―駐輪場―
男(あっ、この自転車、ちゃんと奥まで入れてないな)
男「よっと」グイッ
カチャッ
男「これでちゃんと料金が加算される」
男「おっ、こっちにもある」
カチャッ
男「こっちにも」
カチャッ
元スレ
男「あなたも不正駐輪してる自転車をカチャるのが趣味なんですか」女「はい」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1610098383/
男「これはひどい」
男(五台並んで料金逃れのため、ラックにちゃんと自転車を止めてない)
男「腕の見せ所だな!」
カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ
男「これでよし!」
男(不正駐輪してる自転車をカチャるのは、俺の日課……いや、生きがいであった)
……
男「さて、今日もカチャるとするか!」
カチャッ カチャッ カチャッ
男(よし、この区画の不正駐輪は全滅だ……ん?)
カチャッ… カチャッ…
女「……」カチャッ
男(あの人、俺と同じことしてる――)
……
男「これで7台目……ん、バッチリ」カチャッ
男「……ん?」
女「……」カチャッ
男(まただ! また同じことをしてる!)
男(よーし、思い切って話しかけてみるか)
男「あの……」
女「はい?」
男「あなたもひょっとして不正駐輪をカチャってるんですか?」
女「はい。もしかして、あなたも?」
男「そうなんです。昔からの趣味で……」
女「まぁっ、同じ趣味の人に初めてお会いしました」
男「よかったら、この後お茶でもどうです?」
女「はい!」
喫茶店に入る二人。
男「カチャった後の紅茶はまた格別ですね」
女「あなたはどうしてカチャを?」
男「うーんそうですね、やはりちゃんと駐輪して料金を払ってる人がいる一方で」
男「不正駐輪でお金を払わず駐輪しようとしてる人がいる」
男「こういう正直者がバカを見る状態を許せなかったというのがあります」
女「分かります分かります!」
女「やっぱり駐輪というサービスに対してきちんとお金を払わないとダメですよね!」
女「だけど私の場合、それだけじゃなくって……」
男「?」
女「私は……あのカチャッて音が好きなのもあります」
女「カチャッていうツメが閉じる時の音……たまりません!」
男「分かります分かります!」
男「カチャッた瞬間の、あの達成感! パズルのピースがハマった感! ヤミツキになる!」
女「ですよね~!」
男「すっかり話し込んじゃった。今日は……楽しかったよ」
女「私もです」
男「今度会ったら……一緒にカチャれるかな?」
女「カチャりましょう!」
――――
――
日曜日――
男「お待たせ!」
女「私も今来たところです」
男「動きやすい服装してるね」
女「いくつも駐輪場を回りますからね」
男「じゃあ……カチャデート開始だ!」
女「はいっ!」
男「ここはこの辺で一番大きい駐輪場だ」
女「その分不正駐輪してる人も多そうですね」
男「さっそくカチャっていこう」
女「ええ、一台も見逃しません!」
男「……あった!」カチャッ
女「こっちにもありました!」カチャッ
男「おっ、こんなところにもある」カチャッ
女「ここにも!」カチャッ
男「三台並んで不正駐輪か……奥義・三連カチャ!」
カチャッ カチャッ カチャッ
女「こっちにも二台ありました! 必殺・二連カチャ!」
カチャッ カチャッ
男「これでこの駐輪場の不正駐輪は全滅かな。次行こう!」
女「はいっ!」
男「おっ、こんなところにも不正駐輪が!」カチャッ
女「小さな駐輪スペースは監視員さんもいないから、やられやすいんですよね」カチャッ
男「まったく……困ったもんだ」カチャッ
カチャッ… カチャッ… カチャッ… カチャッ…
男「ふぅー、カチャったカチャった」
女「とても充実した一日になりました!」
カチャればカチャるほど、二人の仲は深まっていった……。
学生「さて、自転車出すか……あっ! ツメが閉じてる!」
学生「くそっ! 出せない!」ガチャガチャ
学生「料金……200円も払うのかよ~」
会社員「くそっ、やられてる! ふざけんな!」ガチャガチャ
主婦「なんで!? ちゃんと浅く停めてたのに!」ガチャガチャ
噂が広まるのは早い……。
「誰がこんなことやってるんだ?」
「若い男女二人が駐輪場をうろついてるらしい……」
「あちこちの駐輪場に出没してるみたいだ」
「そいつらがカチャってるとこ見たぞ!」
「このところ、浅く停めても料金発生しちゃうのはそいつらのせいだ!」
「許せないッ!」
……
……
男「さあ、今日も張り切ってカチャるぞ!」
女「オーッ!」
男「いきなり不正駐輪を発見、今日は幸先いいな。いや、よくないのか」カチャッ
カチャッ カチャッ カチャッ
夢中になってカチャっていると――
リーダー「見つけたぞ」
男「! なんだ、あんたは……」
ズラッ…
女「きゃっ!」
男(覆面をつけた集団に囲まれてる! いつの間に!)
男「お前たちは何者だ!?」
リーダー「我々は君たちに自転車をカチャられ、無駄に料金を支払うことになってしまった者だ」
男「なに……!?」
リーダー「我々の要求は一つ。浅く止めた自転車をわざわざカチャるのをやめたまえ」
男「……!」
リーダー「二度とカチャらないと誓うなら、この駐輪場から出してやろう」
男「断る……といったら?」
リーダー「やれ」
覆面A「はい」
覆面A「オラァッ!」バキッ!
男「ぐっ!?」
覆面B「おっと寝るのはまだ早いぜ~」ガシッ
男「うぐ……」
覆面A「もいっちょォ!」ドカッ!
男「あぐっ!」
女「何するんですか!?」
リーダー「仕方ないのだよ、お嬢さん。我々だってたかが駐輪にお金を払いたくないのでね」
リーダー「カチャる奴には罰を与えるしかないのだ。さあ、“二度とカチャらない”といえ!」
男「誰が……いうもんか……!」
リーダー「強情な……もっと痛めつけろ!」
ドカッ! バキッ! ガッ!
男「ぐ、うう……!」
覆面A「ハァ、ハァ、ハァ……」
覆面B「なんて奴だ……」
リーダー「なぜだ? 一言誓えばそれで丸く収まるのになぜ誓わない?」
男「決まってるだろ……間違ってる奴らに従いたくないからさ!」
リーダー「我らが間違ってる……だと……?」
男「そうだ。お前たちがやってることはサービスの不正利用に他ならない。窃盗と同じだ!」
リーダー「ぐっ!?」
女「そうよ!」
女「あなたたち、考えたことがある?」
女「不正駐輪のせいで本来得られる利益を逃してる駐輪場の運営者のことを!」
女「一日ならせいぜい数百円かもしれない。だけどそれが何日も重なればものすごい額になるのよ!」
女「そんな非道な行為を数の暴力で正当化しようだなんて……盗人猛々しいにも程があるわ!」
リーダー「盗人……!」
男「お前たちは“悪”だ! 俺たちには悪には屈しない!」
リーダー「うああああっ……!」ガクッ
ザワザワ… ドヨドヨ…
リーダー「我らは……間違っていたのか……」
男「分かってくれたか」
リーダー「殴ったり蹴ったりしてすまない!」
男「いや、いいよ。さすがに本気では殴ってなかったようだし、カチャるために鍛えてるしな」
リーダー「我ら一同、もう二度と不正駐輪はしない! 許してくれ!」
男「ああ、頼んだよ」
リーダー「せめて最後に……代表である私は覆面を脱いで詫びよう」パサッ
美女「すまなかった……」
男「……!」ドキッ
男「いや、いいんだよ」ニチャア
女「ニチャらないで下さい!」
――
男「こうして不正駐輪騒動は解決したけど……」
女「あれ以来みんなちゃんと駐輪するようになって、カチャれる自転車がなくなっちゃいましたね」
男「君と二人でデートするのはもちろん楽しい。楽しいけど」
女「カチャがないとちょっと物足りませんね」
男「――だけど、大丈夫!」
女「え?」
男「実は自宅に、ちゃんとツメのある駐輪ラックを設置したんだ」
女「わぁっ、素敵!」
男「これでこれからはいくらでもカチャり放題! 二人で一生カチャって生きていこう!」
女「はいっ! 死が二人を分かつまで!」
カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ カチャッ … … …
おわり