~屋上~
ヒュゥゥゥゥゥ…
男「下らん……」
男「薄汚れた人間ばかり……こんな世界ならいっそ……」
黒ギャル「あんた、もしかして死ぬつもり?」
男「! なんだお前は……」
黒ギャル「どうせ死ぬんならさ、あーしと一緒に悪魔召喚しない?」
男(なんだこいつは……!?)
元スレ
黒ギャル「あーしと一緒に悪魔召喚しない?」男(なんなんだ、このバカ女は……)
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1604997267/
男「悪魔を召喚だと……?」
黒ギャル「あーしさ、ちょっと黒魔術に凝っててー。ちょっと友達と勉強してんだけどー」
黒ギャル「ちょっと悪魔を召喚しよっかなーとか思ってー」
男「ちょっとが多い」
男(なんなんだ、このバカ女は……)
男「悪いが、お前などに付き合うつもりは……」
黒ギャル「ま、いいじゃない! さ、行こ行こ!」グイッ
男「お、おいっ!」
男「召喚って……どうやるつもりなんだ?」
黒ギャル「えーとねー」
黒ギャル「魔法陣描いてー、動物の肉と生き血と骨があればできるんだって!」
男「……で、それはもう調達したのか?」
黒ギャル「んー、これから!」
男「どうやって調達するつもりだ?」
黒ギャル「んーと……スーパーで!」
男「は……?」
~スーパー~
黒ギャル「動物の肉は……豚肉でいっか!」
黒ギャル「生き血は……ケチャップで代用!」
黒ギャル「骨はフライドチキンの骨でいーかなぁ」
男「お前は悪魔をナメてるのか……」
黒ギャル「えー、全然ナメてないってー! マジ真剣だから!」
男「はぁ……」
男「……ん」
少年「へへへ……」コソコソ
男(あの小僧、盗みを働いてるな……。盗まなきゃ生きていけないというわけでもなかろうに……)
黒ギャル「コラーッ!」
少年「わっ!」
男「え」
黒ギャル「万引きなんかしちゃダメっしょー!」
少年「うう……」
黒ギャル「お店の人に迷惑かかるしー、あんたも絶対後悔するから!」
黒ギャル「ね? だから商品戻そ?」
少年「……うん」
男(ほう……)
買い物を終えた二人――
黒ギャル「買っちゃった、買っちゃった」
黒ギャル「んじゃ、一緒に悪魔召喚しようねー!」
男「……うむ」
幼女「ワーイワーイ!」タタタッ
男(あの小娘、死相が見える……)
幼女「あっちいこうっと!」タタタッ
ブロロロロロ…
幼女「えっ!」
「女の子が車道に!」 「車が来てんぞ!」 「轢かれちまう!」
男(死んだな……)
黒ギャル「あーしが助けるッ!」タタタッ
男「……は!?」
男「ちっ、バカが!」
黒ギャル「あぶなーいっ!」
幼女「きゃっ!」
運転手「うわぁっ!?」
ギュルルルルッ! ブロロロロロ…
運転手「俺……運転の天才なのかも……」
「すげえ!」 「車が神回避した!」 「動画撮っときゃよかったー!」
黒ギャル「あー、助かってよかったー!」
男「助かったからよかったものの、あんな飛び出し方しやがって……」
男「お前、命がいらないのか!?」
黒ギャル「んー……」
黒ギャル「うん、あんまり!」
男「……」
男「!」ピクッ
男(また死の臭いが……)
黒ギャル「あーっ! ビルの上! 人がいる!」
会社員「死のう……」
男「あそこから飛び降りるつもりか……」
黒ギャル「あーしがクッションになる!」ダッ
男「なにい!?」
会社員「でやっ!」バッ
ヒュゥゥゥゥゥ…
黒ギャル「……」タタタッ
会社員「うわっ、下に女の子が――!?」
フワッ…
会社員「あれ? 体がふわっとなって……」フワフワ
会社員「着地しちゃった」スタッ
黒ギャル「えー、超スゴイ! おじさん、もしかして超能力者!? 鶴仙流!?」
会社員「いや……」
男「……」
黒ギャル「おじさん、なんで自殺しようと思ったわけー?」
会社員「会社を……リストラされて……」
黒ギャル「リストラー? 聞いたことある!」
黒ギャル「リスとかトラとか、そんな動物に負けちゃダメだってー!」
男(お前はウマとシカだよ)
黒ギャル「自殺なんかしないで! 頑張ってよ! あーし、応援してっからー!」
会社員「ありがとう……君と話してたら、何とかなるような気がしてきたよ」
黒ギャル「でしょー!」
男(まあ……バカを見てると悩んでるのがバカバカしくなるってのはあるだろうな)
~公園~
男「……」
男「お前はなんなんだ?」
男「さっきから無謀な人助けを繰り返して……」
男「悪魔を呼び出して、何がしたいんだ?」
黒ギャル「んー、あーしさ、世の中にもっと明るくなって欲しいんだよね」
黒ギャル「だから悪魔を呼び出したいの!」
男「……さっぱり分からん」
男「そんなに世の中を明るくしたいなら、天使でも呼び出してみたらどうだ」
黒ギャル「天使は……嫌いなの」
男「なんで?」
黒ギャル「あーしのパパとママね、天使を崇拝する、ある教団の信者だったの」
黒ギャル「天使を崇拝して、世の中明るくしましょー、的な。その教え自体はすっごく好きだった」
黒ギャル「だけど、その教団は単なるサギ集団でさー。あ、サギっつっても鳥じゃないよ」
男「分かるわ」
黒ギャル「上の連中はみんな捕まって、あーしのパパとママは絶望して……」
男「絶望して?」
黒ギャル「死んじゃったの」
男「……そうか」
黒ギャル「世の中明るくなるどころか、お先真っ暗だもん! 超ウケるー!」
黒ギャル「だから、あんまし天使は好きじゃないの」
男「トラウマというやつか」
黒ギャル「そそ、トラとウマ! ガオーン! ヒョヒョーン!」
男「ガオーンはいいがヒョヒョーンってなんだよ」
黒ギャル「それに神様や天使って、きっと忙しいから。色んな人に頼られてて」
黒ギャル「あーしなんかに時間割いてる余裕なんかないと思うんだよね」
男「まあ、そうかもな」
黒ギャル「だけど悪魔なら、きっと暇してるだろうし」
男「ひどい言い草だな」
黒ギャル「悪魔って魂さえ差し出せば、なんだって願い叶えてくれるでしょ?」
黒ギャル「だから呼び出すの! 呼び出して、もっと世の中明るくしてって頼むの!」
男「ちゃんと悪魔を呼び出せたとして……」
男「お前の命一つで、世の中が明るくなると? どんだけ自分を高く見積もってるんだ」
黒ギャル「んー、国家予算ぐらい!」
男「お前、国家予算がいくらか知ってるのか?」
黒ギャル「100万円ぐらい?」
男「頭痛くなってきた……」
黒ギャル「え、バファリン飲むー?」
男「いらん」
男「だったら……もう好きなようにしろ」
黒ギャル「えー?」
男「やってみろ、悪魔召喚を」
黒ギャル「うん!」
黒ギャル「んじゃ、あーしんち行こ!」グイッ
男「分かったから引っぱるな!」
~ギャルの家~
男「魔法陣はもう描いていたのか」
黒ギャル「うん!」
男(思ったよりよく描けてはいるな。美術的センスはあるようだ)
黒ギャル「えーっと、お供え物して。この肉はそっち置いて」
男「……はいはい」
黒ギャル「はいは三回!」
男「悪かったよ……え、三回!?」
黒ギャル「マークアマークア、ルービデルービデ……」
男「……」
黒ギャル「出でよ、悪魔ーっ!!!」
シーン…
黒ギャル「あれー? 失敗?」
男(そりゃそうだ)
黒ギャル「はぁー、ダメだったか……」
男「まあ、そう落ち込むな――」
黒ギャル「よっしゃ、切り替えていこ!」シャキーンッ
男「!?」
黒ギャル「なんかいった?」
男「いや……励まそうと思った俺がバカだった」
黒ギャル「キャハハ、あんたもバカだった!」
男「うるさい」
黒ギャル「そうと決まれば、また外を散歩でもしよっかー!」
男「せわしい奴だ」
黒ギャル「悪魔♪ 悪魔♪ 悪魔はどっこにいるの~♪ きっとトイレの中~♪」
男「変な歌を歌うな」
男「……」ピクッ
黒ギャル「どったの?」
男「邪気を感じる……」
黒ギャル「ジャギ? あーしの名をいってみろ?」
男「邪気だ!」
男「この近くに……本当に悪魔を召喚しようとしてる者がいる」
黒ギャル「……えぇ~!?」
~雑木林~
眼鏡女「うふふ……」
眼鏡女「車にひき逃げされて動かない猫と……私の生き血と……家から持ってきたおじいちゃんの遺骨」
眼鏡女「これで材料は揃ったはず……」
男「……あの女だな。お前と同じような儀式をするようだ」
黒ギャル「あれは……あーしの友達!」
男「なんだと?」
黒ギャル「止めなきゃ!」
男「他人が召喚するのは止めるのかよ」
黒ギャル「ダメーッ!」タタタッ
眼鏡女「あ、ギャルちゃん……」
黒ギャル「ダメだよ! あんたは悪魔召喚なんかしちゃ!」
眼鏡女「止めないで……」
眼鏡女「ギャルちゃんだけは……友達でいてくれたけど……」
眼鏡女「やっぱり私、何やってもダメで……みんなにバカにされて……きっとこれからもそう……」
眼鏡女「だから……悪魔を呼び出すの! 呼び出して……とびきりの女にしてもらう!」
黒ギャル「眼鏡ちゃん……!」
眼鏡女「マークアマークア、ルービデルービデ……」
眼鏡女「出でよ、悪魔……!」
ズオオオオオオオ…
黒ギャル「眼鏡ちゃ……」
男「もう遅い……出てくるぞ。離れろ」
ズゴゴゴゴゴゴゴ…
悪魔「ぐはははははは……!」
眼鏡女「あ……あ……!」
黒ギャル「これが……悪魔……!」
男「……」
悪魔「我を呼び出したのは……貴様か」
眼鏡女「あ……ひいい……あ、ああ……」
悪魔「さぁ、望みをいえ。貴様の魂と引き換えに叶えてやる」
眼鏡女「はっ、はっ、はっ……」
黒ギャル「ちょっとあんたァ、威圧しすぎ! 眼鏡ちゃん、声も出せないじゃん!」
悪魔「声も出せぬか……それすなわち、叶えたい望みは無いということ!」
黒ギャル「へ?」
悪魔「ならば魂だけ貰っていこう! 引きずり出してやる!」グワシッ
眼鏡女「あ……あああ……」ズルズル…
黒ギャル「ちょっと! なにすんの! やめてよーっ!」
悪魔「ふはははは、我に願いを叶える気などないわ! 魂さえ頂ければそれでよかったのだ!」
黒ギャル「なにそれひどい! サギ! 悪魔のくせにペテン師ーッ!」
悪魔「ふははははは……悪魔とはそういうものだ!」
黒ギャル「眼鏡ちゃんから……離れろォ!」ガシッ
眼鏡女「うう……」ドサッ
悪魔「小娘めが……」
悪魔「ならば、まずは貴様の魂から頂いてやろう!」
悪魔「今日はツイてる! 人間の女の魂を二つも手に入れられるのだからな!」ガシッ
黒ギャル「あ……!」
黒ギャル(あーしの……魂が引きずり出されて……)ズルズル…
――ガシィッ!
悪魔「……む」ミシ…
男「まともに契約もせんで魂を奪おうとするとはな……」
男「人間の質の低下を嘆いていたが……どうやら悪魔の質もだいぶ低下していたらしい」
男「これは反省せねばなるまいな」
悪魔「な……!?」
黒ギャル「え……!」
悪魔「なんだ貴様はァァァ!!!」
男「まだ分かんないか」
男「……」ゴゴゴゴゴ…
悪魔「……え」
悪魔「こ、この魔力……! き、貴様は……!」
悪魔(悪魔の中でも数えるほどしかいないという、最上級の――)
男「分かったか? 分かったら、とっとと帰れ」
悪魔「ふ、ふざけるなァ! やっと獲物が引っかかったんだ! このまま帰れるかァ!」グワァッ
男「……今日はよくバカに会う日だ」
ガシッ!
悪魔「あうっ!」メキメキ…
男「帰らないんなら仕方ない。このまま消してやる……」ジュゥゥゥゥゥ…
悪魔「あひっ! あひひっ! や、やめれぇぇぇぇぇっ!」
男「終わりだ」ジュゥゥゥゥゥゥ…
悪魔「うぎゃぁぁぁぁぁ……!」
黒ギャル「――ちょっとちょっと、勝手に終わらせないでよ!」
男「……え」
男「なんだ、いいところだったのに」
黒ギャル「この人、たしかにペテン師だけど、元々眼鏡ちゃんに呼び出されたから来たんでしょ?」
黒ギャル「だったら、黒魔術研究してたあーしたちにも責任あるわけじゃん?」
黒ギャル「いきなり消すことないっしょー!」
男「えええ……?」
悪魔「えええ……?」
男「こいつはお前らの魂を奪おうとしてたんだぞ? それなのにかばうのか?」
黒ギャル「ま、それはそれ、これはこれ、っていうか?」
男「頭痛くなってきた……」
黒ギャル「バファリン飲む?」
男「いらねえよ!」
悪魔「あの……これってもしかして助かる流れ? ぶっちゃけ、もう滅せられると思ってたけど……」
男「そうらしいな……」
悪魔「帰ってもいいですか?」
男「ああ、帰れ」
悪魔「あ、ありがとうございました! そっちのギャルさんも!」シュゥゥゥゥ…
黒ギャル「じゃーねー!」
男「悪魔まで助けてどうするんだ」
黒ギャル「やっぱりね、後味悪いのはイヤじゃん?」
黒ギャル「ところであーし、あんたの正体分かっちゃった」
男「!」
男「……さすがに分かってしまったか」
黒ギャル「あーしの名推理によると……あんた大仏様っしょ!」
男「は?」
黒ギャル「悪魔をあんな一捻りできるといったら、大仏様しかない! 多分ナラ系?」
男「全然違う!!!」
黒ギャル「じゃー、なんなの? アンサー、プリーズ!」
男「俺は悪魔だ!」
黒ギャル「あー……もっとストレートに考えるべきだった!」
男「お前は変化球すぎるんだよ」
黒ギャル「あーし、カーブ得意だし!」
男「お前のカーブはUターンして自分に戻ってくレベルだ」
ニャ… ニャ…
男「ん?」
男「この猫、まだかすかに息があるな」
男「ついでだ。回復させてやるか」ボアァァァァ…
猫「ニャーン」
黒ギャル「治った!」
黒ギャル「あっ、もしかして、さっきの車や飛び降りたおじさんも……」
男「ああ、俺の仕業だ」
黒ギャル「そうだったんだ! あんたすごーい!」
男「お前に褒められると、バカにされてる気にしかならんな」
黒ギャル「じゃー、バカにした方がいい?」
男「やめろ」
眼鏡女「う……ん……」
男「この娘もじきに目覚めるだろう」
男「もう悪魔を召喚したいなどとは思わんだろうが、目覚めたら今度こそ助けてやれ」
黒ギャル「うん、そーする!」
黒ギャル「さっき出会ったばっかなのに、色々とありがとね!」
男「礼などいらん」
黒ギャル「分かってるって! 欲しいのは、あーしの魂でしょ?」
黒ギャル「もう何回も助けてもらっちゃったし……いいよ、持ってって!」
男「……」
男「いらん」
黒ギャル「へ、なんで?」
男「お前のようなバカの魂など、受け取ったら俺の格が落ちる」
黒ギャル「あんたさ、キツイこと言うけど結構やさしーじゃん!」
黒ギャル「今流行りのツンデレってやつ!?」
男「ツンデレとかいうな! だいたいもうそんなに流行ってないだろ!」
黒ギャル「アハハ、ごめーん!」
男「この際打ち明けてしまうが……」
男「本当は屋上にいたあの時、俺はこの世界を滅ぼそうとしていた」
黒ギャル「えー、ウッソー!」
男「悪魔以上に薄汚れた人間に呆れ果て、いっそ消し去ってしまおうと……手始めにこの町を、とな」
黒ギャル「自殺したいんじゃなく、他殺したかったんだ! 真逆~!」
男「だが……気が変わった」
男「人間の中にもお前のような……バカがいると分かったからな」
黒ギャル「よく分かんないけど、ありがとー!」
男「分からないのに礼を言うなよ」
黒ギャル「あーしもさ、色々あって、自分なんかどうなったっていいと思ってたけど」
黒ギャル「あんたと出会って、あーしもまだまだ捨てたもんじゃないなって思えちゃった!」
男「そうか」
黒ギャル「ってわけで、これからもあーしとあんたで世の中を明るくしてこうねー!」
男「は!? なにが“ってわけ”なのか全然分からん!」
黒ギャル「いーからいーから! さ、レッツゴー!」
男(まぁ……別にいいか)
…………
……
……
ヒュゥゥゥゥゥ…
男「薄汚れた道路だ……」
黒ギャル「うわ、きたなーい! ゴミがいっぱーい!」
黒ギャル「タバコにビニール、ガム……うわ、軍手まであるー!」
黒ギャル「ねえ、なんで軍手って落ちてるの? 落ちてる理由が分かんない」
男「俺に聞くな」
黒ギャル「さ、はりきってゴミ拾いしようねー!」
男「なんで俺がこんなことを……」
黒ギャル「世の中を明るくするためー!」
男「……はいはいはい」
男(まあ、しばらく人間界に留まり、このバカ女と世直しするのも楽しいかもしれんな)
~おわり~