女「あたし……とんでもない秘密があるの」
男「秘密? どんな?」
女「あたしさ、二重人格なんだ」
男「へ、へぇ~」
女「たまーに出てきちゃうの。もう一つの人格が。……う!」
男「ど、どうしたの?」
女「あっ、出る出る! 出ちゃうっ!」
男「え……!」
元スレ
女「あたしさ、二重人格なんだw」男「へ、へぇ~」
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女「ぐぐぐ……ダメ、出てきちゃダメ!」
男「だ、大丈夫?」
女「……」
男「もしもし……? 女さん……?」
女「なんだお前は?」
男「最近君と知り合った者だけど」
女「知らねえなァ! お前なんて! 気安く話しかけるんじゃねえ!」
男「ええっ!?」
女「自己紹介してやる。アタシの名は“ナンオ”」
男「ナ、ナンオ……!?」
女「お前が何者か知らねえが、アタシになったからにはビシバシやらせてもらうぜぇ!」
ビシッ! バシッ!
男「いたっ! いたたたっ!」
女「フハハハ、どうだ!」
男「いきなりひっぱたくなんて……!」
女「……」ハッ
女「あ、もしかして……“ナンオ”が出ちゃってた?」
男「う、うん。出ちゃってた」
女「ごめん……それ、あたしの中のもう一つの人格」
男「あれが……」
女「気性荒かったでしょ? 時々出てきては悪さするんだよね」
男「この通り、頬を叩かれたよ」
女「ナンオが出てきたらくれぐれも逆らわないようにしてね。何するか分からないから」
男「わ、分かった」
男「キャンディ食べる?」
女「うん、いただきます」
女「おいしー!」
男「よかった……」
女「う」
女「うぐぐぐ……来る!」
男「ま、まさか……」
女「なーんだ、こりゃあ!?」
男「!」ビクッ
女「アタシはなぁ、甘いものは大嫌いなんだよ! こんなもん!」プッ
男「あ、キャンディを……」
女「アタシは辛党なんだ! なんか辛いもんよこしなぁ! でないとブン殴る!」
男「す、すぐ買ってくるよ!」
女「激辛スナックか……うめえうめえ!」バリボリ
男「人格が変わると味覚まで変わるなんて……」
男「あ、UFOキャッチャーだ」
女「じゃああたしがやる!」
女「よーし……」
ウイーン…
ボトッ
男「惜しい!」
ウイーン…
ボトッ
女「あーん、取れない!」
女「う、うぐぐぐ……」
男「ゲッ……」
女「なんだぁ、このゲームはぁ!」
女「全然取れねえじゃねえかよ!」
ガンガンガン!
男「わっ! ダメだよ!」
店員「お客様、おやめ下さい!」
女「うるせえ! このUFOキャッチャーはインチキだ!」
男「乾杯」
女「かんぱーい」
カチンッ
男「お酒は? 飲める方?」
女「ううん、あまり飲めない」チビ…
男「だろうね、大人しい飲み方だもん」
女「だけど……」
男「……?」
女「ナンオ様の登場だぁ!」
女「おお、酒があるじゃねえか!」
女「よーし、飲むぜ!」グビグビ
男「わっ、イッキ飲み……」
女「プハーッ、うめえ! やっぱ酒は豪快に飲むに限る!」
男「すごい……」
女「ウ~イ……」ヨロヨロ
男「大丈夫?」
女「ナンオ様を……舐めんなァ!」
バシッ!
男「いたっ!」
女「空き缶が落ちてる……蹴ってやらぁ!」カーンッ
男「や、やめなって……」
女「ア~ッハッハッハッハ……!」
……
母「あの……娘はいかがだったでしょう?」
男「数日間、彼女と接してみましたが、娘さんは二重人格……」
男「ではありません」
母「違うんですか!」
男「はい、二重人格は専門的には解離性同一性障害ともいうのですが」
男「詐病であるケースも多いんです。娘さんのケースもそれです」
男「つまり、演技しているだけに過ぎません」
母「そうだったんですか……。ですが、何故そんなことを?」
男「おそらく“ナンオ”という粗暴な人格がいるという設定を楽しんでいるのでしょう」
母「そんな子供じみたことを……」
男「遅れてきた思春期とでもいうべきでしょうか」
母「何とかならないんでしょうか?」
男「放っておいても問題ありませんが、娘さんはもう成人されておりますし……」
男「矯正してあげた方がいいかもしれませんね」
母「しかし、どうやって……?」
男「簡単です。彼女に“二重人格を演じる大変さ”を思い知らせてあげればいい」
男「ここは私にお任せ下さい」
母「よろしくお願いします」
……
男「……?」
女「来る来る来る! 出てきちゃう!」
男「おいおいまさか……」
女「うおおおおおっ! ナンオ様の登場だァ!」
男「また出たのか」
女「出ちゃいけねえのか!? あぁん!? ひっぱたくぞ!」
男「ところで、これ……」サッ
女「きゃああああっ! ゴキブリ!?」
男「オモチャだよ」
男「あれ? ゴキブリで驚くの? ナンオって結構臆病なんだな」
女「あうう……」
女「てめえ、からかってんじゃねえよ!」
バシッ! ビシッ!
男「ごめんごめん」
女「ふざけやがって……! ブッ殺してやる!」
男「そうだ、お詫びの印にこれをやろう」
男「ジャーン、最高級ケーキ!」
女「ケーキ!?」
男「一切れ3000円もするんだ」
女「食べたぁい! 食べる!」
男「あ、だけど……」
女「?」
男「たしかナンオは辛党だったし、俺が食うよ」パクパクムシャムシャ
女「ああっ……!」
男「もう一切れあるけど……食う?」
女「食べる!」
男「でもナンオは甘い物嫌いだろ? ケーキなんか食うのか?」
女「今すぐ戻るよ!」
女「あたし、甘い物だーいすき!」
男「じゃあ、これあげる」
女「ありがとー!」
女「うおおお! またナンオ様に戻ったぜ!」
男「ちょうどいい。今日はナンオに紹介したい友達がいるんだ」
女「あ? 誰だ?」
男「あの子」
ヤンキー女「おう!」
女「!」ビクッ
ヤンキー女「てめえ、相当凶悪なんだってな! よろしくなァ!」
女「あ、ども……」オドオド
ヤンキー女「これからバイク乗ってよォ、集会参加しねえか?」
女「しゅ、集会?」
ヤンキー女「決まってんだろ! ウチらのグループのよ!」
ヤンキー女「んでもって、おまわりに喧嘩売るんだ! チョー楽しいぜ!」
女「おまわりさんに……?」
男「ナンオこういうの大好きだろ? 行ってこいよ!」
女「いや、あたしは……」
男「遠慮するなって!」
ヤンキー女「国家権力に牙剥いてやろうぜェ!」
女「ひいい……」
ヤンキー女「オラァ! 来いよ! ナンオ!」ガシッ
女「あの、あたしは……ナンオなんかじゃなくて……」
ヤンキー女「じゃあ誰なんだよ!?」
女「あの、元の人格に戻って……」
ヤンキー女「だったら早くナンオ出せやァ! 呼べば出てくるんだろ!?」
女「ご、ごめんなさい……!」
男「……」
男「もうやめにしよう」
女「!」
男「二重人格ごっこなんてしてると、こういうことになっちまうんだ」
女「あ……」
男「だからもう……やめた方がいい」
女「はい……」
ヤンキー女「これでよかったのか?」
男「ああ、協力ありがとう。今度酒でもおごるよ」
……
母「おかげさまで、すっかり娘が元に戻りまして」
母「自分は二重人格だなんていわなくなりました」
男「よかったですね」
母「それにしても、どのような方法で?」
男「ちょっとしたショック療法というやつですよ」
母「本当にありがとうございました……」
男「いえ、お力になれてなによりです」
男「う、上手くいったね。二人とも……」
男「ええ、大人しい君が穏やかに患者と接し、医師免許を持つ私が診察し」
男「一番社交的で交友関係も広い俺が、荒療治で患者を治療する。今回もバッチリだな」
男「彼女はちょっと可哀想だったけどね……」
男「仕方ないですよ。あのまま二重人格を演じていてもトラブルの元になっていたでしょうから」
男「ああ、早い段階でやめさせてよかったんだよ」
男「これからも僕たち……このチームワークで頑張っていこうね」
男「ええ、私たちは同じ体を持ちながら、心は違う同志です」
男「同じ体に心三つ。ちょいと狭苦しいけど、俺たちだからこそ出来ることってあるもんな!」
おわり