男(もうすぐ12時か……そろそろお昼にしたいな)
男(どこか食事できる場所は……)
≪お母さん食堂≫
男「お母さん食堂……?」
男(多分“昔ながらのお袋の味”な定食を出してくれる店ってところかな?)
男「入ってみるか」
ガラッ
女店主「いらっしゃいませー」
男(品の良さそうなおばさんだ。たしかに“お母さん”って感じだな)
元スレ
男「お母さん食堂? ……入ってみるか」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1609671610/
女店主「失礼します」サッ
頭に手をかざす。
男「?」
女店主「では、あちらのお席へどうぞ」
男「あれ? 席は一つしかないんですか?」
女店主「ええ、大勢のお客さんに対応するのはなかなか難しいもので」
女店主「それにお客様のプライベートな事情に関わることでもあるので」
男「……? はぁ」
男「すみません、メニューは?」
女店主「メニューはございません。すでにお出しするメニューは決まってます」
男「へ? あなた任せってこと?」
女店主「はい。もしご不満でしたら、帰って頂いても結構ですが……」
女店主「しかし、私が出す料理はきっとご納得いただけるものになると思います」
男「……」
男(変な料理が出てきても嫌だし、帰ってもいいけど……自信はありそうだな)
男「分かりました、お願いします」
男(席は一つでメニューはなく、向こうが料理を決める、か)
男(『注文の多い料理店』ならぬ『注文のない料理店』だな)
男(まさか、あれみたいに食われるオチってことはないと思うけど……)
女店主「お待たせいたしました。まず、ご飯をお持ちしました」
コトッ
男「……!」
男「このご飯の盛り方は……!」
男(しゃもじで必要以上にご飯を潰す、この変な盛り方!)
男「母さんの盛り方だ……!」
女店主「……」ニコッ
男(なんで? なんでこの人が俺の母さんのご飯の盛り方を知ってるんだ?)
男(母さんの知り合い? いや、絶対そんなことないはず!)
女店主「続けてお味噌汁をお出ししますね」
女店主「お味噌汁です」
コトッ
男「……!」
男(切り刻んだ大根だけが入ってる、シンプルな味噌汁!)
男「……」ジュル…
男「母さんの味だ……! 思い出通りの味……いや思い出以上にしっくりくる!」
男「この味噌汁は、俺の記憶以上に母さんの味を再現しているッ!」
男(ということは次に来るのは……)
女店主「豚の生姜焼きです」
コトッ
男(出た、母さんの十八番!)
男(ペラッペラな豚肉と玉ねぎを炒めて、もやしを盛りつけた一品!)
男「……」モグ…
男「母さんだ……! マジで母さんの味だ……!」
男「このやたら脂っこい味が、俺大好きだったんだよ……!」
男「いただきますッ!」
男「この肉をご飯に乗せて、丼物みたいにして食べるのをよくやってたなぁ~」
男「これを一気にかき込む!」
ハフハフ… モグモグ…
男「うまいッ! かき込むたびにパワーがみなぎるッ!」
男(ああ、記憶が蘇ってくる――)
男(母さん、怒らせると怖かったなぁ……)
母『11時よ、もうゲームはやめなさい』
子供『これ倒したらー』
母『いい加減にしないと怒るわよ』
子供『だからこれ倒したらー』
母『いい加減にしなさい!』ポチッ
子供『あー、ひどい!』
母『いうこと聞かないと、もうゲーム買ってあげないからね!』
子供『ひっ、うわぁぁぁん……!』
男(だけど、頼もしくもあった……)
不審者『坊や、うまい棒をあげよう』
子供『いや……あの……』
不審者『いいじゃないか。一口ぐらい食べてくれよ』
子供『うん……』モグッ
母『ちょっと、何してるんですか! うちの子供に近づかないで!』
不審者『悪かったよ……』ササッ…
母『もう、知らない人から食べ物もらっちゃダメよ?』
子供『ごめんなさい……』
男(受験に失敗した時は慰めてくれたっけ……)
男『俺……もう死ぬよ』
母『なにいってるの、あんたはよくやったわ』
母『あんたが死んだら私も死ぬ! だから死ぬなんていわないで!』
母『お願い……どんなことがあっても生きて……』
男『ごめん……。軽々しく死ぬなんていって……』
男「――ごちそうさまでした」
女店主「ご満足頂けましたか?」
男「ええ、満足も満足。大満足ですよ」
男「久しぶりに実家の母のことを思い出すことができました。ありがとうございます」
女店主「喜んでもらえれば嬉しいです」
男「ところで、どうして俺の母の味を再現できたんです?」
女店主「最初に頭に手をかざしたでしょう。あれであなたの“母の味”を読み取ったのです」
男「記憶から読み取ったわけですか」
女店主「いえ、もっと深いところからです」
男「なるほど……(どうりで記憶以上に再現できてるわけだ)」
こうして男はお母さん食堂を後にした。
数日後――
男(あー、疲れた。ここら辺でご飯にするか)
男「……あれ?」
≪お父さん食堂≫
男「お父さん食堂……!」
男(お母さん食堂に続いて、お父さん食堂まで見つけてしまうとは……)
男「これは入らないわけにはいかないよな」
ガラッ
店主「いらっしゃいませ」
男(ちょうど、あのおばさんと対をなすって外見なおじさんだな。“お父さん”っぽい)
男「実は先日お母さん食堂でご馳走になりまして」
店主「ああ、そうなんですか」
男「こちらも同じような?」
店主「ええ、そうです。父親の味を提供する食堂になっています」
店主「あちらの店とは姉妹店のような関係でして。いや、父母店とでもいうべきかな」
店主「では、失礼します」
同じように頭に手をかざす。
店主「メニューは……」
男「大丈夫です。ないのは分かってます」
店主「それではお待ち下さい」
男「……」
男(待ってる間、実家の父さんのことを思い出すか――)
男(父さんは勉強ができたなぁ。学校の先生より教え方も上手かった)
子供『算数がわからない……』
父『どれどれ』
子供『これなんだけど、どうして2から3になるのか分からない』
父『これはね、繰り上がりっていって……』
子供『あっ、こういうことか!』
男(スポーツも万能だった。よく俺を遊びに連れてってくれたっけ)
父『キャッチボールやろう!』
子供『うん!』
父『そーらっ!』ヒュッ
子供『わっ!』ポロッ
父『片手で捕ろうとすると上手く捕れないぞ。両手でキャッチするんだ』
子供『うん、分かったー!』
男(温厚だったけど、反抗期に俺がグレかけた時は本気で叱ってくれたなぁ……)
父『煙草なんか吸うな!』
男『ふん、てめえなんか父親とは思っちゃいねえよ! 出来の悪い俺なんざ見捨てちまえよ!』
父『バカ野郎!』
男『!』
父『誰がなんといおうと、俺はお前の父親だ! 見捨てたりはしない!』
男『くっ……!』
男「――懐かしい」
男(俺は父さんほど立派な人間にはなれなかったけど……)
男(今こうして一人の社会人として生活できてるのは、あの人のおかげだろう)
店主「お待たせいたしました」
男「待ってました!」
男(たまーに作ってくれたけど、父さんは料理も得意だったからな。はっきりいって母さんより上手かった)
男(出てくるのはスパゲティかカレーライスか、それとも……)
男「……え?」
置かれたのはうまい棒一本であった。
男「これ……が?」
店主「はい、あなたを読み取った結果、これが“父親の味”と……」
男「そうか……そういうことだったのか」
男(俺の本当の父親は――)
― 終 ―
47 : 以下、5... - 2021/01/03(日) 21:28:05.567 m0+4W5vL0 21/24???????
誰かバカな俺に説明してくれ
48 : 以下、5... - 2021/01/03(日) 21:29:01.565 CXuw61BG0 22/24>>47
お父さんお母さんの食事は本人の記憶ではなくもっと深いところから真実を拾ってくる
あと29
53 : 以下、5... - 2021/01/03(日) 21:39:24.782 m0+4W5vL0 23/24>>48
なるほどそういうことか
54 : 以下、5... - 2021/01/03(日) 22:09:18.798 FYRdZpOHa 24/24>>29の実父と離婚して再婚したのか