TV『熊が公民館に入り込み……建物を一時占拠……』
男「最近、こういう熊の出没事件が多いよな」
女「ホントね。山には餌が少なくて、人里に下りてきちゃうみたいだけど……」
熊「怖いですよね~」
男「……」
女「……」
熊「何か?」
元スレ
男「最近熊の出没多いよな」女「ホントね」熊「怖いですよね」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1605863722/
男「何かじゃねーだろ、お前熊じゃん!」
女「そうだよ!」
熊「そうですけど」
男「熊が熊出没のニュース見て“怖いです”はないだろ!」
女「そうだよ!」
熊「そんなこといったって、怖いものはしょうがないじゃないですか!」
熊「いっときますけど、私はちゃんと居住権を持った熊です!」
熊「人間の言葉や文化を勉強して、厳しい試験をパスして、人里で暮らしていいって認可されたんです!」
男「ったく、どこのどいつだよ、認可したの……」
熊「環境省です」
男「ついにトチ狂ったか環境省」
女「それでこの町に来たはいいけど、住む場所が見つからなくて、私たちと出会って……」
熊「右も左も分からない私に、住む場所を提供してくれたあなたたちには感謝してます」
男(そう、この熊は極めて高い知能を持つ居候グマ……オスのツキノワグマだ)
男(今、俺たちは二人+一頭で暮らしている)
男「ま、居候といっても、きっちり働いて家賃も入れてくれてるし」
男「苦しい同棲生活してる俺らとしちゃ助かってるけどな」
熊「これで働いてなかったら、それこそホントの“クマのプーさん”ですよ!」
男「……」
女「……」
熊「あ、これ笑うところですよ」
朝――
男「さて、仕事行くか」
女「私も~」
熊「では私も行ってきます!」シャキンッ
男「……ったく、熊が一番真面目ってのもおかしな話だな」
男「そういや、熊ってどこで働いてるんだっけ?」
女「えーと、たしか……」
部下「主任!」タッタッタッ
熊「なんでしょう」
部下「新しく開発したシロップの味を……ぜひ見て下さい!」
熊「うーむ……」ペロッ
熊「悪くはありませんが……もう少し糖度を抑え、粘度を低くした方がよいでしょう」
熊「シロップは甘ければいいというものではありませんから」
部下「分かりました!」
部下「これはいかがでしょう?」
熊「どれ……」ペロッ
熊「うん、とてもよいです。甘さもクリーミィさもどれをとってもパーフェクトなシロップです」
熊「これなら売れます!」
部下「ありがとうございます!」
無事、この新商品は売れ――
熊「上手くいってよかった……」ホッ
熊はハチミツやシロップのメーカーに勤めているのである。
女「あれ? 仕事持って帰ってきたの?」
男「ああ、誰でもできる単純なデータ入力なんだけどな。数が多すぎるんだ」カタカタ
男「……」カタカタ
男「……」カタカタ
男「あーあ、熊の手も借りたいなぁ」チラッチラッ
熊「……」
熊「……」ヌッ
男(手伝ってくれそう! こいつ熊のくせに俺よりパソコンできるもんな!)
熊「……」ノソノソ
バタン…
女「外行っちゃった」
男「なんで?」
熊「熊手買ってきました!」
男「手伝ってくれよ!」
女「今日は私と熊で料理作ったよー」
男「お、いただきまーす」
女「これは私が作ったの」
男「おお、うまいうまい」モグモグ
熊「これは私が作りました」
男「うんま! なにこれ、天才じゃね!?」
女「うぐぐ……熊に料理で負けた……」
男「今日は町内運動会だ!」
女「コロナ流行ってるのに、よくやるよねー」
熊「次の徒競走には私が出場します!」
女「頑張ってねー」
男「あいつ、足速いのかな」
女「調べたら、熊って足速いらしいよ。時速30~40kmは普通に出すんだって」
男「マジ? だったら楽勝じゃん!」
ヨーイ… パァンッ!
熊「ほっほっほっ」ノソノソ…
熊「いやー、皆さん速いですねえ」ノソノソ…
男「おっそ!」
女「なんで二足歩行で走っちゃうの!?」
熊「ダントツでビリでした……」ガックリ
女「まあまあ、はいお弁当」
熊「ありがとうございます」
男「わざわざ二足歩行で走ったのはやっぱりアレか? 四足で走るのはフェアじゃないと思ったから?」
熊「四足……?」
熊「あ……! みんな二足で走るからつい……!」
男「釣られただけかよ」
女「ネット上でも熊はよく釣られるもんね」
ある日――
男「パトカーだ」
女「単なるパトロールって感じじゃないね」
熊「何か事件でもあったんでしょうか?」
パトカー『この町に熊が出没しました。くれぐれも外出しないようお願いします』ブロロロロ…
男「マジか!」
熊「私のことでしょうか!?」
女「いや、きっと他の熊に違いないよ……れっきとした野生の熊ってやつ」
男「外出しないようにって、既にしちゃってるよ俺ら……」
男「ま、まあ……心配ないって!」
男「この町は広いし、俺たちが熊と出くわすわけないよ」
熊「ですよね!」
女「それこそ宝くじに当たるような確率だよねー」
男「心配ない! このまままっすぐ家に帰ろう!」
野生熊「グルルルルル……!」
男「……」
女「……」
熊「……」
男「出た!」
女「出た!」
熊「出ぇたぁぁぁぁぁ!!!」
男「お前が一番驚いてどうする!」
野生熊「ガルルルルル……!」
男「やべえよ……メチャクチャ興奮してらっしゃる。赤カブトの親戚かよ」
女「ど、どうしよう……!?」
熊「死んだふりはどうでしょう?」
男「いや、情報が古すぎる! 熊に死んだふりは絶対やっちゃダメらしいぞ!」
熊「たしかに……私が死んだふりをしてる人を見かけたら、心臓マッサージしちゃいそうです」
男「熊の心マとか絶対受けたくねえ……」
熊「スマホで調べたら出てきました! 熊の倒し方が!」
男「マジかよ!」
女「お願い、すぐに説明して!」
熊「分かりました。まず、熊が後ろ足で立ち上がって攻撃してくるのを待ちます」
熊「その後、熊の素人丸出しのテレフォンパンチをダッキングでかわして――」
男「絶対死ぬやつじゃねえか、それ!」
野生熊「ガオオッ!」
女「きゃあああっ!」
男「ダメだ、今にも襲いかかってきそうだ!」
熊(怖い……! 怖いけど……!)
熊(私を受け入れてくれた二人を、死なせるわけにはいかない!)
熊「二人ともどいて下さい! 私がこの熊と戦います!」
男「お前ってやつは……!」ジーン…
女「死なないでね!」
熊「では、交渉開始!」
熊「ガルルルルル、ガオオオ、ガル、ガル、ガル」
野生熊「グルルルルル、ガルルルルル、ガオオオオオ」
熊「ガルルル? ガルルル、グオオオオ、ガルル」
野生熊「ガルルルル! ガルルル、ガアアアア、フゴフゴフゴ」
男「戦うって交渉かよ!」
女「クマ語の交渉なんて初めて見た……」
熊「ふぅ……」
野生熊「……」ノソノソ
男「熊が帰っていく……」
女「どうなったの?」
熊「ハチミツ1リットルで交渉成立です」
女「意外と甘党だったのね……」
熊「それと山に戻ったら、仲間にも人里に下りないよう説得すると約束してくれました」
男「ガルルとかグルルだけでそんな高度な交渉したんかい」
男「だけど、おかげで助かったよ」
女「ありがとう!」
熊「いえ、恩返しができてよかったです」
熊「くまったことがあったら、遠慮なくいって下さい!」
男「……」
女「……」
熊「あ、これ笑うところですよ」
――――
――
やがて、二人は結婚――
ワァァァァ… パチパチパチパチパチ…
男「お集まり下さった皆様、ありがとうございます!」
女「とっても嬉しいです! 幸せになります!」
司会者「さあ、いよいよお二方にはケーキ入刀をして頂きます」
司会者「今回はケーキをお二人のお知り合いの方に、用意して頂きました。どうぞ!」
ガラガラガラ…
熊「お待たせしました!」
男「待ってたよ!」
女「おいしそ~!」
熊「私がお二人に送るのはもちろん……ハチミツたっぷりの特製ケーキです!」
おわり