にこ「うさんくさいわね、そんなこと言ってからかおうとしてるんでしょ?」
真姫「違うわよ! 確かにうさんくさいのは認めるけど・・・」
真姫「私ももらったものだからよく知らないのよ。なんでも押すと何かランダムで記憶が一つなくなるけど願いが叶うんですって」
海未「記憶がなくなるのは怖いですね」
希「でも、消えてしもたら何が消えてしもたか気付けないんじゃない?」
絵里「その記憶は最初からなかったことになって願いが叶う。単純だけどおそろしいわね」
花陽「記憶を失ってまで叶えたい願いかぁ・・・」
凛「もしμ'sの記憶が消えちゃったら、って思うと怖いにゃ・・・」
元スレ
にこ「押したら願いが叶うボタン?」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1363437316/
ことり「でも消える記憶はランダムなんだよね?」
真姫「実際疑わしいけどね。ランダムって言いながら実はランダムじゃない可能性だってあるし」
絵里「記憶が消えちゃうわけだし確かめようがないわ」
希「そもそもランダムかどうかなんて調べようもないしな」
海未「それに、代償が記憶が一つというのでは少し範囲も曖昧ですよね。μ'sの記憶が消えるのとμ'sの誰かの記憶が消えるのでは同じ一つですが範囲が全然違いますし」
穂乃果「うぅ・・・頭痛くなってきたー!」
凛「難しくて凛には分からないにゃ・・・」
穂乃果「使ってみたら分かるんじゃない?」
花陽「穂乃果ちゃんは怖くないの!?」
にこ「そうよ、どうでもいい記憶ならまだしも、さっき凛ちゃんが言ったみたいにμ'sとか大切な記憶が消えたりしたら・・・」
絵里「このボタンの真偽はさておき、もし本物だったら怖いし使わないに越したことはないわね」
真姫「それには賛成。そもそも、誰か信用できる人に渡して閉まっておいてほしくて持ってきたのよ」
希「スピリチュアルなものならウチは歓迎だけど」
にこ「希ちゃんは試しに1回使いかねないわよね」
希「スピリチュアルやからね」
真姫「この頃スピリチュアルがゲシュタルト崩壊してきたんだけど」
ことり「海未ちゃんなら意志も堅いし使わないんじゃない?」
海未「私ですか!? わ、私はそんな怖いもの嫌ですよ!」
穂乃果「絵里ちゃんは?」
絵里「私も預かってあげたいけど亜里沙が見つけて押しちゃう可能性もあるし・・・」
真姫「花陽は」チラッ
花陽「」ウルウル
真姫「花陽に押しつけるのも可哀想よね。穂乃果も妹がいるし、凛は間違って押しそうだし・・・」
凛「そのイメージはひどいにゃ!」プンプン
にこ「仕方ないわね、にこが預かってあげる」
真姫「にこちゃんが一番心配なんだけど」
希「にこっちも1回くらい、って言って押しそうやな」
絵里「真姫に良いとこ見せたいのは分かるけど、押しちゃダメなのよ?」
ことり「もし良かったら私が預かるし・・・」
にこ「私はなんでそんなに信用ないのかしらねー!」ムキー
海未「日頃の行いです」
にこ「やってやるわよ、部長として預かってみせるわよ!」
穂乃果「流石にこちゃん、頼りになるー」パチパチ
凛「流石は我らがにこちゃんにゃ」パチパチ
最初の内はみんなボタンのことを聞いてきた。
けど2週間もするとみんな聞いてこなくなって、次第にボタンのことなんて話題にも出なくなった。
1ヶ月も経つと鍵のかかる引き出しにしまっておいたボタンのことを、私もすっかり忘れていたところだった。
にこ「今日も練習疲れたわねー」アセダク
真姫「にこちゃんの体力がないだけよ」ヤレヤレ
凛「にこちゃんの体力をつけるために校門まで競争にゃー」ダッ
穂乃果「私も私もー」ダッ
にこ「ちょっと、待ちなさいよー!」ダッ
希「あの3人は仲良しやな」
海未「3人とも馬鹿ですから」
ことり「見てて和むよね」アハハ
絵里「気をつけなさいよー。まったく、危なっかしいったらありゃしないわ」
花陽「まるで姉妹みたいだよね」エヘヘ
真姫「姉妹ならにこちゃんは一番下ね」
にこ「真姫ちゃーん、何か言ったー?」ゴゴゴ
真姫「こ、ここからにこちゃんの所まで結構離れてるわよね?」
真姫「どれだけ地獄耳なのよ・・・」
にこ「アイドルならこれくらい聞こえて当然よ!」ドヤァ
海未「アイドルとは一体・・・」
絵里「にこのことだから真姫のどこかに盗聴器でもセットしてるんでしょ?」
海未「確かににこならやりかねませんね」
ことり「にこちゃん、真姫ちゃんが大好きだもんね」
にこ「あんた達の中で私はどうなってるのかしらねー!」
事件はその夜に起きた。
――いや、それは事件なんて生やさしいものじゃなくて、大事件。
それは1件の電話から始まった。
ト~ド~ケ~マホ~♪
にこ「こんな時間に誰よ・・・。穂乃果ちゃん? 何の用かしら?」ポチッ
にこ「もしもs」
穂乃果「にこちゃん! とりあえず家に来て!」
にこ「えっ!? ちょ、こんな時間にどうして!?」
穂乃果「全部後で説明するから来て!」
穂乃果「それじゃあ、また後で!」ピッ
穂乃果ちゃんは尋常じゃないくらい慌てていて、それがただごとじゃないことはすぐに分かった。
既に寝る支度を済ませていた私はなるべく素早く出かける準備をして穂乃果ちゃんの家に向かう。
穂乃果ちゃんの家につくと、穂乃果ちゃんの妹に部屋に通される。
穂乃果ちゃんの部屋には真姫ちゃん以外のμ'sメンバーがそろっていた。
かよちんは泣き崩れ、凛ちゃんがそれをなだめている。
ことりちゃんは顔面蒼白、海未ちゃんはうろうろして落ち着かない様子だ。
絵里ちゃんは一見落ち着いているように見えるけどそわそわしているのが見て取れる。
あの希ちゃんや穂乃果ちゃんでさえ、笑顔をなくしている。
事は私の想像を超えて大事であるのが安易に想像出来た。
それと同時に真姫ちゃんがいないことへの不安も大きくなっていく。
海未「穂乃果! にこも来ましたし早く!」
絵里「海未、一旦落ち着きなさい。にこにきちんと説明をしてから」
海未「でも、事態は一刻を争うかも知れないんですよ!」
絵里「だからって私たちに出来ることはないでしょ!?」
にこ「い、一体どうしたっていうのよ?」
海未ちゃんがあんなにも取り乱しているのが私の不安を煽る。
いつもあんなに落ち着いている海未ちゃんが、こうも取り乱すのだからただごとじゃないのは明らかだ。
穂乃果「落ち着いて聞いてね。真姫ちゃんがね――」
――交通事故にあったの。
その言葉はまるでとてつもなく遠くから聞こえたように感じる。
にこ「交通、事故・・・?」
冷たい水をかけられたみたいに、いや全身の血が凍ったかのように身体の冷たくなってくる。
にこ「は、はは、笑えない冗談ね」
冗談じゃないのは一目瞭然だった。けれど頭がそれを受け入れない。
海未「冗談なんかじゃないです!」
にこ「じゃ、じゃあ病院に行きましょうよ。真姫ちゃんのお見舞いに。怪我はどんなものなの?」
穂乃果「にこちゃん、真姫ちゃんはね」
このみんなの様子からして穂乃果ちゃんの次の言葉は大体察しが付いていた。
自分で聞いておきながら今すぐ耳を塞ぎたい。
けれど、耳を塞いじゃいけない。私は、それを聞かなきゃいけない。
穂乃果「自動車に轢かれて引き摺られて」
また全身の血が凍る。血どころか全身くまなく凍っているのではないかとさえ思えてくる。
穂乃果「まだなんとか息はあるけど助かる見込みはほとんどないって」
考えていた最悪ではなく、まだ息があることに安堵して、けれど助かる見込みはほとんどないということに絶望する。
にこ「・・・ぁ」
声が上手く出せない。
いつも生意気で、今日の練習後もあんなに生意気を言っていた真姫ちゃんが今そんな状態であることを、信じられない。
真姫ちゃんとの記憶が次々とリフレインする。
軽口を言い合って、私にとって親友とも言える存在だった真姫ちゃん。
友達を作るのが得意ではない私にとって、唯一無二の親友であった、真姫ちゃん。
絵里「にこ・・・」
にこ「・・・ぁぁ」
質の悪い冗談であって欲しかった。けれどみんなの様子は冗談ではないを物語っている。
絵里ちゃんがさっき言ってた通り、私たちに出来ることはない。
絵里ちゃんが近付いて私の肩をそっと抱いてくれる。
海未「は、早く病院に!」
絵里「にこがこんな状態でいけるわけないでしょう!?」
私たちに出来ることは・・・ことは・・・何もない・・・?
にこ「」バッ
希「にこっち!?」
絵里「急に立ち上がってどうしたの!? 落ち着いて!」
――ある。
私たちに――私に出来ること!
にこ「!」ダッ
穂乃果「にこちゃん!」
うまく声は出せない。走ろうとしても足はもつれる。
けれど、そんな身体に鞭を打って走る。穂乃果ちゃんの家を飛び出す。
μ'sの大切な仲間を、大好きな真姫ちゃんを助けられる方法があるのだから。
絵里ちゃんを、穂乃果ちゃんを、希ちゃんを振り払って、走る。
しばらく走って、私の家が近くなってくることにはみんな諦めたのか追ってこなくなる。
携帯にメールが入る。おそらく穂乃果ちゃん達だろう。
けれど確認してる暇も惜しい。
一刻も早く、目的地に行かなきゃいけない。
目的地は自分の家、自分の部屋。
そこに探しているのがある。
家について、挨拶をせずに自分の部屋に駆け込む。
自分の部屋に入って、電気も付けずに探し物が入っている引き出しを引く。
しかしその引き出しには施錠の手応えがあり、開かない。
鍵をかけていたことさえ、忘れていた。
一刻も早くそれを見つけなければならない、その気持ちばかり先行している。
探してみると案外すぐに鍵は見つかった。
けれど手が震えて上手く掴むことが出来ない。
やっとの思いで掴み、それを一対の鍵穴に差し込む。
にこ「お願い・・・!」
震える手で鍵を回して、施錠を外し引き出しを開ける。
願いが叶うボタン。
これが本物なら、真姫ちゃんを助けられる・・・!
真偽は定かではない、けれど――
にこ「試さないよりはましよ!」
真姫ちゃんが助かるんだったら、記憶の一つくらい安いものよ。
大好きな真姫ちゃん。
真姫ちゃんの笑顔が、ふて腐れた顔が、照れた顔が、真姫ちゃんの色々な顔が思い出される。
私の中で西木野真姫という存在がとても大きなものになっているのに気付いた。
真姫ちゃんが助かったら、真姫ちゃんに文句を言ってやらなきゃいけない。
私をこんなに心配させたことを、いっぱいいっぱい文句言ってやる。
文句を言った後に、伝えたい。
またいなくなってしまう前に一言。
にこ「真姫ちゃんを、助けなさい・・・!」ポチッ
真姫ちゃん、大好きって。
押した。
――押したけれど何も変わらない。
いや、何も変わってないように見えるだけで何かが変わっているのだろうか。
私の願いは、願いは・・・。
にこ「何を願ったんだっけ?」
思い出そうとしても、何も思い出せない。
私は一体この願いが叶うボタンに何を願ったと言うんだろう。
そこで考えが結びつく。
そうか、代償で消えた記憶は願いの記憶ということだ。
願い自体は覚えてないけれど、記憶が消えたということはその願いは確かに叶ったということでいいのだろう。
空虚。
走った所為だろう。
身体がだるくて動く気になれない。
走ったと言うことはその願いはそれほどに大切なものだったはずだ。
思い出せない願い。
大切であったはずの願い。
ト~ド~ケ~マホ~♪
静まりかえった部屋に、場違いな明るい音楽が鳴り響く。
携帯の着信音だ。
そういえば走ってる時におそらく穂乃果ちゃん達からメール来てた。
そんなことを思い出しながらながらだるい身体を動かし携帯のディスプレイを見ると案の定というべきか、高坂穂乃果、と書かれている。
にこ「出ないと心配かけるわね」ポチッ
にこ「もしもし」
穂乃果「にこちゃグスッ・・・大ニュース・・・!」
穂乃果ちゃんは泣いていた。
泣くほどの大ニュースなのだろうか。
泣くほどのニュースなんてそうそうないものだと思うんだけど。
穂乃果「真姫ちゃんが・・・! 一命を取り留めたって!」
穂乃果「後遺症もなくてグスッ・・・まるで奇跡だって・・・!」
穂乃果ちゃんは心底嬉しそうにそういう。
周りのみんなも騒いでる様子で、電話越しにそれが伝わってくる。
けれど、私には一つだけ分からないことがあった。
にこ「真姫ちゃんって」
――誰?
おわり