1 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:29:58.19 yz7nbLe30 1/81


紬×菫です

原作と設定がちょっと違います




2 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:30:41.45 yz7nbLe30 2/81


斎藤菫が琴吹家に仕えるようになったのは九歳の時であった

琴吹家は菫にとって累代の主家であり現に菫の父は幼少時代より琴吹家に奉公してきた

その父の奉じる琴吹会長の一人娘が紬である菫はまだ使用人として右も左も分からぬうちから

琴吹財閥の大事な跡取りの世話を任されたのであった此の時紬は中学に入学した頃であった



3 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:31:15.28 yz7nbLe30 3/81


本国有数の財閥である琴吹家は街の一等地に広大な屋敷を有している斎藤家はその土地の隅に小さな

分室を借りて暮らしていた分室と言っても市中の上流家庭の邸宅並に豪奢である。

まだ菫が使用人でない頃琴吹家の者を間近で見る機会が少かったしたがって父親から聞く話でしか

琴吹家の様子を知ることが出来なかった菫の父は厳格で礼儀を重んじ何事にも動じなかった菫はそんな父を誇りに思った



6 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:33:06.87 yz7nbLe30 4/81


琴吹家に仕えるというその日になって菫は初めて紬と挨拶を交わした実を言うと紬の顔をまともに見たのも

これが初めてであった菫が恐る恐る頭を下げると紬はキョトンとして首をかしげた

「今日から紬お嬢様に仕えることになりました斎藤菫です」と練習した通りに云うけれども紬はぼうっと菫を

見るばかりである父によれば紬お嬢様はお優しい方との事だが返事もしないのはやや意地が悪いのではないかと

眉をひそめていると思いがけず紬はにこりと笑って反応した。

此の時菫ははっと身体を強張らせた蓋し紬の柔和な笑顔には何か人を惹き付けるものがあったに違いない

菫がそれをどう受け取ったか定かではないが、或る不思議な気韻に打たれ一瞬にしてその笑顔に魅入られたという



7 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:35:22.56 yz7nbLe30 5/81

菫は後に自分の紬に対する忠誠心がこの笑顔に依って支えられたと語る又曰く、

「お嬢様はその頃いつも物静かで余計なことは何一つしゃべりませんでしたけれどもその寡黙な中にも微妙な表情の

変化があります。 私はそれを注意深く観察してお嬢様の最も望む環境を用意するのですが慣れてくるとお嬢様が

次に何を望むのか先に分かるようになります。 すると今度はお嬢様が何を考えていらっしゃるのか理解できるように

なりますそれは恰も自分自身がお嬢様と一体になったかのように細かい感情の波まで伝わるのです。

私風情があの方の心を芯から理解できるとは到底思っておりませんけれども私がお嬢様と同じ風景を見、同じ感情を

共有できるのは此の上もない喜びでした」と。



8 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:36:01.57 yz7nbLe30 6/81

ただし紬が返事もせずにこりと笑ったのには訳がある紬は今迄菫の父に身の回りの世話をしてもらっていた

加えて屋敷には表情の引き締まった大人ばかりである彼女自身もその環境に慣れていた

そこへ突然自分より歳下の女の子が現れ何やら早口で呟く紬は驚いて聞き逃したのでただ笑顔で誤魔化すしかなかったのである



9 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:37:38.00 yz7nbLe30 7/81

紬は元来主張の大人しい子供であった彼女はその愛嬌のある仕草と優しく思いやりのある言動で

一家中の者に親しまれたが普段は口数少なく不都合があっても文句一つ言わない、誰かが気付いてくれるまで

我慢してしまうその控えめな性格は時に家族を心配させる程であった

琴吹会長の過剰な甘やかしが却って紬にこのような影響を及ぼしたのかもしれない必要な物は全て与えられる環境と

徹底して管理された暮らしが紬から自発的な行動の機会を奪ってしまったとも考えられる

但しそれは菫にとっては好都合であった紬の世話役に経験の浅い菫が抜擢されたのにはこのような理由もあった


10 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:38:28.26 yz7nbLe30 8/81

後年紬を視ること神の如くであった菫だが仕え始めた当初はそこまで崇拝の念を抱いていなかった

蓋し紬はこちらが何か尋ねるまで黙っていることが多く初めのうちは菫も何をしたら良いか分からず

只紬の傍に突っ立っているだけであったすると厳格な父が目ざとく発見して菫を叱り飛ばすのであった

紬お嬢様の目の前で怠けるとは何事だと怒鳴られ、でもお父様紬お嬢様は何も文句など仰いませんと云う

すると父は益々怒気を強めてお嬢様は優しい方だから大目に見て下さるそれをいいことに仕事の手を抜くなど

言語道断である、恥を知れと云って殴った


11 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:39:25.85 yz7nbLe30 9/81

此の理不尽な仕打ちに対する怒りは自然と紬に向けられたいっそ全部命令してくれれば気持も楽であったろうに、

私が悪いのでなく紬お嬢様が悪いのだと忌々しく思う事も少くなかったけれどもいざ紬を前にすると不思議と怒りは

消えて無くなった紬の優しく伏し目がちな表情は見る者の心を穏やかにした。



12 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:40:54.31 yz7nbLe30 10/81

実際の年齢より凛として見えた紬であるがそれは彼女の綺麗に手入れの行届いた髪が淑女然と感じさせるのであって

目元などはむしろ子供らしく特徴的な太い眉毛が却って飾り気のない無垢な印象を与えた又此の頃ははっきりと

感じられないが紬は既に妖しさ艶めかしさを備えていたように思われる常に目蓋を薄く開いて透き通るように人を見つめ、

ゆるやかで上品な所作は見る者に官能的な感覚を呼び起させた


13 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:41:23.47 yz7nbLe30 11/81

恐らく菫が心を惹かれたのも紬の妖艶な部分を垣間見たからであるかもしれない菫がそれに気付いたのは数年後で

あったが主人である紬に対し劣情を抱いた事は最後まで否定した紬お嬢様に惚れるなど恐れ多い私にそのような資格は

ありません、第一私は女ですと云って頬を赤らめ慌てて目を背けるのであった


15 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:46:08.96 yz7nbLe30 12/81

始め数ヶ月は琴吹家の規律を学びつつ召使いの作法も覚え同時に紬の身辺の世話もしなければならなかった菫はその間

目の廻るような忙しい日々を過ごしたが紬というと自室に籠もってばかりいた菫にとってはあちこち行かれるより

余程助かった紬が自室から出るのはほとんど食事か風呂か登下校の時だけであったし自室に籠もる時は大抵家庭教師を

付けて勉強している最中か又はピアノの稽古のいずれかであったそうすると菫も多くの気を使わずに済んだ


16 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:49:58.08 yz7nbLe30 13/81

一口に紬の世話と云っても簡単ではない先ず朝は紬を起こすとコップと桶を用意してうがいをさせる

次に着替えを手伝うのであるが此の時紬は一切動かないため流れるように手順を踏まなければならない

化粧台の前に座る頃には紬の目も冴えるそこへ菫が髪をとかしつつ今日一日の予定を確認する紬はまだ化粧こそ

しないが身だしなみを疎かにする事は何よりも許されなかった此処が菫の最も慎重になる所であった


17 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:52:05.56 yz7nbLe30 14/81

手足の爪の長さを確かめ鼻毛や目ヤニを取り除き口臭を嗅ぐ紬は為すがままチョコナンと座って支度が終るのを待った

時折紬は何か意味ありげに目配せすることがあったけれども慣れない当初は菫もそんな合図を頻繁に見逃した

或る時など紬がトイレに行きたいのを我慢し続け菫が目を離した隙に急いで部屋を出て行ったことがある

菫は紬が居ない事に気付くと大いに取り乱しお嬢様が消えたと云って屋敷中を騒がせた後に事情が判明すると

父に散々叱られた但し琴吹会長は笑って許してくれた


19 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 15:55:05.14 yz7nbLe30 15/81

紬とて意地悪心に菫を欺こうとした訳ではない菫が難しい顔をして一生懸命自分の世話をしてくれている所を見ると

声をかけるのが躊躇われたのである此れは紬の優しさと云うよりも或る種の臆病な性格が災いしていたように思われる

しかし斯くの如き逸話が果して紬の本質を表しているのかは疑問が残る事実彼女は高校に入学した頃から性格が

明るくなり口数も増えたというすると紬の心には以前から控えめな性格を克服したい気持があったのであろう乎


20 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:00:42.10 yz7nbLe30 16/81

菫はただでさえ忙しいのに加え毎日のようにドジを踏んだので紬に対しても機械的に仕事をこなすのが精一杯であった

ましてや紬の心情を察する心的余裕もない又紬も専属の召使だからと云って特別扱いすることは無かった琴吹家の規律を

幼少より叩き込まれた紬であったから主従の区別は肝に銘じてある故に使用人との会話は最低限に留めようと努めていた

即ち菫が見習い同然であった頃はお互いの事を露も知らずに過ごしたのである此の義務的な関係は凡そ半年近く続いた


21 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:04:15.53 yz7nbLe30 17/81

菫は永いあいだ一人前の使用人として認められなかった彼女は頗る物覚えが悪く不器用だったのである

斎藤家は丁稚と雖も一流の家系であったので父は娘の出来の悪さにほとほと困った。

菫は一生懸命やっている積りであったけれども日に一回は必ず失態を犯した更にそんな菫を信用していないのか

紬は出来ることは一人でやろうとした例えばふと気付くと紬が優雅に紅茶をすすっている、はて誰が淹れたのだろうと思い

訊ねてみると驚いたことに紬が用意した物だと云う菫は平身低頭申し訳ありません喉が御渇きになられているとは

気付きませんでした御無礼をお許し下さいと謝った又或る時などいきなり部屋の掃除をし始めたりもした


23 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:09:29.62 yz7nbLe30 18/81

此れも菫は驚いて紬お嬢様はそのような雑用を為さる必要はありません部屋の掃除は私めがやりますのでと慌てて

止めるといった具合であったすると大抵紬は例の優しい笑みを浮かべてごめんなさいちょっとやってみたかったのと云う

その言葉には全く嫌味がなく菫は却って紬が何を考えているのか分からなくなるのであった。


25 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:14:06.26 yz7nbLe30 19/81

こうした過怠を起す度に菫は自分が至らない事を反省したけれども紬は決して菫を信用していない訳ではなかった

自分より他人の気持を優先する紬の事であるから使用人の労力を気遣って積極的に手伝いをしたのかとも思われる

だがどれ程簡単な雑用でも仕事を奪えば如何に召使共の誇りを傷つけるか紬も想像できなかった訳ではあるまい

然るに「私もやってみたかったの」と云う台詞は言葉通り好奇心から来る本音であったかも知れない或いは後年

周囲の反対を押し切って屋敷を離れ一人暮らしをした事を考えると自立したい願望が此の頃既にあったのであろう乎


26 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:18:48.09 yz7nbLe30 20/81


○ ○ ○

さて菫が琴吹家に仕えて半年も経つと覚束ないながら一通りの仕事はこなせるようになった大抵の場合に於いて未熟者が

半端な自信を得ると油断が生じるものである果して或る日大きな事件が起った。

菫が紬の部屋に飾ってあるトロフィーを粉々に割ってしまったのであるそれも一つではない五つ六つの黄金絢爛な上物たちである

上機嫌で床を掃いていた菫は調子に乗って手に持った箒を振り回し、あっと気付いた時にはもう遅くトロフィーは箒に

薙ぎ払われ床に叩きつけられた後であった菫の顔は一瞬にして青ざめた


28 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:23:32.72 yz7nbLe30 21/81

菫には誤魔化すという発想がなかった又咄嗟に言い訳を考えるような悪賢い性分でもなかった然るにどうしたら良いか分からず

しばらく部屋で一人茫然としていた他の使用人が何か割れた音がする紬お嬢様の部屋から聞えたと覗きに行くと菫が砕けた破片を懸命に

拾っている姿が見えた当然菫の父が呼ばれ場は騒然となった。


29 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:27:09.69 yz7nbLe30 22/81

父は粉々になった破片を見るや否や激昂して菫を怒鳴りつけた菫は身体を震わせて縮こまった菫の父は此れまでの失敗は

大目に見てやっていたが今度ばかりは失敗したでは許されない、此れは紬お嬢様が厳しい稽古に耐えて得た立派な賞であるのに

何とお詫びしたらよいのだと云って破片を片付ける事も忘れ散々菫をぶった菫は痛いやら恐ろしいやらで顔は涙と鼻水と痣だらけになり

嗚咽をあげて泣いた。


30 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:30:09.40 yz7nbLe30 23/81

騒ぎを聞きつけた紬が遅れて部屋に戻ってくると召使が涙をぽろぽろ流して怒号を浴びせられているではないか

紬は状況を察するなり「斎藤ッ」と一喝したそれが余りに鋭く部屋中に響き渡ったので二人はびくりと驚き空気はしんと静まり返った。

紬は毅然と菫に歩み寄ると怪我はないかしらと云って泣き腫らした菫の頬や頭を優しく撫でた菫は息が詰まってまともに

返事が出来ないすると紬がおもむろに菫の手を取って傷が無いか調べた


32 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:34:38.93 yz7nbLe30 24/81

幸い菫に怪我は無かった紬は菫の父をキッと睨みつけると私の部屋でみっともなく大声を張り上げあまつさえ

暴力沙汰など見苦しいにも程があります今後一切そのような事は許しませんと凄みのある声で云った

又高々トロフィーが壊れた位で召使一人の体面を追詰める程私が怒ると思いますか琴吹の者はそんなに器の小さな

人間ですか全く以て心外甚だしい此れ以上私と私の召使を侮辱する積りでしたらどうぞ気の済むまで喚きなさいと

十二歳とは思えない迫力で菫の父を圧倒した


33 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:38:55.23 yz7nbLe30 25/81

菫の父は普段大人しい紬が珍しく語気を強めて物申した事に戸惑い思わず反論できなかった紬の静かな怒りは先程の

菫の父の怒声よりも鬼気迫るものがあった紬は又続けて私の召使のしつけは私がやります斎藤は下がっていなさい

それから外で見物しているあなた方も自分の持ち場に戻りなさいときっぱり云った

野次馬共は散らばるように去っていき菫の父も半ば気圧されるように部屋をあとにした残されたのは紬と菫の二人だけとなった

菫は相変わらずめそめそと泣いている


34 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:41:54.33 yz7nbLe30 26/81

紬はなだめるように菫の肩を抱いてもう泣かないで、ほら一緒に片づけましょうと声をかけた菫は目を真っ赤にして

コクコクと肯いた此の時菫の潤んだ視界に紬がどう映ったか恐らく慈母観音が如き温情に感激し眩しく輝いて見えたに違いない

それ迄紬という人物が謎めいていただけに此の美しい印象は菫の脳裏に強く焼きついた


35 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:45:37.80 yz7nbLe30 27/81

菫が神を崇めるが如く紬に接するようになったのは此の事件がきっかけであった以降菫が改めて紬を注視してみると

彼女の美貌と高尚な人格とに益々気付かされた紬は相変わらず口数が少なく菫に対する態度もいつも通りであったが

菫にはそれが却って謙虚な風に感じられた椅子に座りじっと本を読んでいる姿などは物憂げに目を伏した表情も相まって

真に神秘的であった菫はその神聖な風景に心を奪われうっとりした


37 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:47:34.45 yz7nbLe30 28/81

事件は琴吹会長の耳にも入ったが紬が菫を庇い結局不問に付する所となった会長は紬の好きにやりなさいと云って

菫の処置も含め彼女に一任したという。 然るに紬と菫との間に主従以上の信頼関係が生れるのを期待したのであろう

けれども傍目から見れば二人の間にはむしろ強固な主従の壁が出来あがってしまったように思われる菫は紬を絶対的な主君と認め

決して馴れ馴れしく接しなかった自分が紬お嬢様に意見するなど思いあがりも甚だしいとして紬の意思を全て肯定するようになった

或る種の歪んだ信頼関係が斯くして築かれたのである


38 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:50:59.58 yz7nbLe30 29/81

その昔会長と菫の父にも主人と召使の立場があった二人はその主従に於いて時に喧嘩腰に意見を交わす事もあったという

しかし紬と菫はそうではなかった菫が一方的に紬を崇拝し紬も亦それを受け入れた菫は只紬のあるがままを望み

それは琴吹家の使用人という使命を超えて菫の人生そのものとなったのである此れが菫にとって破滅的な道のりでない訳がない

周りの者達は菫の狂信的な言動をしばしば不気味にさえ感じていたが当の本人は至極仕合せそうであった


40 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:55:11.31 yz7nbLe30 30/81

例えば何やら紬がむず痒そうな顔をしているすると菫がサッとちり紙を差し出して鼻をかませるのだが紬が一言

「ありがとう」などと云えば菫は頬を紅潮させて喜びその鼻水だらけのちり紙を有難く保管しておくのである当に変態的という他ない

而も紬もそれを咎めることが無いのである表立って気持ち悪いなど云える紬ではないから胸中を推し量るのは難しい

けれどもひょっとすると紬はそんな菫を可愛らしく思っていたのではないか。


42 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 16:59:27.63 yz7nbLe30 31/81

紬は例の事件以来菫のしつけを全て引き受けた原則として紬の部屋には紬と菫以外の立ち入りを禁じたのである

故に一日のほとんどを菫を過ごすことになったしつけと云ってもあれをせよ此れをせよと強く命令するのではない

些細な失敗や仕事の抜けがあるとさりげなく注意を促し時には親身になって手取り足取り教えるのであった

紬からすれば専属の召使は自分が育てる義務があると感じていた節もあろう又純粋な善意も含まれていたとも思われる

すると知らぬうちに愛着が湧くのも自然の数であろう


45 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:03:11.09 yz7nbLe30 32/81

したがって菫が熱心に奉公すれば紬もそれを内心喜んでいたのではないだろうか

傍から見れば菫の奉公は常軌を逸していたが紬には只召使のひたむきな努力に見えていたのかも知れない。


48 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:07:30.07 yz7nbLe30 33/81

菫はよくドジを踏んだが愛嬌があり憎めない所があった紬と同じように彼女も人から愛され易い性格であった

そんな菫に一方的に見初められて次第に紬も恩情を超えて思う所があったに違いない

けれども紬は飽くまで主君と召使の関係を守ろうとしたそれが却って菫の崇拝の念に拍車をかけた。


49 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:12:54.60 yz7nbLe30 34/81


○ ○ ○

紬が十四歳、菫が十一歳になると二人の関係は屋敷内でも噂の立つほど緊密で恋仲を疑われる程であった

どこへ行くにも菫はぴったりと紬の傍を離れない常に鞠躬如として侍坐する如く控えている流石にお互い学校がある時は

そうもいかないが屋敷で二人が別々になるのはトイレへ行く時くらいであった但し一部では菫が紬の下の世話もしているのではと

まことしやかに噂されることもあったという。


50 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:15:12.80 yz7nbLe30 35/81

或る日菫が父に曰く

「紬お嬢様が夜でも安心してお休みになられるように私の宿を紬お嬢様のお部屋に移させて下さい」と。

当然父は反対した使用人の分際でそのような頼み事が許される訳がない、お前の熱心な仕事ぶりは私も認めよう

けれども行きすぎた奉公はお互いの為にならんと云って厳しくたしなめた


51 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:18:40.95 yz7nbLe30 36/81

その翌々日の事である琴吹会長から突然菫の宿泊許可が言い渡された菫の父は仰天して会長に問い詰め

何故一介の使用人に過ぎない菫を此のように特別扱いするのですかと云ったすると会長は紬の達ての願いなのだ

確かに少々やり過ぎではあるが珍しく紬が我儘を云うので私もきつく反対できんでなと苦笑いした


52 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:22:06.83 yz7nbLe30 37/81

読者の中には菫が裏で紬に頼み込んだのではと推測する者もあろうけれども菫の普段の行いから言ってそれは

有り得ないと断言できる。 前にも述べたように菫は一方的に紬を崇拝していたお嬢様の言い付けならば例え自身が

傷ついても一向構わない平気であると事ある毎に左右の者に吹聴していた又紬お嬢様は容姿気品性格すべてに於いて

私など遥かに及ばない高みにおられる方ですどうして私があの方に意見することなど出来ましょうとも云った


53 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:26:28.22 yz7nbLe30 38/81

そこまで己を卑下した菫が厚かましくもお嬢様と同じ部屋で寝泊まりをしたいと紬に申し出るとは考えにくい

したがって菫の希望とは別に紬自らが相部屋にしたいと会長に頼んだのであろう他人の気持ちに敏感な紬の事であるから

菫の願望をそれとなく察したのではないか。


54 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:33:10.69 yz7nbLe30 39/81

普段菫は内にたぎる情熱をことさらに示したりはせず飽くまで黙然と仕えることを目指したが此の時幾分小学生である

不器用に加えて喜怒哀楽が豊かであったから仕草や態度、表情を見れば何を考えているのかは容易に知れた。

此の例に限らず紬は菫の分かり易い気持をさりげなく汲んで云わずとも彼女の願望を実現してやったりした

表面は素知らぬふりで偶然を装う紬であったが菫はその心遣いをすぐに理解し、その度に無限の感謝を捧げるのであった。


55 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:36:50.55 yz7nbLe30 40/81

斯くして二人は殆ど同居の形となり菫は相変わらずまめまめしく奉公に励んだ少くとも表面上はそう見えた

使用人共は会長の一人娘と執事長の一人娘との中を疑わしく思い様々な陰口を云った菫ちゃんは人目の付く所では

ああして澄ましているけれども紬お嬢様のお部屋は誰にも監視されていないから中ではきっと秘密の情事に勤しんでいるに違いない

而もお嬢様は多感な年頃であるから女同士とは言え過ちを犯さないとも言い切れないと半ば面白がって噂立てるのであった。


57 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:39:59.23 yz7nbLe30 41/81

菫の父も二人の仲に懸念を抱いた噂は屋敷中で囁かれ琴吹会長にも知れたが会長すらも面白がっているので始末に負えない

此の頃は紬のしつけのおかげで菫の仕事ぶりも中々手際が良くなってきたそれは喜ぶべきであったが若し菫が忠義心を履き違え

一線を越えてしまうような事があれば紬に悪い影響を及ぼさないとも限らない。

こうした危惧があったにも関わらず菫の父は彼女らを深く追求することが出来なかった二人は飽くまで完璧な主従関係を守り

主君と召使の料簡を頑なに崩さなかった既に他人が探りを入れる余地は無かったのである。


59 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:42:56.12 yz7nbLe30 42/81

風呂に入るときでも必ず菫は紬に付いて行った紬が幼い頃は専属のマッサージ師と乳母が世話をしていたが

此の頃は菫が一人で入浴を手伝いマッサージの術も学んで紬の体をほぐしたのである又浴室は広々としていたので此の時菫もついでに体を洗った。

他の女中たちが興味本位で脱衣所からすりガラス越しに二人の様子を覗くとぼんやりとした二つの影が時々ぴったりと重なって妖しく動いた

菫が紬の体のあらゆる所に手を滑らせて丹念に浄めているのである脱衣所に二人分の衣服が投げられているのを見ると菫も全裸であろう

すると俄かに艶めかしい場面を女中たちは想像した


61 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:48:58.31 yz7nbLe30 43/81

十一歳ともなれば菫も発育めざましく中学三年になる紬とほとんど背丈が変わらないましてやお互い若々しい色気に満ちていた

広い浴室にシャワーの水の弾ける音が響き密着した二人が何やら言葉を交わすと外で見ている者にはそれが甘い官能的な囁きに聞えた

中の詳しい状態は分からないけれども紬の白く透き通った肌や処女の繊細な影を落とした茂み、柔らかに張った小高い乳房とその先の

薔薇色のつぼみなど巨細に至るまで菫の指が這っている空想はどこか背徳的で完成された美の象徴を思わせた。


62 : ローカルルール・名前欄変更議論中@自治スレ - 2012/01/22(日) 17:52:11.71 yz7nbLe30 44/81

此の年頃になると菫も垢抜けて大人っぽくなり紬に負けるとも劣らない美人の片鱗を見せ始めた二人が並んで立つと自然と

背景が明るくなり彼女らの美貌は益々映えたそれは恰も名家の令嬢の姉妹であるかのように凛として見えたという。


63 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 17:55:34.04 yz7nbLe30 45/81

或いは血の繋がった姉妹よりも深い絆がそこにはあったかも知れない菫は紬の目配せと仕草だけでその意思を汲み二人が

長々と言葉を交わすことは稀であった大抵は二言三言ですべてが通じた又そうして話す時もお互いにそっと顔を寄せて

辺りを憚るようにぽつぽつと囁くのであった完結した二人の世界がそこに出来上がっていたのである。


64 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 17:58:48.45 yz7nbLe30 46/81


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これより先は私の個人的な願望に基づいた妄想である故に不快に感じた読者は読み飛ばしても構わない。


或る後ろめたい秘め事を共有しているかのような二人の心の繋がりはようとして知れないけれどもその実態の示唆を得るには

紬の部屋で何が行われていたのか想像するに足るであろう然るに二人が誰にも明かすことのなかった部屋の内情を私が今此処に

推測で書き起こしてみる真に勝手ながら本人たちの了解は得ていない。


65 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:03:10.12 yz7nbLe30 47/81

菫が紬の部屋での寝泊まりを許可され晴れて同居となった当初、菫は固い床に寝具を敷いて窮屈そうに眠った

菫自身はそれをまったく苦に思わなかったが、そうして召使一人を床に転がせておいて自分だけ快適なベッドで寝るのは

あまり気分の良いものではないと悟ったのか或る晩紬が思いきって云った

「……ねえ、菫ちゃん」

「はい、どうされましたか?」


67 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:05:27.55 yz7nbLe30 48/81

紬の小さな声に菫は機敏に反応した

部屋は既に暗く時計は夜中の十二時を回ろうとしている

「床じゃ寝づらいでしょう?」

「いえ、私は平気です」

そう返事するとしばらく二人は沈黙した


69 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:08:05.21 yz7nbLe30 49/81

なぜそんな事を聞いたのだろうと菫が考えていると紬が遠慮がちにこう云った

「……一緒に寝ない?」

思わぬ言葉に菫はドクンと心臓を高鳴らせた紬の声はか細くいつものように控えめな感じであったが

その愛撫するような言葉には寂しさと懇願とが含まれていた


71 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:12:40.55 yz7nbLe30 50/81

「……いけません」

菫はへんに目が覚めてしまい暗闇から聞える紬の吐息に耳を傾けた

冗談かと最初は思ったが紬が冗談を云うことは少ないすると紬の吐息がわずかに乱れた

「ねえ、私寒いの……暖めてほしい」

菫はすっと立ち上がると紬のベッドに寄った

「もしかしたら風邪かも知れません。……失礼します」

そう云って暗闇におぼろげに見える紬の額に手を当てた


72 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:14:55.79 yz7nbLe30 51/81

「特に熱はないみたいです」

菫が淡々と云うと紬がその手をそっと握った

「えっと……あ、足が冷たいの。だから来て、ね?」

紬が何を考えているのかは菫には分からなかった

ただ云われるがままにのそのそと布団にもぐった


73 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:18:59.36 yz7nbLe30 52/81

菫は紬の下半身に足を伸ばすけれども自分の足の方が冷たいと感じるほど紬の全身は熱をもっていた

「お嬢様の足、暖かい……手も……」

そう不思議に思っていると紬が突然菫を抱きしめた


75 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:21:32.76 yz7nbLe30 53/81

肌と肌が触れ合うのは菫にとって何ら特別な事ではなかった風呂では常にお互い全裸であったため羞恥もない

しかし紬の腕に俄かに抱き寄せられると菫はカッと身体が熱くなった動悸もどんどん速くなった

「お嬢様……?」

紬は何も云わない只菫を胸に寄せて黙っている菫はその柔らかな感覚越しに紬の鼓動を聞いた

菫はそのまま何もできず固まった


76 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:24:50.88 yz7nbLe30 54/81

何が何やら分からない、紬お嬢様はいったいどうしてしまわれたのだろうと困惑していると

紬が抱いていた腕をすっと放したすると暗闇の中にお互いの顔がすぐ目の前にあるのが感じられた

口元に紬の荒い息が吹きかかり次の瞬間、

「……んっ」

菫の唇は生温い濡れた弾力に覆われた菫は驚きととろけるような感触とで息が止まった


77 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:27:16.35 yz7nbLe30 55/81

紬の口唇はゆっくりと菫の口唇を広げたいつの間にか菫の手は握られていた

紬は指を絡ませて時々甘い息を漏らしながら一心に唇を動かした

菫はしばらく茫然としていたが次第に紬の求めるのに応じて自らも紬の唇を貪った


80 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:32:06.40 yz7nbLe30 56/81

――この日以降二人は同じベッドに入り寝るようになった

始めは軽く接吻を交わす程度であった色欲も日が増すにつれて抑制し難いものになり行為は激しくなっていった

どちらが誘うという訳でもなく二人は自然とお互いの肉体を求めて触れ合った

まだ完全に発達し切っていない未熟な身体ではあったがそれが却って快楽の純度を高めたのかも知れない


82 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:36:10.14 yz7nbLe30 57/81

菫などは恍惚とした表情で紬の体に顔を埋めるのであったこうすれば紬お嬢様は喜んで下さると我を忘れたように

紬の豊満な乳房を舐め敏感な乳首に吸いついた此の時決してお互い声を出すことは無かったが菫には紬が感じたことが

言葉にせずともはっきりと分かった紬が快感を得る時は身を細かく震わせ燃えるような熱を持つからである

又場合に依っては濡れた陰部に舌を這わす事もあったそうすると紬はよく絶頂に達した

紬が悦楽に身をよじらせることを菫は喜んだ。ただし紬の貞操のため決して挿入することは無かった


83 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:38:55.99 yz7nbLe30 58/81

菫は当初小学六年生である故に肉体的な快楽を得るのは難しかった只紬が自分を抱擁してくれることが気持良かった

二人はついぞ男を知ることなく此の情事は紬が屋敷を出る高校三年まで続いた

斯くして紬と菫には誰にも云えない秘密を共有することになり主従を超えた同性の肉体関係が築かれたのである


84 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:41:16.86 yz7nbLe30 59/81


以上に述べた事柄はすべて事実であるとは限らない殆どが私の個人的な妄想であることを改めて断っておく

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86 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:44:17.72 yz7nbLe30 60/81


〇 〇 〇

琴吹の名の下で育ってきた紬はその閉鎖的な暮らしのためか世間知らずな一面があった内気な性格で小中学校と友人を多く作らず

礼儀や知識はあっても常識に疎かったのである又自分の家庭が普通でないという自覚もあったであろう然るに庶民的な価値観や生活に

憧れを抱くのは自然の成行きといえる。



87 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:48:39.35 yz7nbLe30 61/81

はっきりと口に出して云わないが矢張り決められた生き方に不満を抱いていたのかも知れないそれが昂じてか紬は予め両親から

勧められていた高校への進学を拒んで桜ケ丘高校の受験を希望した此れが前触れなく唐突な申し出だったので周りの大人たちは戸惑った。

但し琴吹会長は娘が自発的に意思を示した事を喜び紬の希望をすんなり受け入れた斯くして紬は桜ケ丘高校を受験することになり春には

目出度く入学となった同時に菫も中学へ上がった


88 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:53:28.43 yz7nbLe30 62/81

紬は元来表情が豊かであったが家では余り感情の目立つことが無かった常に何か思索に耽るような穏やかな目をしていたのが

桜ケ丘高校に入学すると期待感と満足感とに目を活き活きとさせて帰宅することが多くなった又普段は余り学校の事を話さない紬が

両親に楽しげに高校での出来事を語るようになったのも此の頃であった。


89 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:56:37.23 yz7nbLe30 63/81

紬が屋敷でよくしゃべるようになっても菫との会話は依然として必要最低限なものに留まった

故に菫は紬が楽しそうにしている高校生活を詳しく知らなかった菫が噂で聞いたのは紬が軽音楽部に入ったという事ぐらいであった。


90 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 18:59:41.25 yz7nbLe30 64/81

此の時菫の心に軽音部への嫉妬が無かったとは言い切れまい菫は自分の全てを主君に捧げる積りで奉公してきた

そこには見返りを求めない謙虚な忠誠心がなければならないと考えていたけれどもそれは只精神的に依存していたに過ぎないのである

菫は紬が自分以外の誰かに心を許してしまう事を恐れた此の考えは菫を大変悩ませた。


91 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:02:08.38 yz7nbLe30 65/81

紬お嬢様が学校で何をしていらしても自分には全く関係ない寧ろお嬢様に親しい友人が出来たのは喜ぶべき事ではないかと

菫は自分に言い聞かせたしかし召使としての料簡とは別に、菫にはどうしても嫉妬の思いを拭いきれなかった

自分だけが紬お嬢様の傍らに居る資格があると信じたい気持があった紬の前では露骨に態度に現せないだけに

此の葛藤は胸の内で日に日に膨れ上り抑えがたいものになっていった。


94 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:06:16.45 yz7nbLe30 66/81

紬は部活のため日頃帰りが遅くなり菫はその間何をするでもなくひたすら紬の帰宅を待った屋敷に仕えてから遊びらしい遊びもせず

趣味と言える物も無かったため仕事を一通り終えてしまうと暇を持て余したそういう時菫は痛切な寂しさを感じるのであった。

菫の苦悩とは対照的に紬は益々学校生活や部活を楽しんでいたかつて家に籠りがちだった紬が此の頃休日でも外へ頻繁に出掛けるようになった

そうすると菫と一緒にいる時間も短くなる菫は自分の人生が奪われていくように思えた此の絶望感は十四歳の菫には耐え難いものであったろう果して或る日

菫は生れて初めて家出をした。


97 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:12:26.62 yz7nbLe30 67/81

家出と云っても本格的な家出ではない下校中に思いつきで道草し、いっそ此の儘帰らないでやろうとやけっぱちになったのである

どうせ自分が早く帰っても紬お嬢様は屋敷にいらっしゃらないそれに自分が居なくなる事で紬お嬢様も私の必要性を思い直して下さるかも知れないと期待したが

次には自分が子供じみた幼稚な考えをした事を情けなく思った此れではまるで紬お嬢様に対する当て付けではないかと激しい自己嫌悪に陥った。


98 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:17:39.58 yz7nbLe30 68/81

一度決心すると意地が後押しして気持の引っ込みがつかなくなるもので、菫は近くの公園に寄りじっと時間が過ぎるのを待った

その間ぼうっと考え事に耽ったけれども脳裏に浮かぶのは紬のことばかりである改めて自分の不甲斐なさが悲しくなり己れの惨めさに涙をこぼした。

どれ程そうしていたか分からない気付くと空は真っ暗である不意に菫は空腹を感じた今頃屋敷では夕飯の支度をしている時刻である

私が帰らない事に気付いて慌てているであろうか。 いやもしかすると私など居なくても誰も困らないからと放って置かれているのかも知れない

或いは忘れられているのであろうか


100 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:20:56.94 yz7nbLe30 69/81

紬お嬢様はどうしていらっしゃるだろうあのお方の事だからきっと私の身を案じているに違いないそう思うと菫は一刻も早く帰らなければと

心が落ち着かなくなったけれども今更何と云って詫びればいいのだろう一体紬に合わせる顔がない。

菫が思いつめてじっとしていると遠くで誰かが名前を呼んでいるのが聞えたハッとして面を上げると暗がりの公園の中で電灯の光が揺らめいて

こちらに向かっているのが見える屋敷の誰かが探しに来たのだとすぐに分かった。


101 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:24:05.68 yz7nbLe30 70/81

菫は返事をするのを躊躇った思ったより早く探しに来てくれたのは嬉しかったが自ら見つけてくれと云わんばかりに身を乗り出したのでは

何のために家出したのか分からないここは見つかるまで黙っておこうと菫は物陰に潜みながら様子を伺った。


102 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:27:40.19 yz7nbLe30 71/81

あちらは懸命に菫の名前を呼び続けているそれが次第に近づきはっきりと聞き取れるまでになると菫は声の主が誰だかようやく分かり思わず叫んだ。 

そこに居たのは紬であった彼女は夜の町で一人菫を探していたのであるそれも辺りを憚ることなく

世間体もかなぐり捨てて必死に菫の名前を呼び続けていた菫はその姿を見るや否や慌てて影から飛び出し紬の下へ駆け寄った。


103 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:30:36.50 yz7nbLe30 72/81

蓋し菫にとって此のような事態は驚きこそあれど嬉しくもあったろう紬が自分のためにこうして来てくれたことが

寂しい菫の心を癒したのは想像に難くない菫は恐縮と感激とで声を震わせながら紬お嬢様なぜ御一人で此のようなところまでと云った


104 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:34:36.69 yz7nbLe30 73/81

菫は謝罪の言葉も忘れ只紬がいつものようにあの優しい瞳で自分を許してくれることを期待した

しかし月明かりにぼんやりと浮かんだ紬の表情は穏やかで無かったそればかりか険しい目つきで菫を睨んでいる

菫がそれに気付いた瞬間バチンと頬にするどい痛みが走った


105 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:36:49.59 yz7nbLe30 74/81

アッと驚いて菫はのけぞった余りに突然だったので何が起きたか理解に時間がかかりようやっと紬を見ると彼女の顔は悲しみと怒りに歪んでいる

菫が茫然としていると紬が俄かに口を開いて曰く

「使用人の責務を放棄し何をしているかと思えば道草を食っている呆れて物も云えません況してや連絡の一つも寄越さず屋敷の者にまで

迷惑をかけるなど己が無礼を恥じなさい。 あなたが屋敷で無聊を託ち私の不在を快く思っていない事は此の頃の表情の暗い様子から薄々

感じていましたけれども一介の使用人が琴吹家の規律を破り斯くも身勝手な不遜の心得を許していい道理とはなりません


107 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:39:58.64 yz7nbLe30 75/81

又私が何よりも許し難いのはあなたが私の信頼を裏切ったことです身辺の奉仕を召使に任せるのもその忠義に対する信頼あってこそ、

それを何と履き違えたか己れの都合で主家に背きあまつさえ召使の分際で此の私にまで恥をかかせましたあなたは琴吹の名に泥を塗ったのです。

身の程を知りなさい」と。


109 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:42:29.48 yz7nbLe30 76/81

紬の語調には押し殺したような静けさと冷淡さがあったけれどもその声は僅かに震えている

暗がりの中で菫が我に返ると紬の目にうっすらと涙が浮かんでいるのが見えた。


111 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:46:24.32 yz7nbLe30 77/81

後に菫が此の時の心境を語って曰く、

「それ迄の私は紬お嬢様の親切に甘えて滅私奉公の美徳に自惚れていましたところが紬お嬢様が望んでおられたのは

私の奉仕の心ではなく使用人としての役割であったのですあのお方は私の無益な心がけよりも琴吹家の召使たるべき

忠実な所有物としての斎藤菫を望んでいたのです。 したがって所有物は意志を持つ必要がありません斯くして私は

私のためでなく紬お嬢様のために人生を生きる決意と覚悟を得られたのです」と。


112 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:49:49.47 yz7nbLe30 78/81

果して紬の真意はどうだったか知れないけれどもいくら名家の矜持と云えど紬が菫を道具のように見なしていたとは考えにくい

然るに紬の内では此れが菫に対する真の愛情であったことは厳しく叱咤しながらも涙を堪えていた様子から猜せられる。



114 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:54:50.81 yz7nbLe30 79/81


〇 〇 〇

此の騒動を経て二人は月並の夫婦関係や恋愛関係の夢想だもしない強固な主従の縁を結んで行った凡そ我々一般人には理解できぬ世界であろう。


紬はその後高校を卒業し大学へ進学した折柄彼女が一人暮らしをしたいと云うと周りの者は驚き反対したが菫だけは紬の意見を

黙って受け入れた周囲が紬お嬢様が居なくなって一番悲しがるのは菫であろう、どうか紬お嬢様を引き止めてくれないかと頼むと

紬お嬢様には紬お嬢様の考えがございます私に異論を申し上げる権利などありませんと涼しい顔をして云うのであった。



117 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 19:59:13.82 yz7nbLe30 80/81

斯くして紬は屋敷を去り入れ換わるようにして菫も桜ケ丘高校に入学した菫は言い付け通り軽音部に入部し

紬の痕跡を辿るように音曲の道へと進んで行った。

一人暮らしの紬とは長く連絡を取っていないけれども不幸とは感じなかった嘗て彼女が使っていた紅茶や菓子の名残から

己れの観念の中に紬の魂を満たしたのであろうか或いは菫に近しい友人に依ると部活という新しい居場所を見つけ

別の喜びを見出したと云うが読者諸賢は首肯せらるるや否や








121 : 以下、名... - 2012/01/22(日) 20:04:13.94 yz7nbLe30 81/81

おまけ


「な……な……なんですかこれー!?」ガビーン

「これ梓の字だよね……」

(最近やけに紬お嬢様のことを質問してくると思ったら、まさかこんな小説書いてたなんて……しかもちょっと え、えっちなシーンとかあるし……///)

ガチャ

「  」

「あ」

「二人とも………み、み、見た……?」

「は はい……これ、先輩が書いたんですか?」

「はずっ はずかにゃああああああああああっ!」ピュー

「逃げた……」

「逃げましたね……」



おわり?


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