男「……」ポチポチ
女「ねえ」
男「……」ポチポチ
女「ねえってば!」
男「なんだよ」ポチポチ
女「さっきからスマホばかりいじって! あたしとスマホ、どっちが大事なの!?」
男「スマホ」ポチポチ
女「もう知らない!」ガタッ
元スレ
女「あたしとスマホ、どっちが大事なの!?」男「スマホ」ポチポチ
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1609764808/
友人「彼女に振られたんだって?」
男「ああ」ポチポチ
友人「原因はなんなんだよ?」
男「それがさっぱり分からないんだ」ポチポチ
友人「……」
男「……」ポチポチ
友人「原因……分かったような気がする」
男「え?」ポチポチ
上司「おい、頼んだ仕事全然やってないじゃないか!」
男「すみません」ポチポチ
上司「すみませんって、スマホいじってないですぐ取りかかりたまえ!」
男「今いいところなんで」ポチポチ
上司「……!」
男「……」ポチポチ
上司「もういい、君はクビだッ!」
男「……というわけなんです」
医者「なるほどなるほど、スマホをやめられず彼女も友達も仕事も失ったと」
男「ええ、しかし今もスマホをいじりたい。いじりたくてしょうがないんです」
医者「これは典型的なスマホ依存症ですな」
男「依存症……!」
男「どうすれば治るのでしょうか! 薬があるなら出して下さい!」
医者「投薬で治るなら苦労はしませんよ」
男「ではどうやって……!?」
医者「スマホ依存症を治すには荒療治しかありません。これをつけて下さい」
男「目隠し……!?」
ヨロヨロ…
医者「足元に気をつけて下さい」
男「は、はい」
ブロロロロロ…
医者「目隠しは外さないで下さいね。悪いようにはしませんから」
男(車に乗ってる……?)
ドドドドド…
医者「もう少しで到着します」
男(揺れる……なにか船に乗ってるのか俺は?)
医者「到着しました」
男「ここは……!」
医者「無人島です」
男「無人島……!?」
医者「ここでしばらく生活してもらいます。もちろんスマホは無しで」
男「は……!?」
医者「あなたが失業中なのはちょうどよかった。長期間仕事を休むことになりますから」
男「いくらなんでも荒療治すぎませんか!?」
医者「なにをおっしゃる。これぐらいしないと治せませんよ」
医者「では私はこれで。しばらくしたら迎えに来ますから」
男「ちょっと待って下さい! しばらくってどれぐらいですか!?」
医者「こういうのは期限を伝えない方が効果が大きいんですよ」
医者「グッドラック」
ドドドドド…
男「待ってくれーっ!」
男「行っちゃった……。本当に無人島に置き去りにされた……。TV番組の企画じゃないんだから……」
男「この島はどこなんだ……?」
男「そうだ、スマホで!」
男「……」
男「――ってないんだよ! あの医者に没収されちゃったんだ!」
男「いつもだったら『無人島 暮らす方法』とかで検索してただろうに……」
男「どうすればいいんだ……」
男(喉が渇いた……)
男「とりあえず、飲み水を確保するか」
男(海水は……)ペロッ
男「べっ! やっぱり飲めたもんじゃない!」
男「島の中で水を探すしかないなぁ。もし見つからなかったら渇いて死んじゃう……」
ザッザッ…
男(島には小さな森があった……)
男(森の中を歩いていくと……)
ガサガサ…
男「ん!」
男「あった! 泉があったぞ!」
男「見た目は綺麗そうだけど……これ、飲めるのかな?」
男「……」ゴクッ
男「ええい、飲むしかない!」
チャプ… ゴクッ
男(水を飲んでからしばらく経っても、体に異変はない……)
男(とりあえずあの泉の水は飲めるようだ。ほっとしたよ)
男(だけど……)グゥゥ…
男「腹減った……。次はいよいよ食料の確保をしないと……」
男「この島歩いてて、キノコや木の実が生えてるのは分かったけど、食っていいのか分かんねえ」
男「スマホがあれば一発なのに……!」
男「このキノコ……どうだろ」
男「……」クンクン
男「……」ペロペロ
男(派手な色じゃないし毒じゃないと思うけど、派手じゃない色の毒キノコもあるって聞いたことある)
男(ああ、写真を撮って誰かに聞きたい! そうすれば毒があるかどうかすぐ分かるのに!)
男「……」グゥゥ…
男「食べるしかないっ!」モグッ
男「うん……意外といける」
男「……」
男(とりあえず今のところ体に異常はない……)
男(熊みたいな危険な動物もいないようだし、今日のところはもう寝よう)
男(あーあ、スマホがあれば葉っぱで布団を作る方法も検索できただろうに……)
男(スマホ……ああ、スマホが恋しい……)
男「ぐぅ……」
…………
……
次の日――
男「ここにも木の実がある……」
男「木苺みたいに見えるけど、違うような気もする……」
男「ええい!」
パクッ モニュモニュ…
男「うん、甘くておいしい!」
男(水と食料は大丈夫そうだ。これなら一ヶ月ぐらい何とかなるだろう!)
男(ところで今何時だろ? スマホがあればなぁ……)
次の日――
男「今日は一日かけて食料を集めたぞ! こんだけあれば当分生きていける!」
男「いい保管の仕方ないかなぁ……」
男(スマホがあれば調べられるのに……)
次の日――
男「いい加減ナマモノばかりは飽きたし、いよいよ火をおこしてみるか……」
男「ふんっ!」ゴシゴシゴシ…
モクモク…
男「おっ、火がついたぞ!」
男(スマホで料理の仕方を検索したいところだ……)
……
看護婦「先生、あの患者さんの治療、いくらなんでも無茶すぎません?」
看護婦「もし、今頃亡くなってたら……」
医者「大丈夫だよ。密かに彼のバイタルサイン(生命反応)はチェックできるようにしてあるが」
医者「今のところなんの異常もない」
医者「彼の身に異変に起きれば、すぐレスキューが駆けつける仕組みになってるしね」
看護婦「ですが無人島ですし、何が起こるか分かりませんよ?」
看護婦「変な物を食べたり、あるいは動物に襲われたりしたら……」
医者「その心配も無用だよ」
医者「あの島にはね、食べられる植物やキノコしか生えてないし、危険な動物もいない」
医者「泉があるから新鮮な水も確保できる。起伏に富んだ地形もない」
医者「ようするに、よほど常軌を逸した行動でもしなきゃ誰だって生き抜ける島なんだ」
看護婦「まるで、スマホ依存症患者を治療するためのような島ですね」
医者「その通り。あの島はスマホ依存症を治療する目的で開拓された島だ」
看護婦「えっ!」
医者「通称『ノン・スマホ島』。検索すれば出てくるが、一般の人はまず知らないだろうな」
看護婦「ええっ!?」
医者「『ノン・スマホ島』は政府主導のプロジェクト……」
医者「近い将来スマホ依存症患者が増えると見越した政府が、あの島を人が住めるよう開拓したんだ」
医者「相当な重症でないと島送りにはならないが、彼はスマホで職を失ってるし“重症”と判断したわけだ」
医者「政府がそんな島を作ったのは、利権問題とか予算を使い切るためとかそういう思惑もあったと思うがね」
看護婦「つまり今もあの患者さんは、あの島が治療施設と知らずサバイバル生活してるわけですね」
医者「うん、だいぶ逞しくなったはずだ」
医者「もうそろそろ迎えに行ってもいいかもしれないな」
ドドドドド…
ザバァッ!
医者「着いた」
医者「彼は……いるかな?」
男「やぁ、先生! お久しぶりです!」
医者「お久しぶり。スマホのない生活はどうだったかね?」
男「ハハ、先生もお人が悪い。まさか俺を『ノン・スマホ島』に送り込むなんて」
医者「……え?」
医者「なぜ君がこの島のことを知ってる? もしかして元々知ってたのか?」
男「いいえ、検索したんですよ」
医者「どうやって……?」
男「これです」
医者「なんだこの端末は……ひどく原始的な作りだが……」
男「俺手作りのスマホです」
医者「は……!?」
医者「どうやって作ったんだこんなもの!? 君に電機系の知識があるとは思えんが……」
男「もちろん。バリバリの文系でしたからね。オームの法則すら正しく理解してるか怪しいレベルですよ」
男「ですが、この島で培われた野生の勘と、なにより日に日に高まるスマホへの執念が俺を突き動かしました」
男「何とか島にある材料だけでスマホを作ろうと、寝る間も惜しんで試行錯誤の繰り返し……」
男「そして……ついにこれが完成したんです!」
男「不格好ですが高性能! インターネットだって出来ちゃいます! アプリも見れちゃいます!」
医者「……!」
男「それからはスマホ三昧! 島での生活も退屈しませんでしたよ~!」ポチポチ
医者(この患者を治すのは……無理かもしれないな)
― 完 ―