北条加蓮「そうそう!」
神谷奈緒「いやいやいや、PさんはPさんだろ?逆に加蓮はPさんを何だと思ってるんだよ?」
渋谷凛「奈緒、落ち着きなよ」
奈緒「落ち着いてるよ。いきなり素っ頓狂なこと言われてビックリしてるだけ」
加蓮「素っ頓狂とは何よ!」
奈緒「素っ頓狂だろうが!」
凛「だから落ち着いてってば。加蓮、なんで急にそんなこと言い出したの?」
加蓮「…二人共、Pさんがどんな人間か説明してみて」
奈緒「え?難しいこと言うな…」
加蓮「別に難しく考えなくていいから。口調とか性格についてとかで良いから」
凛「性格…まぁ、そこまで荒い性格ではないよね。口もそこまで悪くないし」
奈緒「そうだな、タメ口で接しては来るけど、それは年齢差考えれば当然のことだし」
元スレ
神谷奈緒「はぁ?Pさんの正体?」
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1553310002/
加蓮「うん…やっぱりそうだよね…でも私、何回か見ちゃってるんだよ」
奈緒「見たって何を?」
加蓮「Pさんが他のアイドル達と話してるとこ」
凛「…?それの何かおかしいの?ここにいるアイドル全員のプロデューサーなんだから何も不思議じゃないでしょ?」
加蓮「分かってるってば。とにかく最後まで話を聞いてっての」
奈緒「分かった分かった。で?何がおかしかったんだ?」
加蓮「うん。あのね…」
柊志乃「…あら、Pさんじゃない。お疲れ様」
P「志乃さん…ああ、美優さんもご一緒ですか。」
三船美優「お疲れ様です…Pさん」
P「お疲れ様です、美優さん…二人はどちらへ…?」
志乃「今日の分の仕事は全て終わったわ…だから飲みに行こうかと…ね」
P「…ああ。前に仰っていた『しんでれら』というお店ですか」
美優「はい。志乃さんに誘っていただいたので、ご一緒しようかと…」
志乃「先にもう瑞樹ちゃんや早苗ちゃん、楓ちゃんが向かってるわ…ふふ、今日も楽しく飲めそうね…」
P「全く…お気持ちは分かりますが、飲み過ぎないようにしてくださいね。無駄な忠告でしょうけど」クスッ
志乃「ふふ…善処するわ…ではまた、ね」
美優「失礼しますね、Pさん」
P「ええ、お疲れ様でした。また明日」
奈緒「う、うん?ちょっと待て、加蓮。今の会話のどこがおかしいんだ?」
凛「うん、何もおかしいところはないよね…強いて言うなら、敬語だったことぐらい?」
奈緒「でも、敬語だっていうのも相手が志乃さんたちだったし、別に不思議でもないだろ?」
加蓮「…うん、わかってる。流石にこれだけじゃ分からないよね」
凛「っていうことは、まだ続きがあるんだ?」
加蓮「うん。年少組の子たちと話してるのを見たんだけどさ…」
P「みんな!大ニュースだよ!大ニュース!」
龍崎薫「わわっ!?どうしたのせんせぇ!?」
市原仁奈「何かあったんでごぜーますか?」
P「今度開催される『ジュニアアイドルフェスティバル』にみんなが出れることになったんだ!」
横山千佳「えーっ!?そうなの!?ってことは…またラブリーチカになれるの!?」
P「そうだ!」
ワーイ!ヤッタヤッター!ガンバロー!
橘ありす「ちょっと皆さん落ち着きましょう!それでPさん、私たちは何をやるんですか?」
P「うん、まだ企画段階だけど、皆には『ドレミファクトリー』と『なつっこ音頭』を歌ってもらおうかと考えてる」
結城晴「お!オレ、あの曲好きなんだよなー。踊ってて楽しいし」
P「そういうわけだ!ということで、しばらくは皆忙しくなる!僕も可能な限り、皆のサポートをするつもりだけど、何かあったら遠慮なく相談してね!」
佐々木千枝「はいっ分かりました!皆、頑張ろうね!」
P・アイドル達「オー!!!」
奈緒「た、確かにアタシたちの知ってるPさんからは大分かけ離れているな…」
凛「う、うーん…でも相手は年少組でしょ?そういう口調にして喋るのも不思議では無いんじゃない?」
加蓮「ふふふ…ところがどっこい、まだあるんだよね」
奈緒「え!?こ、今度は何なんだよ…!?」
向井拓海「おいプロデューサー!これは一体どういうことだゴルァ!!?」
P「ア゛ァ!?うるっせえな、いきなり何だよ!?」
拓海「これ、どう考えてもテメェの仕業だろうが!!」ヒラヒラ~
藤本里奈「おお~すごいヒラッヒラじゃーん!かわいいぽよ~!」
P「おう!絶対拓海に似合うと思ってな!頑張って営業かけた甲斐があるってもん--」
拓海「アタシにこういう服はやめろって、いつも言ってんだろうがぁ!!」ドゴォッ!
P「グハァッ!」
ギャーギャー!
大和亜季「相変わらず騒がしいですなあ」
木村夏樹「ハハッ、そうだなあ。しかしあの衣装…いつか着たメイド服を思い出すぜ」
松永涼「あ、そうか。夏樹も以前仕事でメイド服着てたんだっけな」
夏樹「そうそう、Pの熱意に負けちまってな。」
亜季「夏樹殿も苦労が絶えませんなあ」
夏樹「まあいい経験にはなったから良いさ。それに…」
涼「それに?」
夏樹「流石に拓海と違って、ああいうのはあれっきりだろうしな」
涼「ハハッ、確かにそうだな」
拓海「いや、だから夏樹!前にも言ったが、アタシも別に十八番ってわけじゃねえからな!?」
P「いや、どう考えても十八番だろ」
拓海「うるせぇ!」ドゴッ!
P「ギャフンッ!」
奈緒「アタシたちの知ってるPさんと違う!」
凛「た、確かにちょっと違い過ぎて怖いね…」
加蓮「でしょ!?あれ以来Pさんとまともに話せてないんだよ…何考えてるか分かんなくて怖いんだもん…」
凛「うーん…確かにここまでくるとプロデューサーが何者なのか気になってくるね…」
奈緒「…で?」
加蓮「え?」
奈緒「それで加蓮はどうしたいんだよ?わざわざアタシ達に相談したんだから何か考えがあるんだろ?」
加蓮「…えっとね、その…」
???「お前達!」
奈緒「へっ!?」
ベテラントレーナー「いつまで話し込んでいるつもりだ!もう休憩時間は終わってるぞ!」
凛「は、はい!すみません!」
ベテトレ「ではさっきの続きだ!三人とも気合を入れなおすように!」
凛・奈緒・加蓮「「「はいっ!」」」
その夜~加蓮の部屋~
加蓮「あー…べテトレさん厳しすぎだよ…あの後皆グロッキーで話す余裕なくなっちゃったし…」
ピロリン♪
加蓮「…ん?メール…Pさんから?」
P『大事な話がある。明日学校が終わったら、まっすぐ事務所に来てくれ』
加蓮「大事な話…?何だろ…」
~事務所~
ガチャ
加蓮「ヤッホー、お疲れー。あれ?凛に奈緒?なんでいるの?」
奈緒「いや、Pさんに呼ばれたんだよ、『大事な話がある』って」
加蓮「え、奈緒も?」
凛「…その反応から見るに、加蓮もなんだね。一体何なのかな…」
ガチャ
P「ああ、3人とも揃ったか。すまないな、わざわざ来てもらって」
凛「大丈夫だよ、プロデューサー…ってあれ?」
奈緒「べ、べテトレさん?何で一緒にいるんだ?」
ベテトレ「私の事は気にするな。それよりお前たち、プロデューサー殿に聞きたいことがあるのではないか?」
加蓮「…!そ、そうなのPさん!実は聞きたいことが--!」
P「…アイドルによって口調や性格が変わっているのは何故か、だろ?」
加蓮「…!何で知ってるの…!?」
P「昨日べテトレさんから聞いたからだよ」
ベテトレ「…実を言うと私はプロデューサー殿ががどうしてそうしているかを知っている身なのでな…昨日お前達が話しているのを聞いて、すぐにプロデューサー殿に話したんだ」
P「ああ。それでこのまま隠していてもいずれバレるという結論に達してな。話すことにしたんだ、が…」
凛「…え?」
奈緒「ぴ、Pさん、大丈夫か!?震えてるぞ!?」
P「だ、大丈夫だ…!大丈夫…大丈夫…」
ベテトレ「プロデューサー殿!落ち着け。大丈夫だ。アイドル達の事はあなたが一番よく知っているだろう?」
P「…スゥー…ハァー…ありがとうべテトレさん。おかげで覚悟は決まった」
P「じゃあ…話すとするか…」
加蓮「…た…」
凛「た…」
奈緒「たっ…!」
「「「多重人格者!?」」」
P「…そういうことだ」
奈緒「いやいやいや!そういうことだ、じゃないだろ!」
P「信じられないか?」
凛「た、確かにそう考えれば、色々と納得できるけど…!」
P「…ほら、これ。診断書だ」
加蓮「…解離性…同一性障害…?」
P「多重人格の本来の呼び方だよ」
奈緒「け、けど、いきなり信じろって言われても…!」
P「…うん。まぁ普通はそういう反応だよな…グッ!?」
加蓮「ぴ、Pさん?」
P「ッだああもう、面倒くせえなあ!信じろっつってんだろうが!」
凛「ひっ!?」
ベテトレ「プロデューサー殿!」ベシッ!
P「うがっ…!す、すまねえ…ウグ…!」
奈緒「こ、今度は何だよ…!?」
P「…申し訳ありません。怖がらせてしまいましたね…」
奈緒「お、大人しい性格に切り替わったのか…」
凛「…大丈夫だよ。それよりも、何ていうか…」
加蓮「うん、急に敬語で話される方がちょっとむずがゆいよ」
P「…ははは、確かにそうですね。少しお待ちください…」
奈緒「え?」
P「…ぷはっ。スマン、急に変貌して。急に飛び出してくるなってのに…」
加蓮「…Pさん、ひょっとして、別人格が出てる時の記憶があるの?」
P「ああ、医者曰く普通は記憶は残らないそうなんだが…まぁこれに関しては俺が例外だと言わざるを得ないらしい」
凛「その…加蓮から聞いた人格以外にも他に別人格がいたりするの?」
P「ああ、例えば茜と接するときは熱血漢の人格で対応してたりするし、ガールズパワーの皆と接するときは女性人格で接してる。他にもまだいる」
加蓮「じょ、女性人格!?」
P「まあ、平たく言えばオカマだな」
奈緒「凄いな…なあ、Pさん」
P「どうした?奈緒」
奈緒「その…答えたくなかったら、答えなくて良いんだけど…」
P「…何でこんな俺がプロデューサーをやってるのか、か?」
奈緒「…うん」
P「安心しろ。今日お前たちを呼んだのは、全部説明するためだから。答えられることは全部答えるよ」
俺の両親は、俺が幼いころに交通事故で亡くなってな。
で、残された俺は親族に引き取られることになったんだが--
まあ、あれだ。いわゆるたらい回しって奴をされてたんだ。
そりゃそうだよな。誰だって何もできない金食い虫なんか養いたくなかっただろうし。
だから親戚からはずっと疎まれてたよ。何回早く出て行けって言われたことか。
で、学校もそれが理由で転々としてたのだけど、親なしって理由で行く先々で虐められてなあ。
家に居場所はないし、先生に相談しても「お前にも原因があるんじゃないのか?」って言われて相手にされなかったし。
小学生の時はずっと地獄にいるような感覚だった。
中学に上がってからは、とにかく必死に相手の顔や感情を窺いながら過ごしてた。
「この人には常に楽しそうな顔に」
「コイツにはとにかく攻めの姿勢で」
「この先生には常に真面目な態度を」
とにかく自分に負の矛先が向けられないように。
常に相手によって感情を使い分けてたんだ。
そのおかげで何とか中学時代はうまくやり過ごせてた。
でも…多分それが良くなかったんだろうな。
高校生に上がったころから急に意識が遠のくようになってきたんだ。
で、気が付いたら普段ロクに会話もしてないクラスメイトと仲良くなってたりして…
話してる間の記憶は残ってたんじゃないのか、だって?うん、その通りだ。
でも最初は正直夢を見てたとしか思ってなかったんだよ。
それに俺自身余裕がなかったから、夢の中の事がそのまま反映されてるなら、それはそれで楽でいいとさえ思ってた。
今考えれば、アホらしいことこの上ないってのにな。
でもある日、いつものように意識が遠くなって気が付いたら…
クラスで軽く問題児扱いされてたやつを血まみれにしていたんだ。
この時は本当に何が起きたのか分からなくて、パニックに陥ったよ。
クラス中から糾弾された。お前がやったんだと。
その時になって、俺はやっと夢で見てた光景が現実で自分が起こしていた行動だと知った。
そしてその後、病院で診てもらって自分が多重人格--解離性同一性障害を患ってると知ったんだ。
で、その後は転落人生真っ逆さま。
よりにもよって皆の見ている前で暴行事件を起こしたもんだから、高校は退学。家も追い出された。
今でも忘れられないよ。追い出す口実を得た時の叔父さん叔母さんの笑顔は。
それから数年は日雇いや住み込みのバイトとかで必死に食いつないで生きてたんだけど…
多重人格のせいでどこも長くは受け入れてくれなかった。
そして遂にお金が底をついて、もう死ぬのかな…って思いながら公園で横になってた時に…
社長と出会ったんだ。で、アイドルのプロデューサーをやってみないかって言われたんだ。
社長曰く、「ティンときた」らしいけど正直最初は、はあ?ってなったよ。
当然断った。多重人格の事も勿論伝えた。
そんな自分にアイドルのプロデューサーなんて出来るわけないと。
そしたら社長、何て言ったと思う?
「素晴らしい!それだけの個性を内包してるのならば、上手く使えばありとあらゆるアイドルと
パーフェクトコミュニケーションをとれるということではないか!」
もうね、何をアホなことを言ってるんだこのオッサンって唖然としたよ。
でもさ、それ以上に嬉しかった。今まで多重人格を否定する人たちはいても、肯定してくれる人なんていなかったから。
そう思ったら、もう涙が止まらなくてさ。まっ昼間から年甲斐もなくワンワン泣いちゃって社長を困らせちゃったよ。
で、ぜひ働かしてほしい。やらせてくださいって頼みこんで、今に至るわけだ。
P「…これが俺がプロデューサーをやってる理由…って、うお!?」
凛「グスッ…」
奈緒「ウアァァン…」
加蓮「ヒック…ヒック…」
P「ちょ、お前達どうした!?」
奈緒「だって…こんなの聞いたら…泣いちまうだろうよぅ…」
加蓮「アタシ…知らなかったとはいえ、Pさんに我儘ばかり言ってた…」
凛「私も…何度もプロデュース方針に噛みついてた…ゴメン…プロデューサー…」
P「わ、分かったから落ち着いてくれー!」
P「…落ち着いたか?」
凛「うん…」ズズッ
加蓮「アタシも…うん、落ち着いた」
奈緒「スー…ハー…でも…凄いよPさんは」
P「何がだ?」
奈緒「だってそれからずーっとプロデューサーをやってきたわけだろ?その…別人格を残したまま」
奈緒「最初は大変だったんじゃないのか?その…アタシ達にはとても想像できない苦労とか、さ」
P「…そうだな。最初は本当に大変だった。荒い気性の人格が突然出てきて、いきなり暴れたりとかもしたし」
P「それこそ社長をはじめ、ちひろさんやべテトレさん、他の社員達にもかなり迷惑をかけた」
加蓮「…あ。だからべテトレさん、Pさんの事を知ってたんだ…」
ベテトレ「そういうことだ。私が新人トレーナーだった時、突然暴れだしたプロデューサー殿に思い切り突き飛ばされた事、未だに覚えてるからな?」
P「そ、その節は本当にご迷惑をおかけしました…」
P「…まあ、とにかく最初は自分の中の人格を抑えることに必死だった」
P「けど、不思議なもんでな…周りに助けられて精神的に余裕が出てきたら、段々と他の人格達が大人しくなり始めたんだ」
P「それでやっと気が付いたんだ。余裕がなくなってたのは、俺だけじゃない。他の人格達もだったんだと」
P「そう思い至った瞬間、ビックリしたよ。『ようやく気付いたか、バーカ』って声がしたんだ」
P「そしたら、今度は色々な声が頭の中で、わちゃわちゃしだしてさ。思わずうるせえ!って声に出しちゃって周りにまたか!?って心配されちゃったよ」
P「で、そこから何年もかけて、自分の中の全部の人格と話し合って…その結果、色んなアイドルとうまくやれるようになったってわけ」
加蓮「…何というか…凄いね」
凛「うん…どれだけの苦労があったのか想像もできない。まるで…」
P「フィクションの物語を聞いてるみたい、か?」
凛「…!ご、ゴメン!プロデューサー!」
P「気にしてないよ。自分自身マンガみたいな人生歩んでるって自覚はあるしな」
奈緒「でも…よく今まで他のアイドル達に知られなかったな…」
P「…ウチは基本ユニット単位での活動がメインだからな。それに今抱えてるの、人気ユニットばかりだし」
奈緒「あ、そういう事か。ユニット同士の交流とかも少なかったから、ユニット毎のPさん像を知ることがなかったのか…!」
P「まあ、一部の聡いアイドルは違和感は感じてたかもな…まあ、どちらにせよ、それも今日で終わりだ」
凛「…?ちょっと待って。それどういう事?」
P「決まってるだろ?退職するんだよ」
加蓮「なっ!?」
ベテトレ「ちょ、ちょっと待てプロデューサー殿!私も初耳だぞ、それは!?」
加蓮「な、何でプロデューサーがやめる必要があるの!?」
P「前々から決めてたんだ。アイドル達にバレたらやめるって」
奈緒「何でだよ!アタシ達、今の話を聞いたからってPさんの事、嫌いになったりなんか--!」
P「お前たちはそうだろう。だが年少組は?こんないつ豹変するかもわからない、怖い大人に傍にいてほしくはないだろう?」
凛「何言ってるの!?今まで年少組の子達には別の人格で相手にしてきたんでしょ!?これからもそうしていけばいいだけじゃん!?」
P「…本音を言うと…少し前から罪悪感を感じてたんだ」
凛「罪悪感…!?」
P「…アイドル達はどんどん成長している。ありのままの自分で前を向いて進んでいっている」
P「だが自分はどうだ?和解したとはいえ自分とは違う別人格を使って話して…そんな自分が前を向いて進んでいるといえるのか?」
P「自分に出来ないことを別人格に押し付けて逃げているのではないか?そんな考えが頭から離れないんだ」
加蓮「そんなこと…!」
P「…もう社長とは昨日のうちに話を通してある。次のプロデューサーが雇われ、引継ぎが終わり次第、俺はお役御免だ」
奈緒「そんな…!」
P「他のアイドル達にも明日全てを話す。…こんな形でお前たちと別れるのは本当に申し訳ないと思っている」
P「だが、これは俺なりのケジメだ。どうか分かってくれ…じゃあな。長々と拘束してすまなかった」
ガチャ…バタン
奈緒「P…さん…」
次の日、事務所に集められた全アイドル達がプロデューサーが辞めることを知らされた。
当然、皆混乱した。それはそうだ。突然プロデューサーが辞める上に多重人格者だと知らされたのだから。
中には混乱のあまり、泣き出す子もいた。怒りに震える者もいた。呆然とする者もいた。
まさに阿鼻叫喚という言葉がぴったり当てはまるほどの光景だった。
…Pさん…
これが…アンタの望んでいたことだったのか…?
~奈緒の部屋~
奈緒「はあ…どうすればいいんだろうな…これから…」
ピロリン♪
奈緒「ん…?加蓮からメッセージ…?」
奈緒「…!」
奈緒「ナイッスアイデアだ!加蓮!」
~1週間後 事務所 社長室~
ガチャ
P「失礼します」
社長「おお、来たなP君。まぁ座りたまえ」
P「…それで、ご用件というのは?」
社長「言わずともわかるだろう?」
P「…ですよね。つまり、もう後任のプロデューサーが?随分と早いですね…」
社長「いや、そうではない。君の退職だが、なかったことにさせてもらいたいのだよ」
P「…はい?」
P「いや、ちょっと待ってください!自分はもう彼女たちの傍にいる資格は--!」
社長「これを見てもそれが言えるかね?」
ドサァッ!
P「こ…これは?」
社長「君を辞めさせないでほしいという旨の嘆願書だ。君の担当アイドル全員分の、な」
P「な、何で…?」
社長「渋谷君達トライアドプリムスの三人がアイドル達に呼び掛けたそうだよ」
社長「全く…いきなり大量の嘆願書を持ってこられたときは何事かと思ったよ。随分と慕われているじゃないか」
社長「プロデューサー冥利に尽きるというものだろう。これを見ても、まだ辞める等と言い張る気かね、君は?」
P「……し、しかしですね…」
社長「付け加えさせてもらうと、だ。渋谷君たちはアイドル達に質問したそうだ。『プロデューサーについてどう思うか』とね」
P「…え?」
社長「そうしたら皆、口を揃えてこう言ったそうだ」
社長「『アイドル想いの優しい人』だとね」
P「…ッ!」
社長「それぞれ違う人格の君と相手をしていたというのに、皆同じ意見を言った。どういうことか分かるかね?」
P「……」
社長「例え別人格でも根っこは君と同じということだよ」
社長「さてここで質問だ。主人格である君の担当はトライアドプリムスだ。君は彼女たちとしっかり向き合ってきた自負はあるかい?」
P「…はい、私なりに精一杯、彼女たちと向き合ってきたつもりです」
社長「では更に質問だ。別人格の君たちは、それぞれ君とは違うアイドルを担当してきた」
社長「『彼ら』は…きちんと担当アイドル達と向き合ってきたといえるのか?答えは--聞くまでもないね?」
P「……!」
社長「無論、イエスだ!根っこが君と同じであるならば、例え別人格といえどもアイドル達を蔑ろにするはずがない!」
社長「君は逃げてなどいない。しっかり前を向いて、アイドル達と歩んでいるのさ」
P「…っ…ふっ…うぅ…」
社長「全く…君は一人で背負い過ぎなのだよ。辛いときは、遠慮なく周りを頼りなさい」
社長「こっちはもう散々迷惑をかけられている身なんだ。今更少し迷惑をかけられたところで何とも思わんよ」
P「ありがとう…ございます…!」
…自分は一番の前提を忘れていた。
例え性格が全く違っても
例え俺とは別の意思を持っていたとしても
俺は
俺なんだ--!
~次の日~
奈緒「…アタシ達の想い、Pさんに届いたかな…」
加蓮「どうだろうね…」
凛「…私たちに出来ることはやったよ。後はもう祈るしかないと思う」
奈緒「だよなあ…」
ガチャ
P「おはようございます…あ」
凛・奈緒・加蓮「「「Pさん!?」」」
P「…よ、よう。その…色々と迷惑をかけ--」
奈緒「Pざぁぁぁん!」ズドォン
P「ゴハッ!?」
奈緒「うわぁあああ戻ってぎたあああああああ!!」
P「な、奈緒…っ!ちょ、おま、離れ…!」
加蓮「ぷっ…!あはははっ!奈緒、凄い顔になってる!」
凛「ふふっ…!加蓮もヒドいことになってるよ」
奈緒「…!」
奈緒「う、うわぁああああああああああああ!何やってんだアタシはーーーーー!」
P「は…ははっ…!ははははは…!」
加蓮「じゃあ…Pさん、今後も続けてくれるんだ」
P「ああ。今後もお前たちのプロデューサーとして全力で向き合うつもりだ」
凛「よかったね、奈緒」
奈緒「な、何でアタシに振るんだよ!?」
加蓮「あれ~?一番Pさんの事で動揺しまくってたのはどこの誰だっけ~?」
奈緒「う、うううう、うるさい!あの時の事はもう忘れろ!忘れろぉ!」
凛「ふふっ、奈緒、かわいい」
奈緒「あーーーーーーもおおおおおおおお!」
P「あー…すまんが、そろそろ今日のスケジュール、確認してもいいか?」
加蓮「むぅ、しょうがないか。じゃあ奈緒いじりはおしまい」
奈緒「はぁ…はぁ…ありがとうPさん…」
凛「それで?プロデューサー、今日の予定は?」
P「ああ、今日はまず10:30からブーブーエスで--」
P「…以上が今日のスケジュールだ、何か問題はあるか?」
凛「ううん、問題ないよ」
奈緒「うっし!今日も頑張っていこうか!」
加蓮「うーん…ポテト食べる時間あるかなあ…」
奈緒「あのな加蓮、お前この前も食べただろ。今日はやめとけっての」
加蓮「ブーブー」
P「よし、じゃあ今日も頑張ってくれ!」
凛・奈緒・加蓮「「「はい!」」」
加蓮「ねえ、奈緒」
奈緒「ん?何だ、加蓮?」
加蓮「Pさんの正体、判明したね」
奈緒「…ああ、そうだな!Pさんの正体は--」
アイドル想いの--優しいプロデューサー!
終
55 : ◆tWcCst0pr6pY - 2019/03/23 21:40:40 lCZ 47/47はい、思ってた以上に時間かかってしまいましたが
これにて終了です。
見てくれた方、ありがとうございました。
デレステのコミュ見てて
「プロデューサー、コミュごとに性格違い過ぎるだろ。多重人格者なんじゃねえの?」
と思ったのがこの話を思いついたきっかけでございます。
ちなみに過去にもSS投稿してたりしてます。
前作こちら↓
遊佐こずえ「おらおらー・・・」
https://ayame2nd.blog.jp/archives/18739262.html
良ければ読んでくださると幸いです。
改めて、ありがとうございました。