5 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 13:51:05.22 V1FhqYztT 1/47

「おおーいい天気!」

「さっそく水着に着替えるとしますかー」

 


6 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 13:55:10.82 V1FhqYztT 2/47

「でも今日は」

「だぁいじょうぶだってーせっかくの西カリブだよ? グランドケイマンだよ?」

「海が世界一透明なんだよーこれは泳ぐしかないでしょ!」

豪華客船の部屋から見える海と太陽が私を誘っている。
泳がないわけにはいかないでしょー。
せっかく西カリブにまで来たんだから。

 


7 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 14:00:51.56 V1FhqYztT 3/47

「そ、れ、に」

「水着持って来てるんでしょ?」

「う……」

「ふふー。さっ早く着替えないとみんなに置いて行かれちゃうよ」

「あーずさっ♪」
 


9 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 14:06:25.52 V1FhqYztT 4/47

「もーしょうがないなー」

とか言いつつも顔はにやけてる梓。
いやー素直になったもんだよ。
出会ってすぐの頃だったらキレてたかもしれないね。

「ぷふー」

「何笑ってるのよ。着替えるんでしょ」

「着替える着替えるー」
 


12 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 14:12:09.34 V1FhqYztT 5/47

梓がキャリーバッグから水着を取り出した。
ピンクだ。パステルピンクのビキニ。
この前一緒に水着買いに行った時のやつ。
あの時梓はどの水着にするかすごい悩んでて、パットとパットポケットを入念にチェックしてたからすかさず

「でもパットってスポンジだから水吸うよね。身体が乾いてるのに胸から雫が垂れちゃったり。西カリブは暑いから身体乾くの早そうだなー」

「それにシリコンでも海で泳いだら取れちゃうかもしれないし」

って言ってみた。
そしたらしばらく動かなくなった後、何か吹っ切れた顔をしてパステルピンクの水着を掴んでいた。
ごめんね梓。
気持ちは十二分にわかるんだけど、こう、ありのままを見たりさわったりしたいっていうか……。
 


13 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 14:18:15.69 V1FhqYztT 6/47

そんな事を思い出している内に梓が着替え始めた。
水着もそうだけどやけに手際がいいなぁ。
からかいたいけどここは我慢しよ。
それよりも。
梓は部屋着のショーパンを脱いで下着に手をかけて……動きが止まった。あれ。

「……見過ぎ」

「へっ? あ、あはは……」

ばれた。

「そ、そんなに気にしなくてもいつも一緒に着替えたりしてるじゃーん」

「……」

その後の梓は鉄壁の守りだった。
何となく中学校の水泳の授業を思い出した。
 


14 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 14:24:11.64 V1FhqYztT 7/47

無言で着替えた。

「着替え終わったよ」

「私もー。おおー水着似合ってるよ~可愛い」

「……どもです」

目をそらしつつそう言って、軽く足をすり合わせた。
かわいい。

「ふむ……」

無地のパステルピンクのビキニ。
南国っぽいトロピカルな水着も捨てがたいけどこっちもいいねえ。
上下共にフリルが施されていてかわいい。
特に胸のあたりのフリルがボリューム満点で梓のつつましやかな膨らみをふわっとカバーしている。
なるほどこれが狙いだったのか。
そこを気にしてる梓かわいいよう。

「あず……」

「……」

ジト目で睨まれた。
どうして思ってる事がすぐばれちゃうんだろ……。


16 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 14:30:52.43 V1FhqYztT 8/47

「い、いやー私てっきりチェック柄の水着にするのかなって思ってたけど私はこっちの方が好きだなー……」

「まあ……そうですか」

梓はそっけない返事をしてキャリーバッグをあさり出した。
そっけない返事の中に何となく含みのある感じがする。
梓がこういう態度を取る時は実は嬉しがってたりするんだよね。
なんだろ……何か前に……。
水着の話だと思うんだけどなぁ……水着……ピンク……あれかなぁ。
2年くらい前に高校時代に着てたピンクの水着可愛かったねって梓に言った気がする。
確か旅行中に海で泳いでた時だっけ。
もしかして今回のチョイスはそれを踏まえてだったり? フリルもついてるし。
ってそんなわけないか。

梓がバッグから取り出したのは日焼け止めだった。
なるほど必需品だね。

「塗ってあげる。そこ座って」

「まあ!」
 


18 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 14:36:17.66 V1FhqYztT 9/47

「ありがとー」

ベッドに座って背中を差し出す。
梓の指が首筋、肩、背中へと滑り液体が塗られていく。
あー、いいねこれ。
梓の小さい指がやさしく行ったり来たり。
おお……なんていうか、いいんだけど触り方がなんだか……。

「……あずさ?」

「どうかした?」

「いやぁ、別に……」
 


20 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 14:43:28.38 V1FhqYztT 10/47

とてもゆっくり指を這わせて鎖骨のそばとか、腋の下のそばとか、脇腹の周りなんかを執拗に塗ってくる。
我慢できるくらいのくすぐったさなんだけど、それがずうっと続いてくると変な感じに……。

「……んっ」

梓の指に身体が反応しちゃって自然と力が入る。
触れるか触れないかぎりぎりの撫で方。
くすぐったい。たまにぞくっとくる。
……わざとかなあこれ。
ここでようやく背中から指が離れた。
やっと終わっ――

「ひあっ!?」

解放されたと思ったら腰の辺りから背骨のラインをつつーっと撫で上げられた。
不意打ちのせいで身体が弓なりに跳ねてしまう。
背中が弱いの知っててやったな。
変な声まで出ちゃったじゃん!

「ぷっ」

「もうっ! わざとでしょ!?」

「えへへ、ごめんなさい。でもさっきのお返しだもん」

たまにイタズラ(?)されるんだよね。
これも素直になったって事なのかなぁ……?
 


22 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 14:49:12.78 V1FhqYztT 11/47

ようしおかえししちゃうぞ。

「わたしもぬってあげるヨー」

「自分で塗るから大丈夫」

「そんな事言わずに」

「……はい塗り終わった。準備出来たし行こうか」

「……」

「早くしないと置いて行くよー」

「昔はもっと可愛げがあったのに……」

「気の所為でしょ」

「そんな……」

 


24 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 14:54:58.64 V1FhqYztT 12/47

そんなこんなで私達は今豪華客船に乗っています。
とっても大きいんだよ。
容積は東京ドームといい勝負で世界最大級の豪華客船。
そこにはホテル並みの客室とかプールとかライブホールとか色んな娯楽施設とかが詰まってる。
他にもレストランがあったり買い物出来たりそれから公園みたいな場所もあるんだ。
それでいてどこもすごく広いんだよねえ。
一回のクルーズじゃ遊びつくせないんだもん。
そんなすっごい船に乗るのも今回で……何回目だっけ?
この船を拠点にカリブ海をぐるっと周って色んな場所を旅行したっけ。
思い出深い船です。色々と。

 


25 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 15:01:37.01 V1FhqYztT 13/47

そして西カリブクルーズ最初の寄港地グランドケイマン島へやってきました。
ここの海は世界で一番透明なんだって。
天気もいいから海の底まで楽々見えたよ。
シュノーケリングしたり間近でエイを見たり。
世界にはこんなに綺麗な場所があるんだなって思った。

砂浜も白くて波打ち際がとても綺麗だったから海と砂浜の間を歩くことにした。
日射しは強いけれど時折くるぶしの辺りまで波に浸されるのが気持ちいいな。
こうやってぼーっと歩くのが何となく楽しい。
けどちょっと疲れてきた。それに戻るのが大変だ。
と思ったら丁度いい所にビーチサイドバーがあるじゃないですか。
まだ午前中だけどここは一杯……ふふっふ。

「ゆいっ!」

「え?」

「何してるんですか。……まさか飲もうなんて思ってないですよね」

「あえっ……あずにゃん先輩どうしてここに……」
 


27 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 15:07:05.21 V1FhqYztT 14/47

「もう、急にいなくなるんだから。置いて行かないでよ。それに今日はまだダメでしょ」

「や、やだなぁジュースだよジュース……ほんとだよ?」

「……はぁ。少しだけ休憩したらすぐに戻りますからね」

「さっすがあずさ話がわかるぅ!」

「ジュース、だからね」

「え、あ、うん……」

「じゃあ行こ」

振り返れば私の足跡とそれに寄り添うもう一つの足跡。
結構長く歩いたと思っていたけど前を見ればそれ以上にまっさらな砂浜が続いている。
まだまだ知らない場所がいっぱいあるから、いつかそこに辿り着けたらいいな。

「唯ー?」

「今いくよー」

 


29 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 15:13:17.41 V1FhqYztT 15/47

その後みんなと合流してもう少しだけ泳いで日の高いうちに豪華客船の自室に戻った。
透明な海が名残惜しいけど仕方ない。
夜に備えてやる事もあるし何より遊び疲れてちょっと眠い。

ベッドに入ってちょっと休憩。
あぁ、ふかふかのベッド最高……。
この船には何度か乗ってるけど旅先のベッドって新鮮な感じがするなあ。
自分のベッドじゃないと何故か早起きも出来ちゃったりするんだよね。
最初にこの船に乗った時もそうだったしホテルなんかでも……。
思えば今この豪華客船にいるのは早起きのおかげかも。
同時に梓と特別な関係になるきっかけでもあった。
早起きは一生の得かもしれないね。

あれは私達が一歩前進したライブツアー。
……が終わった次の日だっけ。

 


31 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 15:19:16.97 V1FhqYztT 16/47

 
ライブとその打ち上げ第一弾が終わってホテルでぐっすり。
朝起きると珍しく梓だけ寝坊してたんだよね。
疲れが出たのかなと思って梓の部屋を覗きに行ったんだ。
あれ、部屋の鍵どうやって開けたんだっけ?
まぁいいや。

 


33 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 15:25:26.77 V1FhqYztT 17/47



薄暗い部屋に入る。
梓の寝息が聞こえそうな気がした。
暗くて顔も見えないからちょっとだけカーテンを開けて朝の光を入れる。
さあ起こそうと思って梓の傍まで行って、寝顔に見入ってしまった。
寝顔が可愛いかったからもっと見ていたくて。
それになんだかとってもしやわせそうな顔をしていたからもう少し寝かせてあげたくなった。
急ぎの用があるわけでもないしね。

 


34 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 15:32:15.78 V1FhqYztT 18/47

あどけなさの残る寝顔に少し開いた唇。
呼吸で僅かに動くそれから目が離せない。
もっと近くで見てみたくなる。
艶のある真っ直ぐな髪。
綺麗に伸びた睫毛。
ちょっとだけ小さくてふっくらとした唇。
色付き始めた桃みたいな唇。
やっぱり唇に目が行く。
寝息もはっきり聞こえる距離からさらに顔を寄せた。
気付かれないように自分の息も止めて。
あと少しで触れる距離まで来て、やっぱり顔を上げた。
……これはまずいでしょ。
と思いつつまだ眺めていると梓が唸った。
慌てて梓から離れる。
よかった起きなかったみたい。
今すぐ起こすのは何となく恥ずかしいからソファに座って待つことにした。

 


37 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 15:39:04.07 V1FhqYztT 19/47

10分くらい経ってもぞもぞと動く音がしたけどまだ起きてこない。

「はぁ……」

ため息?
もう起きたのかな。
それから少しして梓がむくっと起き上がった。

「あっ起きた」

「ふぁい………………なんでいるんですか!?」

寝ぼけた表情も可愛いなあ。

「あずにゃんが中々起きてこないから様子を見に来たんだよ」
 


38 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 15:45:27.54 V1FhqYztT 20/47

「何で勝手に部屋入って来てるんですか。どうやって」

「えーっと……」

「……」

「それより珍しくお寝坊さんだねー」

あ、呆れた顔した。

「疲れてましたから」
 


39 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 15:51:18.14 V1FhqYztT 21/47

「それより部屋入って来たなら声かけて下さいよ。私起きてたのに音も立てないから気付きませんでしたよ」

さっきまで本当に寝てたみたい。
よかった。

「気持ちよさそうに寝てたから起こし辛くてつい……えへへ」

「うっ……」

「あれ?」

「はい?」

梓の表情からさっきの寝顔のような柔らかみが消えている事に気付いた。
さっきまであんなに気持ちよさそうに寝てたのに。

「あずにゃん……気持ちよくなかった?」

「え、は!?」

「寝てる時と違ってなんていうか……んー……元気ない? あれ、寝てる人は元気じゃないか」
 


40 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 15:57:09.01 V1FhqYztT 22/47

「あ、ああ、気持ちよく寝てたっていう意味ですか」

「……ちょっと夢を見まして」

「もしかしてよく見るっていうあの夢?」

「それではなかったんですけど……」

梓はライブ前になるとたまにライブで失敗しちゃう夢を見るんだって。
私そういう夢見た事ないや。

「どんな夢だったの?」

「え゛っ?」

 


43 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 16:03:44.50 V1FhqYztT 23/47

梓の見た夢は豪華客船に乗って旅行する夢だった。
泳いだりレストランで食事したりとにかく素敵な夢だったんだって。
だからそれが夢だったのが哀しいって言ってた。
これは後から聞いた話だけどその夢の中で私と一緒に旅行したらしい。

その話を聞いて私まで旅行に行きたくなって、あわよくば梓と一緒になんて思った。
梓を元気付ける事もかねて実際に夢を叶える事を提案して、そしたらうまい具合に梓も乗ってくれて。
その勢いで私と一緒に行こうよって言おうとしたのに、口を衝いて出たのは『みんなで行こう』。
自分でもびっくりした。
ここ一番で怖くなって、それでも何とか梓と行けるようにと思ってみんなって言っちゃった。
今更言い直す事も出来ない。
私の意気地なし。
だけど、まさかここで梓が言ってくれるなんて思ってもみなかった。

「あ、あのっ! 夢だと二人旅のクルーズだったっぽいんですよね。だから……一緒に行ってくれませんか?」

 


44 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 16:09:10.61 V1FhqYztT 24/47

梓がもう一度私にチャンスをくれた。
予想してなかったからすっごくびっくりしたし本当にうれしかった。

「私でいいの!? 行きたい行きたい!」

「あ……ではお願いします」

「やったーあずにゃんと豪華客船の旅だー!」

即了承して早速行き先を決める話に移る。
西カリブか東カリブかで揉めてこの時は東カリブのクルーズへ行く事になった。

 


46 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 16:15:59.67 V1FhqYztT 25/47

それから数日。
当時の世界一大きい豪華客船に乗って二人きりの旅行が始まった。
南国の島々を周って泳いだり観光したり。
梓と行く旅だったからずっとはしゃぎっぱなしだったなぁ。
それに梓がくれたチャンスは私に勇気もくれた。
今度は絶対に怖気づかないぞって肝に銘じたし、これからもとにかく頑張ろうって決めた。

今までに色々考えてた事があって、そのせいで怖気づいちゃったのかもしれない。

 


47 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 16:21:06.15 V1FhqYztT 26/47

私のお父さんとお母さんはとっても仲が良い。
みんなそう言うし私もそう思ってる。
それは私が年を重ねるにつれて余計にそう実感するようになった。
というのも友達や知り合いの話を聞くと必ずしも両親の仲がいいわけじゃなかったから。
じゃあその夫婦がそれでも一緒にいる理由はなんだろうって考えた。
結婚しているから?
子供がいるから?
お金の問題?
別れた先に何もないから?
私の予想でしかないけれど、これらを私と梓に当てはめてみると急に怖くなった。
私達が結ばれたとしても結婚は出来ない。
私達の子供は生まれない。
お金だって余計にかかる。

私と梓の間に縛るものは何もなかった。
 


49 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 16:26:40.75 V1FhqYztT 27/47

繋がりがあるとすればたったひとつの目に見えないものだけ。
そしてもしそれが途切れてしまったら。
私の都合で何年も梓を振り回して、その先で別れたとしたらどうなるのか。
私と一緒にいればいる程梓の次の夢を潰していく事になる。
どうしたって年は取ってしまうんだから。
何もかも若い時のようにはいかなくなる。

梓が結婚したかったら。
梓が子供を産みたかったら。
梓が……。

 


50 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 16:32:23.41 V1FhqYztT 28/47

縛るものがないからこそ気持ちと覚悟は人一倍持っていないとだめだって思った。
私は……いつも考えてた。
だから気持ちも覚悟もあるって言える。
だけど私ひとりじゃだめ。
梓が私と同じ気持ちを持ってくれたとして、その先の事を受け入れられなければ。
生活だって他と比べて大変だろうし。
今じゃ想像も出来ない事だって起こるかもしれない。
ずっと一緒に暮らせても死ぬ時は別々で、その後は?
私がいなくなったとしても梓を守らなきゃいけない。

だから梓にもそう思ってもらえるようにしたかった。
決して無理強いじゃなく。
っていうのが怖気づいた理由の半分で、もう半分は……ただ自信がないだけだったり。
 


51 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 16:38:07.27 V1FhqYztT 29/47

とにかく!
この旅行で梓に触れて話して、改めて梓の事が好きだって確認できたんだ。
今まで考えてきた事。
それは臆病になるためじゃなくて二人で長い路を歩いて行くためのものだって思い出した。
だから頑張ろうって。
そういう心配はもう少し後でも、二人で歩けるようになってから一緒に考えたっていいんだよ。

そんな私の決意が功を奏したのか、クルーズも後半に差し掛かったあの日の夜に――。

 


53 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 16:45:16.62 V1FhqYztT 30/47

私と梓は船の船尾で行われるショーを見てた。
600の客席は全て埋まって大勢の人が楽しんでいた。
私はこのステージに立ってライブがしたいと思ったんだ。
船の中には1350席のライブホールもあるけどこっちの方が海の上って感じがして楽しそうだった。
それにこっちは野外ステージだからより多くの人に私達の演奏を聞いてもらえるかと思って。
そんな思いつきの夢を梓に話した。
そこから梓が見た夢の話になって……そうそうこの日は梓の誕生日だったんだ。
だけどすっかり忘れててプレゼントを用意してなかった。
そんな私に

「唯先輩がここまでついて来てくれた事が私にとって既にプレゼントです。という訳で誕プレはもう貰ってます」

なんて言ってくれちゃって……えへ。
それから梓は――

 


54 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 16:50:19.50 V1FhqYztT 31/47

「あの……」

「なぁに?」

「この旅行でまだ叶えていない夢がありました」

「そうなの?」

「ええ、むずかしいやつが残ってるんです」

梓のいつにもまして真剣な表情に淡い期待が生まれる。

「……なになに? せっかくの誕生日だし協力するよ?」

「これも誕生日プレゼントってことで」

「プレゼントですか……でも私が本当に欲しい物ってプレゼントには出来ないんですよ」
 


57 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 16:57:54.67 V1FhqYztT 32/47

「ふぅん……そうなんだ」

「もちろんこの旅で先輩から貰ったものも嬉しいんですけど、こればっかりはその……」

こんなに緊張してる梓はライブ前でも見た事ない。
けどそれは私も同じだった。
手に汗がにじむ。

「……」

「私の夢は自分で掴み取らないとダメなタイプっぽいので」

はっきりと言い切った。
確かな意志を持って私を見上げている。

「……そっか。それは頑張らないとだね」

「はい。だから」

「唯先輩、聞いてもらえますか」

「私は唯先輩が……好き、です」

 


58 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 17:03:28.93 V1FhqYztT 33/47

うふ。
うふふふふ……。
あの日の事は鮮明に覚えているし、何度思い返してもにやけちゃう。
だってあの梓が、あずにゃんが私に……えへへへ……。

「唯先輩……好きです」

えへぇ。
私もだよあずにゃん。

「ゆい。ゆいっ」

ゆい、だって。
よびすてにされちゃった。

「ゆいってば」

うんうん。
わたしもすきだってばぁ。

「なにいってるのよ。はやくおきてってば」

うんうんおきるよー。
……おきる?

「唯!」

 


59 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 17:09:52.68 V1FhqYztT 34/47



「もうライブ始まっちゃうよ!」

「……ふあっ!?」

「はぁーやっと起きた」

「……あ、おはよあずにゃん」

「おはよじゃないよ。あと15分でライブ本番なんだよ?」

「ライブ……15分……?」

「……え」

「うそおおっっ!?」
 


60 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 17:14:33.05 V1FhqYztT 35/47

「わーーーどうして起こしてくれなかったの!?」

「起こしたじゃん」

「ど、どうしよっ?! まずは、なに、あっミーティング!? リハ!?」

「あれ衣装は!?」

「落ち着いてまずは顔でも洗ったら?」

「そ、そうだねっ!」

大急ぎで顔を洗って表に出られる準備をした。
私ばっかり急いでて梓は部屋でのんびりくつろいでいる。

「ねえっ15分で本番ってぜったいマズいよね!?」

「あ、すみません時間間違えちゃいました。今から準備すれば普通に間に合いますね」

「へ? …………だまされた!?」
 


61 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 17:20:03.71 V1FhqYztT 36/47

「ごめんごめん。でも今日は大事な日なんだし早めに準備した方がいいでしょ?」

梓がニコニコしながら謝ってきた。
やっぱりいじわるになった気がする。
ピュアにゃんカムバック。

「こうでもしないと起きないかと思って」

「もぉぉーひどいよあずさぁ!」

「もしかして楽しい夢でも見てた?」

「へ? 何でわかったの?」

「寝顔がニヤついてたから」
 


63 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 17:27:11.94 V1FhqYztT 37/47

「むっ……まあね」

「どんな夢?」

「梓が私に告白してくれた時の夢」

「う……あ……」

日に焼けて分かりにくいけど顔真っ赤だね。
ふふん。
私だって梓の弱点(?)くらい知ってるんだから。

 


64 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 17:34:28.00 V1FhqYztT 38/47

「ゆ、夢と言えば本当にここでライブできるんですね」

この豪華客船でライブをやる。
それは初めてこの船に乗った時私が掲げた夢。

「私達の夢が叶うね! でもカバー曲だけなのがなー」

「それでも十分凄いと思うけど」

「どうせなら放課後ティータイムの曲やりたいじゃん?」

「それはまあ……でも今回私達がやる曲って世界的に有名なのばかりですよ。それも何十年も前の」

「んー、じゃあ私達がおばあちゃんになるまでにはなんとかしたいね」

「ほ、本気?」

「もちろん!」

「ですよね……」
 


65 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 17:40:19.65 V1FhqYztT 39/47

「この船には思い入れもあるし」

「それはそうだけど」

「カリブ最高だし何回でも来たいじゃん!」

「……そういえば私達の旅行先っていっつも南国ばっかりな気が」

「えーいいじゃん南国。いっぱい泳げるんだし」

「それはそうだけど……旅行先決める時に唯がいっつも泳ぎたいって言うから」

「ええー。そういう梓はどこでもいいって言うじゃん」

「まあ今回は遊びで来てるわけじゃないからいいけど」

「じゃあ次はどこに行こうか」

「もう次の旅行の話ですか」
 


66 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 17:46:23.45 V1FhqYztT 40/47

「うん! まだまだ行った事ない場所いっぱいあるからね。カリブだって全部回りきれてないし」

「梓はどこに行きたい?」

「うーん……私はどこでもいいよ」

「ほらー。……でも私もどこでもいいかなー。梓が一緒なら!」

「……はいはい」

「ふふっ」

「なんですか」

「何でもないよー」
 


68 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 17:52:05.22 V1FhqYztT 41/47

「とりあえず旅行の話はライブが終わってからね」

「あ、そうだったライブ」

「……唯は気楽でいいなぁ」

「失礼な、私だってちゃんと色々考えてるんだよっ!」

「ふーん」

「むー」
 


70 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 17:58:46.77 V1FhqYztT 42/47

「確かに有言実行はしてますけど」

「でしょー?」

「思えば私が見た夢からすごいところまで来ましたね」

「その夢がきっかけでここでライブする事になったもんね」

そしてあの日私達が結ばれるきっかけにもなった。
梓はあの日の事を今までで一番素敵な誕生日って言ってくれた。
私もすっっごく素敵な日を過ごせたと思うし……あれ?

「そろそろ行こうか」

「……ねえねえ」

「何?」

「今日って私の誕生日じゃない?」
 


72 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 18:04:53.87 V1FhqYztT 43/47

「……あ、誕生日おめでとうございます」

「えー……ひどいよあずにゃあぁぁ」

「いやいや、ここは日本と14時間の時差があるから日本だと……えっと」

「日本はもう28日だよっ!」

「はぁ……もっとこう、サプライズパーティみたいなのないの?」

「へっ!?」

「梓? ……あっ、もしかして?」

「……」

「い、いやーライブ楽しみだねー……」

「あともう少しだったのに……」

「梓は嘘がつけない子だね」

「ああぁ……」


74 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 18:11:45.18 V1FhqYztT 44/47

「いやーがぜんやる気が出てきたぞ!」

「はぁ」

「梓」

「なに?」

「今年もよろしくね」

「あ、うん……こちらこそ」

私達の関係はどこまで行っても危うい事に変わりはない。
それは逆に言うといつも緊張感があって、飽きないように愛想を尽かされないようにってお互い頑張って、それが上手くいってるって事でもある。
だから私は毎年この時期が来ると梓に今年もよろしくって言うんだ。

 


77 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 18:18:17.55 V1FhqYztT 45/47

「あずさっ」

「そろそろ行かないと……ゆい?」

梓の肩を掴んだ。
こちらを見上げる澄んだ瞳の中には私がしっかりと映っている。
それからやっぱり唇に目が行く。

「え、と……」

戸惑う梓へ形に出来ない誓いのくちづけを贈った。
永遠のつもりだけどとりあえずは今年一年の幸せを願って。

 


79 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 18:25:12.67 V1FhqYztT 46/47

「……よし。じゃあ行こっか」

「ん……いきなりですね。何で今?」

「んー……誕生日プレゼント的な?」

「ふふ、それだと安く済んでいいかも」

「それはどうだろうね」

「へ?」

 


80 : 以下、名... - 2012/11/27(火) 18:31:14.00 V1FhqYztT 47/47

「よーしライブ頑張っちゃうぞ! 世界よ、これが放課後だ!」

「あっ待ってよ!」

素敵な夢を分かち合える存在。
お互いが刺激し合う素敵な関係。
たったひとつの目に見えないもので繋がれている。
この先もずっと――。



長い路を二人で共に歩いてく生き方
終わりのない悲劇でも構わないよ
君といれれば



END


 


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