プログラム……………一度きり………起動せ……………Ready?
よく見えないが、パソコンの画面にはそんな文字が書いてあったと思う。彼がふと私を見つめこう言った
「長門、これに心当たりはないか?」
「……ない」
「本当にないのか?」
「どうして?」
そういうと彼はまたパソコンの画面に向き直った
当たり障りのない会話。いつもなら気にも止めなかっただろう……
けど、今日に限って何かが違った。 なぜか彼が遠くに行ってしまいそうな気がして恐かった
多分、私は今にも泣きそうな顔をしていたことだろう……彼の横顔が少しボヤけて見える。
「行かないで」
の一言がどうしても私には言うことが出来なかった。
いや、言ってはいけないのだろう。
なぜかそんな気がした
涼宮さん?が何かを話し掛けていたが
「黙っててくれ。」
の一言で黙らせてしまった。
時間にして2、3分だったろうか?私には永遠にも近い時間に感じられた……
すると彼は意を決したような顔をすると私の方を向きくしゃくしゃになった入部届けを差し出してきた。
「長門、これ……」
その一枚の紙を受け取るのが恐かった
手が勝手に震えてしまう……
これでさよならなの?
彼が言葉を続けていたが、まったく頭に入ってこなかった。
これで終わり……
さようなら
彼は笑顔を私に向けて
キーボードを押し込んだ……
数ヶ月後……
いつものように長い長い坂をうっすら汗をかきながら登る。 夏休みが終わったものの、まだ残暑きびしい9月。
梅雨が長引き、暑さと湿気が私の体力をさらに奪っていく
長門「……はあ」
朝倉「ちょっと、長門さん。朝から溜息はやめてちょうだい」
長門「……やめる」
朝倉「まったく。長門さん最近元気ないわね?ちゃんとご飯食べてるの?」
長門「……食べてる」
朝倉「っもう!元気だしてよ!じゃないと……」
長門「……?」
朝倉「ふふっ」
朝倉さんが顔を前に向ける。 彼女が顔を向けたその先には見慣れた男子生徒の姿があった。
気だるそうな、少し猫背で、ちょっと頼りない背中……
思わず体が硬直してしまう。
朝倉「キョンくーん!おはよう」
キョン「ん?朝倉か?おはよう。それに……」
キョン「長門。おはよう」
長門「お……おはよう」
彼に話し掛けらるのに今だに慣れない。 顔が赤くなっているのが自分でも分かり、余計に恥ずかしくなる。
そんな私を見て、朝倉さんはずっとニヤニヤしっぱなしだった。
朝倉「ふふっ。じゃあ、私は授業の準備があるから先いくね?キョンくん、長門さんをよろしくね!」
キョン「おう。また教室でな」
バイバイと手を振ると私にアイコンタクトを送ってきた。そういうことか……
二人っきりで歩く坂道。何を話をしていいかさっぱりわからない。 もともと口数が多いわけでもないし……
キョン「なんか最近雨ばっかりで嫌になるな」
長門「えっ?あっ……うん!そうだね」
急に話し掛けられてアタフタしてる私を見て彼が笑ってくれた。
長門「なんで笑うの?」
キョン「いや、こっちを選んでよかったと思ってさ」
長門「……?」
キョン「あっ、なんでもない。気にすんな」
キョン「それよりチャイムなっちまうぜ?急ごう」
長門「う、うん」
………
あの部室の一件以来、色々と私のまわりが変わっていった。
去年の末に出会った涼宮さんが立ち上げたSOS団にはいり、毎週市内を探索するようになった。目的は宇宙人、未来人、異世界人、超能力者を捜し出すことらしいが、今だに見つかってはいない。
最初のうちは彼と涼宮さんの3年前の七夕の不思議な出会いで盛り上がったものの、数ヶ月何も起こらないということに痺れをきらし、今では普通の高校生のサークル活動みたいになっていた。
そして、一番変わったことといえば……
そう。彼が文芸部に入ってくれたこと。
とくにすることは無いのだけれど、毎日放課後に顔を出しては私のオススメの本を読んでくれていた。
とくに会話もないけれど、そんな彼との二人きりの時間が私はとても好きだった。
こんな生活がずっと続いてくれればいいと思っていた……
……
二年にあがると、私は奇跡的にも彼と、朝倉さんと同じクラスになれた。
彼の席は窓側後方2番目、これもまた奇跡なのだろうか私はその後ろに座ることができていた。
いつも彼が話し掛けてくれて、私がそれに相槌をうつ。それがここ最近の私たちの関係だった。
それ以下でも、それ以上でもない。
ただの『同級生』だった
朝倉さんは私達の関係を前にすすめようとしているのだけれど……
私にはまだその勇気がない。
朝倉「キョンくんって結構人気あるのよ?うかうかしてると他の子にとられちゃうわよ?」
長門「うぅっ……いや」
朝倉「じゃあ、早くアタックしちゃいなさいよ!!」
長門「それは無理」
朝倉「はあ……」
こんな感じが続いている。
朝倉さんの言うとおりだったのかもしれない。そんな事を思い知らされるもう一つの変化がこれから起きようとしていた
そして、それは私にとって人生の大きな分岐点になる出来事でもあった
…………
キョン「長門、こないだ借りた本読んだよ。」
長門「あっ、うん。おもしろかった?」
キョン「ちょっと難しかったけどな……」
長門「ごめん……」
キョン「謝るなよ。いつも頼んでるのは俺だしな」
キョン「そんなことより、今週末さ……」
彼が何かを言い掛けたその時、担任の岡部先生が入ってきてしまった。
岡部「席つけー!ホームルームはじめるぞ~」
キョン「悪い!またあとで話すわ………っ!!」
長門「わかった…………っ!!?」
ふと体を前に向けると、彼の話しの続きなどどうでもよくなってしまう異変が起きていた
担任の横にいる少女に視線が釘付けになる。
岡部「えー、大変急な話だが転校生を紹介する。 ほら、自己紹介」
少女はコクンとうなずくと、私には無い力強い笑顔を私達に向けてこう言い放った
ハルヒ「東中出身、涼宮ハルヒ!ただの人間には興味がありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら……あっ、異世界人はいたわね。まぁ、いいわ!とりあえず私のところにきなさい。以上」
そこには見知った顔のえらい美人がいた
彼女は教室をぐるりと見回すと、私たちを見つけるないなや
ハルヒ「キョーン!有希!転校してきちゃったわよ!」
私が返答に困り彼の方を見ると、彼は顔が真っ青になり少し震えていた
長門「キョン……くん?」
彼はまったく私の言葉に反応せず、ただただ震えていた
キョン「そんな……また……」
そんな彼をしってかしらずか、涼宮さんは言葉を続けた
ハルヒ「あー、岡部先生だっけ?私、あそこの席がいいからよろしく」
岡部「お、おい!」
担任の制止もまったく聞く様子もなく、真ん中に置いてあった空席の机をわざわざ私達の近くまで運んできた。
ハルヒ「やっほ!驚いた?」
キョン「なんでお前がここにいるんだ?」
ハルヒ「なんでって……あっちの高校にいるよりもアンタの近くに居たほうがおもしろそうじゃない?」
ハルヒ「だから、多少無理言ってこっちに転校してきたのよ。まあ、全教科県内トップレベルの成績の私がくるんだから北高も喜んでたわよ?」
キョン「そう言う問題じゃない」
ハルヒ「あら?アンタ私がきたの嬉しくないの?有希は嬉しいでしょ?」
長門「う……うん。」
ハルヒ「ほら?有希は喜んでるわよ?とりあえずよろしくね」
涼宮さんは言いたい事だけ言うと満足したのだろうか、ドカッと椅子に座り授業の準備をはじめた
休み時間に入るとすぐに涼宮さんは彼に何やら色々話し掛けていた。
涼宮さんがなぜわざわざ転校してきたか聞きたかったし、それに彼の朝の話の続きも聞きたかったが……
私の入る隙間は、この二人の間にはなかった
そんな私を見兼ねたのか、朝倉さんが私を手をひっぱり教室の外へと連れだした
朝倉「ちょっと何よあの女!急に転校してくるやいなや、人の彼氏とあんなイチャイチャしちゃって!」
長門「私と彼はそんな関係じゃ……」
朝倉「ダメよ。もう駄目よ長門さん!ライバル出現よ。しかも、かなり強敵そうね……」
長門「そんなんじゃないよ」
朝倉「この期におよんでまだそんな事いうの?彼女、間違いなくキョンくん目当てよ?私が言うんだから間違いないわ」
長門「…」
朝倉「ほら、見てみなさいよ。あんなに楽しそうにして……まあ、キョンくんは少しひいてるように見えるけど…」
朝倉さんは何かを少し考え、ウンウンと頷くと
朝倉「長門さん、明日からキョンくんに猛アタックよ」
長門「でも私……そういうのうとくて…」
朝倉「大丈夫。私がついてるから!あの女にキョンくんは渡さないんだから」
なぜか私より張り切ってる朝倉さんを横目に彼らを見ると胸がチクチク痛むのがわかる。
私は彼が好き
朝倉さんの言う通りなのだろうか。
うかうかしてる時間は無いのかもしれない。
少し前に進む勇気を持とう。
それがよい結果になることを信じて
その日は特に何事もなく、涼宮さんは学校が終わるとそそくさと教室からでていってしまった。
長門「キョンくん」
キョン「ん?どうしたんだ?」
長門「涼宮さん、どうして急に転校してきたの?」
キョン「……朝言ってた通りだ。俺の近くに居たほうがおもしろそうなんだろ?他意はないと思うが…」
長門「うん……」
キョン「心配だったのか?」
長門「……」
キョン「大丈夫だ」
彼はそういうと私の頭にポンと手を乗せてきた
長門「あっ……」
キョン「安心しろ。俺はお前の為にこっちの世界を……」
キョン「まあいいや。俺たちも早く帰ろうぜ。あと、朝倉に余計な事すんなと言っておけ」
長門「うん」
彼は自分のした事がわかっているのだろうか?
私は今、顔を上げられないほどに赤面している。相変わらずなその鈍感さに少し怒りたくなるけど……
そんな彼も私は好きなのだろう
キョン「ほら。ボケッとしてないでいくぞ?」
長門「まっ待って!」
こんな平和な一時に心を撫で下ろす。
まさに一時の平和な時間
翌朝、登校中に朝倉さんに昨日の事を一通り話した。
朝倉「キョンくんがそう言うんじゃしかたないわね……せっかく色々考えてきたのに」
長門「ごめんね。気持ちは凄い嬉しい」
朝倉「まったく。わかったから早くくっついてよね?ヒヤヒヤして見てらんないわよ」
長門「頑張る」
朝倉「口だけで終わらないようにね。ほらっ!」
朝倉さんが私の背中を押す。 いつもの坂道にいつもの背中
私はその背中に向かっておはようの言葉をかけた
少しずつ少しずつ前に進んでいく
教室に入ると涼宮さんが私達のほうへ駆け寄ってきた
ハルヒ「キョン!あんた文芸部に入ったんですって!?」
キョン「そうだが?」
ハルヒ「じゃあ、決まり!あんたが言ってたとおり文芸部をSOS団の拠点にしましょう!」
キョン「それは……」チラッ
長門「私は……かまわない……」
キョン「おい。いいのかよ?」
ハルヒ「なに?文句あるの?ってかアンタの話になぞってるだけよ?元に戻るだけでしょ?」
キョン「」
ハルヒ「じゃあ、さっそく今日からはじめましょ!」
ハルヒ「あとみくるちゃんにも話しておくからちゃんと来なさいよ!来なかったら死刑なんだから!」
長門・キョン「……」
途中の話はよくわからなかったが、どうやら彼が元居た世界に涼宮さんは近づこうとしているらしい。
前に彼に聞いたことがあるが話をはぐらかされてから深くは聞かないことにしていた
放課後部室に入ると、嫌がる朝比奈さんに涼宮さんがメイド服に着替えさせているところだった
ハルヒ「こらぁ!早くこれに着替えなさい!みくるちゃんは萌え担当なんだから!」
朝比奈「いやぁぁあ!やめてぇぇぇ!」
長門「……」
ハルヒ「あら?有希来てたの?キョンは?」
長門「掃除当番で少し遅れてくる」
ハルヒ「ふーん。まぁいいわ!有希も早くこっち手伝って」
朝比奈「ふぇぇ……」
ようやく着替えさせ半泣きの朝比奈さんと一息つくとちょうど彼が部室にはいってきたのだが
彼は朝比奈さんを見ると、驚愕の表情をみせた
キョン「……おいハルヒ。これはどういうことだ?」
ハルヒ「は?いわゆる一つの萌え要素ってやつよ!学園もの……」
キョン「違う!そうじゃない!なぜ同じ事をするんだ!!」
長門「キョンくん……?」
キョン「長門は黙っててくれ。」
長門「……」
キョン「このままじゃ同じになっちまうって言ってんだろ!!」
ハルヒ「なっ……急に何怒ってるのよ……」
キョン「そりゃ怒りたくもなる……すまん。長門。今日は帰らせてもらう」
長門「え?待っ……」
彼は私の言葉になど、まったく聞こえないかのようにそのまま部室を後にしてしまった
ハルヒ「何よ……アイツ」
ハルヒ「せっかく今日から本格始動しようと思ったのに。ああ!もぅ今日は帰るわ!」
朝比奈「あのぅ、私は毎日こんな格好しなくちゃいけないんですかぁ?」
ハルヒ「あったりまえよ!」
朝比奈「そぅですか……」
ハルヒ「ふんっ」
……
誰もいなくなった部室。久しぶりに一人で読む本はなぜかおもしろさが感じられない。
長門「淋しい……」
きっと彼と二人でいるこの文芸部室に慣れてしまったのだろう。
今日だけ我慢しよう。きっと明日になったらまた彼も普段どおり部室に来てくれるだろう
うん。きっと明日になったら
Prrrr……
下校時間が近づき帰り支度をしていると携帯がなった
着信『涼宮ハルヒ』
長門「もしもし」
ハルヒ『あっ、有希?まだ学校?』
長門「うん。今帰るところ」
ハルヒ『あのね、ちょっとキョンの事で話があるんだけど……時間ある?』
長門「大丈夫。」
ハルヒ『ありがとう!じゃ、いつもの喫茶店で待ってるから。またあとでね!』
長門「わかった。」
……
長門「なんだろう……」
……
長門「ごめんなさい。待った?」
ハルヒ「いいのよ。私が呼び出したんだから」
長門「それで話って?」
ハルヒ「その前にちょっと聞いていい?答えずらかったら答えなくていいから」
長門「うん。なに?」
ハルヒ「有希はキョンと付き合ってるの?」
長門「……付き合ってない」
ハルヒ「そう。キョンの事どう思ってる?」
長門「……好き」
ハルヒ「どんな意味で?」
長門「それは……」
ハルヒ「それは?」
長門「友達として……」
ハルヒ「そう。よかった!実はね、ちょっと心配だったのよね。もしかして二人は特別な関係じゃないかな?って」
長門「どういうこと……?」
ハルヒ「ぶっちゃけね。キョンの事好きなの」
長門「……」
ハルヒ「わざわざ北高まで転校してきたのもその為なの」
ハルヒ「有希も聞いたでしょ?七夕の話」
長門「うん」
ハルヒ「ずっと待ってた人に出会えたのよ?これって運命なのかなって……」
ハルヒ「恋愛なんて精神病の一種だと思ってたんだけど……わからないものね。キョンの事好きになっちゃったんだから」
長門「……どうしてそれを私に話すの?」
ハルヒ「協力してほしいのよ!」
長門「協力って?」
ハルヒ「キョンと私が仲良くなるように……駄目?」
長門「……」
ハルヒ「私達『友達』でしょ?」
長門「……そうだけど」
ハルヒ「じゃ、お願いね!あっ、ここの代金は私が払うから!」
長門「あっ……ちが」
ハルヒ「いいの!気にしないで。協力してもらうんだからこれくらいなんてことないわ!」
ハルヒ「じゃ、私これから用事あるからまた学校でね!」
……
彼女が出ていってからしばらく動く事ができなかった
明日からどうすればいいんだろうか……朝倉さんの言った通りになってしまった。うかうかしていた私が悪いのだろうか…
いずれにしても涼宮さんはキョンくんの事を本気で好きで、私に協力まで求めてくるなんて
長門「朝倉さんに相談しないと……」
私ははやる気持ちを押さえ喫茶店を後にした
……
ピンポーン
長門「朝倉さん?私……」
長門「……?」
インターホンをいくら鳴らしても彼女が出てくる気配がなかった
朝倉さんは私より先に帰ったはずなのに……
長門「買い物にいったのかな……」
置き手紙を玄関の前に置き、とりあえず部屋に戻ることにした
朝倉さんならきっと手紙を呼んだらすぐに来てくれるだろう
……
部屋にもどり寝ようと思ったが彼の事が気になって眠れない……
時計を見るとすでに12時をまわっていた
長門「朝倉さんまだ帰ってないのかな……」
電話をかけてみるものの、かえってくるのは電波が届きませんのアナウンスだけ……
長門「……明日学校いきたくない」
結局、朝まで朝倉さんの電話がかかってくることはなかった
結局一睡もできないまま学校へと向かうことなった。足取りは思い……
いつもの坂道でいつもの背中を見つける。少し迷ったが挨拶くらいはしていいよね。
長門「おはようキョンくん」
キョン「おう。おはよう……って長門!?」
長門「?」
キョン「いや、不思議そうな顔されても困るんだが……今日は雪でも降るのか」
キョン「まあたまにはこういう事もあるよな?」
長門「??」
彼がなぜ驚いたかはわからないが、彼もそれ以上何も言わなかったので気にしないことにした。
私には今他の事を考えている余裕なんてないのだから
その後も何も話すことなく学校についてしまった。
階段を上がったところで彼が話し掛けてきた
キョン「どうした長門?またハルヒの厄介事か?」
長門「厄介事?」
キョン「違うのか?まあ、それはそれでこした事はないからな」
長門「何を言ってるの?」
キョン「どうした?今日はなんか変だぞ?」
長門「……昨日涼宮さんとちょっと」
キョン「結局ハルヒか。なんかあったら言えよ?たまには俺だってお前を助けたいんだから」
長門「私はいつもキョンくんに助けられてるよ……」
キョン「ははっ。それはよかった!」
……
教室に入るとなぜかクラスメイトが私の方をチラチラと見てくる。
どうしよう……顔にそんなでてるかな……
席に付こうとすると、誰か知らない生徒が座っていた。
長門「あ……あの、ちょっと座りたいですが……」
A「長門……さん?だっけ? もう授業始まっちゃうよ?」
長門「うん。だから座りたいの」
見知らぬ生徒がオロオロさながら彼の方を見ていた
キョン「あー……すまん。今日の長門は少しおかしいんだ。気にせんでくれ」
ハルヒ「ちょっとキョン!有希になんて事いうの!SOS団1の万能少女なのよ。丁重に扱いなさい!」
キョン「へいへい」
わけがわからないまま彼に背中を押され教室の外まで連れ出された。
キョン「しつこいようだが、本当に大丈夫か?」
長門「わ、私は大丈夫だよ?」
キョン「……まぁ、お前の事だから自分でなんでもできそうだがな……」
キョン「とりあえず、話は後だ。授業が始まっちまう。」
長門「私も教室にはいらないと……」
キョン「何言ってんだ?長門の教室は『二組』だろ?」
そのまま彼はドアを閉めてしまった
長門「どうなってるの……」
ハルヒ「有希ったらどうしちゃったのかしら」
キョン「アイツだって色々あるだろ」
ハルヒ「まぁ、そうよね!私にもたまには変になるときあるし」
キョン「いつもだろ……」
ハルヒ「なんか言った?」
キョン「いや、何も……ほら。授業はじまるぞ」
ハルヒ「ふんっ。放課後覚悟しときなさいよ!」
キョン「……お手やわらかに」
ハルヒ「ふふっ。協力してよね……有希?」
意味もわからないまま、私はとりあえず文芸部室に向かっていた。
どういう事? 昨日と今日でまったく別の世界にいるみたい……
いや、別の世界にいる。
頼みの朝倉さんの電話番号はもはや使われていない事になっている。
きっとこの世界の変化のせいかもしれない。
キョンくんとの12月の事がふと頭によぎった
長門「もしかして……これがキョンくんの本当の世界なの……?」
……
何も浮かばないまま放課後を迎えてしまい途方にくれていると部室のドアがコンコンと音を立てた
キョン「ん?長門だけか?」
長門「うん……」
キョン「そうか。」
彼はそういうと鞄を乱暴になげ椅子にすわると携帯でゲームをし始めた。
いつもは本を読んでくれていたのに……
長門「あっ……」
私は単純な事にまったくきずけなかった。彼が一番私を理解してくれるのではないのか……
うん。きっと彼ならなんとかしてくれる
長門「キョンくん……」
キョン「ん?なんだ長……」
ハルヒ「やほー!!みんなそろってる!?」
ハルヒ「なによ。二人だけ? 有希?なに怖い顔してるの?」
長門「なんでもない……」
キョン「それより長門。なんか俺にようがあるんじゃないか?」
長門「今はちょっと……」
ハルヒ「なに?団長に話せないことでもあるの?」
長門「そういうわけじゃ……」
すると彼女は私の耳に顔を近付けてきた
ハルヒ「やっぱり邪魔ね。有希は」ボソッ
私は消されてしまうかもしれない……
誰か助けて
古泉「おや?一番最後でしたか」
長門「最後?」
古泉「長門さんから返事がくるなんて珍しいですね。今日はあなたに勝てるかもしれないですね?」
キョン「ぬかせ」
長門「朝比奈みくるは……」
古泉「朝比奈……みくる?さて?聞いたことがないですね」
キョン「古泉。今日の長門は少し変なんだ。気にせんでくれ」
長門「そんな……覚えてないの?」
古泉「長門さんの勘違いではないでしょうか?あまり考えられませんが……」
キョン「長門。あまりおれ等を混乱させないでくれ。お前が言うと冗談に聞こえない」
ハルヒ「有希。落ち着いて本でも読んだら?」
長門「……」
私は言われるがまま椅子に座り本を開くがまったく中身が頭に入ってこない
ハルヒ「『全員』揃った事だし、来週末の不思議探険の会議をするわよ!」
………
皆が帰った後、部室のただ一人残る
静かなこの空間はまさに今の私を象徴するかのような暗闇と静寂が広がっている……
窓のそとを見ると仲睦まじく腕を組、帰路へとつくカップルが見えた
長門「………」
なぜだろう。 私のなかは空っぽなのに……
今の私には何も入ってないはずなのに……
頬には透明で冷たいものが止まることなくつたってくる
長門「うぅっ………うぅっ……」
誰も見てない。誰もしらない。誰も気付いてはくれないこの部室で一人
私は泣いた
孤独……こんなにも辛かっただろうか?
一年の時はそうでもなかったはず。
ただ、1人。ずっと1人で本を読んでいた いつかは誰かがドアを叩いてくれるだろうと……
彼がドアを叩いてくれた。
私のドアも叩いてくれた。
いっぱい本を読んだ。二人で読んだ
そんな彼が隣にいない。
戻りたい…私の世界に
きっとずっと泣いていたんだろう。時計は7時をまわっていた
長門「いけない……帰らないと……」
涙を拭いドアの方に向かうと後ろからパソコンが立ち上がる音がした
長門「なんだろ……消し忘れかな……」
パソコンの画面を操作しようとしたがまったく動いてはくれない
長門「壊れちゃったのかな」
すると真っ黒な画面から見たときない文字列がずらずらと並び始めた
長門「なにこれ……」
文字列は不規則な動きをしながらも段々と形を整えていった
長門「こ……これは」
ASAKURA>> ミエテル?
長門「あ、朝倉さん!?」
長門「えっ、えーと」
慣れないパソコンに四苦八苦しながらもなんとか返事をする
ASAKURA >> ヨカッタ 時間ガナイ 用ケンダケ伝えル
長門「……うん」
ASAKURA >> 涼宮ガ力ヲ取り戻した
長門「力って……?」
ASAKURA >> 願望実ゲン能力
長門「えっ……わからないよ……」
ASAKURA >> 今はワカラナクテいい。 涼宮ハ全テニ気付イタ。 理由ハワカラナイ 。
長門「私は……戻れるの……?」
ASAKURA >> アナタニ残る少しノ力ヲ使いプログラムをツクッタ。
長門「……」
ASAKURA >> いい?チャンスハ一回。失敗シタラ……
長門「したら……」
ASAKURA >> アナタハ完全に消失スル
ASAKURA >> 時間がナイ。覚悟はイイ?
何故かこんな事態にも私は落ち着きを取り戻していた
プログラム……………一度きり………起動せ……………Ready?
もしかして彼も同じ道を選んだのかもしれない
そう思ったら少しも怖くなんて無かった
ASAKURA >> 実行ナラEnterキー それ以外ならホカのKeyヲ押して ReaDY?
答えは決まっている
長門「OK」
………
き……ゆ………有希……?
誰かが私を呼んでいる気がした
長門「………ここは……。」
ハルヒ「もう。有希ったら話の途中でボーってしないでよ。」
あたりを見回すとここはいつもの喫茶店だった
長門「これは……あの時の……」
ハルヒ「もう!で、どうなの?協力してくれるの?」
長門「……」
ハルヒ「私達『友達』でしょ?」
そっか……これはこういうことだったんだ。
あの時の私はきっと恐かったのかもしれない。彼に気持ちを伝えることが……
それを言ってしまったら、今までの関係も全て壊れてしまうような気がしたから……
けど、伝えなかった結果全てを失ってしまった。
私の全てを彼に伝えよう。
長門「ごめん。涼宮さん……それはできない。」
ハルヒ「え?なんで?キョンの事なんとも思ってないんでしょ?」
長門「嘘……」
ハルヒ「嘘って……」
長門「好きなの……」ボソッ
ハルヒ「えっ?」
長門「好き好き好き好き……私はキョンくんが大好きなのーーー!!!」
あたりに響くような大きな声で言ってやった。まわりのお客も涼宮さんも目をまんまるとして、私の方を見ていた。
長門「ハァハァ………これが………」
長門「これが私のキョンくんへの想いなんだからーー!!!!」
私は外へと駆け出した
ハルヒ「ちょっ……」
朝倉「あら?涼宮さん奇遇ね?」
ハルヒ「どきなさい!!」
朝倉「嫌よ?あなたには聞きたいことがいっぱいあるのよ?」
朝倉「はぁ……私の最後の仕事なんだから……」
ハルヒ「何言ってるの?」
朝倉「貴方には関係ないわ」
ハルヒ「ちょっ……近づかないでよ……」
朝倉「うん。それ無理♪」
朝倉「長門さんお幸せに……」
ハルヒ「やっ……やあぁぁぁああ!!!!」
…………
……
なぜだろうか……自然に体がそこに向かっていた
彼と初めて待ち合わせた場所
図書館なんかじゃない
私が私である時の思い出の場所
息を切らしながらも、辺りを見回す
いつもの彼があのベンチに座っていた
キョン「長門?どうしたんだ?」
長門「ハァハァ………あのね。キョンくんに伝えたい事があるの……うまく伝わらないかも知れないけど…聞いて…」
キョン「あぁ。どうしたんだ?」
長門「私ね、キョンくんに初めてあった時から好きだったの」
キョン「……図書館か?」
長門「違うの。文芸部室であなたが涼宮さんと一緒にドアをあけてくれたその時から」
キョン「……長門。思いだしたのか?」
長門「ううん。ほとんどのことは覚えてないの……覚えていたのはこの場所と部室のことだけそれと……」
キョン「…」
長門「私がこの世界を作り出したこと……」
キョン「そっか……」
長門「私は我が儘かもしれない……勝手にこんな世界にあなたを連れてきて…それなのにずっと怖くてあなたに気持ちを伝える事ができなかった」
長門「そんな私の都合の良い世界をあなたは選んでくれた……だから私もそれに答えなくちゃ……」
キョン「長門……」
長門「あなたが好きです。答えを聞かせて……?」
キョン「長門……そんなの答えは決まってるだろ?」
キョン「俺はお前の事が…………」
終わり