令嬢「それじゃ首輪をつけて」
男「ホントにやるんですか……?」
令嬢「もちろんよ。早くなさい」
男「は、はい」カチャカチャ
令嬢「それじゃ……今から始めるわよ」
令嬢「ワンワン! ワンワンワン! ワンワン!」
男「……」
元スレ
令嬢「今日からペットよ」男「はい……」
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男「ちょっと待って下さい!」
令嬢「ワン?」
男「すいません、人間の言葉でお願いします」
令嬢「なんなの? 白けてしまうわ」
男「いや、これ……なんかおかしくないですか。逆じゃないですかね」
令嬢「逆? どういうこと?」
男「俺は新機器開発のための資金が欲しくて、あなたの言いなりになる決意をした」
男「あなたの要求は“ペットになること”だった」
令嬢「そうよ」
男「普通、こういう時ペットになるのって俺じゃないですかね?」
令嬢「普通? あなた、ペットになってる知り合いがいるの?」
男「いや、いませんけど……普通はそうじゃないかなって」
令嬢「普通がどうか知らないけど、私はあなたのペットになりたいの」
令嬢「だからお金が欲しいあなたはその要求に応えるべきだと思うのだけど」
男「まあ、そうですよね」
男「……」
男「分かりました……じゃあ、あなたがペットということで」
令嬢「ワン!」
令嬢「ワン! ワン! ワン!」
男「なんですか?」
令嬢「ワン!」
男「え、俺なにかやらかしました?」
令嬢「違うわよ、ご飯! お腹がすいたの! ったく飼い主ならこれぐらい以心伝心なさい!」
男「あ、すいません。すぐ用意します!」
男「どうぞ」
令嬢「……ワン。なにこれ」
男「ご飯ですけど」
令嬢「あなた、ペットに人間のご飯を食べさせる気? 犬の飼い方をご存じないの?」
男「え、それってまさか――」
令嬢「ワン!」
男「マジですか……!」
男「ご飯だよ~!」
令嬢「ハッ、ハッ、ハッ」
男(仕草、犬そのものやん……)
男「どうぞ」ザラザラ…
令嬢「……」クンクン
令嬢「ワン!」ガツガツガツ
男(俺はいったい何をやっているのだろう。何を見ているのだろう)
令嬢「ワン!」ペロリ
男(ドッグフード完食しちゃったよこの人)
令嬢「ハッ、ハッ、ハッ……」トコトコ
男(移動も四つん這いかよ)
令嬢「ワン……」
男「あ、眠るのならちゃんとベッドで……」
令嬢「ガルルルル……! ハウ!」
男「どうぞ、毛布で寝て下さい!」
……
令嬢「クゥ~ン!」
令嬢「ワン、ワン、ワン!」
男「どうしました?」
令嬢「ハッ、ハッ、ハッ」
男「もしかして……散歩?」
令嬢「ワン!」
男「じゃあ首輪外して、二人で出かけましょうか」
令嬢「……」
令嬢「お待ちなさい」
男「え?」
令嬢「どこの世界に飼い犬にリードをつけず散歩する飼い主がいるのかしら?」
男「たまにやってるおじさん見かけますけど……」
令嬢「シャラップ! 私はああいうのは認めません!」
令嬢「ちゃんとリードをつけて散歩なさい」
男「いや……だって外を歩くんですよ!? 人目がありますよ!?」
令嬢「嫌だというのなら、あなたにお金は出せないわね。この話はなかったということに……」
男「わ、分かりました……やります!」
男「さ、出かけよう」グイッ
令嬢「ワン!」
男「……」スタスタ
令嬢「……」トコトコ
男(マジかよ、道路を四つん這いで歩いてる)
男(一目で良家のお嬢様と分かる若い女性に首輪をつけて散歩する……)
男(これ……どう見ても犯罪だよね。たとえ双方の合意があったとしても)
近所の人A「なにかしらあれ?」
近所の人B「新手のプレイ? 嫌ねえ、最近の若い人は……」
ヒソヒソ…
男(ほらぁ、こうなる! 最近の若い人が誤解されちゃう!)
令嬢「……」トコトコ
警官「ちょっと君」
男(おまわりさん! そら通報されるわ!)
警官「若い女の子を四つん這いにして歩かせるなんて……なに考えてんだ!?」
男「ホントですよね……なに考えてんでしょう」
警官「自覚があるのかね! ちょっと署まで――」
令嬢「ガルルルル……!」
警官「え」
令嬢「ガァウ! ガァウ! ガァウ!」
警官「ひっ!」
令嬢「……」ガシッ
警官「おわっ!」
令嬢「私が好きでやってることなの……邪魔しないで下さる? 私のお父様の名前は……」ボソッ
警官「……! 失礼しました! 好きになさって下さい!」
令嬢「さ、行くわよ。ワン!」
男「は、はい!」
男(警察をも黙らせるとは……令嬢さんのパワー恐るべし)
令嬢「……」ピタッ
男「なにしてんです? 急に止まっちゃって」
令嬢「なにって……犬は散歩中こういうことをするでしょ? ちゃんとビニール袋ある?」
男「……!」
男「やめろおおおおおおおおおおッ!!!」
令嬢「!」ビクッ
男「他のことはいくらでも付き合ってあげます……だけどそれだけは許さねえ! 認めねえ!」
男「もし、どうしてもやるんなら俺は金なんていりません。ここでお別れです」
令嬢「わ、分かったわ……ワン」
……
男「そろそろお手でも仕込んでみますか」
男「お手!」
令嬢「……」プイッ
男「おーてっ!」
令嬢「……」プイッ
男「お手!」
令嬢「……」
男(やろうと思えば簡単にできるだろうに……ここまで犬を演じるとは!)
男「お手!」
令嬢「……」サッ
男「よくできましたー!」
令嬢「ハッ、ハッ、ハッ」
男「よーしよしよしよしよしよしよしよし」ナデナデ
令嬢「クゥ~ン」
男(なんか……ホントにペット飼ってるような感覚になってきた……)
男「おはようございまーす!」
近所の人A「おはよ」
近所の人B「おはようございます」
令嬢「ワン!」ヒョコヒョコ
近所の人A「あーら、令嬢ちゃんもお元気そうね」
男(近所の人もすっかり慣れたようだな。もうこの光景になんのツッコミも入れてこない)
男「ほーら、取ってこい!」ポイッ
ヒューン…
令嬢「ワン!」ダッ
シュタタタタタッ
令嬢「ワン!」
男「速い! 本物並み!」
令嬢「ハッ、ハッ、ハッ……」
男「よしよし」ナデナデ
男「狂犬病……じゃなくインフルエンザの予防接種受けますよ~」
令嬢「キャインキャイン!」
男「先生、お願いします」
医者「痛くないですよ~」
令嬢「キャイン!」
チクッ
令嬢「ワオォォォォォン!」
男「おー、よく頑張った頑張った」ナデナデ
令嬢「……」
男「どうしました?」
令嬢「人間の言葉で失礼」
男「どうぞ」
令嬢「やっぱり今の時代、ペットを飼ったからには動画サイトに投稿すべきだと思うの」
男「え!?」
令嬢「というわけで、動画撮影開始よ! すぐ準備なさい!」
男「は、はいっ!」
令嬢『ワンワンワン!』
令嬢『バウ!』ガツガツ…
令嬢『クゥ~ン……』ペロペロ
令嬢「オホホホ、再生数がぐんぐん伸びてますわ!」
男「正直……あんまり伸びないで欲しかったですけどね」
令嬢「だけど低評価をつけてる人間も多いのが気に食わないわね。どこが気に入らないのかしら」
男(むしろ、そっちの方が正常な人間だと思う)
大富豪「……」
執事「いかがなされました? パソコンを食い入るように眺められて……」
大富豪「これを見よ」
執事「これは……お嬢様!」
大富豪「なんだこれは……!?」
執事「事情は分かりませんが、まるで犬のような仕草をなさってますね……」
大富豪「最近姿を見せんと思ったら、まさかこんなことになっておるとは……!」
大富豪「すぐにここがどこか突き止めろ!」
執事「お任せ下さい」
ブロロロロロ… キキッ
男「なんだ? リムジンが来たけど」
令嬢「あの車は……お父様!」
男「え?」
令嬢「私のしていることがバレてしまったんだわ!」
男「なんだって!?」
男(そうか、動画投稿なんてしたから! どうしよう!)
執事「どうぞ」ガチャッ
大富豪「……」ザッ
令嬢「お父様……」
大富豪「娘よ、今はお前よりこの男を問い詰めたい」
男「……!」ゴクッ
大富豪「なぜ娘をこのように扱ってるのか、説明してもらおうか」
男「分かりました……」
大富豪「なるほど、新しい医療機器を開発するために、資金が欲しくて娘に近づいたのか」
大富豪「それで交換条件として娘をペットに……」
男「はい」
令嬢「私から言い出したの! お願い、許して下さいませ!」
大富豪「いや、許すわけにはいかんな。許せるわけなかろう!」
男「ううっ……!」
男(その通りだ……。俺が金目当てに令嬢さんをペット扱いしたのは事実なんだから……!)
大富豪「このような抜け駆け……断じて許すわけにはいかぬ!」
男「はい……」
大富豪「君が私に償う方法はただ一つしかない!」
男「なんでしょう……?」
男(どんな罰でも受け入れるしかない……!)
大富豪「今日からペットだ」
男「……え」
男「やった、新しい医療機器がついに完成した!」
同僚「やったな!」
男「これで人間ドックの精度が大幅に向上することは間違いない!」
同僚「間違いなく医療の歴史に名を残すことになるぞ!」
同僚「だけど……この機器の開発には莫大な資金が必要だった」
同僚「この潤沢な資金はいったいどこから出てきたんだ?」
男「えーと……」
男「ほーら、ご飯だぞー」ザラザラ
大富豪「ワンワンワン!」ガツガツガツ
令嬢「ワンワンワン!」ガツガツガツ
令嬢「お父様、私の分取らないで下さる!」
大富豪「ワン! 人間の言葉使うな! ワン!」
ワンワン… ガツガツ…
男(二人の……いや二匹の人間ドッグから出てきた……とはいえないよな)
おわり


