1 : 以下、名... - 2021/05/18 20:22:34.46 BdylDeZQ0 1/21

(今日は≪フレッシュ小説大賞≫の発表日……)

(頼む……俺の名前あってくれ! 頼むっ!)

「……」

「……」

「ない……!」

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

2 : 以下、名... - 2021/05/18 20:24:05.49 BdylDeZQ0 2/21

(思いきって出版社に持ち込んでみたこともあった――)



編集者「ん~……」ポリポリ

「いかがでしょう?」

編集者「うん、文章はね。うん、文章は悪くないよ。技術はある。でもね……なーんか足りないんだよね」

編集者「プロになるには、あと一歩二歩三歩がさ……」

「何が足りないんですか!?」

編集者「なんだろう、上手くいえないけど……とにかく君はアマチュアレベルなんだよ」

(わけの分からないアドバイスを……)

(プロとアマの差……いったい何だってんだ!)

3 : 以下、名... - 2021/05/18 20:25:43.27 BdylDeZQ0 3/21

(書店に寄ると……)

『作家○×の新作登場!』

(あいつ、また新作出すのか……絶好調だな)



(“あいつ”はかつて俺の親友でありライバルだった)

(一緒に小説を書き、お互い読み合って感想を言い合ったり、賞に応募したりした)

(結局あいつは見事プロ作家となり、俺は今でもこのザマだが)

4 : 以下、名... - 2021/05/18 20:27:08.73 BdylDeZQ0 4/21

「……」ペラペラ



(あいつの小説を買って読んでみた)

(面白い。だが、俺の目から見ても粗はあるし、文章力や構成力が俺より上とも思えない)

(だけど、たしかに……“差”は感じる)

(あいつにはあって、俺にはないものは確実に存在する)

(それがなんなのか分からないから、俺はいつまでも足踏みしてるわけだが)

5 : 以下、名... - 2021/05/18 20:29:06.43 BdylDeZQ0 5/21

(あいつが憎い。妬ましい)

(俺を置き去りに、プロの作家として花咲いたあいつを許せない)

(俺の中にある決して発散されることのない黒い情念は、時間と共に蓄積され、熟成されていく)

(やがて――)



「あいつを……殺してやろうか」

6 : 以下、名... - 2021/05/18 20:30:44.38 BdylDeZQ0 6/21

「そうだ……あいつを殺そう」

「俺にはそうするだけの権利がある」

「だって、能力はほぼ同等な俺とあいつが、ここまで差がついてしまうのは余りに理不尽で不公平じゃないか」

「それに……」

「実際に“殺人”なんてやったら、それはきっと大きな経験値になる!」

「小説にも生かせるはずだ!」

「あいつを踏み台にして、俺は傑作を書くんだッ!」

7 : 以下、名... - 2021/05/18 20:32:40.42 BdylDeZQ0 7/21

(そうと決まれば、どうやって殺るか考えないとな)

(刃物で刺す……俺は刃物の扱いに慣れてないし、武器を奪われたら返り討ちになりそうだ)

(首を絞める……長い紐さえあればできるが、力比べになったら面倒かもしれない)

(頭を殴る……一発で死ぬか気絶してくれればいいけど、もしできなかったら……)

(どこかから突き落とす……高いところまでうまく誘導できるかどうか)

……

……

(他にも色々考えたが、結局“毒殺”が一番いいんじゃないかという結論に至った)

(毒の入手こそ大変だが、そこをクリアしちゃえば後は毒を盛るだけでいいんだからな)

8 : 以下、名... - 2021/05/18 20:34:31.87 BdylDeZQ0 8/21

……

……

(苦心して毒を入手した……)

(この小さな瓶に入った液体を少しでも飲ますことができれば、あいつは死ぬ)

(さて、いよいよだ)

「……」ポチポチ

メッセージ『久しぶりに会えないか?』

9 : 以下、名... - 2021/05/18 20:36:04.03 BdylDeZQ0 9/21

駅前――

作家「よぉ~、久しぶり!」

「久しぶり! 悪いな、呼び出しちゃって」

作家「どうしたんだよ、急に会いたいだなんて」

「この年になるとさ、昔の友達がふと恋しくなったりするんだよ」

作家「分かる分かる、俺もお前に会いたかったし」

「マジか。超奇遇じゃねえか!」

10 : 以下、名... - 2021/05/18 20:38:02.03 BdylDeZQ0 10/21

自宅に招待する。

「それにしても、親友がプロの作家になって俺も嬉しいよ」

作家「ありがとう」

「今度の新作も読んだよ、絶好調じゃん」

作家「いやー、はっきりいってスランプだよ。絶賛お悩み中」

「え、なんで?」

作家「俺みたいな駆け出しはとにかく数書かなきゃ話にならないから、もう次の作品に取りかかってるんだけど」

作家「これがなかなか難産で……」

「ふうん」

(数書いても賞すら取れない俺にとっちゃ、悩みどころか自慢にしか聞こえねえよ)

11 : 以下、名... - 2021/05/18 20:40:21.93 BdylDeZQ0 11/21

作家「お前はまだ書いてるの?」

「え、なにを?」

作家「小説」

「いやー、もう書いてないや。仕事の方が順調だし。もっぱら読む専だよ」

作家「そっかー、残念だな。お前の小説好きだったのに」

「またまたー……」

(ホントはまだ書いてて賞に落ちまくってるなんて、みじめすぎていえるわけない)

12 : 以下、名... - 2021/05/18 20:41:46.03 BdylDeZQ0 12/21

作家「二人で有名作家の家に飛び込みで行ったことあったよなー」

「あったあった」

作家「結局会ってすらもらえず、門前払いだったけど」

「サインぐらいくれてもいいじゃんかって愚痴りながら帰ったよな」

作家「で、ファミレスで食いまくったっけ!」

「そうそう! ドリンクバーおかわりしまくってさー」

アハハハハ…

「……と、飲み物ぐらい出さないとな」

作家「いいよ、おかまいなく」

「遠慮すんなって。ちょっとコーヒー入れてくるわ」

(いよいよだ……)

13 : 以下、名... - 2021/05/18 20:43:35.21 BdylDeZQ0 13/21

(あいつのカップにだけ……毒を入れる!)タラーッ…

「ほら、コーヒー」

作家「サンキュー」

(後はこのコーヒーを飲めば……こいつは死ぬ!)

(大丈夫、どうやって死体を処理するかもちゃんとシミュレートしてあるし)

(もし死体が発見されちゃっても、警察は身近な人間関係を洗うだろうが)

(古い友人の俺にまでたどり着くことはないさ……)

(大丈夫、大丈夫……)

14 : 以下、名... - 2021/05/18 20:45:05.54 BdylDeZQ0 14/21

作家「あ、悪いんだけど」

「え」

作家「ミルクもう一つくれない?」

「ああ、いいとも」スタスタ

「ほら」

作家「悪いな。いつもミルクは二つ入れる主義でさ」タラー…

(ミルクを二つ入れたところで毒の効力が薄れることはない……お前は死ぬんだよ)

15 : 以下、名... - 2021/05/18 20:46:38.85 BdylDeZQ0 15/21

「……」グビッ

作家「……」マゼマゼ

(もうまもなく、こいつはコーヒーを飲む……)

(そしたら、苦しんで死ぬ)

(だけど、本当にそれでいいのか?)

(今日は昔話してなんだかんだ楽しかったし、こいつは俺の小説を“好きだった”っていってくれた)

(こんないい奴を、下らない嫉妬で殺して本当にいいのか――?)

(こんなことして傑作なんか書けるのか――?)

作家「お、いい色になった。じゃあ俺も飲むか」

「!」

(ダメだ! それを飲んだら――)

16 : 以下、名... - 2021/05/18 20:48:10.77 BdylDeZQ0 16/21

「うわあああああっ!!!」バッ

バシャアッ!

作家「あっちい!」

作家「いきなりなんだよ! なにするんだよ!」

「すまん……すまん……!」

作家「おいおい、そんな涙目で謝らなくても……」

「いや……俺はとんでもないことをするところだったんだ……!」

作家「へ?」

17 : 以下、名... - 2021/05/18 20:50:58.52 BdylDeZQ0 17/21

(俺は洗いざらい話した)

(まだ小説を書いてること、賞にことごとく落選してること、プロになった親友に嫉妬してること)

(そして……毒を盛ったことも)



「すまん……!」

作家「いや、構わないさ。俺だってお前の立場だったら、どうしてたか分からない」

「そんなことは……」

作家「俺だってお前が思うほどクリーンな人間じゃないんだ」

作家「プロになるために、いい小説を書くために、結構ひどいこともしてる」

「そうなのか……」

作家「それにしても、今回は危うく相討ちになるところだったな」

「え?」

18 : 以下、名... - 2021/05/18 20:51:51.21 BdylDeZQ0 18/21

「う!」ドクンッ

作家「……毒が効いてきたようだな」

「は……? 毒……? いったい、いつ……?」

作家「ミルクの追加頼んだろ。あの時だ。あのスキに、お前のカップに毒薬を入れた」

「あ……!」

(あの時か……!)

19 : 以下、名... - 2021/05/18 20:54:37.00 BdylDeZQ0 19/21

「なん、で……? 俺、なんかを……?」

作家「実は今執筆してる作品で、主人公が古くからの友達を殺す場面があってさ」

作家「そこがどうしても書けなくて、難産になってたんだよね」

作家「そしたら、お前から連絡来てさ。これは渡りに船だと、毒を用意したわけ」

作家「なるほど、古い友人を殺すってのはこういう気分になるのか」

作家「こりゃ今度の作品は傑作になりそうだ」

「う、うう……」

20 : 以下、名... - 2021/05/18 20:56:02.33 BdylDeZQ0 20/21

「こんな、ことし、て……」

作家「ん?」

「警、察に……つかま、る……ぞ……」

作家「捕まらないよ」

作家「この後どうすればいいか、俺には完璧なプランがあるんだから」

作家「なにしろ俺……これが“初めて”じゃないんでね」

「……!」

作家「ついに声も出なくなったか。せめて安らかに旅立ってくれよな」

21 : 以下、名... - 2021/05/18 20:57:19.23 BdylDeZQ0 21/21

(薄れゆく意識の中……俺はどこか納得していた……)

(俺は躊躇したが……こいつは……自分の作品のために、手段と努力を、惜しまなかった……)

(これが……“プロとアマの差”か……)










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