妹「またそんなに飲んで帰ってきて…」
姉「飲まないでっ……いられるかってー!」
妹「はい、水」
姉「妹は気が利くなぁーやさしーなぁー。あいつとは大違い!!」
妹「…あいつって…彼氏さん?」
姉「そうそう…って違うの!元彼なの!!!」
妹「また別れたんだ」
姉「もう…わたしには妹しかいなぃいい……妹だいすきぃいーー!」ギュッ
妹「…わっ……」
姉「えへへーっすきすきぃ…」ゴロゴロ
妹「……」
お姉ちゃんは、無邪気に甘えてくる。お酒を飲んだときにはよくあることだ。抱きつかれたりするのはもう慣れた。
でも…やっぱり、「好き」って言われるのにはどうしても慣れない。
だって私は……お姉ちゃんが好きだから。
元スレ
妹「お姉ちゃんを卒業するね」
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1261216026/
妹「…洗い物おわったよ、ママ」
母「ありがと、助かるわ…。受験勉強あるんだから、私がやったのに」
妹「気分転換にもなるから」
母「…そう。ちょっとは姉も見習って欲しいわね。姉は家の手伝いなんにもしないんだから」
妹「……」
社会人になったんだから、別にお姉ちゃんがお手伝いする必要ないよね?という言葉を飲み込む。
「社会人になったんだから逆にしっかりしなきゃ」とか「休日いつも暇そうじゃない」とか言われるに決まっている。
母「…じゃあ、もう寝るわね。まだ受験本番まで長いんだから、妹も無理しないで早く寝てね?」
妹「うん」
勉強ってやりだすまでが大変だけれど、一度机にむかって参考書を開けば、気がついたら2,3時間くらい経っていたりする。
この時もそんな感じで、数学の参考書の解法と戦う事に夢中だった。
…でも、やっぱりこの音には反応してしまう。
キィ…
姉が帰ってきて、玄関を開ける音だ。
ドアの蝶番が擦れる、高い金属音。深夜なので、いつもゆっくり開けてくれている。
「…帰ってきた」
私は数学の解法とは一時休戦することにして、部屋を出て玄関へと向かった。
妹「おかえり」
姉「ただいま。あーーっ、疲れた!」
妹「お疲れ様。今日も残業?もうすぐ日が変わる前に帰って来れてよかったね」
姉「ほんとほんと。あ~あ、ご飯が恋しいなぁ」
妹「いま用意するから。着替えたら台所にきてね」
姉「わーい!ごっはん♪ごっはん♪わっくわく♪」
妹「…お姉ちゃん。もうお父さんとお母さん寝てるよ」
姉「…あうち」
姉は大げさに口をおさえると、そろーりそろーり、つま先歩きで自分の部屋に向かう。
…お姉ちゃんは、酔ってななくてもちょっと変な人だ。
妹「…いっぱい食べたね」
姉「お昼からずっとたべてないんだよ…。食べる暇もなかったからさぁ…」
妹「じゃあ、ちゃちゃっと片付けちゃうね。お姉ちゃんは寝る支度してていいよ」
姉「ふ、ふ、ふ」
妹「えっ…な、なになに?」
姉「今日はコレを買って来たのだ!」
妹「これ……お酒…」
姉「妹も一緒に飲もう!!」
妹「えっ!?わ、わたしはいいよ!」
姉「むすーっ!」
姉「やだやだやだ!!妹といっしょにお酒飲みたい!!」
妹「私、お酒飲んだことない…」
姉「お正月飲んでるじゃない?」
妹「いつもちょびっとしか飲んでないよ」
姉「まぁまぁまぁまぁどうぞどうぞ」
氷を入れた小さいグラスに、「焼酎」っていうお酒が注がれる。
お酒の瓶のラベルは「赤霧島」。姉は「けっこーしたんだぞぉ」と言っていた。
たぶん、お姉ちゃんの薄給にしては、だけど。
妹「…なめるぐらいでいいよぉ」
姉「まぁまぁまぁまぁ。それくらい飲めるって!乾杯しよう、かんぱい!」
姉「かんぱーいっ!」
妹「か、かんぱい…」
姉「…んっ…くぅーーっ、うまいネェ!」
お姉ちゃんはゴクッと飲んで、グラスの中身を一気に飲み干してしまった。
一気に飲めるくらい、度数が高くないのかな?と思って、私もジュースを飲む感じでグラスを傾けた。
妹「うっ……」
姉「どうっ?どうどう?」
妹「…の、のどがっ……」
姉「焼酎くらいで、のどぉ?うそうそ」
妹「でっ、でもっ……うぅ…アルコール臭い…。理科の実験で使ったアルコールランプみたいな臭いする」
姉「えーっ?どこがよぉ?」
そういいながら、お姉ちゃんは自分のグラスに並々とお酒を注いでいる。
こんなにキツイのに、よくそんなに飲めるなぁ…。
私が今高校三年生で、お姉ちゃんは社会人1年生。
…そういえば、3,4年前ごろから、酔っ払って帰ってきたりしてたなぁ。
姉「ちょうど妹ぐらい年の頃よね。だっから妹も平気!もっとゴクゴク飲んで!」
私のグラスにお酒が注がれる。…正直、飲み干せる気がしない。
妹「もう私飲めないよぉ」
姉「なーによぉ。お姉ちゃんにできるものって、たいていあんた出来るじゃない」
妹「…そんなことないって」
姉「ふーん。…まぁ、いっか。お酒は私の勝ち~」
お姉ちゃんはニヤニヤしながらそう言って、買ってきた味好みをほおばり、またグラスを傾ける。
今度は一気にお酒の量は減ったりしなかった。…どうやら、お姉ちゃんの飲み方があるらしい。
それとも、お姉ちゃんのやり方はノーマル?
妹「…はふぅ…んっ」
お姉ちゃんの真似をしてみようと、一気に飲まないように、恐る恐る焼酎をなめた。
…やっぱり、アルコールランプのにおいがした。
姉「あーぁ、なんであんな男と付き合っちゃったのかなぁ…」
まもなく、姉の愚痴大会になった。
会社の上司の愚痴から入って、やっぱり男関係に落ち着いた。
妹「この前はなんで別れたンだっけ?」
姉「うわきうわきうわきーっ!きぃいいい!!!」
妹「ちょ、ちょっと静かにしてよぉ」
姉「これが静かにしてられるかっ!」
姉「あーーっくそーーーっ!!」
姉「バカバカバカバカバカバカッ!」
妹「あはは…」
妹「…なんで浮気するのかなぁ」
姉「わっかんねーよぉ。私が教えて欲しいよぉ」
たとえば、付き合ってる人が居るんだけど、イケメン芸能人に言い寄られて…。
これじゃ駄目か。非現実的か。
でもきっと、それに近いことが浮気する人には起こってるかもしれない。
姉「あーぁ。これで4回目だよ…」
妹「お姉ちゃんって、いつも振られる側だよね…」
姉「そうそう!お姉ちゃんは一途なのよ…なのに…なのにぃいいぃい……!」
食卓に突っ伏すお姉ちゃん。…かわいそう。
わたしなら、どんなイケメンに言い寄られても、お姉ちゃん一筋だよ?
言葉にはださないけれど、なんだか愛しくなって、お姉ちゃんの頭をなでなでしてみた。
姉「うぅ…やさしいなぁ。妹はやさしぃなぁ…」
妹「…浮気するってことは、お姉ちゃんにとって運命の人じゃなかったんだよ」
姉「運命の人…かぁ」
妹「そうそう」
姉「…確かに、運命の人ではなかったね」
妹「思いあたる節があるんだね」
姉「うん…」
姉「メールの返事遅いし、電話に出ないし、デートには遅れてくるし、私の誕生日に仕事休んでくれないし…」
姉「映画見に行ったら寝るし、ジェットコースター乗れないし、冗談通じないし」
姉「たけのこよりきのこ好きだし、ファミチキ食べれない草食だし、賢者モード入ると扱い雑だし…」
妹「…賢者モード?」
姉「…でね、服のセンスが酷くてさっ。待ち合わせた瞬間服買いに行ったのよ」
姉「もちあわせないんだ~、とか言うからさ、私が服代おごってやったわけ!」
姉「そしたらあいつ……『趣味わるくね…?』とかぬかすんだよ!きぃいいいいー!」
姉「趣味わるいのはおまえじゃーっ!ボケーッ!」
妹「それは別れて正解だったよ、うん」
姉「ね、今思えばそうよ!コレだけ世話してくれる彼女を手放して、浮気なんかしやがるだから、さっさと別れてよかったのよ」
姉「…でもね、さらにねっ、浮気発覚したあとあいつ何って言ったと思う?」
姉の愚痴はなかなかとまらない。
でも、私は姉の愚痴を聞くのが好きだ。
愚痴を言っているときの姉の顔は…なんというか、輝いている。
私は愚痴を聞いている最中、意識の半分を耳に、もう半分を姉の表情に向けている。
姉「『忘れるから忘れてね』ってのよ!もう信じられる?ありえないよ…ほんっとありえないっ!」
妹「えーっ、男の人って冷徹…」
姉「ねー!ねー!もー、ほんと妹だけよーっ。わかってくれるのは!」
姉「…ふぅ、ごめんねー。なんか愚痴っちゃって」
妹「ん?お姉ちゃんとお話楽しいよ?」
姉「むぅ…、ほんとに良い子や……」
姉「…妹は彼氏作らないの?世の男が放っておかないわよ、きっと」
妹「えー、別に、いいかなぁ。彼氏欲しいって思ったことないし」
姉「えっ!?」
姉「……彼氏…欲しく…ないの?」
妹「う、うん…」
ほんとのことだ。
中学・高校と女子校だったからかは分からないけれど、そんなに男の人と接したいと思ったことが無い。
…というか、私は小さい時からお姉ちゃんしか見てこなかったのだ。
…おぼろげに覚えている。私が小学校一年生の時だ。
当時小学校五年生だった姉が、体育館で表彰された。
その時は何の表彰か分からなかったけれど、絵のコンクールで賞をとったらしい。(ちなみに姉は絵が決して上手くない)
それ以来、「私のお姉ちゃんはすごいんだ」という印象がついて回って、お姉ちゃんの真似をよくするようになった。
服の趣味はもちろんのこと、好きなCDや映画、食べ物、アイドル、勉強の方法まで真似をした。
姉「大学行ったら彼氏なんて勝手にできるのよ」
妹「そうなの?」
姉「だって、私にもできたしね!」
お姉ちゃんは胸を張って言うけれど、…正直、お姉ちゃんは見た目だけならすっごく綺麗だ。
ただちょっと、行動が突飛で変だったり、…愚痴を聞いて分かった事だけど、ちょっと彼氏を縛りたがる癖がある。
だから『印象と違った』と付き合ってから言われるらしい。
姉「…あぁ、妹も大人の階段のぼってくのかなぁ」
妹「うーん…」
姉「さびしくなっちゃうなぁ」
…真似をするようになった私は、…つまり、お姉ちゃんの事ばかり見ていた私は、ある時お姉ちゃんの事が「好き」だと自覚した。
姉「彼氏ができたんんだ♪」
満面の笑みで私に報告する姉。
私は嫉妬で頭がおかしくなりそうな夜を、幾日も過ごした。
…もっとも、嫉妬の感情が嫉妬であると気付いたのは後の事で、それと同時に私は姉の事が好きだと気付いた。
妹「…私は、彼氏いらないかな」
姉「なんで?」
妹「うーん…」
妹「うーーん…」
姉「酒につづいて、男関係でも私が勝つかな?」
妹「……」
姉「…私は妹の学校通ってたとき、彼氏欲しくてたまらなかったけどなぁ」
焼酎を飲みながら、懐かしそうに姉は語る。
「お姉ちゃんがいるから、私は彼氏なんていらない」とは、口が裂けても言えないよ…。
妹「お姉ちゃんは、どうして彼氏が欲しいの?」
姉「うーん、そうだなぁ」
姉「やっぱり、自分を分かってくれる人が欲しいからかな」
姉「友達とか、会社の同僚とかじゃなくて、恋人じゃないと分かってくれないことをわかって欲しいかな」
姉「…あとは、素直に生涯の伴侶がほしい…なぁ……えへへっ」
「それ…私じゃ駄目なのかな」という言葉も飲み込む。
ちょっと、悲しくなってきた。
妹「私にはわからないなぁ…」
姉「…ふーん」
妹「……」
姉「……」
それからちょっとの間、姉は黙った。さっきまであんなにうるさかったのに。
つまみの味好みと、焼酎を交互に口に入れること3回。
その後に姉の口から出た言葉を、私はしばらく信じられなかった。
姉「妹さぁ…」
姉「…わたしのこと、バカにしてるでしょ?」
妹「えっ…?」
姉「…私が振られてさ…いっつも振られてさ…バカにしてるでしょ?」
妹「そ、そんなっ!」
姉「さっきも運命の人とか青いこと言ってたもんね…」
姉「自分は運命の人とやらと結ばれると思ってるんでしょ?そんなに甘くないから。ありえないから」
妹「ちょと、お姉ちゃん!酔ってるよ…やめて…ね?寝よ?」
姉「酔ってないよ!バカにしないで!!」
姉は叫びながらグラスを食卓に、ガシィーン!と叩きつけた。
妹「ひっ…」
姉は粗野だが、決して乱暴ではない。人が変わったような姉に、私は怯えた。
姉「あんたが思ってるほど…甘くないんだから……」
姉「今まではレールに乗って来れただろうけど…そんなものないんだからっ!!」
妹「お姉ちゃん…」
姉「バカにしてるんだ。…ずっと、バカにしてた」
姉「私よりも可愛くて、頭がよくて、気が利いて、親にも気に入られてて、穢れもしらない…」
姉「私は……わたしはっ……」
姉「いいじゃない…男くらいっ……。いいじゃない……」
妹「…バカにしてないよ。私、バカになんかしてない。むしろ…」
姉「嘘よ!絶対嘘。いつも私が振られて泣いてるとき、妹は私はこうなるまいって思ってる」
妹「違っ…」
姉「違わないわよ!」
妹「っ……」
姉「…いいわよね、わたし、妹が羨ましいよ」
姉「わたし、妹にうまれたかったな」
姉「妹だったら、私は……私だって…!」
妹「……」
妹「じゃあ私がお姉ちゃんになる!!」
妹「私はお姉ちゃんになりたい!!」
…姉は本音で語ってきている。私も本音で語らないとと覚悟を決めた。
どこまでいえるか分からないけれど、…お姉ちゃんの悲愴は、きっと私が向き合わないと解決しない。
姉「…はは」
姉「私になりたいって…?」
姉「私よりもなんでもできる妹が?」
姉「…はは」
姉「笑わせないでよ!!」
妹「だって!私はおねえちゃんになりたくて…なりたくてっ……っ」
言葉に詰まる。その先が言えない。
姉「…私の真似、してただけでしょ?」
妹「…っ!?」
背筋に嫌なものが走る。自分の日記を他人に勝手に読まれた時のような、苦しさが心を締め付けた。
妹「お姉…ちゃん?」
姉「気付かないとでも思ってたの?」
妹「…だ、だって…でも…!」
姉「私の真似するのと…私になるのと……全然ちがうよ?」
姉「お姉ちゃんは…大変なんだよ?」
姉「私は誰の真似もできないで…全部自分で考えて…自分で探して…!」
姉「でも、でも…妹は…そんな私の苦労を知らないで…っ!」
妹「そんなっ!私、楽してお姉ちゃんの真似をしようとしてたわけじゃない!」
姉「じゃあなんでよ!!なんで真似するの?」
妹「…それは」
姉「もっと真似しなさいよ…」
姉「私の駄目なところも…もっと、真似してよ…」
姉「家の手伝いなんて当の昔に止めたのに、あんたは律儀にずっと続けてさ!」
姉「私が男で失敗してるのに…あんたは『男なんかいらない』なんて抜かすし…」
姉「…ふざけないでよ…。甘い汁ばっかりすすらないでよ…やめて……もぅ、やめて…」
妹「…お姉ちゃん、ごめん」
姉「謝んないでよ!…あんたには…妹の権利があんのよ」
姉「私の真似をする権利があるの…」
妹「お姉ちゃんが嫌なら、もう、お姉ちゃんの真似しないよ」
妹「だって、だって私は…」
物事には、動機が必要だ。動機なき説明には、説得力が無い。
…どうせ嫌われるのならば、全て吐いてしまえ。
逃げるな、わたし。
妹「わたしはっ…お姉ちゃんが好きだか!!……ら」
姉「…っ!?」
最期まで思い切って言えなかった。…でも、私は自分に花丸をあげたい。
ずっとずっと、言いたくても言えなかったのだから。
いままでお姉ちゃんに言えなかった唯一の言葉を、口にだせたのだから。
姉「…な、何よ……気色わるいよ…」
妹「だって!す、…好き……なものは……好き……」
姉「…えっ…ええええっ?」
妹「お姉ちゃんも私の事好きでしょ!?」
姉「えええええええええ!?」
妹「ほら、いつも私に好きっていってくれるでしょ!!ね!?」
姉「えええ…………え?」
姉「……そ、そうね」
姉「私も…妹のこと…す、好き…かな?」
妹「そうだよ、私も好きなのっ!だから真似してたの!…でも嫌ならやめるっ!」
姉「う、うん……」
妹「…納得してくれた?」
姉「まぁ……う、うん」
妹「よかったぁ…」
伝えたい意味とはちょっと違ったけれど、お姉ちゃんが落ち着いてくれたみたいで、私はうれしかった。
やっぱり、本音には力がある。…ほんの少しかもしれないけれど、お姉ちゃんには私の気持ちの強さが伝わったかもしれない。
…だから、お姉ちゃんの本気を鎮められたのかもしれない。
姉「…ごめんね」
妹「えっ…こっちこそ…」
姉「…あははっ…なに言ってたんだろう私」
姉「私が駄目なのを妹のせいにして…妬みと言い訳の塊で…あっはは、おっかしーの…」
妹「…お姉ちゃんは、全然駄目じゃないよ」
姉「うそよ…」
妹「駄目なおねえちゃんを、私は真似したりしないよ」
姉「………」
姉「あはははっ……馬鹿っ!」
コツン、とお姉ちゃんにあたまを小突かれる。
妹「いちち…。何かおかしかった?」
姉「私の真似できないところなんてないくせに!」
妹「あるよ!…えっと…お酒の強さとか!」
姉「ばーっか!」
またお姉ちゃんが手をあげるので、また小突かれると思って目をつむったけれど。
私の頭には、暖かいお姉ちゃんの手が優しくのっていた。
姉「…ありがとね」
微笑みながらお姉ちゃんは私を撫でてくれる。
…やっぱり、私は、お姉ちゃんが好きだ。
妹「…ねぇ、お姉ちゃん」
姉「なに?」
妹「わたしを…お姉ちゃんの彼氏にしてよ」
姉「……へ?」
妹「私なら、お姉ちゃんの事を振ったりしないよ!絶対!!」
妹「ずーっと、ずっと、そばにいるよ!」
姉「……」
妹「…だめかな?」
姉「妹は…やさしいね……」
姉「ありがと、元気でたよ」
妹「あ……」
姉「飲みすぎちゃった。…そろそろ寝よっか」
妹「……う」
妹「うん」
その後、私は部屋に戻ってから朝まで、私は枕に顔を埋め続けた。
嗚咽が止まらなかったから。
朝、いつもと変わらず私に「おはよう」を言って会社へ向かう姉を見届けて
あぁ、何も変わらないのだな、と、あきらめのため息を吐いた。
第一話「お姉ちゃん」 おわり
第二話 「ほんとう」
妹「えーーっ!告白された!?」
友「しーーっ。声でかい」
妹「大丈夫だよぉ。もうみんな下校してる時間だって」
友「…うーん」
妹「それでそれで?」
放課後。
部活がある生徒以外はとっくに下校している時間。
妹は、私が同性の後輩に告白されたと言ったら、飛びついてきた。
友「振ったよ。そりゃ?」
妹「え…なんで?」
友「なんでって…そりゃ、女同士だし…」
妹「まぁ……そう、だよ…ね」
友「…それに、やたら滅多に私は付き合えないし」
妹「そだね。友ちゃんは、外面いいしね」
友「外面いうなっていう」
妹「あはは」
…まぁ、確かにそうなのだ。
私は外面が「極端に」いい。というか、基本的に人格が変わる。
友「…まぁ、私の素はみせらんないよ。…特に後輩には」
妹「あがめたてまつられてるもんねぇ」
友「あー、早く卒業して自由になりてぇー!」
妹「もう少しだって。その前に受験があるけどね」
友「…そうだったぁ~」
それから私は、妹といっしょに教室を出て、運動部の声が響く校庭を抜けて校門をぬけようとしたのだけれど
そこに、思わぬ…というか、やっぱりその子がいた。
後輩「友さまっ!お待ちしておりました!」
妹「あらら」
友「…あ、はは」
後輩「…?友さま、その方は?」
友「あー、コホン。ご友人ですわ」
後輩「それはそれは…後輩と申します。お見知りおきを」
妹「えっ、あー、よろしくね、後輩ちゃん。妹っていいます」
友「…では、私は妹さんと帰りますので」
後輩「あ!あの友さまっ!」
…ほらきた。
後輩「わたしも…ご一緒しては駄目でしょうか?」
友「そ、それは…」
妹「いいじゃない、一緒に帰りましょうよ」
げえっ、なんて事をいうのだこの人は…。
後輩「よろしいのですか!?」
妹「いいよいいよ。…ねぇ、友ちゃん」
友「…そ、そうですわね。では、ご一緒に参りましょう」
後輩「はいっ!」
友「…なんであんなこと言ったおおばかやろう。お陰でめんどくさい事になっちゃったじゃねえか」ボソボソ
妹「いいじゃない。後輩ちゃんかわいいし」ボソボソ
後輩「~♪」
友「今日はお天気がよろしくて、気持ちがいいですね」
妹「もう夕方だし、寒いよ」
ピキピキ。
…妹め…、ニヤニヤしやがって…あとで覚えとけ。
友「…後輩さんは、どこにお住みになってるのかしら?」
後輩「はい、S区です」
友「S区……こちらと反対ですわ」
妹「そういえば」
後輩「いいんです!友さまとご一緒できるなら、火の中水の中っ!どこへだって行かせていただきます!」
友「…あ、はは。頼もしい…ですわ」
妹「(ニヤニヤ)」
妹「ここが私のお家です」
後輩「しっかり覚えさせていただきました」
友「…では、このあたりでお別れしましょう」
後輩「えっ、友さまのお家までお送りいたします!」
妹「いいじゃん、送っていってもらいなよぉ」
…げ。いい加減にしろよ…っ?
友「バッカ、おまえ…私の家見せられるとでも思ってるのか?」ヒソヒソ
妹「…それもそうか」ヒソヒソ
友「妹さんのお家に少々用がありまして。…後輩さんとは、ここで」
妹「ごめんねー」
後輩「…わかりました。……では、ごきげんよう……」
妹「…あははははははは!!!」
友「くっ……このっ……殺す!!!」
妹をポカポカ殴る。怒りよりもむしろ気恥ずかしさで、今は暴れたい。
妹「やめッ!!!やめてーーっ!!ひーっ、おかしっ!」
友「あーーもうどうすりゃいんだよーーっ!ド畜生~~っ!」
妹「付き合っちゃえってばぁ」
友「付き合えるかっ!!…あの娘は私の幻想に恋してるの!」
妹「…ふーん」
友「だ、だいいち女同士だしっ…」
妹「……」ニヤニヤ
友「だからニヤニヤすんなってーの!」
次の日
先生「…あ、友さん」
友「なんでしょうか?」
先生「友さんは、どちらの大学を受けるのかしら?」
友「申し訳ございません。まだ思案中でして…」
先生「…大丈夫ですか?もうそろそろ、願書を受け付ける大学も出てきているのですよ」
友「はい。それまでには」
先生「もしよかったら、どの大学を考えてるのか、少し聞かせてもらえませんか?」
友「それは……」
先生「…友さんの成績なら、どこの大学でも心配ないのでしょうけれど……きっと、最善の選択をなさるのでしょうが」
友「最善…」
先生「万が一、ということもありますし。…受験校を決める前に、ちゃんと相談してくださいね?」
友「……承知いたしました」
担任との会話で、私は一気に欝になった。
「最善の学校」とは、つまり偏差値が高い学校の事だろう。
…承知こそすれ、私はあいつに従う気は毛頭ない。
友「…また、きちまった」
ここは、学校の屋上。
前回もうここに来ないと決めてから、そんなに時間が経っていない。
友「前々回と前回の間も……あんまりスパンなかったなぁ」
高台に建つ私の学校は、屋上から町全体を見下ろせる。
…ずっと前に、私は辛くなったときはここに来るようになった。
街を見下ろしながら、ボーっとしているのだ。
ボーっとしながら、頭で色んな事を整理して、整理して、考えて…。
友「…もうすぐ、卒業か」
友「嫌な学校だったけど…」
友「でも」
数は少ないけれど、友達はいた。妹はその一人だ。
彼女と離れ離れになるのは寂しい。
妹とめぐりあわせてくれた場所がこの学校なら、私は学校に感謝するべきなんだろう。
妹「…あ、いたいた」
友「げ」
妹「なによ、げ、って」
友「どうやって入ってこれた」
妹「ドアノブを右に回して、引っ張って、左にねじこみながら、一気に開く」
友「…知ってたか」
妹「友ちゃんが前に寝言で言ってたよ?」
友「え?……まじか」
妹「えへへ」
友「もう妹の家には泊まりに行かない」
妹「えーっ!なんでっ!」
妹「…なんで屋上になんて来てるの?」
友「んー、まぁ、一人になりたかったりするときはねー」
妹「私はおじゃまかな?」
友「まぁ、たまにはいいよ」
妹「ふーん」
友「…ねぇ、妹は…どこの大学うけるの?」
妹「S大だよ」
友「そっか…」
妹「友ちゃんは?」
友「…私もS大にしようかな」
妹「えーっ?どうしてどうして?」
友「…そういう妹は?」
妹「わたしはね、お姉ちゃんがその大学に行ってたからさ…」
友「……」
妹の表情が、妙に明るい。
日差しを受けて…なんだか、輝いてて、私にはちょっとまぶしい。
そうだ。この娘は、姉の話をするとき、いつもこういう顔をする。
友「…そっか」
友「でも…そういう決め方って…どうなの?」
妹「私は、これでいいんだ」
友「…そっか」
自信が言葉の節々から聞いて取れる。
表情にも表れている。
友「…うらやましいなぁ」
妹「えーっ、私は友ちゃんの頭のよさと人望が羨ましいよ?」
友「冗談?なんか最近虚しいだけだわ」
妹「そうなの?」
友「うん」
妹「友ちゃんも悩むんだねぇ」
友「…まぁ、ね」
友「……私、妹みたいになりたい」
妹「……えっ」
友「なんてね、あはは」
妹「……」
放課後・校門前
後輩「あっ、友さま!」
ゲッ今日もいやがった…。
遠回りになるけれど、明日からは正門から出るのやめよう…。
友「あ、あら…ごきげんよう…」
妹「後輩ちゃん、こんにちは」
後輩「妹さまも…ごきげんようです」
妹「いつもいい子だねぇ、後輩ちゃんは」
後輩「いえ、友さまほどではありません」
妹「…だってさ、友ちゃん」
友「光栄…ですわ…はは」
妹「じゃあ友ちゃん、私はこれから用事があるから!」
友「えっ!?」
妹「じゃーねー」
私と後輩二人をおいて、ぴゅーっと駆けて行く妹。
用事があるとか、聞いてねえぞこんちくしょう!!
後輩「ほえーっ、妹さまは足がはやいんですね」
友「そのよう…ですわね」
後輩「…あの……」
友「…?」
後輩「…そのぉ……」
後輩さんは急にうつむいて、モジモジしだした。
しぐさが可愛い。
…でも、ここで心を許してはだめっ!
友「それではごきげ」
後輩「あのっ!またお帰りご一緒させてくださいっ!!」
友「……」
…で、結局私は後輩さんと二人きりで帰ることに。
後輩「……」
友「……」
まぁ、その、お互い堅くなってしゃべれないわけで。
…どうしろと。
友「…どこか、ご気分が優れないのですか?」
後輩「大丈夫ですっ!問題ないですっ!」
そりゃ大丈夫だろうよ。話題づくりの為に聞いてやったのだから。
後輩「あのっ、ちょっと二人っきりで緊張してるっていいますか…そのっ!」
友「…落ち着いて。ゆっくり喋って大丈夫ですから」
後輩「は、はいっ!」
後輩「あ、憧れの…友さまと、ふ、ふ、二人っきりで帰れるなんて…うれしくて……」
…憧れの……?
友「その…憧れって……?」
後輩「あ、すいませんっ。一年生や中等部の間では先輩は憧れの的なのでっ」
友「…あら」
初耳だぜこのやろう。
憧れ……?笑わせるねほんと。
私の虚構の姿だって知らずに、みんな私を見てるっていうの?
後輩「ご存知…ありませんでしたか?」
友「そうね…でも、光栄ね」
後輩「昨日、一緒に帰ったって報告したら、みんなすごーいって言ってくれました。てへへ」
友「あらあら…」
後輩「それに…そのぉ」
後輩「友さまにアタックしたのも…私だけですし…」
ほおを赤らめながら言わないでよ…。
こっちが恥ずかしくなってくる…。
友「…私に関して、どういう噂がながれてるのかしら?」
後輩「そうですね…」
後輩「容姿端麗・才色兼備・質実剛健・柔和温順」
友「……えっ?」
後輩「先輩をあらわす四大四字熟語です」
後輩「学校のテストは常に95%以上の点で、モデル以上にスタイルも顔もバツグン」
後輩「でも男嫌いで男性経験はなく、帰宅部ですがスポーツは球技でも器械体操でもなんでもござれ」
後輩「代々資産家のお家柄で、巨大な邸宅にお住まいだとか」
友「…えー、と」
後輩「そういえば、こんな話も聞きますね」
後輩「小鳥の巣が落ちかかっているのを、颯爽と木を上って治されたとか」
後輩「街でナンパ男につけまわされた学校の生徒を助けたうえに、その男を恫喝して逃げ帰らせたとか…」
友「あらあらまぁまぁ…私、随分買いかぶられてますのね…」
最期の二つは……確かに見に覚えがあるぞ……。そうやって噂に尾ひれがついていくのか……くっ。
後輩「買いかぶりだなんて…そんな」
友「…後輩さんは、私の噂に恋したのかしら?」
後輩「ち、違います!」
友「じゃあ、どうして…」
後輩「……」
後輩「…覚えてませんか?」
友「……?」
後輩「…そのっ、私……」
後輩「今お話した…街でナンパから助けていただいた…」
友「…っ!?」
そういえば、なんか……あぁ、そうか…そうだったのか…。
後輩「…やはり、お覚えになられてなかったのですね」
友「…思い出しました。ごめんなさい」
後輩「いいんです。助けていただいた上に、覚えていただくなんて…おこがましいです」
友「後輩さん…」
後輩「あのっ!でもっ!」
後輩「…これだけは教えてください」
後輩「妹さまとは……どういった関係なんですかっ!?」
友「……えっ」
後輩「……」
じっ、と私の答えを待って見つめてくる。
あぁ…私もこれくらいまっすぐだったら、もっと違った生き方が出来たかもしれない。
友「…妹さんとは、お付き合いさせていただいてます」
後輩「えっ……」
友「…とても、大切な方です」
後輩「そ、そう……ですか」
友「はい。……ごめんなさい」
後輩「あやまらないでっ……くださいっ…」
そのとき、後輩の両目から、ぶわっと涙が溢れた。
友「……えっ」
後輩「すいませっ……友さまっ……失礼いたしっますっ!」
後輩は涙声でそう言って、進行方向とは逆の方向に駆けて行く。
あぁ…私にもっと、うまいやり方ができたなら良かった。
私はすごく不器用なのだ。
自分を偽ってしか生きられない、駄目な人間なのだ。
そんな私に、彼女を泣かせずに納得させる方法ができただろうか?
友「…考えても、せんない事だよね」
後輩が視界から消えてから、私はゆっくりと家路へと足を向けた。
後輩が言った私に関する噂のうち、デマがいくつかある。
その最たるものは、私の家が巨大だという点だ。
…とんでもない。
友「…木造の平屋だよ。後輩さん」
団地街の一角にある、平屋の集落。そこに、私の家がある。
2年前に父の会社が潰れてから住みだした。
元々そこまで裕福な家庭ではなかったけれど、貧乏でもなかった。
今、母と父は私の学費を稼ぐ為に、毎日働きに出てくれている。
友「あんな学校、いますぐやめたっていいのに…」
玄関の立て付けの悪い引き戸を開ける。
友「ただいまー」
…家の中には私の寂しさを消してくれる人は居ない。
友「勉強でも、するか」
妹「そういえば、後輩ちゃんとはどうなったの?」
友「あらためて、振ったよ」
妹「えーっ、もったいない」
友「…どうしてあの時逃げた?」
妹「だって、いい加減はっきりしたほうがいいと思って」
友「…は?」
妹「友ちゃんは最初に振ったって言ってたけどさ、どうせ曖昧な態度だったんでしょ?」
友「う…」
妹「…なら、はっきりさせてあげようかなって思って」
友「…まぁ、確かにあれから校門で待ち伏せされることはなくなった」
妹「そっかぁ。ちょっと、寂しいね」
友「……」
…たまに、後輩とすれ違うときがある。
すごく、気まずくなる。
お互いチラッと見て、意識して見ないようにして…
というのが丸分かりで、どうにも気分が落ち込む。
今日も後輩とすれ違ったが、彼女は私を見つけたとたん、ビクッと肩をはねさせた。
私も私で、彼女の反応におかしさを覚えながらも、無反応で目を逸らした。
友「…なにやってんだろ、わたし……」
また、屋上に来てしまった。
…つまり、また逃げに来た。
友「もっと、楽に生きたい…」
そもそもの元凶は、偽りの自分なのだ。
はじめは良かれとおもって偽っていたのに…
いつのまにか、後戻りができなくなってしまった。
友「いつからだっけかな…」
きっかけは、ささいなことだ。
この学校は高校編入の受入数が極端にすくなく、毎年2.3人しか入れない。
私は、その2,3人の一人に選ばれた。
友「…あのときの私の、理想の人物像……」
友「今の私だ…」
同じ中学出身の人など居るはずもなく、上手くクラスに溶け込めなかった。
だから、ただひたすら、ひたすらに……
友「がんばった」
友「…でも、がんばり続けなきゃいけなくなった」
友「私…何の為に頑張ってるんだろう…?」
友「人気とりのために頑張ったわけじゃない…先生のウケを良くする為に頑張ったんじゃない…」
友「…自分のためだったはずなのに…はず、なのに……」
見下ろす先の街は、私とは無関係に、せわしく動いている。
それからしばらく、ボーっと街を見ていた。
すると、ガチャ、という屋上の扉が開く音が、後ろから聞こえた。
友「なんだよ、妹…。いまちょっと一人にして欲しいんだ」
友「むしゃくしゃしてるんだ…。自分のこと…進路のこと…後輩さんのこと…頭のなか、ぐちゃぐちゃなんだ」
友「まだ、全然整理できてなくて…」
後輩「あの……」
友「っ!?」
後輩「……」
友「…どうして?」
後輩「その…あの…、妹さまに教えてもらって」
友「妹……。彼女、また余計な事を…」
後輩「違うんです!妹さまは悪くないんです!」
後輩「…私はいけないんです。友さまをあきらめ切れなかった…私が…」
後輩「……妹さまとお付き合いしていたって…嘘…だったのですね」
友「…うん」
後輩「……わかってました。私を振り切るための嘘だって」
後輩「友さまのこと、あきらめようと…ずっとずっと、そのことばかり考えていて…」
後輩「…それに、友さまと廊下で何度もすれ違って…そのたびにつらくって」
後輩「だからっ!」
友「…何度でも一緒だよ」
友「後輩さんとは、付き合えないよ」
後輩「…理由を…理由を聞かせてください!」
友「…いいよ」
友「後輩さんはさ、私の嘘に恋してるんだよ」
後輩「…え」
友「あんなの、全部つたない演技さ」
友「人気取りのための…しょっぱい芝居だったんmんだよ!」
後輩「そんな……っ!」
後輩「じゃあ、街で私を助けてくれたときの友さまは…」
友「それは…」
後輩「…嘘で本気になりません」
友「……」
後輩「私は、他の子とちがうんです」
後輩「あのとき…私を助けてくれたときに、本当の友さまを見たから…」
後輩「だから私は、見てるだけで満足とか、声をかけてもらっただけで満足しない!」
後輩「…友さまの本当の姿に惹かれたから…こうして今、ここにいるんです」
友「…そっか」
友「やっぱり私の嘘って…嘘でしかないんだね」
後輩「……」
友「…よかった」
あれは、一ヶ月くらい前の事だったと思う。
制服のまま寄り道すると体裁が悪いので、わざわざ家で着替えてから街に繰り出した。
男「…ねぇ、そこの娘」
後輩「はい?」
男「かわいいね、制服も似合ってる」
後輩「…?」
…あぁ、嫌なものを見てしまった。
無垢なうちの学校の生徒が、軟派な男に絡まれている。
ちゃんと振り切れるだろうか。一言目から無視しなきゃだめでしょうが。
男「ねぇねぇ、どこ住み?」
後輩「B区ですが…」
男「近いネェ!俺もその辺住んでてさ、ちょっとこれから遊ばない?」
後輩「え……」
男「お昼まだ?」
後輩「…まぁ」
男「いい店知ってんだー。一緒に行こうよ」
後輩「……え」
男「お金の心配ならしなくていいよー、俺出すからさ」
後輩「で、でもっ」
男「いいじゃん、さ、いこっ」
男が手を掴んで連れて行こうとする。
流れていく街の人たちは、自分は無関係だと主張するかのように、その光景から目を逸らしている。
…私のなりたい私は、ここで前へ出る私だ。
心の中でそう唱えて、私は男の方へ向かって行った。
友「あのー」
男「ん?」
友「無理やりは、よくないんじゃない?」
男「なんだお前…無理矢理じゃねーよ。ねぇ?」
後輩「えっと……」
友「それに…この娘高校生だよ?」
男「別にホテルに連れ込むわけじゃねーし、関係なくね?」
友「制服の娘を、あなたみたいなおっさんが連れまわしてたら、職質されちゃうよ?」
男「おっさんじゃねぇ!俺はまだ20代だっ!」
まぁ、20代位なのはわかってたけど…。「代」ってつけるってことは、28歳くらいかなこのおっさん。
後輩「あのっ…えっと…」
友「あなたはもう、大丈夫。行きたいところがあったでしょ?行っておいで」
男「てめっ!何勝手にっ!」
後輩「あ……あぁっ……っ!」
女の子は私と男を置いて走っていく。…そう、それでいいよ。
男「FUCK!」
男「…せっかく釣れたってのに……てめぇ責任とってくれんだろうな?」
友「……」
男「来いよ」
男の手が私の腕を掴む。
友「…っく!」
これくらい!…と思って抵抗するが、予想以上に男の力は強かった。
…私がいくら運動神経がよくても、やっぱり、男の人には勝てないのか。
くやしかったが、それ以上に、焦りで背筋が寒い。
男「……」
友「……」
気がついたら…私は抵抗をあきらめていて、男に引かれていくままになっていた。
友「…どこ…いくの」
男「あ?」
友「……」
正直、怖かった。駅前の人の多い雑踏から、どんどん人影の少ない路地裏へと連れて行かれた。
最悪な想像をいっぱいした。あの女の子を助けた事に、後悔もした。
…でも、私は突然の振動に気付いた。
ポケットの中の携帯だった。この振動の仕方は、電話がかかって来ている時のだ。
男「……」
男は気付いてない。私の左手は空いている。
友「…っ!」
私は左手ですばやくポケットから携帯を取り出し、通話ボタンを押した。
男「あっ!てめっ!!!」
友「もしもしっ!!」
妹「あっ、友ちゃーん、今暇?」
瞬間、男の意識がそがれて、手を掴む力が弱まったのを見切って、振りほどく。
男「くっ…っ!」
友「バカッ!下衆!!地獄に堕ちろおっさん!!」
私は軽快に走った。
なぜか、すっごく気持ちよかったから。
走りながら、笑いながら、妹と電話を続けた。
妹「ご、ごめん……私なんかひどいことしたかな?」
友「あーーっ、ごめんごめん、妹のことじゃないよ!」
妹「…ならいいけど。なにかあったの?」
友「なんでもないっ!今すぐ会いたいっ!」
…それから朝まで、妹の家で遊んだのであった。
友「あーーーっ」
友「…やっぱり、後輩ちゃんは私の事を勘違いしてるよ」
後輩「えっ……?」
友「私は、たしかにあなたを助けたかもしれないけど」
友「……」
後輩「…あの後…友さまなら…」
友「残念ながら」
後輩「えっ……じゃ、じゃあ!………え?」
友「貞操は無事だけどね」
後輩「……」
友「そんな深刻な表情しなくて平気だよ。何かされる前に逃げたから」
後輩「そうですか……」
友「…ねっ。私は後輩さんが思ってるより、弱いんだよ」
後輩「……」
友「結局、後輩さんは…私の事を勘違いしてるだけだって。私は…本当の私は、ずっと小物なんだよ」
後輩「…でも!」
後輩「私を助けてくれて……あの時、誰も助けてくれなかったのに!」
後輩「友さまだけが……。あの時の友さまも、嘘だっていうんですか?」
友「…それは」
後輩「……私、あの後…人に会う予定だったんです」
後輩「ネットで知り合った、お金をくれるっていう…」
友「…っ!?」
後輩「だから、あの時男の人に声かけられて…」
後輩「…まぁ、この人でもいいかな…って」
友「……」
後輩「…同罪かもしれないですけど、そういう事しようとしたのは、初めてだったんです」
後輩「あの時の私……どうにかしてたから…」
後輩は、うぅっ、と泣き出した。
…よく泣く娘だな。ちょっと、羨ましい。
もう私は、こんなに泣けない。
友「どうして、…そういうことをしようと思ったの?」
後輩「それは…」
後輩「…私、高校からの編入組なんです」
友「……え」
後輩「それで、学校に馴染めなくて…。友達も出来なくって…」
後輩「すごく、辛くて、毎日が辛くて…。そしたら、どうでもよくなって……気がついたら」
友「そっか」
後輩「……」
後輩も、私と同じ境遇だった。
でも、誰もが私みたいになれるわけじゃないのか。
…だとしたら私は、…嘘の塊だったとしても、ちょっとは幸せだったのかもしれない。
後輩「それでもあの時から私、がんばったんです。友さまを知ってから、頑張れたんです!」
後輩「このままじゃだめだって…。もっと、なりたい自分になるんだって!」
後輩「友達もできました。勉強も頑張るようにしました。出来るだけ笑顔でいるようにしました」
後輩「…あれから一ヶ月くらいしか経ってませんけど、私…私……」
友「……なりたい、自分」
そうポツリと言い終わったら、私の頬を、涙がつたった。
「なりたい自分」。
私がずっと、心にかかげてきた言葉だった。
…この後輩が、私と同じ想いをもっているとしたら…。
後輩「…友さま」
友「いやぁ、ちょっと感傷的になっちまった」
友「ここで過ごした3年間さ……思い出したんだ」
後輩「……」
友「なりたい自分になるのは、辛いよ。すごく辛い」
友「ずっと、ずっと、なんで私は自分に正直に生きれないんだっておもってたけど…」
友「…実は、正直に生きてきてたっていう…」
友「あはは」
友「…後輩さんも、見失わないほうが良い。どっちが「ほんとう」の自分か」
友「私はずっと、うそとほんとうの自分が居ると思っていた。…でも」
後輩「どっちも「ほんとう」だったんですよね?」
友「……心配ないね」
後輩「はいっ。…私は友さまみたいになりたいです!」
友「…あははっそっか。そっか。」
友「でもね、…私にもなりたい人がいるんだよ」
後輩「妹さまですか?」
友「後輩ちゃんはほんとに察しがいいな」
後輩「友さまは…妹さまの事が…?」
友「!!!」
後輩「…?」
友「あははははははは」
後輩「…私じゃ勝てないわけです」
友「な、なにを言ってるンだねちみわ!!」
後輩「もうネタはあがってますって」
友「くっ……」
後輩「…決めましたっ!」
友「?」
後輩「私、妹さんみたいになります!」
友「ちょ、ちょっ!!」
後輩「…それから、友さまと気兼ねなくおしゃべりします」
後輩「打ち解けて、恋の話から将来の夢まで、なんでも話せる相手になって…」
後輩「もちろん、お互いタメ口で…」
後輩「たまに、お互いの家に遊びにいったりして…」
友「…うち、木造の平屋だよ?」
後輩「…?妹さまは遊びにこないのですか?」
友「まぁ…来るね。たまに」
後輩「なら私もいきます!」
友「…うぅ」
後輩「がんばりますから!…私、がんばりますから!」
後輩「…友達から……お願いします!!」
友「……うん」
友「はは」
友「…これからよろしく。後輩ちゃん」
えー、2話はここでおわりですが。
作者が病気のため、ここからエロSSに方針を変更させていただきます
妹「…おにいちゃん…っ…わ、わたしもぅ我慢できないよぉ……」
妹「自分の手じゃ満足できないよぉ…うぅっ…んっ!」
妹「きもちいぃっ……クリちゃんきもちいっ…」
妹「イクッ…私っ……イクッ…お兄ちゃん好きっせつないよぉっ…お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんっ!!」
妹「んんーーーーっ」ビクッビクビクッ
兄「……」
妹「きゃっ!?い、いつからいたの…んんっ…んっ!」ビクンビクン
兄「ふふふ」
兄「妹かわいいよ妹!…俺を思ってオ○ニーする妹超かわいい!!」
妹「えっ…えええっ!?」
兄「俺に相手してほしかったんだろ?ほら、触ってやるよ!」
兄「あーーあ、こんなにぐしょぐしょにして、すっげーエロいなおい」
妹「いやっ!いやああっ言わないで恥ずかしいよお兄ちゃん…」
兄「指がすんなり入るぞどういうことだ?あ?まさかもう処女じゃないのかよ?」
妹「処女だよっ!お兄ちゃんにあげるために…ずっと…ずっととっておいてるよぉ!」
兄「じゃあなんでこんなにずぽずぽはいるわけ?」
妹「お兄ちゃんを想ってオ○ニーしてたからぁっ!自分の指をお兄ちゃんのおちんぽだと思って想像してたからぁ!!」
兄「…じゃあ、お望みのオチンポを…妹のぐちょぐちょまんこにぶち込んでやるとするか…」
妹「えっ……」
兄「…ほら、しゃぶれよ」
妹「これが…おにいちゃんおおち○ちん……おっきい……それに、熱い…うぅ」
兄「さっさとしゃぶれって!」ジュポッ
妹「んっーーん!んっ…やめっ…くるひ…んんっんーーっ!」
兄「あああー、妹の口のなか超気持ちいい!!!」
兄「イラマチオ最高妹の顔動かしてチンポしごくの最高!」
妹「やっ…やああっ!!んっんんんーーっ!!」
兄「あああーっ、一発目でるぞ!でるでる!!妹の咽の一番奥に全部だすぞっ!!!」
妹「やめへっ…いやあっ…いやあああーーっ!!」
妹「んっーーんっ……んっ…!!」
兄「全部飲めや」
妹「うぅっ……ううぅ……」ゴクゴク
兄「ふふふっ、いい娘だ…」
姉「ちょっとまちなさいいいいいっ!!!」
ドカッ
兄「げふっ!!」
妹「おねえちゃん!!」
姉「危なかったわね…妹の貞操がもうすこしで……ああぁ、まずいザーメン飲まされて可愛そうに…」
妹「こわかったよぉ…」
姉「…大丈夫、私がなぐさめてあ げ る」
妹「…おねえちゃん……」
姉「ふふ、妹の乳首、ピンク色でかわいい……」
妹「やぁっ…はずかしい……」
姉「なめてあげるね…」
妹「んっ…ふぅっ……お姉ちゃん…だめだよぉ…へ、へんになっちゃうよぉ」
姉「へんになっていいわよ…私も変だから」
妹「うぅっ…おっぱいきもちいよぉ…おねえちゃんのお口きもちいよぉ」
姉「下のお口はどうかしら」
妹「ひあっ……!!」ビクッビクッ
妹「そこだめっ!びんかんだよぉ!やめええっ!!」
姉「ふふ、クリちゃんふくれちゃって…可愛いっ。コリコリしてあげる」
妹「んっ…ふあぁっ!!きもちっ…クリちゃんきもちいいっ!!」
妹「自分でやるより気持ちいいよぉーっ。なんでっ…なんでぇええ!」
姉「ふふ、それはね、私が妹を愛してるからよ」
妹「えっ……」
姉「クリちゃんなめてあげるね。…んっ」ペロペロ
妹「ひあああああっ!!!」
妹「しらないっ!わたしこんなのしらないいいぃっ!!!気持ちいいっ!!きもちよすぎるよお姉ちゃん!!!」
妹「うぅっ…あああっ……」ビクンビクン
姉「…じゃあ、私のも舐めてね」
妹「…お姉ちゃんのあそこ…綺麗」
妹「妹のおま○こも、ピンク色で可愛いわ」
妹「…おねえちゃん…すきっ…」ペロペロ
姉「んっ…私もすきっ…んっ…んんっ!」ペロペロ
妹「すごいよっ!こんにゃのっ…すぐおかしくなっちゃうよぉ!」
姉「ふふっ…いいわ…もっとおかしくなって…」コリッ
妹「ひあぁあっ!!クリちゃんだめぇ!!甘噛みしちゃだめええっ!!」
姉「かわいいよ…妹かわいいよぉ……」
妹「んっ…んんっ……駄目ッ!!変なのきちゃうぅっ!!!」
姉「私もっ……もうだめっ……っんんんっーーっ!!!」
妹「んはああっ!!んっんんーーっ!!!イクッイクイクッ!お姉ちゃんにおま○こ舐められていっちゃうぅっ!!」
妹「んーーーーっ!!!!」ビクッビクビクッ
姉「妹かわいい…ぶるぶる痙攣してかわいいっ……私も私もイクッ!!妹におま○こかき混ぜられてイクッ!イクイクッ!」
姉「ふああっーーーーんっ…んんっ!!」ビクビクッ
妹「お、ねえちゃんっ……好き……だい…す…き…」ビクンビクン
姉「私も……んっ……はぁぁっ……」
……ふぅ
第三話「ねこといぬ」
黒「…以上が今回の結果です。来客数が伸び悩んでいるのは、コンテンツ不足の点も否めませんが」
黒「宣伝効果の薄さも露呈している結果だと思われます」
黒「私からは以上です」
朝の会議。上司の黒さんが、淡々と報告している。
黒さんは女性だけれど、とてもボーイッシュで、クールで、かっこいい。
白「…はふぅ」
姉「また見とれてる」
白「だって、黒さん素敵すぎ」
姉「はいはい」
姉は、私と同期で入社した子で、同じ社会人1年目として仲良くしてもらっている。
姉「…んじゃ、今日もがんばりますか」
白「うんっ」
私は某大手シネマコンプレックスに勤めている。
マネージャー候補として、食べ物やチケットの販売、接客やクレーム対応などに追われて毎日をすごしている。
「すいません…これ、違う映画のチケットとっちゃったみたいなんですけど…」
白「えっ…あ、少々おまちくださいっ!」
白「…あー、これ、クレジットカードで購入されてますね」
白「購入される際、チケットの確認をお願いしたとおもうんですが…」
「…っていわれてもねぇ」
白「いちおう、クレジットカードでの返金は承ってないんですよ」
「でも、違うチケットを出したのそっちでしょ?私は悪くないんだけど!」
白「…はぁ」
めんどくさい人が、今日も私のところに来た。
私はクレーム対応が、一番苦手だ。
「もう映画はじまっちゃうんだけど?」
白「ですが、クレジット関係は一度処理をしてしまうと、キャンセルが難しい仕組みになっておりまして…」
「そんなこと私はしらないんだけど。さっさと中に入れてくれればいいんだって!」
白「えっと…」
黒「…お待たせしました。チケットのキャンセルでございますね」
白「あっ」
黒「すぐに代わりの券を発券させますので、お席でお待ちください」
黒「…白さん、中に入れて空いてるお席にご案内してあげて。…たぶん、今の回なら中の方でも大丈夫」
白「わかりました」
黒さんは、のろまな私とちがって、すごくてきぱきしていて、人の扱いがうまくて、機転が利いて…。
とにかく、かっこいい。
…そして、よく私が困っているときに助けてくれる。
たぶん、たまたまだけど。
私はさっきの客を空いてる席に案内して、黒さんに座らせた席を報告した。
黒「…うん、そこの席なら空いてるよ。じゃあ、チケット発券しなおすからその人に渡してきて?」
白「はいっ」
やさしいな、黒さん。
いつも笑ったりしないけど、言動はすっごくやさしいんだよね。
白「おまたせしました…こちらが代わりのチケットになります」
「あんた今上映中だよ?なんで今くんの?」
白「…すいません、チケットの半券がなければおトイレの出入りなどができないので…」
「そういうもんだいじゃなくて、常識のことをいってるんですけど?」
あぁ、この人は、クレームをつけたいだけの人なのかもしれない。
せっかく映画の予告中に来たのに、もう本編が始まろうとしている。
私はひそひそしゃべっているのに、この人は大声で他の客に迷惑をかけている。
白「…あの、他のお客様にごめいわくですので…」
「…ちっ」
なんとか引っ込んだ。別室に連れて行ったり、警察呼ぶほどじゃなくてよかった。
…やっぱり、クレーム対応はつかれるなぁ。
白「…なんとか、対応してきました」
黒「お疲れ様」
白「ちょっと、大変でした…あはは」
黒「…買う前にキャンセルや変更は出来ないって言ってるから」
黒「きっと、気が変わってクレームつけて無理矢理変更させようとしたんだね」
後で分かったけれど、さっきのお客にチケットを売ったのは、実は私だった。(売った客をいちいち覚えてない)
こういうとき、「ちゃんと確認したの?」とチケットを売った人は責められるのだけれど
黒さんは、きっと私が売ったって知ってて、フォローしてくれていたのかもしれない。
白「ふひーーーっ、今日も最期の客までさばいたーーっ!」
姉「やったね!…あひゃー、もう11時だよ…。日が変わる前に帰れるかなぁ」
白「一杯飲んで帰りたいねぇ」
姉「明日の朝がはやくなけりゃーねー」
居酒屋
姉「…で、結局ここか」
白「だってー!いいじゃんいいじゃん、終電まで一杯だけっ!」
姉「はーいはいっ」
私はもちろんビール。姉は焼酎をロックで頼んだ。
白「焼酎すきだよねー」
姉「白はビール好きだよね」
白「だって美味しいじゃん!仕事で疲れたあとに、ゴックゴックプハーッ!」
姉「私はこれでゴクゴクするのすきだけど?」
白「焼酎がぶ飲みはさすがに私むり…」
白「姉はさー、最近浮いた話ある?」
姉「えー、うー、あー」
白「あるんだ?もしかして、ヨリ戻した?」
姉「戻れるわけないじゃん!あんな浮気男!」
白「そーだよねぇ。浮気はよくないよねぇ」
姉「…そ、それより……」
白「ん?」
姉「……い、いや…なんでもない。なんでもない!」
白「もったいぶらないでよぉっ!吐いてしまえっ!」
姉「いやほんとなんでもないんだったら!」
黒「…お疲れ様」
白「あっ…黒さん……」
黒「ちょっと仕事のこってたから、さっき終わって…飲もうと思って」
白「へーっ、黒さんって、彼氏いたことないんですか!?」
黒「うん」
白「いがいーっ」
姉「ね、黒さんみたいにスタイルいい人、普通ほおって置かないよ」
黒「……」
白「あっ、そういえば今日は助けていただいてありがとうございました!」
黒「…えっ?」
白「あの、チケットキャンセルの時の…」
黒「あぁ、上司として、まぁ…」
姉「なーにぃ、またミスしたの白ぉ?」
白「ミスじゃないよぉ!ちょっとテンパっただけだってば!」
姉「黒さんの手を煩わせた時点でミスだってぇ」
白「うーっ!」
姉「あーっ、終電いっちゃったああ!!!!」
白「ありゃりゃりゃ…」
黒「…どうする?」
姉「私はタクシーで帰ろうかな」
白「私もそうしようかなぁ…」
黒「…私の家、近いけど…よかったら泊まってく?」
白「…えっ?」
姉「白ちゃん泊まっていきなよっ!」
白「でも…」
黒「迷惑じゃなければ」
白「迷惑だなんてとんでもないっ!!」
姉「にひひっ、んじゃ私はタクシーで帰りまっす♪おつかれさまーっ」
スキップしながら行列のできたタクシー乗り場に姉は向かう。
ちょっと変な子だけど、私に気を使ってくれるいい子だ…。今度お礼するね。ごめんね。
白「おじゃましまっす…」
黒「狭い部屋だけど…」
蛍光灯がパチパチッとついて、部屋の中があらわになる。
玄関の目の前にキッチンがある1kのアパート。多分ユニットバスで…あんまり家賃は高くないだろう。
多分6畳くらいの部屋は、テレビと、ベットと、机と…目立つものはそれくらいで、ゴミ一つ転がっていない、綺麗な部屋だった。
白「わぁ…片付いてますね。私掃除嫌いだから、すぐ部屋がきたなくなっちゃって」
黒「それはそれでいいんじゃないかな」
白「えーっ?」
でも、確かにそれはそれでいいと思う。
だって、そうじゃなかったら私の部屋はすでに綺麗だ。
黒「お風呂は入る?」
白「いいんですか?」
黒「…っていっても、シャワーだけど」
白「もーまんたいですっ!お借りします!…化粧も落としたいし…あはは」
白「ふぅ…」
ほろよいにシャワーは気持ち良い。
ビールを2杯飲んだだけだけど、憧れの先輩の部屋に来てるせいもあって、気分はすごく高揚している。
白「くぅうーーーーっ!!」
素直にうれしい。シャワーの音に掻き消える程度の喜びの声を漏らさずにはいられない。
あぁ…このあと私、どうなっちゃうんだろう?
先輩と…朝まで……
ふふ、ふふふふふ……。
い、いかんよだれが垂れてきた。顔を洗おう。
白「あ、あがりました…」
黒「じゃあ私も入ろうかな」
黒「楽にしてていいから。もう寝ても…」
白「い、いえっ!大丈夫です」
黒「…コップに飲み物くんでおいた。あと、TVのリモコンはそこだから」
白「ありがとうございますっ!」
…わぁ、人を泊める時までスマートなんですね…。
私、ますます惚れちゃいました……。
ん…。お酒のあとのお茶は美味しいです…黒先輩。
黒「おまたせ」
白「あっ…ぜんぜ…」
寝巻き姿の黒先輩……風呂上りの黒先輩……はふぅううううっ!
黒「…どした?」
白「い、いえいえいえ」
黒「じゃあ、寝よっか…明日も早いし」
白「そ、そうですねっ!」
黒「一緒のベットでいいよね?」
白「はいっ!」
白「………」
白「…え?」
ドキドキドキドキドキ
隣で黒先輩すぐ隣で黒先輩肌が触れあう距離で黒先輩
ひああああっ!!!
白「うぅ……」
黒「…寝れない?」
白「い、いえっ!そんなことは…っ!」
黒「…何か、お話しようか」
白「えっと…は、はいっ」
黒「…白さんは、男の人と付き合ったことは?」
白「えっ?」
黒「さっき私も聞かれたしさ」
黒「…ないの?」
白「…はい」
…私は母子家庭で育ったせいか、小さい頃から男の人が苦手だった。
大学までずっと共学でやってきたし、何回か告白もされたけど、全て断ってきた。
というか…私は、女の人の方が好きだ。
いままで本気で恋をした人が何人かいるが、誰にも言い出せないままだった。
白「…男の人って、あんまり好きになれなくて…その、怖いっていうか」
黒「そう…」
白「先輩は、なんで男の人と付き合わないんですか?」
黒「私も、男は苦手」
白「へぇ…」
黒「…男の人って…いつもへつらってくるか、高圧的かだし」
黒「そういうのは、ちょっと」
白「ほへぇ…」
びっくりした。私と考え方が似ていた。
…もしかしたら、この人も……その、レズ…なのかもしれない。
黒「…白さんは…ネコみたいだよね」
白「えっ?」
黒「うん」
白「うーん…動物占いはチーターでしたが」
黒「全然。ネコだよ」
白「どうしてですか?」
黒「うまくいえないけど……。ゴロゴロッって、感じで……うーん」
白「あははっ、じゃあ、黒さんはイヌみたいですねっ」
黒「えっ?」
白「しっかりしてるっていうか…律儀っていうか…。そういうところが」
黒「うーん…どうだろ?」
白「思い当たるふし、ないですか?」
黒「まぁ、うん、……ある意味、イヌかな私」
白「ある意味?」
黒「…ふぁ……眠くなってきた」
白「…そう、ですか」
黒「白さん抱いて寝て良い?」
白「えっ…?」
「抱いて」という言葉にいやらしさを感じたが、実は直接的な意味で、黒さんは私を抱き枕代わりにして目を閉じた。
白「あわわわわ…」
私の耳元のすぐよこで、黒さんがすー、すー、と寝息を立てている。
入社以来、ずっと目で追っていた黒さんの顔が、今目の前にある。
黒さん…素敵です。
私、……私、本気にしちゃいますよ?
こんなことしてくるってことは……いいってことですよね?
私は黒さんの寝息が深くなった頃合を見計らって、その唇にキスをした。
黒「…白さん」
白「あ………」
黒さんは、目を覚ましていた。
不覚だった。…せっかく親切をしてくれた相手に、私は…なんてことを…!
絶望が、胸をキューッと痛く締め付けた。
黒「……どうして?」
白「どうしてって…その…あの…」
黒「……」
私がしどろもどろになっている中、黒さんはずっと私の事を見つめている。
でも、目が合わせられない。
…こういう時、どうすればいいかなんて、教科書にのって…ちがった!しっかりしろ私っ!
白「ごめんなさいっ!ついっ!」
黒「……どうして?」
白「そ、それは…」
黒さんは、私の事をあくまで追求してくるらしい。
…こまった…どうしよう…どうしよう。
黒「……」
あぁ、たぶん、どんな嘘をついても、黒さんの瞳はごまかせないんだろう。
だったら私は、正直に想いの丈をぶつけるしかない。
寝ている間にキスをするなんて、卑怯な事をした罰なのだ。
白「…私っ……黒さんのことが…すき…で……そのっ!」
生まれて初めての告白。
もはや今日のこのときにしようとは…。
白「えっと…ごめんなさいっ!迷惑ですよね!…わ、私帰りますっタクシーでもなんでもっ!」
黒「うれしい」
白「…え?」
黒「…私も、ずっと白さんのこと、見てた」
白「えええええええええええええ!!!」
黒「…あの…その…」
白「…はい」
黒「す、好きにしてください…私を……」
白「……?」
黒「………」
白「え」
黒「す、すきに……」
白「…えっと…じゃあ…え、えんりょなく?」
黒「ど、どうぞ」
白「?……??」
それから私は、黒さんにあんなことやこんなことをして…
黒さんのあらゆる所を触り、感じさせる作業を、日が昇るまで続けるのでした。
白「……そろそろ出ないと間に合わないですね」
白「じゃあ、いきましょうか黒さん」
黒「はい」
うぅ……どうしてこうなってしまったのだろう。
すっかり私たちは攻守逆転してしまった。
昨日まで先頭たって歩いていた黒さんは、今は私の後ろに、ちょこんとついてくる。
…いや、女性にしては高い身長で、スタイルや顔もバツグンにいいのに…。
ちょこんと、という表現はなんかおかしいな…。
白「…手でもつなぎますか?」
黒「えっ。いいんでうすか」
後ろについてこられるよりいいかなと思った発言だったけれど…、思ったより黒さんのツボを刺激したらしい。
ニコーッと満面の笑みで私に笑いかけてきた。
こんなにうれしそうに笑った黒さんの顔…はじめて見た……
黒「…ですから、前回のトレーラーの経験を踏まえて」
朝の会議。
黒さんは、いつも通りの口調で報告をしている。
…昨日はあんなに激しくされて喜んでいたのになぁ……。
姉「…何?にやけちゃって……。あ、もしかして昨日黒さんの家で…」
白「にひひ、ひみちゅ」
姉「うわ、セコッ!…こんど話してよね!せっかくチャンスあげたんだから」
白「わかってるって」
白「…ねぇ、黒さん。今度どこか行きましょうよ」
黒「えっ…いいんですか?」
社員食堂。一番忙しい昼過ぎのかきいれ時業務を終え、遅めの昼食にやっとありついている。
デートのお誘いをしたら、黒さんは今朝と同じように瞳をキラキラさせた。
白「次の黒さんの休暇って、いつでしたっけ?」
黒「火曜です」
白「うー、金曜はどうですぁ?」
黒「あ、金曜も休みです」
白「じゃあ、その日にどこかへ行きましょう」
私たちの職場は映画館という特性上、休みがすごくまばらだ。
土日は空かない事が多く、大体が平日に休みがもらえる。
そして、休みの日はローテーションになっているので、他の社員とかぶることが少ない。
…デート、月に一回できればよさそうだなぁ。
黒「…これって、デートですよね?」
白「まぁ、そうですね」
黒「ふふっ…」
あぁ…また笑ってくれた。
なんだか黒さんの今までのイメージが壊れていくのだけれど、これはこれで、幸せ…。
黒「あの……今日の夜は…?」
白「今日は自分の家に帰ろうかな」
黒「…そ、そうですか……」
白「ご、ごめんっ!着替えたりとかしたいし…。
白「えっと、その~、…また…泊まりにいってもいいかなっ?」
黒「いつでもっ…白さんならっ!」
もーーっ!可愛いなぁ!!!!
なんだか私は、黒さんのギャップを、すごく楽しんでる!
姉「えっ!!じゃあ今二人は付き合ってるの!!!?」
白「しーーーーっ!!しーーーっ!!」
白「まったく、酒飲むと声でかくなるんだからぁ…」
姉「えーーっええええっ…ほんとに女の子同士で付き合えたりするんだぁ…」
居酒屋。
今日は二人とも早朝から出勤だったので、7時退社だった。
こんどは終電は逃さまい。
白「まぁ、私もびっくりだよ。なんせこれまで年齢=恋人居ない歴だし」
姉「そっか…白ちゃんほんとにその気ああったんだぁ」
白「悪かったわね」
姉「バカにしてないってば。…うん、すごいよ。うん」
白「でもまぁ、色々あってさ……ちょっと、大変かなぁ」
姉「なによぉ、さっそくノロケ?」
白「そんなんじゃないよぉ。…あんまり言えないけど、先輩私の前でちょっと性格かわるんだ」
姉「へぇーっ」
白「はじめはちょっと困惑したんだけどさ、それが逆によかったりで……」
姉「ふんふん」
白「…姉もなんかないの?この前は何も無いって言ってたけど?」
姉「ないよぉ!全然ない!むしろ全力でその何かを募集中!」
白「最近よく一緒にお酒飲んでくれるけどさぁ…」
白「ちょっと前までは、まっすぐ家に帰ること多かったじゃん?」
姉「そうだっけ?」
白「そうだよ」
姉「気のせいだって」
白「そうかなぁ…」
姉「うん」
気のせいじゃないけれど、なんだか聞いて欲しくないみたいなので、突っ込まないでおこう。
白「…もうそろそろ、先輩の業務終わるなぁ…」
姉「おっやはり気にかかりますか?」
白「それは…ね」
姉「じゃあ今から戻って事務室覗いてくれば?間に合うよ」
白「……」
姉「ほれほれ、はやくせい」
白「…えへへ、じゃあ…行ってこよっかな」
思ったとおりだった。
先輩は、事務室でひとり会計処理をしていた。
白「黒さんっ」
黒「あ……」
それまで無表情に淡々と作業していた黒さんが、私が来た事を知ると、微笑んだ。
白「大変そうだね」
黒「…いつものことだから」
白「手伝えることない?」
黒「大丈夫です。あの…」
白「うん、待ってるよ」
黒「……」
また、ニコッって笑った。
私はこの人を笑わせる事を生きがいにしてもいい。
黒さんが笑ってくれると、私の心がいつもくすぐったくなる。
くすぐったいから、ついつい…笑っちゃうんだよね。
黒「…終わりました」
白「お疲れ様」
白「…かえろっか」
黒「はいっ」
白「あっ、でも…その前に」
黒さんの唇に、そっと私の唇を重ねた。
ずっと黒さんの作業を眺めていた私は、すでに愛しさMAXになっていたので、我慢できなかった。
白「えへへ」
黒「…ぅ」
白「…もっと、していい?」
黒「はい。…おねがい、します…」
私は黒さんの口に、舌を入れてみた。
黒さんも舌を使って私に答えてくれた。
結局私は、黒さんを3回イかせるまで、黒さんを愛撫した。
最期の一回は、私のも触らせて、黒さんと一緒にイッた。
…会社の事務室で。
白「…えへへ、結局終電逃しちゃった」
黒「今日も、泊まっていきますか?」
白「いい…かな?」
黒「はいっ」
あぁ、今日は眠れるのだろうか…。
まぁ、眠れなくても…いっか。
235 : 以下、名... - 2009/12/20(日) 19:13:26.46 53vpGp+bO 111/215これは時系列順に直すと
2話→1話→3話?
1話→2話→3話?
238 : ちぢれ - 2009/12/20(日) 20:23:01.28 IdcSoiau0 112/215>>235
ちょっと2話でそれをはっきりさせられなかったので
補足させてください。
本当は2話の間に1話が入ってます。ほとんど分からないんですけどね。
あとは3、4と続きます。
…そして次の日も、黒さんの家に泊まった。結局3日連続で泊まった事になる。
黒さんの家は泊まりやすい。ベットも二人寝るには十分な大きさだし。
なにより職場から近いし。
着替えやらなんやかんや(下着とか!)を買ってすませるのもあれなので、私は黒さんの家に何時でもいける様にしようと決めた。
なので、黒さんの家にはじめて泊まってから4日目は家に帰って、5日目の朝に着替えやらなんやかんやを黒さんの家に持ち込んだ。
黒「…いっぱい持ってきましたね」
白「これでいつでも黒さんの家に泊まれるよ」
黒「うれしい…」
白「えへへーっ」
そうして、私たちの半同棲生活は始まったのですが、ついに金曜日がやってきました。
約束していた、デートの日です。
白「明日は金曜日だね」
黒「楽しみ」
白「今日は家に帰ろうかな」
黒「そうなんですか?」
白「うん。…恋人同士の待ち合わせってやつを…体験してみたい」
黒「恋人…」
白「いいかな?……えっと、それに」
黒「?」
白「黒さんちに居ると、だらだら出発遅らせちゃいそうで…。あんまり居心地いいから…」
黒「…えっち、ですもんね」
白「うっ…。どっちが」
黒「ふふっ」
金曜の朝10時に待ち合わせ。
遠足の前日じゃないけれど、忘れもの大王の私には珍しく、持っていく荷物の確認なんていうものもやった。
朝起きれるか心配で、2種類の目覚ましと、携帯電話のアラームを同時刻にセットするという荒業を仕込んだ。
…片方の目覚ましを寝床から遠いところに置いておいて、正解だった。
白「ふぅ…楽しみにしてた金曜日だぜい!」
白「気合入れてお化粧しよっと!」
白「あー、でも」
…気合を入れすぎるといつも派手になってしまうので、ほどよく、ほどよく。
白「…こっちのブラウスのが…、いや、顔うつり悪いか」
化粧と格闘すること1時間。出発まであと30分。
昨日決めた服装で問題ないかチェックをしたが、案の定不安になった。
白「あーーーっ!どちくしょーっ!この前のセールであの服買っとけばよかったぁっ!!」
結局ギリギリまで悩んで、もーいーや!的に家を出た。
待ち合わせ場所に着くと、やっぱり律儀な犬型黒さんは、先についていた。
私はギリギリだったのに。
………が!
白「……えっ?」
白「…ジャージ?」
黒「え?」
白「え?」
初めてのデートに、黒さんは果敢にもジャージでいらっしゃったのだ。
白「なんでジャージなの!?」
黒「えっ…駄目?」
白「……」
なんて返事をしよう。駄目って言っていいのかな?
でも、これからショッピングするのに、ジャージじゃあれかな?
白「駄目じゃないよ!」
黒「よかった…」
ホッとした黒さんの安堵の声。
そんなに心配させるような反応してしまったのか…ごめんなさい、黒さん。
黒「まず、どこに行きますか?」
白「うーん。……本屋はどう?」
黒「分かりました」
黒「おっきい本屋ですね」
白「うん。探している本があるとき、たまに来るんだ」
黒「…あ、ちょっとそこの雑誌みてもいいですか?」
白「いいよ」
黒さんが目をつけたのは、映画雑誌のコーナーだった。ぴあとかキネ旬とか。
白「…黒さんって、やっぱり映画好きなの?」
黒「好きじゃなければ、あの今の会社に勤めてません」
白「ふーん」
私は、なんとなく今の会社を受けた。で、受かった。映画は…まぁ、金曜ロードショーとかでたまに見る程度。
黒「みてください、コレ…こんど公開するんですけど、面白そうですよね」
白「…ふんふん。確かに」
黒「うちでも上映できないか、掛け合ってみようかな」
白「いいかもね」
黒「白さんは、どんな映画が好きですか?」
白「えーっ、んー?……アクションだね。スカーッとする系」
黒「いいですね。私もアクション好きです」
白「黒さんは?」
黒「そうですね。…変な映画が好きです」
白「えっ…変な?」
黒「はいっ」
黒「…昔のフランス映画で、変な映画があって…。音が面白いんです。普通の人が歩いてるのに、ピコピコ鳴るんです」
白「ふんふん」
…黒さんは、どうも結構な映画好きみたいだ。
しかも、私とはあまり趣味が合わない…みたいな。
白「こんど一緒にみよう」
黒「いいんですか?」
白「…黒さんの趣味に、もうちょっと詳しくなりたい」
黒「じゃあ、白さんのおすすめも一緒に見ましょう」
白「じゃあ、めちゃくちゃ怖いのにしようっと」
黒「うっ…」
白「ん?」
黒「怖いの、苦手…」
…で、映画雑誌コーナーから離れた私たちは、ファッション誌コーナーにやってきた。
白「…さて」
黒「はい」
白「黒さんって、普段はその格好?」
黒「スーツ以外で外に出るのは…まぁ」
白「他に服持ってないの?」
黒「ちょっとだけなら」
白「ちょっと?」
黒「えっと…ジーパン1足と、シャツ、トレーナー、パーカー、コート…ぐらいでしょうか」
白「全部一着ずつ?」
黒「あ、シャツは3枚あります!」
白「……」
白「黒さんって、服買わないんですか?」
黒「えっ?買ったほうがいいですか?」
白「うーん…」
白「買いたくない?」
黒「…どちらかと言えば」
白「うーーっ……」
私は数あるファッション誌の中から、シックな雰囲気の雑誌を手に取った。
そして、適当に黒さんと似たスタイルのモデルさんが居るページを探した。
白「ほらっ、これっ!この感じとかどう?」
黒「…どう?」
白「……着て見たいとか思わない?」
黒「特には」
白「……」
白「ねぇ、黒さん…今日は私から黒さんにプレゼントがあって」
黒「えっ、いきなりですね」
白「これから買いに行こうと思うんだけど、いいかな?」
黒「もちろんです。わくわくします」
…その後、黒さんの服を買う為に一日中服屋を回った。
黒「いっぱい買いましたね。…ほんとにこれ全部もらってしまっていいんですか?」
白「だって、買いたくないものを買わせたくないし」
黒「…半分くらい出します!」
白「だーめ」
黒「……」
白「…落ち込んでる?」
黒「そんなことないです。…むしろ、うれしいです」
白「…そっか」
黒「はい」
白「……黒さんち、これから行ってもいいかな?ちょっと、疲れちゃった」
そんなこんなで、一日中服を買って回る私たちの初デートは終了し、黒さんの家になだれ込んだ。
白「ただいまー」
黒「お帰りなさい」
白「…いっしょに帰ってきたのにね。ちょっと面白い」
黒「でも、お帰りなさいって、私言いたいです」
白「…なんで?ただいまじゃ駄目なの?」
黒「私はどちらかというと、待っていてあげたい人なんです」
白「…確かに私は、待っていてもらいたい人かも」
黒「……ふふっ」
白「……あはは」
それからキスを2回ほどして、黒さんのベットに飛び込んだ。
白「かわいいっ…」
黒「そんなっ…白さんも…」
白「もっと感じて欲しいなぁ…なめちゃおうかな…」
黒「うぅ…いまなめられたら…」
白「じゃあなめちゃおーっ…んっんっ」
黒「ひあっ!……んっ……んんーーっ!」
白「ふふっ。ほんと可愛いなぁ…」
黒「…ずるい」
白「じゃあ、今度はそっちがする?」
黒「う…」
白「もっとして欲しいでしょ?」
黒「はい……」
白「…じゃあ、指…中に入れるね?」
黒「……はいっ…て…きます…」
白「動かすね」
黒「んっ……くぅうんっ……やっ…ああっ!いいですっ…そこいいですっ!」
白「…ちくびも……んっ…んっ」
黒「あっ……そんなにされたらっ!もう……」
白「いふ?」
黒「はいっ……イッちゃいますっ……ちくびと…あそこ気持ちよすぎてっ…」
白「んっ…いぃよ…いっへ……」
黒「白さんっ…だいすきですっ…わたしっ…私白さんと付き合えてほんとにっ…ほんとにっぃっ!」
白「うんっ…わたひもっ……すきっ…すきっ!」
黒「んっ…イクッ…いくっ……んんっ!!!」
黒「あっ……んっ……ふあっ!……あ、…あぁ……」
白「……かわいい」
黒「えへへ…」
白「にひひ…」
黒「…ほんとに、私、白さんと付き合えて…幸せです」
黒「いままでの人は、いつも私はなんか違うって…」
白「え?」
黒「?」
白「…今まで付き合ってた人いるの?」
黒「え?あ…はい。3人ほど…。皆さん女性ですけれど」
白「……」
白「そっか……はじめてじゃなかったのかぁ…」
黒「…駄目でしたでしょうか」
白「いや、いいんだけどね…こう、独占欲がさ…」
黒「……」
白「あー、でも、黒さんのこと嫌いになったとかじゃないし!安心して!でも浮気はだめ!」
黒「浮気なんかしませんっ!!」
白「…ふぇっ」
今まで一緒にいた中で、一番の大声だった。
ちょっとだけびびったけれど、黒さんなりに真剣なんだと思った。
黒「…白さんは、今まで私が付き合ってきた誰よりも、私の事を分かってくれた人です」
黒「みんな…私が好きになる人はみんな、付き合ってから『なんか違う』って…」
黒「それだけで、私を捨てて…」
…多分、捨てて、っていうのは大げさで御幣がある。
白「そっか…まぁ、確かにその娘たちのことは、ちょっと分かるかな」
黒「…やっぱり…、白さんも、そうなんですか…。今日待ち合わせで会ったときも…」
白「まぁ、分かるっちゃ分かるけど…。私はその『違う』黒さんも含めて好きなわけで」
黒「えっ…」
白「黒さんの、色んな面がわかって…すっごくうれしいんだよ?」
白「いままでは、仕事上の…表面上の付き合いしかなくて…」
白「それまで、私が黒さんを見る目は、たぶんただの憧れだったんです」
白「…それが、黒さんがこんなに可愛らしい人だってわかって…うれしくて…」
白「ますます好きになっちゃったんですよ?」
黒「うぅ……」
黒「わたしっ…ほんとにっ……ほんとにぃいい……」
ポロポロ涙を流す黒さん。
あぁ、ほんとに私の事を好きでいてくれてるんだな。
私もうれしいよ。黒さんに好かれて。黒さんを好きになれて。
黒「うわああああああああん!」
白「よしよし」
私をギュッと抱きしめてきた黒さんを、私は抱きしめた。
黒さんの方が背は高いし、力は強いしで…多分、はたから見たら、ちょっと変な光景なのかも知れない。
…でも、私はこの関係を、すごく愛している。
白「あっ……ねぇ、今思い出したんだけど」
黒「…?」
私の胸の中に顔を埋めている黒さんが、見上げてくる。
白「昔ね、私の住んでた家って動物王国だったんだよ」
黒「いっぱい飼ってたんですか?」
白「…うん。私が捨て猫とか捨て犬をいっぱい拾ってきたからね」
黒「かわいいですね。白さんらしいです」
白「…でね、ずっと前に私が拾ってきたネコが、子供を産んだの。5匹も!」
白「そりゃあもう子猫のかわいいのなんの」
白「それからすぐ、公園で捨て猫を見つけたの。生まれたばかりの、ちっちゃい子猫!」
黒「ふんふん」
白「…でね、案の定私はその子猫をひろってさ」
白「さっきの子供を5匹産んだ親猫に、育てようとしたの」
黒「そんなことできるんですか?」
白「小さい私はできると思ってたのね?」
白「…でも、5匹も子猫がいると、おっぱいの競争が激しくって」
白「私が拾っていた子猫は、熾烈なその競争にはじかれちゃって、どうしようもなかった」
白「親猫も、他のネコが産んだ子供を育てる余裕もなさそうだったしね」
黒「え…じゃあ…」
白「ところがどっこい」
白「…気がついたら、飼ってた犬がその子猫を育ててたの!」
黒「そんなことあるんですね…」
白「それには私もびっくり」
白「…その犬はメスの中型雑種犬で、やっぱり私が拾ってきたんだけど、赤ちゃん生まれない体にしちゃてたの」
白「だからかな?熱心に育ててた。もちろん、子猫にミルクは私があげてたんだけど」
白「…以来、その子猫と犬はね、親子みたいに育ったんだよ」
第四話 「いもうと」
姉「卒業おめでとう」
妹「ありがと…お姉ちゃん」
妹の卒業式。
仕事の休みをもらって、学校まで祝いに来た。
友「…あ、お姉さま…お久しぶりです」
姉「あら、友ちゃん。ちょっと見ない間に可愛くなったね」
妹「あのねー、友ちゃんねーっ」
友「あっ!こらっ!!」
妹「いいじゃん、お姉ちゃんにくらい言ったって……あ、ほら、うわさをすれば…」
後輩「う゛ぅっ……う゛っ……お゛め゛て゛と゛う゛こ゛さ゛……あああああん!…」
妹「あーぁ、友ちゃん泣かした。いけないんだぁ」
友「なんでそうなるっ!!」
後輩「うぅ…っ…友ちゃんがいないっ学校…さびしっ…さびしくてええええっ!」
友「あー、ほら…何時でも会うからさ…。ね?後輩ちゃんのためなら私…」
後輩「ほんとですか…?」
友「あ、う、…うん…」
後輩「わーーいっ!!」
友「切り替えはやっ!」
…あぁ、なんだかすごく、懐かしい。
今となっては、卒業するものもない私。…とっても、あの子たちがまぶしい。
姉「…なんだかいいわね」
妹「友ちゃんたち?」
姉「…んー、みんな」
妹「おばさんくさいよ?」
姉「うるさいわいっ!」
妹「そういえば、なんでお姉ちゃん来たの?」
姉「お母さん来れなくなったでしょ?」
妹「代理?」
姉「そうそう。やっぱり、家族のだれかは見届けなきゃ」
妹「そっか」
…妹は、なんだか変わった。
さばさばするようになった。
私の言葉をひろって、話を広げるような事をしなくなった。
後輩「うぅ……友ちゃん…ボタン欲しいです…ボタン…」
友「セーラー服だからボタンないって!」
後輩「ならそのスカーフを!」
友「だめだって!」
…妹は、目の前の二人のやりとりを、じっと見つめていた。
ささいなやりとりかもしれないけれど、もう二度とは戻れない高校生活最期の瞬間を、目に焼き付けてるのだろう。
妹「じゃあ、またね」
友「うんっ、またね!」
後輩「…妹さん、また」
妹を置いて、友ちゃんと後輩さんとやらは去って行った。
姉「…いいの?」
妹「なにが?」
姉「……」
妹「卒業パーティなら、明日やるよ。今日はみんな、家族とがメインかな」
姉「うーん、そういうことじゃなくてさ」
妹「ん?」
姉「…あの二人と、最期の放課後を過ごさなくていいの?」
妹「……うん」
小さな声で、妹はうなづいた。
帰り道。かつて私も通っていた通学路だ。
15分ほどの道のりだけれども、様子はあの頃とあまり変わっていない。
姉「…友ちゃんG大受かったんだ…すご」
妹「うん。やっぱり友ちゃんにはかなわないよ」
姉「妹だって、M大じゃない。…私も入りたかったとこだよ。頭的にむりだったけど」
妹「別に、すごくないよ…」
姉「謙遜しちゃって」
妹「……べつに」
あ。ちょっと、不機嫌になった。
…最近、妹の怒りの琴線も計りかねなくて困っている。
姉「…今日さ」
姉「えっと…今日さ、……夕飯なにがいい?お姉ちゃんが腕をふるってごちそうするよ!」
妹「…お姉ちゃん料理作れたの!?」
姉「作れます!!!」
妹「…べつに、料理はいいかなぁ」
姉「そうか…」
妹「うわ、すっごく残念そう」
姉「こういう時に作る料理だけは、楽しいもんなのよ」
妹「…そうだ、せっかくだしさ……このまま何処か、遊びにいこうよ」
変な妹だ。
遊びに行くんだったら、友ちゃんと行けばよかったのに。
姉「なんでさっき、あの二人についてかなかったの?」
妹「だって、いまの友ちゃんは後輩ちゃんのものだもん」
…そうだろうか?
確かにあの二人は仲がよさそうだったけれど…。
姉「…まぁ、たまには妹を甘やかすのも姉の役目か」
妹「やったーっ!私ディズニー行きたい!」
姉「今から行けるかっての!」
姉「…ちょっと遠いよ」
妹「いいじゃんいいじゃん」
姉「まぁ、今の時間なら…3時くらいには着くか」
妹「うんうん」
姉「たまには妹と遠出ってのも悪くない…と思うことにしよう」
妹「ポジティブシンキングは大事だよ」
姉「うまく乗せられてる気がする…」
妹「今日はお父さんもお母さんも帰ってこないしさ、遅くなっても大丈夫だし!」
姉「…私明日仕事あるからね?」
妹「~♪」
姉「聞いてんのかーっ?」
妹「いざっ、横浜へ~♪」
妹たっての希望で、私たちは横浜まで行くことになった。
電車を乗り継いで2時間ほど。
私たちは横浜駅に到着した。
妹「平日なのに、すごい人だかりだね」
姉「うぅ…どこに行けばいいんだ…右も左もわからぬ」
妹「お姉ちゃん横浜はじめてなの?」
姉「…実は」
妹「いい年こいて横浜はじめてってどうなの?」
姉「う……。そういう妹はどうなの?」
妹「お姉ちゃんみたくなりたくないから、今日来たんだよ!」
姉「…ダシに使われたか」
姉「妹はどこに行きたいの?」
妹「うーん……一箇所、行きたいところがある」
姉「どこ?」
妹「それがね、名前わすれちゃってた」
姉「…おい」
姉「まぁ、そこのキヨスクで横浜のガイドブック買って、適当に回るか」
妹「うんうん♪」
そんなこんなで、横浜駅の片隅で、ガイドブックを眺める二人。
おもいっきり観光客ってばればれやん。はずかしいぃ…。
姉「うーん、なんか横浜駅周辺にはめぼしいところ無いんだな」
妹「そうなの?」
姉「やっぱあれだ。桜木町に行こう」
妹「サクラギチョ?」
姉「…知らないの?」
妹「う、うん…」
姉「桜木町も知らないで、横浜に遊びに行きたいとかのたまわっていたのか」
妹「えーっ、だってぇーっ!」
姉「まぁいいからさっさと行こう。こんなとこでウダウダしてたら日が暮れちまう」
JRの改札を通って、京浜東北線という電車にのってひと駅。
私たちは桜木町に着いた。
妹「あっ!さっき電車の中から見えたおっきい建物ってあれだ」
姉「あぁ、ランドマークタワーね」
妹「…ってそこに書いてあるんだよねー?」
姉「それくらい元から知ってたって。……名前だけ」
妹「ほらね?」
駅を出てすぐ、開けた空間に出た。
だからだろうか。遠くに見える大きな建築物が、よりいっそう巨大に見えた。
左手にランドマークタワー。正面にはおっきな観覧車がそびえていた。
姉「…こりゃ観光名所になるわ。みなとみらいという名は伊達じゃない」
妹「わくわくしてきたっ。早くいこっ?」
妹「あははっ、床が動いてるっ!」
…今日の妹は、なんだかごきげんだ。
動く歩道くらいではしゃいじゃって…かわいいなぁ。
そういえば、この数ヶ月間…妹とゆっくりおしゃべりしたり、遊んだりっていう事がなかった。
妹は受験勉強があったし、私は仕事が忙しかったし…。
妹「おいてっちゃうぞーっ」
姉「あーっ、あんまり早く歩くとつまづくよ?」
妹「へーき、へーきうわああっっ!」
いわんこっちゃないっ、という言葉が頭をよぎると同時に、コケそうになった妹の手を掴んだ。
妹「わ…」
姉「な?」
妹「う、うん……」
妹「あ、あり…がと…」
動く歩道の先、つまりはランドマークタワーの中に到着。
キラキラのショッピングモールが私たちを待ち受けていた。
姉「ほんとに展望台いかなくてよかったの?」
妹「うんっ、それよりあとで、観覧車に乗りたいかなぁっ」
姉「へぇへぇ」
妹「あっ、ジェラート食べたいかも」
姉「そんなの売ってるの?」
妹「うんうん。あそこ」
確かに。美味しそうなジェラート屋さんが、一角にある。
ただ、まだ3月だ。凍えるほどではないが、寒い。
閑古鳥が鳴いている。
姉「…ほんとに食べたいの?」
妹「だって…お昼たべてないし」
姉「そういえばそうだった」
「いらっしゃいませー、サイズはいかがなさいますか?」
姉「私はシングルのカップで…、妹はダブルにしといたら?」
妹「…私もシングル!…で、カップにしとこ」
姉「いいの?おなかたりる?」
妹「うん」
…もしかしたら、私の真似をしたのかな。
だとしたら、すごく久しぶり、かもしれない。
姉「じゃあ、シングルのカップを2つ、お願いします」
「かしこまりました」
妹「えっへへー。おいし」
妹はクッキー&クリーム。私はチョコミントにした。
…クッキー&クリームは、私が昔好きだったやつだ。
ハーゲンダッツがお中元に来たときは、真っ先にクッキー&クリームを私は食べていたなぁ。
姉「寒くないの?」
妹「この美味しさにくらべたら全然だよ」
姉「でも私は寒いから、外に出るのちょっと待とうね…」
妹「あ、あそこにイスあるから座ってたべよっか」
姉「いいね」
ジェラートを食べ終えたら、長旅(大したこと無いけれど)の疲れもあって、ちょっとだらだら。
今日の妹はとっつきやすいから、一緒に居てすごく気が楽だ。
結構話もはずむ。
姉「なんかここ、キラキラしてて、まぶしいわーっ」
妹「うん。でも素敵」
姉「はーっ、これから何処にいこうかなぁ」
妹「わたしはとりあえず、観覧車に乗りたいかな」
姉「問題はその後だよねぇ…」
妹「適当にブラブラしようよっ」
姉「ブラブラか…」
妹「お散歩だよぉ、嫌い?」
姉「年をとると、身体にこたえるんだよね…」
妹「認めたら負けだって!大ジョブ大ジョブ!」
まぁ、そんなこんなでランドマークを抜けて、続けて現れた天井の高いショッピングモールを抜けて
観覧車のある遊園地までやってきた。
姉「…おもったよりしょぼい遊園地ね」
妹「ディズニーとかと比べちゃだめだよ」
姉「まぁ、そうなんだけどさ」
妹「…そういえば、いつの間にか暗くなっちゃったね」
姉「ずっと室内に居たから気がつかなかった」
妹「でもっ、まだまだ一杯あそぼう!」
姉「はいはい。お気に召すままにどうぞ」
妹「…なんか、すっごく空いてるねー、この遊園地」
姉「今日平日だからじゃない?」
妹「休みになると混むのかな」
姉「…じゃないと経営が成り立たないでしょ」
妹「それもそっか」
観覧車に乗る為に、カンカンうるさい鉄の階段を上っていく。
チケットを買って乗り場に着くも、列は無し。
従業員さんはすっごく暇そうにしていた。
妹「…もしかしたら、他にお客さんのってないかな?」
姉「贅沢…」
妹「らっきー♪」
妹「…ゆっくりあがってくね……」
姉「…うん」
妹「この感じ、好きだな…。じわじわ、じわじわ……」
妹「…で、気がついたら頂上で…気がついたら地上なの」
姉「まるで人生みたいだからやめてーっ!」
妹「あはは。…でも、じわじわの積み重ねって大事だよねぇ…」
姉「哲学しないでよ…頭がいたくなる」
妹「…ねぇ、暗くなってから乗って、よかった……ほら、綺麗だよ」
まだそんなに高い位置じゃないけれど、目の前にはすでに横浜の夜の明かりが広がっていた。
星みたいにか細い美しさじゃなくて、、さっき私がランドマークの中で感じたキラキラじゃなくて。
それは、もっと優しい輝きだった。
妹「すごいね…。夜に観覧車乗ったのはじめてだけど…こんなに、素敵なんだね」
妹は、宝石を見つめるように見入っている。すごく、穏やかな表情をしていた。
…ちょっとだけ、胸が痛んだ。
妹「そういえば。…ちょっと前にね、インターネットで小説を見たの」
姉「へぇ、そんなの見るんだ?」
妹「その時はたまたま、ね」
妹「で、ヒロインの子と、幼馴染の男の子が、夜の観覧車に乗るの」
妹「そして、綺麗な景色を見たヒロインの子が、こうつぶやくの」
妹「あの光の数だけ、人の営みがあるんだね。…って」
人は光を放たない。
でも夜は、人が生活するための無数の灯火の一つ一つが、こうして目に届いてくる。
妹「…なんかね、同じように夜の観覧車に乗ってね、ちょっと実感したんだ」
妹「あの灯り下で、色んな人が、色んな思いや悩みを持って、生きているんだって」
妹「私も、その一人なんだって…」
妹「……」
妹「…そう考えると、面白いよね!」
そう言って、妹は笑顔を見せる。
…でも、私にはこんなに近くにいる妹が、何を思って、何を悩んでいるのかが分からない。
妹「あ、ほらっ。海がみえるよ」
姉「うん…東京湾…でいいのかな?」
妹「…じゃあ、もしかしてあのずっと向こうに見える明かりは…千葉かの方かな?」
姉「たぶん…」
妹「あそこで暮らしている人たちは、どんなだろうね…」
姉「あんまりこっちと変わらないよ。多分」
妹「お姉ちゃんはロマンチックじゃないのねーっ」
姉「大人になるにつれ、人はリアリストになるものなのっ!」
妹「…そういうもの?」
姉「たいていは。何時までも白馬の王子様とか言ってられないのよ」
妹「そっか……。私って、ロマンチストかぁ」
姉「…そっち?」
妹「あーぁ、もう半分もないよ。はやいなぁ」
姉「…楽しめた?」
妹「うん。ありがと、お姉ちゃん」
姉「…じゃあ、せっかく密室だし…むふふふふ」
妹「な、なによぉ」
姉「あんまり動くと怖いしあぶないぞっ?」
妹「……うぅ」
妹をぎゅーっと抱きしめる。ほんとに久しぶりに。
なんだかさっきから、そうしたくってしょうがなかったから。
姉「ふふっ。かわいいのうかわいいのぅ」
妹「むぎゅ」
姉「おっきくなったよね…ほんと。ちっちゃい時の方が可愛かったけど、今でも十分かわいいわぁ」
妹「ちょ、く、くるしーっ」
姉「えへへーっ、いいこいいこ」
妹「…んにゅ。もうすぐ下についちゃうよ?」
姉「もうすこしーっ」
妹「……うん」
二人とも厚着だったから、抱きしめてもほとんど肌と肌が触れ合わない。
なんだか私は妹の地肌が恋しくなって、手を結んだ。
妹「あっ……」
姉「…妹も冷たいね」
妹の手は、冷えて冷たくなっていた。
…それでも温もりはあって、その温もりと、肌の感触が………すごく、気持ちがいい。
そう実感したら、おかしなくらい心臓がバクッと言った。
姉「……」
妹「……」
どうしちゃったんだろう。
もうちょっとだけ、もうちょっとだけ…強く握りたい。
妹「もう、つくよ」
姉「え、う、…うん。そだね」
妹「あー、綺麗だったね!えへへっ」
姉「うん…」
妹「次どこいこっか?」
姉「……」
妹「…お姉ちゃん?」
姉「…えっ?」
妹「……」
姉「…あ、ブラブラするんだったよね?あっちはどうかな?」
妹「…うん。じゃあ、あっちに行こうっ。あっちあっち~♪」
それから私たちは、大きく整備された道路をなんとなく歩いた。
ちょっとすると、広い芝生に出た。
左手に、赤い古めかしい建物が見える。
姉「…うーん、アレは赤レンガ倉庫っていうらしい」
妹「何があるの?」
姉「色んなショップがあるみたい」
妹「…そういえば、ちょっとおなか減ったかなぁ」
姉「そだね」
妹「何か食べ歩きできそうなもの売ってたら買ってかない?」
姉「ナイスアイデアッ」
赤レンガ倉庫の中は、一風変わったお店が沢山あった。
どれも興味をそそられたけれど、お目当ての食べ歩きできる食べ物を見つけたので、おとなしく出発する。
妹「…わたし、外でホットドック食べるのはじめてかも」
妹「ソーセージがパリッとしてて、おいしいねぇー」
姉「ファーストキッチン行かないの?」
妹「え?ファーストキッチンで売ってるの?」
姉「最近は朝マックでも売ってるみたいだけど」
妹「…こんど買ってみようかなぁ。いままでもったいないことしてた」
姉「まぁ、結構高いホットドックだからね…あんまりファーストフードのホットドックに期待するとよくないよ」
妹「そっかぁ…」
姉「うちの映画館でもホットドック出してるけど、あんまり美味しくないしね」
妹「あ、映画見ながらだとまた一味違うかも!」
姉「私はポップコーン派だなぁ」
そんなこんなで、随分と歩く。
ホットドックを食べきって5分ほどしたら、おっきな公園があらわれた。
姉「山下公園と言うらしい」
妹「へぇーっ。…あー、海に、船の明かりが…」
姉「あそこ、船着場かなぁ?横浜港ってこの辺りのこと?」
妹「ゆらゆら揺れてる~。楽しそう」
姉「あ、あそこに見えるおっきい船は氷川丸だって」
妹「ひかーまる?」
姉「昔の船みたい。入れるらしいけど行って見る?」
妹「うんうん」
姉「うーん、ちょっと遅かったね。5時までって…思いっきりお役所仕事やん…」
妹「…ゆらゆらお船……」
妹「…そうだ、帰りにシュウマイ買って行こうっ」
姉「ずいぶん突然だね」
妹「嫌なことがあったら、いいこと考えるっ」
妹「…お姉ちゃんのウケウリ」
姉「そんなこと言ってたっけか?」
妹「言ってた言ってた」
他人のほうが、自分の事を良く分かってるってよく言うけど。
妹は私より私の事を知ってそうだ…。
妹「たまにお父さんが出張とかで買ってくるでしょ?崎陽軒のやつ」
妹「あの、醤油がはいってる入れ物が可愛いんだよネェっ!」
姉「あのキャラ名前あるのかな。…いつも死んでる目をしてるけど」
姉「さて…だいぶ歩きましたが…。まだ歩く?」
妹「まだまだ歩くっ!」
姉「…うっそまじ?」
妹「だって、私の行きたかったところ見つかってないし…」
姉「そうか…」
姉「じゃあ、山手ってとこ行ってみようか。なんかいいとこっぽいし」
妹「それじゃ、案内お願いしまーすっ」
姉「へー、へー」
姉「ちょっ……ちょっと……つらっ!…やすませてぇええっ!」
妹「息あがるのはやいよぉ」
簡単に山手に行ってみようと言ったはいいものの、私たちを待っていたのは長い長い坂道。
山という字が入っている地名は伊達じゃなかった。
長い散歩でただでさえ疲れている足に、トドメを刺された気分だよ…。
姉「若いあんたと一緒にしないでよぉーっ」
妹「お姉ちゃんだって若いじゃん」
姉「高校生とくらべないでっていう」
妹「いいからはやくいこっ!」
のろのろ亀さんの私を、軽快においていく妹。
まぁ、楽しそうだからいいんだけどさ、……今日くらい。
姉「ひぃ…あとどれくらいあるんだよぉ…」
妹「……あ」
姉「…ん?」
妹「ここかもしれない」
姉「…っていうと?」
妹「探してた場所」
姉「え、どこ?」
妹「…たぶん、そこの公園」
姉「公園?」
妹「うん……ちょっと、先に行ってるね!」
そう言って妹は急な上り坂を、タッタ駆け上っていく。
当然追いつける気がしないので、私はゆっくり行くことにしよう。
姉「ふぅ……。なんかこういうの久しぶりだなぁ」
姉「尻に敷かれるっていうか…、振り回されるっていうか…」
姉「4,5年くらい前までは……」
姉「……」
姉「迷子になったらやだし、…頑張って上りますかっ」
妹の言った通り、公園があった。
緑の多い、綺麗な公園だ。
坂を上りきったところで、山手の雰囲気がなんとなく飲み込めた。
西洋風建築が軒を連ねていて、町全体がアンティークみたいな、そんな印象を受ける。
もちろんそこの公園も、そんな山手の空気を帯びている作りになっているみたいだ。
姉「…港の見える丘公園。ここかな?」
姉「…妹…どこいったぁ?」
妹「おねえちゃん、遅いよぉ」
姉「妹が早すぎるんだって」
妹「まぁ、いいやっ。それより来てよっ!綺麗だよ!」
姉「ちょ、ちょっとちょっと!」
妹「いいからいいらっ」
妹に手を引っ張られて、ガクガクの足にムチを打って走らされる。
妹「えへへへっ!」
妹は走りながらこっちを向いて、無邪気に笑いかける。
ほのかな公園の照明に浮かび上がって、その笑顔は、私にとってまばゆい。
…そうだ。
今、私は妹と手をつないでる。
観覧車の時と違って妹の手は暖かい。
姉「…しょうがないなぁっ」
妹「そうそうっ、走ろっ!」
この高揚は、走ってるからなのかな。楽しんでるからなのかな。
姉「あははははっ!」
ほんとに気持ちよく、その時の私は笑っていた。
妹「とーちゃーっく」
走ること30秒ほど。目的地とやらについた。
たったの30秒間だけど、笑いながら走りすぎて、おなかが痛い。
姉「ひぃーっ。はぁーっ、はーっ、ちょ、ちょっとまって…。いきっ…いきがぁっ…」
妹「まぁまぁ、景色見てよ。綺麗だよ」
姉「…へ?」
確かに綺麗だった。
港の見える丘公園という名前だけあって、船の照明がキラキラと海に浮かんでいて
カラフルにライトアップされた巨大な橋が、ロマンチックな風景に仕立て上げていた。
姉「……」
妹「観覧車で見た景色の方が、綺麗だったね」
妹がはしゃぐので、もっとすごい景色かと思っていた。
確かに綺麗な景色だけれど、、妹の言うとおり、観覧車を先に乗ってしまっていたら感動が薄い。
妹「…でも、私はここに来たかったんだぁ」
そう言って、妹はギュッと私の手を握った。
姉「空中庭園みたいだね。…目の前崖だぁ」
妹「うん…景色云々より…ここの雰囲気、気に入っちゃった」
確かに雰囲気はすごくいい。
観光名所やデートスポットとして、よく使われているんだろう。
夜空のイルミネーションを眺めながら、寄り添い合っているカップルがちらほらいる。
姉「…なんでここに来たかったの?」
妹「んー、とね。伝説があって」
姉「うん」
妹「なんでも、『ここにデートしに来たカップルは必ず別れる』…だそうな」
姉「…はぁ??」
妹「うそうそ。嘘じゃないけど」
姉「わけわからん」
妹「えっと、あれあれ、前にドラマの舞台で使われてて、なんかいいなーって」
姉「ほぉ」
妹「お姉ちゃんも好きだった奴だよ?」
姉「どんな題名?」
妹「……忘れた」
姉「それじゃ分かるものも分からんわいっ!」
妹「そっかぁ」
あはは、と妹は小さく笑って、また視線を景色に戻した。
そうして、ギュッと手を握られる感触。 …そういえば、まだ手をつないだままだ。
ハッと妹の表情を伺ったが、にこやかに前を見ていた。
この娘は今何を考えてるんだろう。
なにを思って、今日一日私を連れまわしたんだろう。
どうして、手を強く握るの?
…私は、どう応えればいいの?
ちょっと、嫌な記憶をたどってみる。
私が付き合ってきた、男のことだ。
はじめてできた彼氏は、大学の先輩だった。
飲み会で友達に紹介されて、いつの間にかお持ち帰りされていた。(初めての無断外泊だった!)
このパターンのテンプレだと
あたし「…これから私、先輩の彼女でいいんですよね?」
先輩「…あ?」
…だけど、実際そうではなかった。
その先輩は私の事を好きになってくれて、私も好きだった。
それから何度かセッ○スするうちに、男の人と肌を重ねる気持ちよさに気付いた。
これはちょっとしたカルチャーショックだ。
価値観が変わってしまった。
はじめて彼氏ができてうれしかった私は、よく妹に報告した。
…でも、それまで私の話をなんでもうれしそうに聞いていたのに、彼氏関連はどうも反応が良くない。
どちらかと言えば縛りたがりの私は、結構な量の不満を彼氏に対して持つ。
妹がそれまで愚痴の相手だったけれど、それを友達に矛先を変えた。
そうしたら、友達は愚痴の量に耐えかねたのか、新入生の男の子を紹介してくれた。
なんでもかんでも話を聞いてくれる、いい子だった。
先輩と大きなケンカをした。原因は、先輩の浮気だった。
私は、真っ先に新入生の男の子の所へいき、愚痴るだけ愚痴って、寝た。
もちろんセッ○ス込みで。
まぁ、なんだかんだで、その子が新しい彼氏になったのだけれど、3日で別れた。
もちろん別れを切り出したのは向こうで、私はヤリ捨てられた気分だった。
…それからしばらく、私は彼氏がいなかった。
ちょっとした、男性不信に陥ったのだ。
次に付き合うのは、就活中に出会った他学の人だ。
それまでの約2年間、積極的に男を求めはしなかった。
…でも、一つだけ、私はずっと求めていた。
それは、温もり。
あの、肌と肌を重ねる、非日常の快感と安心感。
性的快感も嫌いではなかったが、静かに寄り添う和やかな快感を、どうしても忘れられなかった。
…やがて、時々夜に、たまらなく寂しくなるようになった。
まぎわすために親に隠れて酒を飲んでいたが、やがてすぐ酒逃げるようになった。
前述の就活中に出会った男は、寂しさに我慢しきれず求めてしまった人だ。
あんまりかっこよくもなかったし、上場企業に内定をもらってすぐ、私を切った。
それで、またしばらく我慢できるかと思っていたが、逆に寂しくなるばかり。
就職してから合コンで知り合った人も、やっぱり相手の浮気が原因で別れた。
結婚という言葉がちらつく。
それ以上に、寂しいという衝動がずっと心の奥で疼いている。
…妹の手は、私をすごく、すごくすごく、すごく、寂しくさせる。
もっと強く握らせて!!!
私は思いっきり、握力検査をするみたいに、妹の手を握った。
妹「…いたっ」
姉「あっ……ご、ごめ」
妹「なに…?」
姉「あ、いや……その」
妹「…へんなお姉ちゃん。…いたづら……だよ、ね?」
姉「う、うん…」
妹「痛かった…」
姉「ごめん」
妹「うん……」
…変だ。
私は今、すごく頭の中が妹で一杯だ。
ギュッってしたい。抱きしめたい。
二人が一つになるくらい、強く強く、抱きしめ合いたい。
妹「……」
姉「……」
さっきのことで、妹は何かを感じ取ったのかもしれない。
お互いだまって、前を見た。
妹「…あ、ネコさんだ」
首輪がないので、野良猫だろうか。細い猫が、妹の足に擦り寄ってきた。
妹はしゃがんで、猫の首を撫でてあげる。
…私とつないだ手を離さずに。
妹「あはは、かわいいね……あ」
姉「どした?」
妹「…この子、目が見えないみたい」
姉「えっ?」
私もしゃがんで、猫の顔を良く見てみる。
公園の明かりは暗かったが、猫の両目が白くにごっているのが分かった。
姉「……ほんとだ」
妹「なんか、切ない」
その猫は、頭を何度も妹の足にこすりつけ続けている。
それが、目が見えないからなのか、どうしてなのかは分からないけれど。
もしかしたら、目や耳では感じられないものを、必死で感じ取ろうとしているのかもしれない。
その猫の気持ちが、私の心に沁みて来たような気分になって、胸に痛みが走った。
妹「…ごめんね、私何にもあげられるもの持ってないんだ。ホットドック残して置けばよかった」
妹の謝罪も、猫には聞こえない。
頭をずっと擦り続けていた。
姉「…会社の同僚に白さんって人がいるんだけどね」
妹「あ、うん。お姉ちゃんのお話に何度か出てきたね。同期の人でしょ?」
姉「そうそう」
姉「ネコみたいな人でね、人懐っこくて、マイペースな所があって、心を読み取るのがうまくて…」
妹「へぇー」
姉「…で、その白さんは、上司の黒さんって人と、…その、すっごく仲が良くて」
姉「黒さんはね、逆に犬みたいな人なんだ。しっかりしてて、面倒見がよくて、仕事をてきぱきをするの」
妹「犬と猫で仲がいいんだ。おもしろいね」
姉「…すっごく仲が良くて、…私、ずっとうらやましいなって思ってて」
姉「でも、この前すっごいケンカをしてたんだ」
妹「へぇ……」
姉「ケンカは…どうしてもするよね。お互いに許せないことってあるもの」
妹「…でも、許せない事を言い合えるのって、羨ましい」
姉「そう?」
妹「そうだよ。…相手をもっと好きになりたいから、許せないんだもん」
姉「…まぁ、そっか。うん」
確かに、私が彼氏達を縛っていたのは、そういう感情があったからかもしれない。
妹「あっ…ネコちゃん…」
ずっと妹の足元をうろついていた猫が、離れていく。
妹「いっちゃったね」
姉「さびしい?」
妹「しょうがないよ。私は…………」
妹の言葉は、それ以上続かなかった。
その代わり、つないだ手がまた強く握られた。
姉「……あっ」
妹「……にっ…」
私が声を漏らすと、妹はこちらに優しいまなざしを向けた。
瞬間、なにかがはじけて
その衝撃に押されて
私は妹の唇にキスをした
妹「…………」
姉「…………」
ゆっくりと、顔を離していく。
かつてこんなに心臓が大きく動いた事はなかった。
バクッバクッと身体を揺らして、鼓膜を鳴らした。
目を開けるのが、すごく怖い。
後悔と、自分でも理解できなかった衝動と、見えざる妹の気持ちに恐怖した。
妹「おね……ちゃ………」
妹の声を合図に瞳を開けると、妹の両頬を涙が一筋、すべっていた。
私は自分の気持ちが分からなかったから、説明もできないまま、妹の濡れた瞳を見つめるしかできなかった。
ただ、謝りたくはなかった。
妹「……」
やがて、妹は首をゆっくり振り、私から離れてしまった。
妹「…なんで、いまさら」
姉「……」
首を振りながら、涙をボロボロこぼしながら、妹は不信の目を私に向けた。
妹「なんで…?なんで今なの?」
妹「…卒業するって決めたのに…。今日、卒業するって……」
妹「なんであの時じゃなかったの…?なんで……これじゃ私…っ……わたしっ!!!」
妹「卒業できないじゃん!!!!」
妹の叫び。滅多に怒鳴らない、妹の怒りの声。
…私は妹を怒らせてしまったんだと、このときはじめて気がついた。
妹「……っ!!」
最期にボロッと大粒の涙をこぼして、妹は私から逃げるように駆け出した。
姉「まって!!!」
私も、半ば反射的に妹を追った。
姉「はぁっ…はっはっ…はあっ…はっ…はっ……はああっ」
公園を抜け、山手の石畳でできた歩道を駆け、必死に妹を追う。
姉「まって…まっておねがいっ!!まって……妹っ……いもうとっ…」
姉「いかないでっ!!やだぁっっ…やだっ!いっちゃやだっ!!」
姉「おねがいっ…おねがいだからっ!!いもうとがいなくなったらわたしっ…わたしっ…」
姉「わたしっ……………………っ!」
…どんなに私が必死に走っても、高校生の脚力には適わない。
やがて、妹は私の視界から消えた。
同時に、涙が堰を切って吹き出してくる。
姉「……やだっ……やだやだやだいっちゃやだぁああああ!!!」
私は力尽き、冷たい石畳の上に崩れ落ちた。
姉「好きなの……気づいたのっ………私にはいもうとしかいないって…いもうとだけだって……」
姉「だから…だから………うぅ…うっ…うぅぅぅぅ……っ!」
それから私は、山手の街をさまよった。
妹をさがし求めて、同じところを何度も回るくらいに。
…山手は、死の臭いがする場所が多い。
ここに居住していた外人の墓地がそこかしこにあって、それが私を陰鬱な気分にさせる。
姉「…死んだら、ぬくもりも無くなる」
姉「冷たい身体になって、冷たい土に埋められて、冷たい時間を過ごすんだ」
姉「…いもうと」
妹が居なくなってしまったら、多分、私は死んだも同然だ…。
にゃあ。
…ネコの声。
墓地の柵から、ネコが顔を出した。
さっきの、両目が見えないネコだった。さっきは鳴かなかったのに。
姉「……どうしたの?」
さっき妹にしたように、私の足に頭をこすり付けてくる。
姉「…ごめんね、…もう、行かなきゃ」
すると、ネコはすっ、と私の前にでて、私が行くのを妨げる。
姉「…どうしたの?」
声をかけると、にゃあ、とひと鳴きして、私とは反対方向に歩き出した。
あぁ、これは…と、半分付き合いの気持ちでネコについていった。
妹「………」
不思議な事はあるもので、ネコの行く先には私が求めていた人がいた。
小さな教会の裏で、妹は気を失っていた。
私は、夢を見ていた。
お姉ちゃんの夢だ。
私はお姉ちゃんだった。
…もう、夢から醒めなくちゃいけない時間で。
でも、まだ夢を見ていたくて。
そうしたら、ずっと昔の記憶が、夢に投影された。
妹「…わたし、おねいちゃんと、あそびたかっただけだもん」
姉「わかってるって」
妹「いっしょに、あそべるもん」
姉「うん。遊ぼうな」
私は、お姉ちゃんにおんぶしてもらっている。
あったかくて、気持ちがいい、お姉ちゃんの背中。
5歳も違うのに、他の友達との遊びに加えてくれた、お姉ちゃん。
その友達に私が泣かされて、一緒に帰ってくれるお姉ちゃん。
妹「おねえちゃんだいすきだよ」
姉「わたしも、いもうとがだいすきだよ」
妹「……あ」
姉「…気付いた?」
頬に感じる、あたたかさ。
…私はお姉ちゃんに背負われていた。
姉「もうすぐ駅だから。んっしょ」
妹「えっ……あれっ……」
姉「…痛いところない?」
妹「……」
夢?……違う。
現実。
夢を見すぎたのか、少しの間、自分の身体が自分じゃないみたいだった。
妹「わ、私おりるっ」
姉「いいよいいよっ、もうちょっとのってなよ」
妹「で、でも……」
…坂道を登るのにぜーはー言ってたおねえちゃんが、私をずっと背負っていられる訳が無い。
姉「いいって…。昔はさ、よくこうしてたじゃん?」
妹「昔と今では……」
姉「私の気持ちは変わらないよ」
妹「えっ……」
姉「…もうすこしだけ」
妹「……うん」
姉「ふひぃーっ。この辺で勘弁」
妹「無理することなかったのに…」
姉「無理したかったのっ」
長いくだりの階段を終えて、整然と店がならぶ道にでた。
そこで私は、お姉ちゃんの背中から下ろしてもらった。
姉「ここが、元町かな」
妹「お店、どこも閉まってるね」
姉「…さすがにね。この先に駅があるから、行こう」
妹「うん……っ!?」
歩こうと思った瞬間、右足首にキンッと痛みが走る。
姉「どした!?」
妹「わっかんない…。ちょっと、痛む。でも、歩けないほどじゃないよ?」
姉「…やっぱ、背負ってくよ」
妹「腰こわしちゃうよ」
姉「…じゃあ、肩貸すよ」
妹「甘えちゃおっかな」
にゃあ
背後からネコの声が聞こえた。
妹「……?」
ネコ…というか、物陰一つない。
姉「どした?」
妹「うぅん、なんでもない」
私はお姉ちゃんの肩に腕をまわして、一歩ずつ、ゆっくり元町の道を歩いていく。
昼間はにぎわっているであろう、長い元町の道を抜けて、お姉ちゃんと私はJR石川町駅に着いた。
姉「…まぁ、そっか。そうだよなぁ」
妹「どう…しよっか?」
やっぱり、終電が無い。
時計はもう2時を回っていたので当然だ。
姉「うーん……ホテル探すか」
妹「空いてるかな?」
姉「そもそもどこにある…」
姉「…あ、ちょっとそこの人に聞いてくるっ!」
ちょっと酔ってそうな夜遊びカップルを見つけて、お姉ちゃんはダッシュで聞きに行く。
相変わらず走り方が面白いなぁ、お姉ちゃんは。
…あはは、お姉ちゃん笑われてる。舐められちゃってぇ……もう。
あーぁ、そんなにペコペコする必要ないのに。
あはは、お姉ちゃん可愛いな……。
姉「朗報っ朗報!」
妹「そんなにはしゃがなくても」
姉「すぐそこにホテルあるって。まぁ、お金もったいないけど、泊まってこうか?」
妹「お姉ちゃんのおごりだから、問題ないよぅ」
姉「おおあり!」
妹「……ここは…………」
姉「……ラブホ街………だねぇ」
妹「…わ、わたしはじめて入る」
姉「わたしだって!……そ、そのぉ……あんまりないわよっ!」
妹「どの店がいいのかな…」
姉「わ、……わからぬ」
妹「お姉ちゃん適当に決めてよ」
姉「えーっ……じゃあここ」
妹「お姉ちゃんのそういう、あんまり迷わないところ好き」
姉「…えっ」
妹「……ん?」
姉「いや、な、なんでもないっ」
挙動不審なお姉ちゃんに、全ての手続きを任せて、見事にホテルの中に入ることが出来た。
部屋は結構広くて、思ってたより清潔そうだ。
高そうなベットが部屋の中央にあって、テレビやら冷蔵庫やらの小物がちらほらある。
姉「ふーっ。緊張したーっ」
妹「無事入れたね」
姉「……う、うん」
どうしたんだろう。お姉ちゃんの顔が、ちょっと赤い。
妹「お風呂って入っていいの?」
姉「平気だとおもう」
妹「…じゃあ、入ろうかな」
姉「お先にどうぞ。TVでも見てようかな。ベットに入ったら寝ちゃいそう…」
お姉ちゃん疲れてるよね。…なんか悪いな。
でも、先にいいよっ、って言っても、多分入らないんだろうなぁ。
妹「いっしょにはいる?」
姉「…………………………………………うんっ」
妹「ふふっ…一緒に入るのひさしぶりだねぇ」
姉「う、うん」
お互い服を脱いでいく。スカートはいいけど、ショーツを脱ぐとき、足の痛みでうまく脱げない。
妹「いたたた…」
姉「ぬ、ぬげ…そう?」
妹「うん。なんとか」
姉「そか」
お姉ちゃんは、ちょっと恥ずかしがってるのかな?目が泳いでる。
昔はよく一緒に入ったし、恥ずかしがることないのにねぇ。
妹「ぬくいねーっ」
姉「うん…あったかい」
ちょっとシャワーで身体を流してから、あらかじめ汲んでおいたお風呂につかる。
おっきい浴槽だったから、お姉ちゃんと向かい合って入れた。
妹「一日のつかれがとれるね」
姉「うん……」
妹「…おねえちゃん、疲れちゃった?」
姉「そりゃ、まぁ…」
お姉ちゃんは鼻まで湯船につかって、ぶくぶくを吹きだした。
妹「わたしもやろっ」
ぶくぶくぶくっ。
吐いた息が泡になって、水面で音を立ててはじけていく。
妹「たのしいね」
姉「うん……」
妹「…お姉ちゃん、昨日は楽しかったよ」
姉「そっか」
妹「また、こようね」
姉「……」
妹「今度はひかーまるに乗りたいなぁ」
姉「氷川丸?」
妹「そうそう」
妹「……お姉ちゃん。昨日のお礼に、背中流してあげるね」
姉「あ、……うん」
ゴシゴシ、ゴシゴシ。
ボディーソープをたっぷりつけたタオルで、お姉ちゃんの背中をこする。
妹「かゆいところはありませんかーっ?」
姉「と、とくにないかな」
妹「遠慮なく言ってね」
姉「うん」
お姉ちゃんの肌は、白くて綺麗。
そのお肌を、真白い泡で埋めていく。
妹「…お姉ちゃんみたいな、おっきなおっぱいにはならなかったなぁ。」
姉「ふぇっ!!」
ビクッとお姉ちゃんの肩が跳ねて、ちょっとびっくり。
妹「…どしたの?」
姉「い、いいい、妹も…け、結構大きいじゃない」
妹「お姉ちゃんにはかなわないよぉ」
ごおおおおぉ、という轟音が部屋に響く。
お姉ちゃんは指で私の髪をとかしながら、ドライヤーで乾かしてくれている。
妹「お姉ちゃんにやってもらうと、気持ちいいなぁ」
姉「んー?」
私の言葉は、ドライヤーの音で聞こえないみたい。
妹「なんでもないよ」
姉「んー」
なんだか、こういうの久しぶりだな。
今日、いっしょに来れてよかったな。
妹「ふふっ」
うれしくて、笑いが漏れた。
姉「んー?」
妹「なんでもないよ」
妹「いっしょのベットに寝るのも、久しぶりだね」
姉「…う、う、……ん」
妹「湯冷めしちゃうし…布団はいっちゃおっか」
姉「うん…」
綺麗に整えられた、やわらかい布団をめくって、もぐりこんだ。
さっきのお風呂みたいに、ぬくぬくする。
だから、お風呂上りのお布団は好き。
妹「あったかいよ。お姉ちゃんもはやくっ」
姉「うん…」
そうそう。きっと、お姉ちゃんも一緒にはいったら、もっとぬくぬくするよ。
気持ちがいいよ。
姉「それじゃ……」
妹「えへへっ……」
うれしいな。お姉ちゃんと一緒の布団。
…うれしいなぁ。
妹「ねぇ、お姉ちゃん」
私は、横になって、お姉ちゃんの顔を見つめる。
姉「…な、なに?」
でも、お姉ちゃんは目を逸らして、私を見てくれない。
妹「ぶぅ…こっちみてよぉ」
姉「…ん」
そうそう、それでいいの。
妹「あのね、私ね…」
妹「おねえちゃんのこと、だいすきだよ」
姉「……えっ?」
おねえちゃんは、変なのっ、って顔つきで私を見てくる。
妹「…何かだめだった?」
姉「だ、だって………えっ?」
妹「……おねえちゃんは、私のこともちろん好きだよね?」
姉「…う、うん……。うん」
妹「えへへっ」
うれしいなぁ。しあわせだなぁ。
姉「……?」
妹「高校…卒業しちゃったなぁ」
姉「そ、…そだね」
妹「もうすぐ大学生かぁ…」
妹「…大学生になったら、やっぱり彼氏とかできるかなぁ」
姉「………えっ?」
妹「いままであんまり男の人に興味もってなかったからさ…。もし、好きな人ができたら、お姉ちゃん相談のってね?」
姉「……う、う…………………………」
妹「…お姉ちゃんがはじめて彼氏が出来たって私に報告してきたときの顔、今でも覚えてるよ」
妹「すっごくうれしそうだった」
妹「わたしも、あんな感じでお姉ちゃんに報告できたらなぁ」
姉「………う……」
妹「…でも、これからあんまりお姉ちゃんに頼らないようにするね」
妹「ずっと、お姉ちゃんに教えてもってばっかりだったから……ちょっとは自分でがんばらないと」
妹「……でも、やっぱり恋愛の相談には乗ってほしいんだよね」
妹「わたし、全然わかんないし。悪い男の人にひっかかったらやだし」
姉「……う……うぅ………」
妹「……おねえちゃん?」
お姉ちゃんは、私と反対に身体を向けて、ちょっと苦しそうな声を漏らしてる。
…具合、悪いのかな。
やっぱり、ちょっと疲れてたのかな。
妹「大丈夫?お姉ちゃん……」
妹「…お姉ちゃん……」
姉「…ご、ごめ……ごめん……。なんでも、ないから」
妹「うん……」
大丈夫かな、お姉ちゃん。
…私、なにかしたかな。
怒らせちゃったかな。
嫌われちゃったかな。
やっぱり、まだまだお姉ちゃんっ子だから、怒ってるんだろうな。
お姉ちゃん気にしてたもんね、私に真似されたくないって、言ってたもんね。
妹「おねえちゃん」
妹「私……」
妹「お姉ちゃんを卒業するね」
姉「私はずっと、ずーーーっと!!ずっと妹を卒業しないっ!!!!」
お姉ちゃんは私の言葉を聞いた瞬間、飛び起きてそう言い放った。
妹「……おねえ、ちゃん……?」
姉「ずっと、ずっと妹の事が大好きでっ!!」
姉「世界の誰より大好きでっ!!!」
姉「誰よりも強く妹の事を想ってて!!!」
姉「死ぬまでっ……ううんっ、死んで冷たくなって土に埋められたってっ!」
姉「妹を卒業することなんてありえないんだからっ!!!!!」
妹「……そ、そんな……だめ、だよ……だって、だって…」
そうだ。私はお姉ちゃんを卒業しなきゃだめなのだ。
そのためには、お姉ちゃんが私を卒業してくれなきゃ…だめなのだ。
姉「だってもなにもあるかっ!!!」
姉「私は妹が好きなんだよ!!!!ずっとずっと一緒に居たいんだよ!!!!!」
姉「卒業なんて、できるわけないじゃんかよぉおおっ!!!!!」
ずっと、ずっと、苦しんできたんです
報われないと知っていて、でも、踏ん切りがつかなくて
もう、限界で
思わず言ってしまったんです
…でも、お姉ちゃんは私を彼氏にはしてくれませんでした
だからもう、すでにその時
私はおねえちゃんを卒業していて
そうして、苦しみからは解き放たれた。
…でも、高校最期の日くらいは、と。
それが、まちがいだった
妹「…もうくるしいのはいやあああああああっ!!!!!!!!」
妹「光なんか見せないでよ!!!!!!」
妹「わたしはもうお姉ちゃんなんかしらないっ!!!!!!!!」
姉「……どうして、そんなこと…?」
妹「ずっと耐えてきたもの!!!」
妹「お姉ちゃんが彼氏を作るたびに!!!!」
妹「お姉ちゃんが彼氏と別れてさびしがってるたびに!!!」
妹「お姉ちゃんが私を抱きしめるたびに!!!!」
妹「お姉ちゃんが私を好きって……好きって言ってくれる度に!!!」
妹「ずっと!!!ずっとわたしはっ……耐えてきたんだ!!!」
妹「苦しかったんだっ!!!!」
妹「…なんで今更……もっと…はやく……あのときに……」
妹「もうわからない……私は、わからない……」
妹「お姉ちゃんの事が好きなのか…。お姉ちゃんの事を愛しているのか…」
妹「もうなんにも分からなくなっちゃったんだよ!!!」
姉「……ごめ……ごめんなさいっ……わたしっ…わたしっ……」
妹「もう…無理だよ…」
妹「あの頃のきもち……わたし、忘れたよ……」
お姉ちゃんを好きだった気持ち。
お姉ちゃんと、ずっと二人で、愛し合っていけたらなぁって気持ち。
そんな気持ちを、私は、あのときからゴミ箱に捨てたのだ。
姉「…思い出して」
妹「…えっ」
姉「私の事が好きだったなら……その気持ち……思い出してっ……」
姉「お願いっ……妹っ……おねがいっ……」
姉「お姉ちゃんが馬鹿だった……やっぱり、お姉ちゃんは駄目駄目だったよ…」
姉「駄目だけど……その分、妹の事が好きだから……」
お姉ちゃんが、ギュッと私を抱きしめる。
…お姉ちゃんの温もり。なつかしい、心地。
妹「ぎゅって…して…」
妹「うん……」
強く、お姉ちゃんは私を抱きしめてくれる。
…あぁ、お姉ちゃんだ。
私はお姉ちゃんを感じている。
妹「……もっと…」
姉「…ん?」
妹「もっとお姉ちゃんを感じたい…」
妹「もっと、もっと近くで…もっといっぱい……」
姉「うん……」
姉「うんっ…うんっ……」
…こんなことまで、思わなかった。想像しなかった。
お姉ちゃんと抱き合うのが、溶け合うのが、こんなにも満たされるなんて、知らなかった。
やっと見つけた。
わたしが、お姉ちゃんを愛してからずっと、ぽっかり空いていた穴を、埋めるもの。
それは、お姉ちゃんを卒業することじゃなかった。
お姉ちゃんを、私の全てで感じることだった。
妹「おねえちゃんっ……きもちいっ……きもちいいよ…おねえちゃんっ…」
姉「うんっ…私も…きもちいいっ……すきっ……妹っ…だいすきだよ…だいすき…」
妹「キスしてほしぃっ…もっとくっついてほしいっ……もっとだきしめてほしいっ!!」
姉「私もっ…もっと妹と一つにっ……一つに……んっ……んんっ……」
お互いの粘膜を刺激しあうキスをしながら、私は幸せをかみしめる。
その夜。かつて私が想って来たすべての想いを、私はお姉ちゃんにぶつけた。
一夜にして分かったことがある。
それは、お姉ちゃんが、びっくりするくらい私の事をすきだということ。
それから
私はお姉ちゃんの事を、心の底から愛しているということ。
妹「いい朝だね、お姉ちゃん」
姉「…これから仕事だからなぁ…憂鬱」
妹「そ、そっか。…なんか、ごめん」
姉「ううん。ごめん、むしろ幸せだわ、私」
妹「……日があけて…もう、灯りはないなぁ」
姉「ん?」
妹「触れ合う距離は、心の距離かもしれないね」
妹「…昨日のお姉ちゃんの考えてること、私、手に取るようにわかった」
姉「残念、私もっ!」
5年後
妹「白マネージャーっ……これ、どう対応すれば…」
白「えーっ、どれどれぇ……」
妹「すいません、もうすぐ二年目なのに…」
白「あらあら、お姉さんのほうがよっぽど酷かったわよ」
妹「姉と比べちゃだめですってぇ~」
姉「きこえたぞ……っ?」
妹「げっ」
姉「あんたまともにホットドック作れるようになってから言いなさいよねっ!!」
妹「うーっ、す、すいません……」
白「あんただって下手だったじゃない」
姉「い、いうなーーっそれ以上言ったらいかーんっ!!」
妹「あはっ…お姉ちゃんったら…おっかし……」
姉「わ、わらうなーーっ!」
友「うぅ……なんで……わたしっ…院なんていっちゃったんだ……」
後輩「あっ、友ちゃん…今日は元気ない?」
友「あーうん、ここんとこ、ずっと研究室泊まりっぱなしで…」
後輩「…癒してあげよっか?」
友「……どしよ」
後輩「そこ迷うとこですかー?」
友「だって、たまにもっと疲れるときあるし」
後輩「……きょ、今日は…私、がんばります。ちょっと恥ずかしいですけど」
友「…うーん、後輩ちゃん大学の授業ないの?」
後輩「ありますよ?…でも、友ちゃんが気になっちゃって。てへへ」
友「…院と校舎が一緒ってのも考え物だな…」
後輩「ん?」
友「…まぁ、いいや。ご飯でも一緒に食べよう」
後輩「は~い♪」
黒「…ごめんなさい」
白「いいよ。分かってる」
黒「でも」
白「…いつか、私も黒さんと同じことするかもしれない」
黒「えっ……」
白「でも、そうしたら……その時黒さんは、私を許して欲しい」
黒「……」
白「わがままかな?卑怯かな?」
黒「ううん……。ううん」
白「私は…どんなことがあっても、結局黒さんにかえってくると思う」
白「…でも、その時黒さんに拒否されたら、多分…」
黒「…うん。それは…私もだから」
白「…おかえり」
黒「ただいま」
妹「都市伝説ははずれたなぁ……」
姉「というと?」
妹「うーん、こっちの話。結果的によかったなぁーって」
姉「きになるじゃないか…」
妹「……緊張してきた?」
姉「緊張しないはずが無い」
妹「大丈夫だよ。きっとお父さんもお母さんも、許してくれるよ」
姉「それは楽観的すぎる……」
妹「たとえ許してくれなくても、私は絶対お姉ちゃんから離れないから……絶対」
姉「……うん。私も、妹とは…離れたくない」
妹「そうそうっ、あとは捨て身でGOっ!」
姉「……妹もいっしょにいうんだぞっ!!」
妹「ちゃんと言うよ?……私はお姉ちゃんと添い遂げます……って」
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