社長「諸君。21世紀もすでに1/5を過ぎ、我が社ももっと新しい取り組みをしていかねば……」
社長「この新しい時代を生き残ることはできないだろう」
「はいっ!」
社長「そこで思いついた策が、映画産業への参入だ」
「おおっ!」
社長「大ヒット映画を生み出し、我が社の実力をアピールするのだ!」
専務「社長、映画といっても色々なジャンルがありますが、いったいどのような?」
社長「ジャンルはすでに決めている。サメ映画だ!」
オオッ……
元スレ
社長「サメ映画を撮るぞ!」社員達「うおおおおおおおおお!!!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1617527104/
専務「なぜサメ映画なのですか?」
社長「サメはあの獰猛な見た目から、人間にとって分かりやすい脅威であり」
社長「さらに逃げ場のない船での戦いになるから、緊迫感も作りやすい」
社長「つまり、非常にヒット作を作りやすい題材なのだ!」
専務「なるほど!」
社長「……反対意見はないようだな。では、正式にプロジェクトを始動させる」
社長「サメ映画を撮るぞ!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
専務「映画といえば……必要なのは全てを仕切る監督ですね」
社長「うむ」
専務「やはり、社長が監督をなさるのですか?」
社長「いや、素人が指揮をしても、ヒット作は到底望めまい。映画はそこまで甘くはない」
社長「これから、ヒットメーカーである有名監督にオファーするつもりだ」
専務「なんとしても引き受けてもらわねばなりませんね」
社長「うむ、ここで引き受けてもらわねばいきなり企画が頓挫してしまう」
監督「……サメ映画ねえ」
社長「どうかお願いします!」
監督「どうにも気乗りがしないな。ふぁぁ……あ、失礼」
社長「今のあくび……。監督、ひょっとしてよく眠れていないのでは?」
監督「よく分かったね。今、不眠症になってしまっていてね」
監督「これが解決しない限り、映画撮影どころじゃないんだよ……」
社長「そういうことでしたら、我が社にお任せ下さい!」
監督「え?」
監督「おかげで不眠症がすっかり克服できたよ!」
監督「昨日なんかたっぷり10時間寝てしまった!」
社長「力になれてなによりです」
監督「オファーの件だが、もちろん引き受けるよ。私の名にかけて、最高のサメ映画を撮ってみせる!」
社長「ありがとうございます!」
専務「監督は快く引き受けてくれましたね」
社長「うむ、これでひとまず安心だ」
専務「さて、次はどうしましょう?」
社長「優れた映画に必要不可欠なもの。それは優れた脚本だ」
社長「今あちこちのドラマや映画で引っぱりだこの売れっ子脚本家のもとに向かう」
専務「かしこまりました」
脚本家「……サメ映画の脚本ですか」
社長「ぜひお願いしたいのですが」
脚本家「うーん……」
社長「なにかお悩みでも?」
脚本家「職業柄、ここのところ目の疲れがひどくて……この状態で果たしていい脚本が書けるかどうか……」
社長「目の疲れなら、我が社にお任せを!」
脚本家「目の疲れが取れました! おかげで自信作を書けましたよ!」
社長「拝見させて下さい」
社長「おおっ、これは!」ペラペラ
社長「“主人公とヒロインがサメに襲われる”というシンプルな物語を軸に」
社長「サメの生態系、海洋の資源争い、本当の愛とは何か――複数のテーマが過不足なく絡み合い……」
社長「一大スペクタクルに仕上がっている!」
社長「この脚本なら、間違いなくヒット作ができます!」
脚本家「期待していますよ」
社長「映画スタッフは、超一流どころを揃えることができた」
専務「あとは出演者ですね」
社長「うむ……特に主演とヒロインの二人は最高の選出をせねばならん」
社長「監督とも話し合った結果、『この二人しかいない』という俳優と女優が決まった」
専務「後は……引き受けてくれるかどうかですね」
社長「その通り。まずは主演の俳優から切り崩す!」
俳優「サメ映画……面白そうですね」
社長「そうでしょう。是非あなたに主演をお願いしたい!」
俳優「引き受けたいのは、山々なのですが……今ノドを痛めていて、いい演技ができるかどうか……」
社長「ノドの痛みなら、我が社にお任せを!」
社長「俳優さんは引き受けてくれたぞ!」
専務「次は女優ですね!」
女優「まぁ、私を選んで下さって嬉しいわ」
女優「だけど、近頃お肌のハリがイマイチで……私で大丈夫かしら」
社長「でしたら、このサプリメントをどうぞ!」
女優「……!」ツヤツヤ
女優「まぁ、お肌つやつや! ぜひ出演させて頂くわ!」
社長「ありがとうございます!」
社長「監督、最高のメンバーが揃いましたね」
監督「ええ、あなたのおかげだ」
社長「さて、残るは肝心のサメをどうするかですが……」
監督「うむ、これだけのメンバーが揃ったんだ。CGではあまりにももったいない!」
社長「私も同意見です」
社長「というわけで、水族館の調教師に相談して、本物のサメを用意することにいたしました!」
監督「おおっ!」
社長「ぜひ、こちらのサメをお貸し下さい」
調教師「いいでしょう」
サメ「シャァァァァァク!」
調教師「ただ……一つだけ御社の力をお借りできないでしょうか?」
社長「なんでしょう?」
調教師「水族館のトイレの汚れがなかなか落ちず、困っているのです」
社長「そういうことでしたら、我が社の製品にお任せを!」
監督「ではいよいよ撮影開始だ!」
俳優「はいっ!」
女優「はいっ!」
サメ「シャァァァァァク!」
監督「私は決して妥協しないから、そのつもりでいるように!」
俳優「望むところです!」
女優「最高の映画を撮りましょう!」
サメ「シャァァァァァァァァァァク!」
ザバババババ…
サメ「グワァァァァァッ!」
俳優「うわぁぁぁぁっ!」
女優「サメだわ!」
サメ「グオオオオオオッ!」
女優「私たち二人とも、食べられちゃうんだわ!」
俳優「そんなことはない……必ず二人で生き残るんだ!」
監督「カーット! 緊迫感が足りない! もっと命がかかってる演技をして!」
二人「はいっ!」
監督「サメも、もっと容赦なく襲うように!」
サメ「シャァク!」
俳優「サメなんかに……負けるもんかァ!」
女優「そうよ! 生き残って……結婚式を挙げましょう!」
サメ「シャァァァァァク!」
監督「いいよいいよー! 三人とも実に素晴らしい! アカデミー賞だって狙える!」
社長(なんという熱気……! 舞台となってる海が蒸発しかねないほどに……!)
監督「……いよいよサメを退治するシーンだ!」
俳優「うっ……」
女優「大丈夫?」
サメ「シャァク?」
俳優「ちょっと船酔いしてしまって……」
社長「そんな時は我が社にお任せ下さい!」
俳優「船酔いが治った!」スカッ
監督「よし、撮影再開だ! クライマックス、最後まで気を抜かずにいこう!」
……
監督「はいオッケー! 最高のラストシーンが撮れた!」
監督「完成だ!」
俳優「終わった……!」
女優「いい演技ができたわ……」
サメ「シャァァァァァァァァァァァァァァク!」
社長「皆さん、本当にお疲れ様でした! 企画の立案者として厚くお礼申しあげます!」
専務「……いい映画ができましたね」
社長「ああ、サメ映画史……いや映画史にも残る傑作ができたと胸を張れる」
専務「これで我が社の株もますます上がるというものですね」
社長「それはもちろんだが、今はとにかくこの素晴らしい映画を世に知らしめたいという気持ちが大きいよ」
専務「おっしゃる通り」
社長「さっそくマスコミを集めて、映画の発表といこう!」
パシャッ パシャシャッ パシャッ
記者「このたびは、全く映画とは関係ない業種である御社が、映画業界に乗り込んだことで」
記者「日本中の注目を集めています」
社長「光栄です」
記者「ジャンルはサメ映画とのことですが……?」
社長「はい、最高のスタッフに恵まれ、ストーリーも演出も全て最高峰のものになっています」
社長「皆様、ぜひ映画館まで足を運んで下さい!」
社長「タイトルは――」
史上最強のサメ映画、ついに誕生!
海に潜む獰猛なサメ、その背後に潜む陰謀……果たして主人公達は生き残れるのか!?
映画『サメタオス』
202X年、小林製薬が映画業界に荒波を巻き起こす――
― END ―