1 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:11:17.474 mKlu/5jq0 1/20

「さあ、今週の≪焼き鳥マンボ≫が始まりました」

「“焼き鳥万本食べた男”でおなじみのこの私が、焼き鳥店に突撃しちゃいまーす!」

「今日はどんな焼き鳥に出会えるか楽しみです!」

スタスタ…

「お、さっそく焼き鳥店を発見しました。入ってみましょう」

ガラッ

「こんばんはー!」

主人「いらっしゃいませ!」

「カメラさんもどうぞー」

カメラマン「はい」スッ

「ハハ、体が大きいからぶつけないようにして下さいね」

元スレ
男「これがお前の秘伝のタレか……クッソまずいな! 最低の味だ!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1610975477/

2 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:14:23.057 mKlu/5jq0 2/20

「ご主人は何年このお店を?」

主人「この町に越してからですから……15年ぐらいになりますかねえ」

「なるほどなるほど、その年月ですっかりこの町の皆さんをファンにしたということですね」

主人「そうなりますかね」

「こちらの方は……常連さんかな? このお店はいかがですかー?」

常連「いい焼き鳥食わせてくれるよ! 日によって味にムラがあるけどな!」

「そういうところもまた、このお店の魅力なんでしょうねえ」

主人「今日は絶好調の焼き鳥をお出ししたいですね。ご注文は?」

「とりあえず、“もも”を一本いただけますか」

3 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:17:11.793 mKlu/5jq0 3/20

主人「どうぞ!」

「タレはあまりつけないスタイルなんですね」

「ではさっそくいただきます」ハグッ

「!!!」

「んん~! これはうまい! タレが素晴らしいですね! 絶品です!」

主人「ありがとうございます」

「これはひょっとして秘伝のタレというやつですか?」

主人「おっしゃる通り。研究を重ねに重ねたタレなんです」

「どうりでおいしいわけだ!」

5 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:20:09.544 mKlu/5jq0 4/20

「この味……昔を思い出しますねえ。いつまでも味わっていたい味です」

主人「とおっしゃいますと?」

「実は私、実家が焼き鳥屋でして」

主人「そうだったんですか」

「まあ残念ながら父が亡くなって、私は焼く方ではなく食べる方専門になってしまったんですけどね」

主人「いえいえ、立派にリポーターなさってるじゃないですか」

「ありがとうございます。次は“ぼんじり”をいただけますか」

主人「すぐお出しします!」

6 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:23:32.534 mKlu/5jq0 5/20

主人「どうぞ」

「ん~、うまい!」

主人「あなたの肥えてる舌にかなってよかった」

「肥えてるだなんてとんでもない。まだまだ25の若輩ですよ」

「それにしても本当に父を思い出す味だ……」

主人「どのようなお父さんだったんですか?」

「厳しい父でしたよ。いっつも怒られてましたから。だけど……父も一つだけ私に残してくれたものがあったんです」

主人「ほう?」

7 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:26:11.873 mKlu/5jq0 6/20

「それは……父が作っていた焼き鳥のタレのレシピなんです」

主人「なるほど……あなたにもお父さんの味が出せるようにと」

「そうなんです。結局、私は店を継がなかったんで、宝の持ち腐れなんですけども……」

主人「……」

主人「あの……よろしければそのレシピ、私に見せて頂けませんか?」

「え?」

8 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:29:23.741 mKlu/5jq0 7/20

主人「実は私、理想としていた焼き鳥があるんです」

「理想?」

主人「昔、私は焼き鳥屋開業にあたって、全国津々浦々あちこちの店を食べ歩いてたんですけど……」

主人「この味はその時もっともおいしかったタレを自分なりに再現したものなんです」

「そうだったんですか!」

「ということは……もしかしたらあなたが父の味を参考にしてくれた可能性もありますね」

主人「かもしれません。偶然かもしれませんが……」

「もしそうだったら、こんなにロマンチックなことはないですよ!」

「こんな遠く離れた地に、父の味を継いでくれた人がいたんですから……」

9 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:32:27.278 mKlu/5jq0 8/20

「それでは、ごちそうさまでしたー!」

主人「ありがとうございました」

「さっきの件なんですけど、この後もロケがありますんで……三日後の夜ということでどうでしょう?」

主人「分かりました、お待ちしております」

「では失礼しまーす!」

ガララ…

「いやー、おいしかったですね。続いてのお店に参りましょう!」

11 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:35:52.883 mKlu/5jq0 9/20

三日後……

ガラッ

主人「いらっしゃ……あ!」

「どうも!」

主人「お待ちしてました」

「今……お客はいないようですね」

主人「ええ、ところでレシピは……」

「その前にとりあえず、焼き鳥を一本もらえますか。“ねぎま”を」

主人「すぐ焼きます」

12 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:38:19.638 mKlu/5jq0 10/20

主人「どうぞ、ねぎまです」

「……」ハグッ

「んん~、うまい! タレが絶品ですね!」

主人「それで、レシピを……」

「まあまあ慌てないで下さい。ビールももらえますか」

主人「すぐお出しします」

13 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:41:18.751 mKlu/5jq0 11/20

主人「どうぞ」

「こりゃどうも」グビグビ

「ぷはーっ、うまい!」

主人「じゃあレシピを……」

「分かりました。すみませんね、テレビ業界やってるとついじらしたくなっちゃうんですよ」

主人「ああ、いいところでCMを挟む的なやつですか」

「そうですそうです。それにこんな話、ビール飲んでからでないとできないですから」

主人「?」

「レシピです。どうぞ」サッ

15 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:44:05.188 mKlu/5jq0 12/20

主人「……!」

「どうしました?」

主人「なんだこれは!」

「なんだって……書いてある通りですよ」

「俺の父を殺したのは……あんただよな?」

16 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:47:31.622 mKlu/5jq0 13/20

主人「何を言い出すのかと思えば――」

「15年前……俺が10歳の時、俺の親父は死んだ。何者かに後頭部を強打されてな」

「店の金が盗まれてたことから、警察は行きずりの強盗として捜査したが、結局事件は迷宮入りした」

「通り魔みたいな犯行が一番逮捕が難しいっていわれてるしな。手掛かりも全くなかった」

「だが、俺は気づいた……親父が大切にしてた“タレの壺”もなくなってることに」

「なんの根拠もなかった。だが、俺は確信していた」

「犯人は……親父のタレ欲しさに親父を殺したんだって」

「だからきっと……どこかで焼き鳥屋をやってる奴が犯人だって」

18 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:50:18.378 mKlu/5jq0 14/20

「俺はあちこちの焼き鳥屋を巡り歩いた」

「だが……いくら食べても親父のタレには出会えなかった」

「当然だ。犯人がよほどの間抜けでない限り、犯行現場の近くで店なんかやるはずないし」

「こうなると全国全ての焼き鳥屋が俺にとっては容疑者だった」

「それを食べ歩くなんて……普通の人生を歩んでたら金銭的にも時間的にも絶対に不可能だった」

「だから、俺は焼き鳥を徹底的に研究し、グルメリポーターになった」

「そうすれば、仕事で焼き鳥を食べられるし、全国どこにでも行けるからな。情報も入ってきやすい」

19 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:53:31.613 mKlu/5jq0 15/20

「そしてつい先日……やっと見つけたんだ、親父の味を!」

主人「……!」

「タレをあまり使わないのは、15年の歳月で親父のタレがいよいよ残り少なくなってきたから……」

「常連曰く味にムラがあるのは、時には“他のタレ”を使ってたから……」

「そして、レシピを持ってるという俺の話に、案の定お前は食い付いた!」

「ようするに、この15年でお前は親父の味を再現できなかったってことだ!」

「そうだろう!?」

主人「くっ……」

20 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:56:31.602 mKlu/5jq0 16/20

主人「なかなか面白い話だが、証拠は?」

「……」

主人「私がお前の父親を殺したっていう証拠はあるのかよ!?」

「ある」

主人「なに?」

「親父が殺された事件で、親父を殺害した凶器は見つからなかったんだ」

「なぜか? それは犯人が持ち去ったから。凶器はバット? ハンマー? それともバールのようなもの?」

「いや……まさに親父のタレが入った壺だったんじゃないのか?」

主人「……!」

「お前はその壺を持ち去ったわけだが、壺を処分することはできなかった」

「タレってのは意外に繊細だ」

「タレを別の容器に移し替えたりすると味が変わってしまうかもしれない……そう考えてもおかしくない」

「だったら今も、その壺には親父の血の跡がベットリ残ってるはずだ!」

主人「ぐ、う……!」

22 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 22:59:22.897 mKlu/5jq0 17/20

主人「これから……どうする気だ」

「通報するよ。俺はこれでも全国区のグルメリポーターだ。警察の動きも早いだろう」

「そんでもって、タレの壺を調べてもらう。ルミノール反応……だったかをな」

主人「……させるかよ」ガシッ

「!」

主人「お前にはここで死んでもらう」

「親父の時も、そうやって壺を持ち上げて、頭に叩きつけて殺したんだな」

23 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 23:02:25.623 mKlu/5jq0 18/20

「入ってきてくれー!」

ガラッ

カメラマン「全部撮ったよ」

主人「な……!?」

「殺人犯告発するってのに、俺がなんの策も用意してないとでも思ったのか?」

主人「く、くそぉぉぉぉぉっ!」ガバッ

カメラマン「ハァッ!」ブオンッ

バリィンッ!

主人「壺が……!」

「このカメラマンさん、体大きいでしょ? 見た目通り空手の達人なんだ」

24 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 23:05:36.243 mKlu/5jq0 19/20

主人「あ、あうう……」ガクッ

「何があった。なぜ親父を殺した」

主人「わ、私はあの時……焼き鳥屋を開業したいと悩んでいた……」

主人「食べ歩いて、食べ歩いて、参考にしたくなる焼き鳥を探した……」

主人「そんな時、君の父親の焼き鳥と出会って……ひどく感銘を受けた……」

主人「そして店が終わった後……頼みに行ったんだ。このタレの作り方を教えてくれって……」

主人「だが、断られて……帰れと後ろを向かれて……ついカッとなって――」

「後ろからタレの入った壺で親父をブン殴り、逃げたわけか。金目的を装うため、金も盗んで……」

「そして、遠く離れたこの土地で、何食わぬ顔で焼き鳥屋をやってたわけだ!」

主人「う、ううううっ……!」

25 : 以下、5... - 2021/01/18(月) 23:08:19.575 mKlu/5jq0 20/20

「今割れたこの壺に入ってたタレ……これは親父のじゃなく代理で使ってた“お前が作ったタレ”だな」

主人「そう、だ……」

「どれ……」ペロッ

「これがお前の秘伝のタレか……クッソまずいな! 最低の味だ!」

主人「あああああっ……!」







― 完 ―

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