ある書店にて――
男「……」キョロキョロ
男(店員はあっち向いてる……今だ!)サッ
タタタッ
男「やった! うまくいったぞ!」
警官「君……今、その漫画を万引きしたね?」
男「!?」ギクッ
元スレ
男「懲役30分……!?」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1619438768/
男「お、おまわりさん……?」
警官「万引きしたね?」
男「す、すみま……」
警官「謝罪は結構。万引きの現行犯で逮捕する」ガチャッ
男「手錠……!」
警官「さっそく連行させてもらおうか」
ブロロロロ…
男(まさか、こんなことになるなんて……!)
ブロロロロロ…
男「警察署に連れていかれるんですか?」
警官「警察署? なんでわざわざそんなことせねばならん」
男「え……だって取り調べとか……」
警官「必要ない。君が今から行くところは……裁判所だ」
男「裁判所……!?」
警官「なにかと忙しい今の時代、省けるところはどんどん省かねばならんからな」
男(省きすぎじゃなかろうか……)
警官「着いたぞ。降りろ」
男「は、はい」
警官「すぐ裁判が始まる。ついてこい」
男「ちょ、ちょっと待って下さい! 弁護士は……?」
警官「必要ない」
男「必要ないって……」
警官「さあ、来るんだ!」
裁判長「……」
男(なんていかつい裁判長だ……メチャクチャ迫力ある)
男(一連の流れは明らかに異常だし、俺……どうなっちゃうんだ!?)
男(とんでもない長さの懲役喰らったりして……いや、それとも)
男(まさか……死刑!?)
裁判長「これより判決を下す」カンッ
裁判長「万引きの罪で……お前を懲役30分の刑に処す」
男「懲役30分……!?」
裁判長「連れていくがいい」
警官「はっ!」
警官「さぁ、ついてこい」
男「あの……30分って短すぎませんか!? アニメ一話分じゃないですか!」
警官「たかが万引きだ。その程度で十分だろう」
男「はぁ……」
男(ここに来るまでの移動時間の方が長かったぐらいだ……)
警官「この扉を開けて中に入れ」
男「ここが……牢屋ですか」
男(いや待てよ。ただの牢屋なわけがない)
男(たとえば30分、ひどい拷問を受けるのでは……)
男(警察で新開発した拷問器具のテスト……みたいな感じで!)
男「い、嫌だっ! 入りたくない!」
警官「今さら暴れるな! とっとと入れ!」
男「うわああああああっ!」
男「……え?」
美女A「はぁ~い」
美女B「こっちいらっしゃい」
美女C「私たちと一緒に遊びましょ」
キラキラキラキラキラ…
男「は、はい……」
男(いい匂いがする……)
男(どこぞの宮殿を思わせる内装……穏やかな音楽が流れ……薄着の美女たちが手招きしてる……)
男(まるで天国……)
美女A「はい、あ~んして」
男「これは?」
美女A「ステーキよ。ものすごくおいしいんだから。はい、あ~ん」
男「あ、あ~ん」パクッ
男「う、うまいっ!」
男(口に入れた瞬間、肉汁がほとばしる! こんなうまい肉は初めてだ!)
美女B「ずる~い、私にもやらせてよ」
美女C「私にも~!」
キャッキャッ…
男「あの……ここって牢屋ですよね?」
美女A「そうよ」
男「なのになんで、こんなに快適なんですか?」
美女A「最近は囚人の人権がどうのってことで、牢屋もこういう風にしろって指導が入ったの」
男「し、知らなかった……」
美女A「だけどここに来るのはいつも凶悪そうな奴ばかり」
美女A「あなたみたいな普通そうな人が来てくれて、嬉しいわぁ~。サービスしちゃう!」ギュッ
男「はうっ!」
美女B「あっ、私も!」ギュッ
美女C「だったら私は下半身もーらい!」ダキッ
男「はうあああっ!」
男(美女が……絶世の美女が俺の全身を包み込む……!)
男(なんだこれは……!? 俺は死んで、天国に来ちまったのか……!?)
美女A「キスしちゃおっ!」チュッ
男(体じゅうにキスをもらい……)
美女B「ほ~らお酒よ」
男(見たこともない高級酒を飲み……)
美女C「ズボン脱がしていい?」
男「いいともぉ~……」
美女A「さ、楽しみましょう?」
男「ああ……楽しもう!」
警官「時間だ」
男「え」
警官「30分が経過した。お前を釈放する」
男「ちょ、ちょっと待って! これからってとこだったのに! もう少しだけ……!」
警官「ダメだ」
美女A「あ~ん、残念」
美女B「いいとこだったのに~」
美女C「また来てね~」
ヒュゥゥゥゥゥ…
男「……」
男(気がつくと、俺はシャバのどこかに放置されていた)
男(“はじめての服役”はあっという間に終わってしまった)
男(さっきの警官はマジでどこか行っちゃったみたいだし……)
男(俺は本当に釈放されたみたいだ……)
男(こういう時、普通の囚人ならば、晴れて自由の身になれたことを喜ぶべきなのだろう)
男(だけど……だけど俺は……)
男(またあの牢屋に入りたい……! あんな快楽を知っちゃったら……!)
男(どうすれば入れる……? どうすれば……?)
男(いや、あそこに入る方法なんて分かり切ってるじゃないか!)
男(そう……犯罪をやらかせばいい!)
男(万引きで30分だったんだから、もっと重い罪を犯せばもっと長く入れるはず!)
男(たとえば誰かをブン殴るとか……)
黒服「やめときな」
男「だ、誰だ!?」
黒服「あんた、さっきまで囚人だったろ」
男「なぜそれを……!」
黒服「さっきサツに解放されるあんたをたまたま見てたんだよ」
黒服「あんたの考えてることは分かる。やめときな」
男「やめろだって……?」
男「そりゃあ頭の中じゃ、犯罪はよくないって理性が叫んでるさ!」
男「だけどあの天国を味わったらもう無理だ! 俺は今すぐあそこに戻りたいんだ!」
男「止めても無駄だぞ! なんならお前をブン殴って、警察に捕まったっていいんだ!」
男「俺は……俺はぁぁぁ……!」ハァハァ…
黒服「おいおい、落ちついてくれよ。目が怖いぜ」
黒服「なにも俺はあんたが犯罪やるのを止めに来たわけじゃない」
男「え……?」
黒服「あんたはあの牢屋に戻って、美女たちと続きをしたいんだろう?」
男「そ、そうだ!」
黒服「だが、盗むだの殴るだのの中途半端な罪じゃ、またおあずけ喰らうことになるぜ」
黒服「これから楽しいのにってところで釈放されちまう」
男「たしかに……。でも長く入るにはどんなことをすればいいのか……」
黒服「いい方法がある」
男「なんだ!?」
黒服「殺人だ。殺しをやれば最低でも10年は入れてもらえる。10年もあれば思う存分楽しめるだろ」
男「おおっ!」
男「でも……誰を殺せばいいんだろう……」
黒服「ちょうどいい相手がいる」
男「え?」
黒服「もう少ししたら、あのマンションからある老人が出てくる」
黒服「動きものろいし、あんたでもあっさり殺れるはずだ」
男「だけど、罪のない老人を……」
黒服「その老人はとんでもない悪党だ。俺が保証する。罪悪感抱くことなんてないさ」
男「なるほど……。あとは武器さえあれば……」
黒服「武器も貸してやる。ほらマシンガンだ。引き金さえ引けばあんたでも撃てる」
男「サービスいい!」
男「その老人を殺れば、俺はまたあそこに戻れるんだな!?」
黒服「ああ、間違いない」
男「美女達と……あの続きを……早く……早く……」
黒服「きっと女どももあんたを待ってるさ。しっかりやれよ」
男「ありがとう!」
黒服「健闘を祈ってるよ」
男(物陰に隠れて、と……ここで見張っていよう)
男(……あ)
男(出てきた! あの爺さんに間違いない!)
男(爺さん……恨みはないが俺が牢屋(てんごく)に戻るためだ! 許せよ!)
男「うおおおおおおおおっ!!!」
ガガガガガガガガガッ…
…………
……
……
ボス「どうなった?」
黒服「遠くから監視していましたが、全て上手くいきました」
黒服「敵対組織の長老は……あの若者の手によって蜂の巣になりました」
幹部「あの長老さえ消えれば、もはやあの組織など敵ではありませぬ」
ボス「今の時代、鉄砲玉の成り手もなかなかおらんからな」
ボス「軽い犯罪をやったそこらの人間を鉄砲玉を仕立てあげるという作戦は見事に当たったというわけだ」
幹部「それに組織の者を使ったところで、裏社会の人間特有の気配を察知され」
幹部「失敗する可能性が高いですからね」
ボス「奴もまさか、どこにでもいるような若者が自分にマシンガンを乱射してくるとは思わなかったろうな」
幹部「それにしてもボス」
ボス「ん?」
幹部「あなたの裁判長姿……よくお似合いでしたよ」
ボス「たまにはああいう格好もいいものだ。お前の警官姿も決まっていたぞ」
幹部「これはどうも」
黒服「お二人とも、なにもご自分で動かなくても……」
ボス「裁判長というのは私ぐらい年長者の方がリアリティが増すかと思ってな」
幹部「私もつい遊び心がうずいてしまいましたよ」
ボス「あの若者は気の毒だったな。結局ボディガードに射殺されたとか」
幹部「まあしかし、彼とて万引きしていたのです。罪がないとはいえませんし」
幹部「それに極悪人を殺したのです。案外今頃、本物の天国に行って、美女に抱かれてるかもしれませんよ?」
ボス「それもそうだな」
ワッハッハッハッハ…
― END ―