ガタンゴトン… ガタンゴトン…
女上司「……あ」
女上司「始発電車……来ちゃったね」
部下「はい……」
女上司「昨日は二人でしこたま飲んで、終電を逃して……」
部下「逃したからってまた酒飲んで……」
女上司「今日も会社あるってのにねえ……」
部下「どうしましょう……」
元スレ
女上司「始発電車……来ちゃったね」部下「はい……」
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女上司「あー、頭痛い。吐き気がする」
部下「僕も二日酔いがひどいです……」
女上司「いっそ会社休んじゃおっか?」
部下「流石にそれはまずいですよ。二日酔いで休むなんて社会人失格です」
女上司「だよねえ……。今日は色々用事あるし……」
プシュー…
女上司「しょうがない……今日一日なんとか二人で乗り切ろう」
部下「はい……」
―会社―
女上司(あー……頭痛がする)
女上司「みんな揃ったわね。それじゃ朝礼を始めまーす」
同僚「はいっ!」
部下「……はい」
女上司「うう……」
同僚「あの」
女上司「なに?」
同僚「顔色が悪いですけど……真っ青ですよ?」
女上司(まずい……二日酔いなんて知られたら上司失格だわ!)
女上司「これは……この顔色は……」
同僚「どうしたんですか?」
女上司「家が……水に流されちゃったの! だから青いの!」
同僚「ええっ!?」
部下(さすがだ……! ごまかし方も完璧だ!)
同僚「それは……災難でしたね」
女上司「どうってことないわよ」
同僚「ところで……」
部下「ん?」
同僚「お前も顔色悪いな。真っ赤だぞ」
部下「え……!」
部下(僕は少しでもアルコールが入るとすぐ赤くなるからな……)
部下(二日酔いなんて知られたらサラリーマン失格だ! こうなったら……)
部下「家が……火で燃えちゃって。だから赤いんだ」
同僚「えええっ!?」
部下(よし……! 完璧にごまかせた!)
同僚「お前も……災難だったな」
部下「どうってことないさ」
女上司「まだ頭が痛い……」
部下「僕もです……」
女上司「こういう時ってどうすればいいんだろ?」
部下「頭を叩くと、かえってよくなるって聞きますけど」
女上司「じゃあ叩き合ってみよっか。えいっ!」ペシッ
部下「このっ!」ペシッ
ペシッ! パシッ! ベシッ! ペシッ!
女上司「うう……痛い」
部下「かえって痛くなりましたね」
部長「女上司君、そろそろ会議を始めるぞ」
女上司「はいっ!」
女上司「さ、課のみんな会議室に集合よ」
部下「はいっ!」
同僚「はいっ!」
女上司(うう……だけど頭痛い。こんなんでまともに会議できるかな……)
部下(辛そうだな……ここは部下としてフォローしないと!)
部長「えー、では今後の方針は……」
女上司「頭がガンガンする……」
部長「ガンガン?」
女上司「え?」
部長「君……今ガンガンといったよね? どういう意味だね?」
女上司「あの、それは……」
部下「部長!」
部長「ん?」
部下「今のは……ガンガンいこうぜ! ……ってことですよ!」
部長「なるほど、そういうことか」
部長「実に君らしい方針だ! これからも強気で頑張ってくれたまえ!」
女上司「ありがとうございます!」
女上司(部下君、ありがとう……)
部長「なにか新商品の提案はないかね?」
女上司(また頭痛くなってきた……)
女上司「ズキズキする……」
部長「ズキズキ?」
女上司「え……?」
部長「君……今ズキズキといったよね? どういう意味だね?」
女上司「えぇと、それは……」
部下「部長!」
部長「ん?」
部下「頭巾! 新商品は頭巾はどうでしょう!?」
部長「ふむ……頭巾か。いいかもしれん。次世代の頭巾……売れるかもしれんな!」
同僚「いいですね!」
社員「やりましょう!」
部下(みんな乗り気だ……上手くいきますように……)
女上司「やっと会議終わったけど、食欲がない……」
部下「僕もです……」
同僚「二人とも、メシ食いに行きません?」
女上司(ここで二日酔いでご飯を食べられないといったら、上司の恥……!)
女上司「実は……昨日胃を切除したから……」
部下「僕は腸を切除して……」
同僚「わ……分かりました……お大事に……」
女上司「上手くごまかせたわね」
部下「はい、完璧です」
女上司「午後は取引先に向かうわよ」
部下「ええ、手強い相手ですけど、今日こそ例の契約を取りましょう!」
女上司「だけど……まだ酔いが抜けてない。この状態で車出したら絶対事故るわ」
部下「最悪酒気帯び運転で捕まることもありえますね」
女上司「事故や酒気帯び運転なんて、会社員として絶対あってはならないことよ」
部下「電車にしますか?」
女上司「あの会社、駅から遠いしあまり意味ないのよねえ」
部下「じゃあ……」
部下「走りましょう! 走って取引先へ向かいましょう!」
女上司「そうね! 走ればきっと酔いも抜けるわ!」
部下「じゃあ、位置について……」
女上司「ヨーイ……ドン!」
タタタタタッ…
部下「なかなか速いですね」
女上司「私だってまだまだ若いんだから!」
タタタタタッ…
女上司「ぜはっ、ぜはっ、ぜはっ……!」
部下「や、やっと着いた……! 間に合った……!」
女上司「着いたはいいけど……走ったせいで……さらに酔いが……!」
部下「ええ……二日酔いがぶり返してきました……!」
女上司「ど、どうしよ……?」
部下「とにかく、打ち合わせには遅刻できません……! 入りましょう……!」
女上司「……」ダラダラ
部下「……」ベトベト
取引先「あの……そんなに汗だらけでどうしたんです?」
女上司「ええと……緊張してしまって……」
取引先「おおっ、今時のビジネスマンは適度の緊張もなく商談に臨む人が多いですからねえ」
取引先「緊張して頂けるとは、私としても光栄ですよ!」
女上司「あ、どうも……」
取引先「例の契約ですが、まだ社内で意見がまとまってなくて……残念ながら……」
女上司(う……吐きそう)
女上司「オエッ!」
取引先「オエッ?」
部下「!」
部下「ほ、ほら……“嗚咽同舟”と申しますでしょう?」
部下「たとえ敵同士でも、これからは手を取り合っていかねばならないのです!」
取引先「深い……!」
部下(今度は僕が吐きそうだ……)
部下「グエッ!」
取引先「グエッ?」
女上司「グエッ、グエッ、グエッ、チョコボ~ル!」
取引先「ああ、私も好きですよ。チョコボール!」
女上司「ホントですか! 私も大好きで、給料は全てチョコボールにつぎ込むほどで……」
取引先「いやぁ、今日の商談ははかどりますなぁ!」
女上司「オエエッ!」
取引先「どうしました?」
部下「え、えぇと……つわりです、つわり!」
取引先「あれ? ご結婚されてましたっけ?」
部下「あの……してないですけど……まぁ、色々ありまして!」
取引先「妊娠しておられるのに産休も取らず頑張っておられるとは……感動しました!」
女上司「産休なんてノーサンキューですわ。オホホホ……」
取引先「しかし無理なさらないで下さいね」
部下(この人いい人すぎる)
部下(またこみ上げてきた! だけど……)
部下「吐かない……吐かない……」
取引先「はかない?」
女上司「……ビジネスとは“儚い”と申し上げたのです!」
女上司「どんなに親密になっても、それは仕事上での付き合いに過ぎないのですから」
取引先「あっ……!」
女上司「しかし、私たちは違います!」
取引先(なんというコンビ……! 今まで渋ってたが今日こそ契約しよう!)
取引先「では、契約ということで」
女上司「ありがとうございました!」
部下「今後とも弊社をよろしくお願いします!」
女上司「なんだか分からないけど、契約取れたわね!」
部下「はい! 怪我の功名ならぬ酔いの功名ですね!」
女上司「じゃ、帰りも走って帰社しましょう!」
部下「負けませんよ!」
ダッ!
キーンコーン…
女上司「終わったー!」
部下「今日一日……乗り切りましたね!」
女上司「残務を処理したら……さっさと帰りましょう!」
部下「はいっ!」
女上司「今朝はどうなることかと思ったけど、何とかなるものね」
部下「ええ、すっかり酔いも覚めました」
女上司「……」
部下「……」
女上司「ちょっとだけ……飲んでかない? ほら、無事一日を終えられた記念に」
部下「そうですね。ちょっとだけ……」
…………
……
……
……
女上司「終電……行っちゃったね」
部下「はい……」
女上司「明日も会社あるのに……」
部下「どうしましょう……」
― 完 ―