吸血鬼「なんで勝手にうちに入ってくるのよ!」
男「昼間作った鍋、うどんでしめようと思ってさ」
吸血鬼「そんなの自分一人でやりなさいよ!」
男「まあまあ固いこと言うな」
吸血鬼「まあまあ、じゃない!」
男「じゃあ食べないのか?」
吸血鬼「……いる」
元スレ
吸血鬼「ハッピークリスマス!」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1356366929/
吸血鬼「だいたいさあ、あんたデリカシーってものが欠けてるのよ」
男「そうか?」
吸血鬼「毎日のように人の家にズカズカと入り込んでさ」
男「ちゃんとチャイム鳴らしているじゃないか」
吸血鬼「うるさい!一人暮らしのレディのお家に侵入するなんて、即逮捕よ逮捕!」
男「よーしできた!小皿あるかい?」
吸血鬼「……取ってくる」
吸血鬼「ふー、ふー」
男「んめー」ズルズル
吸血鬼「ちょっと!そんなガツガツ食べないでよ!私の分が無くなっちゃうでしょ!」
男「お前食うの遅いな」
吸血鬼「ッ馬鹿じゃないの!?私が熱いのが苦手なのあんた知ってるでしょ!?」
男「そ、そうだっけ?」
吸血鬼「サイテー……この前のラーメンだって馬鹿みたいに熱くしてさ」
男「……ああ、そうだったな済まない」
吸血鬼「ホントに悪いと思ってるの?今度やったら警察に不審者だって突き出すわよ!」
男「本当にゴメン!この通りだ!」
吸血鬼「ふん、わかったならちゃんと私のペースに合わせて食べなさいよね!」
男「ところでお味の方は?」
吸血鬼「……悪くはないわ」
男「ふー、食った食った」
吸血鬼「ちょっと、用が済んだらさっさと出てってよね」
男「あいよ」
吸血鬼「あ、出ていくならちゃんと台所と洗い物片づけてからにしなさいよ!」
男「はいはい」
吸血鬼「それと、お風呂入りたいから湯船掃除してお湯ためておきなさい!」
男「はいはい」
吸血鬼「『はい』は一回!」
男「ふんふ~ん」シャカシャカ
吸血鬼「……」ジー
男「……」シャカシャカ
吸血鬼「……」ソワソワ
男「あー、そうだな、済まないんだが洗い物手伝ってもらってもいいかい?」
吸血鬼「!?なんで私が!暇してるようにでも見えたのかしら!?」
男「えーっと……」
吸血鬼「まあいいわ、あんたに私の大事なお皿を割られたらたまったもんじゃないし」
男「ははは……」
吸血鬼「感謝しなさい!この私があんたの手伝いをしてあげるなんて、これが最初で最後なんだからね!」
男「さて、洗い物も終わった、風呂の掃除してお湯も張った。あとなんかすることあるかい?」
吸血鬼「そうね、あんたには早急に出て行ってもらえるかしら?」
男「?」
吸血鬼「なに不思議そうな顔してるのよ!私はこれからお風呂に入るの!さっさと出て行け!」
男「おおう、そりゃ失礼!……ところで明日は何食べたい?」
吸血鬼「なんで明日も来ることになってんのよ!」
男「ハンバーグかシチューにするつもりだったんだが」
吸血鬼「……ハンバーグがいい」
男「了解。じゃあまた明日なー」
吸血鬼「はあ、まったくあの馬鹿は……」チャポン
吸血鬼「なれなれしくしちゃって、私は吸血鬼なのよ?もう200年は生きてる至高の種族なのよ?」プクプク
吸血鬼「よりにもよってあんな奴に吸血鬼だってことがばれるなんて……一生の不覚よ!」プクプク
吸血鬼「しかも勝手に私の家に入ってきて、勝手にご飯作って、勝手に机囲んで一緒に食べる!?ホントになんなのよあいつ!」プクプク
吸血鬼「まあ、料理上手だから今のところは許してあげてるけど……」プクプクプクプク
吸血鬼「誰かと一緒にご飯食べるのも、久しぶりだから目をつむってあげてるけど……」プクプクプクプク
吸血鬼「ああーーー!!!やめやめ!!!早く体洗って寝ちゃおう!」ザバッ
吸血鬼「……ハンバーグ、楽しみだな」
吸血鬼「んー、朝?」ウトウト
男「おはよう」
吸血鬼「おはよー」ウトウト
男「朝ごはん作っておいたからちゃんと食えよ」
吸血鬼「はーい……はい?」
男「ん?」
吸血鬼「なななななんであんたがここにいるのよ!」
男「大学行く前に時間あったからちょっとな」
吸血鬼「出て行けー!」
男「ただいまー」
吸血鬼「もうね、ツッコむ気すらもわかないわ」
男「さて、じゃーさっそく作りますか」
吸血鬼「はあ、私は寝てるからできたら起こしなさい」
男「へいへい」
吸血鬼『あー、もう雨降るとか聞いてないよー!……ビショビショだし、脱いじゃお』ヌギヌギ
男『ただいまー…………え?』
吸血鬼『えっ?』
男『……尻尾?』
吸血鬼『……きゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
男『ちょま、ここ俺の部屋だろ!?そうだよな?で、あんた誰?』
吸血鬼『変態!ストーカー!変出者!覗き魔!性犯罪者!』
男『落ち着け!まずあんた誰だ!そんでそれより服着ろマジで!』
『なんか悲鳴が聞こえてきたけどどうかしました?』
男『あ、大家さん!なんか知らない女の子が俺の部屋に……』
吸血鬼『大家さん!助けて!この男に犯される!』
『……男君、ちょっと事務所に行こうか』
男『ご、誤解です!ちょっと待ってお願い話を聞いてくださあああいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!!』
吸血鬼「う、うーん」
男「おーい、大丈夫か?」
吸血鬼「うう、なによ、ご飯出来たの?」ムクリ
男「あ、ああ。それにしてもどうしたんだ、一体?うなされてたぞ」
吸血鬼「……あんたが夢の中に出てきたのよ」
男「俺が?」
吸血鬼「もっというと、あんたと初めて会った時のこと。夢にまで出て来るなんてほんと最悪」
男「お前が間違えて隣の俺の部屋にいたせいで、あんとき俺はひどい目にあったんだぞ……」
吸血鬼「さて、出来たなら早く食べるわよ」
男「はいはい」
吸血鬼「……あら、なかなか美味しそうじゃない」
男「腕によりをかけて作りました。お味の方は?」
吸血鬼「……まあまあね」
男「恐縮です」
男「そういやさ、吸血鬼ってお前以外にもいるの?」
吸血鬼「知らない。この200年間では会ってないわね」
男「200年……ご両親は?」
吸血鬼「知らない。なんで私が吸血鬼になってのか、どうやってなったのか、いつなったのか、なんにも知らない」
男「……そうか」
吸血鬼「……知らなくても生きていけるし、知らなくてもご飯は美味しい。別に気になる訳でもないしね」
男「美味しい?」
吸血鬼「?……!!…………ま、まあまあって言ったでしょ!」
男「……」ニヤニヤ
TV「世間はクリスマス一色です!」ウィーウィッシュワメリクリッスマスッ
男「クリスマスかー」
吸血鬼「クリスマスねー」
男「吸血鬼もクリスマスを祝うのか?」
吸血鬼「かれこれ私は100年はクリスチャンやってるけど?」
男「……十字架とか大丈夫なん?」
吸血鬼「毎週日曜日に教会行ってる私に聞くの?」
男「事実は小説よりも奇なりぃ……」
吸血鬼「ただの先入観じゃない」
男「ニンニクは?」
吸血鬼「ニンニク自体は大丈夫。ニンニク臭いのはダメ」
男「……水は?流水だっけ?」
吸血鬼「6、70年前にドイツからアメリカ経由でこの国まで来たんだけど、旅客機なんてものがあったと思う?」
男「待て、その時期のヨーロッパっておもっくそ戦争中やん」
吸血鬼「戦争やってるからこそ、血を吸うには適してたのよ」
男「……」
吸血鬼「……ふん、なによその顔。今更私が吸血鬼だって認識しなおしたわけ?」
男「……」
吸血鬼「怖いなら出て行きなさいよ。今すぐ出ていくなら命だけは見逃してあげるわよ」
男「……よしよし」ナデナデ
吸血鬼「な、なにするのよ!」
男「いや、こんな小さいのに戦争を体験しているなんて、怖かったろうなあって思って」ナデナデ
吸血鬼「わ、私はあんたより年上よ!子ども扱いしないで!」
男「じゃあやめるか?」
吸血鬼「……も、もう少しだけやらせてあげるわ」
男「……」ナデナデ
吸血鬼(この私を子ども扱いするなんて、度胸があるんだか馬鹿なんだか)
男「……」ナデナデ
吸血鬼(でも、なんだかあったかい)ウトウト
吸血鬼「Zzz……はっ!寝てた?」
男「Zzz……」
吸血鬼「……可愛い顔して寝ちゃって」
男「ZZzzzz…………」
吸血鬼「……いつもありがとね」
男「……ん」ムクリ
吸血鬼「!?」ビクッ
男「…………Zzz」バタリ
吸血鬼「び、びっくりした……」
男「……あれ?俺寝ちゃってた?」
吸血鬼「人のうちで寝るなんて良い度胸してるわね」
男「こりゃ失礼した」
吸血鬼「本当よ」
男「……見ず知らずの人の部屋に入り込んで服脱いじゃうのはどうなんすかね?」チラッ
吸血鬼「!?……おーとーこー?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
男「や、失礼。冗談のつもりだったんだが……ははは」アセアセ
吸血鬼「ふーん、言いたいことはそれだけ?」ユラユラ
男「な、なんか背景が歪んで見えるなあ。こ、小粋なジョークってやつですよお姉さん」
吸血鬼「問答無用!」バキィッ
男「こたつ買ってきた」
吸血鬼「唐突ね」
男「最近流行りのミニサイズおこただ!」
吸血鬼「本当に流行ってるの、それ?騙されたんじゃない?……で、なんで私の部屋にあるわけ?」
男「俺の部屋だと置き場所がなくて」
吸血鬼「私の部屋はあんたの私物置場じゃないのよ!」
男「これは私物じゃなくて共用物だから問題ない」
吸血鬼「うるさい!それと、あんた足冷たい!狭いんだから足が当たらないようにしてよ!」
男「やっぱり冬はこたつだなー」ヌクヌク
吸血鬼「……」
男「みかん食うか?」
吸血鬼「……食べる」
男「どうした?なんかご機嫌斜めだな」
吸血鬼「別に。それと皮剥くのめんどくさい」
男「……そうか。ならいいんだが。……ほれ、剥けたぞ」
吸血鬼「……白いの残ってる。手抜かないで綺麗に剥いてよ」
男「はいはい」
吸血鬼「ご飯どうすんのよ」
男「今日も俺が作ってよろしいので?」
吸血鬼「嫌なら別にいいわよ」
男「とんでもない!よーし、じゃあ今日はお前の好きなチャーハンにしよう!」
吸血鬼「私の好物を捏造しないでくれる!?」
男「……チャーハン、嫌いか?」
吸血鬼「べ、別に嫌いってわけじゃないけど」
男「よっしゃ!チャーハン作るぞ!」
吸血鬼「はあ、もうなんでもいいわ……」
吸血鬼「……ごちそうさま」
男「お粗末様でした」
吸血鬼「しかし、あんた男のくせに料理作れるなんて変わってるわね」
男「そうか?最近は増えてるぞ、主夫」
吸血鬼「主婦?増えてる?結婚率って下がってるんじゃなかったの?」
男「主婦じゃなくて主夫な。って口で言ってもわからんか」
吸血鬼「な、なによ!馬鹿にしないでくれる!?」
男「馬鹿になんかしてないって。……こういうこと。文章にすりゃわかるっしょ」
吸血鬼「……し、知ってたし!これあれでしょ?仕事じゃなくて家事をする男の人でしょ?知ってたし!」
男「ふーん」ニヤニヤ
吸血鬼「馬鹿にするなー!」
男「なにかいうことは?」
吸血鬼「……ごめんなさい」
男「いいかい?いくら男の人が頑丈だからといって、椅子を思い切り投げつけてはいけません。死んでしまいます」
吸血鬼「……なんで私が起こられなちゃいけないのよ」
男「当たりどころが悪かったら大けがしてることだ!しっかりと反省するように!」
吸血鬼「はーい…………あれ、男……おでこから血出てるよ?」
男「え?マジ?どこどこ?」
吸血鬼「動かないで……拭いちゃうから……」
男「すまんね」
吸血鬼「……ちょっとしゃがんで」
男「はいはい」
吸血鬼「……」ペロッ
男「!?」
吸血鬼「……」ペロッペロッ
男「ちょ、おま、ストップ!」
吸血鬼「……」チューッ
男「いててて!め、目を覚ませ!」ガバッ
吸血鬼「……はれ?私一体……」ギュー
男「はあ、はあ」ギュー
吸血鬼「//////」カーッ
男「お、落ち着いた?」
吸血鬼「男のエッチ!」バチコーン
男「なんで!?」
吸血鬼「なにかいうことは?」
男「ごめんなさい」ドゲザ
吸血鬼「まったく、レディに抱き着くなんて何を考えてるのかしら?あなたはとうとう本物の犯罪者になってしまったの?」
男「返す言葉もありません……」
吸血鬼「そうね、本来なら今すぐ警察に突き出すところだけど……」
男「それだけはご勘弁を……」フカブカ
吸血鬼「ふふふ、そんなに頭を下げられたら仕方ないわね。私も鬼じゃないし、警察だけはやめてあげる」
男「ありがとうございます(鬼じゃないって、吸血 鬼 じゃん)」
吸血鬼「ま、あ、今回は私の懐の広さに感謝することね!二度目はないんだから!」
男「ははーっ!しかと肝に免じておきます!」
吸血鬼「ふん!それじゃあ私の気が変わらないうちにさっさと帰ってくれるかしら?」
男「ははーっ!それでは失礼いたします!」
吸血鬼「……」
男「……なあ」
吸血鬼「……なによ」
男「……本当にごめん。済まなかった」
吸血鬼「……ふん!」プイッ
吸血鬼「男に抱き着かれちゃった……」
吸血鬼「ひ、人に抱きしめられるなんて何十年ぶりだろう……」
吸血鬼「でも、男だしなあ……」
吸血鬼「いいやつだけど、まあ私には釣り合わないわよねー」
吸血鬼「所詮は人間だし……」
吸血鬼「……明日も来てくれる、よね?」
男「うーむ、勢いとはいえ抱き着いてしまった」
男「いや、抱き着いてしまったことはいい。問題は……」
男「……吸血鬼、かあ」
男「俺なんかにはわからない悩みとか、あるんだろうな……」
男「とりあえずあいつの前では血を見せないようにしよう」
男「……明日は何を作ろうかな」
吸血鬼「……」テクテク
男「……」テクテク
男・吸血鬼「「あっ」」バッタリ
吸血鬼「……えっと、あのー」モジモジ
男「こんにちは。外で会うのは初めてか?」
吸血鬼「え?……ええ、そうかもね」
男「それにしてもやっぱ外は寒いな!風邪ひかないようにな!」
吸血鬼「う、うん」
男「じゃ、また後で!」
吸血鬼「……(よかった、いつも通りの男だ)」
男「今日はロールキャベツです」
吸血鬼「ふ、ふーん」チラッ
男「嫌だった?」
吸血鬼「別にー」チラッチラッ
男「……人参、残すなよ?」
吸血鬼「!?」
男「図星か」
吸血鬼「な、何言ってんのよ!」
男「ま、あ、天下の吸血鬼様が、人参食べれないなんて子供みたいなこと、ないとは思うんですけどー」
吸血鬼「ぐぬぬ」
男「さて」
吸血鬼「……」
男「残るは人参だけだぞ」
吸血鬼「……」ウルウル
男「やれやれ、世話の焼ける。……ちょいと目をつむって」
吸血鬼「?」
男「口あけて」
吸血鬼「?」アー
男「それっ」ポイ
吸血鬼「!?」
吸血鬼「んー!!!」ブンブン
男「吐くなよー。ちゃんと飲み込めー」
吸血鬼「んー……」ゴクリ
男「おおー!食えた食えた!」
吸血鬼「あんた!どうやら殺されたいみたいね!」
男「はいあーん」
吸血鬼「む、むぐぐ」
男「飲み込めー」
吸血鬼「むぐーっ!」
男「なんだよ、ちゃんと食えるんじゃん」
吸血鬼「あ、あんたが無理やり食わせたんでしょ」ゼーゼー
男「でもまずくはなかっただろ?」
吸血鬼「……知らないっ!」
男「この程度じゃ人参の美味しさがわからんと。ならばほれ、あーん」
吸血鬼「ん、んーっ!」
吸血鬼「あ、見て見て、流れ星!」
男「おー、綺麗だな」
吸血鬼「あんた、流れ星に願い事したら?」
男「なんて?」
吸血鬼「『僕にもクリスマスを一緒に過ごせる可愛い彼女ができますように』……とか」
男「ふむ、しかしお前が流れ星に願い事なんて信じてるとはな」
吸血鬼「こういうのは気持ちの問題でしょ」
男「……もしかして、サンタさんとか信じてる?」
吸血鬼「あんた信じてないの?」
男「そりゃこの年になればなあ」
吸血鬼「夢のない男ねえ。ヴァンパイアがいるんだから、サンタくらいいてもおかしくないんじゃない?」
男「う、た、確かにそういわれてみれば……」
吸血鬼「それに、本物のサンタクロースに会うくらいできるしね」
男「え?」
吸血鬼「フィンランドにいけば……」
男「お前も大概夢ねーじゃねーか!」
吸血鬼「ケチャップよ!」
男「俺は醤油だな」
吸血鬼「……あんた料理できるのに味音痴なの?」
男「いや、俺はずーっとオムレツには醤油だったんだ」
吸血鬼「……ありえない」
男「別にケチャップを否定しているわけじゃないからいいだろ!」
吸血鬼「いいえ、醤油なんてオムレツへの侮辱よ!あんたはこれからケチャップを使って食べなさい!」
男「な、くそ!まさか、この前の仕返しか……!」
吸血鬼「ふふん♪」
男「……」
吸血鬼「……ねえ、ちょっといい?」
男「んー?」
吸血鬼「あんたさ、なんでイチイチ私に絡むの?」
男「……迷惑だったら謝る」
吸血鬼「もう慣れっこだけどね。……で、なんで?」
男「そりゃあ、好きだからな」
吸血鬼「……え?」バクン
男「嫌いな人に毎日会いに来ないでしょ」
吸血鬼「そ、それはそうだけど……」バクン
男「俺は人間で、お前は吸血鬼だ。でも、そんなこと知ったこっちゃない。俺は、お前が好きだ」
吸血鬼「……」バクン
男「ダメか?」
吸血鬼「だ、ダメに決まってるでしょ!何言ってんのよ!」バクンバクン
男「そうか……残念だ」
吸血鬼「当たり前でしょ!吸血鬼で容姿端麗なこの私が、あんたなんかに釣り合う訳がないでしょ!」バクンバクン
男「ごもっともで……」
吸血鬼「あんたみたいにすぐ死んじゃう人間が、この私と一緒になろうなんて百年早いわ!」バクンバクン
男「……お、おい、どうした?顔が赤いぞ?」
吸血鬼「そもそもね、あんたが私のことが好きってことくらい知っていたわよ!」バクンバクン
男「おい?大丈夫か?……なんだ?なかついて―――うぐっ!」グイッ
吸血鬼「毎日毎日馬鹿の一つ覚えみたいにご飯作りにきちゃってさ、丸わかりだっての!」バクンバクン
男「お、おい、やめっ、くるし……」ギリギリギリギリ
吸血鬼「なーにが『俺は、お前が好きだ』よ!どうせ私のことを置いて逝っちゃうくせに!先に死んじゃうくせに!」バクンバクン
男「……くび……はなし、て…………」ギリギリギリギリ
吸血鬼「人の気持ちも知らないで、気軽に愛の告白なんてしないで!私だって、私だってっ!」バクンバクンバクンバクン
男「……かはっ……」ギリギリギリ
吸血鬼「そうだ、あんた、私のこと好きなんでしょ?私と一緒にいたいんでしょ?」バクンバクンバクンバクンバクン
男「…………」ギリギリギリ
吸血鬼「私がこの手で殺してあげる。そしてあんたの血を飲むの。そうすればずっと一緒に言われるわよ!ふふふ、あーっはっはっはっは!!」バクンバクンバクンバクンバクン
男「…………」ギリギリギリギリギリギリ スッ
吸血鬼「なに?命乞い?残念だけど受け付けていないわよ!」バクンバクンバクンバクン
男「…………」ギリギリギリギリギリギリ ギュッ
吸血鬼「……えっ?」バクンバクンバクン
吸血鬼「な、なに?抱き着くなんて気が狂っちゃった?」バクンバクン
男「…………」ギリギリギリギリ ギューーーッ
吸血鬼「……なによ、なんなのよ!」バクンバクン
男「…………」ギリギリギリ ギューーッ
吸血鬼「はあ、はあ、はあ……」バクン
男「…………」ギリギリ ギューーーーーッ
吸血鬼「はあ、はあ……あ、れ?男?私……男!?」パッ
男「けぼっ、げほっ、う……はあ、はあ、はあ、はあ…………」ゼーゼー
吸血鬼「いや、嘘……私…………」
男「はあ、はあ、お、俺は、だい、じょうぶ……」
吸血鬼「ごめんね、ごめんね……。私、私……」
男「大丈夫、はあ、怒ってなんか、いない、いてっ」
吸血鬼「……どうしたの?首元、怪我しちゃった?」
男「いや、なんても、ない(マズイ、首絞められた時に詰めが食い込んでた!)」
吸血鬼「ちょっと首のところみせて!もしかすると傷になってるかも……」
男「大丈夫、大丈夫だから!」
吸血鬼「いいから見せ……て……」
男「しま、った!」
吸血鬼「……」ペロッ
男「いたっ!お、落ち着け!」
吸血鬼「……おいしい…………」ペロッ
男「だぁーっ、やめろ!」ギュッ
吸血鬼「男の血……おいしいよ……」チュパチュパ
男「はなせっ、おい、気をしっかり持て!」ギュッ
吸血鬼「……ん?…………わ、私今何を」
吸血鬼「いや、いや……私…………」
男「落ち着け!」
吸血鬼「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
男「はあ、はあ……待て、いくな!」
吸血鬼(私、最低だっ!)
吸血鬼(男の血を吸うなんて……)
吸血鬼(それだけじゃない……私は男のこと、この手で、この手で……)
吸血鬼「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
吸血鬼「はあっはあっはあっ!」タッタッタッタッタッタッ
吸血鬼「きゃっ!?」ドテッ
「いてっ!?」
吸血鬼「……」
「いててて、こりゃ骨折しちゃったかもな~嬢ちゃん、どうしてくれるんだい?」
吸血鬼「…………」ブツブツブツ
「おい、なんとか言えよこら!?」
吸血鬼「……そうだ、やっぱりあれがわるかったんだ……」ブツブツ
「ああん?なんか言ったか?」
吸血鬼「私があんなことしたのは、最近吸血してなかったからだ!なあんだ、そんなことかあ」
「はあ?吸血?頭おかしいんじゃねえの?」
吸血鬼「原因がわかったら、さっさと直して謝りにいかなきゃ!」
「謝る?謝って許してもらえると思うな―――ぶっ!」ガン
「こいつ、レンガで思いきり殴りやがった!正気じゃねえ!」
吸血鬼「ほーら、こんなに簡単に血が取れた!……もっとちょうだいよ?」ペロリ
「ひっ!化けもんだ!に、逃げろ!」
吸血鬼「ははは、逃がさな―――うっ!……おぇっ」ピチャッ
吸血鬼(嘘、だよね……あいつの血を、今、からだが拒絶した!?)
吸血鬼「……そんなわけない……家に帰って備蓄の輸血用血液飲めば、大丈夫」
吸血鬼「……男?」
吸血鬼「……いない。もしかして、探してくれてるのかな」
吸血鬼「……血を飲んで、落ち着いてから私も男を探そう」
吸血鬼「どうして……」ピチャッピチャ
吸血鬼「これもダメ、これもダメ、これも、これも、これも……全部、飲めない……」
吸血鬼「ふふふ、あはははは!もしかして、天罰なのかな!吸血鬼の分際で人を好きになるから!」
吸血鬼「友達ができてもみんな私を置き去りにして死んでいっちゃうから、絶対に人を好きにならないって決めたのに……」
吸血鬼「あっさり男に心を許したりするから……」
吸血鬼「それとも、人ならざるものが神を信じたから?吸血鬼が教会で十字を切っていたのが駄目だったの?ねえ、教えてよ神様!」
吸血鬼「…………」
吸血鬼「もう、疲れちゃった……」
吸血鬼「何かに感動するのも、何かを好きになるのも、何かを傷つけるのも……」
吸血鬼「200年、生きすぎだね……こんなつらい目に合うなら、吸血鬼になんかなりたくなかった……」
吸血鬼「死のう、もう男を傷つけたくない……」
吸血鬼「確かここに包丁が……」
吸血鬼「……いい匂い……お味噌汁だ」
吸血鬼「そっか、男、料理中だったんだっけ」
吸血鬼「……おいしい。本当に男は料理が上手いなあ…………」
吸血鬼「……もっと男の作った料理、食べたかったなぁ……」
吸血鬼「…………ひっく、ひっく……」ポロポロ
吸血鬼「……いやだよぉ……やっぱり、まだ死にたくないよ…………男と一緒に生きたいよぉ!」ポロポロポロポロ
吸血鬼「男、男、おどごぉ……」ポロポロポロ
男「呼んだかい?」
吸血鬼「!?」
男「こら、料理もしないのに包丁を持っちゃダメだろ!」
吸血鬼「男……!?来ちゃダメ!」
男「なんで?」
吸血鬼「私、男を傷つけたくないの!人間と吸血鬼は一緒になれないから、近くにいると傷つけちゃう!」
男「はあ、馬鹿いってんじゃねえよ」ギュ
吸血鬼「っ!は、離して!」
男「やだね」
吸血鬼「お願い、わかってよ……このままじゃ、いつか私、本当に男を殺しちゃう!」
男「いいや、お前はそんなことしないね」
吸血鬼「なんでそんなこと言いきれるのよ!?さっき、私は現に……」
男「お前は、人を殺すようなやつじゃない」
吸血鬼「!?」
男「その証拠にほら、こうやって抱きしめてあげれば、何ともなくなるだろ?」
吸血鬼「それは……」
男「……確かに俺は人間だ。あと80年も生きられたらいい方だろう。俺はお前と同ように、永い時間を生きることはできない」
男「でもな、お前の隣にいることはできなくでも、そばにいてやることはできる」
男「ずっと1人だったんだろ?失うのが怖くて前に進めなかったんだろ?」
男「もう大丈夫だ。例え死んでも、一緒にいてやるから……」
吸血鬼「う、ひくっ、う、うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
男「よしよし」ナデナデ
吸血鬼「……首の傷、大丈夫?」
男「こんなのかすり傷だ。薬ぬっときゃでーじょうーぶだろ」
吸血鬼「……男、ホントにごめんね……」
男「おっと、約束したろ?『ごめんなさい』は無しだって」
吸血鬼「そ、そうだったね、ごめんごめん」
男「おーいー?」
吸血鬼「ち、違う!今のはなし!そういう意味じゃなくてー、えっとー……」
男「……ぷっ、あっはっはっは!」
吸血鬼「な、なによ!笑うことないじゃない!」
男「いやさ、なんか悩んでたのが馬鹿らしくなってこないか?」
吸血鬼「え?」
男「『一緒にいる』。それだけでこんなに楽しいのに、何を戸惑っていたんだろうって」
吸血鬼「それは……」
男「あ、お前を責めてるわけじゃいぞ!どちらかいうと、俺自身を責めてるんだ」
男「俺もな、どこかに遠慮があったんだ。200年も生きている吸血鬼のこと、好きになったって結ばれようがないんじゃないかって」
男「でも、悩んだってしょうがない。俺はお前とじゃなきゃ絶対だめだって思ったんだ」
男「一度きりの人生、後悔だけはしたくなくて……急すぎて辛い目に合わせちまったな。すまん」
吸血鬼「……おーとーこー?『ごめんさい』は無しでしょ?『すまん』もダメ!」
男「おっと、こりゃまいったな」
吸血鬼「ふふふ」
吸血鬼「ねえ、男?」
男「ん?」
吸血鬼「好きだよ」
男「俺もだ」
吸血鬼「好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、だーいすき!」
男「い、いきなりどうした?」
吸血鬼「えへへ、今まで言えなかった分の『好き』を言ったの!」
男「……ちょっと少なくね?」
吸血鬼「いいの!その分これから言い続けるんだから!」
男「ふふふ、それは期待せざるを得ないな」
吸血鬼「それにしても、い、いざやってみるとちょっと恥ずかしいなぁ……さ、早くご飯つくっちゃおう!」
男「あ、ごまかしたな!……まあ後々たっぷりと聞かせてもらいますか」
吸血鬼「まずは野菜を切ってっと……いたっ!」ザクッ
男「おいおい、大丈夫か?」
吸血鬼「ててて、ちょこっと指の先切っちゃった……消毒してくるね」
男「見せてみ……こんくらいならつばつけときゃ治るよ」チュッ
吸血鬼「ひゃぁ/////」
男「よし、これでだいじょう、ぶ……」バクンバクン
吸血鬼「……男?」
男「な、なんか変だぞ……体が……熱い」バクンバクンバクン
吸血鬼「も、もしかして……」
吸血鬼「ちょっとゴメン!」ギニュッ
男「うひゃあ!ぱ、パンツの中に手ぇ突っ込んで、な、なに掴んでんだよ!」
吸血鬼「男……これ…………」
男「……え?……これ、し、尻尾?」
吸血鬼「お、おとこ……」ジワッ
男「も、もしかして……俺……」
吸血鬼「男ぉ!!」バッ ギュッ
男「おっと」ダキッ ギュッ
吸血鬼「よかったね!これで、これで本当にずっと一緒だよ!」
男「ああ、本当によかった。……それにしてもいったいどうして……まさか、血を吸われたから?」
吸血鬼「そんなんでいちいち吸血鬼化されてたら、今頃ヨーロッパ大陸は吸血鬼しかいないよ!」
男「だよなあ、じゃあお前の血を舐めたから?」
吸血鬼「昔、頼まれて血を売ったことあるけど、なんにもならなかったよ」
男「えぇ……じゃあなんで……」
吸血鬼「そんなことはどうだっていいの!」
男「そんなことって……」
吸血鬼「なんで、どうして男が吸血鬼になったかなんて知らなくたって、男の作るご飯は美味しいし、これからずっと男と一緒にいれて私は幸せなの!理由なんて、知る必要ない!」
男「……そうだな、考えたって始まらん。いや、もうこの時から始まっているんだな」
吸血鬼「そう!どうしても理由をつけたくなったら、その時はよくわかってないもののせいにするのよ!それが吸血鬼流!」
男「つまり、これはサンタさんからの粋なプレゼント、ってことか」
吸血鬼「それいいね!……ほらね、男は馬鹿にしてたけど、サンタさんいたでしょ?」
男「ああ、サンタクロースも捨てたもんじゃないな」
吸血鬼「あ、そんなこんなしちゃってたら夜が明けちゃったよ?」
男「ホントだ。……日の光も大丈夫なんだな」
吸血鬼「弱点がない代わりに、そんなに力があるわけでもないけどね」
男「なんにせよ、日常生活に支障が出ないのはありがたいことだ……」
吸血鬼「まあね。…………ねえ、男?」
男「ん?」
吸血鬼「メリー……いや、待てよ…………ごほん!ハッピークリスマス!」
男「ハッピー?メリーじゃないのか?」
吸血鬼「クリスマスを祝ってるわけじゃないからこれでいいの!」
男「おいおい、100年間続けてきたんだろ、クリスチャン?ちゃんと聖誕祭は祝わないと……」
吸血鬼「いいの!私がクリスチャンやってたのは、吸血鬼としての永い生涯の、進むべき道しるべが欲しかったから……」
吸血鬼「だから、もういいの!クリスチャンにして吸血鬼だった私は先ほどいなくなりました!」
吸血鬼「だって、私の道しるべは、今隣にいてくれるから!これからも、ずっと一緒だから!」ギュッ
男「お前ってやつは……本当にどこどこまでも可愛い奴だ!絶対に離さないからな!迷ったりなんかしないぞ!」
吸血鬼「うん!いつまでも、二人一緒に……」ニッコリ
~おわり~