店長「辞めるぅ?」
男「はい、やりたいことがあって、本格的に時間を作りたいと思いまして……」
店長「ダメだよ、ダメダメ! 辞めるなら一ヶ月前にいってくれないと!」
店長「人もギリギリだし、シフトだってもう組んじゃったんだから!」
男「すみません……」
店長「今すぐ辞めるのは無し! もうしばらく勤めてもらうよ!」
男「はい……」
元スレ
店長「辞めるなら一ヶ月前にいってくれないと!」男「すみません……」
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幼馴染「やっほー」
幼馴染「うっ……発明のためとはいえここは相変わらずレモン臭いわねえ」
男「レモンじゃないっての」カチャカチャ
幼馴染「なに作ってるの? 例のやつ?」
男「いや違う」
幼馴染「じゃあ何よ?」
男「タイムマシンだ」
幼馴染「は?」
幼馴染「なんでタイムマシンを?」
男「バイト先の店長への意趣返しってところかな」
幼馴染「意趣返し?」
男「……」カチャカチャ
幼馴染「あんたって何考えてるかさっぱり分からない!」
男「できた!」
幼馴染「はやっ!」
男「理論的にはこれでいけるはずだが……」
幼馴染「えええ……?」
男「行先を入力して、と……」ピポパッ
幼馴染「どの時代に行くの?」
男「一ヶ月前」
幼馴染「近い! どうせならもっと昔に行けばいいのに!」
男「お前も来るか?」
幼馴染「いやいいよ……江戸時代とかだったら行ってもよかったけど」
男「それは俺の用が済んでからだな」
男「じゃ、スイッチオン!」ポチッ
バリバリバリバリ!
ババババババ……!
バシュッ!
幼馴染「行っちゃった……」
幼馴染「それにしてもここはレモン臭いわ……」
……
シュイーンッ!
男「……」
男「果たして一ヶ月前に来れただろうか……」
通行人「――うわっ!? 突然人が現れた!」
男「すみません、ここは何月何日ですか?」
通行人「○月×日だけど……」
男(成功だ! ちゃんと一ヶ月前にタイムスリップしてる!)
男(さっそく店へ行こう!)タタタッ
男「あっ!」サッ
過去の男「お疲れ様でーす」タタタッ
男「……」
男(行ったか……)
男「ふぅ、危ない危ない。過去の自分に会ったらビックリさせちゃうもんな」
男「えぇと、店長は……いた!」
男「店長!」
店長「ん? どうしたの? 忘れ物?」
男「俺ここのバイト辞めます! ちょうど一ヶ月後に!」
店長「……」
男(さぁ、どうなる?)
店長「分かった、一ヶ月後だね? せっかく仕事を覚えてくれたのに寂しくなるな」
男(よし、OKもらえた!)
男「それじゃ、お疲れ様でーす!」
店長「お疲れ様」
男(もうちょっと引き止められるかと思いきやあっけなかったな)
男(これで元の時代に帰れば、俺は辞めたことになってるはずだ!)
バリバリバリバリ!
ババババババ……!
バシュッ!
シュイーンッ!
男「ただいまー!」
男「……」
男「……あれ?」
ボロッ…
男(なんだこれ……? 町がメチャクチャに壊れてる……)
男(タイムスリップミス? いやたしかに元の時代に帰ってきたはずだが……)
男「とりあえず、俺んちに行ってみるか!」
男「俺の家もぶっ壊れてる……」
男「幼馴染の家は!?」
タタタッ…
男「幼馴染の家も……!」
男「ていうか、人の気配が全然ないぞ!? なんなんだよこれは!?」
男「いったい何が起こったんだぁぁぁっ!!!」
タタタッ…
男「おーい!」
タタタタタッ…
男「おーい!!」
タタタタタタタッ…
男「おーい!!!」
男「誰かっ! 誰かいませんかーっ!」
男「ダメだ……誰も見つからない……。ゴーストタウンだ……」
制服「見つけたぞ……」
男「!」
男(やっと生存者が……!)バッ
制服「柑橘類の匂いを辿ったらたどり着けるとはな」
男(なんだこの男は……。警官みたいな格好してるけど、警官とは違う……)
制服「この時空犯罪者めが……!」
男「は?」
男「なんだよあんた!? いきなり人を犯罪者呼ばわりして!」
制服「私は時空警察の者だ」
男「時空……警察……?」
制服「君はとんでもないことをしてしまった」
男「とんでもないこと……?」
制服「決まってるだろう。タイムスリップし、過去改変を行ったことだ!」
男「えっ!?」
制服「このように世界が荒れ果ててしまったのは全て君のせいなのだ!」
男「そんなバカな!」
男「俺はちょっと一ヶ月前に飛んでバイトを辞めただけだ! 何か事件を起こしたわけじゃない!」
制服「その“ちょっと”が問題なのだ」
制服「君は“バタフライエフェクト”という言葉を聞いたことがあるかね?」
男「たしか、蝶の羽ばたき一つで遠くで竜巻が起こる、みたいな話だったかと」
制服「その通り。君のほんの些細な過去改変で、歴史は大きくずれてしまい」
制服「結果、このように世界は滅んでしまったのだ。もはや生存者は殆どおるまい」
男「なんだって……!?」
男「だったらまた過去に行ってバイト辞めるのをやめれば……」
制服「無駄だ。一度変わってしまった歴史を元に戻すことはできない」
制服「それどころか、さらに悪くなることは間違いないのだ」
制服「過去改変によって、歴史がいい方向に変わることはあり得ない、という研究結果が出ている」
制服「ようするにいじればいじるほど、世界はどんどん悪化するということだ」
制服「それを防ぐための組織が我々なのだが、あいにく君の存在はイレギュラーすぎた」
制服「感知してタイムスリップを防ぐことができなかった」
男「ううっ……!」
男「俺の親は……!? 幼馴染は……!?」
制服「みんな死んでしまっただろうな」
男「だけど、あんたは時空警察なんだろう? 元に戻す術を知ってるんじゃないのか?」
制服「そんなものはない。あるんならとっくに戻している」
制服「私はただ残り少ない人類を代表して、世界を破滅させた張本人を罰しに来ただけだ」チャッ
男「銃……!」
制服「君を殺してももはや何の解決にもならないが……死んでもらうッ!」
男「あ、あああ……!」
店長「待ってくれ」
制服「む!?」
男「店長!?」
男(生きてたのか……!)
店長「彼は私の言う通り、“辞めるなら一ヶ月前にいう”を果たしてくれただけ」
店長「責任は私にあるし、彼を責めないでもらいたい」
制服「責めるな!? 世界を破滅させた者を責めないバカがどこにいるというのだ!」
店長「ようするに世界が破滅しなければいいわけだろう?」
制服「なにをいっている! 歴史改変によって変わった歴史はもう直せん!」
店長「それが……直せるんだな」
制服「は?」
店長「むんっ!」
制服「なにを……? 貴様なにをしている!?」
店長「歴史を修正してるのさ」
店長「“男君が一ヶ月前に私にバイト退職を告げた”という部分だけはそのままに――」
店長「“破滅してしまった世界”を元通りに戻している」
男「えええ!?」
制服「そんなこと……できるわけ……」
シュゥゥゥゥゥ…
制服「え!?」
ガヤガヤ…
男「人が……建物が……みるみる戻っていく……」
制服「信じられん……!」
店長「あと……少し……」
シュゥゥゥゥゥゥ…
男「……戻った! すっかり元通りだ!」
店長「ふぅー、ざっとこんなもんかな」
制服(何ということだ! 歴史改変部分はそのままに歴史を復元してしまうとは!)
制服「見事だ、としか言いようがないな」
店長「どういたしまして」
制服「しかし、これに懲りたら二度とタイムスリップしないでもらいたい」
男「はい、すみませんでした。タイムマシンは破壊します。二度と作りません」
制服「ではさらばだ」シュンッ
男「……」
男「店長、ありがとうございました!」
店長「いやいや、私のせいでこうなったんだから店長として何とかするのが当然さ」
店長「一ヶ月前に言われた通り、君は今日で退職ということで」
男「はい……本当にお世話になりました」
店長「最後にせっかくだから、君の“やりたいこと”について教えてもらってもいいかな?」
男「実は俺、発明でノーベル賞を目指してまして……」
店長「ノーベル賞! 君ならまんざら絵空事でもないかもしれないな」
店長「もしよければ、その発明の一端を見せてもらってもいいだろうか?」
男「いいですよ、ついてきて下さい!」
男「ここが俺の家です」
店長「……柑橘類の匂いがすごいね」
男「すみません、これのせいでしょう。沢山置いてあるんで」
店長「これは……レモン?」
男「いえ、これはライムです。インド原産の柑橘類で、俺の好物なんです」
店長「ああ、ライムか。あまり馴染みはないな」
男「俺はライムが好きでよく食べるんですが、綺麗に切るのが意外と難しいんですよ」
男「レモンに比べて皮が薄いので、実が潰れてしまうことも多いんです」
店長「へえ、そうなのか」
男「だけど、これがあれば大丈夫!」
店長「え?」
男「今俺が開発してるこの装置が完成すれば、ライムを簡単に完璧に切ることができるようになります!」
店長「まさか……君がノーベル賞を目指してる発明品って……」
男「はい、このライムマシンです!」
店長「……ま、まぁ、頑張って」
おわり