男「……ん？」
中年「いらっしゃいませ」
男「なにこの卵、販売所？」
中年「いえ、販売所ではありません。私とちょっとしたゲームをしませんか？」
男「ゲーム？」
中年「24時間この卵を潰さずに持ち続けていられたら10万円差し上げます」
男「10万……！」
元スレ
男「卵を24時間潰さずに持ち続けていられたら10万円……？」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1613293220/
男「この卵を持ってりゃいいの？」
中年「はい」
中年「24時間経って、またここに来て頂き、その時卵が割れていなければ賞金を差し上げます」
男「へえ……」
男「でもさ、どうやって俺がちゃんと持ってることを確かめるわけ？」
男「その辺置いておくなんてイカサマしちゃうかもしれないよ？」
中年「この接着剤で手と卵をくっつけます。剥がすには私の持ってる薬剤が必要です」
男「なるほど、手から離せなくするわけか」
中年「どうしますか？」
男「うーん……」
男「やるよ、やらせてくれ！」
中年「ではくっつけます」
男「ん、くっついた」
中年「ではスタートです。24時間後、またここにお越し下さい」
男「……」ﾆｷﾞｯ
男（こうして握ってると鶏卵って結構固いよな）
男（料理で卵を割る時も、中途半端な力だと案外割れなかったりするし）
男（よく繊細な力加減をする喩えで、“卵を潰さないように”なんていうけど）
男（これ……楽勝なんじゃないか？）
男（まだ30分も経ってないのに、今から10万円の使い道考えちゃうよ……）
男（10万あったら何しようかなぁ～）
男（温泉でも行くか、新しいスマホでも買うか、いかがわしいお店に行くか……）
ﾌﾞﾛﾛﾛﾛ…
男「おっと！」
男「危なかった……」
男（危うくギュッと握っちゃうところだった。気をつけないと）
学生A「どっかメシ行くー？」
学生B「ここらにすげえうまい鶏肉料理出す店あるらしいぜ、超高いけど」
学生A「そんなの俺らじゃ行けねえだろ」
学生B「だなー」
男「……」
男（高級料理ってのも悪くないな。和食、中華、フランス料理……）ｼﾞｭﾙﾘ
男（お腹減ってきた……スーパーでなにか買って帰るか）
男（アジフライでも……）
ﾄﾞﾝｯ
男「うわっ！」
客「すいません」
男（危うく卵が割れるとこだった……）
子供「あーっ！」
男「え」
子供「この人、卵持ち歩いてるー！ 万引きしようとしてるー！」
男「ち、違う！ これは元々持ってたやつだ！」
ｻﾞﾜｻﾞﾜ…
男（あー、めんどくせえ！ まあ普通、卵を手に持って歩いてる奴なんていないしな……）
男「失礼します……」ｺｿｺｿ
男（ダメだ、外歩いてると卵割れる要素でいっぱいだ）
男（今日は家にこもってよう）
ﾊﾞﾀﾝ…
男「……」
男「……」
男「……」
男（退屈だ……）
男（気を紛らわそう……動画でも見るか）
動画『今日は卵料理に挑戦しまーす！』
動画『卵をこうやって割って……』ﾊﾟｶｶｶｯ
男「縁起でもない。やめとこう」
男「まだ6時間か……」
男「このまま24時間持つのかな……」
男「……」ｳﾄｳﾄ…
男「ハッ！」
男（危ない、ウトウトしてた！ 寝たら寝返りで卵を潰しちゃうこともありえる！）
男（……最大の敵は“眠気”だな！）
男「よーし、コーヒー飲んで……」ｸﾞﾋﾞｸﾞﾋﾞ
男「……」ｼｬｷｰﾝ
男「カフェインパワー全開！ もうこのままずっと起きててやる！」
男「……」
男（外に出ず、眠気さえ我慢しちゃえば、もう失敗する要素はない……）
男（10万円……もらった！）
男「……ん？」
ｶﾀｶﾀ…
男（卵の中身が……動いてる！？）
ｶﾀｶﾀ…
男「おいおい、マジかよ！」
ｶﾀｶﾀ…
男「ふざけんな！ ヒヨコがかえるのか！？」
ｶﾀｶﾀ…
男「そういや無精卵とはいってなかったな……このままじゃ割れちまう！」
男（くそっ、あの野郎、これがヒヨコのかえる卵だって分かってたな！）
男（だったらぁ……）
男（出てくる前に……やるしかない！）
男「シェイク！」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝ
ﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝ…
ﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝ…
男「ハハハ、どうだ！？」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝ
男「このままシェイクしてれば」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝ
男「中のヒヨコはくたばって――」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝﾌﾞﾝ
ﾋﾟｼ…
男「ダメだ！ 出てきちまう！」
ﾋﾟｼﾋﾟｼ…
ヒヨコ「ﾋﾟｨ…」
男「あー……ダメか」
ヒヨコ「ﾋﾟｨﾋﾟｨ…」
男「……」
ヒヨコ「ﾋﾟ!」
男「か、可愛い……！」
男（卵が割れたから10万ゲットはならずだけど……これはこれでいい貰い物したかも……）
ヒヨコ「ﾋﾟｨ…」ｷﾞﾛｯ
男「ん？」
ヒヨコ「ﾋﾟｨｨｨｨｨ…」
男「な、なんだこの凶悪な目つきは……」
ヒヨコ「ピヨッ！！！」ｸﾞﾊﾞｧｧｧｧｯ
男「へ！？」
男「うぎゃああああああああああっ……！！！」
ﾊﾞﾘﾎﾞﾘ… ﾍﾞｷﾎﾞﾘ… ﾊﾞｷ… ﾊﾞｷﾎﾞｷ…
ｶﾞﾁｬｯ
中年「お、出てきたか」
ヒヨコ「ﾋﾟﾖ!」
中年「お帰り。さあ、育ててあげるからね……」
中年（やはり今回の男も私の計算通りの行動をした……）
中年（卵を割らないため家にこもり、ヒヨコを産まれさせないために卵を激しくシェイクする）
中年（なぜ、こんなことをしたかというと――）
中年（このヒヨコは新種のニワトリで、育てれば肉は通常のニワトリとは比べ物にならない美味を誇る）
中年（しかし、困ったことに産まれてすぐ見た生き物に襲いかかるという性質がある）
中年（孵化直前に激しくシェイクすればするほどその獰猛さは増し、味もよくなるのだ）
中年（そして、最初に見た生き物を食ってしまったら、後はもう気性が穏やかなヒヨコになってしまう）
中年（ようするに、このヒヨコを安全に手に入れるためにあの男に犠牲になってもらったというわけ）
中年「これでまた極上の鶏肉料理を提供できる。もちろん、値段は“超高い”がね」
おわり
