息子「ひっく、ひっく……」
誘拐犯「いつまでも泣いてんじゃねえ! ひっぱたくぞ!」
息子「ごめんなさい……」シュン
誘拐犯「こうまであっさり誘拐できるとはな。あたしって誘拐の才能あるのかもしれねえな」
誘拐犯「さっそく身代金を要求するとすっか」
誘拐犯「もしもし……」
母『はい』
誘拐犯「お宅の息子は預かった。無事返して欲しけりゃ身代金500万円を用意しな」
母『返さなくていいです』
誘拐犯「えっ?」
元スレ
誘拐犯「お宅の息子は預かった」母「煮るなり焼くなり好きにして下さい」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1612959014/
母『煮るなり焼くなり好きにして下さい』
誘拐犯「煮るなり焼くなりって――」
ツーツー…
誘拐犯「切れちゃった」
誘拐犯「お前……見捨てられちまったぞ」
息子「ええっ!?」
息子「ボクに電話させてくれ! まだ死にたくないんだ!」
誘拐犯「分かった。ほらよ」
息子「もしもし!?」
母『あらあんたじゃない。どうしたの?』
息子「母さん、なんで助けてくれないのさ! ボクのために身代金払ってよ! 殺されちゃう!」
母『黙れ!』
息子「!」ビクッ
母『いい年こいて働きもせず、家で寝てばかりいるニートのあんたにゃいい加減愛想が尽きたのよ!』
母『たまに外出したと思ったら、無様に誘拐されるし……そのまま殺されちゃいなさい!』ガチャッ
ツーツー…
息子「……」
誘拐犯「今の……聞いてたよ」
息子「……」
誘拐犯「お前ニートだったのかよ。そりゃ見捨てられるわなぁ」
息子「うぐ……」
誘拐犯「……どうする?」
息子「悔しい……!」
誘拐犯「ほう?」
息子「ボク、誘拐されたら母さんに涙を流してもらえるような男になりたい!」
誘拐犯「へっ、少しはプライドってもんが残ってたみてえだな」
誘拐犯「あたしも協力するぜ!」
息子「ありがとう……!」
息子「まずどうすればいいと思う?」
誘拐犯「うーん、やっぱ見た目だろ」
誘拐犯「髪はボサボサ、服はダサイ、まだ若いのに体型もたるんでやがる」
息子「うう……」
誘拐犯「とりあえず、あたし行きつけの美容院連れてってやる。少しは化けるだろ」
息子「化けれるかなぁ……」
誘拐犯「ちわっす」
美容師「いらっしゃい。今日はどうしたの?」
誘拐犯「今日はあたしじゃなく、こいつをイカくさ野郎からイカした野郎にイメチェンして欲しいんだ」
息子「よろしくお願いします……」
美容師「これはなかなか……やりがいがある青年だね」
美容師「よし、分かった! 俺に任せてくれ!」
息子「……」キラキラ…
美容師「まあ、こんなところかな」
誘拐犯「へえ、化けるもんだな。ブサメンとフツメンの中間ぐらいにはなったんじゃねえか?」
息子「それって大したことないんじゃ……」
誘拐犯「バカ、さっきまでのお前はブサメン未満だったよ」
息子「それはもはや何メンなんだろう……」
誘拐犯「あとはファッション整えて、ついでにたるんだ体を引き絞るぞ!」
息子「頑張るよ!」
誘拐犯「服は……これなんかどうだ?」
息子「任せるよ。ボク、いつもトレーナーとジャージだったし」
誘拐犯「しょうがねえ奴だな。ならあたしがコーディネイトしてやる!」
誘拐犯「ほれ、走れ走れ!」タッタッタッ
息子「ふっ、ふっ、ふっ……」タッタッタッ
誘拐犯「ペース上げろ!」ビシッ
息子「あうんっ!」
誘拐犯「なんでちょっと嬉しそうなんだよ」
誘拐犯「ふんふん、だいぶよくなったじゃねえか」
息子「ありがとう」
息子「これで母さんもボクが誘拐されたことを悲しんでくれるね!」
誘拐犯「んなわけねえだろ」
息子「え」
誘拐犯「いくら見た目がマシになったっていっても今のお前はニート……ただの無職だ」
誘拐犯「ちゃんと就職しなきゃ母ちゃんは認めてくれねえよ」
息子「就職かぁ……」
誘拐犯「むしろここからが本番だ。気合入れてけよ!」
面接官「なにか特技は?」
息子「あ、あのっ……パソコンとか!」
面接官「パソコン?」
息子「ゲームやりますし……エクセル、ワードも……っ!」
面接官「なにいってるのか分かりませんよ。もうちょっとはっきり喋って下さい」
息子「すいませぇん!」
息子(面接ってこんなに大変なのか……)
息子「また落ちた……」ガックリ
誘拐犯「そっか……」
息子「やっぱりボクはダメなんだ……」
誘拐犯「くよくよすんな! 面接なんてもんは場数を踏んで慣れてくもんだ!」
誘拐犯「とりあえず今日は飯食って、とっとと寝ろ!」
息子「うん……ボク、頑張るよ!」
息子「……いかがでしょう?」
社員「ふむふむ……んー、いいでしょう。ちょうど欠員が出てたので」
息子「ホントですか!?」
社員「来週から来られます?」
息子「はいっ、行きます行きます!」
社員「ではよろしくお願いします」
息子「ありがとうございます!」
息子「やったよぉ!」
誘拐犯「よかったな!」
息子「長かった……君がいなきゃきっと諦めてたよ」
誘拐犯「バ~カ、褒めたってなにも出ねえぞ」
誘拐犯「よっしゃ、今日は就職祝いに豪勢にパーッとやるか! 回る寿司屋でな!」
息子「うん!」
息子「ただいまー……」
誘拐犯「お帰り、仕事はどうだった?」
息子「大変だよ、事務職だけど覚えること多くて、先輩もクセがあって……」
誘拐犯「そっか……」
息子「だけど……家でダラダラ過ごしてた日々より、“生きてる”って感じするよ!」
誘拐犯「へっ、いうようになったじゃねえか」
息子「初任給出たよ!」
誘拐犯「やったな!」
息子「明細とはいえ……自分で稼いだお金ってのは重みを感じるよ」
誘拐犯「で、どうする? 母ちゃんのところに戻るのか?」
息子「……」
息子「まだ試用期間だし、一人前になったとはいえないよ。もうちょっと会社に慣れたら……」
誘拐犯「うん、それがいいかもな」
息子「ただいまー」
誘拐犯「お帰り、なんか嬉しそうだな」
息子「うん、いよいよ大きな仕事任されるようになって……」
誘拐犯「そりゃあ……よかったな」
息子「? どうしたの?」
誘拐犯「あ、いや……」
息子「悩みがあるんなら話してくれよ。ボクたちの仲じゃないか」
誘拐犯「……」
誘拐犯「お前はすげえな、と思ってよ」
息子「え?」
誘拐犯「あたしはかつて、田舎から上京したけど仕事も男関係も上手くいかず」
誘拐犯「ヤケクソになって、ついには誘拐なんていう犯罪に手を染めちまった……」
誘拐犯「一方のお前はどうだ?」
誘拐犯「尻叩かれたっていう事情はあるとはいえ、今やいっぱしにサラリーマンやってる」
誘拐犯「あたしとお前じゃマジ住む世界が違うって思ってよ」
息子「……」
息子「そんなことないよ!」
息子「ボクは君がいなかったら、きっとこうなれなかった」
息子「もしかしたら今も家でニートしてたかもしれない」
息子「ボクがすごいんだとしたら、君だってすごいんだよ!」
誘拐犯「誘拐された被害者がなーにいってやがる」
誘拐犯「お前みたいなのをストックホルム症候群っていうんだよ」
誘拐犯「人質が犯人に情を抱いちまう……みたいなあれだ」
息子「ストックホルム、いいじゃないか!」
誘拐犯「なにがいいんだよ?」
息子「ストックホルムってたしかスウェーデンの首都だよね?」
息子「新婚旅行はぜひそこに行こうじゃないか!」
誘拐犯「……は? 新婚……?」
息子「あ、間違えた! こういうのって普通プロポーズが先なのに……!」
誘拐犯「……バカ」
息子「えぇと、結婚して下さい!」
誘拐犯「もうムードもへったくれもないけど……はい、よろしくお願いします!」
息子「よし……!」
誘拐犯「ここがお前んちか」
息子「うん、帰ってくるのも久しぶりだ」
息子「じゃあ、挨拶に行こう」
誘拐犯「うん」
息子「父さん母さん、ボク今では仕事していて、このたびはこの人と結婚することに決めました」
誘拐犯「今後ともよろしくお願いします」
父「はぁ……こりゃどうも」
誘拐犯「ところで、あたしは詫びなきゃいけないことがあります」
誘拐犯「元はといえば、あたしはあなたたちの息子さんを誘――」
母「息子が大変お世話になりました。私はあなたに感謝しています」ニコッ
誘拐犯「!」
母「今後とも……煮るなり焼くなり好きにしちゃってちょうだい」
誘拐犯「……はいっ!」
父(息子も尻に敷かれるな、こりゃ)
結婚式――
パチパチパチパチパチ…
息子「ウェディングドレス、とても綺麗だよ」
誘拐犯「お前こそバッチリ決まってるよ。今ならフツメンとイケメンの中間ぐらいはあるぜ」
司会者「それではここで、新郎のお母様より一言挨拶を頂戴いたします」
司会者「どうぞ!」
母「まずは、お二人ともおめでとう」
母「今の私の心境は……大切な息子をお嫁さんに誘拐されたような気分です」
どっ!
アハハハハハ… ワハハハハハ…
息子「母さんったら……」
誘拐犯「よかったな、涙を流してくれてるじゃんか!」
おわり
まとまりがあって普通によかった