ロボ「No.4ロケットは希望という木星行き」
ロボ「進路異常なし」
ロボ「速度異常なし」
ロボ「船内環境良好」
ロボ「現在、船内時間午前7時」
ロボ「本日もよい日になりましょう」
ロボ「おはようございます、お嬢様」
少女「おはよう、サイファー」
元スレ
ロボット「No.4ロケットは希望という木星行き」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1272885060/
ロボ「本日もお嬢様にとって素晴らしい日でありますように」
少女「ありがとう。サイファー、あなたにもね」
ロボ「星空も今日は一段と輝いております」
少女「そうかしら。違いがよくわからないわ」
ロボ「きっと起きられて間もないからだと思われます」
ロボ「すぐに洗面ルームに向かわれては」
少女「そうするわ」
少女「インセンクルは、いるかしら??」
ロボ「はい、こちらに。お嬢様」
少女「今日もお願いするわ」
ロボ「承知いたしました」
シュイーン
フキフキ
少女「歯磨きも、ね」
ロボ「はい。では口をお開きください」
少女「あー」
ロボ「すぐに洗浄いたします」
ゴボボボ…
少女「もごもごむが」
ロボ「洗浄中に声を出されないよう」
少女「もごもご」
ロボ「…なんですか??」
少女「ねえインセンクル、歯磨き粉の味が気に入らないわ」
ロボ「ではどのような味がご希望ですか??」
少女「そうね、クリームたっぷりのパフェの味がいいわ」
ロボ「承知いたしました。近日中に別のロケットから取り寄せさせます」
少女「ちなみに、この味はなんなの??」
ロボ「烏賊味でございます」
少女「なんだか気分が悪いわ」
ロボ「洗浄中に声を出されるからです、お嬢様」
少女「次は髪を結ってちょうだい、インセンクル」
ロボ「承知いたしました」
少女「…いたいわ、インセンクル」
ロボ「は、申し訳ありません。お嬢様」
少女「ちゃんと左右非対称にしてちょうだい」
少女「もっと右側を大きめに、よ」
ロボ「承知いたしました」
少女「これぞアシンメトリーよ!!」
ロボ「…そうでしょうか」
少女「トイレも済ませたし、おなかがすいたわね」
少女「ゴードンはどこ??」
ロボ「ウイ、ココニ」
少女「朝食の準備はできているかしら??」
ロボ「ウイ、準備万端デゴザイマス」
少女「今日はなに??」
ロボ「トースト、ハムエッグ、オレンジジュース、サラダ、デゴザイマス」
少女「ありがとう」
少女「いただきます!!」
ロボ「オ嬢様、ナイフハ右手ニオ持チクダサイ」
少女「こう??」
ロボ「振リ回サナイデクダサイ」
少女「ゴードン、今日もおいしいわ」
ロボ「アリガトウゴザイマス」
少女「でもあなたの言葉はなんだか変ね」
ロボ「言語プログラムガ少々狂ッテキテイマスノデ、ウイ」
少女「そう、早めに直してもらいなさい」
ロボ「ウイ」
ロボ「オ嬢様モ、髪型ガ少々変デゴザイマス」
少女「これはこれでいいのよ」
ロボ「早メニ直シテモラッタ方ガ…」
少女「うるさいわね」
ロボ「ナイフヲ振リ回サナイデクダサイ」
少女「ごちそうさま」
カチャリ
ロボ「お嬢様、コーヒーでございます」
少女「あら、マリア・ロウ。早いわね」
ロボ「砂糖は3つでよろしいですか??」
少女「ええ、そうしてちょうだい」
少女「…新しい味ね」
ロボ「本日は英国の貴重な豆を手に入れましたので、試飲ということで」
少女「英国は紅茶の国ではなかったかしら??」
ロボ「細かいことは気にしてはいけませんわ、お嬢様」
少女「英国は6年も前に消滅したのではなかったかしら??」
ロボ「細かいことは気にしてはいけませんわ、お嬢様」
少女「あなたは完璧のようで、いつもなにか抜けているわね、マリア・ロウ」
ロボ「何ごとにも穴というものはつきものでございますわ」
少女「ロボットがそれを言うの??」
ロボ「また、殿方も完璧な女性よりも、欠点のある女性を好む傾向がありますわ」
少女「あなたロボットでしょう??」
ロボ「愛に人種の壁は存在しないのですわ」
少女「…そうね。限度ってものがあるけれどもね」
ビシャア
ロボ「ああっ申し訳ございません、お嬢様」
少女「…濡れたわ」
少女「…熱いわ」
ロボ「すぐに新しいコーヒーをご用意しますわ!!」
少女「マリア・ロウ、それより服を」
ロボ「さあ、新しいコーヒーですわ」
少女「服を」
ロボ「この豆は旧英国から取り寄せた貴重な」
少女「早く服を」
ロボ「いかがでしたか??ドジっ子というものを取り入れてみました」
少女「まるで萌えないわね」
ロボ「それはお嬢様が女性だからでございますわ」
ロボ「一般的な殿方でしたら、それはもうメロメロでございます」
少女「ドジ以前に、人間的というか道徳的に問題があると思うのだけれど」
ロボ「御冗談を。私はロボットですよ、お嬢様」
少女「…そうだったわね」
少女「この濡れた服をどうしようかしら」
ロボ「…」
少女「あら、デントロイカ」
ロボ「本日の宇宙ニュースです」
少女「それより服を着替えたいのだけれど」
ロボ「船内時間午前3時~5時頃、ビュートリッヒ流星群が軌道上を通過しました」
少女「服を…」
ロボ「ですが、現在の進路には問題はありません」
少女「もう、デントロイカは堅物なんだから」
ロボ「それから地球の方で、何やら暴動があったようです」
少女「自分で探すわ」
ゴソゴソ
少女「もう、可愛い服が残ってないわ」
ロボ「『方舟』に乗ろうとチケットの奪い合いになっているようです」
少女「…これでいいか」
ロボ「また、先遣隊からの報告ですが」
ロボ「木星の住民との交渉が難航しているようで、着いてすぐには地上に降りられないかもしれません」
少女「いいわよ、どうせ着くのはずっと先なんだから」
ロボ「以上、宇宙ニュースでした」
少女「はい、ありがとう」
ロボ「…失礼、ニュースが残っていました」
少女「??」
ロボ「昨日、地球で初めてカッパが捕獲されたようです」
少女「カッパってなあに??」
ロボ「日本という国にいるモンスターです」
少女「モンスターを捕獲したの??サムライもやるじゃない」
ロボ「姿は半魚人に近いそうです」
少女「気持ち悪いわね」
ロボ「ですが、サムライはカッパを米で巻いて食べる習慣があり…」
少女「初めて捕獲したんじゃないの!?」
ロボ「ミステリーですね」
少女「ミステリーね」
ロボ「お嬢様、読書のお時間でございます」
少女「ミライヲ」
ロボ「本日はどの本を読まれますか??」
少女「あなたのお勧めはどれ??」
ロボ「こちらでございます」
少女「…秘密の花園」
ロボ「ええ。とても教養が養われることと思います」
少女「少女は、濡れそぼった花弁にそっと指を這わせ」
少女「まだ花開かない、小さな芽を愛で続けた」
ロボ「…」
少女「花弁があるのに、花開かないとはどういうことなの??」
ロボ「あるのに、ない。ないのに、ある」
ロボ「精錬された文章というものは、その二律背反によって構成されることが多く」
ロボ「教養を養うには絶好といえます」
少女「よくわからないわ、ミライヲ」
ロボ「たくさん読めば、いずれわかりますわ。お嬢様」
少女「花唇のなかを泳ぐ指の動きは、次第に熱を帯び」
少女「花に唇なんてあったかしら」
ロボ「ある、と想像することで想像力が養われます」
少女「本当はないけど、あると想像するのね」
ロボ「そういうことでございます」
少女「泳ぐといえば海かプールと相場が決まっているわ」
ロボ「世の中の物事を自分の常識だけで考えてはいけませんわ」
少女「なるほど、勉強になるわね」
ロボ「本日の読書はこれくらいになさいませ」
少女「ええ、そうするわ」
ロボ「ごきげんよう」
少女「ミライヲ、ところであなたの読んでいた本はなあに??」
ロボ「これですか」
ロボ「もてふわガール特集、という雑誌ですわ」
少女「もてふわ??どういう内容なの??」
ロボ「お嬢様にはまだ早いですわ」
少女「そう、じゃあ大人になったら読むことにするわ」
ロボ「そうなさいませ」
ロボ「お嬢様、No.3ロケットから交信が入っております」
少女「ティンバー・ベル、つないでちょうだい」
ロボ「ただいま」
ガガガ…
『こちらNo.3ロケット。応答願います』
少女「こちらNo.4ロケット」
『No.4ロケット、そちらの状況は』
少女「異状なしよ。そちらは??」
『異状なしであります』
少女「お父様の乗っているNo.2ロケットの通信機器はまだ回復しないの??」
『現在調査中ですが、肉眼で確認できる範囲を飛行中ですので問題はないかと』
少女「そう。それはよかったわ」
少女「お母様の乗ったNo.1ロケットはどうかしら」
ロボ「昨日交信したではありませんか」
少女「そうだったかしら」
ロボ「それに奥様は灰ですので、会話はできないかと」
少女「そうね」
『また明日に、交信します』
少女「ええ、御苦労さま」
ロボ「お嬢様、顔色が良くないですね」
少女「ティンバー・ベル、お気づかいは無用よ」
ロボ「ですが…」
少女「ありがとう、大丈夫だから」
ロボ「…差し出がましいことを、申し訳ありませんでした」
少女「いいの」
ロボ「奥様のことは、本当にお気の毒でした」
少女「いいのよ、ティンバー・ベル」
少女「お母様も一緒に、木星へ向かえたらどんなに良かったことか」
少女「あんなことさえなければ…」
ロボ「そうですね」
少女「…もうこの話はよしましょう」
ロボ「ええ」
ロボ「もしまた通信が入りましたら、ご連絡いたします」
少女「ありがとう。よろしくね」
ロボ「ふん!!ふん!!ふん!!」
少女「あら、クロッツェル」
ロボ「よう、嬢ちゃん。そろそろ運動の時間じゃあないかい??」
少女「もうそんな時間??」
ロボ「宇宙空間じゃあ体が資本だぜ。トレーニングしとくに越したことはない」
少女「でもあなた、ロボットじゃないの」
ロボ「ロボットだって、頑張れば筋肉がつくんだぜ」
少女「本当に!?」パアアア
ロボ「ああ!!気合だ!!」グッ
少女「気合いね!!」グッ
少女「今日はなにをするの??クロッツェル」
ロボ「それは運動ルームに行ってみればわかるさ」
少女「なにか道具を使うの??」
ロボ「ああ」
少女「器械体操かしら??」
ロボ「違うね」
少女「マット運動??」
ロボ「残念」
少女「水泳??」
ロボ「プールなんてついてないだろ」
少女「そうね」
ロボ「じゃーん!!今日はこれだ!!」
少女「なあに、これ」
ロボ「これはロデオと言って、乗馬体験ができるのさ」
少女「まあ、素敵ね」
ロボ「三角木馬でもよかったんだがな」
少女「三角木馬ってなあに??」
ロボ「なんでもない、早速やってみろ」
ウイーンウイーン
少女「きゃああああああああ!!」
ロボ「しっかりしがみつけ!!」
少女「楽しいー!!」
ロボ「手を離すな!!」
少女「やっほおー!!」
ロボ「こら!!」
…
少女「すっごく楽しかったわ、クロッツェル」
ロボ「そうか、でも俺は肝を冷やしたよ」
少女「ねえクロッツェル、あなたはどうしてそんな喋り方なの??」
ロボ「知らねえよ」
少女「普通ロボットはもっと丁寧な言葉で喋るわ」
ロボ「それならおれよりもっとヤバいやつがいるじゃねえか」
少女「…まあそうだけど」
少女「もう一回行ってくるわ」
ロボ「お、おう」
ウイーンウイーン
少女「いやあああああああああああああ!!」
ロボ「だから手を離すなって!!」
少女「クロッツェルが逆さに見えるー」
ロボ「馬鹿!!」
少女「いやあああああああああああああ!!」
ロボ「う、うおおおおおおおおおおおお!!」
ヒューン
グシャ
ロボ「ったく」
少女「あなたの筋肉のおかげで助かったわ」
ロボ「筋肉??」
ロボ「ああ、あれは冗談だ」
少女「冗談なの!?」
ロボ「筋肉なんかあるわけないだろ」
少女「気合いは!?」
ロボ「ねえよ」
少女「じゃああなた、一体どうやって動いてるの??」
ロボ「電気だよ」
少女「嘘吐いたのね」
ロボ「まさか信じるとは思わなかったんだよ」
少女「あなたはいつも電気で動いてるの??」
ロボ「そうだよ」
少女「じゃあ私はどうやって動いてるの??」
ロボ「知らねえな」
ロボ「気合いじゃねえの??」
少女「気合いね!!」グッ
少女「ああ、疲れた」
少女「お昼はまだかしら…」
少女「外でも覗きましょう」
…
少女「変わり映えのしない宇宙空間ね」
少女「木星にはいつ着くのかしら」
少女「…No.3ロケットが見えるわ」
少女「ふう…飽きちゃった」
ロボ「お嬢様、昼食の時間でございます」
少女「あらレイモンド、もうなの」
ロボ「船内時間正午になりました」
少女「そう、じゃあいただくわ」
ロボ「こちらに」
少女「今日はなあに??」
ロボ「オムライスとキノコのスープでございます」
少女「結構ね」
少女「もぐもぐ」
ロボ「お嬢様、あまり口いっぱいに頬張られては…」
少女「むむむいむい」
ロボ「口に食べ物を入れながらお喋りしてはいけません」
ロボ「それから肘はつかずにお召し上がりください」
少女「うるしゃいわね!!」
ロボ「飛びます、飛びます卵が」
少女「ふん」カチャカチャ
ロボ「そんなにカチャカチャと音を立ててはいけません」
少女「ああもう!!」
少女「レイモンドは口うるさいのが難点ね」
ロボ「お嬢様、言葉遣いが悪くなってきておられます」
少女「料理はとってもおいしいのに…」
ロボ「お嬢様、ケチャップが垂れております」
フキフキ
少女「んん」
ロボ「ケチャップは多かったでしょうか」
少女「ちょうどよかったわ」
ロボ「ではなぜ口周りにこんなに多量に…」
少女「ああもう、うるさいわね」
ロボ「ミステリーですね」
少女「ミステリーじゃないわよ」
ロボ「ではなぜ…」
少女「だから、もう、私の食べ方が下手糞だっていうんでしょう!!」
ロボ「お嬢様、女性が『糞』などという言葉を使ってはいけません」
少女「ええい、くそ!!」
ロボ「お嬢様」
少女「もう、料理はおいしいのにどうしてあんなに口うるさいのかしら」
少女「食べ方なんてどうでもいいでしょう」
少女「お父様に見られているわけでもないのに…」
ロボ「お嬢様」
少女「あらタナトス。もしかして聞いていたの??」
ロボ「私は何も聞いておりません」
少女「そう、安心したわ」
ロボ「食後の運動などいかがでしょうか」
少女「そうね、お願いするわ」
少女「タナトス、この衣装はなあに??」
ロボ「バレエの衣装でございます」
少女「今日はバレエをするのね??」
ロボ「そうでございます」
少女「背中が開きすぎじゃあないかしら」
ロボ「普通でございます」
少女「ん…きついのね、これ」
ロボ「普通でございます」
少女「ストッキングはないのかしら」
ロボ「ありません」
少女「どうして」
ロボ「邪魔だからでございます」
少女「そう」
少女「すーすーするわ」
ロボ「非常に結構でございます」
少女「どういう意味??」
ロボ「いえ…」
少女「タナトス、どうして今日は床が鏡になっているの??」
ロボ「フォームをしっかりと確認するためでございます」
少女「フォームといわれても、私バレエは知らないのよ」
ロボ「それらしい動きをしていただけたら、それで結構でございます」
少女「タナトス、どうしてそんなに近いの??」
ロボ「お嬢様の運動がスムーズに行えるよう、サポートするためでございます」
少女「ではその手は空にしておくべきではなくて??」
ロボ「これで録画して、あとで復習することも大切なのでございます」
少女「タナトス、だいたいで良いから教えてくださる??」
ロボ「ではもっと足をお上げください」
少女「これ以上はもう無理よ」
ロボ「ではそのままでお待ちください…」
少女「…」
ロボ「…」
少女「まだ??」
ロボ「いえ、電池の交換がまだ済んでおりませんので。もう少しお待ちを」カチャカチャ
少女「こんなところ撮らなくても」
ロボ「そういうわけにはいきません」
少女「それになんだか恥ずかしいわ」
ロボ「では顔を赤らめください。なお一層素晴らしいので」
少女「無理よ」
ロボ「では汗をもっとおかきください」
少女「そんなこと言われても」
ロボ「では霧吹きで」シュッシュッ
少女「そんなことして意味あるの??」
ロボ「ええ。なんとも素晴らしい」
少女「運動は??」
ロボ「そんなものどうだっていいじゃありませんか」
少女「ふう…あまり運動にはならなかったわね」
少女「それにしても、なんだか妙な運動だったわ」
少女「タナトスの様子も変だったし…」
少女「ああ、それにしても足が痛いわ」
ロボ「お嬢様」
少女「アリルリ」
ロボ「おやつなどいかがでしょうか」
少女「いただくわ」
ロボ「ではこちらへ」
少女「多くないかしら」
ロボ「運動の後は甘いものを食べてよいのです」
少女「そうかしら」
少女「でも今日の運動は少し微妙だったわ」
ロボ「では少し減らしましょう」
サクサク
少女「それはどうするの??」
ロボ「私が責任を持って食べることにいたします」
少女「ロボットなのにおやつを食べるの??」
ロボ「背に腹は代えられませんわ」
少女「その使い方は正しいのかしら」
ロボ「さあ、どうなんでしょう」
少女「ふぅ…なんだか物足りないわ」
ロボ「ではこちらもお召し上がりください」
少女「これはさっき減らした…」
ロボ「いえ、あれは食べてしまいましたので別のものを」
少女「切り口がさっきのと同じよ」
ロボ「いいえ、違います」
少女「なぜ認めたくないのかしら」
ロボ「…」
少女「どうしてあなたは、こう、素直じゃないのかしらね」
ロボ「そんなロボットもいるのです」
少女「ふうん」
ロボ「お嬢様、最近少しお太りになられたようですね」
少女「…そう…かしら」
ロボ「ふっくらとしてきたように見えます」
少女「アリルリ、もう少し考えてから言葉を選んでちょうだい」
少女「私も一応女性なのよ」
ロボ「では…」
ロボ「お嬢様、最近少し服がきつそうですね」
少女「もうちょっと考えてから!!」
ロボ「…」
ロボ「お嬢様、最近足音がよく響くようになりましたね」
少女「ああ、もう!!」
少女「失礼だわ、アリルリったら」
少女「…決まった時間以外にも運動をすることにしようかしら」
少女「それとも…おやつの量を減らそうかしら」
ロボ「ヒャッハァー!!」
ロボ「楽しい楽しいお昼寝の時間がやってきたぜえー!!」
少女「…その乱暴な言葉遣いは、ナイトメアね」
少女「お昼寝の時間だっていうのに今日も騒がしいわね」
ロボ「さあ、今日も最悪で最低な悪夢を見るがいいぜ、ロンリービッチ!!」
少女「あなたを見ていると、それはずいぶん簡単そうに思えるわ」
ロボ「さあ、今日はどんな悪夢がいいんだい??」
少女「まず悪夢自体がゴメンだわ」
ロボ「そうだなあ…」
ロボ「握った短剣で赤ん坊とその母親を切り刻む夢なんてどうだい」
少女「遠慮するわ」
ロボ「砂漠でひとり干からびていくのは」
少女「ダメ」
ロボ「じゃあ浴槽の中で縛られたまま、少しずつ水が溜まっていく夢は」
少女「嫌よ」
ロボ「水の代わりに血が溜まっていくのもありだな…」
少女「ナシよ」
ロボ「精神を侵されそうな動画を流し続けるパソコンの前から離れることを許されないってのはどうだ」
少女「嫌よ」
ロボ「意外と現実的だぜ??」
少女「まあ、確かにそうね」
ロボ「じゃあそれにしやがれ」
少女「嫌よ、私はもっと健全な夢が見たいわ」
ロボ「健全ってどんなのだよ」
少女「そうね」
少女「血が出なくて、誰も死なない夢よ」
ロボ「じゃあ、いつも通り、あれでいいな」
少女「あれって…なんだったかしら」
ロボ「お前が男になって、男に犯され続ける夢」
少女「冗談じゃないわ!!」
ロボ「この夢を望んでるやつだっているっていうのに」
少女「だったらそういう人に見せてあげればいいじゃない」
ロボ「このロケットに、お前以外誰がいるんだよ」
少女「まあそうだけど…」
ロボ「おら、はやく選べよロンリービッチ」
少女「ビッチじゃないったら」
ロボ「おやあ、ビッチの意味は知ってるんだな」
少女「っ!!」
少女「あなたが、知りたくもないのに教えたからじゃない」
ロボ「そうだったか」
ロボ「まあいい。早くしねえと昼寝の時間が減ってくぜ」
少女「ああもう、なんでもいいから早く寝かせて」
ロボ「じゃあ俺が選んじまうぜ」
少女「勝手にして」
ロボ「じゃあ、ほれ。目を閉じやがれ」
少女「…」
ロボ「ヒヒヒ、オヤスミ」
ピピピ
…
少女「犯された…」
少女「男なのに…」
少女「もうお嫁にいけない…」
ロボ「心配なさらずとも、所詮夢でございます」
少女「タンバリン」
ロボ「目覚めはいかがです??」
少女「最低」
ロボ「でしょうね」
少女「お勉強の時間ね」
ロボ「ええ」
ロボ「今日は算数でございます」
少女「や」
少女「算数は嫌い」
ロボ「そう言われましても」
ロボ「木星に着くまでに終わらせなければならないノルマがありますから」
少女「木星で算数なんか使わないじゃないの」
ロボ「そうとは限りません」
ロボ「木星人は地球人と同じ5本指で、手も2本だそうです」
少女「それで??」
ロボ「地球と同じ10進法で考えることができるでしょう」
少女「うーん」
少女「でも三角形とか四角形とかいらないじゃない??」
少女「足し算と引き算ができればいいのよ」
ロボ「掛け算と割り算も必要かと」
少女「昨日勉強した分数とか、わけがわからないわ」
ロボ「簡単な問題ばかり解いていては、脳が衰えてしまいます」
ロボ「苦手な算数を頑張って考えることで、脳が活発に働き」
ロボ「後々優れた脳ができあがります」
ロボ「老人になっても惚けることもありません」
少女「そんなものかしら」
ロボ「脳を活発に働かせるために、頑張るのです」
少女「…わかったわ」
ロボ「では教科書とノートを」
少女「はい、出したわ」
ロボ「今日の内容はこれです」
少女「また分数なの、タンバリン」
ロボ「しっかり復習しないといけませんから」
少女「分子と分母はもう覚えたわ」
ロボ「ええ」
少女「お母様が子どもを持ちあげているのよね」
ロボ「そうでございます」
少女「私としては、子どもがお母様を持ち上げる方がイメージしやすいのに」
少女「お母様はいつも壺に入っているからそう思うのかしらね」
ロボ「子どもが大きくなって、お母さんには持てなくなったとき、帯分数になるのです」
少女「そうだったわね」
少女「どうして分数にはお父様は登場しないのかしら」
ロボ「お父さんは遠いところから見守っているのです」
ロボ「ですから分数には登場しません」
少女「地球で見守っているようなもの??」
ロボ「そうでございます」
少女「お母様と子どもの間の線はなあに??」
ロボ「…難しいですね」
少女「骨壷??」
ロボ「それだとお嬢様が灰のようなイメージになりませんか」
少女「ロケットとロケットの間の宇宙空間、なんてどうかしら」
ロボ「いい発想でございます」
少女「でも私のロケットの方が、あとの番号だわ」
少女「分数と逆ねえ」
ロボ「番号はこの際忘れましょう」
少女「私はぜひとも4番に乗りたかったから、私が悪いのね」
ロボ「どうして4番がお好きなので??」
少女「だって美しいじゃない」
ロボ「4は美しいですか」
少女「美しいわ」
ロボ「そうですか…」
ロボ「私のようなロボットには、その感覚がありませんので」
少女「私とあなたと、お父様とお母様」
少女「ほら、4じゃない??」
ロボ「なるほど」
少女「それから、四天王とか、言うでしょう」
ロボ「なるほど」
少女「動物の足は、みな4本でしょ」
ロボ「たしかに」
少女「ローマ数字の形も美しいわ」
ロボ「ほう」
少女「でもゲームなら4よりも5や6を名作だという人が多いわね」
ロボ「そういう意味でしたら、私は断然6を推しますね」
少女「確かに6はどちらも名作ね」
ロボ「7と9も捨てがたいですが」
少女「同感だわ」
少女「あ、そういえば私の好きなキャラクターも、4本指だわ」
ロボ「ああ、あの有名なネズミの…」
少女「いいえ、ターバンを巻いた緑色のキャラクターよ」
ロボ「なるほど」
ロボ「そうこう言っている間に、時間が来てしまいました」
少女「早いわね」
少女「あまり勉強をした気分ではないけれど…」
ロボ「しばしご休憩なされませ」
少女「そうするわ」
少女「トイレにでも行こうかしら」
…
少女「どうしてこう、トイレは狭いのかしら」
少女「落ち着けやしないわ」
少女「あら??これは…」
ピラ
少女「…水兵リーベ ぼくのふね、仲間がある、シップスクラーク??」
少女「ニーチェ」
ロボ「はい、お嬢様」
ロボ「引き続きお勉強の時間でございます」
少女「トイレの壁に、これを貼ったのはあなた??」
ロボ「そうでございます」
少女「これはなあに??」
ロボ「元素記号を簡単に覚える魔法の言葉でございます」
少女「…」
少女「でもこれ、日本語よね」
ロボ「…ええ」
少女「私の母国語は、一応英語なのだけれど」
ロボ「うっかりしていました」
少女「ニーチェはうっかりさんね」
少女「日本語は一応読めるけれど、難しいわ」
ロボ「そうでございますね」
ロボ「この表はお忘れください」
少女「あなた、日本製??」
ロボ「いえ」
少女「そう」
少女「その割には優れたロボットね」
ロボ「あなたのお父様がお作りになられましたから」
少女「次は理科かしら??」
ロボ「ええ、早速はじめましょう」
…
少女「軽いスコッチバクローマン、鉄のコルトに銅鉛かけて、明日は千秋楽」
ロボ「完璧です」
少女「千秋楽ってなあに??」
ロボ「日本の芝居や相撲における、最終日のことでございます」
少女「最終日は特別なの??」
ロボ「ええ。客も多く、いつもと違う内容もあるそうです」
少女「でもやっぱり英語で覚えたいわ」
ロボ「そうですよね」
少女「どうして日本語なの??」
ロボ「それしか検索で引っかからないからでございます」
ロボ「では今日は実験をしましょうか」
少女「実験!!そういうのは大好きよ」
ロボ「こんなものを用意しました」
少女「穴の空いたダンボールね」
ロボ「ここを叩くと…」
ボム
少女「煙を吐いたわ!!」
ロボ「煙大砲でございます」
少女「すごいわ!!すごいわ!!」
少女「やってみてもいい??」
ロボ「もちろんでございます」
ボム
少女「きゃあ!!」
ロボ「お嬢様、穴は向こうへ向けてください」
ボム
少女「きゃあ!!」
ロボ「聞いてください」
ロボ「…」
少女「ケホケホ」
ロボ「気がお済みになられましたか」
少女「…」
少女「楽しかった!!」
ロボ「それは何よりでございます」
少女「この煙大砲はあなたが考えたの??」
ロボ「いえ、これは日本のMr.Dという偉い人が考えたものです」
少女「すごいのね、Mr.D」
ロボ「他にも、工作員W、工作員Nによる素晴らしい作品があるのですが」
ロボ「これは明日にしましょうか」
少女「楽しみだわ」
ロボ「明日は私が工作員役をいたしますので、お嬢様は助手役を」
少女「わかったわ」
ロボ「どちらも助手Gという名前ですので」
少女「Gね!!」
少女「ふう…今日のお勉強はこれで終わりね」
少女「今は何時かしら」
ロボ「船内時間午後6時になりました」
少女「サザンカ」
ロボ「もう夕食を召し上がられますか??」
少女「そうね」
少女「あ、でもちょっと待ってちょうだい」
少女「今日の夕食は肉を少なめに、ね」
ロボ「かしこまりました」
少女「ちょっとダイエットしてみるわ」
ロボ「ではできるだけヘルシーなものに代えます」
少女「ごめんね」
ロボ「ご用意できました」
少女「これはなあに??」
ロボ「お嬢様がダイエットを始めると聞きましたので、ヘルシーなものを」
ロボ「春雨、蒟蒻、サラダ類がメインです」
少女「あんまり食欲がわかないわね…」
ロボ「キノコ、豆腐も…」
少女「豆腐??これはチーズじゃないの??」
ロボ「それからこれはおからと言って…」
少女「…」
少女「やっぱりハンバーグが食べたいわ!!」
ロボ「そうおっしゃると思っておりました」
ロボ「ハンバーグです」
コト
少女「あなたエスパー??」
ロボ「お嬢様は昨日も同じことをおっしゃっておりましたので」
少女「あら、そうだったかしら」
少女「まあダイエットは明日からにするわ」
ロボ「そうなさいませ」
少女「やっぱりお肉は美味しいわね」
ロボ「…」
ロボ「実はそれは、豆腐ハンバーグでございます」
少女「??」
ロボ「つまり肉はほとんど使用しておりません」
少女「…??」
ロボ「なのでとてもヘルシーでございます」
少女「どういうこと??」
ロボ「えっと…」
少女「…」
ロボ「忘れてください」
少女「…ええ」
ロボ「ハンバーグはお口に合いましたか??」
少女「ええ、とっても!!」
少女「ふう、結局いっぱい食べちゃったわ」
ロボ「食後の読書など、いかがでしょうか」
少女「チェルノ」
ロボ「といっても、私が御用意できるのは」
少女「漫画、ね」
少女「読むわ」
ロボ「今日はどのようなものを」
少女「切なくなるような熱くなるような笑いだすような…」
ロボ「なるほど」
ロボ「では、こちらを」
少女「ええ」
…
少女「…」キュンキュン
少女「…」ハラハラ
少女「…」クスクス
ロボ「わかりやすいですね」
少女「なにが??」
ロボ「いえ、なんでもございません」
少女「あなたはどんな漫画が好きなの??」
ロボ「私ですか」
ロボ「やはり熱いバトル漫画ですね」
少女「へえ」
ロボ「手に汗握る心理戦や、魅力的な技の応酬、ギリギリで仲間が助けに来るシーンなど」
ロボ「とても胸が熱くなります」
少女「ロボットのセリフとは思えないわね」
ロボ「そういうプログラムですので」
少女「よくわからないわ」
ロボ「ちなみに、最近巷で有名な漫画は…」
少女「名前を書くとその人が死ぬというノートを手にした少年の…」
少女「最近??」
少女「あなたね、そろそろプログラムを更新してもらった方がいいと思うわ」
ロボ「はあ」
少女「その漫画は、もう映画にもなったでしょう」
ロボ「そうでしたか」
ロボ「ちなみにミサよりも粧裕の方が好きです」
少女「そういう論議をする漫画でもないと思うわ」
ロボ「メイド女子高生が商店街で活躍する漫画もお勧めです」
少女「へえ、それは知らないわ」
ロボ「ミステリアスな雰囲気もあり、ドタバタもあり」
ロボ「しかし全体的にほのぼのします」
少女「明日はそれにしようかしら」
ロボ「ええ」
ロボ「ちなみに紺先輩が好きです」
少女「聞いてないわ」
ロボ「ちなみにお嬢様はもんじゃ処女ですか??」
少女「知らないわ」
少女「もうそろそろ寝る準備をしなければね」
ロボ「お風呂の用意ができました」
少女「アグリル」
少女「お願いするわ」
ロボ「はい、こちらへ」
…
少女「いつも思うのだけれど、お風呂も狭いわね」
ロボ「限られた空間ですので、これが限度です」
少女「まあいいわ」
ロボ「湯加減を見てみますので」
ポチョン
少女「…」
ロボ「…適温のようです」
少女「…50度と表示が出てるわ」
ロボ「故障ですね、すぐに直さなければ」
少女「あなたを??温度表示器を??」
少女「シャワーでいいわ、もう」
ロボ「明日の明け方には、適温になっているかと」
少女「それじゃあ遅いわよ」
ロボ「ではお背中を流します」
少女「お願いするわ」
ロボ「はい」
…
少女「石鹸からなんだか変なにおいがするわね」
ロボ「そうですね」
少女「なんのにおいかしら」
ロボ「私には匂いを検知する機能が付いていませんので…」
少女「あなたさっき『そうですね』って言わなかったかしら」
ロボ「そうでしたか」
少女「それよりもお風呂担当のロボットに温度検知機能が付いてないのは問題だわ」
ロボ「いえ、付いていないわけではなく、調子が悪…」
少女「やっぱり故障してるのね」
ロボ「あ、いえ…」
少女「石鹸とかの担当はインセンクルね」
少女「明日、文句を言っておかなきゃあ」
ロボ「そうですね」
少女「そしてあなたも、少し診てもらわなければね」
ロボ「定期健診はしているのですが…」
少女「明日ティンバー・ベルに頼んで、他のロケットから検査用ロボットに来てもらうわ」
ロボ「承知いたしました」
少女「ふぅ、さっぱりしたわ」
少女「そろそろ寝る時間かしらね」
少女「レントン??」
ロボ「は、ここに」
少女「寝る準備をするわ」
ロボ「かしこまりました」
少女「そろそろ新しくて可愛いパジャマがほしいわね…」
ロボ「は、用意しておきます」
少女「お願いね」
少女「今日もお薬を飲むの??」
ロボ「ええ、寝る前にお飲みください」
少女「これ、おいしくないのになあ…」
ロボ「我慢してください」
ロボ「飴も用意してあります」
少女「…ん」クッ
ロボ「飴を」
少女「ん」コロコロ
ロボ「室温はいかがですか??」
少女「ちょうどいいわ」
ロボ「夜中にもし起きられたら、私を呼んでください」
少女「ええ」
ロボ「では今日はどんな話をしましょうか…」
少女「少し不思議で、ロマンチックな話がいいわ」
ロボ「わかりました。では…」
…
ロボ「病室に現れた少年は言いました。『私は神です』と」
…
ロボ「いつまでも二人の話は続きました。それこそ時間を忘れるほどに」
…
ロボ「ペタ、ペタ、ペタと、何者かの足音が響きました」
ロボ「…」
ロボ「お嬢様??」
ロボ「眠られたようですね」
少女「…」スースー
ロボ「今日も忙しい一日を、ご苦労様でした」
パチッ
ロボ「明日も、素晴らしい日になりますよう」
少女「…」スースー
ロボ「では、おやすみなさいませ」
見てくれてる人いんのかな
ここから結末
ロボ「No.4ロケットは希望という木星行き」
ロボ「進路異常なし」
ロボ「速度異常なし」
ロボ「船内環境良好」
ロボ「現在、船内時間午前7時」
ロボ「本日もよい日になりましょう」
ロボ「おはようございます、お嬢様」
少女「おはよう、サイファー」
少女「もごもごむが」
ロボ「洗浄中に声を出されないよう」
少女「もごもご」
ロボ「…なんですか??」
少女「ねえインセンクル、歯磨き粉の味が気に入らないわ」
ロボ「ではどのような味がご希望ですか??」
少女「そうね、クリームたっぷりのパフェの味がいいわ」
ロボ「承知いたしました。近日中に別のロケットから取り寄せさせます」
少女「ちなみに、この味はなんなの??」
ロボ「烏賊味でございます」
少女「なんだか気分が悪いわ」
ロボ「洗浄中に声を出されるからです、お嬢様」
ビシャア
ロボ「ああっ申し訳ございません、お嬢様」
少女「…濡れたわ」
少女「…熱いわ」
ロボ「すぐに新しいコーヒーをご用意しますわ!!」
少女「マリア・ロウ、それより服を」
ロボ「さあ、新しいコーヒーですわ」
少女「服を」
ロボ「この豆は故英国から取り寄せた貴重な」
少女「早く服を」
ロボ「お嬢様、No.3ロケットから交信が入っております」
少女「ティンバー・ベル、つないでちょうだい」
ロボ「ただいま」
ガガガ…
『こちらNo.3ロケット。応答願います』
少女「こちらNo.4ロケット」
『No.4ロケット、そちらの状況は』
少女「異状なしよ。そちらは??」
『異状なしであります』
少女「お父様の乗っているNo.2ロケットの通信機器はまだ回復しないの??」
『現在調査中ですが、肉眼で確認できる範囲を飛行中ですので問題はないかと』
少女「そう。それはよかったわ」
―同じ頃、ある一室にて―
秘書「社長、記者が来ました」
男「うん、通してくれ」
秘書「は」
…
記者「失礼します」
男「ああ、かけてくれ」
記者「では」
記者「早速ですが、失踪されたお嬢様の件についてお聞きしたいのですが」
男「ああ、そうだな」
男「残念ながら、なんの進展もないよ」
記者「そうですか」
男「もう半分、諦めているのだ」
記者「奥様が亡くなられて、さぞ心を痛めておられることでしょう」
記者「その矢先、今度はお嬢様まで…」
男「ああ。悪い事は続くものだな」
男「どんなに仕事で成功をおさめても、結局私のもとにはなにも残らなかった」
記者「諦めず、捜索を続けられますか」
男「そうだな…希望は持っていたいからな」
記者「我々も全力で情報を集めますので」
男「ああ。なにかわかったら教えてくれたまえ」
記者「はい、では失礼します」
男「うん」
記者「あ、そういえば…」
男「うん??」
記者「庭の大きな塔、あれはなんなのですか」
男「あれか。最近始めたロボットの研究施設だよ」
記者「ずいぶん大きいですね」
男「突貫工事でやらせた」
男「あれくらいないとできない研究なんだよ」
記者「具体的な内容は…」
男「すまないが、企業秘密でね」
男「形になったら、発表するよ」
記者「そうですか…」
秘書「少し疑っていましたね、今の記者」
男「ああ」
秘書「あまり知りすぎてしまう前に…」
男「いや、まだ手を出すな」
秘書「ですが」
男「それより、またチャイムが鳴らなかったか」
秘書「確認してまいります」
…
秘書「あの、愛人の方が…」
男「ああ、通してくれ」
秘書「…は」
愛人「来ちゃった♪」
男「君がこんなに早い時間に来るなんて」
愛人「えへへ」
秘書「あまり印象がよろしくないかと」
男「そうだな。しかしそんなことは今どうでもいい」
男「すまないが外してくれ」
秘書「は」
秘書「社長、まさかあの事を言うつもりでは」
男「口出しするな」
秘書「は。失礼いたしました」
愛人「なあに??秘密のお話??」
男「ああ、そうだ」
男「君に話しておきたいことがある」
愛人「いいわよ」
男「しかし、果たしてこれを聞いて、君がまだ私の傍にいてくれるかどうか…」
愛人「え」
男「私の娘の話だ」
愛人「行方不明の??」
男「ああ」
男「私の妻が死んだ状況は、知っていたかな」
愛人「強盗に殺されたって…」
男「ああ、そうだ」
男「しかし具体的にどう殺されたかは報道されていない」
愛人「そうね。酷かったの??」
男「酷いなんてものじゃない」
男「原形などなかった」
愛人「っ!!」
男「そしてその姿を、娘は見てしまった」
男「金品目的ではなく、私への恨みからだろう」
愛人「それは…聞いたわ」
男「回りくどくも、その目的は達成された」
男「妻の姿を見た娘は、ショックのあまり心を病んでしまった」
愛人「そう…」
男「知人のことすらわからなくなり、いつも周りの人間に新しい名前を付けた」
男「私のことは、ブリュッセルとか、ロレイラとかリンドウとか呼んでいた」
男「みな困惑していたが、彼女には彼女なりの世界があったのだろう」
男「そのうち時間が読めなくなり、いつも同じことを繰り返した」
愛人「そして誘拐されたの??」
男「いや、彼女はある日『木星へ行く』と言い出したんだ」
愛人「??」
男「確かに今の宇宙技術は進んでいるから不可能ではないかもしれない」
男「しかしいきなり木星へ、なんてとても無理だ」
愛人「え、それで??」
男「彼女は聞きわけず、ただひたすら木星へ行きたがった」
男「そして今も、木星を目指している」
愛人「じゃあ今、娘さんは宇宙にいるの??」
男「いや、庭の塔の中にいる」
愛人「あの大きな塔??」
男「そうだ」
男「彼女はあの中で、木星へ向かって旅をしている」
男「食事はロボットが作るし、環境自体は悪くない」
男「食事には薬を混ぜ、体内から心の病気を治そうともしている」
男「それに24時間監視もできる」
愛人「娘さんは本気で木星を目指しているの??」
男「ああ、信じている。狂信的に、というかなんというか」
愛人「あの中には娘さんだけ??」
男「いや、ロボットが一台一緒に暮らしている」
男「彼女はロボットにもさまざまな名前を付け、一緒に暮らし始めた」
男「ロボットはロボットで、名前一つひとつに人格を持ち始めた」
愛人「賢いのね」
男「ああ、私の作ったロボットだからな」
愛人「優秀なのね」
男「しかし彼女の病状は一切よくならない」
男「昨日、今日、明日…」
男「まったく同じ『一日』を過ごしている」
男「見ている方が気が狂いそうだ」
男「しかし私は自分の地位のため、彼女の希望を叶えるため」
男「ずっとあの塔に閉じ込めている」
愛人「…」
男「軽蔑するかな」
愛人「…わからないわ」
男「そうか」
愛人「でも決して他の人に、言ったりしないから」
男「ありがとう」
愛人「…あの塔の、『No.4』というのはどういう意味??」
男「東洋では『死』をイメージする番号だそうだ」
愛人「悪趣味だわ」
男「彼女の好きな数字なんだ」
愛人「そう…」
愛人「ロボットにも名前を付けているって言ったわね」
男「ああ」
愛人「そのロボットっていうのは、新しく作ったの??」
男「いや、昔から娘の世話をさせるためにそばに置いていたものだ」
愛人「そう…」
愛人「ロボットも、同じように繰り返し毎日を過ごしているの??」
男「ああ、そのようだ」
愛人「…」
愛人「狂っているのは…」
愛人「誰なのかしら、ね」
★おしまい
129 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/05/04(火) 14:10:00.87 sQDMeWJj0 101/101お粗末さまでした。
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