澪「パパ、お帰り」
元スレ
澪「さわ子先生が場末の割烹で働いてる……」
http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1291168646/
澪パパ「ただいま。あれ、制服のまま来たの?」
澪「部活で遅くなったから着替えないで来ちゃった」
澪パパ「そうか~」
澪「今日はどこへ食べに行こっか」
澪パパ「そうだな~行ったことのない店にしてみない?」
澪「うんいいよ」
澪パパ「ふむ、こんなところに割烹があったんだなあ」
澪「パパ……お腹すいたよ」
澪パパ「ゴメンゴメン。それじゃここにしよう」
澪「うんっ。……あれ?」
澪「お店の中に見たことあるような人が……」
澪パパ「出陣じゃあ」
ガラガラ
澪「あっ、パパ待って……!」
さわ子「いらっしゃいませー」
澪「あ……」
さわ子「へぇあ?」
さわ子「み……みおちゃん……」
澪パパ「ん? 知り合い?」
澪「あ、うん、多分」
さわ子「ど、どうしてここに……」
澪「先生こそ……」
さわ子「そんな……まさかこんなに早くばれるなんて……」
澪「先生?」
さわ子「教師がアルバイトしてるなんて知れ渡ったら……オヨヨ……」
澪パパ「?」
澪「あ、パパ、こちら私の担任の山中先生」
さわ子「ん?」
澪パパ「これはどうも」
さわ子「スーツのサラリーマン……? 澪ちゃんより二周りは年上……ていうか澪ちゃん制服着て……パパ……はっ!?」
澪「先生?」
さわ子「そんな……ぴゅあぴゅあはーととか言ってたのは嘘だったの?」
さわ子「だっ、だめよ澪ちゃん! アルバイトしてる私が言えた義理じゃないけれど……」
さわ子「それでも私の生徒が援助交際するなんて認めませんっ!!」
澪「ぶふぅっ!!」
澪「――というわけで私の『本当の』お父さんです」
澪パパ「娘がお世話になっております」
さわ子「大変失礼を致しました」
澪パパ「いえいえ」
さわ子「そ、それで……ええと……」
澪パパ「別に学校に報告とかはしませんから」
さわ子「あ、はい……」
澪「でもどうして先生がアルバイトなんか……」
さわ子「そ、それは……」
澪(しまった、言い辛い事なのかも)
澪「あ、そ、それよりお腹が空いたなぁ~」
さわ子「そ、それじゃ席に案内するわね」
澪「ははい」
さわ子「こちらへどうぞ。お品書きです」
澪パパ「ふうむ、たまにはこういう店もいいよねえ」
澪「うん」
澪パパ「とりあえず熱燗大徳利で」
澪「……それが目当てだったの?」
澪パパ「そんなことないぞう」
澪パパ「お、鍋とか美味しそうだな。どう?」
澪「何鍋?」
澪パパ「海鮮」
澪「食べる」
澪パパ「ん」
澪パパ「すいませーん」
さわ子「はーい」
澪「海鮮鍋とお豆腐二つで」
さわ子「かしこまりました」
澪(さわ子先生がアルバイト……異様な光景だ……)
澪パパ「どうした?」
澪「ううん、なんでも」
さわ子「お待たせ致しました。海鮮鍋です」
澪パパ「おお、豪勢だなあ」
澪「カニ……おいしそう」
澪パパ「いただきます」
澪「いただきます」
澪パパ「ごちそうさま」
澪「ごちそうさま」
澪パパ「ふー美味しかったねー」
澪「パパ顔赤い」
澪パパ「んー? んんー?」
澪「酔い過ぎ……」
澪パパ「会計お願いしまーす」
さわ子「はーい」
さわ子「マタドウゾー」
澪(来て欲しくなさそうな顔……)
澪(結局先生がアルバイトしてる理由もわからなかったし……)
澪(何だか気になってきた)
澪(あれから何度か例の割烹に行ってみたけど先生は結構なペースで働いているみたいだ)
澪(外から覗いただけだけど)
澪(わざわざ教師が学校に内緒でアルバイトする理由なんて……やっぱりお金に困ってるのかな)
澪(詳しい理由は分からないけど……)
梓「澪先輩?」
澪「……あ、なんだ?」
梓「どうしたんですかぼーっとして」
澪「なんでもないよ」
梓「そういえば最近さわ子先生部活に来ませんね」
澪「そうだな……」
ガチャ
さわ子「澪ちゃんいるー?」
梓「噂をすれば、ですね」
澪「なんですか?」
さわ子「推薦の事で話があるから後で職員室に来てくれる?」
澪「あ、はい」
さわ子「よろしくねッ……ゴホゴホ」
澪「風邪ですか?」
さわ子「ちょっとね……あなた達も気をつけた方がいいわよ。特に三年生」
澪「はい」
さわ子「それじゃよろしくね」
バタン
梓「行っちゃいましたね……何だか疲れてるようにも見えましたけど忙しいんでしょうか」
澪「どうだろうな」
澪(――気になって今日も割烹を見に来てしまった)
澪(先生は……いた)
澪(体調悪そうだったのに)
澪(大丈夫かな)
澪(……)
澪「あっ倒れた!」
ガラガラッ
女将「いらっしゃ――」
澪「先生っ!」
さわ子「……澪ちゃん?」
澪「大丈夫ですかっ?」
さわ子「大丈夫大丈夫……」
女将「知ってる子?」
さわ子「私の教え子です……」
さわ子「澪ちゃんはどうしてここへ?」
澪「えっと……先生体調悪そうだったから……」
澪(働いてる理由が気になって……とは言えない)
女将「あらそうだったの? だったら休ませないと」
さわ子「でも今日は週末だし忙しく……」
女将「でもまた倒れられてもねえ……」
澪(さわ子先生……)
澪(お金に困ってるって事は……)
――――――――
怖い人1「おらっでてこい!」
ドンッ
怖い人2「早く金返せやッ!」
ドンッ
さわ子「も、もう少し待ってください……」
――――――――
澪(うぅ……先生……)じわぁ
澪(先生には色々お世話になってるし、ここは私が……でも……いや、前に接客業は練習したし……よし!)
澪「あのっ! 私がさわ子先生の代わりに働きます!」
さわ子「えっ?」
澪「一応接客業の経験はあります」
女将「あら本当? いいの?」
澪「は、はい」
さわ子「だ、だめよ澪ちゃん。私が……あぅ」
澪「先生は休んでてください」
女将「そうだねえ。それじゃ彼女にお願いしちゃおうかしらね」
澪「よろしくお願いします」
さわ子「澪ちゃん……」
澪「い、いらっしゃいませ!」
客「あれーどうしたの女将? また可愛い子雇ったの?」
女将「その子は臨時で働いてもらってるの」
客「へえー」
澪「……////」
別の客「すいませーん」
澪「あ、はーい!」
女将「――いやあ何とかなったよ。ありがとうね澪ちゃん」
澪「い、いえそんな……」
さわ子「悪かったわね澪ちゃん。受験生なのにバイトさせちゃって」
澪「平気です。それよりさわ子先生こそ大丈夫ですか?」
さわ子「奥で休んでたから大丈夫よ。ご迷惑をおかけしました」
女将「いいのいいの。それよりちゃんと風邪治さなきゃね」
さわ子「はい……お疲れ様でした」
澪「お疲れ様でした」
澪(あの後は先生も体調悪そうだったから結局詳しい理由は聞けずじまい)
澪(私は今日も割烹を見に来て……ってなんでこんなに気にしてるんだろ)
澪(先生は……いたいた)
澪(……)
澪(あれ?)
澪(お店の中にパパがいる……)
ガラガラ
澪(出て来た!)
澪(パパお酒飲んでたのかなあ)
澪(店先でさわ子先生と話してる……)
澪(さわ子先生も酔ってる……?)
澪(先生も飲んでたのかな)
澪「……ッ!?」
澪(パパとさわ子先生が……抱き合ってる……!?)
澪(う、うわああっ!!)
澪(――びっくりして逃げ帰ってきちゃった……)
澪(パパ……先生……どうして……)
澪(ひょっとして不倫!? いや、先生はお金に困ってて……もしや援助交際!?)
澪(まさか……)
ガチャ
澪パパ「ただいまー」
澪「……」
澪パパ「澪?」
翌日
澪パパ「澪おはよう」
澪「……」
澪パパ「あれれー?」
澪パパ「……そんな……まさか……ママぁ!?」
澪ママ「パパ、仕方ないのよ。父親はこうなる運命……」
澪パパ「そ、そんな……」
――――――――
梓「澪先輩、何かあったんですか?」
澪「え?」
梓「なんだか暗い顔してますけど」
澪「そ、そうかな?」
律「朝からなんかおかしいんだよなー」
さわ子「そういえばホームルームもそんな感じだったわね。悩み事?」
澪「……別に」
さわ子「……?」
澪(パパの顔も先生の顔も見れないよ)
澪(話もしたくない)
澪(でももし本当に不倫とかしてたらこの先どうなるの?)
澪(最悪離婚とか……)
澪(そんな……そんなのやだ……)
澪「やだよう……」
澪(こうなったら)
澪(こうなったら私が何とかするしかない……!)
割烹前
澪(……いた)
澪(パパとさわ子先生)
澪(怖い……けど、このまま見過ごすわけには!)
ガララッ
澪「パパ! 先生!」
澪パパ「へっ澪?」
さわ子「澪ちゃん?」
澪「ふ……」
澪「不倫なんてやめてよっ!!」
澪パパ「……」
さわ子「……」
澪「……」
女将「……」
客「……」
澪パパ「不倫してないんですけど……」
さわ子「同じく……」
澪「……へっ?」
澪パパ「いやね、せっかくだからお酒を飲みながら澪の進路とか学校での様子を聞いたりしていたんだけど」
さわ子「ほら、澪ちゃん推薦にするか試験を受けるか悩んでたでしょ?」
澪「……」
澪「……へぇあ?」
澪パパ「もしかしてこの間から無視してたのはそういう事?」
澪「う……でもこの前抱き合って……!」
澪パパ「もしかして先生が酔ってふらついた時の話?」
澪「え……」
さわ子「澪ちゃんて変なところで突っ走るわよね」
澪「だって……」
澪(恥かしい……)
澪(私の事をこんなに気にかけてくれてる人たちを疑った自分が恥かしい)
さわ子「せっかくだから澪ちゃんも食べていきなさいよ」
澪「はい……」
さわ子「それでお父さんにも言ったんだけどね」
さわ子「私は推薦を蹴って受験を受けてもいいと思うわ」
澪「でも……」
さわ子「どの大学へ行くかは人それぞれの理由があるわ。別に推薦がいいって訳でもないし」
さわ子「それに大学へ入るのに合わせて独り立ちしなければいけないなんて事もないの」
さわ子「澪ちゃんには澪ちゃんのペースがあるんだから。N女子大へ行く事は悪い事じゃないわよ」
澪「先生……」
さわ子「まあいつでも相談に乗るから」
澪「……いえ、決めました」
さわ子「そう」
澪「はい」
澪パパ「そうか。それじゃあほら、澪も鍋食べるだろ」
澪「……うんっ」
澪「はあーすっきりした」
澪パパ「それはよかった」
澪「あ、でも……」
さわ子「まだ悩み事?」
澪「そういう訳じゃないんですけど……先生がどうしてアルバイトしてるのかが気になって……あ、言いたくなければいいんです」
さわ子「言いたくはないけど気にしてるみたいだから言っちゃうわね」
さわ子「ほら、この前の学園祭でTシャツいっぱい作ったでしょ?」
澪「ええ。もしかして……」
さわ子「そ、ちょーっと素材にこだわったのと数が多かったから」
澪「そうだったんですか……あの時はありがとうございました」
さわ子「いいのよ~」
澪「でもそしたらなおさら……私もバイトを」
さわ子「だからいいってば。そうなるから秘密にしてたかったの。ていうか学校にばれたらヤバいし」
澪パパ「いい先生が担任でよかったな」
澪「うんっ」
さわ子「いえそんな……生徒のためですもの……うふ」
澪「あれ、でも前にギターを売ったお金がいっぱいあったような……」
さわ子「いやーあぶく銭は身にならないというか……ついつい使い込んじゃって……」
澪「……」
さわ子「あいや! 少しは実家に入れたのよ?」
澪(いい先生だって事には変わりない……変わりないけど……)
あれ以来、私はちょくちょく例の割烹へ行くようになった。
今度はちゃんとご飯を食べるために。
私もパパもいつの間にかこの割烹が気に入ったみたい。
さわ子先生が辞めた後も私は利用し続けた。
ちなみに私を含めた軽音部の四人はめでたくN女子大に合格。
これも先生のお蔭……なのかな?
受験が終わってからは時間が出来たのでアルバイトを始める事にしたんだ。
それも例の割烹で。
自分から接客業をするなんてちょっと前までは考えられなかったな。
仕事に慣れた頃には看板娘になっていたとかいないとか。
大学に入ってからかな?
いつの間にか例の割烹は私達軽音部の行きつけの店になっていた。
成人してからはよくお酒を飲みに来ている。
いつのも軽音部のメンバーに和やさわ子先生が混じることがあって、その時はプチ同窓会気分で美味しい鍋をつついている。
律「そういえばさー」
澪「ん?」
律「この店ってどうやって見つけたんだっけ?」
澪「私が……いや、私は知ってたけどみんなに教えた記憶がないな」
梓「……」
律「梓はー?」
梓「ど、どうでしたっけ?」
律「……んふー」
梓「な、なんですか」
律「私は梓に教えてもらったような気がするなあ?」
律「確か梓が勘違いして……なんだっけ、澪が? お金に困って? 梓の親と不倫?」
梓「わーーっ! わーーっ!」
――――――――
梓「お父さーんこの辺なんにもないよ。やっぱりさっきのお店にしようよ」
梓父「じゃあそうするか……お?」
梓父「梓、あそこに割烹があるぞ。あそこはどうだ?」
梓「お腹空いたからもうそこでいいよ」
梓父「ほいほい。鍋とか食べたいなあ」
ガラガラ
澪「いらっしゃいませー……ん?」
梓「……へぇあ?」
澪「おおー梓!」
梓「あ……え……」
梓「澪先輩が場末の割烹で働いてる……」
END