今晩戦士がおごってくれるらしい
あいついい奴だわ
元スレ
勇者だけど、「戦が終わったら結婚しよう」って約束してたのに魔王倒して村帰ったら幼馴染結婚して子供までこさえててワロタ
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1575050312/
○月×日
魔王をついに倒すことが出来た
本当につらい戦いだったが、戦士と、魔法使いと、僧侶と。
一人も欠けることなく今立てているのは、皆のお陰だと思う。
俺は少しばかり深い傷を負ったが、戦士を庇って負った傷だ。
誇りに思う。
大切な幼馴染が待つ村へと早く帰りたい
まだ想っていてくれているだろうか
○月×日
村へやっと着いた。
魔法使いと戦士と俺の育った故郷。
大切な人が待ってくれている場所。
幼馴染が出迎えてくれた。
ん?
その赤ん坊、誰の子?
横の男、誰?
どうやら、ここらに最近越してきた小金持ちの坊っちゃんらしい。
央都のものとは比較にならないが、そこそこのお屋敷に御呼ばれして食事をいただいた。
男は誠実なやつだった。
幼馴染に、
「ごめんね、本当はもっと温かいものを出したかったんだけど」
と言われた。
俺、お前にあやまられたの初めてだわ。
負けん気とプライドだけは人一倍だったお前はどこに
戦士に飲みに誘われて、街までルーラで行って居酒屋で飲んできた。
奢りだと言うから、「ああ、察してくれたんだ。良い奴だなあ」なんて思っていると、
樽ごと注文したビールのイッキ飲みを始めた。
普段飲まないコイツが、一体どうしたのかと思っていると、
「俺魔法使いにプロポーズしたいんだ」と始めやがった。
十分後には爆睡。
空気読めないとは思ってたけど、期待した俺がバカだった。
あの時庇わずに見殺しにすればよかった。
○月×日
幼馴染の子供を抱かせてもらった。
軽いもんだな。
この子に罪は無い。
はあ……何のために魔王を、いや、やめよう。虚しくなるだけだ。街が平和。
世界が穏やか。それでいい。
○月×日
戦士が結婚した。
魔法使いお前もさ、最初の頃は俺にキラキラした目向けてたじゃん。
戦士とは喧嘩してばっかで、俺と僧侶が宥めてたじゃん。
なんでお前らがくっつくの?
○月×日
央都で実家に頼まれた買い物をしていたら、久しぶりに戦士と会って、昼飯を食った。
王家専属の騎士団に席を貰ったらしい。
「お前まだフリーターしてんのwwwwww」
聖剣が鞘から顔を出したが、理性と情緒が辛うじて勝る。
確かに。俺も働かないとな。
○月×日
王家や、下級貴族、更には近衛兵にも営業をかけてみたが、手が足りているとのことだ。
魔物のいない今、人間相手ならそこらの鎧と鉄の棒を一般人に持たせとけばで片付くもんな、確かに。
俺だと持て余すよな。
だって勇者だもんな。
そりゃ気が引けるだろうよ。
だってギガスラッシュとか屋敷の外でも打たれたらかなわないもんな。
○月×日
幼馴染夫婦が家に遊びに来た。
子供連れて。
酒のめないじゃん。
最近喋るようになったそうだ。
「ぱー」「かー」「うんち」
「うんち」「うんち」「うんち」の間違いだと思う。
よくもフった男に子供自慢出来るなこのアバズレ。
人を殺さずに戦闘不能にする、真の魔王はここにいた。
○月×日
戦士に会った。
無職である旨を伝えた時の、アイツの目と口元が忘れられない。
帰っていく背中目掛けて抜こうとした聖剣が半ばで突然折れた。
魔王居ないから加護も没収かよ、女神様にまで見捨てられた俺は近場の公園で一人で泣いた。
○月×日
いつものように街で飲み歩いてたら、少し妖しい通りにたどり着いた。
魔王、魔物が消えて数ヶ月、平和な世界での町並みの変化である。
幼馴染と共に消える予定だった貞操は、豊満かつたわわに実った果実へと捧げられた。
村へは酒買って、飲みながら歩いて帰った。
二時間程の片道の間に、6回吐いた。
○月×日
ちょっと僧侶に会いに教会いってみるか
○月×日
来たことの無い街だったので、央都から馬を借りて五時間かけて来てみた。
教会の神父に僧侶の居場所を聞く。
旅に出たそうだ。
孤児集めて、寺院を開く夢を語っていたらしい。
あいつすげーなwwwwww
○月×日
「ああー、魔王復活しねえかなあ」
神父に聞かれた。
2日間聖水浴びせられて、なんか草で叩かれまくった。
低レベルはずの神父の攻撃に痛みを感じた事に驚き、
裁縫針刺してみたら普通に血が出た。
女神様鬼畜過ぎない?
○月×日
今日は、俺自身の変化について研究結果がまとまったので書いておこうと思う。
どうやら、80を越えていたはずレベルが30そこいらまで下がっていること。
聖剣の、それも半分なのに持つのがやっとであること。
ルーラ使ったらやたら疲弊すること。
女神様の加護が消えているのは確からしい。
となるともしかしてあれか、俺今死んだら普通に死ぬのか。
もうなんなの、魔王ぶっ殺したら用済みかよ。
結論、女はクソ
○月×日
野原でシロツメグサ摘んでた子供三人組に王冠の作り方を教えてやった。
久しぶりに英雄扱いされた気がする。
楽しかった
○月×日
いくら報酬金が出たとは言え、いつまでも遊んで暮らせる訳では無いのは確かだ。
働かないとなあ・・・。
お袋も心配してるだろうしなあ・・・。
明日は村の連中の馬小屋の掃除でもやって、小銭をせびろう。
意思の表明として、お袋に新しい桑でも買ってやるか。
○月×日
存外と報酬をいただけた。糞捨てただけで。
桑を買ってもお釣りがありそうなので、
村のガキ共にパンでも買ってやるか。
そう思い屯していた子供達に声を掛けたところ、親御さんの一人に鞄を投げ付けられた。
誘拐?とんでもない。
泣きながら家に帰って鏡見たら、
無精髭生やして髪も生え放題。
目付きの鋭く傷だらけの肩を片方出した不審者が睨み付けてきてワロタ。
泣いてたことお袋に心配された。
死にたい
○月×日
なんかもう人と会うのつらいし、内職を始めた。
わけのわからない偽物の茎に、
わけのわからない偽物の花弁を糊で止める。
そして出来上がるわけのわからない花。
そしてそれを束ねて作る花束。
で、寝る直前に日記を書く。
何してんだろ俺
ハハッワロス
○月×日
カーチャン「戦士くんのところ、お子さん生まれたんだってねえ。女の子だって」
造花作りにはコツがある。
花弁を付ける時は、十秒以上手で固めておくこと。
花束のどこに使うかを考えて、傾き具合を計算して角度をつけること。
液体糊を水滴花びらに垂らすと水滴のように固まって、喜ばれることが多い。
○月×日
戦士と魔法使いが挨拶に来た。
魔法使いとは披露宴以来か。
ああ、胸でかくなったなあコイツ。
戦士も嬉しそうにしやがって。
あー、死なねえかな
○月×日
遠くの村で、孤児院が襲撃され、半壊したという噂をカーチャンから聞いた。
ルーラは使えないし・・・。
歩いていくなら片道五時間はかかる。
まあ・・・俺には関係無いだろ。
少し急いで、明日の分の内職仕事は終わらせておいた。
眠いし、今日は寝るかな。
○月×日
朝。
外出の用があるため、半日分だけでも先に書いておく。
日付だけでも毎日埋めたいんだよ。
早起きをして、そそくさと朝食を済ませる。
荷物は・・・とりあえず、昔修練で使っていた木剣。
薬草と、昼食は途中で買っていこう。
同日
夜。
僧侶とは魔王を倒した日以来だ。
予感はしてたが、やはりコイツの孤児院だったらしい。
幸いにも死者は居らず、軽傷が数名出たが僧侶の回復術で事足りたらしい。
「来てくれて、本当に有難うございます。勇者様……とは、御呼びできる様ではありませんね。くすっ」
確かに誘拐犯と間違われたりはしたが、それは無いだろう、お前。
膝を震わせながら、女の子の手を握る彼女はしっかりとやっていたようだった。
○月×日
例の神父に、いくらか渡して孤児達を預かってもらい、僧侶と調査を進める。
壁についていた傷だが、これはおそらく魔物のものだと思う。
いや、断言出来るな。
僧侶は少し、追い詰められると冷静な判断に欠くところがある。
孤児を集めて生活を行うというのも、大変だったと思う。
パニックを起こしてしまったら心配なので、借りてきた馬で故郷の村へ帰した。
幼馴染と、あの男の所なら僧侶が少し休む分には最適なはずだ。
○月×日
ああ、やはりか。
魔物のキャンプを発見。
キャンプというよりは、移動型の集落とでも呼ぶべきか。
残党とは考えにくい。
まさか。
悪い予感が過る。
ただ、とりあえずこの連中をどうするか・・・いや、考える余地も無いか。
訓練用の木剣じゃ不安だが、まあ大丈夫だろう。
○月×日
ギガスラッシュ打ったら剣ぶっ壊れてワロタ。
どんだけ貧弱なんだよ、まあ連中も木っ端微塵に吹き飛ばしてやったが。
とりあえず回復のために近場の街に泊まる。
ついでにちょっと贅沢してイイ思いもさせてもらった。
おっぱいって案外重たいんですね。
○月×日
不本意ながら、村に帰る。
いやまさか風俗行ったら剣買えなくなるとか思ってなかった。
僧侶にはなんの問題も無い、ゆっくり休めと伝えた。
戦士と魔法使いには魔物の件から伏せた。
聖剣をやっとの思いで担いで、村をこっそり出ようとした時、幼馴染に呼び止められた。
「ほんとわかりやすいんだから、死ぬんじゃないわよ。……僧侶ちゃんは任せて」
どの口が言うかクソアマが。
ただまあ僧侶の事は一旦安心出来た。
コイツなら上手くやってくれるだろう。
○月×日
剣身は半分どころか、三分の一くらいだが持って歩いてたら案外なんとかなりそうだ。
加護無しで完全体振るには正直つらそうだし、折れてて丁度良かった。
孤児院の残骸を過ぎて数時間、魔物からの襲撃を受ける。
レベル低いと、こんな雑魚にも苦労するのか。
薬草が3つ減った。
かっこつけるのやめる。
死ぬかと思ったしマジで怖かった
○月×日
ガーゴイルかと思ったんだよ。
だからまだなんとかなるだろ舐めてたんだよ。
ホークマンとか魔王城の近くに居たやつじゃん。
でも腐っても聖剣。
戦い方考えれば、まだなんとかなるらしい。
「何故貴様が、加護も消えたはずなのにまだ立ち上がって……グハァ」じゃねえよ
そりゃ俺だって帰りてえよ。
剣よりも息子で、魔物なんかよりも女突いててえんだよ。
○月×日
メタルキングでテンション上がってたらのしかかりで瀕死になった。
こんな泣いたの久しぶりだわ。
ここまで女神の加護強かったんなら、もう女神が魔王殺せばよかったのに。
○月×日
魔王城、どっからどう見ても完全復活してます。
ええ、遠目でもわかります、だってあれ、俺が攻略して、崩壊させたはずでしたもん。
一人だと傷とか状態異常が致命傷になりかねない。
その意識でここまで来たから、ボストロールに襲われたけどそんなに苦労しなかった。
(メタルキングは例外)
○月×日
ヘマった。
左手ぶっ壊れた。
何なのあいつ、赤いギガンテスとか初めて見た。
壁とか柱とか構わず突進してくるし、もうなんなのあのキチガイ。
「魔王様には、貴様は勝てない……」
とか。
わかってんだよ、何だと思ってんだよ俺を、もう加護も無いそこらの近衛と変わんねえんだよ。
まあここまで来たら相討ちにでも何でもする覚悟は出来てるけど。
さて、やっと本題だな。
読んでる人がいるなら南の外れにある村に届けて欲しい。
きっと、これをアンタが読んでる時点で俺はこの世に居ないと思う。
さすがにここまで来るのにこのザマで、実感したからだ。
戦士と、魔法使いへ。
俺たちの中でも、特に仲間思いだったお前ら二人のことだ。
きっと悲しんで、一緒に戦いたかったって悔やんでくれると思う。
ありがとう。
でもさ、お前らは街や、世界なんぞよりもよっぽど守らないといけないもんがある。
仕事もせずほっつき歩いた俺だよ。
守りたいものを作れない俺だよ。
だからこそ、世界くらいは任せて、どうか穏やかに暮らして欲しかったんだ。
ごめんな
幼馴染へ。
見送りの時の言葉、久しぶりに昔のお前を見れたようで嬉しかった。
ありがとう。
約束、守れなくてごめんな。
お前の旦那さんは良いやつだよ。
だから迷惑かけないで、しっかり旦那さんと、子供と、三人で。
歩んでいってほしい。
お袋を頼む。
僧侶へ。
俺たちが終わった日。
あれから、何も助けてやれなくてごめんな。
一つ、謝りたいことがある。
王家専属の近衛やってるとか、
部下いっぱいで慕われ過ぎてて困るとか、
あれ全部嘘なんだごめん。
プライド高い俺だからさ、かっこつけちゃったんだ。
院の子供たち、様子を見るにほんとにお前の事大好きみたいだよ。
どうか、沢山の人を幸せに導いてください。
無責任で、ごめんな
じゃあ
行ってくるわ
・ ・ ・
○月×日
雲一つ無い青い空に、今日も子供達の笑い声が響きます。
一人は、魔物に親を殺され。
一人は、親に捨てられ。
境遇も様々です。
膝を抱えて泣いていた子。
盗みを覚え、恨まれながら生きていた子。
ゴミを漁り、飢えを凌いだ子。
私はあなたのお陰で、今日もこの子達に不自由無い暮らしをさせてあげられているのです。
同日、次頁
知っていますか?
戦士さんと、魔法使いさんのお宅には先日、三人目のお子さんが生まれたんですよ。
知っていますか?
幼馴染さんは、旦那さんと一緒に商売をやるうち、勝手を勉強して、
央都では知らない人のいない大きな大きなレストランを作ることに成功したんですよ。
それなのに、どうして。
どうして貴方はそれを自分の目で見てあげていないんですか?
同日、次頁
みんな、怒っています。
勝手に戦いに行ったこと。
こんなわけのわからない手紙を、いきなり届けたこと。
大切な仲間や、大切な友人に、相談してもらえなかった人たちがこんなに居るんです。
貴方のせいで。
私は、こうして日記を書かされていることが腹立たしいだけですけどね。
何が、
日付だけでも毎日埋めたいんだよ。
ですか。
同日、次頁
私、ほんとに怒ってるんです。
ほんとに、ほんとーに。
わかってるんですか?勇者様。
だから・・・。
だから・・・
明日からは、自分で。
右目は潰れてしまったけど。
左腕は無くなってしまったけど。
足も、多分治りません。ずっと松葉杖ですけどね。
日記くらい、書けますよね。
「お帰りなさい、有難う。勇者様」
fin