友人「お前、生活保護申請したんだって……?」
男「ああ、どうにも無気力でさ。今日役所行ってきた」
友人「で、どうだった?」
男「こいつを託された」
生活「セーカツ!」
友人「なんだこれ? ちょっと可愛いけど……」
男「“生活”って動物らしい。こいつを保護してやってくれってさ」
友人「生活を保護することになったのかよ」
元スレ
友人「お前、生活保護申請したんだって……?」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1621252864/
生活「セーイ!」
男「なかなか可愛いな」
生活「セイセイカツカツ!」
男「とりあえず、ミルクでも飲ませてみるか。お皿に入れて……」
生活「カツ…」フルフル…
男「飲まないな……。ミルクは飲まないのか」
男「そういやこいつ、なに食べるんだ?」
男「色々試してみるか」
男「パン」
生活「セイ…」
男「野菜」
生活「セイカツ…」
男「ビーフジャーキー」
生活「セーイ…」
……
男「あれこれ試してみたけど、なんも食わねえな」
男「ひょっとして食う必要ない生物とか? だったら育てるの楽だけど」
生活「セイ…」ゲッソリ
男「……目に見えて痩せて、弱ってきた」
男(ってことは、何も食わなくていい生き物ではないってことか)
生活「カツ…」
男「おい、しっかりしろよ!」
男(こうなったら……獣医に行くしかないか!)
男「お願いします、こいつを助けて下さい!」
獣医「うーん……」
男「どうしました?」
獣医「私としてもこのような生き物は初めて見るものでして……」
男「え、そうなんですか」
獣医「とりあえず、栄養剤を投与して様子を見ましょう」
男「分かりました……」
男(栄養剤を投与してもらっても、あまり元気にならなかった……)
男(こうなったら図書館だ!)
男「えーと、生き物の本は……」
男「……」ペラペラ
男「……」ペラペラ
男「ダメだ! 生活の育て方なんて分からん!」
職員「館内ではお静かに」
男「あ、すみません」
男(今日一日あれこれ動きまわったけど解決法は分からなかった……)
男(このまま死んじゃうんだろうか……)
生活「セーイ!」
男「?」
生活「セイセイカツカツ! セーカッツ!」
男「あれ? すっかり元気になってる……」
男(そうか……分かったぞ!)
男「こいつは活力を食べて元気になるんだ!」
男「きっと俺が精力的に活動すればするほど、それを食べて栄養にするんだ!」
生活「セイカツ!」
男「おお、よしよし」ナデナデ
生活「カツカツカツ…カァーツ」
男(だとするなら、明日から――)
男「就活するぞ!」
生活「セーイ!」
男「ホコリを被ってたリクルートスーツに身を包み……」バサッ
生活「セイカーツ!」
男「頑張って仕事探して、お前にどんどん栄養を与えてやるからな!」
生活「カーツ!」
男「出発だぁっ!」
男(威勢はよかったが、現実は厳しかった……)
面接官「履歴書見させてもらったけど……」
男「は、はいっ!」
面接官「あのねえ、こんな経歴でウチに入りたいとか、世の中舐めてるの?」
男「いえ、決してナメてるわけでは……」
面接官「よく応募する気になれたよねえ。その図太さだけは褒めてあげるよホント」
男「うぐぐ……」
男(そりゃそうだ。長年活力を失ってた俺を雇ってくれる企業なんてあるわけがない)
男「くそう、今日もダメだった……。説教されに行ったようなもんだ……」
生活「セイ…」
男「慰めてくれるのか?」
生活「セイセイカツカツ」
男「飼い主の俺が活力を与えるはずが、すっかり俺が活力を与えられちゃってるな」
男「ありがとう、頑張るよ!」
生活「セイカーツ!」
やがて――
男「……」ゴクッ
社員「う~ん……なるほど」
男「いかがでしょう?」
社員「いいでしょう。やる気は本物のようだ。採用しましょう」
男「あ……ありがとうございます!」
男(やったぞ生活! ついに仕事を見つけられた!)
上司「これやっておいてくれ」
男「はいっ!」
キビキビ… バリバリ…
男「いかがでしょう?」
上司「おお、なかなかよく出来てるじゃないか」
上司「しかし、張り切りすぎじゃないか? いくらなんでもバテちゃうぞ」
男「いえ、いいんです。これぐらいの方が元気になりますから」
上司「へ?」
男「ただいまー」
生活「セーカーツ!」ダダダッ
男「おお、元気よく飛び出してきたな」
生活「セイセイセイカツカツカツ!」
男「うおおお、すげえ勢い!」
男(俺がバリバリ仕事をこなしてるからか、ますます元気になっていく!)
男(もっともっと頑張るぞ!)
男「今日は散歩行くか?」
生活「セイイイイカァァァァァツ!」バタバタ
男「こんにちはー」
近所の人「こんにちは。その動物、ますます大きくなったねー」
男「そうなんですよ~。俺の活力に比例して成長するもんで」
生活「カァァァァァァツ! クワァァァァァァツ!」
男「もっともっと大きくなれよ!」
生活「……」ドーン
男「いやー、でかくなったな」
生活「……」
男「最初は子猫ぐらいの大きさだったのに、今じゃドーベルマンぐらいある」
生活「……」
男「仕事は順調だし、そろそろ婚活始めちゃおうかな……なんて」
生活「……」
男「ん? どうしたんだよ? いつもみたいに鳴かないじゃないか。セーカツーって」
生活「それは――」
男「え」
生活「私が成長しきったということです」
男「喋った!?」
生活「ここまで育ててくれて、本当にありがとうございました」
男「こりゃどうも……」
生活「もうあなたは一人でも大丈夫です」
男「一人でも……?」
生活「ですから、ここでお別れです」
男「え……?」
生活「成長しきった私は……まもなく消えなければなりません」
男「消える……!?」
男「待ってくれ! まだ別れたくない!」
生活「ありがとう。しかし、いつまでも私を保護していてはあなたのためになりません」
生活「今こそ、あなたは独り立ちする時なのです」
男「ううう……」
生活「あなたという人間に育ててもらうことができて本当によかった……」
男「俺だってそうだ! お前がいなきゃ、ずっとダメ人間だった!」
男「ありがとう、生活!」
生活「……」ニコッ
生活「それでは……さようなら」
バシュゥゥゥゥゥゥゥ…
男(生活が……弾けて、光の粒となって散らばっていく……)
TV『本日は不思議なニュースが入りました』
TV『町に光の粒がたくさん散らばり、それに触れるとなぜか活力がみなぎるという現象が発生し……』
TV『町中に活力がみなぎっています』
TV『専門家は、この光の正体は不明だが、今のところ危険はなさそうだとしており……』
男「これは……!」
男(そうか。俺が蓄え、生活が増幅させた活力が……みんなに元気を与えてるんだ)
男(生活していくのに必要な元気を……)
男「生活……お前は我が身を呈して、みんなの生活を保護してくれたんだな」
男「ありがとう……」
おわり