競走馬「今なんて……?」
馬主「二度はいわんよ」
競走馬「いや、だって、あんた滑舌悪いし」
馬主「とにかく決まったことだから」
競走馬「ちょっと待ってくれ! いくらなんでもあんまりだ!」
馬主「あんまりだ……って。お前、競走馬になってから何度ビリになった?」
競走馬「100回から先は覚えていない!」
馬主「お前はどこの羅将だよ」
元スレ
馬主「今度のレースでビリだったら馬肉ねw」競走馬「え!?」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1624352769/
馬主「しかも全然真面目に走らんし」
競走馬「そんなことないって!」
馬主「いつだったかはレースで勝てそうにないと悟って逆走するし。マリオカートじゃねえんだぞ」
競走馬「うぐ……!」
馬主「いつだったかはレース中に漫画読み始めるし」
競走馬「みどりのマキバオーにハマっちゃって……」
馬主「いつだったかは騎手にマッスルインフェルノ決めるし。馬は決められる側だろうが」
競走馬「一度やってみたくて……」
馬主「とにかく、私はもう呆れてるんだよ。お前という駄馬中の駄馬にな」
競走馬「ま、待って下さい!」
馬主「待たない」
競走馬「そうだ! こういうのはどうでしょう!?」
馬主「ん?」
競走馬「俺が鹿と組んで漫才をやるんですよ。きっと大儲けできる。コンビ名は――」
馬主「馬鹿だろ?」
競走馬「なぜ分かったの!?」
馬主「バカだろお前。ま、せいぜいビリにならないようにするんだな」
競走馬「あうう……」
競走馬「やべえ、やべえよ……」
競走馬「そりゃたしかに俺は真面目に走ってないし、ビリばかりだよ?」
競走馬「だからってこんな仕打ちはあんまりだ!」
競走馬「いっそ頑張って真面目に走るか……?」
競走馬「無理だ……散々トレーニングサボってきたし、はっきりいって走る才能ないし俺」
競走馬「となると……」
競走馬「他の馬をツブすしかない!」
競走馬「……」パッカパッカ
調教師「ん、どこ行くんだ?」
競走馬「あ、ちょっとドラッグストアまで」
調教師「だったらウコン買ってきてくれよ、ウコンの力」
競走馬「ったく酒好きなんだから」
調教師「俺以上に馬主さんがな。最近いいバーを見つけたっていってたし」
競走馬「酒に対する愛情を俺にも少し分けて欲しいもんだ」
ドラッグストア――
店員「いらっしゃいませー」
競走馬「ちわっす」
店員「お、マムシドリンクでも買いに来たかい? ビンビンになるぞ!」
競走馬「ハハ、俺に種馬としての価値なんてねえよ」
店員「違いない! アッハッハッハ!」
競走馬「少しは否定してくれよ」
店員「……円になります」
競走馬「あいよ」
店員「こんなもん買ってどうすんだ?」
競走馬「ちょっとね。ストレスで便秘気味でね」
店員「あまりストレス溜めんなよ~。レースなんて適当でいいんだ適当で」
競走馬「ありがと。だが、そうもいかないんでね」
競走馬(次は……いよいよあいつのところに向かおう)
競走馬「ちーっす」
ライバル馬「おう、お前か。どうした?」
競走馬「今度のレース、頑張ろうな!」
ライバル馬「? ああ」
競走馬「でさ、敵に塩を送っておこうと思って、ニンジン持ってきたんだ。食ってくれよ」
ライバル馬「……」
競走馬「どうした、食ってくれよ」
ライバル馬「下剤入りのニンジンをか?」
競走馬「なんで分かった!?」
ライバル馬「やっぱりな……カマかけただけだよ」
競走馬「うぐ……」
ライバル馬「お前の馬ヅラみたら、なに考えてるかなんて一発だっての」
競走馬「馬に馬ヅラ呼ばわりされるなんて悔しいっ……!」
ライバル馬「レースでふざけてばかりいるお前が、なんでいきなりこんなことを?」
競走馬「実は次のレース、ビリだったら馬肉にするっていわれてさ」
ライバル馬「よく今までされなかったと思うよ」
競走馬「やかましい!」
競走馬「俺、まだ死にたくねえんだ! だからわざと負けてくんねえかな! ビリじゃなきゃいいわけだし……」
ライバル馬「んなことできるわけねえだろ……」
競走馬「頼むよぉ、長年競い合ってきたライバル同士じゃないか!」
ライバル馬「そんな爽やかな仲じゃないだろ……俺はそこそこ勝ってるし」
ライバル馬「レースは真剣勝負、わざと負けるつもりなんてねえよ」
競走馬「そこを何とか!」
ライバル馬「ダメだ」
競走馬「お願いします!」
ライバル馬「身から出たサビだ。諦めろ」
競走馬「いくら頼んでも馬の耳に念仏ってか!」
ライバル馬「俺たち馬だろうが」
競走馬「ちくしょう、バーカ!」パカラッパカラッ
競走馬「くそう、こうなったらやっぱり自力で勝つしかないか……」
競走馬「本屋に寄って……」
競走馬(早く走る方法、早く走る方法……)
競走馬「……!」
競走馬「これだ……!」
店主「お馬さーん、立ち読みは困りますよ」パタパタ
競走馬「ちゃんと買うよ!」
レース当日――
<ド田舎競馬場>
ワァァァ…… ワァァァ……
実況『さぁ、お待たせしました! 本日のメインレース!』
実況『どこに出しても恥ずかしくない駄馬どもの入場です!』
競走馬「っし、行くか」
馬主「約束は覚えてるだろうな」
競走馬「ああ、覚えてるよ。あいにくビリになるつもりはねえぜ」
馬主「万年ドベがえらく自信たっぷりだな」
競走馬「秘策があるからな」ニヤッ
実況『各馬、ゲートに入りました!』
騎手「大丈夫か?」
競走馬「ああ、平気さ」
騎手「今日はマッスルインフェルノすんなよ」
競走馬「分かってるって。それどころかビリ脱出……いや、一等を取ってみせる!」サッ
騎手「えっ……この体勢は!?」
実況『ゲートが開いたァ!』
ドドドドド…
実況『おや……?』
競走馬「……」
実況『なんとクラウチングスタートの構えだ!』
競走馬「行くぜ……世にも珍しいサラブレッドによるクラウチングスタート!」
競走馬「今の俺は……100mを9秒台で駆け抜けるッ!」
騎手「馬のタイムとしてはどうなんだそれ?」
ズルッ!
競走馬「あらっ?」
実況『コケたぁ~~~~~!』
競走馬「く、くそっ……!」
騎手「やっぱり馬がクラウチングスタートは無理ありすぎだって!」
競走馬「やべえ、出遅れた……!」
騎手「早く立て! 早く!」
実況『さあ、ビリはもう決まったようなものでしょう!』
競走馬「うおおおおおっ!」パカラッパカラッ
実況『懸命に追いかけるが、全然追いつけない! まさに焼け石に水!』
競走馬「ダ、ダメか……」
競走馬(ちくしょう、俺の命もここまでか……)
ライバル馬「……」
競走馬「ん?」
ライバル馬「……」ヨタヨタ
実況『ここで一頭が失速! どうしたんでしょう!?』
競走馬(あいつ、まさか……わざと!?)
ライバル馬「……行け!」
競走馬(ありがとう……ありがとう……)パカラッパカラッ
競走馬(ライバルの心遣いに涙が止まらない……まるでYouTubeの美談……)パカラッパカラッ
騎手「おい、どうした!?」
競走馬「え?」
騎手「どこ走ってんだ!? 柵にぶつかるぞ!」
競走馬「あ……あああああああっ!」
競走馬(涙で前が見えなかったから――)
ドガシャァンッ!
競走馬「……」
馬主「……」
競走馬「すんません、ビリでした……」
馬主「約束は約束だ。守ってもらうぞ」
競走馬「はい……」
馬主「ってわけで、ヤケ酒飲みにバーに行くぞーっ! お前も来るんだぞ!」
競走馬「ええ、バーに……ってバー!?」
競走馬「ちょっと待って! 俺、馬肉にされるんじゃないの!?」
馬主「ハァ? お前を肉にしても煮ても焼いても食えない肉が出来上がるだけだろ。下手すりゃ祟ってきそうだし」
競走馬「だけど今度ビリだったら馬肉って……」
馬主「誰がいったよ、んなこと」
競走馬「まさか……」
競走馬「馬肉ね……バニクね……バーニクね……バーにいくね……」
競走馬「“今度のレースでビリだったらバーに行くね”!?」
競走馬「こんなバルシェ肉買ったべかみたいなオチありかよ!?」
馬主「懐かしいなー、世紀末の魔術師」
競走馬「あんたの滑舌、悪すぎんだよ!!!」ブオンッ
馬主「やめろっ! 馬の脚力で蹴られたらマジで死ぬ!」
マスター「どうぞ」スッ…
馬主「んじゃ、お前のビリを祝福して乾杯!」
競走馬「乾杯!」
競走馬「てか馬って酒飲んでいいのかな」
馬主「よく知らんけどダメだろ多分」
競走馬「知らねえのかよ馬主のくせに」
馬主「そりゃお前みたいな駄馬の主だしな」
競走馬「いえてるわ」
競走馬「いただくぜ」グビッ
馬主「蹄で器用にグラス持つねえ」
競走馬「……」
馬主「どうだ? レースでビリだった日に飲む酒の味は……」
競走馬「馬だけに……」
馬主「馬だけに?」
競走馬「うまい!!!」
馬主「まんまじゃねーか」
完