シンジ「君が、葛城ミサトちゃんだね」【前編】
子供「わーい、当たった当たったぁ~!」
レイ「これじゃあ毎回のクリーニング代も、バカにならないわね」
ヒカリ「せめて自分でお洗濯できる時間くらい、ほしいわよね」
トウジ「重とーてかなわんわ」
ヒカリ「それは溜め込むのが悪いんでしょ」
トウジ「なんやとぅ!?」
レイ「あら、副司令」
レイ・ヒカリ「おはようございます」
トウジ「おはよーさん」
ヒカリ「コラ!敬語!!」
トウジ「うるさいのぉ、またお小言かいな」
ヒカリ「そうやってすぐ崩すから!戦闘中にも出ちゃうんでしょ!」
カヲル「ふふ…おはよう。相変わらず賑やかだね」
レイ「今日はお早いですね」
カヲル「葛城司令の代わりに上の町だよ」
レイ「ああ…今日は評議会の」
カヲル「定例だよ……つまらない仕事さ。昔から雑務はみんな僕に押し付けるんだ、断らなかった僕も悪いんだが。ふふっ…MAGIがいなかったらお手上げだったよ」
レイ「そう言えば、市議選が近いですよね。上は」
カヲル「あれは形骸に過ぎない…ここの市政は事実上MAGIのものだよ」
ヒカリ「あの3台のスーパーコンピューターが…」
カヲル「3系統のコンピュータによる多数決だからね…民主主義の基本に乗っ取ったシステムではある」
ヒカリ「じゃあ、議会はその決定に従うだけですか?」
カヲル「最も無駄の少ない、効率的な政治だよ」
ヒカリ「…凄い時代ですね。何でも科学でやれちゃうなんて…」
トウジ「いけすかんのぉ、機械に踊らされとんのと違うか?」
ヒカリ「また!そういうこと言って!!」
カヲル「……そう言えば、零号機の実験だったかな、そっちは」
レイ「ええ、本日1030より第2次稼動延長試験の予定です」
カヲル「朗報を期待してるよ…それと」
カヲル「シンジくんにもよろしく…」
レイ・ヒカリ・トウジ(……)
レイ「実験中断、回路を切って」
ヒカリ「回路切り替え」
オペレータ「電源、回復します」
レイ「問題は…ここね」
ヒカリ「はい、変換効率が理論値より0.008も低いのが気になります」
オペレータ「ぎりぎりの計測誤差の範囲内ですが、どうしますか?」
レイ「もう一度同じ設定で、相互変換を0.01だけ下げてやってみましょう」
ヒカリ「了解」
レイ「では、再起動実験、始めるわ」
アスカ「ちょっとそこのエレベーター!私も乗るわ!」
シンジ「えっ?うわっ、わ、あっ」
アスカ「うらっ」ガッッ
アスカ「……サイッテー。あんた今「閉」押したでしょ」
シンジ「ご…ごめん…間違っちゃって…」
アスカ「はぁーあ、ショボくれてんわねぇ相変わらず」
(通話)
オペレータ「はい、しばらくお待ちください」
葛城「なんだ?」
ミサト「あ、あの…お父さん…?」
葛城「そうだ」
ミサト「あっあの…今日、学校で進路相談の面接があることを父兄に報告しとけって、言われて…」
葛城「……そういう事はすべて碇君に一任してある。用件はそれだけか?」
ミサト「いや、えっと…」ブツッ
ミサト「あら?」
シンジ「うわっ…!」
アスカ「停電…?」
シンジ「そんな。ありえないよ」
シンジ「…変だな。何か事故かな…」
アスカ「あの研究バカがやらかしたんじゃないの?」
ヒカリ「主電源ストップ、電圧、ゼロです」
オペレータ達「……」
レイ「……私じゃないわ」
シンジ「綾波が?」
アスカ「でもまぁ、すぐに予備電源に切り替わるでしょ」
オペレータ「だめです、予備回線つながりません」
カヲル「……そんなはずはない。生き残っている回線は?」
職員「全部で1.2%、2567番からの9回線だけです!」
カヲル「生き残っている回線はすべてMAGIとセントラルドグマの維持へ廻して。最優先だ」
オペレータ「全館の生命維持に支障が生じますが…」
カヲル「背に腹は代えられない…」
ケンスケ「まったく…気ぃ使うよなあ…あの二人。いつになったらくっつくんだか……アレ??」
加持「単に忙しかっただけじゃないのか?」
ミサト「いや…そういう感じじゃなくて…こう、ブツッと……」
加持「ま、考えてもしょうがない。本人に直接聞くのが早いさ……ん?」
リツコ「?」
ミサト「どうしたの?」
加持「いや、カードキーが……故障か?」
ミサト「そんな」シャッ
ミサト「ほんとだ……」
ミサト「またIDが変わったのかしら」
加持「いや…それにしてもおかしい。エラー音もならないなんて」
レイ「とにかく、発令所へ急ぎましょ。7分たっても復旧しないなんて…」
シンジ「…ただ事じゃない」
アスカ「ここの電源は?」
シンジ「正・副・予備の3系統。それが同時に落ちるなんて、考えられないよ」
アスカ「ってことは…」
葛城「ブレーカーは落ちたと言うより落とされた、と見るべきだ」
カヲル「原因はどうであれ、こんな時に使徒が現れたら一巻の終わりだよ」
戦自「索敵レーダーに正体不明の反応あり!予想上陸地点は旧熱海方面!」
戦自司令官「おそらく、8番目の奴だ」
司令官「ああ、使徒だろう」
戦自「どうします」
司令官「一応、警報シフトにしておけ。決まりだからな」
司令官「どうせまた奴の目的地は、第3新東京市だ」
司令官「そうだな。俺達がすることは何も無いさ」
戦自「使徒、上陸しました!」
戦自「依然、進行中」
司令官「第3進東京市は?」
戦自「沈黙を守っています」
司令官「一体ネルフの連中は、何をやってるんだ!」
レイ「備えあれば憂いなし、とはよく言ったものね…」
ヒカリ「まさかこの時代にタラップを使うことになるなんて…」
加持「…駄目だ、ここも動かない」
リツコ「どの施設も動かない…異常ね」
ミサト「下で何かあったってこと!?」
リツコ「恐らくは」
加持「とにかく、ネルフ本部へ連絡してみよう」
アスカ「駄目。非常電話もつながらない」
トウジ「77号線も繋がらん…!」
リツコ「駄目ね、繋がらない」
加持「こっちもだ、有線の非常回線もイカれちまってる」
ミサト「どうしよう…」
リツコ「……」ゴソ…
加持「おっ、その手があったか」
ミサト「何?」
加持「緊急時のマニュアルだよ」
リツコ「…とにかく本部へ行きましょう」
加持「だな」
リツコ「こっちの第7ルートから下に入れるわ」
ミサト「…手動、ドア…?」
加持「俺の出番かな?」
戦自司令官「統幕会議め、こんな時だけ現場に頼りおって!」
司令官「政府は何と言ってる?」
司令官「フン、第2東京の連中か?逃げ支度だそうだ」
戦自「使徒は依然健在、進行中」
司令官「とにかく、ネルフの連中と連絡を取るんだ」
司令官「しかし、どうやって?」
司令官「直接行くんだよ」
セスナ「こちらは第3管区航空自衛隊です。ただいま正体不明の物体が本書に対し移動中です。住民の皆様は速やかに指定のシェルターに避難してください」
ケンスケ「ヤバイな…!急いで本部に知らせなきゃ!でもどうやって…」
選挙カー「こういった非常時にも動じない、高橋、高橋覗をよろしくお願いいたします!」
ケンスケ「ナ~イスタイミング!」
アスカ「それにしてもあっついわねぇ…」
シンジ「たぶん…残った回線を全部MAGIとセントラルドグマに使ってるんだ…」
アスカ「~~~~あ~ッもうっ!」バサッ
シンジ「うわ!?あ、アスカ!!何してんだよ!??」
アスカ「仕方ないでしょう!?暑いんだからぁ!」
シンジ「な…っ、な…」
アスカ「誰が見ていいって言ったのよ!変態!あっち向いてなさいよ!」
シンジ「ぬっ脱ぐ前に言ってよ…!」
アスカ「はぁーっ。こういう状況下だからって、変なこと考えないでよ?」パタパタ
シンジ「考えないよっ!もう…!」
レイ「…空気がよどんできた……近代科学の粋を凝らした最大施設も、こうなると形無しね…」
ヒカリ「でも、さすがは司令と副司令、この暑さにも動じないわね」
カヲル「……ぬるいね」
葛城「ああ…」
ウグイス嬢「当管区内における非常事態宣言に伴い緊急車両が通ります…って、あの、行き止まりですよぉ!」
ケンスケ「止まるな止まるなぁっ!今は非常時!すべて私が許可するッ!」ビシッ
運転手「リョーカイッ!」
ウグイス嬢「いやぁ、もう止めてぇ!」
カヲル「このジオフロントは外部から隔離されても自給自足できるコロニーとして作られている。そのすべての電源が落ちると言う状況は、理論上はありえない」
レイ「…誰かが故意にやったと言うことですね」
葛城「おそらく目的はここの調査だ」
レイ「復旧ルートから本部の構造を推測するわけですか」
カヲル「連中、小癪なマネをしてくれるよ」
レイ「MAGIにダミープログラムを走らせます。全体の把握は困難になると思いますから」
葛城「頼む」
レイ「はい」
カヲル「…本部初の被害が、使徒によるものではなく同じ人間からのものになるとはね…」
葛城「……同じ人間などいない。だがこのやり方は不当だ」
加持「…路が左右に別れてる」
ミサト「右じゃないの?」
リツコ「…左」
加持「じゃ、左だな」
ミサト「ちょっと!なんでよっ」
加持「さっきから二回も行き止まりを選んでるだろ?」
ミサト「う~…」
加持「ははっ、明るくったって葛城にとっちゃここは迷路だからなァ。この前だって…」
ミサト「ア~ッ!リツコには言わないでよっ!」
リツコ「シッ」
ミサト「えっ?」
リツコ「人の声がするわ…」
ミサト「?」
ケンスケ「使徒、接近中!繰り返す!使徒、接近中!」
ミサト・加持「相田さんだ!」
ケンスケ「使徒、接近中、繰り返す、現在、使徒、接近中!」
ミサト・加持「使徒接近!?」
リツコ「時間が惜しいわ。近道しましょう」
加持「分かるのか?」
リツコ「確信があるわけじゃないけど…だいたいの構造は頭に入ってるから」
加持「頼もしいな」
リツコ「あなたたちより少し長くここにいるだけよ」
シンジ「……ねぇ、アスカ」
アスカ「なによ」
シンジ「…使徒って何なのかな…」
アスカ「…!」
アスカ「はぁ!?なに言ってんのよ、こんな時に」
シンジ「いいだろ別に……どうせ何もできないんだから…」
シンジ「使徒。神の使い。天使の名を持つ僕らの敵…」
シンジ「でも遺伝子上ではたった2%の違いしかないんだ。…栄えるはずだったもうひとつの人類…」
シンジ「なぜ戦わなければいけないんだろう…」
アスカ「……あんたバカぁ?訳わかんない連中が攻めてきてんのよ、降りかかる火の粉は払い除けるのがあったりまえでしょ!?あんたそのもうひとつの人類とやらに立場を譲って、人間が滅びてもいいっての!?」
シンジ「……そうじゃ、ないけど…」
アスカ「あぁ、もう!あんたのそういうウジウジしたとこ、いい加減直んないわけェ!?」
シンジ「ウジウジって……アスカだってその沸点低いのどうにかしたら?ただでさえ暑いんだから…」
アスカ「あ~ッもう我慢ならないわっ!」
シンジ「うわっごめん言い過ぎたよ!」
アスカ「シンジっ!肩貸しなさい!」
シンジ「えっ」
アスカ「漏れそうなのよッ」
ケンスケ「現在、使徒接近中!直ちにエヴァ発進の要有りと認む!」
ヒカリ「…大変!」
葛城「渚、後を頼む」
カヲル「どこへ?」
葛城「…ケイジでエヴァの発進準備を進めておく」
カヲル「手動でかい?司令直々に?」
葛城「緊急用のディーゼルがある」
カヲル「ふふ…分かったよ。ここは任せて」
加持「次は?」
リツコ「右よ」
ミサト「それにしてもスッゴいわね…私もう帰り道分かんないわよ」
加持「大丈夫さ…帰りはちゃんとした道を通って行ける」
ミサト「リツコっていつからここにいるの?」
リツコ「覚えてないわ。ただこの下の道は実験でよく通るから…」
ミサト「実験って…零号機だけでやるあの実験よね?…プロトタイプにしかできないことなの?」
リツコ「……ごめんなさい。答えられないわ」
ミサト「……」
加持「赤木を問い詰めたって仕方ないだろう?ここはネルフなんだ。情報漏洩は命取りになる」
ミサト「…そうね。ごめんリツコ、つまんないこと聞いたわ」
リツコ「…………」
作業員「いよーいしょ、よーいしょ、よーいしょ、よーいしょ!」
作業員「了解、停止信号プラグ、排出終了」
葛城「よし、3機ともエントリープラグ挿入準備」
作業員「しかし、いまだにパイロットが」
レイ「大丈夫。きっと来るわ…あの子達なら」
加持「ここは……手じゃ無理だな」
リツコ「仕方ないわ。ダクトを破壊してそこから進みましょう」
ミサト「…リツコって普段は大人しいのに、使徒が絡んでくると大胆よね」
リツコ「命に関わるもの」
加持「はは…そりゃそうだ」
作業員・葛城「いよーいしょ、よーいしょ、よーいしょ、よーいしょ!」
ヒカリ「プラグ、固定準備完了」
レイ「…後はあの子達ね」
加持「危ないから少し離れて」
加持「じゃあいくぞっ」
ガンッ ガンッ
レイ「……?」
ガンッ
加持「おわっ」ドスンッ
ミサト「だっ大丈夫?加持くん…あっ」
リツコ「……」
レイ「あなたたち!」
葛城「各機、エントリー準備」
作業員「了解、手動でハッチ開け」
ミサト「エバーは…?」
レイ「スタンバイできてるわ」
ミサト「何も動かないのに、どうやって…」
レイ「人の手でね。あなたのお父さんのアイディアよ」
ミサト「父の…」
作業員・葛城「ふぬーっ、ふぬーっ、ふぬーっ…」
レイ「葛城司令は、あなたたちが来ることを信じて、準備してたのよ」
ヒカリ「プラグ挿入」
レイ「全機、補助電源にて起動完了」
葛城「第一ロックボルト、外せ」
作業員「2番から32番までの油圧ロックを解除」
ヒカリ「圧力ゼロ、状況フリー」
葛城「構わん。各機実力で拘束具を除去、出撃しろ!」
ケンスケ「目標は直上にて停止の模様!繰り返す!」
レイ「作業、急いで!」
オペレータ「非常用バッテリー搭載完了!」
レイ「行ける…!」
レイ「発進!」
加持「マグマの次は排気口……平時の戦闘が懐かしくなるな」
リツコ「縦穴に出るわ」
加持「お次は山登りか……」
加持「!」
リツコ「いけない、よけて!」
加持「おわっ」
ミサト「きゃあっ」
リツコ「……目標は、強力な溶解液で本部に直接侵入を図るつもりのようね」
ミサト「どうすんのよ…!?」
加持「やるしか、ないだろうな」
ミサト「やるったって…!ライフルは落としちゃったし、背中の電池は切れちゃったから、後3分も動かないし…!」
加持「待て待て、落ち着くんだ…作戦はある」
ミサト「作戦?」
加持「…ここにとどまる機体がディフェンス。A.T.フィールドを中和しつつ奴の溶解液からオフェンスを守る」
加持「バックアップは下降。落ちたライフルを回収しオフェンスに渡す。そしてオフェンスはライフルの一斉射にて目標を破壊……簡単だろ?」
ミサト「簡単って…守りは誰が」
リツコ「いいわ。ディフェンスは私が」
加持「却下。発案者は俺だ…危険な役は俺がやる」
ミサト「いえ……私がいくわ!弐号機はまだ前回の傷が…!」
加持「そう言うなよ。たまにはいい格好させてくれ」
加持「大丈夫。…うまくやるよ」
ミサト「…………」
加持「じゃあ確認だ」
加持「葛城がオフェンス、赤木がバックアップ、俺は守りに徹する」
ミサト「…分かった」
リツコ「了解」
加持「それじゃあ、いくぞっ!」
ミサト「リツコっ!」
ミサト「! 加持くん、よけてっ!」
加持「うぐっ、ぅ…!」
加持「……惚れ直しただろ…?」
ミサト「馬鹿……無理しちゃて」
ガンッ ガンッ ガンッ
アスカ「も~ぅ、何で開かないのよ~!非常事態なのよ~!はぁっ、もう、もれちゃう!こら、もう!上見るな、って言ってるでしょ!」
シンジ「あ…アスカ!暴れないでよ、重いんだから…!」
アスカ「ぬわんですって!?」
シンジ「わっ、わ、わあっ!」ガタン
レイ「……」
ヒカリ「…不潔…!」
ミサト「電気…人工の光が無いと、星がこんなにきれいだなんて、皮肉なもんね」
加持「葛城は星が好きなのか?」
ミサト「んー? 最近は、ちょっちね…」
加持「ロマンチストだな…俺はどうも暗闇が落ち着かない」
ミサト「………」
加持「光があったほうが……」
リツコ「…人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきた」
加持「おっ、なんかの詩かい?」
リツコ「習ったの。綾波博士から…」
ミサト「続きは?」
リツコ「分からない…」
ミサト「そう…」
加持「……作ればいいさ」
加持「人がこの先、何を使い、どうやって生きていくのか…」
ミサト「…まずは「生」を掴み取らないとね」
加持「その通り」
リツコ「……負けないわ」
加持「ああ。負けないさ、俺たちは」
拾壱話分終わり
シンジの過去。南極で起きた爆発
シンジ「…母さん…?」
ユイ「……」
シンジ「……」
青葉「悪いな、葛城。雨宿りさせてもらって」
日向「……シンジさんは…?」
ミサト「うーん、まだ寝てるかも。最近徹夜の仕事が多いみたいで…」
日向「…そっか」ホッ
加持「残念。俺がいるよ」
日向「」
加持「雨宿り、って口実も悪くはないが。アプローチするんならもっと相手に「特別」を意識させないとな?」サワッ
ミサト「ちょっと!ふざけないでよっ」バシッ
加持「あたた…」
青葉「はは…」
日向「……………」
シンジ「あれっ? 青葉くんに、日向くん」
青葉「すいません、雨宿りで」
日向「お邪魔してます」
シンジ「そっか…外雨降ってるのかぁ…」
ミサト「もう出るんですか?」
シンジ「うん。今日はちょっとね…2人とも、今夜はハーモニクスのテストがあるから、遅れないようにね」
ミサト「はい…」
加持「了解」
シンジ「じゃあ、いってきます」
ミサト「いってらっしゃい」
ミサト「………」
日向「…どうかした?葛城さん」
ミサト「いや…シンジさんの服、いつもと違ったような…」
青葉「ええ?同じだったろ」
ミサト「襟のところの線が、二本になってたような…」
加持「へえ。そりゃすごいな、シンジさん」
青葉「なんだ?なんか違うのか?」
加持「そりゃ、襟章の線が2本になってたんなら、一尉から三佐に昇進したってことだからな」
ミサト「そうなんだ…」
加持「…どうした?まだ何か気になることが?」
ミサト「…シンジさん、全然嬉しそうじゃなかったな、って…」
青葉「…きっと忙しかったんじゃないか?徹夜続きだって話だし」
日向「どうだろうな…あの若さで三佐なら、プレッシャーも大きいだろうし」
加持「ま、ともあれ目出度いことだ。サプライズパーティでも開くか?」
ミサト「……」
ヒカリ「0番2番、ともに汚染区域に隣接。限界です」
レイ「1番にはまだ余裕があるわね……プラグ深度を後0.3下げてみて」
ヒカリ「汚染区域ぎりぎりです」
レイ「それでもこの数値……凄いわね…」
ヒカリ「ハーモニクス、シンクロ率も加持くんに迫ってますね」
レイ「……才能ね…」
オペレータ「まさに、エヴァに乗るために生まれてきたような子供ですね」
シンジ「…………」
レイ「3人ともお疲れさま」
レイ「特に…ミサトちゃん」
ミサト「えっ?」
レイ「ハーモニクスが前回より8も伸びてる。とても良い数字よ」
ミサト「いえっ…そんな…まだまだです…!」
加持「そんなことないさ!10日で8だろ。たいしたもんだよ」
レイ「その通りよ。もっと自信を持って」
ミサト「は、はぁ…」
加持「じゃあ俺は「準備」があるから。お先に!」
ミサト「あ、あの、シンジさん……昇進おめでとうございます」
シンジ「はは…気付いてたの。ありがとう、嬉しいよ」
ミサト「………本当に嬉しい、ですか?」
シンジ「…!…はは…ダメだな。ミサトちゃんには敵わないや」
シンジ「…本当言うとね、複雑だよ…僕自身、何をしたってわけじゃないんだ。ただ流れに身を任せただけ…」
シンジ「目的はある。でもそれも最近は忙殺されて……遠いんだ。…何やってるんだろうって…疑問に思うこともある」
ミサト「…あの、疑問って…?」
シンジ「…(君たちを、エヴァに乗せてること…)」
ミサト「……?」
シンジ「いや…いいんだ。ごめんね、心配かけちゃって」
シンジ「僕がこんなじゃ、失礼だよね。勇気を持って乗ってくれてるミサトちゃんに対して。他のみんな…加持くんや、リツコちゃんにも……」
ミサト「……」(シンジさん…)
ミサト・日向・青葉・加持・マヤ「おめでとうございまーす!」
シンジ「ありがとう…わぁ、すごい。よくこんなに作れたね」
加持「クラスに凄腕の先生がいてね。ご教授いただいたんだ」
マヤ「す…凄腕ってわけじゃ…」
シンジ「…こ、これは…?」
ミサト「そ、それは…わたしが」
青葉「みっ見た目じゃないよなあ!?料理はなぁ!?」
日向「そ、そうさ!旨いんだから!問題ないよ!」
シンジ「ぱくっ」
ミサト「…!」
シンジ「…ありがとう、ミサトちゃんも。おいしいよ」
ミサト「……いえ!そんな…」カァ
リツコ「……私は作戦会議だと聞いたのだけど」
加持「…親睦を深めるってのも作戦のうちさ。それに、祝いの席には華が多い方がいいだろ?」
リツコ「花?」
マヤ「あっ赤木さん!よかったらこのスープ…」
リツコ「…いただくわ」
ミサト「それにしても…アスカさん遅いわね」
シンジ「!? ごほっ、あっ、アスカもくるの!?」
加持「誘ってはみたんですけどね。最近忙しいみたいで、色々と」
シンジ「………」
マヤ「アスカさんってどんな人なの?」
青葉「顔はいいよ…顔はね」
日向「性格がな…」
シンジ「あはは…」
加持「顔で渡ってこれる世界じゃない。腕は確かさ。でもまぁ……当たりが強いのは、感情の裏返しだろうな」
ミサト「裏返し?」
加持「…好きでも素直になれないってこと。俺はストレートに表現してるけどな?」サワッ
ミサト「ちょっと!やめてったら!」
加持「つれないなぁ」
日向「………」ムカムカ
青葉「…祝いの席だぞ、一応…」
マヤ「加持くんと葛城さんってやっぱり…そうなの?」
ミサト「違うわよぉ!全然!!そんなんじゃないから!!!」
シンジ「あはは」
シンジ「……ミサトちゃん、最近表情が豊かになったね」
ミサト「す、すいません…はしゃいじゃって…」
シンジ「謝ることなんてないよ、嬉しいんだ。ミサトちゃんが笑ってくれて」
ミサト「え…」
シンジ「みんなが笑ってくれて。昇進自体に思うところがないわけじゃないけど、こうやってみんなが集まって……なんて言うのかな、僕のために喜んでくれることが、嬉しい…」
ミサト「…わかります」
シンジ「……」
ミサト「…私も、エバには乗りたくないけど……みんなが、応援してくれるから…」
シンジ「…ミサトちゃん…」
ミサト「大切なんです、きっと」
加持「おっ、先輩かな?」
加持「先輩。よく来れましたね?」
アスカ「本部から直。仕事の虫もついでだから連れてきたわよ」
レイ「おじゃまします…」
シンジ「…あ、いらっしゃい…」
アスカ「なーによちったあ嬉しそうにしなさいよー?せっかく進展を手伝ってやろうってのに」
シンジ「そっそんなこと頼んでないだろ!」
レイ「碇くん、この度は昇進、おめでとう」
シンジ「あっ綾波…ありがとう。ごめんね、忙しいのに…」
レイ「いいの…きりのいいところだったから」
アスカ「あたしもすごぉ~く忙しかったんですケド?」
シンジ「アスカは普段サボってるからだろ」
アスカ「ぬゎ~んですってえ!??」
加持「こりゃ一番やっかいなのはシンジさんかもな…」
アスカ「はぁ~あ!無敵のシンジ様は?昇進でお偉くなられたようで!これからは私たち敬語をつかうべきかしらねえ~?」
シンジ「そ、そういうのやめてよ…」
レイ「…でも、司令と副司令がそろって日本を離れるなんて、今までなかったことだわ。それだけ碇くんを信頼してるってこと…」
アスカ「ちょっとレイ!!こいつを調子に乗らすんじゃないわよ!」
ミサト「…お父さん、ここにいないんですか?」
レイ「葛城司令は今、南極に行ってるわ」
カヲル「いかなる生命の存在も許さない、死の世界、南極…」
カヲル「いや、地獄というべきかな?」
葛城「……我々はまだここに立っている。人類として、生物として生きたまま」
カヲル「科学の勝利といいたいのかい?」
葛城「傲りだよ……だが全滅は免れた」
カヲル「…15年前の悲劇、セカンドインパクト……それを引き起こした人間の罪、か…」
カヲル「だがもう罰は十分に与えられた。目下の死海もそう、人々の心にも…」
葛城「まだだ。人は背負うべき業を負った。…やつらは、浄化された世界を望んでいる」
カヲル「…未だ赦されず、か…。赦されぬと分かったとき、はたして罪人は頭を垂れたままでいるかな…?」
オペレータ「報告します。ネルフ本部より入電。インド洋上、空衛星軌道上に使徒発見」
トウジ「二分前に突如出現」
オペレータ「第6サーチ、衛星軌道上へ」
オペレータ「接触まで後2分」
ケンスケ「目標を映像で捕捉」
職員「おおっ…」
トウジ「なんじゃこりゃあ…」
シンジ「……!」
ケンスケ「目標と、接触します」
オペレータ「サーチスタート」
オペレータ「データ送信、開始します」
オペレータ「受信確認」
シンジ「…A.T.フィールド?」
レイ「……今までにない使い方ね」
シンジ「……これだけの質量を…」
ヒカリ「落下のエネルギーをも、利用しています。使徒そのものが爆弾みたいなものです」
レイ「…初弾は太平洋に着弾。2時間後の第2射がそこ。…後は確実に誤差修正してる」
シンジ「学習してるのか…」
トウジ「N2航空爆雷も、効果なしや」
ケンスケ「以後、使徒の消息は不明」
シンジ「…次は、多分…」
レイ「来るわね、ここに」
シンジ「被害予想範囲は?」
レイ「富士五湖が一つになって、太平洋とつながる。本部ごとね」
シンジ「葛城司令との連絡は?」
ケンスケ「使徒の放つ強力なジャミングのため、連絡不能」
シンジ「MAGIの判断は?」
ヒカリ「全会一致で撤退を推奨しています」
シンジ「………」
レイ「……碇三佐、今の責任者はあなたよ」
シンジ「……日本政府各省に通達。ネルフ権限における特別宣言D-17。半径50キロ以内の全市民は直ちに避難。松代にはMAGIのバックアップを要請」
トウジ「ここを放棄するんか?」
シンジ「そうなるかもしれない。でも、その前に……考えがある」
放送「政府による特別宣言D-17が発令されました。市民の皆様は速やかに指定の場所へ避難してください」
放送「第6、第7ブロックを優先に、各区長の指示に従い、速やかに移動願います」
放送「市内における避難はすべて完了」
放送「部内警報Cによる、非戦闘員およびD級勤務者の待避、完了しました」
レイ「普段のあなたからは考えられない、危険な賭ね」
シンジ「……賭にも、なってるかどうか…」
リツコ「勝算は0.00001%……本当にやるの?」
シンジ「綾波は…反対…?」
レイ「いいえ、従うわ…碇くんがそう言うなら」
シンジ「……」
シンジ「……アスカなら…とめに入ったかな…?」
レイ「……あんたバカ?」
シンジ「…え?」
レイ「彼女ならそう言ったかも。ただ……確率で言うなら…人類には滅ぶ道のほうが多い」
レイ「アスカも…最終的には奇跡に賭けたはず」
シンジ「そっか…」
レイ「………」
レイ「あなたを変えたのは……、あの子…?」
シンジ「え…?」
レイ「サードチルドレン…葛城ミサト…」
シンジ「…そうかもしれない。僕は使徒を恨んでた。失ったものを追いかけて…でも今は…違う気がするんだ」
シンジ「…今はもうこの手に「ある」から…だから失いたくない」
レイ「碇くん…」
シンジ「もう誰にも、失ってほしくないんだよ」
加持「手で」
ミサト「受け止める!?」
リツコ「……」
シンジ「そう。観測上最大級の使徒がA.T.フィールドを張ってここに落下してくる……。対抗できるのはA.T.フィールドを持つエヴァ三機だけ」
シンジ「ただ…予測される軌道、衝撃、何もかもが未知数なんだ。無理強いはしないよ、やめたければ…」
加持「……これが作戦といえるのか?」
シンジ「えっ」
加持「先輩なら、そう言ったかもな。でも俺はそういうの、嫌いじゃない」
加持「こちとら何千の候補から選ばれた「チルドレン」…」
加持「勝利の女神も、微笑ませてみせるさ」
シンジ「加持くん…」
リツコ「……私も、やります」
シンジ「リツコちゃん」
リツコ「ここがなくなると困るもの」
ミサト「わ、私も…!」
ミサト「みんなを…!守りたいから」
シンジ「……ミサトちゃん」
加持「勝利は確定だな。すでに女神が二人ついてる」
ミサト「すぐふざけるんだから…」
リツコ「……」
シンジ「…ふふ」
加持「……規則だっていう「家族・友人への手紙」、書いたか?」
ミサト「ぜーんぜん」
リツコ「書いてないわ」
加持「だよなぁ…こりゃ、まんま遺書だもんな」
ミサト(なぜだろう……おじさんの家では…出せなかった手紙が…お父さんに対する、怒りが…山ほどあったはずなのに…今は何て書けばいいのか…)トン…トン…
ペンを迷わせるミサト
ミサト「……不思議」
加持「? なにか言ったか?葛城」
ミサト「ううん…加持くん、リツコ」
ミサト「絶対に奇跡を起こしましょう、…この手で」
加持「…おう!」
リツコ「ええ…」
ヒカリ「使徒による電波撹乱のため、目標を喪失」
シンジ「正確な位置の測定ができないけど、ロスト直前までのデータから、MAGIが算出した落下予想地点が…これ」
加持「あちらさんの攻撃範囲ってわけか」
ミサト「こんなに広く…これじゃ、エバ三体でも…」
レイ「目標のA.T.フィールドをもってすれば、そのどこに落ちても本部を根こそぎえぐることができる」
シンジ「うん。だからエヴァ全機はこれら三個所の配置についてもらう」
リツコ「この配置の根拠は?」
シンジ「……勘、かな……はは……」
ミサト・加持「……カン?」
リツコ「……」
シンジ「確率の高い場所、というのがないんだ……どの地点にも落下しうる」
加持「……はは。こうも運頼みだと笑えてくるな」
加持「なーに。大丈夫さ、きっとなんとかなる。なんとかなったら……その時は碇三佐殿、奮発して頼みますよ?」
シンジ「ありがとう……約束するよ」
ミサト「ねぇ」
加持「うん?」
ミサト「なに見てるの?」
加持「……3つ星レストランのパンフレット」
ミサト「……加持くんって、図太いわよね。神経が」
加持「胆が据わってるって言ってくれよ…死ぬときのこと考えたってしょうがないだろ?」
ミサト「そりゃそうだけど…」
加持「…生きているんだから、楽しまなきゃな」
ミサト「……加持くんは…どうしてエバーに乗ってるの?」
加持「……自分のためだな。生きている自分のため」
ミサト「そう……」
加持「……おっ、この海鮮料理なんてどうだ?珍しいし」
ミサト「…私は…シンジさんの手料理のほうが…」
加持「……」
ミサト「…あ」
加持「妬けるねえ…」
ミサト「そ! そういうのじゃないわよ!バカ!」
オペレータ「落下予測時間まで、後120分です」
シンジ「みんなも避難して。ここは僕一人でいいから」
ケンスケ「なーに言ってんだよ碇」
トウジ「子供らぁとセンセーだけ残して行けるわけないやろ!」
シンジ「はは…僕は、ダメかもしれないけど、ミサトちゃん達にはA.T.フィールドがあるから…」
トウジ「アホゥ!尚更や!」
ケンスケ「ネルフ期待の作戦部長様を死なすわけにはいかないだろ?あと人類もね」
ヒカリ「私たちもできることはやっておきたいのよ……最後まで」
シンジ「みんな…」
(回想)
夕暮れの街を見下ろすミサト、シンジ。
ミサト「シンジさん…」
シンジ「…なに?」
ミサト「昨日…シンジさんが言ってた…ネルフにいる目的、って…なんですか」
シンジ「そうか…昨日は話さずじまいだったね」
シンジ「僕の両親はね、研究者だったんだ。僕の身代わりになって死んでしまった…」
シンジ「不器用な人だった…父さんは、いつも言葉が足らなくて。でも…母さんが笑っていたから、憎めなかった」
シンジ「幸せだったよ。…泣いてばかりだった僕を、母さんはよく研究室に連れていってくれた」
シンジ「…愛されている気がした。たぶん気のせいじゃない…。心地よかった。敬愛する両親、その仲間からの称賛が誇らしかった」
シンジ「でも…」
シンジ「一夜にしてすべて失った。家族も…生きる希望も」
シンジ「セカンドインパクトの……直後の記憶はあまりない。ただ亡霊のようになってしまった自分と、反芻する母さんの言葉……「生きてさえいれば」と……それだけ」
シンジ「母さんの言葉通り、また希望と出会った。…父さんに似て不器用で、母さんのように聡明な人だった。愛しかった。でも、いつからか…」
シンジ「想像の中の、彼女を愛しているんだと気づいたんだ。目の前の彼女じゃなく…!」
シンジ「僕は誰も愛してなかった。すべて過去の、「あの頃」を準えているにすぎない」
シンジ「そう思えてからは遠ざけた、人も、自分の心も……何が悪いのか分からなくて」
シンジ「…使徒を恨んだ。僕の人生を狂わせた使徒を」
シンジ「使徒を倒さなければ、二度と現実の理想は語れない、って」
シンジ「そう思い込もうとしてたんだ…」
ミサト「…シンジさん…」
シンジ「でも今は…違うと思う」
シンジ「ミサトちゃん…」
ミサト「……!」
シンジ「僕もきみが大切だよ」
シンジ「加持くんに、リツコちゃん…ここにいるみんな…、過去の何とも重ならない「今」が…!」
シンジ「だからネルフで迎え撃つ、人類の敵…使徒を」
ミサト「………」
ミサト(大切だから…「守る」)
ミサト(逃げるんじゃなく、「迎え撃つ」)
ミサト(「奇跡」を……起こす…!)
ケンスケ「目標を最大望遠で確認!」
トウジ「距離、およそ2万5千!」
シンジ「…エヴァ全機、スタート位置!」
シンジ「目標は光学観測による弾道計算しかできない。MAGIによる距離1万までの誘導ののちは、各自の判断で行動。これが現時点で出せる指示のすべて…」
加持「へへ…腕の見せどころ、ってね」
ケンスケ「使徒接近、距離、およそ2万!」
シンジ「……作戦開始!」
ミサト「行きます!」
加持・リツコ「…」
ミサト「……スタート…っ!」
ケンスケ「距離、1万2千!」
ミサト「フィールド、全開!」
ミサト「うっ、ぐ、うう…っ」
リツコ「弐号機、フィールド全開!」
加持「まかせろっ!」
ミサト「…今!」
加持「でやあああっっっ!」
使徒撃破
加持「………ははっ……命あったか……」
ケンスケ「電波システム、回復。南極の葛城司令から、通信が入っています」
シンジ「繋いで」
ケンスケ「了解」
シンジ「申し訳ありません。自分の勝手な判断で、初号機を破損してしまいました。責任はすべて自分にあります」
カヲル「……構わないよ。使徒殲滅がエヴァの使命……君たちも無事で良かった。幸運を引き寄せたね」
シンジ「いえ…それは子どもたちが…」
葛城「よくやってくれた、碇三佐」
シンジ「ありがとうございます」
葛城「……初号機のパイロットはいるか?」
ミサト「は、はい…!」
葛城「…よくやったな、ミサト」
ミサト「えっ………はい…」
葛城「では碇三佐、後の処理は任せる」
シンジ「はい!」
加持「さぁシンジさん、お約束のディナーだ」
シンジ「ふふ、こう見えて貯金はあるんだ。どこのお店にするか決まった?」
加持「それがね……」
シンジ「あはは…こんなのでいいなら、いつでもご馳走するのに」
加持「葛城たっての希望でね。それにリッちゃんもこのほうが好きなものを選んで食えるし」
リツコ「…おいしい」
シンジ「はは、たくさん食べてよ、まだあるから」
ミサト「……なによ、「リッちゃん」って…」
加持「…砕けた愛称のほうが、氷の美少女に微笑えんでもらえるかと思ってね。妬いたかい?」
ミサト「ばーか。…私は見たことあるわよ?リツコの笑顔~」
加持「なんだって?いつ?」
ミサト「おしえな~い!ねっ?リツコ」
リツコ「このポテトサラダ…おいしいわ」
シンジ「あはは」
ミサト「…ねぇ、シンジさん…」
シンジ「なに?」
ミサト「……私のお母さんは…泣いてばかりいたの。お父さんと喧嘩して。…泣くお母さんも泣かせるお父さんも嫌だった…」
シンジ「うん…」
ミサト「でも、今は……お父さんは不器用だったんじゃないか、って。……シンジさんのお父さんと同じように」
ミサト「そう思う……そう、思える…」
シンジ「そう……」
加持「……」
加持「多少口下手でも、あの顔だ。女性のほうが放っとかなかったんじゃないか?」
ミサト「なに?」
加持「喧嘩の理由だよ」
ミサト「真面目に話してるのよ?」
加持「こっちだって真面目さ。ポーカーフェイスはモテるからな」
リツコ「……私は見たことあるわ、葛城司令の笑顔」
ミサト・加持・シンジ「えっ…」
拾弐話分終わり
オペレータ「エヴァ三体のアポトーシス作業は、MAGI-SYSTEMの再開後予定通り行います」
オペレータ「作業確認。450より670は省略」
トウジ「発令所、承認」
レイ「さすが洞木さん、早いわね」
ヒカリ「それはもう。綾波博士直伝ですから」
レイ「…あ、待って、そこ。A8の方が早いわ。ちょっと貸して」
ヒカリ「…さすが、東洋の三賢者の弟子……」
シンジ「MAGIの診察は順調?」
レイ「大体ね。今日のテストには間に合わせるわ」
シンジ「ごめんね…急がせて。同じ物が3つもあって、大変なのに」
レイ「ちゃんと休憩は取ってるわ。ご心配なく」
シンジ「どうだかなぁ……この紅茶、冷めてるじゃないか」
レイ「そうね…いれ直さなきゃ。碇くんも飲む?」
シンジ「綾波は座ってなよ。僕がいれてくるから」
レイ「………」
レイ「ありがとう…」
オペレータ「MAGI-SYSTEM、再起動後、自己診断モードに入りました」
ヒカリ「第127次、定期検診異常無し」
レイ「了解。お疲れさま。みんな、テスト開始まで休んでちょうだい」
レイ「不思議ね…歳を取っているはずなのに」
レイ「ちっとも変わった気がしない…」
レイ「可笑しいと思うでしょう?……先生」
ミサト「…うげぇ。また無菌室…?」
レイ「ごめんなさいあなたたち。ここから先は超クリーンルームなの。17回ほど垢を落としてもらうことになるわ」
ミサト「じゅ、17回ィ!?」
レイ「時間はただ流れているわけじゃない…エヴァのテクノロジーのためなのよ。新しいデータは常に必要なの…こらえてちょうだいね」
ミサト「……は~い」
ミサト「17回は…やっぱ…」
加持「きついな…」
リツコ「……」
レイ「お疲れさま。では3人とも、この部屋を抜けてその姿のままエントリープラグに入ってちょうだい」
ミサト「ええっ!?このまま!?」
レイ「大丈夫。映像モニターは切ってあるから…プライバシーは保護してるわ」
ミサト「何も着ちゃだめなんですか…?」
レイ「このテストは、プラグスーツの補助無しに、直接肉体からハーモニクスを行うのが趣旨なのよ」
シンジ「ごめんね、ミサトちゃん」
ミサト「しっシンジさん!?そこにいるんですか!???」
レイ「……隠さなくても、映ってないわよ」
オペレータ「各パイロットエントリー準備完了しました」
レイ「テストスタート」
オペレータ「テストスタートします。オートパイロット、記憶開始」
オペレータ「シミュレーションプラグを挿入」
オペレータ「システムを、模擬体と接続します」
ヒカリ「シミュレーションプラグ、MAGIの制御下に入りました」
シンジ「すごい、早い…!嘘みたいだね。初実験のときは一週間もかかったのに」
オペレータ「テストは約3時間で終わる予定です」
レイ「気分はどう?」
リツコ「…何か違うわ」
ミサト「う~ん、何か変な感じ」
加持「なんというか…右腕だけはっきりして、後はぼやけた感じなんだ」
レイ「リツコちゃん、右手を動かすイメージを描いてみて」
リツコ「はい」
オペレータ「データ収集、順調です」
レイ「問題はないようね…MAGIを通常に戻して」
レイ「ジレンマか…作った人間の性格が伺えるわね」
シンジ「? それって、綾波のってこと?」
レイ「…いいえ…私はシステムアップしただけ。基礎理論と本体を作ったのは、先生なのよ」
シンジ「……赤木、ナオコ博士か…」
カヲル「確認しているんだね?」
ケンスケ「ええ、一応」
ケンスケ「3日前に搬入されたパーツです。ここですね、変質しているのは」
カヲル「第87蛋白壁か…」
ケンスケ「拡大するとシミのようなものがあります。何でしょうね、これ」
トウジ「浸蝕やないか?温度と伝導率が若干変化しとるし。無菌室の劣化はよくあることや」
ケンスケ「工期が60日近く圧縮されてますから。また気泡が混ざっていたんでしょう。杜撰ですよ、B棟の工事は」
カヲル「…あそこは、使徒が現れてからの工事だったか…」
トウジ「無理ないわ、みんな疲れとるからな」
カヲル「…明日までに処理しておいてくれ。司令に知れるとうるさいからね」
トウジ「了解」
レイ「また水漏れ?」
ヒカリ「いえ、浸蝕だそうです。この上の蛋白壁」
レイ「…テストに支障は?」
ヒカリ「今のところは何も」
レイ「では続けて。このテストはおいそれと中断するわけにいかないわ」
ヒカリ「了解」
ヒカリ「シンクロ位置、正常」
オペレータ「シミュレーションプラグを模擬体経由でエヴァ本体と接続します」
オペレータ「エヴァ零号機、コンタクト確認」
オペレータ「A.T.フィールド、出力2ヨクトで発生します」
エラー音。
レイ「どうしたの?」
オペレータ「シグマユニットAフロアに汚染警報発令」
オペレータ「第87蛋白壁が劣化、発熱しています」
オペレータ「第6パイプにも異常発生」
ヒカリ「蛋白壁の浸蝕部が増殖しています。爆発的スピードです!」
レイ「実験中止、第6パイプを緊急閉鎖!」
ヒカリ「はい!」
オペレータ「60、38、39、閉鎖されました!」
オペレータ「6の42に浸蝕発生!」
ヒカリ「だめです、浸蝕は壁伝いに進行しています!」
レイ「ポリソーム、用意!」
レイ「レーザー、出力最大!侵入と同時に、発射!」
ヒカリ「浸蝕部、6の58に到達……来ます!」
一同「……」
リツコ「……ああぁっ、う…!」
レイ「リツコちゃん!?」
ヒカリ「赤木リツコの模擬体が、動いています!」
レイ「まさか!」
ヒカリ「浸蝕部、さらに拡大、模擬体の下垂システムを侵しています」
シンジ「リツコちゃんは!?」
ヒカリ「無事です!」
レイ「全プラグを緊急射出!レーザー急いで!」
シンジ「A.T.フィールド!?」
レイ「まさか!」
シンジ「これは…!」
レイ「分析パターン、青。間違いなく……使徒よ」
カヲル「…使徒?使徒の侵入を許したのかい?」
レイ「申し訳ありません」
カヲル「………セントラルドグマを物理閉鎖、シグマユニットと隔離だ!」
ケンスケ「セントラルドグマを物理閉鎖、シグマユニットと隔離します」
シンジ「ボックスは破棄します!総員待避!」
シンジ「…急いでください!早く!」
アナウンス「シグマユニットをBフロアより隔離します。全隔壁を閉鎖、該当地区は総員待避」
葛城「分かっている。よろしく頼む」ガチャ
葛城「…警報をとめろ!」
ケンスケ「け、警報を停止します!」
葛城「日本政府と委員会には「探知機のミスによる誤報」と、そう伝えろ」
ケンスケ「は、はい!」
トウジ「汚染区域はさらに下降!プリブノーボックスからシグマユニット全域へと拡大!」
カヲル「場所がまずい…!」
葛城「アダムに近すぎる……。汚染はシグマユニットまでで抑えろ!ジオフロントは犠牲にしても構わない。エヴァは?」
トウジ「第7ケイジにて待機、パイロットを回収次第、発進できます」
葛城「パイロットを待つ必要はない。今すぐ地上へ射出だ」
ケンスケ・トウジ「え?」
葛城「三機すべてだ」
ケンスケ「しかし、エヴァ無しでは、使徒を物理的に殲滅できません!」
葛城「その前にエヴァを汚染されたらすべて終わりだ。急げ!」
ケンスケ・トウジ「はい!」
アナウンス「シグマユニット以下のセントラルドグマは、60秒後に完全閉鎖されます。真空ポンプ作動まで、後30秒です」
アスカ「あれが使徒か……これは、仕事どころじゃなくなったわ…」
アスカ「ね、っと!」
オペレータ「セントラルドグマ、完全閉鎖。大深度施設は、侵入物に占拠されました」
カヲル「…さて、エヴァ無しで、使徒に対し、どう攻める?」
レイ「ほら、ここが純水の境目、酸素の多いところ」
ヒカリ「好みがハッキリしてますね」
ケンスケ「無菌状態維持のため、オゾンを噴出しているところは汚染されていません」
シンジ「つまり、酸素に弱い、ってこと?」
レイ「そのようね」
トウジ「オゾン注入、濃度、増加中」
ケンスケ「効いてる効いてる」
カヲル「いけるかい?」
ヒカリ「0Aと0Bは回復しそうです」
ケンスケ「パイプ周り、正常値に戻りました」
トウジ「やっぱり真ん中やな。強いのは」
カヲル「よし、オゾンを増やすんだ」
レイ「おかしい…」
ケンスケ「あれ?増えてるぞ」
トウジ「あかん…また発熱しだしとる」
ケンスケ「汚染域、また拡大しています!」
ヒカリ「だめです、まるで効果が無くなりました」
トウジ「今度はどんどんオゾンを吸っとる!」
レイ「オゾン止めて!」
レイ「すごい…進化しているんだわ」
シンジ「! これは…!?」
ケンスケ「サブコンピューターがハッキングを受けています!侵入者不明!」
トウジ「クソッ!こんな時に!Cモードで対応!」
ケンスケ「防壁を解凍します!疑似エントリー、展開!」
オペレータ「疑似エントリーを回避されました」
ケンスケ「逆探まで18秒!」
オペレータ「防壁を展開!」
オペレータ「防壁を突破されました!」
オペレータ「疑似エントリーをさらに展開します!」
トウジ「…こりゃあ人間技やないな…」
ケンスケ「逆探に成功…この施設内です…B棟の地下……!プリブノーボックスです!」
ヒカリ「光学模様が変化しています」
ケンスケ「光ってるラインは電子回路だ。こりゃあ…コンピューターそのものだ」
トウジ「疑似エントリー展開……失敗、妨害された!」
シンジ「メインケーブルを切断!」
オペレータ「だめです、命令を受け付けません!」
シンジ「レーザーを打ち込んで!」
ヒカリ「A.T.フィールド発生、効果無し!」
ケンスケ「保安部のメインバンクにアクセスしています。パスワードを走査中、12桁、16桁、D-WORDクリア!」
トウジ「保安部のメインバンクに侵入!」
トウジ「メインバンクを読んどる…!解除できん!」
カヲル「何が目的だ…!?」
ケンスケ「メインバスを探っています…このコードは…やばい、MAGIに侵入するつもりです!」
葛城「I/Oシステムをダウンしろ」
ケンスケ「カウント、どうぞ!」
トウジ「3、2、1!」
トウジ「電源が切れん!」
ヒカリ「使徒、さらに侵入、MELCHIORに接触しました!」
ヒカリ「だめです!使徒にのっとられます!」
ヒカリ「MELCHIOR、使徒にリプログラムされました!」
アナウンス「人工知能、MELCHIORより、自律自爆が提訴されました。否決、否決、否決、否決」
ケンスケ「こっ、今度は、MELCHIORがBALTHASARをハッキングしています!」
トウジ「くそぉ、早い!」
ケンスケ「なんて計算速度だ!」
レイ「…、……!」
レイ「ロジックモードを変更!シンクロコードを15秒単位にして!」
ケンスケ・トウジ・ヒカリ「了解!」
シンジ「! とまった…!」
カヲル「……どのくらい持ちそうだい?」
ケンスケ「今までのスピードから見て、2時間くらいは」
葛城「MAGIが、敵に廻るとはな…」
レイ「……」
レイ「彼らはマイクロマシン、細菌サイズの使徒と考えられます」
レイ「その個体が集まって群を作り、この短時間で知能回路の形成にいたるまで、爆発的な進化を遂げています」
カヲル「進化か…」
レイ「はい。彼らは常に自分自身を変化させ、いかなる状況にも対処するシステムを模索しています」
カヲル「…まさに、生物の生きるためのシステムそのものだね…」
シンジ「…そんな。それじゃあ……もうMAGIは」
レイ「いいえ。MAGIを切り捨てることは、本部の破棄と同義。物理的消去はできない」
カヲル「…では、司令部から正式に要請することになる」
レイ「拒否します。技術部が解決すべき問題です」
シンジ「あ、綾波…!」
レイ「碇くんは黙ってて。……私のミスから始まったことなのよ」
シンジ「綾波……」
レイ「…使徒が進化しつづけるのなら、勝算はあります」
葛城「…進化の促進か」
レイ「そうです」
カヲル「なるほど…進化の終着地点は自滅、死、そのもの」
シンジ「…じゃあ、進化をこちらで促進させれば…?」
レイ「使徒が死の効率的な回避を考えれば、MAGIとの共生を選択するかもしれません」
トウジ「できるんか。そんなことが」
レイ「…目標がコンピューターそのものなら、CASPERを使徒に直結、逆ハックを仕掛けて、自滅促進プログラムを送り込むことができます。が…」
ヒカリ「同時に使徒に対しても防壁を開放することにもなります」
葛城「CASPERが早いか、使徒が早いか…勝負というわけか」
レイ「はい」
カヲル「そこまで言い切ったんだ。そのプログラム、間に合うんだろうね?」
レイ「間に合わせます…!」
アナウンス「R警報発令、R警報発令、ネルフ本部内部に緊急事態が発生しました。D級勤務者は、全員待避してください。」
ヒカリ「な、何これ…」
レイ「…開発者の悪戯書きね…」
ヒカリ「こんなに沢山……MAGIの裏コードが…」
シンジ「すごい…!こんなところがあったなんて」
ヒカリ「わっ…こんなの、見ちゃっていいのかしら…すごい、intのC……!」
ヒカリ「…これなら、意外と早くプログラムできそうね!」
レイ「ええ……ありがとう、先生…確実に間に合うわ」
レイ「レンチを取って」
シンジ「…大学のころを思い出すね…」
レイ「25番のボード」
シンジ「……ごめん、綾波…さっきは、MAGIを…殺すようなことを言って」
レイ「……」
レイ「…いいのよ。私こそ、ごめんなさい。当たったりして」
シンジ「ねぇ、MAGIって何なの…?」
レイ「……」
シンジ「……いや、綾波がこんなに物に執着するのは珍しい、から……」
シンジ「言いたくなかったら、いいんだ。その……ごめん」
レイ「……物じゃないわ」
シンジ「えっ?」
レイ「人格なのよ。……人格移植OSのことは?」
シンジ「えっと……確か、第7世代の有機コンピュータに、個人の人格を移植して思考させる…っていう、エヴァの操縦にも使われている技術だよね…?」
レイ「MAGIがその第1号らしいわ。…先生が開発した技術なのよ」
シンジ「じゃあ、赤木博士の人格を移植したの?」
レイ「そう」
レイ「言ってみれば、これは先生の脳味噌そのものなのよ」
シンジ「……それで、MAGIを…」
レイ「そうね……たぶん、そんなところ」
トウジ「きたっ!」
トウジ「BALTHASARが、乗っ取られた!」
アナウンス「人工知能により、自律自爆が決議されました」
シンジ「始まった…!?」
アナウンス「自爆装置は、三者一致の後、02秒で行われます」
アナウンス「自爆範囲は、ジオイド深度マイナス280、マイナス140、ゼロフロアーです」
アナウンス「特例582発令下のため、人工知能以外によるキャンセルはできません」
ケンスケ「BALTHASAR、さらにCASPERに侵入!」
カヲル「押されている…!」
ケンスケ「なんて速度だ!」
アナウンス「自爆装置作動まで、後、20秒」
カヲル「まずい!」
ケンスケ「CASPER、18秒後に乗っ取られます!」
アナウンス「自爆装置作動まで、後、15秒」
シンジ「…綾波!」
アナウンス「自爆装置作動まで、10秒、」
レイ「大丈夫、一秒近く余裕があるわ」
アナウンス「9秒、8秒、」
シンジ「一秒って…!」
レイ「ゼロやマイナスじゃないのよ」
アナウンス「7秒、6秒、5秒」
レイ「洞木さん!」
ヒカリ「行けます!」
アナウンス「4秒、3秒」
レイ「押して!」
アナウンス「2秒、1秒、0秒」
アナウンス「人工知能により、自律自爆が解除されました」
ケンスケ・トウジ「いよっしゃぁーッ!」
アナウンス「なお、特例582も解除されました。MAGI-SYSTEM、通常モードに戻ります」
アナウンス「R警報解除、R警報解除、総員、第一種警戒態勢に移行してください」
ミサト「…外はどうなってんのかしら?」
リツコ「……」
加持「……裸じゃあどこにも出れないしなぁ…」
アナウンス「シグマユニット開放、MAGI-SYSTEM開放まで、マイナス、03です」
レイ「…前は眠らなくても仕事ができたのに。体はしっかり歳を取っているのね…」
シンジ「本当にお疲れさまだったね…。はい、紅茶」
レイ「ありがとう…」
レイ「…碇くんがいれてくれる紅茶、いつも美味しいわ……なにかコツがあるの?」
シンジ「うん?あはは…そんな…コツなんて。でも綾波が喜んでくれるなら、良かった」
レイ「……」
レイ「……先生が言ってたの、MAGIは三人の自分なんだって…」
レイ「科学者としての自分、母としての自分、そして女としての自分なんだ、って。その3人がせめぎあってるのが、MAGIなのよ」
レイ「人の持つジレンマをわざと残して…」
シンジ「……そう」
レイ「先生は私を娘のように可愛がってくれたわ……科学者としての先生も尊敬してた。でも…女としての先生のことはよく分からなかった…」
レイ「…とても情熱的な人だったの。「恋はロジックじゃない」って…口癖みたいに言ってた…」
レイ「研究で忙しいはずなのに、いつも男の人を連れ込んで……でも誰とも本気じゃなかったみたい」
レイ「本当に好きな人はもういないんだ、って言ってたわ…」
シンジ「なんだか…寂しい話だね…」
レイ「そうね…その点私は恵まれてる」
シンジ「えっ?」
レイ「ふふ…いいの。こっちの話…」
レイ「CASPERには、女としてのパターンがインプットされていたの…最後まで女でいることを守ったのね。ほんと、先生らしいわ…」
拾参話分終わり
(中略)
委員「いかんな、これは」
委員「早すぎる」
委員「左様。使徒がネルフ本部に侵入するとは、予定外だよ」
委員「ましてセントラルドグマへの侵入を許すとはな」
委員「もし接触が起これば、すべての計画が水泡と化したところだ」
葛城「委員会への報告は誤報、使徒侵入の事実はありません」
委員「では葛城、第11使徒侵入の事実はない…と言うのだな」
葛城「はい」
委員「気をつけてしゃべりたまえ、葛城君。この席での偽証は死に値するぞ」
葛城「……MAGIのレコーダーを調べてくださっても結構です。その事実は記録されておりません」
委員「笑わせるな。事実の隠蔽は、君の十八番ではないか!」
葛城「タイムスケジュールは、死海文書の記述通りに進んでいます」
キール「まあいい。今回の君の罪と責任は言及しない。…だが、君が新たなシナリオを作る必要はない」
葛城「分かっています…。すべてはゼーレのシナリオ通りに」
リツコ「エントリープラグ、魂の座」
リツコ「私にあるものは命、心。その入れ物…」
(ミサト「リツコ!」)
(加持「リッちゃん」)
(レイ「リツコちゃん」)
(?「リッちゃん……」)
リツコ「……これは誰? これは私。私は誰?私は何、私は……」
リツコ「私は自分。この物体が自分。自分を作っている形。目に見える私…」
リツコ「でも、私が私でなくなる感覚…違和感。体が融けていく感じ。私が分からなくなる」
リツコ「私の形が消えていく。私でない人を感じる。誰かいるの?この先に。…葛城司令?それとも別の誰か……」
リツコ「ミサト。加持くん。綾波博士。碇三佐。みんな。クラスメイト。葛城司令」
リツコ「あなた誰」
リツコ「あなた誰、」
リツコ「あなた誰……」
レイ「どう、リツコちゃん。初めて乗った初号機は?」
リツコ「……、」
リツコ「…ミサトの匂いがします」
レイ「シンクロ率は、やはり下がるわね…零号機のときと比べると」
ヒカリ「それでも凄いですよ。起動には十分な数値です」
レイ「そうね…助かるわ」
ヒカリ「誤差、プラスマイナス0.03。ハーモニクスは正常です」
レイ「赤木リツコと初号機の互換性に問題点は検出されず」
レイ「では、テスト終了。リツコちゃん、あがっていいわよ」
リツコ「はい」
オペレータ「弐号機のデータバンク、終了」
オペレータ「ハーモニクス、すべて正常値」
ケンスケ「パイロット、異常無し」
加持「良好良好、っと」
オペレータ「エントリープラグ挿入完了」
レイ「零号機のパーソナルデータは?」
ヒカリ「書き換えはすでに終了しています。現在、再確認中」
レイ「被験者は?」
トウジ「若干緊張しとるが、神経パターンに問題はない」
シンジ「初めての零号機。ほかのエヴァだもんね…」
加持「うちのお姫様は繊細だな」
レイ「あら。弐号機以外には乗りたがらない、乗せたがらない繊細な子は誰だったかしら」
加持「それを言われると痛いなぁ」
シンジ「はは…いいじゃないか、加持くんと弐号機の調子、最近いいみたいだし」
加持「さすがシンジさん。分かってるね」
レイ「あまり甘やかしては駄目よ、互換性の問題もあるんだから…」
シンジ「互換性か…ミサトちゃん、大丈夫かな…」
加持「大丈夫さ。俺の弐号機だって動かしたんだ」
シンジ「でもあの時は、加持くんもいたし…」
加持「乗ってる身としては、葛城の意思を強く感じたがね…」
シンジ「……」
ヒカリ「エントリー、スタートしました」
オペレータ「L.C.L.電荷」
ヒカリ「第一次接続開始」
レイ「どう、ミサトちゃん。零号機のエントリープラグは?」
ミサト「なんだか…変な感じです」
ヒカリ「違和感があるのかしら?」
ミサト「いえ、ただ、リツコの匂いがする…」
加持「それは……興味深いな」
ヒカリ「データ受信、再確認。パターングリーン」
オペレータ「主電源、接続完了」
オペレータ「各拘束具、問題なし」
レイ「了解。では、相互間テスト、セカンドステージへ移行」
ヒカリ「零号機、第2次コンタクトに入ります」
シンジ「どう?」
レイ「やはり初号機ほどのシンクロ率は、出ないわね」
ヒカリ「ハーモニクス、すべて正常位置」
レイ「でもいい数値だわ、十分ね」
レイ「これであの計画が遂行できる…」
ヒカリ「…ダミーシステムですか?綾波さんの前だけど、私は、あんまり…」
レイ「……納得は、私もしてないわ…」
レイ「それでも必要なのよ。戦うための、……」
ヒカリ「……綾波さん…?」
レイ「…いいえ、続けましょう…」
ヒカリ(……)
オペレータ「第3次接続を開始」
トウジ「セルフ心理グラフ、安定しています」
レイ「A10神経接続開始」
ヒカリ「ハーモニクスレベル、プラス20」
ミサト「!?…何これ、頭に入ってくる…直接…何か…」
ミサト「リツコなの…? 赤木リツコ? この感じ……違うの…?」
シンジ「これは……!?」
オペレータ「パイロットの神経パルスに異常発生」
オペレータ「パルス逆流」
マヤ「精神汚染が始まっています!」
レイ「まさか!このプラグ深度ではありえないわ!」
ヒカリ「プラグではありません、エヴァからの侵蝕です!」
ヒカリ「零号機、制御不能!」
レイ「全回路遮断、電源カット!」
ヒカリ「エヴァ、予備電源に切り替わりました」
オペレータ「依然稼働中」
シンジ「ミサトちゃんはっ?」
トウジ「回路断線、モニター不能!」
レイ「これは、拒絶…? 零号機が…!」
ヒカリ「だめです、オートエジェクション、作動しません!」
レイ「…まさか! ミサトちゃんを取り込むつもり?」
コントロールルームに手を伸ばす零号機。
シンジ「リツコちゃん、下がって!」
レイ(……!)
リツコ「……、…」
ヒカリ「零号機、」
シンジ「リツコちゃんっ!!」
ヒカリ「活動停止まで、後10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0!」
ヒカリ「零号機、活動を停止しました」
シンジ「パイロットの救出を! 急いで!」
シンジ「まさか、僕らを殺そうとした…? 零号機が…?」
シンジ「……この事件、前の暴走と関係があるの?リツコちゃんが精神的に不安定だったときの」
レイ「…今はまだ何も言えないわ。ただ、データを赤木リツコに戻して、早急に零号機との追試、シンクロテストが必要ね」
シンジ「……」
シンジ「もし零号機が……僕らの手に余るようなら、その時は考えなきゃならない。…よろしく頼むよ」
レイ「分かっているわ。碇三佐」
レイ(零号機が殴りたかったのは…私ね)
レイ(当然だわ。……これじゃ約束と違うもの)
ミサト「はっ……!」
ラジオ(TV)「それでは、次の万国びっくりさんは、何と、算数のできるワンちゃんの登場です!」
ラジオ(TV)「おお、それはすごい!」
ラジオ(TV)「ワン!」
ミサト「……またこの天井…」
トウジ「葛城ミサトの意識が戻った。汚染の後遺症はなし。何も覚えてないそうや」
シンジ「そう……」
ラジオ(TV)「はーい、私は元気にやってんだけど、世間では南沙諸島をめぐってのテロが…」
加持「パイロットの代用テストに…零号機の暴走か」
加持「こりゃ一波乱くるかな」
カヲル「予定外の使徒侵入。その事実を知った人類補完委員会による突き上げか…ただ文句を言うことだけが仕事とは…くだらない連中だよ」
葛城「切り札はすべてこちらが擁している。彼らにできることはない」
カヲル「だからといってじらすこともないだろう……今、ゼーレが乗り出すと面倒なことになる」
葛城「すべて、われわれのシナリオ通りだ。問題ない」
カヲル「零号機の事故は?少なくとも僕の予想を越える事態ではあったよ」
葛城「支障はない。リツコと零号機の再シンクロは成功している」
カヲル「……アダム計画はどうなんだい?」
葛城「順調だ。2%も遅れていない」
カヲル「では、ロンギヌスの槍は?」
葛城「予定通りだ。作業はリツコが行っている」
槍を運ぶ零号機。
リツコ「……」
拾四話分終わり
カヲル「第2、第3芦ノ湖か。これ以上増えない事を望むよ」
カヲル「昨日キール議長から、計画遅延の文句が来たよ。僕のところに直接ね」
カヲル「あれは相当苛ついていたな…仕舞いには君の名前も出して。解任を仄めかしていたよ」
葛城「……アダムは順調だ。エヴァ計画もダミープラグに着手している。連中の不満は何だ?」
カヲル「肝心の人類補完計画」
葛城「……」
カヲル「それが遅れているように見えるんじゃないのかい」
葛城「…全ての計画はリンクしている。問題はない」
カヲル「……綾波博士のことも?」
葛城「……」
カヲル「まあいいさ」
カヲル「…ところで、彼女はどうする?」
葛城「…手出し無用だ。いずれ真実に辿り着く」
カヲル「もうしばらくは、様子を見るか…」
アスカ「16年前、ここで何が始まったってのよ…」
謎のオバサン「私だ」
アスカ「ああ、あんたね」
オバサン「シャノンバイオ。外資系のケミカル会社。9年前からここにあるが、9年前からこの姿のままだ」
オバサン「マルドゥック機関と繋がる108の企業のうち、106がダミーだったよ」
アスカ「で…ここが107個目、ってわけね…」
オバサン「この会社の登記簿だ」
アスカ「…分かってるわよ。取締役でしょ?」
オバサン「もう知っていたか」
アスカ「知ってる名前ばかりだしね…マルドゥック機関。エヴァンゲリオン操縦者選出のために設けられた、人類補完委員会直属の諮問機関。組織の実体は未だ不透明」
オバサン「お前の仕事はネルフの内偵だ。マルドゥックに顔を出すのはまずいぞ」
アスカ「百も承知よ。何事も自分の目で確かめないと気が済まない質なの」
マヤ「…あの、加持くん、ちょっといい?」
加持「ん…?もちろんさ。珍しいな、マヤちゃんから話しかけてくれるなんて。…デートのお誘いかな?」
マヤ「うん…そうなんだけど…」
青葉「なァにィ~~~~ッ!??」
日向「うるさいな…っ!」
マヤ「いやっ、違うの、私じゃ、ないんだけど…友達がね」
加持「おっと…そりゃあ、残念だが。美人の頼みを断るわけにはいかないな。明日の昼でどうだい?」
マヤ「ありがとう…!助かるわ」
加持「いいさ…マヤちゃんとのデートは、後日俺から申し込むよ」
青葉「なァアにィ~~~~~ッッッ!??」
日向「………」
ミサト「軽いやつ…」
リツコ「…? 彼、重そうよ」
ミサト「明日、お父さんに会わなきゃなんないのよ」
ミサト「何話せばいいと思う?」
リツコ「……なぜ私に聞くの?」
ミサト「…だって、いつも楽しそうにしてるじゃない。お父さんと話してるとき」
ミサト「ねぇ、お父さんって、どんな人?」
リツコ「…分からないわ」
ミサト「そう…」
リツコ「それより手、動かして。掃除が終わらないわ」
ミサト「……かっんじわるぅ~い」
リツコ「……」
ミサト「しっかし……こうやって見ると不思議な感じよね…リツコが雑巾絞ったり、塵取り持ってたりするのって」
ミサト「料理とかも違う気がするし…家庭に入ってるイメージが沸かない?のよね」
リツコ「……」
リツコ「ミサトには負けるわ…」
ミサト「ぐっ!」
ヒカリ「ネクローシス作業、終了」
オペレータ「可逆グラフ、測定完了」
オペレータ「3機とも、シンクロ維持に問題なし」
シンジ「明日の結婚式、二次会まで行く?」
レイ「…もうそんな時期?考えてなかったわ」
シンジ「もう……仕事の虫なんだから」
レイ「……キヨミに、コトコに……明日のはコウジくんのだったかしら?」
シンジ「コウジと、ユミちゃんのだよ。一緒に内輪のパーティーも行ったじゃないか」
レイ「あれは碇くんが誘ってくれたから……」
シンジ「…………あ、アスカは今回は来るのかなあ?」
レイ「……ドレス、新しいの買わなきゃ…」
シンジ「…え?いつものでいいんじゃないの?似合ってるし」
レイ「アスカに、言われてるから…もうそのドレスは見飽きたって」
シンジ「そう…なの」
レイ「でも……どれも同じに見えて…」
レイ「碇くん、選んでくれない?」
シンジ「えっっっ」
レイ「三人とも、あがっていいわ」
レイ「お疲れさま」
加持「こうもテスト続きだと退屈だな」
リツコ「不謹慎ね」
加持「言葉のアヤだよ。もちろん平和が一番さ」
ミサト「………」
レイ「そう言えば、今日は元気ないわね、ミサトちゃん」
シンジ「ああ…明日なんだよ」
レイ「……お墓参りか…」
シンジ「ただいま」
加持「おかえりなさい」
シンジ「あれ? まだ寝てなかったの。明日デートなんじゃなかった?」
加持「昼からね。…シンジさんこそ、こんな遅くまで。残業かい?」
シンジ「ん? ん~、うん、そんなトコロ…」
加持「……」
加持「はは~ん。シンジさんもスミに置けないね」
シンジ「なっ何がっ?」
加持「アスカ先輩に報告だな」
シンジ「アッアスカは関係ないじゃないか」
加持「と、すると相手は綾波博士か」
シンジ「……」
加持「はは。冗談冗談、報告なんてしないよ」
シンジ「……ミサトちゃんは? 部屋?」
加持「…こんちご機嫌斜めみたいでね。帰ってから籠りっきりさ。…よほど父親に会うのが嫌らしい」
シンジ「嫌、って言うわけでもないんだよ…きっと。それが問題なんだろうね」
(葛城「お前の居場所はない」)
(葛城「よくやったなミサト」)
シンジ「ミサトちゃん?」
ミサト「!」
シンジ「開けてもいい?」
ミサト「だっ、駄目です、今…!き、着替えてますから!」
シンジ「クス……緊張しなくても大丈夫だよ、ミサトちゃん。自分でも言ってたじゃないか、お父さんは不器用なだけかもしれない、って」
ミサト「………」
シンジ「……案外、緊張してるのは向こうも同じかもしれないよ? 娘と何を話そうかって。ミサトちゃんがリードしてあげれば、少しは……」
ミサト「なっ、なんで私がリードしなきゃなんないんですかっ!」
ミサト「もういいですから!!寝てください!」
シンジ「…頑張ってね。ミサトちゃん」
シンジ「分かり合えなくてもいい…ただそれを確かめるのが大事なことなんだ」
シンジ「応援してるよ……おやすみ」
ミサト「…………」
加持「…で?綾波博士をどう口説いたんだ?食事?ショッピング?」
シンジ「いや……綾波とは、そういうんじゃないんだよ。ちょっと買い物に付き合っただけだよ」
加持「なーんだそうだったんだ、となると思うかい?」
加持「子どもじゃあないんだ。この時間までデートとなると……それ相応の進展を予想するね。帰りはもちろん送ってったんだろ?」
シンジ「………まったく」
シンジ(ちょっとは子どもらしくしてほしいよ…)
シンジ「じゃあ」
加持「行って」
ミサト「きます…!」
ペンペン「クギュウッ!」
スピーチ「三つの袋と言うものを心に…」
挿入歌「てんとう虫のサンバ」
司会者「では、しばしご歓談のほどを」
シンジ「綾波、飲み物取ってきたよ」
レイ「ありがとう……来ないわね、アスカ」
シンジ「……遅刻なんじゃないかな?案外忘れっぽいとこあるから。ガサツだし」
アスカ「だぁれがガサツ、ですって!?」
シンジ「うわっ」
レイ「来てたのね」
アスカ「今来たとこよ。たまたま仕事が立て込んでてね」
シンジ「どうだか……僕は2時間待たされたことがあるよ…」
アスカ「大~昔のことを蒸し返してんじゃないわよ!くだらない男ねぇ」
シンジ「…そのくだらない男を待たせてたんだろ?」
アスカ「なんですってぇ!?」
レイ「…夫婦みたいよ、あなたたち」
シンジ・アスカ「だっ誰がこんな奴と!!」
レイ「ふふっ」
シンジ「……」
アスカ「……」
アスカ「…あら?レイあんた、ドレス新調したんじゃない。中々いい線いってるわよ」
レイ「……ああ、これは碇く」
シンジ「あっあっアスカのドレスも!すっごく似合ってるよね!!」
アスカ「何よ?今さら。当然じゃない」
シンジ「…………」
葛城「8年ぶりだな…2人でここに来るのは」
ミサト「……納骨に来て以来だから…たぶん、そう」
ミサト「…お父さん、怒ってる…?私が離婚に賛成したこと」
葛城「……昔の話だ」
ミサト「そうね……でも私はよく覚えてる。離れてからも、お母さん泣いてばかりだったわ。やっと自由になれたのに」
ミサト「そう思ってたのに…。今度は、病気で…」
ミサト「苦しんでるお母さんを見てるのは辛かった。鎮静剤を射っても、泣き叫んで…病院のベッドに縛り付けられたようなお母さんを見るのは…」
葛城「………」
ミサト「だからホッとしたの。遠くにいるはずのお父さんが…急に現れて、お母さんを拐っていったとき。……おじいちゃんとおばあちゃんは、大騒ぎだったけど」
ミサト「なにかしたんでしょう?…戻ってきたとき、お母さんはもう、体の痛みも心の痛みも感じていないようだった」
ミサト「…死ぬときも、まるで笑ってるみたいな顔で…」
葛城「……ミサト。母さんの心は、いつもお前と共にある」
葛城「肉体が滅んだとしても。…それは同じことだ」
ミサト「…………うん」
葛城「……時間だ。先に帰る」
ミサト「あ……お父さん!」
ミサト「あの、今日は嬉しかった。お父さんと話せて」
葛城「そうか…」
チェロを弾く加持
ペンペン「クゥ~クッ…クゥゥゥ…」
加持「んん……結構覚えてるもんだな」
ミサト「……あんたそんなことまでできるの?」
加持「才能かな?なんてね……最初は下手だったんだ。先生にもボロクソ言われて…それで意地になってさ」
ミサト「……継続は力なり、か」
加持「パイロットには必要ない技術だし。すぐやめてもよかったんだが…」
ミサト「じゃあ、なんで続けたのよ」
加持「女の子にモテるから」
ミサト「……あんた、ほんとにそればっかね」
加持「それより、夕飯食べないか?待ってたんだ」
ミサト「? デートで、夜まで食べてくるんじゃなかったの?」
加持「本命は葛城だからな。舞い戻ってきたよ」
ミサト「ったく、もう……どこまで本気なんだか」
加持「本気さ。信じられないか?」
加持「それじゃあ……」
シンジ「うぅ…僕、ちょっとトイレ」
アスカ「とか言って、逃げんじゃないわよ!」
シンジ「逃げないよ!」
レイ「とばしすぎじゃない?このままじゃ碇くん、ほんとに倒れるわよ…」
アスカ「ふんっ!こんなのまだ序の口よ!」
レイ「変わらないわね…あなたのそういうところ。今度は碇くんをどうするつもりかしら?」
アスカ「……あんな姑息な手はもう使わないわよ」
レイ「でも、素面で言える? 碇くんに、好きって」
アスカ「ごほっ」
アスカ「なんでそういう話になるのよ?……なんなら、今回は譲ってあげたっていいのよ?いい具合に酔っぱらってるし」
レイ「遠慮しておくわ」
アスカ「……言っておくけど、長期戦に持ち込むつもりなら、無駄よ。あいつタオル一枚で出ていったって何もしなかったんだから!」
レイ「ふふ…さすが、一緒に暮らしてた人の言うことは違うわね」
レイ「でも駄目。私の出る幕じゃないわ」
アスカ「なんでよ。あいつのこと好きなくせに」
レイ「碇くんが好きなのはあなたよ、アスカ」
アスカ「……」
アスカ「……あんたはそれでいいわけ…?」
レイ「私の気持ちは…変わらないわ…」
レイ「碇くんのそばに居られれば、それで…」
アスカ「………」
アスカ「あんたって、昔っからそうね。ほんと、闘志が沸かないったらないわよ」
シンジ「ただいま……何?二人とも、ケンカ?」
アスカ「あんたがぜぇんぶ悪いのよっ!バカシンジ」
シンジ「うわっ、なんだよもう」
シンジ「松代土産?」
アスカ「そ。レイはラーメン好きでしょ?」
シンジ「だからって、なんで僕のまで…」
アスカ「貰っといて何ぶつぶつ文句言ってんのよ、いらないなら返しなさいよっ!」
シンジ「い…いらないとは言ってないだろ!まったく…すぐ怒るんだから…全然変わってないよ…」
アスカ「失礼ね!変わったわよ!!」
レイ「ふふ…ホメオスタシスとトランジスタシスね」
アスカ「何よそれ?」
レイ「今を維持しようとする力と変えようとする力。その矛盾する二つの性質を一緒に共有しているのが、生き物なのよ…」
シンジ「へぇ…」
レイ「そろそろおいとまするわ…仕事も残ってるし」
シンジ「えっ?」
アスカ「……また顔出しなさいよ?」
レイ「ええ。それじゃあ、また」
シンジ「うん…」
アスカ「いい年して、戻すんじゃないわよ」
アスカ「自分の限界くらい、知っときなさいよね!バカシンジ」
シンジ「うぅ……大きな声出さないでよ…」
アスカ「…ほんっと馬鹿ね…」
シンジ「……馬鹿バカ言わないでよ、もう…」
アスカ「…ふん。だったらシャキッとしなさいよ?もうすぐ三十路なんだから」
シンジ「……それはアスカもだろ…」
アスカ「なんか言った!?」
シンジ「な……なんでもないよ…ふぅ」
シンジ「もう一人で歩けるよ…ありがとう」
アスカ「ん。」
シンジ「アスカ……僕、変わったかな……?」
アスカ「……変わってないわよ。相変わらずバカ」
シンジ「そう、だよね……僕は馬鹿だ…」
シンジ「ミサトちゃんがね……僕らを守りたいって言ってくれたんだ。勇気を持って乗ってくれてる、加持くんも、リツコちゃんも…」
シンジ「なのに、僕はミサトちゃんたちを哀れんでるんだ…まだ子どもなのにって」
シンジ「でも本当に救いたいのはミサトちゃんたちじゃない、そうやって、人を哀れんでる自分自身だ」
シンジ「偽善なんだよ…!そうやって、自分だけが綺麗なふりをして…」
アスカ「………」
シンジ「……あの時、アスカと別れたときだって…」
シンジ「きっと誰でも良かった。僕の心を埋めてくれる人なら…だから怖かったんだ」
シンジ「僕は過去に囚われてる、」
シンジ「過去が、僕を人にすがらせる」
シンジ「すがった相手の魅力も、人格も、何も関係なく!」
シンジ「……中途半端が…一番だめなんだよ…こんな愚痴だって、」
シンジ「本当は「そんなことないよ」って言ってもらいたくて、優しくしてもらいたくて、言ってるんだ」
シンジ「でもアスカは違うから。僕にそんなこと言わないって、分かってるから…言うんだ」
アスカ「………」
シンジ「……僕は卑怯で、臆病で…ずるくて、弱虫で…っ」
アスカ「…………ほんと、バカね…」
加持「それじゃあ、キスするか? 俺と」
ミサト「……は?」
加持「そしたら分かるだろ。俺が……本気だって」
ミサト「なっ、何言ってんのよ!ふざけないで!」
加持「ふざけてなんかいないさ。葛城とキスしたいんだ」
ミサト「ど……どうしてよ……?」
加持「好きだから」
ミサト「…好きだからって、そんな…」
加持「葛城は嫌いか? 俺のこと」
ミサト「………嫌いじゃあ、ない、けど…」
加持「それとも、恐い?」
ミサト「こ、恐かないわよ…!」
加持「じゃ、いいじゃないか……目、つむって…」
ミサト「えっ……、わ、ちょ…!」
ガチャンッ
ミサト「!!!!!」バシンッ
加持「いてっ」
アスカ「ほら、着いたわよ……もー!立ってるくらい自分でできるでしょ!」
加持「……アスカ先輩」
アスカ「ああ、あんたね。……どうしたのよ、その頬」
加持「……別に」
ミサト「わっ、シンジさん…!大丈夫ですか!?」
アスカ「飲みすぎてノビてるだけよ。ほら加持!介抱する!」
加持「えー? 俺が?」
アスカ「つべこべ言わない!」
加持「へいへい…」
ミサト「あのアスカさん…もう遅いですし、泊まっていかれたらどうですか?お布団ならありますから…」
アスカ「ありがたいけど、却下。着替えがないし、明日も早いのよ」
ミサト「そうですか…」
アスカ「気持ちだけ貰っとくわ」
シンジ「…うぅん……」
アスカ「じゃあそのバカのこと、頼んだわよ」
加持「は~い」
ミサト「お休みなさい」
ガチャン
加持「………するか? 続き」
ミサト「バカッ」
加持「あらら……」
老教師「えー、では、続いて女子」
老教師「赤木…おお? 赤木は、今日も休みか?」
ネルフ地下、セントラルドグマ
葛城「……」
リツコ「……」
アスカ「……だいぶ早かったじゃない?昼まで寝込むと思ってたのに」
シンジ「ふざけないでよ……!」
アスカ「心配してやってんのよ」
シンジ「アスカ……アスカは、どっちの味方なの…?ネルフ?それとも…」
アスカ「……今度はなんて言ってほしいのよ」
アスカ「特務機関ネルフ特殊監査部所属惣流アスカ? それとも、日本政府内務省調査部所属、惣流アスカって?」
シンジ「教えてよ……!」
アスカ「あんたはまだ知らなくていい。おとなしく作戦部長やってなさいよ」
シンジ「教えろ……!」カチャ
アスカ「……私を撃つ気? 馬鹿ね、できもしないのに」
シンジ「……なんだよ、分かんないよアスカ、どうして……っ」
アスカ「…………」
アスカ「………ハァ。まったく、タイミング悪いわね…あんた私を、信じられるの? 自分の意志もグラグラのくせに」
シンジ「…なんだよ、それ、どういう…」
アスカ「……あんたが囚われてる「過去」の、その正体を暴いてやろうってのよ…」
シンジ「正体…?」
アスカ「ついて来なさい」
シンジ「これは……!?」
シンジ「エヴァ?…いや、まさか…」
アスカ「…セカンドインパクトからその全ての要であり、始まりでもある…アダムよ」
シンジ「アダム? あの第一使徒がここに…?」
アスカ「あんたが考えているほど、ネルフは甘くないってことよ」
シンジ「…………」
拾伍話分終わり
加持「……あれ? シンジさん、これ、いつもと違う?」
シンジ「うん。カツオだし。綾波から貰ったんだ」
ミサト「ふぁ~ぁ、おふぁようございます…」
加持「相変わらずギリギリだなぁ」
シンジ「今、よそうね」
ミサト「あっ、いいですいいです!自分でやりますから…」
ミサト「あっ熱っ!」ガタッ
シンジ「だっ大丈夫?ミサトちゃん」
ミサト「あはは…大丈夫です…ちょっとヤケドしただけ」
加持「すぐ冷やしたほうがいい、ほら」グイッ
ミサト「あ……」ジャー
加持「こういうのは初めが肝心だからな」
ミサト「ちょ……いつまで触ってんのよ!」
加持「は?」
ミサト「手よ!」
加持「手? 別にどってことないだろ、手くらい…」
ミサト「ひ、ひとりでできるから!離しなさいよっ!」
加持「……はいはい」
ミサト「……もう…!」
シンジ「…………」
シンジ「加持くん、ミサトちゃんとケンカでもしたの?」ボソッ
加持「いや、その逆というか……」
伝言メッセージの音
アスカ「あんたが行きたがってた店、予約取っといたから。今晩空けときなさいよ!」
加持「シンジさんこそ、どうなってんだ?そこんとこ……」
シンジ「いや、これは……」
加持「まったく。両手に花とは、羨ましいよ」
シンジ「………」
ヒカリ「B型ハーモニクステスト、問題なし」
オペレータ「深度調整数値をすべてクリア」
トウジ「センセ、なんか疲れてへんか?」
シンジ「ちょっとね」
レイ「アスカ?」
シンジ「ちっちちち違うよ!」
トウジ「………」
レイ「………」
シンジ「み、ミサトちゃんの様子は?」
ヒカリ「すごいですよ、ほら」
シンジ「?」
シンジ「………わ……ほんとだ…」
シンジ「聞こえる? ミサトちゃん」
ミサト「シンジさん!今のテストの結果、どうでした?」
シンジ「ふふ、おめでとう。新記録達成だよ!」
ミサト「それでねぇ。なにかってーとすぐ女の子、女の子でしょお?私もどうかと思ったんだけどサ。あんまり真剣に言うもんだから…ちょっとは付き合ってあげよっかな?って」
ミサト「でも格好つけたがりだから。なんでもかんでも、男の仕事ー!なんて言っちゃってさ、まぁ…気遣われて、悪い気はしないけど。そのくせドジ踏むから、格好つかないのよね~」
リツコ「…彼、戦い方は悪くないわ」
ミサト「ね~!?まぁね~、あいつも、その点は馬鹿にできないっていうか、なんせ本場仕込みでしょ?ま…シンクロ率は私のほうが上だけど。安心してちゃ駄目よね。うん、頑張らなきゃ!」
リツコ「…私、帰るわ」
ミサト「えっ」
ミサト「ちょっとー!待ちなさいよ、リツコ!」
バスのアナウンス「次は、セイショウカノセ、次は、セイショウカノセ。古本、中古ソフトの店、バシャール前」
加持「……」
加持「…あっさり、抜かれちまったな…」
子供たち「ケッケッケ…」
加持「……はっ」
オペレータ「西区の住民避難、後5分かかります」
オペレータ「目標は微速で進行中。毎時2.5キロ」
レイ「遅刻よ」
シンジ「ごめん!…どうなってるの?富士の電波観測所は」
ケンスケ「探知してない、直上にいきなり現れたんだよ」
トウジ「パターンオレンジ、A.T.フィールド反応無し!」
シンジ「どういうこと?」
レイ「新種の使徒?」
ヒカリ「MAGIは判断を保留しています」
シンジ「参ったな…葛城司令のいないときに…」
シンジ「みんな聞こえる?目標のデータは送った通り。今はそれだけしか分からないんだ」
シンジ「慎重に接近して反応をうかがい、可能であれば市街地上空外への誘導も行う」
シンジ「先行する一機を残りが援護。いい?」
加持「先行は俺がやるよ。お姫様を守るのはナイトの役目だからな」
ミサト「ぶっ!だっ、誰がお姫様よ!??」
加持「別に誰とは言ってないが」
ミサト「……むうっ!」
ミサト「シンジさん!私に行かせてください!」
加持「おいおい、敵がどう出るか分からないんだぞ?」
ミサト「それはあんただって同じでしょ!同じリスクなら、より低いほうを選ぶ!シンクロ率一番は私なんだから!私が先行!」
シンジ「……分かった。先行はミサトちゃんでいこう」
シンジ「だけど本当に気を付けて。慎重にね」
ミサト「はいっ!」
加持「……ふぅ。弐号機、バックアップに回ります」
リツコ「零号機も、バックアップに」
シンジ「……」
レイ「…ミサトちゃん、ずいぶん前向きになったじゃない?」
シンジ「言い出したらきかないんだよ。それがミサトちゃんのいい所でもあるんだけど……帰ったらよく言って聞かせないと」
レイ「ふふっ…碇くん、お父さんみたいよ」
ミサト「加持くん、リツコ!そっちの配置は?」
加持「もう少しだ!」
リツコ「もう着くわ」
ミサト(………よしっ!姿が見えた!)
ミサト「接近し、様子を見ます!」
パレットを撃ち込む初号機
レイ「…消えた!?」
シンジ「何だ…!?」
トウジ「パターン青、使徒発見!初号機の真下や!」
ミサト「はっ!か、影が…!」
ミサト「何よこれ、体が……!」
シンジ「ミサトちゃん、逃げて!」
加持「葛城っ!」
リツコ「ミサト!」
ミサト「シンジさん!? どうなってるんですか!シンジさん!加持くん、リツコ…どこなの!? シンジさん!聞こえますか!? シンジさん!」
シンジ「プラグを強制射出!信号送って!」
ヒカリ「だめです!反応ありません!」
ミサト「シンジさんっ、シンジさん!」
シンジ「ミサトちゃん!」
シンジ「加持くん、リツコちゃん!初号機を救出!急いで!」
加持「っ!救出ったって…!」
リツコ「………!」
ヒカリ「また消えた!」
レイ「加持くん、気をつけて!」
加持「影!?」
加持「! おわっ…!!」
加持「街が…!」
シンジ「加持くん!リツコちゃん……後退して」
加持「なっ…」
リツコ「……まだ、初号機を救出していません」
加持「……」
シンジ「命令は、取り消すよ……戻ってきて」
ヒカリ「碇くん、辛いでしょうね」
レイ「…アンビリカルケーブルを引き上げてみたら、先はなくなっていたそうよ」
ヒカリ「それじゃあ…」
レイ「内臓電源に残された量はわずかだけど、ミサトちゃんが闇雲にエヴァを動かさず、生命維持モードで耐える事ができれば、16時間は生きていられるわ」
ヒカリ「……」
オペレータ「第二戦車小隊、配置完了」
オペレータ「了解、現在位置のまま待機」
オペレータ「サブレーザー、回線開きます。情報送る」
オペレータ「確認、C回線にて発信」
ケンスケ「国連軍の包囲、完了しました」
シンジ「影は?」
トウジ「動きなしや。直径600mを超えたところで停止したまま。……地上部隊なんて役に立つんか?」
ケンスケ「プレッシャーかけてるつもりなんだろ、俺たちに」
シンジ「……」
加持「俺が……あの時止めていれば……」
リツコ「結果は同じよ。立場が逆になるだけ」
リツコ「ミサトは自分で行くと言ったんだから…それはあの子の責任よ」
加持「だが…!」
リツコ「…もし落ちたのがあなただったら」
リツコ「ミサトはあなたを救う方法を考えたはずよ」
加持「………」
シンジ「その通りだよ…今はミサトちゃんを救う方法を考えよう」
シンジ「それに…ミサトちゃんに行けと言ったのは僕だ。責任は僕にある」
シンジ「だから、加持くんが自分を責める必要はないんだよ…」
加持「……」
シンジ「ミサトちゃんを助けて、またみんなでご飯を食べよう」
ミサト「眠る事がこんなに疲れるなんて、思わなかった…」
ミサト「やっぱり真っ白か…レーダーやソナーが返ってこない。空間が広すぎるんだわ…」
ミサト「生命維持モードに切り替えてから12時間…私の命も後4、5時間か…お腹空いたな…」
シンジ「じゃあ、あの影の部分が?」
レイ「そう、使徒の本体。直径680メートル、厚さ約3ナノメートルのね。その極薄の空間を、内向きA.T.フィールドで支え、内部はディラックの海と呼ばれる虚数空間」
レイ「多分、別の宇宙につながっているんじゃないかしら…」
シンジ「あの球体は?」
レイ「本体の虚数回路が閉じれば消えてしまう。上空の物体こそ、影に過ぎないわ」
シンジ「初号機を取り込んだ、黒い影が目標か…」
加持「そんな…どうすれば…」
ミサト「水が…!濁ってきてる……浄化能力が落ちてきてるんだわ…!」
ミサト「うっ!…生臭い!血?血の匂い…!」
ミサト「……嫌っ!ここは嫌!なんでロックが外れないのよっ!」
ミサト「開けて!ここから出して!シンジさん、どうなってるの…?シンジさん!加持くん!リツコ!…レイさん………お父さん…」
ミサト「お願い、誰か、助けて…」
シンジ「エヴァの強制サルベージ?」
レイ「現在、可能と思われる、唯一の方法よ」
レイ「992個、現存する全てのN2爆雷を、中心部に投下」
レイ「タイミングを合わせて残存するエヴァ2体のA.T.フィールドを使い、使徒の虚数回路に1000分の1秒だけ干渉するわ」
レイ「その瞬間に、爆発エネルギーを集中させて、使徒を形成するディラックの海ごと破壊する」
シンジ「でもそれじゃあエヴァの機体が…ミサトちゃんがどうなるか…!救出作戦とは言えないよ」
レイ「…作戦は初号機の機体回収を最優先とします。たとえボディーが大破したとしても」
シンジ「な…っ!」
シンジ「なに言ってるんだよ!綾波!」
レイ「……今初号機を失うわけにはいかないのよ、碇三佐」
シンジ「そんな…!ミサトちゃんだって!同じじゃないか、そんな作戦は認められない!」
レイ「…パイロットの補充はきくわ」
シンジ「……綾波…!」
レイ「あなたも分かってるはずよ…冷静になって」
シンジ「僕は……!冷静だよ、…綾波こそおかしいんじゃないのか!?」
シンジ「………そこまで初号機にこだわる理由って何、エヴァってなんなんだよ!」
レイ「…あなたに渡した資料が全てよ」
シンジ「嘘だ…!」
レイ「………」
レイ「…碇くん、私を信じて」
レイ「これ以降、本作戦についての一切の指揮は、私が執ります」
レイ「関空には便を廻すわ。航空管制と空自の戦略輸送団にも連絡を」
シンジ「………」
シンジ(セカンドインパクト。補完計画。まだ…まだ僕の知らない秘密があるんだ…)
ミサト「…誰?」
ミサト「誰?」
ミサト「…葛城ミサト」
ミサト「それは私よ!」
ミサト「あなたは私よ。人は自分の中にもう一人の自分を持っている。自分というのは常に2人でできているものなの」
ミサト「2人?」
ミサト「実際に見られる自分とそれを見つめている自分。葛城ミサトという人物だって何人もいる」
ミサト「私の心の中にいるもう一人の葛城ミサト、碇シンジの心の中にいる葛城ミサト、加持リョウジの中のミサト、赤木リツコの中のミサト…お父さんの中のミサト」
ミサト「みんなそれぞれ違う葛城ミサトだけど、どれも本物の葛城ミサト。あなたはその他人の中の葛城ミサトが恐いのよ」
ミサト「人から嫌われるのが恐いんでしょ?」
ミサト「弱い自分を見るのが恐いのよ」
ミサト「よい子にならなきゃいけないの」
ミサト「パパがいないから。ママを助けて私はよい子にならなきゃいけないの」
ミサト「でも、ママのようにはなりたくない。パパがいないとき、ママは泣いてばかりだもの」
ミサト「泣いちゃだめ、甘えちゃだめ。だから、よい子にならなきゃいけないの。そしてパパに嫌われないようにするの」
ミサト「……でも父はいなくなった。私を置いて」
ミサト「だから恨んだ。お母さんと同じに…」
ミサト「悪いのは誰?」
ミサト「悪いのはお父さんよ!私を捨てたお父さん!」
ミサト「悪いのは私よ!」
ミサト「疑問?」
シンジ「君たちをエヴァに乗せてること…」
ミサト「で、自分を大切にしろ、って言うんでしょう?」
ミサト「みんなそうなのよ。そうして、仕事に、自分の世界に行ってしまうんだわ。私を置き去りにしたまま」
ミサト「お父さんと同じなのよ」
ミサト「辛い現実から逃げてばかりなのよ」
ミサト「辛い現実?私のことか…」
ミサト「嘘よ!私は必要とされてる!」
日向「付き合ってくれないかな」
シンジ「僕も君が大切だよ」
加持「好きだから…キスしよう」
葛城「よくやったな、ミサト」
ミサト「お父さんが、私の名前を呼んだのよ。あのお父さんが誉めてくれたのよ!」
ミサト「みんなも優しくしてくれる。私が必要なのよ!」
ミサト「その喜びを反芻して、これから生きていくんだ?」
ミサト「その言葉を信じてれば、これからも生きていけるわ!」
ミサト「自分をだましつづけて?」
ミサト「みんなそうよ、誰だってそうやって生きてる」
ミサト「自分はこれでいいんだ、と思いつづけている。でなければ生きていけないのよ」
ミサト「私が生きていくには、この世界には辛い事が多すぎる」
ミサト「そう。辛かったら逃げてもいいのよ」
ミサト「そうよ。嫌なことから逃げ出して、何が悪いって言うのよ!」
日向「こないだの騒ぎで、妹が怪我しちゃって」
加持「両手に花とは、羨ましいよ」
葛城「ここにお前の居場所はない!」
ミサト「嫌!聞きたくない!」
ミサト「ほら、また逃げてる」
ミサト「楽しいことだけを数珠のように紡いで生きていられるはずが無いのよ、特に私はね」
ミサト「楽しいこと見つけたの。楽しいこと見つけて、そればっかりやってて、何が悪いのよ!」
ミサト「楽しいことだけ、やっていたいの」
トウジ「エントリープラグの予備電源、理論値ではそろそろ限界や」
ヒカリ「プラグスーツの生命維持システムも危険域に入ります」
レイ「12分予定を早めましょう」
レイ「…ミサトちゃんが生きている可能性が、まだあるうちに」
ミサト「お父さん、私はいらない子なの?お父さん!」
ミサト「自分が追い出したくせに」
女「父親の実験だか何かのせいで母親が犠牲になったっていうじゃない」
女「恐ろしいわよねえ、自分の奥さんを実験台にするなんて…」
ミサト「違う!お母さんは…笑ってた…」
シンジ「立派じゃなくてもいい」
加持「誰にでもできることじゃないさ」
シンジ「頑張ってね……応援してるよ」
葛城「お前の心と共にある」
ミサト「ここは嫌……一人はもう、嫌…!」
ミサト「保温も、酸素の循環も切れてる…寒い…だめだ……スーツも限界…ここまでね…。もう、疲れた…ぜんぶ…」
光が体を包む
ミサト「…、……!」
ミサト「お母さん…!?」
(ほら、こうするの…)
(あなたにもできるわ……)
ケンスケ「エヴァ両機、作戦位置」
ヒカリ「A.T.フィールド、発生準備よし」
レイ「了解」
トウジ「爆雷投下、60秒前」
使徒に亀裂。
加持「何が起こってるんだ!?」
シンジ「状況は?」
トウジ「分からん!」
ヒカリ「全てのメーターは、振り切られています!」
レイ「まだ何もしていないのに!」
シンジ「まさか、ミサトちゃんが!」
レイ「ありえないわ!初号機のエネルギーは、ゼロなのよ!」
影を突き破って現れる手
オペレータ「おおっ!」
咆哮する初号機
加持「……これが、エヴァなのか…?」
リツコ「……」
レイ「何て物を……何て物をコピーしたの?私たちは…」
シンジ(エヴァがただの第1使徒のコピーなんかじゃないのは分かる…)
シンジ(でも、ネルフは使徒をすべて倒した後、エヴァをどうするつもりなんだ…?)
降り立つ初号機
レイ「……!」
加持「……、…」
リツコ「……」
シンジ「ミサトちゃん…ミサトちゃん!ミサトちゃん!」
シンジ「ミサトちゃん、大丈夫!?ミサトちゃん!」
ミサト「…ただ会いたかったの、もう一度…」
加持「…はぁ」
加持「よかった……」
リツコ「…あなたもそんな顔、するのね」
加持「ん?はは…葛城には内緒で頼むよ」
リツコ「ええ…」
レイ「私は今日ほど、このエヴァが恐いと思ったことはありません」
レイ「本当にエヴァは私たちの手に負えるのでしょうか」
レイ「私たちは、憎まれているのかもしれません……エヴァに」
レイ「碇三佐の疑心も、そろそろ限界です」
葛城「そうか、今はいい…」
レイ「……彼らがコアの秘密を知ったら……許してもらえないでしょうね」
葛城「……」
リツコ「今日は寝ていて。後は私たちで処理するわ」
ミサト「うん…でも、もう大丈夫よ?ほら」ブンブン
ミサト「うっ…痛…!」
加持「強がるなよ、寝てろって」
リツコ「…あなたも、格好がつかないわね…」
ミサト「ぐっ…」
加持「? 何の話だ?」
ミサト「あっあんたには関係ない話よ!」
リツコ「ふふ…」
ミサト「…もうっ!分かったから、作業に行きなさいよ!」
加持「はいはい、お姫さま」
リツコ「また来るわ」
ドアが閉まる
ミサト「………もう。バカにして…」
ミサト「………」
ミサト「取れないわね…血の匂い」
拾六話分終わり
キール「今回の事件の唯一の当事者である初号機パイロットの直接尋問を拒否したそうだな、碇三佐」
シンジ「はい。彼女の情緒はとても不安定な状態です。今ここに立つことが良策とは思えません」
委員「では聞こう、代理人碇三佐」
委員「先の事件、使徒がわれわれ人類にコンタクトを試みたのではないのかね?」
シンジ「…分かりかねます。被験者の報告からはそれを感じ取れません。イレギュラーな事件だと推定されます」
委員「彼女の記憶が正しいとすればな」
シンジ「……記憶の外的操作は認められません」
委員「エヴァのACレコーダーは作動していなかった。確認はとれまい」
委員「使徒は人間の精神、心に興味を持ったのかね?」
シンジ「それは…。使徒に心の概念があるのか、人間の思考が理解できるのか、まったく不明ですので……返答できかねます」
委員「今回の事件には、使徒がエヴァを取り込もうとしたという新たな要素がある。これが予測されうる第13使徒以降とリンクする可能性は?」
シンジ「これまでの例から、使徒同士の組織的なつながりは否定されます」
委員「さよう。単独行動であることは明らかだ。これまではな」
シンジ「…それは、どういうことなのでしょうか?」
キール「君の質問は許されない」
シンジ「…はい」
キール「以上だ。下がりたまえ」
シンジ「はい」
キール「どう思うかね、葛城君?」
葛城「使徒は知恵を身につけ始めています。残された時間は…」
キール「後わずか、と言うことか」
看護師「12号室のクランケ?」
看護師「例のE事件の救急でしょ?ここに入院してからずいぶん経つわね」
看護師「なかなか難しいみたいよ、あの怪我」
看護師「まだ小学生なのに」
看護師「今日もきてるんでしょ、あの子」
看護師「そうそう。週2回は必ず顔出してるのよ、妹思いのいいお兄さんよねぇ」
看護師「ほんと?今時珍しいわね、あんな男の子」
葛城「リツコ、今日はいいのか?」
リツコ「はい。明日、綾波博士のところへ行きます。明後日は学校へ」
葛城「…学校はどうだ」
リツコ「問題ありません」
葛城「そうか…ならいい」
マヤ「起立、礼、着席!」
老教師「あ、ああ…今日の休みはいつもの赤木と、青葉か。後、今日は小池先生がお休みで、4時限目の現国が自習となります」
ミサト「青葉くん、どうかしたの?」
日向「さぁ…またどっかで路上ライブじゃないかな……あいつのことだし」
老教師「日向!」
日向「は、はい!」
老教師「後で、赤木にプリントを届けておくように」
日向「はい!」
トウジ「とにかく、第一支部の状況は、無事なんやな!?かまわん!計算式やデータ誤差はMAGIに判断させる!」
カヲル「消滅!?確かなのか!?第2支部が」
ケンスケ「はい、すべて確認しました。消滅です」
シンジ「…なんてこと……」
トウジ「上の管理部や調査部は大騒ぎ、総務部はパニックや!」
シンジ「それで、原因は?」
レイ「未だ分からず。手がかりはこの静止衛星からの映像だけで、後は何も残ってないの」
ヒカリ「10セコンド、8、7、6、5、4、3、2、1、コンタクト」
シンジ「……ひどい」
ヒカリ「エヴァンゲリオン四号機ならびに半径89キロ以内の関連研究施設はすべて消滅しました」
レイ「数千の人間を道連れにね」
シンジ「………」
ケンスケ「…タイムスケジュールから推測して、ドイツで修復したS2機関の搭載実験中の事故と思われます」
ヒカリ「予想される原因は、材質の強度不足から設計初期段階のミスまで、32768通りです」
シンジ「妨害工作の線も…あるか」
トウジ「せやけど爆発やなく消滅なんやろ?つまり、消えた、と」
レイ「多分、ディラックの海に飲み込まれたんでしょうね、先の初号機みたく」
シンジ「じゃあS2機関も?」
レイ「……夢は潰えたわね」
レイ「訳の分からないものを無理して使った…その報いね」
シンジ(…それはエヴァも同じだ……)
シンジ「…残った参号機はどうするの?」
レイ「ここで引き取ることになったわ。米国政府も第1支部までは失いたくないみたいね」
シンジ「そんな。参号機と四号機はあっちが建造権を主張して強引に作ってたんじゃないか!いまさら危ないところだけうちに押し付けるなんて、虫がよすぎるよ」
レイ「あの惨劇の後じゃ誰だって弱気になるわ…」
シンジ「…それじゃあ、起動試験はどうするの?例のダミーを?」
レイ「…これから決めるわ」
レイ「試作されたダミープラグです。赤木リツコのパーソナルが移植されています」
レイ「…ただ、人の心、魂のデジタル化はできません。あくまでフェイク、擬似的なものです」
レイ「パイロットの思考の真似をする、ただの機械です」
葛城「信号パターンをエヴァに送り込む。エヴァがそこにパイロットがいると思い込み、シンクロさえすればいい」
葛城「初号機と弐号機にはデータを入れておけ」
レイ「まだ問題が残っていますが」
葛城「…エヴァが動くことが先決だ」
レイ「はい…」
葛城「機体の運搬はUNに一任してある。週末には届くだろう」
葛城「後は君のほうでやってくれ」
レイ「はい。調整ならびに起動試験は、松代で行います」
葛城「…テストパイロットは?」
レイ「ダミープラグはまだ危険です。現候補者の中から、」
葛城「4人目を選ぶか……」
レイ「はい。一人、速やかに……コアの準備が可能な子供がいます」
葛城「…すまないな」
レイ「いいえ…」
レイ「……リツコちゃん?」
リツコ「…はい」
レイ「お疲れさま。もう上がっていいわよ」
リツコ「はい」
葛城「……」
マヤ「起立!礼!」
ミサト「さってぇと~ご飯ご飯♪」
ミサト「…って、あら?」
マヤ「葛城さん……ずいぶん大きなお弁当ね」
ミサト「そ、そうよね、これは…」
加持「悪いな、葛城。玄関で取り違えちまったみたいだ」
ミサト「げっ」
加持「これで元通り、っと」
女子「お弁当の交換~!?」
男子「イヤ~ンな感じ~!」
ミサト「ちっ、違うのよ!?これは…!」
女子「いいわよね~、家ではシンジさん、学校では加持くん」
女子「どっちか譲りなさいよ~!」
女子「どっちが本命なのよお!」
ミサト「やっ…やあねえ!そんなんじゃないわよ!」
日向「………」
シンジ「どうしたの?…改まって」
レイ「松代での参号機の起動実験、テストパイロットは4人目を使うわ」
シンジ「4人目?フォースチルドレンが見つかったの?」
レイ「昨日ね」
シンジ「…マルドゥック機関からの報告は受けてないよ」
レイ「正式な書類は明日届くわ」
シンジ「それで……選ばれた子って?」
レイ「……この子よ」
シンジ「……そんな、よりによって」
レイ「候補者を集めて保護してあるのだから…仕方ないわよ」
レイ「話しづらいでしょうけど……頼むわね」
シンジ「…加持くんや、リツコちゃんは大丈夫だと思う、エヴァに乗ることにプライドも持ってるし。でも…ミサトちゃんは…」
シンジ「加持くんやリツコちゃんとは、パイロットとして出会った、初めから戦闘員として。でも…今回は一般人…クラスメイトだ。今まで守っていた対象。それに…先の事件もある」
シンジ「一番エヴァに対する恐怖心が強いのはミサトちゃんだから……辛いんじゃないかな。誰かを巻き込むのは」
レイ「…これ以上辛い思いは、させたくない?」
シンジ「それは……もちろん」
レイ「でも、私たちにはそういう子供たちが必要なのよ、みんなで生き残るために」
シンジ「……分かってるよ」
レイ「あなたが弱気だと、全体の士気に関わるわ……頑張ってね、碇作戦部長」
シンジ「……」
シンジ「うん……」
男子「じゃぁな~」
女子「明日ね~」
マヤ「……日向くん、これ」
日向「? プリント?」
マヤ「赤木さんのよ。先生に頼まれてたでしょ?」
日向「ああ、赤木のか。ありがとう、わざわざ」
日向「……でも女の子の家に一人でってのは、ちょっとなぁ……」
マヤ「そ!それなら私が一緒に…!」
日向「葛城さん!…これから時間ある?」
マヤ「……」
ミサト「リツコの家?いいわよ」
ミサト「リツコ~!入るわよぉ!」
日向「い、いいの? 黙って上がって…」
ミサト「いいのよぉリツコは。防犯意識ゼロなんだから」
日向「そ、そういう問題じゃ…」
ミサト「あら?リツコ?リツコ~?いないみたいね…」
日向「なっ」
日向「なんだ、この部屋は!」
ミサト「……勝手にイジると、さすがのリツコも怒るんじゃない?」
日向「いいや。これは……放っておけないよ。ゴミだけでも片付ける…!」
ミサト「…マメねぇ……」
日向「……イメージと違ったよ。赤木って…もっと完ペキな奴かと」
ミサト「意外と抜けてるとこあるわよ?リツコって」
日向「へぇ…」
ミサト「…あら。噂をすれば」
リツコ「……何してるの?」
日向「ごめん、勝手に片づけたよ。ごみ以外は触ってない」
日向「それと、これ。休んでた間のプリント」
リツコ「あ…」
リツコ「ありがとう…」
ミサト「しっかし、意外だったわね~。リツコが照れるなんて。珍しいもん見たわ」
日向「えっ?真顔じゃなかった?」
ミサト「チッチッチ~よ!あの頬の赤みは照れよ、照れ!」
日向「そ、そうかな…」
ミサト「ま。私とリツコくらいの仲になんないと、分っかんないでしょおね~」
日向「…葛城さん、変わったね。なんていうか…明るくなった」
ミサト「……」
ミサト「そうかもね。シンジさんや…みんなが支えてくれて。エバにも慣れてきたし…」
ミサト「ちょっとは変われた、かな…」
日向「……」
カヲル「街。人の作り出したパラダイスだね」
葛城「かつて楽園を追い出され、死と隣り合わせの地上と言う世界に逃げるしかなかった人類」
葛城「そのもっとも弱い生物が、弱さゆえ手に入れた知恵で作り出した自分達の楽園だ」
カヲル「自分を死の恐怖から守るため、自分の快楽を満足させるために自分達で作ったパラダイスか…」
カヲル「この街がまさにそれだね…自分達を守る、武装された街」
葛城「…敵だらけの外界から逃げ込んでいる臆病者の街だよ」
カヲル「臆病なほうが長生きできる。それでいいじゃないか」
カヲル「第三新東京市、ネルフの偽装迎撃要塞都市、遅れに遅れていた第7次建設も終わる。いよいよ、完成だね…」
カヲル「四号機の事故、委員会にどう報告するつもりだい?」
葛城「原因不明だ」
カヲル「事実の通り、か……。ここにきて、大きな損失だね…」
葛城「…S2機関のデータはドイツに残っている」
葛城「ここと初号機が残っていれば、ことは成せる…」
カヲル「どうかな…委員会は血相を変えていたよ」
葛城「……」
カヲル「死海文書にはない事件だ……ゼーレも、慌てて行動表を修正しているだろうね」
カヲル「……老人たちにはいい薬か…」
シンジ「アスカ!」
アスカ「あら、ネルフの作戦部長様が、息を切らしてなんのご用?」
シンジ「…地下のアダムとマルドゥック機関の秘密、教えてよ。…知ってるんでしょ?」
アスカ「……何の話よ?」
シンジ「とぼけないでよ!」
アスカ「…あんたバカ?ここをどこだと思ってんのよ…まず落ち着きなさい」
シンジ「…落ち着いてられないよ…!消滅した第2支部に、移設される参号機…」
シンジ「そして都合よくフォースチルドレンが見つかる……こんなのおかしいよ。誰かが、裏で…!」
アスカ「……」
アスカ「…これだけは言えるわ。マルドゥック機関は存在しない。影で操っているのは、ネルフそのものよ」
シンジ「ネルフそのもの…葛城司令が?」
アスカ「そ。…あとは自分でやんなさいよ。コード707」
シンジ「707…ミサトちゃんの学校?」
アスカ「ったく。こっちは命懸けだってのに…べらべら喋らせてくれちゃって」
アスカ「コーヒーくらい奢んなさいよね?」
ミサト「シンジさん…どこかしら。レイさんも携帯使えばいいのに……よりによって私に頼むなんて……」
ミサト「あれっ?加持くんと……リツコ…?」
アナウンス「第三管区の形態移行ならびに指向兵器試験は予定通り行われます。技術局3課のニシザイ博士、ニシザイ博士、至急開発2課までご連絡ください」
ミサト(……って、なんで隠れてるのよ私!!)
聞き耳を立てるミサト
加持「せっかくここの迎撃システムが完成するのに、祝賀パーティーの一つも予定されていないとは、ネルフってお堅い組織だねぇ」
リツコ「司令がああいう人だもの……」
加持「リッちゃんはどうなのかな?」
リツコ「私にそんな権限はないわ」
加持「君の気持ちが知りたいんだよ」
リツコ「人がたくさんいるのは…苦手」
加持「どうして?」
リツコ「分からないわ」
加持「人を寄せ付けないのは……悲しい恋をしたからかな?」
リツコ「なぜそう思うの」
加持「…涙の通り道にほくろのある人は…一生泣き続ける運命にあるからさ」
加持「ま…俺なら、そんな思いはさせないが」
ミサト「……………」
ミサト(なんだ…)
ミサト(私ばっかり本気だったのか………馬鹿みたい)
シンジ「あれ?ミサトちゃん」
ミサト「……シンジさん…」
シンジ「どうしたの?」
ミサト「あ……レイさんが…、明日からの出張の打ち合わせだって…シンジさんに」
シンジ「ああ…そっか。ありがとう」
ミサト「それじゃあ…」
シンジ「……?」
シンジ「ミサトちゃん、どうかしたのかな…」
アスカ「あんたホントに、鈍くてバカね」
アスカ「先いってなさいよ。こっちは私が渇入れとくから」
シンジ「ちょっと、あんまり手荒なマネは…」
アスカ「するわけないでしょ。いいから、行きなさいよ」
ミサト「……」
アスカ「ちょっとー!葛城ミサトっ!」
ミサト「…?」
アスカ「時間あるでしょ?付き合いなさいよ」
ミサト「……………」
アスカ「……ビクつくんじゃないわよ。取って食やしないわよ」
ミサト「…あの、どこ行くんですか……?」
アスカ「行けば分かるわ」
ミサト「……」
ミサト「なんですか?この、…草……?」
アスカ「ハーブよ!あんた何にも知らないのねぇ」
アスカ「シンジの作った料理に、時々乗ってるでしょ?パセリとかバジルとか」
ミサト「…シンジさんのために作ってるんですか?」
アスカ「べっつに。ただの趣味よ」
アスカ「でも…まぁそうね、あいつの料理、まあまあ悪くない味でしょ?こういうの持ってくと、喜ぶのよね…店で買ってるとバカにならないからって」
アスカ「だから!あたしはシンジに料理を作らせて、食べる!「自分のため」にやってんのよ!」
ミサト「自分の……ために」
アスカ「あんたはどうなのよ?」
ミサト「えっ」
アスカ「なんで乗ってるのよ?エヴァに」
アスカ「違うか。乗せられてんのね…あいつの口車に」
ミサト「そんな、シンジさんは!いつも優しくしてくれてます…!」
アスカ「あんたのためじゃないわよ?あいつは誰にでも優しいの、優しい自分が好きなのよ。「自分のため」にやってんのよ、あいつも」
アスカ「誰かのために…なんて思ってるなら、今すぐエヴァを降りるのね。押しつぶされて、その内自分を無くすわよ」
ミサト「私は……!」
ミサト「今いる場所を、失いたくないんです…シンジさんや、ネルフのみんな…加持くんや、リツコ…学校の友達も」
アスカ「………」
ミサト「エバに乗るのは恐い…だけど、みんなを…居場所を失いたくないから…!だから、誰かのためじゃない!…自分自身の望みのために、乗ってるんです…!」
アスカ「…上出来ね」
ミサト「え…?」
アスカ「誰かのためにやるってのは…聞こえはいいけど、心情的には見返りを求めるものよ。自分のためにやってることなら…やり遂げれば、それで満足できる」
アスカ「変なこと聞いて悪かったわね。…あんた向いてるわよ、エヴァのパイロットに」
ミサト「あ……」
ミサト「ありがとう、ございます…」
アスカ「バカ。お礼なんていらないのよ、こっちも「自分のために」やってんだから。あんたに潰れられたら後味悪いのよ」
ミサト「……ふふ、アスカさんって」
アスカ「なによ?」
ミサト「思ってたより、真面目ですね」
アスカ「……」
電話の音
アスカ「はい、もしもし」
アスカ「シンジからよ。今から、シンクロテストですって」
ヒカリ「プラグ深度は3.2で固定。L.C.L.濃度は現状を維持。ハーモニクスレベルはマイナス1.2、1.5、1.6、1.8、1.9、限界指数は0.2。 データはレベル3を消去。以下はMELCHIORに保存されます」
レイ「やはり間違いないわね…。ミサトちゃんのシンクロ率、落ちてきてる」
シンジ「どういう事?」
レイ「何とも言えないわ。ただ、先の事件のとき何かがあったんでしょうね。あるいは…精神的な問題が生じたか」
シンジ(アスカ…何か変なこと言ったのかな…?)
レイ「何か思い当たる?」
シンジ「いや……これでますます、参号機のパイロットの件、話しづらくなったなと思って…」
レイ「…本人には明日、正式に通達されるわよ」
シンジ「うん…」
マヤ「きりーつ、気を付け、礼!」
放送「2年Aクラスの日向マコト、日向マコト、至急、校長室まで」
日向「…何だ?」
青葉「なんかやったのか?お前」
日向「するわけないだろ」
ミサト「…?」
日向「日向マコト、入ります!」
レイ「……日向マコトくんね?」
マヤ「葛城さん、ちょっと…いい?」
ミサト「?」
ミサト「いいけど…」
マヤ「ごめんね。こんなとこに呼び出して。ちょっと気になることがあって…」
ミサト「気になることって?」
マヤ「エヴァ参号機のこと」
ミサト「……エバ参号機?」
マヤ「そう。アメリカで建造中だったっていう……完成したんでしょ?」
ミサト「…知らないわ。エバ参号機なんて…」
マヤ「…隠さなきゃならない事情も分かるけど、お願い、教えて!」
ミサト「ほんとに聞いてないのよ!」
マヤ「…じゃあ、松代の第2実験場で起動試験をやるって噂も知らないの……?」
ミサト「知らないわよ。何?松代でやるの?」
マヤ「そうらしいわ。…それでなんだけど、パイロットはまだ決まってないんでしょう?」
ミサト「分からないわよ、そんな…」
マヤ「私にやらせてほしいのよ!ねぇ、葛城さん。葛城さんからも頼んでくれない?シンジさんに。乗りたいのよ、エヴァに!赤木さんの…みんなの力になりたいの!」
ミサト「ほ、ほんとに知らないのよ…そんなこと言われても」
マヤ「じゃあ、四号機が欠番になったって言う話も?」
ミサト「何それ?」
マヤ「……ほんとにこれも知らないのね……。第2支部ごと消滅したって、母さんのところは大騒ぎだったのに」
ミサト「消滅…?」
マヤ「…跡形も残らなかったそうよ」
ミサト「…シンジさんからは、何も聞いてない…」
マヤ「……」
マヤ「ごめんね、変なこと聞いて。…でも、羨ましかったんだ……好きな人と、支え合えるのって…」
ミサト「好きな人?」
マヤ「な!なんでもない!それじゃ…!」
ミサト「………」
老教師「われわれはセカンドインパクトと言うこの世の地獄から再び立ち上がったのです。今、年々子供の数も減ってきています」
日向「遅れて、すいません…」
老教師「話は聞いてる。席に着きなさい。あー、これからの時代をになう君たち若い世代が…」
日向「………」
青葉「何だよ?そんなにこってり絞られたのか?」
日向「…別に。何でもない」
青葉「………?」
放送「下校の時刻です。教室に残っている生徒は、早く帰りましょう」
青葉「なんだ、帰らないのか?」
日向「当番だからな」
青葉「サボっちゃえよ。十分綺麗だろ?」
日向「お前じゃないんだよ…」
青葉「マメだねぇ…」
日向「……」
日向「…葛城さん、変わったよな」
青葉「ん?ああ…明るくなった」
日向「……」
青葉「おいおい、どうしたんだよ?」
日向「いや……最近、パイロット同士の絆…みたいなものを感じることがあってさ」
日向「加持……あいつも、いけすかないけど、葛城さんを支えてるんだよな…」
青葉「……」
青葉「なに弱気になってるんだよ、お前はお前だろ? そりゃ、赤木や加持みたいにはいかないさ」
青葉「お前のいいところで勝負していけよ。何を選ぶかは、葛城次第だろ?」
青葉「それに、だ」
日向「それに?」
青葉「諦めろったって、無理な話だろ?それなら無理矢理にでも、前向いて行くしかないじゃないか」
日向「……それも、そうだな…」
青葉「しっかりしろよ?」
日向「はは…まさかお前に説教される日がくるとはな」
青葉「…時々思うけど、お前って俺をなめてないか?」
日向「少しな」
青葉「おいおい」
日向「ははは」
加持「おっ…アスカ先輩」
アスカ「加持? 今忙しいから。用があるならそこで待ってて」
加持「…相変わらず仕事、仕事か。そんな調子で、シンジさんに愛想つかされないか心配だね…」
アスカ「馬鹿。子どもが大人の問題に首突っ込んでんじゃないわよ」
加持「どれどれ…」
アスカ「こら!」
加持「…………」
加持「…これは決定事項?」
アスカ「……明日、あんたたちにも正式に通達されるわ」
加持「…この人選の根拠は?」
アスカ「…根拠かどうかは知らないけど。こいつの妹が難しい怪我してて、その優先治療が約束されたそうよ、ネルフで…」
加持「……」
アスカ「ちょっと、加持!どこ行くのよ!」
ミサト「見返りを求めない、か……」
ミサト「私は…加持くんとどうなりたいのかしら…」
台所で奮闘するマヤ
マヤ「……、…!」
校庭で佇む日向
日向「……」
拾七話分終わり
加持「…よっ。ずいぶん早いな」
日向「……」
加持「時間はあるんだ…ちょっと遠回りしてかないか?」
日向「……」
日向「俺は男だぞ…?」
ミサト「あの、加持くんは…?」
シンジ「ああ、なんか用事があったみたいでね。朝早く出てったよ」
ミサト「…用事って?」
シンジ「さぁ…ミサトちゃんも聞いてないの?」
ミサト「いえ…」
シンジ「そうか…昨日帰ってきてからも元気なかったし…どうかしたのかな…」
ミサト(……リツコのとこかしら…)
ミサト「あの、」
シンジ「ところで、」
ミサト「あっ…」
シンジ「あはっ。いいよ先に」
ミサト「あの…四号機が欠番っていう噂、本当ですか?何か事故があって爆発したって」
シンジ「…うん、本当だよ。四号機はネルフ第二支部と共に消滅したんだ。S2機関の実験中に…」
ミサト「……」
シンジ「ごめんね。伝えるのが遅れて…でもここは大丈夫だよ?3体ともちゃんと動いてるし、パイロットもスタッフも優秀なんだから」
ミサト「…でも、アメリカから参号機が来るって。松代でやるって聞きました、起動実験」
シンジ「うん…ここは4日ほど留守にするけど、その間のことはアスカに頼んでるし、心配ないよ」
ミサト「でも実験は…」
シンジ「大丈夫だよ、ミサトちゃん。綾波も立ち会ってくれるんだし、それに…」
ミサト「パイロットは…?パイロットはどうなるんですか?」
シンジ「……」
シンジ「その、パイロットなんだけど…」
チャイムの音
ミサト「あっ、私がでます」
ミサト「えっ」
マヤ「おっおはようございます!今日は、シンジさんにお願いがあって来ました……!」
シンジ「えっ、え?」
マヤ「私を……私をエヴァンゲリオン参号機の、パイロットにしてください!」
シンジ「………」
レイ「じゃあまだミサトちゃんは知らないの?」
シンジ「なかなか言い出すきっかけがなかったんだよ…それに、最近なんだか少し暗いんだ、ミサトちゃん」
レイ「…父親役が板についてきたと思ったら、もう弱音?まだまだ先は長いのよ」
シンジ「それはそう…なんだけど…」
シンジ「それで……いつ呼ぶの?パイロット」
レイ「そうね…明日になるわ。準備もいろいろあるし」
シンジ「…日向くんが自分で言ってくれたりは、しないかな?」
レイ「……期待しないほうがいいわ。人に自慢するほど、喜んでなかったもの。入院中の妹を本部の医学部に転院させてくれっていうのが彼の出した例の条件だったのよ」
加持「……妹さんが、入院してるそうだな」
日向「……」
加持「良くないのか?」
日向「……関係ないだろ」
加持「…あるさ。これからはパイロット同士だ」
日向「!」
日向「知ってるのか……葛城さんは?」
加持「葛城はまだ知らない。恐らくな」
日向「……それで?降りろって言いに来たのか?悪いけど俺は…!」
加持「「覚悟はできてる」?」
日向「……! そうだよ」
加持「……」
加持「……はぁっ。どうにも……駄目だな。俺は」
日向「…?」
加持「いや……すまない。嫌味のつもりはないんだ、…ただ……」
加持「仲間が死ぬのは見たくない…」
日向「……!」
加持「パイロットになるかどうかは…それぞれが決めることだ。決めたんなら……俺にあれこれ言う資格はない」
加持「覚悟結構。死ぬ気でやらなきゃいけないのは事実だ…。全人類とパイロット、天秤はどうあっても人類に傾く」
加持「ただ俺個人としては……仲間に死なれると後味が悪い」
加持「それに……葛城も悲しむしな…」
日向「……!」
加持「それだけ、言いに来たんだ」
日向「……」
日向「…分かった」
加持「…ま。ただでさえ少ないパイロットだ、これからよろしく頼むよ」
日向「ああ…」
加持「……」
加持「…治るといいな、妹さんの怪我…」
日向「……?ああ…」
マヤ「あ~!きっと変な子だと思われたわよね?でも、居ても立ってもいられなくて……シンジさん、上に掛け合ってくれると思う??」
ミサト「どうかしらねぇ…」
マヤ「予備としてでもいいから使ってくれないかしら。やる気ならあるのになぁ…」
ミサト「……あ、」
マヤ「ちょっと葛城さん、聞いてる?」
ミサト「聞いてる聞いてる」
ミサト(加持くん…私より先に出たはずなのに…)
教室の入口、笑いあう女子と加持
青葉「さーて、飯メシ…あれ?マコトは?」
男子「さっき出てったよ」
青葉「ふぅん……」
青葉(……)
リツコ「…日向くん」
日向「ああ……赤木か。どうしたんだ?こんなところで」
リツコ「……」
日向「……操縦のコツでも教えに来てくれたのか?…知ってるんだろ、俺が乗るって」
リツコ「ええ…」
日向「……知らないのは葛城さんだけか」
リツコ「そうなの?」
日向「たぶんな」
日向「……赤木ってさ」
日向「……死にそうになったことってあるか?エヴァに乗ってて」
リツコ「……」
日向「いや……ごめん、こんなこと聞いて。赤木ってパイロットになってもう長いんだろ?」
リツコ「ええ」
日向「……」
日向「加持にさ…言われたんだ、死ぬ覚悟はしていい……でも死ぬな、って……」
日向「無茶言うよな…赤木には分かるか?」
リツコ「……」
リツコ「……私が、死にそうになったとき、ミサトは泣いてたわ」
リツコ「……私は、人のために死ねればいいと、思ってたけど……」
リツコ「その時は、ミサトを悲しませたくないと思った」
リツコ「だから、加持くんの言ってることは…分かるわ」
日向「……」
日向「はは…葛城さんはみんなに愛されてるんだな…」
リツコ「? あなたもでしょ…?」
日向「…!」
日向「その通りだ…」
日向「よろしく頼むよ、これから」
教室の窓から、マヤ
マヤ「………」
レイ「遅れること2時間。ようやく到着ね」
シンジ「いくら慎重にって言っても限度があるよ…!こんなに待たせるなんて」
レイ「デートのときは黙って待ってたんでしょ?」
シンジ「……」
老教師「でありまして、これが世に言うセカンドインパクトであります」
老教師「私はそのころ根府川に住んでいたのですが、南極大陸の溶解に伴う水位の上昇により、今では海の底になってしまいました…」
(日向「付き合ってほしい…」)
(日向「葛城さんの支えになりたいんだ」)
日向「……」
マヤ「ごめんね葛城さん。いつもなら加持くんと一緒に帰ってるのに…」
ミサト「い…いいのよぉあんなやつ!どうせ帰ってもいるんだから。マヤちゃんとは外でしか話せないじゃない。…それで、何?悩み事って」
マヤ「……」
ミサト「……また、エバのこと?」
マヤ「ううん、それはもういいの…」
マヤ「いいえ…よくは、ないんだけど……今日は赤木さんのことで」
ミサト「リツコのこと?」
マヤ「うん…赤木さんと、日向くんって……付き合ってるのかな…?」
ミサト「ぶっ!!」
ミサト「は!?なんて?」
マヤ「二人、付き合ってるんじゃないかって。…だって、お昼休み、とっても仲良さそうにしてたのよ?」
マヤ「…日向くん、笑ってたし…」
ミサト「……」
マヤ「確証はないんだけど……日向くんって、赤木さんのことが好きなんじゃないかしら…」
ミサト「…う~ん」
ミサト(これは…リツコの赤面事件は伏せといたほうがいいわね…)
ミサト(それに……日向くんが好きなのはたぶん、まだ私だし……)
ミサト「大丈夫よ!日向くんが好きなのはリツコじゃないって!」
マヤ「……どうしてそう言えるの?」
ミサト「う……ちょっとガサツで、ほんのちょっとズボラなくらいがタイプらしいから。リツコじゃないわよ」
マヤ「なんでそんなこと知ってるの?」
ミサト「かっ加持くんに聞いたのよ!」
マヤ「そっかぁ……加持くんか…」
ミサト「……」
マヤ「加持くん……家で、何か赤木さんのこと言ってない?」
ミサト「なんで?」
マヤ「だって……最近よく赤木さんに声かけてるのを見るから…」
ミサト「き…気にしすぎよぉ!同じエバのパイロットなんだし…それに、あいつは女の子なら誰彼かまわずじゃない」
マヤ「そうだけど…」
マヤ「赤木さんは、綺麗だし…何でもそつなくこなすし」
ミサト「……」
マヤ「優しいから…」
マヤ「加持くんも、本気になっちゃうんじゃないかと、思って……」
ミサト「……」
ミサト「…そうね…」
ミサト「リツコは、いい子よね…」
ミサト「ねぇ…加持くん」
加持「なんだ?」
ミサト「………」
(マヤ「赤木さんは、綺麗だし…」)
ミサト「…さ、参号機のことって聞いてる?新しいパイロットの話とか」
加持「…さぁ、どうだかね…」
加持「なんにせよ、少ないパイロットだ。仲良くやるさ…」
ミサト「…………」
加持「……ん?」
加持「葛城…?」
アスカ「ふーっ!さっぱりしたっ!お風呂、空いたわよ」
加持「あ……先輩」
アスカ「なによ、あんたたち…まだくっちゃべってんの?スッとろいわねぇ」
アスカ「さっさと片付けて、さっさと風呂入って、寝る!明日も早いんだから」
ミサト「か、加持くん、先に…」
アスカ「加持!あんたは最後!レディーファーストよ」
加持「へーいへい」
アスカ「ミサト!とっとと入っちゃいなさい!」
ミサト「はっはいっ!」
ミサト「……アスカさん、もう寝ました?」
アスカ「…まだ起きてるわよ」
ミサト「………」
アスカ「…なによ。言いたいことがあんなら言いなさいよ」
ミサト「……加持くん、って…どんな子でした?向こうで…」
アスカ「加持?唐突ね……あんたあいつが気になるの?」
ミサト「気になるっていうか…最近」
アスカ「……」
ミサト「よく…分からなくて」
アスカ「……あいつはあいつよ。私の口から言ったって、それは私の中の加持でしかない。気になるんなら、自分で見つけなさいよ……あいつがあんたにとっての、何なのか」
ミサト「そう……ですよね…やっぱり」
アスカ「それにしても…ふぅ~ん?あんたがねぇ…」
ミサト「…な、なんですか……」
アスカ「べつに。聞かれるんだったらあんたの父親のことだと思ってたから。拍子抜けしたのよ」
ミサト「……お父さんのことは…いつか、聞きます…副司令とかに」
アスカ「ゲッ……あのホモに関わると、ロクなことないわよ…?」
ミサト「? ホモ?」
アスカ「いや……なんでもないわ」
ミサト「……」
ミサト「…アスカさんにとってのシンジさんって、何なんですか…?」
アスカ「……それが分かりゃあ、苦労しないわよ」
ミサト「ふふっ…同じですね」
アスカ「バーカ。こっちは腐れ縁。あんたたちなんてまだペーペーよ」
アスカ「…ほら、お喋りはおしまい。もう寝なさい」
ミサト「はーい」
アナウンス「参号機、起動実験まで、マイナス、300分です」
アナウンス「主電源、問題なし」
アナウンス「第二アポトーシス、異常無し」
アナウンス「各部、冷却システム、順調なり」
アナウンス「左腕圧着ロック、固定終了」
レイ「了解。Bチーム作業開始」
アナウンス「エヴァ初号機とのデータリンク、問題なし」
レイ「これだと即、実戦も可能だわ」
シンジ「そう……」
レイ「…複雑そうね」
シンジ「…この機体が納品されたら、エヴァは全部で4機になる…」
レイ「…その気になれば世界を滅ぼせる戦力ね……」
シンジ「……」
レイ「パイロットの件…ミサトちゃんには話したの?」
シンジ「実験が終わったら……話すよ」
アナウンス「フォースチルドレン、到着。第2班は、速やかにエントリー準備に入ってください」
マヤ「ねぇ……赤木さん、お弁当、一緒に食べない?ちょっと作りすぎちゃって…」
リツコ「…いただくわ」
マヤ「良かった!お肉は苦手だって聞いてたから、お野菜中心にしたのよ」
ミサト「あのぉ~…私もいい?」
マヤ「葛城さん?…でもいつもは…」
ミサト「今日、シンジさんいなくて。お弁当…失敗しちゃったのよね」マルコゲ
リツコ「あきれた…」
マヤ「……」
マヤ「…参号機って、もう日本に到着したの?」
ミサト「うん…昨日着いたみたいよ」
マヤ「いいなぁ。誰が乗るのかしら…日向くんかな?今日休んでるし」
ミサト「まさかぁ!」
リツコ「………」
オペレータ「エントリープラグ、固定完了。第一次、接続開始」
オペレータ「パルス送信。グラフ正常位置。リスト、1350までクリア。初期コンタクト、問題なし」
レイ「了解。作業をフェイズ2へ移行」
オペレータ「オールナーブリンク、問題なし。リスト、2550までクリア。ハーモニクス、すべて正常位置」
オペレータ「絶対境界線、突破します」
突破直後、異変。
レイ「実験中止、回路切断!」
オペレータ「だめです、体内に高エネルギー反応!」
レイ「まさか…」
レイ「使徒!?」
ケンスケ「松代にて、爆発事故発生」
オペレータ「被害、不明!」
カヲル「救助、および第3部隊を直ちに派遣!戦自が介入する前にすべて処理するんだ」
トウジ「了解!」
ケンスケ「事故現場に未確認移動物体を発見」
トウジ「パターンオレンジ、使徒とは確認できん」
葛城「…第一種、戦闘配置」
ケンスケ「総員、第一種戦闘配置!」
トウジ「地、対地戦用意!」
ヒカリ「エヴァ全機、発進!迎撃地点へ緊急配置!」
オペレータ「空輸開始は20を予定」
ミサト「松代で事故?そんな、じゃあ、シンジさん達は!?」
リツコ「分からないわ。連絡が取れない」
ミサト「そんな、どうすれば…」
加持「……今俺らが心配したってしょうがない。無事を祈るしかない……まずは目先の問題だ」
ミサト「…でも…使徒相手に、私たちだけで…」
リツコ「今は葛城司令が、直接指揮を執っているわ」
ミサト「お父さんが?」
ケンスケ「野辺山で映像を捉えました。主モニターに廻します」
職員「おおっ…」
カヲル「…やはりこれか」
葛城「活動停止信号を発信。エントリープラグを強制射出」
ヒカリ「だめです、停止信号およびプラグ排出コード、認識しません」
葛城「パイロットは?」
トウジ「呼吸・心拍の反応はありますが、おそらく…」
葛城「…エヴァンゲリオン参号機は現時刻をもって破棄。目標を第拾参使徒と識別する」
トウジ「しかし!」
葛城「予定通り野辺山で戦線を展開、目標を撃破しろ」
ケンスケ「目標接近!」
トウジ「全機、地上戦用意!」
ミサト「えっ?まさか、使徒…?これが使徒なの?」
葛城「…そうだ。目標だ」
ミサト「目標って……これはエバじゃないの…」
加持「…乗っ取られたのか、使徒に……!」
ミサト「やっぱり、人が…子供が乗ってるんじゃ…!同い年の…」
加持「………っ」
加持「二人とも、下がれ!ここは俺がやる」
ミサト「加持くん!?」
加持「援護を頼む!」
加持(…足、動きを封じて、エントリープラグだけでも…!)
加持「だぁああっ!」
(アスカ「こいつの妹が、難しい怪我してて…」)
加持「くっ…!」
ミサト「加持くんッ!!」
トウジ「エヴァ弐号機完全に沈黙!」
ヒカリ「パイロットは脱出、回収班向かいます」
ケンスケ「目標移動、零号機へ」
葛城「リツコ、近接戦闘は避け、目標を足止めしろ。今初号機をまわす」
リツコ「了解」
リツコ(乗っているのは、彼…)
照準を合わせるリツコ
突如、襲いかかる参号機
リツコ「あぁ…っ!」
ヒカリ「零号機、左腕に使徒侵入!神経節が侵されて行きます!」
葛城「左腕部切断。急げ!」
ヒカリ「しかし、神経接続を解除しないと!」
葛城「切断だ!」
ヒカリ「…はい!」
リツコ「ひっ…!」
ヒカリ「零号機中破、パイロットは負傷」
ミサト「そんな…」
葛城「目標は進行中。後20で接触する。聞こえるな?…ミサト」
ミサト「……!」
葛城「お前がやるんだ」
ミサト「……でも」
ミサト「でも、目標って言ったって…!」
ミサト「人が乗ってるんじゃないの…?」
ミサト「同い年の子供が…!」
葛城「……」
咆哮する参号機
ミサト「エントリープラグ…やっぱり、人が乗ってる…!」
ミサト「あっ!」
初号機を締め上げる参号機
ミサト「はっ、ぁ、う…っ!」
トウジ「生命維持に支障発生!」
ヒカリ「パイロットが危険です!」
カヲル「いけない、シンクロ率を60%にカットだ!」
葛城「待て!」
カヲル「しかし!このままではパイロットが…!」
葛城「……ミサト、なぜ戦わない」
ミサト「……!」
ミサト「だって、だって人が乗ってるのよ、お父さん!!」
葛城「…そいつは使徒だ。われわれの敵なんだ」
ミサト「でも…そんなの、できないわよ…!…助けなきゃ…人殺しなんてできない!!」
葛城「お前が死ぬぞ!」
ミサト「…いいわよ、人を殺すよりはいい!死んだほうがマシよ!!」
葛城「………!」
葛城「パイロットと初号機のシンクロを全面カットしろ」
ヒカリ「カットですか?」
葛城「そうだ。回路をダミープラグに切り替えろ!」
マヤ「しかし、ダミーシステムはまだ問題も多く、…綾波博士の指示もなく!」
葛城「このままではパイロットが死ぬ!急ぐんだ!」
ヒカリ「はい…!」
ミサト「はぁっ、は…!」
ミサト「なに…? 何をしたの、お父さん!」
トウジ「信号、受信を確認」
ヒカリ「官制システム切り替え完了」
オペレータ「全神経、ダミーシステムへ直結完了」
オペレータ「感情素子の32.8%が不鮮明、モニターできません」
葛城「構うな…システム開放、攻撃開始」
参号機を捩じ伏せる初号機
ヒカリ「これが、ダミープラグの力なの…?」
オペレータ「システム正常!」
オペレータ「さらにゲインがあがります!」
参号機の頭部を踏み潰し、身体を抉る
ヒカリ「ひっ!」
ミサト「やめてよ!!!!!」
ミサト「お父さん、お願い、やめてよ、こんなのやめさせて!!!!!」
ミサト「嫌…!止まってよ、止まれ、止まれ、止まれ、止まれ!止まれ!」
エントリープラグが軋む
ミサト「はっ!これは…!」
ミサト「やめて!!!!嫌っ!やめてぇっ!!!!!!!!!!!!!!」
ケンスケ「エ、エヴァ参号機、あ、いえ、目標は、完全に、沈黙しました…」
男「こっちにもいたぞーっ!生存者だ!息はある!急いで救護を廻してくれ!」
男「そうだ。レコーダーのプラグは、ペースト作業終了後、すべて、焼却処分にしろ!」
シンジ「生きてる……。…アスカ?」
男「いいから!…の封鎖を解除しろ!」
アスカ「……良かったわね、命があって」
シンジ「綾波は…?」
アスカ「…あんたよりは軽傷よ。まったく…心配させんじゃないわよ、バカシンジ」
シンジ「…はっ!…エヴァ参号機は!?」
アスカ「……使徒、として処理されたそうよ。初号機に」
シンジ「そんな……」
男「……は破棄だ!ベークライトを注入してくれ」
男「地下800mの…」
シンジ「……僕、まだミサトちゃんに何も話してない…」
(通信)
シンジ「ミサトちゃん…?」
ミサト「シンジさん…!良かった。無事だったんですね…?」
シンジ「ごめん……ミサトちゃん、僕は……君に伝えなきゃいけなかったのに、こんなことに…」
ミサト「シンジさん…私は…私は、人を…!お父さんが、私、嫌だって、…やめてって頼んだのに…!」
シンジ「ミサトちゃん、ごめん、本当に…」
ミサト「シンジさん……?」
ヒカリ「エントリープラグ回収班より連絡。パイロットの生存を確認」
ミサト「生きてる!?」
男「了解。変形部はレーザーで切断」
男「L.C.L.の変質サンプルは最優先で…」
シンジ「あの参号機のパイロットは…フォースチルドレンは…」
女「付着している生体部品は破棄処分、熱処理を準備!」
ミサト「え…?」
シンジ「…ミサトちゃん?…ミサトちゃん、ミサトちゃん…!ミサトちゃん!」
ミサト「嫌、」
(絶叫)
拾八話分終わり
ヒカリ「…初号機の連動回路、カットされました」
カヲル「射出信号は?」
ヒカリ「プラグ側からロックされています。受信しません」
トウジ「聞いとるか?…ああでもせなんだら、お前がやられとったんやぞ!」
ミサト「そんなの関係ない……」
トウジ「それでも、それが事実や」
ミサト「………」
ミサト「そんなこと言って…これ以上私を怒らせないでよ…」
ミサト「初号機に残されている後185秒、これだけあれば、本部の半分は壊せる…!」
ケンスケ「今の彼女なら、やりかねませんね」
ヒカリ「ミサトちゃん、話を聞いて!」
ヒカリ「葛城司令の判断がなければ、みんな死んでいたかもしれないのよ!」
ミサト「関係ない、そんなの」
ヒカリ「ミサトちゃん……!」
ミサト「関係ないって言ってるでしょ……!」
ミサト「殺そうとしたのよ…!?日向くんを、初号機が……私の手が!!」
葛城「お前ではない」
ミサト「な……」
葛城「あの少年を殺そうとしたのは私だ」
ミサト「……っ」
葛城「お前は死を選んだ。私はダミープラグを」
葛城「初号機を動かしたのはダミープラグだ」
ミサト「……!」
ミサト「そんなの……!そんなの関係ないわよ!!乗ってたのは私でしょ!?」
葛城「お前は戦うことを放棄したんだ」
ミサト「違うわよっ!!!」
葛城「……」
葛城「L.C.L.圧縮濃度を限界まで上げろ」
ヒカリ「ええっ?」
葛城「…やってくれ。ここを破壊されては困る…」
ミサト「まだ直結回路が残っ…がはっ!」
ミサト「チクショウ…チクショウ…チクショウ…」
作業員「ライトブレストの溶解処理、完了しました」
作業員「体液の洗浄は予定通り、30から始めます」
作業員「第6パーツは熱処理されます。エリア内の作業員は待避してください」
レイ「…もういいの?」
シンジ「仕事ができれば、問題ないよ」
シンジ「それに、休んでられないよ。こんな非常時に…」
シンジ「ミサトちゃんは…?」
レイ「…あの後、レーザーカッターで非常ハッチを切断。強制排除されたらしいわ」
シンジ「……参ったな…、今回ばかりは」
加持「…立ち直れないかもしれないな」
リツコ「ミサト?」
加持「…ああ、葛城もだし」
加持「俺もだ…」
リツコ「…あなたの先行で、使徒との接近戦が危険と分かったんだから…無駄ではなかったわ」
加持「ははっ…優しいじゃないか。いつになく」
リツコ「そうかしら…普通よ」
加持「……葛城は、今ごろ夢の中かな?」
リツコ「夢?」
加持「ああ……悪夢じゃないといいが…」
リツコ「……」
日向(……どこだ…ここは…妹の病院か…?なぜ俺は寝てるんだ……?)
日向(何だ……葛城さんじゃないか…それに、赤木…)
リツコ「なぜあんなことをしたの?」
ミサト「許せなかったのよ、お父さんが。私の気持ちを裏切ったお父さんが…」
ミサト「せっかくいい気持ちで話ができたのに、あの人は私の気持ちなんか分かってくれないんだわ」
リツコ「あなたは分かろうとしたの?お父さんの気持ちを」
ミサト「…分かろうとした」
リツコ「なぜ分かろうとしないの?」
ミサト「分かろうとしたわよ!」
リツコ「司令はあなたに死んでほしくなかっただけよ」
ミサト「……っ」
ミサト「私は……!」
日向(…なんで喧嘩してるんだ…二人…)
看護師「面会は特別だから、5分だけよ」
加持「はい、ありがとうございます」
日向「なんだ……お前か」
加持「悪かったな…葛城じゃなくて」
日向「いや…良かったよ。今はまともに顔を見れそうにない」
加持「……大丈夫か?」
日向「…生きてはいるみたいだな…」
加持「……」
日向「……葛城さんと、赤木がいたような気がしたんだがな…ちょうどそこに」
加持「…葛城は昨日退院したよ。リッちゃんは…何度か顔を見せてたようだが。おたくは丸三日寝てたんだ…夢でも見たんじゃないのか?」
日向「そうか…3日も……」
日向「……」
日向「なぁ……ひとつ、頼んでいいか…?」
加持「何だ?」
日向「妹には…知らせないでくれ。俺は何でもないって…少し忙しいだけだからって…伝えてくれないか…?」
加持「……」
加持「分かった…」
ネルフ職員「出たまえ、葛城ミサト君。総司令がお会いになる」
葛城「命令違反、エヴァの私的占有、恫喝…」
葛城「これらはすべて犯罪行為だ」
葛城「…何か言いたいことはあるか」
ミサト「……」
ミサト「私はもう、エバに乗りたくありません。…ここにもいたくありません」
葛城「どうするつもりだ」
ミサト「おじさんのところへ戻ります」
葛城「…それで逃げられると思うのか」
ミサト「……!」
葛城「…お前だけは、お前自身から逃げられない」
葛城「お前の戦闘離脱も、同級生の怪我も、すべて事実だ。向き合わない道はない…「演じる」ことで隠すことはできても。…ミサト」
葛城「…もうここへは帰ってくるな」
ミサト「……っ!言われなくても、そうするわよ!!!」
葛城「私だ。サードチルドレンは抹消、初号機の専属パイロットはリツコをベーシックに、ダミープラグをバックアップに廻せ」
(伝言メッセージ)
マヤ「葛城さん? 大丈夫…? わたし、何て言ったらいいのか…」
マヤ「ごめんなさい。勝手なことばかり言って…乗りたいとか、羨ましいとか。私、自分が幻想を見てるんだって気づいたのよ、出ていくあなたを責められないわ……日向くんがエヴァの事故に巻き込まれたって聞いて、私…!」
オペレータ「この電話は盗聴されています。機密保持のため回線を切らせていただきました。ご協力を感謝いたします」
シンジ「…加持くんが、悪かったって。…ミサトちゃんに」
ミサト「……みんな私に謝ってばっかり。悪いのは私なのに」
シンジ「ミサトちゃん…」
ミサト「やめてくださいよ!!いらないですよ、同情なんて…!」
シンジ「………」
ミサト「もう聞きあきたわ……私はかわいそうなんかじゃない……!」
ミサト「………」
ミサト「エバに乗ることも、ここに残ることも…」
ミサト「自分で選んだ……だから今度も、自分で出ていくんです…」
シンジ「…ミサトちゃん…」
ミサト「…最後に、ひとつだけ教えてください。なぜ日向くんだったんですか?フォースチルドレンが」
シンジ「……第4次選抜候補者は、全てミサトちゃんのクラスメートだったんだよ……ごめん、こんな大事なことが、今まで言えなくて……」
ミサト「……全部、仕組まれてたってことですか?クラスのみんなが……」
ミサト「なんなんですか……?お父さんが……あの人がやろうとしてることは…!」
シンジ「……」
シンジ「ごめん……うまく言えないんだ。でも僕らが戦ってるのは、人類を救うためで…!……それだけは、嘘じゃ、ないから…」
ミサト「……もういいです。どうせ私には関係のなくなることですから」
シンジ「ミサトちゃん…」
ミサト「私のパスコードは破棄してください。部屋の荷物も…」
シンジ「……」
ミサト「すみません、最後までご迷惑をおかけして」
ミサト「それじゃあ……さようなら」
警報。
放送「ただいま東海地方を中心に、非常事態宣言が発令されました。住民の皆さまは、速やかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返します、ただいま…」
ミサト「使徒だ…」
オペレータ「総員第一種戦闘配置、地対空迎撃戦用意」
カヲル「目標は?」
ケンスケ「現在、侵攻中です。駒ケ岳防衛線、突破されました!」
オペレータ「第1から18番装甲まで損壊!」
トウジ「18もある特殊装甲を、一瞬で…!」
シンジ「……エヴァの地上迎撃は間に合わない!弐号機をジオフロント内に配置、本部施設の直縁に廻して!」
シンジ「加持くんには目標がジオフロント内に侵入した瞬間を狙い撃ちさせて!」
シンジ「零号機は?」
ヒカリ「A.T.フィールド中和地点に、配置されています」
レイ「左腕の再生がまだなのよ」
シンジ「戦闘は無理か…」
葛城「リツコは初号機で出せ」
シンジ「…!」
葛城「ダミープラグをバックアップとして用意」
シンジ「はい…!」
オペレータ「エントリースタート」
ヒカリ「L.C.L.電荷」
レイ「A10神経、接続開始」
異変。
リツコ「うっ…だめなのね、もう…」
オペレータ「パルス逆流!」
ヒカリ「初号機、神経接続を拒絶しています!」
レイ「まさか、そんな…」
カヲル「……葛城君」
葛城「ああ…私を拒絶するつもりか」
葛城「…起動中止、リツコは零号機で出撃させろ。初号機はダミープラグで再起動」
シンジ「しかし零号機は…!」
リツコ「構いません。行きます」
シンジ「リツコちゃん…!」
リツコ(私が死んでも代わりはいる…もう気づいて泣く人もいないわ)
火柱が立ち上る。市街地。
ミサト(……私はもう、乗らないって決めたのよ…!)
男「君、何をしている!早くシェルターに避難しなさい!」
ケンスケ「だめです!後一撃ですべての装甲が突破されます!」
シンジ「…頑張って、加持くん…!」
加持「来たな……こちとら傷心中だってのに」
加持「ま……いいさ。スパッと勝ちどきを上げて、」
加持「英雄の凱旋といこうじゃないか……!」
連射。
加持「このっっ!!」
加持「チッ……次!」
加持「なぜだ!? A.T.フィールドは中和しているはず…」
加持(なぜ通じない!?)
なおも撃ち込むが、通じない
加持「ははっ……笑えない冗談だ」
加持「何…っ!」
加持「がっっ」
腕を切り落とされる
加持「……っああ、あぅ……!」
加持「……でやあああっ!」
シンジ「弐号機の全神経接続カット!早く!!」
(加持「避難訓練?……まぁ、俺たちパイロットには関係ない話だろうな」)
揺れる避難所。
ミサト「……うわっ!」
男「第8区に直撃!」
男「第6シェルターは放棄、生きてるものは第3シェルターへ急げ!」
目前に弐号機の頭部。
ミサト「……!!」
ケンスケ「弐号機大破、戦闘不能!」
シンジ「加持くんは!?」
トウジ「無事や!生きとる!」
加持「はは…」
加持「…首、ついてるよな……?」
加持「………」
ケンスケ「使徒、移動開始!」
シンジ「初号機の状況は?」
オペレータ「ダミープラグ、搭載完了!」
ヒカリ「探査針、打ち込み終了!」
レイ「コンタクト、スタート!」
ヒカリ「了解!」
エラー音
レイ「何っ!?」
ヒカリ「パルス消失、ダミーを拒絶、だめです!エヴァ初号機、起動しません!」
レイ「ダミーを、赤木リツコを、」
カヲル「受け入れないのか…!」
葛城「……」
葛城「渚、少し、頼む…」
男「怪我人は第6ブロックへ!」
男「無事なものは第3シェルターへ集合しろ!」
男「こっちだ!」
男「早く!」
男「急げ!」
男「早く!」
男「おい君!何をしている!死にたいのか!」
立ち尽くすミサト
ミサト「加持くん…」
アスカ「ミサト!」
ミサト「アスカさん…、どうしてここに…」
アスカ「それはこっちの台詞よ。何やってんのよ、サードチルドレン、葛城ミサト」
ミサト「もうパイロットじゃありません。…自分のために決めたんです」
アスカ「自分のため?聞いて呆れるわね…あんた逃げてるだけじゃないの」
ミサト「アスカさんこそ……何してるんですか」
アスカ「…アルバイトが公になったからね。戦闘配置に私の居場所はなくなったの。だからここで水を撒いてるってわけ」
ミサト「だからここで?意味が分かりません」
アスカ「分からない?何してたって同じってことよ。エヴァが負ければみんな死ぬんだから」
ミサト「……みんな、死ぬ…」
アスカ「そうよ。使徒がここの地下に眠るアダムと接触すれば、人は全て滅びる…サードインパクトで」
アスカ「あたしはここで水を撒くことしかできない…あんたは違うでしょ?」
アスカ「使徒を止められるのは、使徒と同じ力を持つエヴァンゲリオンだけ」
ミサト「リツコっ!?ライフルも持たずに!」
レイ「やめなさいっ!!」
葛城「リツコ!」
リツコ「A.T.フィールド、全開…!」
爆発。
ミサト「うっ!……!」
トウジ「零号機は…!」
爆煙の中から、使徒
零号機の頭部を切り落とす
シンジ「リツコちゃんっ!」
レイ「何てこと…!」
アスカ「後悔なんて誰だってするわよ。誰だって今が一番辛いの。時間は巻き戻せない、一瞬一瞬を積み重ねたものが人の歴史なのよ」
アスカ「選択できるのは「今」だけ…」
アスカ「その一瞬で何を選択するか……少なくともそれで、未来(さき)の後悔は変えられるわ」
ミサト「……」
アスカ「あんた本当に後悔しないの?こんなところに突っ立ってて」
ミサト「………!」
ケンスケ「第三基部に、直撃!」
トウジ「最終装甲版、融解!」
シンジ「まずい、メインシャフトが丸見えだ…!」
レイ「初号機はまだなの!?」
オペレータ「ダミープラグ、拒絶」
オペレータ「だめです、反応ありません!」
葛城「続けろ。もう一度108からやり直せ」
ミサト「乗せてください!」
ミサト「私を、私をこの……っ、初号機に乗せてください!」
葛城「……!」
ミサト「お父さん…」
葛城「…なぜ帰ってきた」
ミサト「私は…!」
ミサト「私は、エヴァンゲリオン初号機のパイロット、葛城ミサトです!」
ケンスケ「目標は、メインシャフトに侵入、降下中です!」
シンジ「目的地は!?」
トウジ「そのまま、セントラルドグマへ直進!」
シンジ「ここに来る…!総員待避!急いで!」
トウジ「総員待避!繰り返す、総員待避!」
目前に迫る使徒。
シンジ「……!」
突進する初号機
シンジ「エヴァ初号機!?…ミサトちゃん!?」
ミサト「ぐ…っ!」
ミサト「ああああああっ!」
拳を振り上げる初号機。腕を切断される
ミサト「……っ、あああああああ!」
射出リフトに使徒を追いやる。
ミサト「シンジさんっ!」
シンジ「5番射出、急いで!」
ミサト「あああああっ!」
ミサト「やあああああ!」
絶叫し使徒を撲つ。
突如、停止する
ミサト「エネルギーが切れた!?」
ヒカリ「初号機、活動限界です!予備も動きません!」
シンジ「ミサトちゃん…!」
刻まれ、爆撃を受ける初号機。
シンジ「ミサトちゃん!!」
ミサト「動け、動け、動け!動け、動いてよ!今動かなきゃ、何にもならないのよ!」
シンジ「あれは…っ」
露呈したコア。
ミサト「動け、動け、動け!動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動きなさいよ!」
ミサト「今動かなきゃ、今やらなきゃ……みんな死んじゃうのよ…!もう…もうそんなのは、嫌なの…!」
ミサト「だから……動いてよ…っ!!」
鼓動。
覚醒する初号機。攻撃を受け止める
アスカ「……!」
ヒカリ「エ、エヴァ、再起動…」
使徒の部品を押し当てる。腕を再生。
シンジ「すごい…」
ヒカリ「まさか…信じられません、初号機のシンクロ率が400%を超えています!」
レイ「目覚めたのね……彼女が」
咆哮する初号機。使徒を圧倒する
シンジ「使徒を……食べてる…」
レイ「S2機関を自ら取り込んでいるというの…?エヴァ初号機が…」
ヒカリ「……うぅっ!」
レイ「拘束具が…!」
トウジ「拘束具?」
レイ「そうよ…あれは装甲板ではないの。エヴァ本来の力を私たちが押え込むための、拘束具」
レイ「その呪縛が今、自らの力で解かれていく…私たちにはもう、エヴァを止めることはできない…」
アスカ「……初号機の覚醒と開放。こーなりゃゼーレが黙っちゃいないわよ」
アスカ「これもシナリオの内?……葛城司令殿」
カヲル「始まってしまったね…どうする?」
葛城「最善を尽くす…選ぶ道はひとつだ」
拾九話分終わり
シンジ「使徒を……食べてる…」
レイ「拘束具が、今自らの力で解かれてゆく。私たちにはもう、エヴァを止める事はできない…」
アスカ「初号機の覚醒と開放。こーなりゃゼーレが黙っちゃいないわよ?」
ゼーレ「エヴァシリーズに生まれいずる筈のないS2機関」
ゼーレ「まさかかのような手段で自ら取り込むとはな」
ゼーレ「我らゼーレのシナリオとは大きく違った出来事だよ」
ゼーレ「この修正、容易ではないぞ」
ゼーレ「葛城。あの男にネルフを与えたのがそもそもの間違いではないのかね?」
キール「だがあの男でなければ、全ての計画の遂行はできなかった。葛城、何を考えている?」
カヲル「始まってしまったね…どうする?」
葛城「最善を尽くす…選ぶ道はひとつだ」
ヒカリ「エヴァ両機の損傷は、ヘイフリックの限界を超えています」
レイ「時間がかかるわね。全てが戻るには」
ヒカリ「幸い、MAGIシステムは移植可能です。明日にも作業を開始します」
レイ「でも、ここはだめね」
ケンスケ「破棄決定は、もはや時間の問題だな」
レイ「そうね…とりあえずは、予備の第2発令所を使用するしかないわね」
ヒカリ「MAGIはなくとも、ですか?」
レイ「…そうね。埃を払って、午後には仕事を始めるわ」
ヒカリ「椅子はきついし、センサーは硬いし、やりづらいのよね…ここ」
ケンスケ「見慣れた第1発令所と造りは同じなんだがな」
ヒカリ「違和感あるわよね」
レイ「使えるだけでも良しとしましょう」
レイ「使えるかどうか分からないのは、初号機ね…」
拘束された初号機
シンジ「…何か反応は?」
トウジ「内部に熱、電子、電磁波ほか、化学エネルギー反応無し。S2機関は完全に停止しとる」
シンジ「にもかかわらず、この初号機は3度も動いた…」
シンジ「目視できる状況だけじゃ、迂闊に触れないね」
トウジ「……」
トウジ「迂闊に手ェ出すと何されるか分からん。…まるでセンセを尻に敷いとる、あの女やな」
シンジ「…トウジも、人のこと言えるの?」
トウジ「なんやとっ!」
キール「だが事態はエヴァ初号機の問題だけではない」
ゼーレ「さよう、零号機と弐号機の大破、本部施設の半壊、セントラルドグマの露呈。被害は甚大だよ」
ゼーレ「われわれがどの程度の時と金を失ったか、見当も付かん」
ゼーレ「これも、葛城の首に鈴を付けておかないからだ」
ゼーレ「鈴は付いている。ただ、鳴らなかっただけだ」
キール「鳴らない鈴に意味はない。今度は鈴に動いてもらおう」
アスカ「…どーなってんのよ?この展開は」
アスカ「ゼーレにどう言い分けつけるつもり?」
カヲル「……初号機はわれわれの制御下ではなかった。これは不慮の事故だよ」
葛城「よって初号機は凍結。委員会の別命あるまでは、だ」
アスカ「あくまで演じ通すってわけね…。いいわ。でもどうするの?パイロットは取り込まれたままなのよ」
葛城「……」
ヒカリ「やはりだめです、エントリープラグ排出信号、受け付けません」
レイ「予備と疑似信号は? 」
ヒカリ「拒絶されています。 直轄回路もつながりません」
トウジ「プラグの映像回線が繋がった。主モニターに廻す」
シンジ「……何だ、これ……!」
レイ「…これがシンクロ率400%の正体」
シンジ「そんな……!ミサトちゃんは一体…!?」
レイ「…エヴァ初号機に取り込まれてしまったのよ」
シンジ「……!」
シンジ「……何だよそれ…どういうことなの? エヴァは対使徒用の、決戦兵器なんじゃなかったの!?」
シンジ「あの時南極で拾った……それをコピーした、人が戦うために作った兵器なんじゃ…」
レイ「ただのコピーとは違うわ。人の意思が込められているもの」
シンジ「これも誰かの意思だって言うの…?」
レイ「……あるいは、エヴァの」
シンジ「!」
シンジ「…なんだよそれ…!エヴァって何なんだよ…!」
レイ「…人の作り出した、人に近いカタチをした物体、としか言いようがないわ」
シンジ「……」
テレビ(ラジオ)「…であり、南沙諸島の問題に対し、政府と内務省はこれを公式に否定しました」
テレビ(ラジオ)「次のニュースです。第2東京市で起きたセクトによるテロ事件から一ヶ月が過ぎた今日、新たなテロ行為に対し再発防止を第一に政府による…」
リツコ「…まだ生きてる…」
(通話)
加持「リッちゃんが無事?それは…よかった…俺は大丈夫、ああ、大したことないよ、それじゃあ」
加持「…大したことないか…」
加持「弐号機、大破…」
加持「……」
加持「…荷が重いな…」
シンジ「ミサトちゃんのサルベージ計画?」
レイ「そう。ミサトちゃんの生命と言うべき物は、まだ存在しているわ」
シンジ「言うべき物?」
ヒカリ「ミサトちゃんの肉体は、自我境界線を失って、量子状態のまま、エントリープラグ内を漂っていると推測されます」
シンジ「つまり…ミサトちゃんは僕たちの目では確認できない状態に変化している?」
ヒカリ「そう。プラグの中のL.C.L.成分は、化学変化を起こし、現在は原始地球の海水に酷似していて…」
レイ「言うなれば、生命のスープね」
レイ「ミサトちゃんを構成していた物質は、すべてプラグ内に保存されているし、魂と言うべき物もそこに存在している」
シンジ「……なぜそう言い切れるの?」
レイ「現に彼女の自我イメージが、プラグスーツを擬似的に実体化させているわ」
ヒカリ「つまりサルベージとは、彼の肉体を再構成して精神を定着させる作業です」
シンジ「そんな事が可能なの?僕たちの力で」
レイ「MAGIのサポートがあればね」
シンジ「……」
レイ「結果どうなるかは……やってみなくては分からないわ」
ミサト「…なに、これ…?どこなの…?エントリープラグ?初号機の?…でも誰もいない。私もいない…」
ミサト「なに…これは…?よく分からない…」
ミサト「この人達…そう、私の知っている人たち、私を知っている人たち」
ミサト「そうか、みんな私の世界なんだ」
ミサト「これは? 私の世界のはずなのに、よく分からない、外からのイメージ、嫌なイメージ」
ミサト「そうよ、敵!」
ミサト「敵、テキ、てき、敵!使徒と呼ばれ天使の名を冠する私たちの敵!」
ミサト「エバの…そしてネルフの目標…シンジさんの両親の仇…」
ミサト「なんで私が戦うんだろう…こんな目に遭ってまで…」
(アスカ「誰かのためってのは聞こえはいいけど、心情的には見返りを求めるものよ」)
ミサト「自分のため……自分のため?」
ミサト「私はこんなに傷ついているのに……」
ミサト「敵、テキ、てき、敵、みんな敵!私を…私たちを脅かすもの、つまり敵」
ミサト「そうよ、自分の命を……心を守って、何が悪いのよ!いいことじゃないの!」
リツコ「いい子でいたいの?」
ミサト「何よ!私と母さんを捨てたくせに!」
リツコ「あなたが逃げ出したんでしょう?」
ミサト「違う、違う、違う、違う!お父さんが捨てたのよ!日向くんを傷つけたのよ、お母さんを殺したのよ!」
リツコ「お母さんが、あなたを殺していたんじゃないの?」
ミサト「嫌……っ!」
母「ミサト……ミサトはお母さんの味方よね…?」
母「ひどい…、ひどいわ…何も分かってないのよ、あの人は」
母「家庭より仕事を取ったのよ!愛してないんだわ、私たちのことを」
ミサト「……」
母「あなただけは、お母さんの味方よね?」
母「あなたがいてくれれば……他になにもいらないの」
母「ミサト…!」
リツコ「だから嫌いなの?」
ミサト「そうよ……父も母も嫌い。自分だけがかわいいのよ」
リツコ「だから逃げ出したのね」
ミサト「一人になって当然よ!お父さんは私たちを愛してなかったんだから!」
リツコ「だから私を愛すの?」
ミサト「そうよ!実の子が恐いから…!他の子で誤魔化してるのよ」
リツコ「あなたは違うの?」
ミサト「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!お父さんがみんな悪いんじゃないの!あの時だって、ほんとはお父さんに嫌いだって言うつもりで…!」
ミサト「私に…これに乗って戦えって言うの?さっきの化け物と!」
葛城「…そうだ」
ミサト「……いやよっ!そんなの……!何?なんでそうなるのよ、今更、いまさら……私を捨てたんじゃなかったの!!?」
葛城「……捨てた覚えはない」
ミサト「なぜ、私なの?」
葛城「お前にしかできないことだからだ」
ミサト「……無理よ…っ!そんなの…見たことも、聞いたこともないのに、できるわけない!」
ミサト「そう、私は何も知らなかった」
ミサト「それなのに、飛び込んだのよ」
ミサト「エバに乗ることを選んだ」
ミサト「お父さんに近づきたかったから…」
アナウンス「現在、L.C.L.の温度は36を維持、酸素密度に問題なし」
アナウンス「放射電磁パルス異常無し。波形パターンはB」
アナウンス「各計測装置は正常に作動中」
ヒカリ「サルベージ計画の要綱、たった一ヶ月でできるなんて。さすが綾波さんね」
レイ「原案は私じゃないわ…先生が残したものに手を加えたの。10年前に実験済みのデータよ」
ヒカリ「そんなことがあったの?エヴァの開発中に?」
レイ「私が入ってすぐの出来事よ」
ヒカリ「…その時の結果は…?」
レイ「……失敗」
ミサト「冷たい…さびしい…」
ミサト「おかしいな。…前は一人でも平気だったのに」
リツコ「サビシイってなに?」
ミサト「一人が嫌ってこと。誰かといたいってことよ」
リツコ「シアワセってなに?」
ミサト「好きってこと。心が満たされることよ」
リツコ「誰かと一緒にいれば、幸せ?」
ミサト「……分からない。お母さんといるときは…息苦しかったから」
母親の遺体の前に立つミサト
ミサト「死を悲しめない自分がいるのよ」
ミサト「切り離されてほっとしている自分がいる」
ミサト「…でも、自分からは逃げられない」
(葛城「お前自身から逃げられない」)
ミサト「自分のために優しくしてきたわ!」
ミサト「自分のためにいい子でいた!」
ミサト「なのに……なぜなの?」
ミサト「嬉しくないのね」
ミサト「嬉しくないわよ」
ミサト「こんな……偽物の自分…」
ミサト「自分なのか分からない自分…」
ミサト「誰か…」
ミサト「汚して!」
ミサト「めちゃくちゃにしてよ!」
日向「意外だったな…葛城さんにこんな一面があったなんて」
シンジ「かわいいよ、ミサトちゃん」
加持「魅力的だよ」
ミサト「気持ち、いいの?」
日向「気持ちいいよ」
ミサト「気持ち、いいの?」
シンジ「気持ちいいよ」
ミサト「気持ち、いいの?」
加持「君は最高だ…」
日向「君が必要なんだ」
シンジ「君が必要だよ」
加持「君しかいらない…君だけでいい」
リツコ「嘘ね」
ミサト「はっ」
リツコ「一時の感情に身を任せて、刹那的に自分を傷つけているだけよ。罰を与えて、誤魔化しているだけ」
ミサト「それの何がいけないのよ!私は汚れたいの!もういい子は嫌…!私はあんたじゃないのよ!!」
リツコ「私はいい子じゃないわよ?」
(加持「涙の通り道にほくろのある人は…」)
(加持「ま、俺ならそんな思いはさせないが」)
(アスカ「あたしにとってのシンジ?…それが分かりゃあ、苦労しないわよ」)
シンジ「アスカは特別なんだ」
加持「笑った顔が見たい」
ミサト「やめて!!!やめてよ!!!!私だけを見て!」
ミサト「私だけを愛してよ…!」
日向「愛しているよ」
シンジ「愛してるよ」
加持「………」
葛城「お前の居場所はない」
ミサト「ひ…っ!」
オペレータ「全探査針、打ち込み終了」
オペレータ「電磁波形、ゼロマイナス3で固定されています」
ヒカリ「自我境界パルス、接続完了」
レイ「了解、サルベージ、スタート」
トウジ「了解、第1信号を送信」
ケンスケ「エヴァ、信号を受信。拒絶反応無し」
ヒカリ「続けて、第2、第3信号送信開始」
オペレータ「対象カテクシス異常無し」
オペレータ「デストルドー、認められません」
レイ「了解、対象をステージ2へ移行」
シンジ「…ミサトちゃん…!」
ミサト「はっ」
(加持「葛城!」)
ミサト「はっ!」
(シンジ「ミサトちゃん!?」)
ミサト「はっ!」
(マヤ「あら、葛城さん!」)
ミサト「はっ!」
(リツコ「ミサト!」)
ミサト「はっ!」
(日向「葛城さん」)
(青葉「葛城~!」)
(レイ「ミサトちゃん?」)
(加持「お姫さま」)
(シンジ「ミサトちゃん…」)
(日向「葛城さん?」)
(リツコ「ミサト」)
(レイ「ミサトちゃん!」)
(マヤ「葛城さん?!」)
(青葉「葛城?」)
(加持「おい、葛城!」)
(日向「あっ、葛城さん!」)
(リツコ「ミサト」)
(シンジ「ミサトちゃん!」)
(加持「葛城!」)
(日向「葛城さん!」)
ヒカリ「だめです、自我境界がループ上に固定されています!」
レイ「全波形域を全方位で照射してみて!」
レイ「だめね…発信信号がクライン空間に捕われている…」
シンジ「どういう事?」
レイ「つまり、失敗」
シンジ「えっ…」
レイ「干渉中止、タンジェントグラフを逆転、加算数値をゼロに戻して」
ヒカリ「はい!」
ケンスケ「Qエリアにデストルドー反応、パターンセピア」
トウジ「コアパルスに変化あり!プラス0.3を確認!」
レイ「現状維持を最優先、逆流を防いで!」
ヒカリ「はい!」
ヒカリ「プラス02…0.8、変です!塞き止められません!」
レイ「これは…なぜ…帰りたくないの?ミサトちゃん…」
ミサト「分からない、分からない…私は…私は…」
シンジ「何を願うの?」
加持「何を、願う?」
日向「何を願うの?」
葛城「何を願う?」
ヒカリ「エヴァ、信号を拒絶!」
ケンスケ「L.C.L.の自己フォーメーションが分解していきます!」
ケンスケ「プラグ内、圧力上昇!」
レイ「現作業中止、電源落として!」
ヒカリ「だめです、プラグがイクジットされます!」
溢れ出るL.C.L.
シンジ「ミサトちゃん!!!」
ミサト「はっ…」
ミサト「ここは…」
ミサト「エバの中よ」
ミサト「エバの中?私はまたエバに乗ったの…?どうして…」
シンジ「もうエヴァには乗らないの…?」
ミサト「破棄してください。パスコードも、部屋の荷物も…」
アスカ「でもあんたは乗った。エヴァンゲリオン初号機に」
ミサト「はっ!」
アスカ「一瞬一瞬の積み重ねなのよ、人の歴史は」
シンジ「僕らは人を守るのが仕事で…君もその一人なのに」
アスカ「後悔しないの?そんなとこに突っ立ってて」
シンジ「僕たち大人を……恨んでくれてかまわない」
アスカ「あんた逃げてるだけじゃないの」
シンジ「ごめんね……勝手な大人ばかりで」
アスカ「サードチルドレン!」
シンジ「この先…立ち向かえない現実があったとしても……君自身のことは、嫌いにならないでほしい」
ミサト「……シンジさん!」
シンジ「う…っ、う、ぅ……!」
シンジ「何が科学だよ……!…人一人、助けられなくて…!」
シンジ「返してよ…!ミサトちゃんを…!」
シンジ「返してよ…っ」
ミサト「匂い…人の匂い…」
ミサト「シンジさん…?」
ミサト「リツコ…?」
ミサト「いや、違う…」
ミサト「そうだ、お母さんの匂い…」
母「……ふふ、可愛いわね、きっと世界で一番、可愛い子よ…」
葛城「ああ…そうだな」
ミサト「お母さん…」
母「抱いてあげて?」
葛城「…抱き方が分からない」
母「こうするの…ほら」
母「優しく…」
母「支えてあげるのよ」
母「あなたにもできるわ」
母「ほら…」
葛城「……」
ミサト「……お父さん」
パシャッ
シンジ「…!」
シンジ「…ミサトちゃん!」
カーラジオ「そりゃ分かるんだけど、オーラルステージの…心理学者が…つまり、母親といつまでも一緒にいたがる… 」
レイ「初号機の修復、明後日には完了するわ」
シンジ「結局、めでたしめでたしか…。科学…人間は不滅なのかもしれないね、神様の力まで利用しちゃうんだから…」
レイ「…どうかしらね…。委員会では凍結案も出ているそうよ」
シンジ「不安要素が大きすぎるって?今さらだよ…やめるんなら初めから手を出すべきじゃなかったんだ」
レイ「……」
シンジ「人造人間、エヴァンゲリオン……ミサトちゃんが助かったのも、エヴァの意思かな?それとも、人の力?」
レイ「少なくとも……私の力じゃないわ、あなたの存在が大きかったんじゃないかしら。彼女の深層心理において」
シンジ「僕が?」
レイ「人は傍らの存在に温もりを感じるものよ。それにあなたは…愛を持って彼女に接してる。影響がなかったとは思えないわ」
シンジ「そうかな…?なんだか綾波にそう言われると、照れるな…」
レイ「素直な感想よ。感謝してるの、あなたにも…ミサトちゃんにも」
シンジ「綾波……」
レイ「一杯奢らせてくれない? サルベージ成功のお祝いに」
シンジ「あ…」
レイ「?」
シンジ「…ごめん!今日は、…約束があって」
レイ「そう… 」
シンジ「それじゃ…!」
レイ「……あれだけ泣いていたのに」
レイ「ミサトちゃんが無事だと分かったら、今度はアスカのところか…」
レイ「……」
レイ「忙しい人ね…」
アスカ「あいつは今ごろ、いやらしい女だって軽蔑してるわね。きっと…」
シンジ「誰…っ、あいつって…」
アスカ「…馬鹿ね。さすがにあいつに同情するわよ…」
シンジ「…あ、アスカ、もう…っ」
アスカ「だーめ。あんたまだ言ってないでしょ?」
シンジ「…言えないよ…!こんな、ところで…っ」
アスカ「あたしには言わせたクセに」
アスカ「人類補完計画…人を滅ぼすアダム…あんたの知らないこと、ほらぁ…聞き出しなさいよ、それが仕事でしょ?」
シンジ「アスカ…っ、言わないでよ。信じるから。僕はアスカを信じるって、決めたから…」
アスカ「……」
シンジ「……もう危険な橋を渡るのはやめてよ…アスカ」
シンジ「まだやめてなかったんだ…たばこ」
アスカ「だったら何?もうお小言はウンザリよ、耳にタコ」
シンジ「体に悪いのに…」
アスカ「……こういう事のあとにしか吸わないんだから、セーフよ」
アスカ「それともなぁに?シンちゃん、物足りなかったのかな?」
シンジ「あ、アスカ…!」
アスカ「……。…あんたってホンットに、昔っからこういうとこは…」
アスカ「……んっ」
ベッドが軋む音
シンジ「!」
シンジ「ちょっ…!アスカ…!」
アスカ「…あによ?こっちイジられんのも、好きなくせに…」
シンジ「やめてよ……変なもの入れないでよ」
シンジ「……? なに、これ」
アスカ「プレゼントよ、8年ぶりの」
シンジ「?」
アスカ「最後かもしれないから。…大事にしまっときなさいよ」
弐拾話分終わり
続き
シンジ「君が、葛城ミサトちゃんだね」【後編】