A定食 100円
B定食 100円
C定食 100円
男(社員食堂使ったことなかったけど、ずいぶん安いな!)
男(この新しい職場にもだいぶ慣れてきたし、今日はここで……)
正社員「おい」ガシッ
男「はい?」
正社員「お前は最近この会社に入ってきて、たしか正社員じゃなかったよな?」
男「ええ、そうですが……」
正社員「正社員じゃない奴が社員食堂使うんじゃねえよ!」
男「な、なぜですか!?」
元スレ
正社員「正社員じゃない奴が社員食堂使うんじゃねえよ!」男「くっ……!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1581943382/
正社員「なぜぇ? 決まってんだろ」
正社員「安くておいしい社員食堂を使えるのは、正社員様だけと決まってるからだよ!」
男「そんなの差別じゃないですか!」
正社員「差別ぅ? いいや、こういうのは区別っていうんだよ」
正社員「分かったら、とっとと外で食ってきな!」ドンッ
男「くっ……!」
男(噂には聞いてたけど、本当にこういうのってあるんだな……)
男「……ってなことがあってさ」
白衣「ふうん」
男「みんな、黙々と夜遅くまで働く、働き者だらけのいい職場なんだけど……」
男「あんな奴がいるとは思わなかった!」
男「お前の勤めてる研究所では、そういうのないのか?」
白衣「特にないな」
男「いいなぁ、理系は」
白衣「理系は関係ないだろ」
男「とにかく、絶対あの社食を使ってみせるぞ!」
次の日――
男(今日こそ……)
正社員「また来たのか、お前」
男「ゲ……」
正社員「昨日、あんだけいったのに、まだ分かんねえのか?」
男「分かりませんよ! なんで俺は使っちゃダメなんですか! 規則があるわけでもないのに!」
正社員「そんな理由、答える必要はねえよ!」
正社員「いいか!」ガシッ
男「ぐ……!」
正社員「俺がいる限り、絶対社員食堂を使わせねえからな!」
男「……!」
正社員「さっさと転職でもした方が身のためだぜ」パッ
男(なんなんだ、この執念……)
男(単に非正規を見下してるとかじゃなく、もっと根の深いものを感じる……)
さらに次の日――
男「今日こそ!」ダッ
正社員「おーっと、行かせねえよ」バッ
男「なんでだ! なぜ使わせてくれないんだ! 納得いく理由を説明してくれれば大人しく外で食うよ!」
正社員「それは……言えない」
男「ふざけるな! いえないなら、ここでクビ覚悟で大騒ぎしたっていいんだ!」
正社員「……分かったよ。ちょっとこっち来い」
正社員「どこまで話せるか分からないが……」
男(“どこまで話せるか分からない”……どういう意味だ?)
正社員「ここの社員、みんな黙々と働いてるだろう。どんな無茶な残業も嫌な顔ひとつせずにする」
男「ええ、すごいと思います。こんな職場初めてですよ」
正社員「こんな職場だから……実は過労で倒れてる人も大勢いるんだ。中には死んだ人も……」
男「えっ!?」
正社員「だが、問題になることはない。なぜなら、本人に会社に逆らう気がないからだ」
男「な、なんで……!?」
正社員「それは……この社員食堂……うっ!」
男「!? ど、どうしました!?」
正社員「やっぱり……ダメなのかよ……」
男「ちょっと! しっかりして下さい!」
正社員「ゲボォッ!」
男「血……!?」
正社員「俺はここまで、だ……」
男「正社員さん!」
正社員「食うんじゃねえぞ……」ガクッ
男「……ッ!」
男「誰かっ! 誰か救急車を!」
シーン…
男(おかしいだろ! 仲間が倒れてるのに、誰も見向きもしないなんて!)
……
男(結局俺が通報して、正社員さんは病院に運ばれた)
男(ICUで手当てを受け、今もなお予断を許さない状況だ)
男(それなのに、会社の仲間は……)
「会社に歯向かうからだ」 「バカな奴……」 「きっと余計なこと口走ったんだろうな」 ヒソヒソ…
男(誰一人として、彼のことを心配しなかった)
男(こうなったら、俺が正社員さんの仇を討つ!)
次の日、社員食堂にやってきた男。
男(初めて入るけど、キレイな食堂だ……)
男(席はたっぷりあるし、テレビも見られるし、スプリンクラーも完備されてる)
男(だけど、正社員さんは最後に“食うんじゃねえぞ”といってた)
男(きっと、料理の中に“何か”が仕込まれてるに違いない)
男(料理を持ち帰って、あいつに分析してもらえば、何か分かるかもしれない!)
男(タッパーに入れて……)コソッ
監視員「コラァッ!!!」
男「!」
監視員「ここの料理は持ち帰ることは許さん! 食中毒を起こされても困るからな!」
男「す、すいません……」
男(理由は真っ当だけど、食堂内に監視する人間がいるなんて、やっぱり異常だ……)
男(だったら……)
男「……」パクッ
男「……」モグモグ
男「……」ゴクッ
監視員(食ったか……これで奴も会社の奴隷だ)ニヤッ
男「……」
男(この飲み込んだ食べ物を……)
男(胃袋に落とさず、食道にとどめる!)
男(これはキツイ! キツイぞ!)
男(早くトイレに駆け込まなきゃ!)タタタッ
男「オエッ!」
男「はぁ、はぁ、はぁ……」
男(よし……これを持ち帰れば……!)
白衣「なんだこれ?」
男「俺の勤めてる会社の社食だ」
男「こいつを分析して、なにが混入されてるか調べてくれないか? 理系なんだから出来るだろ?」
白衣「お前は理系をなんだと思ってるんだよ」
男「できないのか?」
白衣「できるけどさ。仕方ないな……やってやるよ」
男「恩に着る!」
数日後――
白衣「ふぅ、研究所の機材を勝手に使うのも骨が折れたぜ」
男「どうだった?」
白衣「とんでもないモンが検出されたよ」
男「えっ……」
白衣「お前の持ってきた食物に入ってたのは――」
白衣「“シタガーウ”って薬品だ」
男「シタガーウ……!?」
男「名前だけじゃどんな薬か見当もつかないが、一体どんな薬品なんだ?」
白衣「恐ろしい薬だ」
白衣「まず、摂取した人間は、頭がぼんやりして上から言われたことをよく聞くようになる」
白衣「たとえば、命令に従順な兵士を造るのにうってつけだ」
白衣「しかも、自然排出されることなく、体内にどんどん蓄積される」
白衣「少しでも食べたらもうアウト。効果は永続してしまう」
男「じゃあ、長年社員食堂を使い続ければ……」
白衣「どんな無茶な残業も平然とこなす、奴隷のような社員が出来上がるだろうな」
白衣「だが、このシタガーウの一番恐ろしいところは……」
男「……」ゴクッ
白衣「摂取した人間が強い反抗心を示した時、強力な毒素を出すんだ」
男「毒素を……!?」
白衣「その反抗心が強ければ強いほど、体に強い異変が起き――最悪の場合死ぬ」
男「じゃあ、正社員さんは……」
白衣「お前に社員食堂の秘密を教えようとして、その時湧き出た反抗心のせいで……」
男「正社員さん……!」
男(おそらく、会社の人はみんな、既に自分たちがどんな体になってるか察してるんだろう)
男(だから、もはや会社に対して反抗するつもりなんかない。反抗したら死ぬかもしれないんだから)
男(だけど、正社員さんだけは強靭な意志力でどうにか自我を保ち――)
男(新しく入社した俺に、社員食堂は絶対使うなと、ギリギリの警告をしてくれてたんだ!)
男「これ、警察に訴えられないかな?」
白衣「証拠はお前の持ってきたあの食い物だけだし、厳しいだろうな」
白衣「それにこんなことする会社が、警察とかに手を回してないとは思えない」
白衣「お前一人騒いだところで……」
男「握り潰されるのがオチってところか……」
男「だったら……シタガーウを解毒する方法ってないのか? 理系なんだから知ってるだろ?」
白衣「お前は理系をなんだと思ってるんだよ」
男「無理なのか……」
白衣「いや……一つだけある」
男「あるのかよ!」
白衣「“サカラーウ”という薬品がある」
男「サカラーウ……!」
白衣「これを少量でも飲ませれば、シタガーウの効果をたちまち打ち消すことができるはずだ」
男「それ、なんとか入手できないかな? 理系だし、できるだろ?」
白衣「お前は理系をドラえもんかなんかだと思ってるのか? まあ、できるけど」
男「できるのかよ!」
数日後――
白衣「これが……サカラーウだ。わずかだが、なんとか入手できた」
男「ありがとう!」
白衣「だが、社員たちに、これをどうやって飲ませるんだ?」
白衣「たとえば『これを飲めば会社に逆らえるようになるぞ』なんていって飲ませようとしたら」
白衣「それこそ、シタガーウの効果で社員たちの命が危なくなるぞ」
男「……」
男「それについては考えがある」
白衣「ま、俺に出来るのはここまでだ。上手くいったら、エタノールの入った液体でも奢れよ」
男「ああ、もちろんだ!」
会社――
男(そろそろ昼か……)
男(会社に従順な社員たちは、12時にならなきゃ社員食堂に向かわないだろうな)
男(だから一足早く、俺が社員食堂の厨房に忍び込む!)
サササッ
コソコソ…
男(すでに料理は出来上がっているな……)
男(いつもこの中にシタガーウを混ぜているんだろう……)
監視員「何をしている!」
男「!?」
監視員「おや? 誰かと思えば、この間の男じゃないか」
監視員「調理師でもないのに、厨房に忍び込んで、何をしているんだ?」
男「あ、いや、これは……」
監視員「狙いは分かっている。おおかた、料理にサカラーウを混ぜに来たってところだろう?」
男「なぜ、それを……!」
監視員「分かるさ。今までにも、お前のような輩は何人もいたからな」
監視員「だが、全て捕えて、シタガーウ漬けにしてやった。そうなればもう過労死するまで働く」
監視員「お前も奴らと同じ運命をたどるのだ」
ゾロゾロ…
男(いっぱい集まってきた……!)
監視員「さあ、覚悟しろ……!」
男「……」
男「一ついっておく。俺は料理にサカラーウを混ぜるつもりなんてないぞ」
監視員「なに……?」
男「俺がこの厨房に忍び込んだのはな……火が欲しかっただけだ!」メラメラ…
監視員(こいつ、自分の服に火をつけた!? なに考えてやがる!)
男(この服を……食堂に投げる!)ポイッ
監視員「ハァ!?」
メラメラメラ… モクモクモク…
監視員「? まさか、会社に火をつけるつもりか?」
監視員「だが、食堂にはスプリンクラーも完備してあるんだよ! あの程度ならすぐ鎮火する!」
男「そうだよ……それでいいんだ」
監視員「は?」
ブシャアアアアアアアアアアアアッ!!!
男「みんな、飲めーっ!!!」
ブシャアアアアアアアアアア…
社員A「飲め……? とりあえず飲むか……」
社員B「いただきます……」
社員C「飲もう……」ゴクッ
ゴクッ… ゴクッ ゴクッ
「あれ!?」 「なんだか、頭が冴えてきて……」 「会社に対する反抗心がメラメラと……!」
監視員「貴様、まさか!?」
男「そうだよ……。俺がサカラーウを混ぜたのは……スプリンクラーの水だ!」
監視員「な、なんだとっ!?」
男「みんな! 今のみんなは、もう会社に逆らえる!」
男「革命を起こすんだ!」
「今までのお返しだ!」 「監視員を捕まえろ!」 「過労で倒れた仲間の仇だ!」
監視員「わ、わわっ! ま、まずいっ! 応援を――」
ワアァァァァァ……! ウオォォォォォ……!
社員食堂は怒れる社員たちによって、瞬く間に制圧された。
これをきっかけに、会社のシタガーウ使用は白日の下に晒され、
逮捕者も出て、上層部は総退陣となった。
後任には、能力があり、下からの信任も厚い人間が選ばれ、全ては事なきを得た――
男「これもお前のおかげだ。本当にありがとう」トクトク…
白衣「ふん、研究のついでの暇潰しだ」
男「それにしても、ビーカーで酒飲むのやめろよ」
白衣「俺は理系だからな」グビッ
男「退院おめでとうございます」
正社員「ありがとう」
正社員「まさか俺が倒れてる間に、会社を革命しちまうなんてな……」
男「あなたが俺に社員食堂を使わせなかったおかげですよ」
正社員「だとしたら、生死の境をさまよったかいがあったってもんだ」
男「会社も変わりました。シタガーウを使ってた頃より、業績も伸びてますよ」
正社員「洗脳された従順な兵隊を作るより、のびのび働かせた方が生産性は上がるってことだな」
男「それと俺も、今度正社員にしてもらえることになったんです!」
正社員「よかったじゃないか」
男「ありがとうございます!」
正社員「よし、今日は前祝いに一緒に社員食堂でご飯食べよう!」
男「はいっ!」
― 完 ―