美、クラリスさん、ちょっと遅れました……」
「い、いえ……私たちも今手荷物を受け取って出てきたところですから……」
「どうしたの? 昨日急に『帰国したら二人で待っていてくれ』なんて。しかもずいぶん急いでいるみたいだし……私たちこれから朝ごはんでも食べようかなと話していたのだけど……」

8 : 名無しさ... - 19/11/24 02:21:51 pxq 8/31


「保奈美! お前が欲しがってた宝塚の記念講演、チケットが取れた! しかも最前列だ!」

9 : 名無しさ... - 19/11/24 02:22:03 pxq 9/31

「……え、え、えええええっっ!?!? あのプレミア講演の!? ど、どうやって……っていうか! それ今日の11時からじゃないの!?!?」
「そうだ! だから意外というか全然時間がない! 早く車に乗り込んでくれ! さあ、クラリスさんも!」
「え、え、私もですか!?」
「もちろんです。チケットは4枚とってありますから…! 会場で黒川さんと合流する予定なんで、とにかく今はこちらに! すいません急がせてしまって!」
「え、は、はい……とにかくプロデューサーさんの車に乗り込めばよろしいのですね?」
「その通りです流石素晴らしい愛してる! 」
「あ、愛してるなんて……ぁ、でも朝ごはん……」
「そうだと思いまして、おにぎりを作ってあります。 量は少し物足りないかもしれませんが、味に関しては申し分ないはずです! ささ、急ぎましょう!」

「何から何まで至れり尽くせりね……ありがとうプロデューサー! 海外ロケ後の素晴らしいご褒美、ありがたく受け取るわ! ああ、楽しみ、楽しみだわ! 胸がはちきれそう!」

10 : 名無しさ... - 19/11/24 02:22:17 pxq 10/31

 俺たちは弾丸のように空港を走り抜け、車に乗り込む。クラリスさんと保奈美を後部座席に座らせ、助手席に置いてあったクーラーボックスを手渡す。その中には10個の丸々としたおにぎりが鎮座していた。
「あくまで安全運転だけど、少し急ぐぞ……!」
 なんて。漫画みたいなシチュエーションに一人興奮しながら、昔言いたかったセリフを口にしてしまう。その俺の後ろでは清楚を形にしたような二人の売り出し中のアイドルが慎ましく淑やかに女子会をしていた。

「ああ、プロデューサーさんのおにぎり、とても美味しい……先程はダイスチーズと生ハムを散らしたもの、これは打って変わって塩昆布……美味しい、美味しいです!」
「ク、クラリスさんすごいスピードね……でも、これ本当に美味しい……私も2つ目を……え、クラリスさんもう4つ目!?」

 ……もとい。食欲は清楚に勝るようだ。……いや、違うか。これも含めてやっぱり彼女は……清楚、なのだろう。きっと。

11 : 名無しさ... - 19/11/24 02:22:33 pxq 11/31




「…………………………ヤバい…………………………」

「語彙力」


「…………………………ヤバい…………………………」

12 : 名無しさ... - 19/11/24 02:22:51 pxq 12/31

「おー、こんな保奈美初めて見たな。」
「仕方ないと思うわ。私も何回か見させてもらっているけど、今日の講演は特に凄かったもの。鬼気迫る物というか……迫力を感じたわね。」
「私も、感動いたしました……伸びやかな歌声、細やかに変わる表情、そして一つ一つがキレのある動き……アイドルとして様々なお仕事をさせていただいていますが、一つの極地を見たような気もします。」
「ああ、確かにアイドルのお仕事に活かせる部分もあるかもしれませんね。……いや、これは俺にとってもいい発見でした。黒川さん、本当にありがとうございます。」
「いいえ。私も知り合いから譲ってもらっただけだから。保奈美さんと以前、舞台の話をしたことがあるのよ。それでいい機会だったから、ね……」


「…………………………ヤバい…………………………」

「おーい戻ってこい保奈美ー。」
「……はっ!? こ、ここはどこ!? あれは夢!?」
「お帰り保奈美、ここは昼食兼お休みどころの喫茶店だ。そしておそらく夢ではない。」
「保奈美さん、前後不覚になるくらい、本当に感動していらっしゃったんですね……」
「………よかった………本当によかったわ……そ、そうだわ千秋さん! あの、本当に、本当に、ありがとうございます! プロデューサーも!クラリスさんも! ああ、こんな幸せな1日、きっと私、いつまでも忘れないわ! 」
「……そりゃあよかった。」
「そんなに喜んでもらえたらこちらまで嬉しくなるわね。」
「わ、私は特に何かをさせていただいたわけではないのですが……しかし、保奈美さんのその純粋な心に敬意を。神に、感謝します。」

13 : 名無しさ... - 19/11/24 02:23:05 pxq 13/31

 ……シスターがシスターらしく振る舞っているところは、何回見ても、こう、何というか。心がむず痒くなるというか、少し照れ臭いというか。何でかよくわからないが、少し心が暖かくなるような気がする。

14 : 名無しさ... - 19/11/24 02:23:22 pxq 14/31

「……それで、この後の予定は何かあるの? 私は今日一日オフだけど……」
「あ、私たちは海外ロケのお土産を置きに事務所に戻ってから帰りたいと思います。」
「私も同じですが、近々開かれるバザーのために、少しビーズ細工などを作りたく、その材料などを揃えられたらと……少し時間がありましたら、雑貨屋などに寄ってから事務所に戻りたいのですが……」
「ああ、俺は今日オフにしましたから、大丈夫です。保奈美は?」
「私も大丈夫です。」
「そう。なら、保奈美さん。少し人生相談というか……そういうものに乗ってもらいたいのだけど……」

「人生相談!?」

 しまった。今日一の大きい声が出てしまった。ごめんなさい黒川さん、そんな睨まないでください。

15 : 名無しさ... - 19/11/24 02:23:37 pxq 15/31

「は、はい……それは構いませんが……私でよろしいんですか?」
「その、あなたが一番歳が近いから……しょ、小学生って、何をしたら喜ぶのかしら……」

 黒川さんの爆弾発言が飛び出し、場の空気は外よりも寒々と感じる。目をぐるぐると回してまだ頭が追いついていない保奈美と先程と比べ少し雰囲気が強張ったシスターを真横に感じ、真意を問うのはやはり俺ということになる。

「黒川さん、ヤバいことに足突っ込んでません?」

「ち、違うわよ! やましいことなんてないわ! そうじゃなくて、佐城さん! 最近佐城さんと一緒のお仕事になることが多いのだけど、どうすればもっと仲良くなれるかなと……」
「そ、そういうことですか……でも、だったら小学生組を担当してるプロデューサーだったり、シスターとして子供に関わっているクラリスさんの方が適役かと……」
「い、言われてみれば確かに……なんで気づかなかったのかしら……!」

 ……黒川さんって、ちょっと抜けてるところがあるのかもしれないな。

「だったら、みんなでこのあと少しショッピングモールをぶらつくなんて、どうかな? 歩いてた方が色んなアイディアが出るかもだし、そこに雑貨屋さんもあったはずだし。」
「そ、そうね……! 3人とも、もし良ければ私に力を貸して欲しいわ……!」
「はい、もちろんです。」
「私などで良ければ、お力添えいたします。」

 あ。シスターの強張った空気が緩まったな。じゃあ、決まりだ。

「適当に、ぶらつこうか。」

16 : 名無しさ... - 19/11/24 02:23:54 pxq 16/31



 さて。長いショッピングを終え、時計は17時を回ったところだ。

「ありがとう、相談に乗ってくれて……! 私、頑張るから……頑張るから!!!」

 ……などと。真っ赤な顔に達成感溢れる表情を浮かべた黒川さんは、迎えの車に乗ってもまだ俺たちに手を振りながら帰宅の途についた。よっぽど満足したのだろうか、声の調子はいつもよりだいぶ高いように思えた(保奈美に聞いたら半オクターブ高かったらしい)。

「さて、俺たちも行きますか。」
「うん。プロデューサー、車のキー貸して。最初に荷物置いてくる。」
「ん。落とさないようにな。」
「うん!」

 今日のショッピングで意外だったのは保奈美の年相応の振る舞いだ。こんなことを言うと失礼かもしれないが、普段の保奈美は実年齢以上に大人びていると言うか、16歳と言う年齢以上の深みを感じさせる立ち振る舞いを見せている。
 しかし今日の保奈美は年相応というか、もしかしたら、それ以上に子供らしい一面を見せてくれた気がする。保奈美がアイドルになってからずっと担当を任されているが、こんなに無邪気に笑う彼女の顔を見たのは今日が初めてだった。
 買ったばかりのぬいぐるみを抱きしめ。少し高く、興奮した声で笑い。俺たちの袖を引っ張りながら店の中に突撃していく。
 そんな彼女の姿を見て微笑ましくならない人間がいようか。無粋であるがあえて答えを述べよう。いや、いない、と。

17 : 名無しさ... - 19/11/24 02:24:26 pxq 17/31

 そんな彼女の後ろ姿をゆっくり見守る最中、シスターがおずおずと話しかけてきた。

「あの、プロデューサーさん。これらの品物、本当にいただいてしまってよろしいのでしょうか…?」
「ええ、もちろん。クラリスさんはロケ中でも保奈美の面倒をよく見てくれたって聞いてますから、会社としても、そのお礼です。」
「それは……私としては、なすべきことをなしただけなのですが……」
「……そうだとしても、それが、ありがたかったんです。その、お礼だと思ってくれれば。……俺からも。」

 今回のロケは、他のアイドルの仕事との兼ね合いもあり、付いていくことができなかったのである。
 本当は男である俺が付いていた方が保奈美も(そしてご両親も)安心しただろうが、本当に申し訳ないことをした。そして保護者の役割を、自分にも仕事があるにもかかわらず買って出てくれたのがシスターだった。
 彼女はいつもそれが当たり前であるかのように振る舞う。さも当然のように、それがあって然るべきであるかのように。
 でも違う。彼女のその優しさは有り難いもので、だからこそ───ありがたいものだ。それに無批判に甘えてはいけない。でも、それを戒めとして彼女に接するのも、きっと彼女は望まないだろう。
 だから、ごめんなさい、ではなく。ありがとうと言って、彼女に手渡したい。
 わかっている。それが俺に都合の良いエゴであることは。
 
 でも、それでも。

 そんな俺の浅ましい思いつきすら、「私こそ」といって喜んでくれる彼女が、どうしようもなく───どうしようもなく。

18 : 名無しさ... - 19/11/24 02:24:40 pxq 18/31

「クラリスさん───」

 ──────待て。何をいうつもりだ。わからない。俺が次に何という言葉を発するか、俺自身がわからない。待て、待て、落ち着け。

 日が沈み、駐車場の電灯がまばらにつき始める。白く丸い光が等間隔に並び、しかしそれは闇の配分からすれば僅かなものだ。
 
 風は凪ぐ。
 そう。凪いでいるのに、君の髪がふわりと揺れる。
 
 鼓動が早い。心臓が痛い。巡る血が熱いことが自分でわかる。

「俺は───」

19 : 名無しさ... - 19/11/24 02:24:51 pxq 19/31

 グゥ~~~…………

20 : 名無しさ... - 19/11/24 02:25:03 pxq 20/31

 ……君の顔は夜に紛れて見えない。だけど、見えなくても君がどんな顔をしているかはわかるよ。笑っちゃいけないんだろうけど、口の端から息とともに笑いが溢れる。

「───さ、行きましょう。今日は、あったかいものを作るつもりです。」

 彼女の手を取り、車まで早足で向かう。保奈美が遅れてきた俺たちを見ると、少し驚いたような顔のあとに、優しく微笑んで。でもそのすぐ後に、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

21 : 名無しさ... - 19/11/24 02:25:15 pxq 21/31

【今日の一品:カップスープ・リゾット】


 
 さて、今日はしっかり食べられて体もあったまるリゾットを作ろう。シスターがまた腹の虫を鳴らさないように、素早く作らないとな。保奈美も食べてみたいとねだるもんだから、二人分を一気に作ってしまおうか。

22 : 名無しさ... - 19/11/24 02:25:29 pxq 22/31

 ────ベーコンを2枚を細切りに。玉ねぎを1/2個を微塵切りにする。これをオリーブオイル小さじ1で炒める。……ここもあまり時間をかけたくなければ、玉ねぎも小さくぶつ切りで十分だ。

 ────炒め終わったら、そのままタッパーなどの耐熱容器に入れる。ここからはタッパーを二つ用意して、一つ分ずつ調理しよう。一つの容器あたりオリーブオイル小さじ1、牛乳(豆乳でも良いかもしれない)大さじ1、水大さじ5を入れ、コンソメを小さじ1/2程入れる。
 ……ここも場合によっては牛乳(豆乳)を水で置き換えても良いし、コンソメの代わりに塩でも良い。今日は少し濃厚に、こってり目に味付けをしよう。ちなみに最高に罪深い作り方として、ここにとろけるスライスチーズを一枚、ちぎって入れるという禁断の技もある。

 ────タッパー1つあたり、500Wで4分温める。温め終わったら取りだし具材を少し混ぜ、熱を具材に均一に通す。


 ────そこにご飯をタッパー1つあたりお茶碗一杯(200g弱)いれる。さて、ここが今回の料理のポイント。お湯で作るカップスープを1袋全部ご飯と一緒に混ぜるのだ。カップスープの種類は何でも良いが、ここではコーンポタージュを使おう。

 ────これらを混ぜたら、最後にオリーブオイルを小さじ1程垂らし、好みで粉チーズ、タバスコで味付けする。

 さぁ、出来上がりだ。身も心も温まる、カップスープ・リゾット。

23 : 名無しさ... - 19/11/24 02:25:48 pxq 23/31



「ほら、二人とも、できたよ。おいで。」

「わぁぁ……本当にレストランのリゾットみたい!」

「立ち香る濃厚な匂い…ああ、私、私!はぅぅ……はしたなきことではありますが、私、もう……!」

「うん、二人とも、あったかいうちに早く食べな。さぁ、どうぞ。」

「う、うん………ん、んんーーーーーーーーー!!!! なにこれ、すっごい濃厚!」

「一口…それだけで口いっぱいに広がる甘み…! そして弾けるバターの香り…! カップスープがお米と絡まることでとろとろのソースになったかのよう……! ああ…こんな!こんな!」


 ……えらい饒舌だな。まぁ、そうか。彼女たちはこの数日間、『本場』のリゾットの味を堪能してきたわけだからな。こんな簡単に、深みのある味を再現できるなんて、驚きだろう?
 
 君たちが笑って食事をする姿に、なぜか俺も救われた気がするよ。……よし、俺の分もできた。それじゃあ……


 ────いただきます。

24 : 名無しさ... - 19/11/24 02:26:03 pxq 24/31

【デザート:それだけしか】



 白く舞い散る粉雪の季節を目前に控え、早々にショッピングモールは赤と緑でラッピングされている。ついこないだまではカボチャのお化けが席巻していたというのに、世の移り変わりというものは早い物だ。

 移ろう物。変わる物。相対的な物。
 対して移ろわざる物、変わらない物。絶対的な物。
 
 これは俺の偏見だが、俺の感覚では後者の方によりに価値を見出す人が多いように思う。

 もちろん俺もその一人だ。変わらない何かを求めて、走っていたこともある。
 でも最近は、それだけが全てではないと気づいた。……気づかせてくれた人がいた。
 
 だって、そうじゃないか。シスターなのに腹ペコって何だよ。いつもご飯ねだってくるって、退魔って(これは本当にわからない)、美味しそうに口いっぱいにご飯を頬張るって何だよ。
 おかしいじゃないか。なにがおかしいかなんてわからないけど、でもやっぱりおかしいじゃないか。

 どうしてだろうか、君のコロコロ変わる表情が、いつからか頭から離れなくなった。
 どうしてだろうか、君に色んなご飯を作る毎日が、こんなにも楽しいと思えるようになった。
 
 そうして俺たちの毎日は回る。ゆるり、ゆるりと。くるり、くるりと。

 そんな毎日の延長線上にある、ある冬の日のことだった。

25 : 名無しさ... - 19/11/24 02:26:19 pxq 25/31



「お疲れ様です、クラリスさん。バザーの方はいかがでしたか……まぁ、そんな良い笑顔を浮かべていたら、聞かなくてもわかりますね。」
「はい…! 今回も、多くの方のご支援とご協力のもとに……多くの方と、喜びと幸せを分かちあえたように思います。」
「そりゃあよかった。冷蔵庫に、少し早いですが、ケーキがありますから。是非ご賞味ください。」
「て、手作りですか!?」
「い、いや、今回のは買ってきたやつです……」
「そ、そうですか……いえ、でもありがたくいただきます。プロデューサーさん、何時も心からの配慮をいただき、ありがとうございます。」
「……いえいえ。こちらがしたくてしてることですから。今日はこれから保奈美と一緒にボーカルレッスンですね。頑張ってください。」
「……はい。ありがとうございます……」

26 : 名無しさ... - 19/11/24 02:26:28 pxq 26/31

「…………………………」

「………………………?」

27 : 名無しさ... - 19/11/24 02:26:42 pxq 27/31

 ど、どうしたんだろう。なにか、不明な点があるのだろうか……?


「ぷ、プロデューサーさん!!」
「はい!?」

素っ頓狂な声を出してしまう。くそぅ、恥ずかしい。

28 : 名無しさ... - 19/11/24 02:26:51 pxq 28/31

「その……クリスマス、ですが……」

「え……? あ、ああ、クリスマスの日は聖歌隊と一緒に街を一周するという予定が入っていますが……入りは16時で、開始は18時からですね。」

「……なら、20時には終わりますか?」

「ええ、まぁ……」


「……プロデューサーさん。」

29 : 名無しさ... - 19/11/24 02:27:05 pxq 29/31


「もし良ければ、その後、二人で食事でもいかがでしょうか……?」

30 : 名無しさ... - 19/11/24 02:27:20 pxq 30/31

 俺の目には、真っ赤になって俯くシスターだけしか見えなくて。



「……………………はい……………………」


 彼女の目に、俺はどう映っていただろうか。

31 : 名無しさ... - 19/11/24 02:32:00 pxq 31/31

以上です。
皆さんのオススメの料理がありましたら教えていただけると嬉しいです(私が)。
料理は好きですが、素人ですので、練習していきたいです。
前回時間かける料理にしようとか言ってて今回もまた簡単レシピになってしまいました。料理雑魚なのであんま難しいことできないんです、すいません……

他には最近こんなものを書いていました(最近の3つです)。
これらも含め、過去作もよろしければぜひ。
よろしくお願いします。


【モバマスss】雨色伝導【高垣楓】
https://ayamevip.com/archives/55925535.html

【モバマスss】腹ペコシスターの今日の一品;肉じゃが
https://ayamevip.com/archives/55925528.html

【モバマスss】城ヶ崎家(見守り隊)は大変なのです。【LiPPS】
https://ayamevip.com/archives/55925521.html

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