1 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 14:26:49.38 w/ger7Mf0 1/117

「こんなところに人がいるとは…」

少女「…」

「こんなところでなにを??」

少女「私はここには、不似合いかしら??」

「そりゃあ…ここは…」

少女「戦場ですものね」

少女「ふふふ」





元スレ
少女「黒いギターと苺の園」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1288416409/

3 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 14:29:37.08 w/ger7Mf0 2/117

「危ないから、隠れていな」

少女「ずっとここで暮らしているけれど、危険な目にあったことはないわ」

「そんな馬鹿な」

少女「…ちょっと嘘をついたわ」

少女「少ししか、危険な目にあったことはないわ」

「どうしてこんな場所に住んでいるんだ」

少女「あら、それは心外ねえ」

少女「この戦争が始まるずっと前から、私はここで暮らしているのに」



4 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 14:33:49.61 w/ger7Mf0 3/117

「…きれいな家だな」

少女「休んでいく??兵士さん」

「ああ…そうさせてもらおうか」

少女「こっちよ」

「ああ」

少女「そこの花壇には近づかないでね」

「ああ。なにを育てているんだ??」

少女「禁断の果実よ」

「…」

「禁断の果実ってリンゴじゃなかったか」




5 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 14:37:07.69 w/ger7Mf0 4/117

少女「いいじゃない、細かいことは」

「そうだな」

少女「さ、こっちよ」

ガチャ

「すまないな」

少女「それから、その物騒なものをしまってくれる??」

「あ、ああ、すまない」ガチャリ




6 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 14:43:08.39 w/ger7Mf0 5/117

少女「ケガしてるわね」

「こんなもの、大したことない」

少女「待って、包帯を持ってくるから」

「あ、ああ」

パタパタ

「…」

「あの子、一人なのかな…」

パタパタ

少女「はい」

「あ、ああ、すまない」




8 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 14:47:30.74 w/ger7Mf0 6/117

少女「包帯の巻き方って、よくわからないのだけれど」

「ああ、いいよ。自分でできる」

少女「そう??」

「んっ」

バサッ

少女「きゃあ!!」

「ん??」

少女「血がいっぱい…」

「ああ、すまん。あっち向いてな」




9 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 14:51:53.90 w/ger7Mf0 7/117

ギュッ

「ふう…これで何とか」

少女「…痛かった??」

「いや、大したことない」

「何日も前の傷だしな」

少女「そうなの??」

「血、茶色くなってたろ」

少女「よく見てなかったから…」

「そうか」

「ま、包帯、ありがとうな」

少女「うん」




10 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 14:56:00.96 w/ger7Mf0 8/117

少女「お水でいいかしら」

コト

「ああ、ありがとう」

ゴクゴク

少女「うふふ」

「??」

少女「毒を盛られるかも、なんて、思わないの??」

「ここは戦場だ。死ぬこともあるさ、運命だ」

少女「ふうん」

「なんだ」

少女「つまんない」

「そりゃあ悪かったな、お嬢ちゃん」




12 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 15:02:17.57 w/ger7Mf0 9/117

少女「お嬢ちゃんなんて、久しぶりに言われたわ」

「こんなところに人はめったに来ないだろう??」

少女「そうなのよ」

「しかし周りは廃墟になってるのに、なぜこの家だけきれいに残っているんだ」

少女「私が住んでいるからよ」

「うん??」

少女「私、死なないの」

「へえ」




13 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 15:06:38.56 w/ger7Mf0 10/117

少女「へえって…リアクションそれだけ??」

「無敵の兵士なんてそこらじゅうにいるからな」

「珍しくもない」

少女「そっか」

「冗談は置いといて、あんた、本当にここを離れたほうがいいんじゃねえか」

少女「ご忠告ありがとう」

少女「でも私は、ここから離れられないのよ」

「どうして」

少女「あの苺があるから」




14 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 15:11:33.95 w/ger7Mf0 11/117

「さっきの花壇の??」

少女「そう」

少女「あれは私がママから受け継いだ、とても大切なものなの」

「お母さんはどうしてる」

少女「亡くなったわ、この戦争で」

「…」

「そうか…すまない」

少女「あなたが殺したわけじゃないもの、謝らないで」

「…」




15 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 15:18:38.85 w/ger7Mf0 12/117

少女「ほら、そこの写真立て」

「うん??」

少女「私とママよ」

「…」

「…きれいな人だな」

少女「二人とも、ね」

「ああ、本当に」

少女「あら、冗談のつもりだったのに」

「あんただってきれいなもんだ」

少女「それはありがとう」




16 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 15:26:45.01 w/ger7Mf0 13/117

「お父さんは」

少女「いないの」

「へえ」

少女「私が物心つく前に、家から出て行ったの」

少女「ママが言ってたわ」

「そうかい。甲斐性のない父親だな」

少女「別に恨んではいないわ」

「どうして」

少女「男には男の『為すべきこと』があるのよ」

少女「ってママが言ってたの」




17 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 15:30:26.98 w/ger7Mf0 14/117

「兵士になったのか??」

少女「そうかもしれない」

「あんたは知らないのか??」

少女「ママは教えてくれなかったわ」

「じゃあ生きているかもわからないのか」

少女「そうね」

少女「それに…」

「それに??」

少女「パパは私のことも、ほとんど知らないんじゃないかしら」

「悲しいか??」




18 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 15:35:08.87 w/ger7Mf0 15/117

少女「別に」

少女「私はこの暮らしに不満はないし、特になんとも思ってないの」

「強いんだな」

少女「兵士さんは、家族は??」

「死んだよ」

少女「…やっぱり戦争で??」

「ああ、守れなかったんだ」

少女「ごめんなさい」

「なにを謝ることがあるんだ、気にするな」




19 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 15:39:47.30 w/ger7Mf0 16/117

少女「ねえ、思ったんだけど」

「うん??」

少女「その銃、変わった形をしているのね」

「ああ、見るか??」

少女「うん」

「ほらよ」

ガチャリ

少女「わ、重…」

「人を殺す道具だ」




20 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 15:44:28.46 w/ger7Mf0 17/117

少女「この横についてる鉄線はなあに??」

「ああ、ギターって知ってるか」

少女「ええ」

「それと同じだ」

「音を鳴らすんだよ」

少女「武器なのに??」

「武器なのに」

少女「おかしいわ」

「大真面目だぜ??」




21 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 15:54:44.25 w/ger7Mf0 18/117

少女「ギターを弾きながら人を殺すの??」

「違う、殺した相手に鎮魂歌を捧げるんだ」

少女「それで殺された相手は救われるの??」

「さあな、魂だとか神様なんてもんはあんまり信じちゃいないから」

少女「だったら…」

「そういう隊風なんだよ」

少女「よくわからないわ」

「そう隊長さんにも言ってくれよ」




22 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 15:59:18.38 w/ger7Mf0 19/117

「なにか弾いてやろうか」

少女「いらない」

少女「私が死んだみたいじゃない」

「鎮魂歌だけを弾くもんでもないんだが…」

少女「変なの、変なの」

「ま、じゃあしまっておくよ」

少女「弾は出ないようにしておいてよ」

「そういうわけにはいかない」

「家の中とはいえここは戦場なんだ」

少女「…怖いわ」

「大丈夫、扱いには慣れてるよ」




23 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 16:04:29.81 w/ger7Mf0 20/117

少女「何人殺したの??」

「さあ…数えてないな」

少女「数えきれないくらい??」

「とりあえず両の手では足りないな」

少女「足も足したら??」

「それでも足りないな」

少女「私の指も足したら…」

「それでも足りないな」




24 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 16:10:58.32 w/ger7Mf0 21/117

少女「戦争って嫌ね」

「おれもそう思ってるよ」

少女「じゃあ、なんで」

「国が、『そう』なっちまったからだ」

少女「『そう』って??」

「イカレちまったんだ、追い詰められちまったんだ」

「戦争をしなきゃいけないって」

少女「それは誰が決めるの??」

「偉い人たちだ」

少女「偉いのに、そんな選択をしてしまうの??」

「ああ、偉いのも考えもんだ」

「一歩間違えるとイカレちまうからな」




26 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 16:16:14.54 w/ger7Mf0 22/117

「その点、おれみたいに頭が空っぽの方が気楽なもんだ」

少女「頭空っぽなの??」

「ああ」

「難しいことを考えずに引き金を引ける」

少女「あなたは戦場に来て何年??」

「6年、かな」

少女「…長いわね」

「よく生きてるもんだと思うよ」




27 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 16:20:49.34 w/ger7Mf0 23/117

少女「お水、もっといる??」

「ああ、もらいたいな」

少女「はい」

チャポチャポ

「この家、水道はまだ生きてるのか」

少女「奇跡的にね」

「電気も」

少女「そうよ」

「死にかけの兵士が来たこともあるだろう」

少女「何度かね」

「どっちの軍だ??」

少女「どっちも来たことがあるわ」




28 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 16:30:46.82 w/ger7Mf0 24/117

「そいつらは??」

少女「元気になって出て行った人もいれば、死んだ人もいるわ」

「そうか…」

少女「裏にお墓があるのよ」

「…」

「あとで手を合わせておくよ」

少女「私と同じくらいの年の子もいたわ」

「お嬢ちゃん、歳は」

少女「14歳よ」




29 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 16:36:19.90 w/ger7Mf0 25/117

「14歳か」

「それにしちゃあ大人びてるな」

少女「…」

「ん??」

少女「兵士に襲われたこともあるわ」

「あ、ああ」

「そうか、すまない」

少女「どうして謝るの」

「兵士は、基本的に極限の禁欲生活だからな」

少女「返り討ちにしてやったけどね」

「うお、そうか」




30 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 16:42:41.28 w/ger7Mf0 26/117

少女「その人も裏に埋まってるの」

「…」

少女「瓶で殴ったら死んじゃったのよ」

少女「殺すつもりはなかったの」

「いや、責めるつもりはないさ、当然の報いだ」

少女「あなたはどうかしら」

「その話を聞いて襲おうと思うほど元気じゃないさ」

少女「この話をしなかったら襲ってた??」

「おいおい、勘弁してくれ」

「死んだ娘と年齢が近いんだ、そんな気になるもんか」




31 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 16:48:23.40 w/ger7Mf0 27/117

少女「娘さんがいたの…」

「ああ、妻に似て美人だった」

「あんたほどじゃないがな」

少女「よして」

「この戦争は、おれにとって弔い合戦なんだ」

「死ぬまで、生き延びてやるつもりだ」

少女「…」

少女「私はどちらの軍も応援しないけれど、あなたの応援ならするわ」

「そうかい、ありがとう」




32 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 16:52:39.58 w/ger7Mf0 28/117

少女「あなた、一人??」

「ああ」

少女「軍隊とはぐれたの??」

「まあ、そういう感じだ」

少女「隊と連絡は取れないの??」

「無線機はずっと前から故障しっぱなしだからな」

少女「悪いけど、ここには電話はないの」

「いいさ、一人には慣れてる」




33 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 16:59:52.47 w/ger7Mf0 29/117

「お嬢ちゃん、昼間は何をしているんだ??」

少女「ね、そのお嬢ちゃんっての、やめてくれない??」

「どうして」

少女「なんだか馬鹿にされてるみたいだもの」

少女「私もう子どもじゃないわ」

「…じゃあ名前はなんていうんだ」

少女「忘れた」

「あん??」

少女「名前なんて、ここじゃあ意味がないもの」

「それもそうか」




34 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 17:05:43.70 w/ger7Mf0 30/117

少女「あなたこそ、名前は??」

「特にない」

少女「そう」

「誰にも呼ばれやしないからな、おれだって名前は必要ないのさ」

少女「じゃあ兵士さん、でいいかしら」

「構わないよ」

少女「黒いギターの兵士さんね」

「そりゃあちょっと長いだろ」

少女「黒兵さんね」

「ギターはどこに行ったんだ」




36 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 17:09:18.81 w/ger7Mf0 31/117

「君は…」

少女「それも変」

少女「あんた、でいいわ」

「そうかい、変わった子だな」

少女「そうかしら」

「女の子は普通名前を呼ばれたがる」

少女「へえ…」

少女「いったい何人の女の子を泣かしてきたの??」

「おいおい、娘の話だよ」

少女「うふふ」




38 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 17:15:54.11 w/ger7Mf0 32/117

「で、昼間は何をしてるんだ??」

少女「花壇のお世話と、畑仕事かしら」

「畑もあるのか」

少女「小さいけれどね」

「それで食べていけるのか??」

少女「一人分なら楽に暮らしていけるの」

「あ、ああ、そうか…」

少女「食べ物がほしければ、少しならあげるわよ」

「あ、いや」

少女「遠慮しないで」




39 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 17:21:29.97 w/ger7Mf0 33/117

「すまない、恩に着る」

少女「そのかわり」

「うん」

少女「禁断の果実だけは、食べちゃあダメよ」

「ああ、大切なものなんだろ」

「食べやしないさ」

少女「それだけじゃないの」

「??」

少女「あれは禁断の果実」

少女「食べたら苦しんで死んじゃうの」




40 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 17:27:50.99 w/ger7Mf0 34/117

「冗談だろ??」

少女「うふふ」

「そんな脅しをかけなくたって食べないさ」

少女「はいはい」

「ふう…」

少女「…」

「…」

「なあ」

少女「うん??」

「地図ないか??」




41 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 17:35:59.46 w/ger7Mf0 35/117

少女「チーズ??悪いけれどここらに牛はいないから…」

「いや、地図」

少女「マップのこと??」

「そうそう」

少女「私はどこにも出かけないから、地図なんてないわ」

「そうか…いや、期待はしていなかったが」

少女「ここがどこかもわからないの??」

「ああ、この国は広すぎるからな」

少女「ヘリとかで飛んだら、狭く感じるんじゃないの」

「そんな御大層なものに乗ったことはないのでね」

少女「そう」




42 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 17:43:31.89 w/ger7Mf0 36/117

「これからどうしようかな」

少女「あなたの目的は??」

「特にない」

「敵兵と出会えば殺す、それだけさ」

少女「ふうん」

「最後に、おれ以外の兵士が来たのはいつだ??」

少女「ひと月ほど前かしらね」

「その前は??」

少女「半年ほど前かしらね」

「そうか…」




43 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 17:49:11.26 w/ger7Mf0 37/117

少女「もう日が暮れるわね」

「ああ」

少女「夜は怖い??」

「どうして??」

少女「闇夜に紛れて奇襲、とか」

「今どき、そんな元気なやつはいないよ」

「兵士だって夜は普通に寝るんだ」

少女「あら、そうなの」

「兵士らしくないか??」

少女「イメージが壊れたわ」




44 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 18:03:15.46 w/ger7Mf0 38/117

「真面目に戦争をしているやつは少ない」

「ほとんど義務感だけさ」

「誰もが、『早く終わってほしい』と願ってる」

少女「そう…」

「こんな茶番を何年も続けて、救われた人間は一人もいないんだ」

「敵兵に恨みも持っていないしな」

少女「でも殺すんでしょう??」




45 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 18:13:46.83 w/ger7Mf0 39/117

「死にたくないからさ、だから殺すんだ」

少女「死ぬこともあるって、運命だって、言ったじゃない」

「おれはそう思ってるよ」

少女「じゃあ他の人は違うの??」

「ああ…」

「いや、おれ自身も心のどこかで『死にたくない』と思っている」

「その一方で、『早く楽になりたい』と思っている部分もあるんだ」

少女「ふうん…」

少女「難しくて、よくわからないわ」

「大人の話だ」

少女「私、子どもじゃないわ」




46 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 18:17:38.75 w/ger7Mf0 40/117

「そうだったな、訂正しよう」

「兵士の話、だ」

少女「そう」

少女「…それならわからなくても無理はないわね」

「そういうことだ」

少女「死んだら何も残らないわ」

「そうだな」

少女「あなたが死んだら、その銃はどうなるの??」

「え…」

少女「ん??」




47 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 18:27:26.47 w/ger7Mf0 41/117

「あ、ああ、この銃か…」

少女「??」

「おれを殺したやつが持っていくんじゃないかな」

少女「…」

「この銃、ほしいのか??」

少女「いいえ」

少女「ただなんとなく、そう思っただけよ」




48 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 18:31:27.61 w/ger7Mf0 42/117

「今日はこの家に厄介になって、いいか」

少女「どうぞ」

少女「それから出ていくときは、ご勝手に」

「ああ、ありがとう」

少女「あなたの分のベッドはないわよ」

「いいさ、絨毯があるだけ天国だ」

少女「晩御飯食べる??」

「いや…それは…」

少女「遠慮しないで」




49 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 18:38:29.73 w/ger7Mf0 43/117

コト

「う、うおお」

少女「トマトのスープよ」

「戦場でこんなものが食べられる日が来るとは…」

「ありがとう」

少女「いいえ」

「い、いただきます」

少女「はい、召し上がれ」




50 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 18:42:29.75 w/ger7Mf0 44/117

ズズ ズズ

「…」

少女「…」

「うめえ、うめえ…」

ズズ ズズ

少女「うふふ」

「ぷはあ」

少女「おかわり、いるかしら??」

「え、あ」

少女「どう??」

「…」

「い、いただきます」




51 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 18:46:36.25 w/ger7Mf0 45/117

少女「私の料理を食べてくれる人がいるって、素敵ね」

「ふふ」

少女「前の人は水だけ飲んで死んじゃったから…」

「…」

少女「あ、ごめんなさい、食事中に」

「いや…」

ズズ ズズ

少女「良い食べっぷりね」

少女「あ、この場合は飲みっぷり、かな」

「酒みたいに言うなよw」




52 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 18:53:31.09 w/ger7Mf0 46/117

少女「あ、少しならお酒もあるわ」

「いや、いいよ」

少女「遠慮しないで」

「まだここは戦場だ、酒に呑まれるわけにはいかない」

「…弱いしね」

少女「そう…」

「ごちそうさま」

少女「はあい、お粗末さま」

「いや、この6年間で一番うまい夕食だったよ」

少女「うふふ、ありがとう」




53 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 18:59:49.77 w/ger7Mf0 47/117

「なあ、この家にラジオなんて…」

少女「もちろんないわ」

「そうだよな」

少女「と、言いたいところだけど、あるにはあるの」

少女「壊れちゃってるけどね」

「そうか!!」

少女「古いものだから…でも直せば使えるかも知れないわね」

「それ、使わせてくれないか??」

少女「ラジオが必要なの??」

「まあな」




55 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 20:15:53.36 w/ger7Mf0 48/117

「ラジオが使えれば、無線が傍受できる」

少女「へえ」

「特殊な機械が必要だがな。捨てないで持っていて助かった」

「そのラジオ、持ってきてくれないか」

少女「いいわよ」

「工具もあったら助かる」

少女「うふふ、遠慮のない居候さんね」

「使えるものはしっかり使う主義でね」




56 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 20:21:03.77 w/ger7Mf0 49/117

少女「はい、ラジオと工具」ドン

「うお…これはまた年代物だな」

少女「戦争が始まるよりもずっと昔のものだから」

「形見か??」

少女「お父さんのものらしいわ」

「よし、生き返らせてやろう」

少女「長くかかりそう??」

「ああ、先に寝てくれて構わないからな」




57 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 20:25:57.61 w/ger7Mf0 50/117

少女「…」

「…」カチャカチャ

少女「…」

「…」カチャカチャ

少女「…ふあ」

「眠いか??」カチャカチャ

少女「うん、もう寝るわ」

「ああ、おやすみ」カチャカチャ

少女「…おやすみなさい」




58 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 20:31:09.26 w/ger7Mf0 51/117

「…ふう」

「こんなもんか」

「どれ…」カチャカチャ

ガガッ…ガガッ…

ピピッ…ピガッ…

『ザザー…ザザー…』

「よし」

「あとは明日にするか」

「この家に時計はないみたいだな」

「どれくらい没頭してたんだろう」




59 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 20:36:31.70 w/ger7Mf0 52/117

「あの子が入った部屋は…ここか??」

ガチャ

少女「!!」ビクッ

「うおっと!!」

少女「…な、なに??」

「ああ、いや、すまん」

「ラジオが直ったもんでな、おれも寝ようかと」

少女「…」

「毛布かなにか、あればうれしいんだが」

少女「…ん」スッ

「ああ、これな、もらうぜ」




60 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 20:39:59.02 w/ger7Mf0 53/117

少女「…」

「そんな目で見るなって、ちゃんとあっちで寝るから」

少女「…」

「だからその物騒なもの、しまってくれないか」

少女「…」

「…」

「ま、いいや」

少女「…」

「おやすみ」




61 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 20:49:22.02 w/ger7Mf0 54/117

―次の日―

「おはよう」

少女「…うん」

「元気ないな」

少女「昨日、部屋に入ってきたとき、ちょっとびっくりしちゃって」

少女「ごめんなさい」

「いや、気にしてないよ」

少女「…そう」

「畑仕事とかあるなら、手伝おうか」

少女「それより先に、なにか食べなきゃ」




62 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 20:53:30.25 w/ger7Mf0 55/117

「なにか食わせてくれるのか」

少女「こんなものしかないけど」

「トウモロコシか」

「ごちそうだ、頂くよ」

少女「どうぞ」

「…」ムシャムシャ

少女「ラジオ、どうだったの??」

「ああ、音は出るようになった」

「あとはチューニング系統だけだ」

少女「本当!?ありがとう!!」




63 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 20:59:59.50 w/ger7Mf0 56/117

「あともう少し作業をしたら、普通にラジオとしても使える」

少女「うん、ありがとう」

「トウモロコシ、ごちそうさま」

少女「いえいえ」

「あんたは、なにかすんのか」

少女「ええ、畑にお水をやってこなくちゃあ」

「そうか」




64 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 21:04:59.30 w/ger7Mf0 57/117

「なあ」

少女「うん??」

「昨日のあれ、どこで手に入れた??」

少女「あれって??」

「銃だよ」

少女「…」

「ここで死んだ兵士のもんか??」

少女「…そうよ」




65 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 21:16:39.41 w/ger7Mf0 58/117

「護身用か」

少女「まあね」

「悪いが、おれはあんたを襲おうとも殺そうとも、一切思ってない」

少女「でも兵士は少し怖いもの」

「じゃあどうして家に招き入れたんだ??」

少女「それは…」

「??」




68 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 21:23:21.87 w/ger7Mf0 59/117

少女「パパにちょっと、似ている気がしたから」

「知らないんじゃなかったのか」

少女「なんとなくよ、そう、なんとなく」

「…」

「まあいいや、好きにしな」

少女「…畑、行ってくるね」

「ああ」




70 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 21:27:47.35 w/ger7Mf0 60/117

ガチャガチャ

「っと、あとはこれを」

ガチャガチャ

「おっし、これでよし」

『ザザー…ザザー…』

「すぐに無線も入らないだろうし、置いといても大丈夫、だよな」

「あいつまだ帰らんな」

「ちょっと畑とやらを見に行ってみるか」




71 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 21:32:13.57 w/ger7Mf0 61/117

少女「♪」シャワシャワ

「おうおう、立派な畑じゃないか」

少女「あら、もういいの??」シャワシャワ

「ああ、立派に生き返ったぜ」

少女「すごい、ありがとう」シャワシャワ

「飯と宿のお礼、それに実益も重ねてるからな」

「お安い御用だ」

少女「そこ、踏まないでね」シャワシャワ

「あ、ああ、すまん」




72 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 21:38:41.64 w/ger7Mf0 62/117

少女「水、ここにも引いてあるの」

「家からいちいち汲んでくるには、ちょっと遠いもんな」

少女「あら、銃を持ってきたの??」

「まあ外を歩くんだから、用心はしないとな」

少女「黒いギター、似合うわね」

「そんなこと言われても、嬉しくないなw」




74 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 21:45:24.91 w/ger7Mf0 63/117

少女「お墓も見ていく??」

「ああ、一応見せてくれるか」

少女「こっちよ」

「…」

少女「なんだか、ボディガードができたみたい」

「そうか??」

少女「あなたは、今まで来た兵士さんとは少し違うわね」




75 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 21:50:10.62 w/ger7Mf0 64/117

「どう違うんだ」

少女「目つきがあまりギラギラしていないもの」

「枯れた兵士ってことか」

少女「うーん、よくわからないけれど」

少女「今までの人ほど、怖くないわ」

「そりゃあどうも」

「怖くない兵士が戦場で役に立つとは思えないけどな」




76 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 21:56:34.69 w/ger7Mf0 65/117

少女「ここよ」

「これは…なんというか…」

少女「なあに??」

「想像以上だ」

少女「だって戦争が始まってからずっとだもの」

「よくこんなに…頑張ったな」

少女「最初はママと一緒に埋めてあげたから」

「それにしても…」




77 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 21:59:37.74 w/ger7Mf0 66/117

少女「手を合わせていく??」

「ん」スッ

少女「…」

「…」

少女「あなたの敵側の軍もいるわ」

「関係ないさ」

「死んだら同じ人間だ」

少女「そう」




78 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 22:05:08.89 w/ger7Mf0 67/117

「おれも死んだら、ここに埋めてくれ」

少女「ちょっと、死なないでよ」

「死ぬかもしれないだろ」

少女「あなたのことは応援してあげるって言ったじゃない」

「そうか」

少女「そうよ」

「よし、じゃあおれがこの戦争で死ななかったら、禁断の果実をくれ」

少女「ダメよ」




79 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 22:09:51.51 w/ger7Mf0 68/117

「そんなにダメか」

少女「ダメったらダメ」

「今まで、ここに来た兵士であの苺を食べたやつはいないのか」

少女「いっぱいいるわ」

「いっぱいいるのか」

少女「どの兵士も、ここで眠っているわ」

「え…」




80 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 22:15:04.18 w/ger7Mf0 69/117

少女「食べたら死ぬって、言ったでしょう」

「え、本当に??」

少女「そう、だから絶対に食べちゃあダメなの」

「そ、そんな」

「そんな果実を、なぜ君は」

少女「言ったじゃない」

少女「ママの大切なものだったって」




81 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 22:24:14.52 w/ger7Mf0 70/117

少女「だから私は育て続けるのよ」

「恐ろしい…」

少女「それでも食べてみる??」

「いや、悪かった、食べないよ」

少女「ね、それでいいの♪」

「ふう、冗談にしてもきついぜ」

少女「うふふ」




82 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 22:31:12.76 w/ger7Mf0 71/117

「家に戻ろうか」

少女「ええ」

「ラジオで海外の電波が拾えるか、やってみよう」

少女「じゃ、じゃあ音楽が聴けるの!?」

「ああ、多分な」

少女「はやく!!はやく帰りましょう!!」

「はは、慌てなくたってラジオは逃げないさ」




83 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 22:36:00.46 w/ger7Mf0 72/117

ガチャ

少女「ただいまー」

「はは、誰に言ってんだよ」

『動くな!!』

少女「!!」

「!!」ガチャリ

『ここの住人か!?』

少女「は、はい…」




84 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 22:45:53.07 w/ger7Mf0 73/117

『後ろのやつは…』

「…!!」

『なんだ…敵かとおm』

ガガガガガガガガッ

『ぐあああああああっ!!!!!』

少女「きゃあ!!」

ガシャン!!パリンパリン!!




86 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 22:51:08.58 w/ger7Mf0 74/117

「…ふう」

少女「…し、死んだの??」

「ああ」

少女「どうして撃ったの??」

「どうしてって、敵に会えば殺す、そう言っただろう」

少女「言ったけど…」

少女「その人…同じ軍じゃないの!!」

少女「仲間を、どうして殺したの!!」




87 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 22:58:48.33 w/ger7Mf0 75/117

「…え??」

少女「ほら、あなたと同じ軍のマーク…」

「ああ、気がつかなかったな」

少女「う、うそ!?」

「室内で暗かったし…反射的に殺してしまった」

少女「それにしても」

「すまん、埋めてくる」




89 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 23:07:42.68 w/ger7Mf0 76/117

少女「え」

「さっきの墓に埋めてくる」

少女「でも…」

「割れちまったもんも片付ける、そのままにしておいてくれ」

ズル ズルズル…

少女「…」




90 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 23:13:57.64 w/ger7Mf0 77/117

「…ふう、こんなもんか」ゴシゴシ

少女「…」

「すまない、床に少し血の跡が」

少女「いいわ、気にしないから」

「どうも神経が過敏になっているようだな」

少女「いいから」

少女「…少し、部屋で休むわ」

「ああ」

ガチャ バタン




91 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 23:19:36.63 w/ger7Mf0 78/117

少女「あの人…どうして…同じ軍の人を殺したの…」

「まだ若い女の子があんなものを目の前で見たんだ…神経が参っても仕方ない」

少女「薄暗かったからって…同じ軍の人を間違えるはずない…」

「ゆっくり休ませよう」

少女「どうして…どうして…」

「今のうちに、無線でも聞いておくか」

少女「どうして…」モゾモゾ




93 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 23:25:33.15 w/ger7Mf0 79/117



少女「…ゴメン、寝ちゃってた」

「ああ、おはよう」

少女「今、何時??」

「この家には時計がないだろう??」

少女「外が暗い、ってことしかわからないわ」

「おれも時計なんて持ってない」

「あ、すまんがトウモロコシをもう一本もらったぞ」

少女「ああ、ええ、いいわ」

少女「ご飯、食べましょう」

「無理するな」




94 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 23:33:33.19 w/ger7Mf0 80/117

少女「無理なんて」

「目の前で兵士が死んだんだ」

「あんたみたいな若い娘なら、参って当り前だ」

少女「あなたは、平気なの??」

「両手でも足りないほど殺してきたと言っただろう」

少女「それでも…」

「慣れている、問題ない」

少女「そう…」




95 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 23:39:29.68 w/ger7Mf0 81/117

「今日はもう休んでな」

少女「うん、そうするわ」

「おれはまだ起きてるから」

「安心して寝るには少し早いからな」

少女「そう…」

「銃もちゃんと持ってろよ」

少女「…わかってるわよ」

「ん」

少女「…おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」




96 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 23:43:32.97 w/ger7Mf0 82/117



少女「…」

ジャーンジャーンジャーン♪

ジャーンジャジャジャーン♪

「おお、ラジオ聴いてるのか」

少女「おはよう」

「ああ、早いな」

少女「昨日は寝すぎちゃったからね」

「気分はどうだ??」

少女「もう平気よ」

「すまなかったな」

少女「いいのよ、仕方ないもの」




97 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 23:47:09.85 w/ger7Mf0 83/117

「これ、なんて曲だ??」

少女「知らない、適当に回してみたもの」

「ふうん」

Stop! Fallin’ love with me again♪
You’re fate to be happy with me♪

少女「音楽が聴けるって素敵よね」

「ああ、癒されるな」

少女「この歌詞、どういう意味かしら」

「よくわからん」

「おれには学がないからな」

少女「そう」




98 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/30(土) 23:52:11.69 w/ger7Mf0 84/117

「今入ってる電池は古いものだから、あんまりもたないぜ」

少女「大丈夫よ、まだまだあるから」

「兵士たちのもんか??」

少女「そう」

少女「死んだ兵士さんたちには悪いけれど、色々と有効活用させてもらってるの」

「そうか」

少女「その辺のもの、食べていていいわよ」

少女「私、ちょっと畑に行ってるわ」

「わかった」




99 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:01:53.50 U11bxgjm0 85/117

少女「ラジオ、使う??」

「ん、ちょっと使わせてくれ」

少女「わかった」

「あとで畑に持って行ってやろうか」

少女「いいわ、あとでいっぱい聴くから」

「ん」

少女「家探しとかしないでよね」

「ここから動かないから大丈夫だよ」

少女「そう」




100 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:06:00.16 U11bxgjm0 86/117



「…」

「あいつ、遅いな」

「…」

「って言っても、どれくらい時間が経ったのかわからんが」

「…」

「無線も少し傍受できたし、見に行ってみるか」




101 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:12:48.35 U11bxgjm0 87/117

「おーい」

シーン

「あれ??ここじゃないのか??」

少女「…ここ…」ハアハア

「なんだ、いるんじゃねえか」

「って、おい、どうした」

少女「ちょっと…気分が悪くなっただけ」ハアハア

「おい、顔色悪いぞ!!大丈夫か!!」




102 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:16:30.37 U11bxgjm0 88/117

少女「ちょっと…無理かも…」ハアハア

「とりあえず家の中へ!!」

少女「歩けない…」ハアハア

「おぶって行ってやるから!!」

少女「…」ハアハア

少女「あ、りがと」ハアハア

「…」




103 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:23:35.18 U11bxgjm0 89/117

少女「…」ハアハア

「すごい熱だ」

「おい、タオルかなんかあるか」

少女「台所に…」ハアハア

「ちょっと待ってろ」



少女「あー気持ちいい…」

「ベッドに連れていくぞ、タオル押さえてろ」

少女「う、うん」




104 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:27:17.50 U11bxgjm0 90/117

「よ」グイ

少女「きゃあ」

「軽いな、あんた」

少女「はは…あんまりロマンチックじゃないわね」

「知ってるか、これ、お姫様だっこって言うらしいぞ」

少女「知ってる」

「お姫様はおとなしく休んでなさいってことだ」

少女「うん、ありがと」




105 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:31:31.84 U11bxgjm0 91/117

ドサ

「布団かぶって、タオルで頭冷やしてろ」

少女「うん」

「水持ってきてやるから」

少女「うん」

「あとなにか、ほしいものはあるか」

少女「うーん…わからない」

「ま、ゆっくり休め」




106 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:35:08.23 U11bxgjm0 92/117

「少しだけ、見回りをしてくる」

少女「うん」

「すぐ戻るから」

少女「いいのよ、もともと兵士なんだもの」

少女「見ず知らずの女なんか放って行ってもいいのよ」

「そういう訳にはいかない」

「飯と寝床とラジオの恩があるんだからな」

「ちゃんと治るまで面倒見るさ」

少女「ふふ」




107 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:40:13.12 U11bxgjm0 93/117

「どうした??」

少女「そんなことを言う兵士さんは、初めてだったから」

「そうか」

少女「感謝してくれる人もいたけど、たいていは横柄だったり余裕のない人だったわ」

「恩知らずなやつもいるんだな」

少女「そういう方が多いわよ」

少女「やっぱりあなたは、なにか違うわ」

「…」




108 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:45:01.15 U11bxgjm0 94/117

少女「ありがとう」

「感謝し足りないのはこっちのほうさ」

少女「…うん」

「じゃ、ちょっと行ってくる」

少女「うん、気をつけてね」

「ああ」




109 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:49:18.82 U11bxgjm0 95/117



「さて、と」

「近くに爆撃音もないし、安全だとは思うが…」

「あの丘の辺りでも見に行くか」



「あの子の言う通り、この辺りは確かに…」

「なんと言うか、平和だな」

 少女『私が住んでいるからよ』

 少女『私、死なないの』




110 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:53:18.44 U11bxgjm0 96/117

「はは、あの子にはなにか特別な力でもあるんだろうか」

「戦争が終わっても、あの家だけは無事な気がするな」

「お、熱に効く薬草があるぞ、持って帰ってやろう」



「ん??墓??」

「…」

「…これ、は…」




113 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 00:58:29.79 U11bxgjm0 97/117

少女「あら、お帰り」

「うん」

「気分はどうだ」

少女「だいぶマシよ」

「熱は」ピト

少女「んん」

「まだあるな、ちょっと苦いけど薬を作ってやるから、飲みな」

少女「ありがと」




115 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 01:04:13.33 U11bxgjm0 98/117

少女「んぐ、苦い…」

「我慢しろ」

少女「うええ…」

「ほれ、口なおしのトマト」

少女「ありがと」

「水も大目に飲んどきな」

少女「はあい」




116 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 01:12:15.31 U11bxgjm0 99/117

「今まで一人でどうしてた」

少女「ん??」

「ほら、こんな風に熱が出たりしたとき」

少女「ああ、治るまでずっと寝てたわ」

「看病してくれるやつは」

少女「いつも一人だったからね」

「そうか」

少女「あなたがいてくれて、助かったわ」

「まあ、元気なのが一番なんだがな」




117 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 01:17:32.40 U11bxgjm0 100/117

「さっき丘の上に行ったんだが」

少女「そう」

「お墓を見つけたよ」

少女「…そう」

「あんたと同じネックレスがかかってた」

少女「…」

「あれ、あんたのお母さんの、墓だろ」

少女「…そうよ」




118 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 01:21:12.76 U11bxgjm0 101/117

「どうしてあんな遠くに」

少女「兵士さんたちとは、一緒にしたくなかったから」

「まあ、そういうもんか」

少女「ちょっと大変だったわ」

「そうだろうな」

少女「でも、あそこからならきれいな景色が見えると思って」

「ふうん」




121 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 01:26:22.86 U11bxgjm0 102/117

少女「ね、お願いがあるんだけど」

「ああ、なんでも言ってくれ」

少女「一緒に寝てほしいの」

「え」

少女「一緒に、寝て」

「…それは…構わないけど…」

少女「お願い」




123 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 01:32:16.25 U11bxgjm0 103/117

「じゃ、じゃあ」ゴソゴソ

少女「ありがと」

「狭くないか」

少女「いいの、それがいいの」

「へえ」

少女「あなたには、なんだか安らぎを感じるの」

「そうかい」




124 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 01:36:15.41 U11bxgjm0 104/117

少女「ママを思い出したら、ちょっと寂しくなっちゃって」

「わかるよ」

少女「えへへ」

「一人で暮らしていたって、まだ14歳なんだもんな」

少女「お年頃なのよ」

「お年頃の女の子が、見知らぬ男と一緒のベッドってまずくないか」

少女「パパだと思えば平気よ」

「はは、パパか」

「それなら問題ないな」




125 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 01:42:26.86 U11bxgjm0 105/117

少女「ね、聞きたいんだけど」

「うん??」

少女「あなたの銃のこと」

「ああ、どうしたんだ」

少女「普通大きな銃を撃つと、弾の殻みたいなのが出るわよね」

「…」

少女「あなたの銃は、どうして殻が出ないの??」

「…そういう銃なんだ」

少女「ふうん」




126 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 01:46:42.75 U11bxgjm0 106/117

「中で弾を錬成して、無限に撃てる」

少女「それってすごいの??」

「さあ、どうかな」

少女「今までそんなすごい銃を持ってる人はいなかったわ」

「そうかい」

少女「あなたの銃は特別なの??」

「…隊のみんな持ってるよ」

少女「嘘」




127 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 01:55:11.43 U11bxgjm0 107/117

少女「あれ、特別な銃なんでしょう」

少女「この戦場であなただけが持っている銃」

少女「あなたはそれを与えられたのか、持ち出したのか…」

「おいおい」

少女「私の勝手な想像よ、気にしないで」

「そうは言ってもな」

少女「だから同じ軍の人にも目をつけられていて」

少女「だからあの人も、殺したんじゃない??」

「…」




129 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 02:04:50.95 U11bxgjm0 108/117

少女「えへへ、いい想像力じゃない??」

「そうだな」

少女「正解かどうかは、どうでもいいのよ」

少女「ただなんとなく、もやもやしたのを解消したくなって、こうなったの」

「正解かも、知れないぞ」

少女「いや、聞きたくない」

少女「そう想像しているのが、楽しいんだもの」

「じゃあ、答えはいらないな」

少女「ええ、いらないわ」




130 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 02:09:10.32 U11bxgjm0 109/117

「じゃああんたの方にも、想像の余地があるんじゃないか」

少女「どういうこと??」

「たとえば…」

「あの苺のことさ」

少女「ふうん」

「あれを食べた兵士はみな死んだって言ったな」

少女「ええ」

「あの苺に毒はなくて、ただ形見の大切な苺を食べてしまった兵士に腹を立てて…」

少女「…」

「本当は君が兵士を殺した、とか」




131 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 02:13:15.82 U11bxgjm0 110/117

少女「あはは、面白いわね」

「こういう考え方もできるぞ」

少女「どんな??」

「あの苺には確かに毒があったが、戦争や兵士を憎んでいた君は…」

少女「私は…??」

「わざと兵士に食べさせた、とか」

少女「…うふふ」




132 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 02:18:23.58 U11bxgjm0 111/117

「ほら、いくらでも想像が広がるもんだ」

少女「正解はもちろん…」

「いらないさ」

「このままでいい」

少女「そうよね」

「ミステリアスな女も魅力的だ」

少女「ベッドでそんな台詞を囁かれたのは初めてよ」

「ロマンチックか??」

少女「そうでもないかな」




133 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 02:24:12.15 U11bxgjm0 112/117

少女「あなたは、実は、私の本当のパパで、この家に戻ってきた」

「…」

少女「ってのはどうかしら」

「家族は死んだと言ったぞ」

少女「それは私に本当のことを隠すための嘘、でね」

「…なるほど」

少女「ね、パパ」

「ははは」

少女「うふふ」




135 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 02:27:45.63 U11bxgjm0 113/117

「この家が戦争でも残っているのは、君の死んだお母さんが魔法で守っているから」

少女「この戦争がいつまでも終わらないのは、あなたが無線ジャックをして混乱させているから」

「裏の墓に実は本当のこの家の持ち主が眠っている」

少女「私も実は兵士」

「…くっくっく」

少女「あははははは」




136 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 02:32:15.00 U11bxgjm0 114/117

「おれたち、知らないことだらけだな」

少女「会ったばかりだもの、仕方ないわ」

「本当のことも混ざっているかもな」

少女「そうかもしれないわね」

「…はあ」

少女「うふふ」

「熱、下がったんじゃないか」

少女「…そうね、ずいぶん楽だわ」




137 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 02:40:00.86 U11bxgjm0 115/117

「おれの夢を教えようか」

少女「なあに??」

「戦争なんかやめてしまって、平和に暮らしたい」

少女「じゃあ私の望みも教えてあげる」

少女「一人きりはもういや、安心できる誰かのそばにいたい」

「おれは毎日うまい野菜が食いたい」

少女「じゃあ…私を守ってくれる素敵な男性に巡り合いたい」

「叶うな」

少女「ええ、すぐに、ね」




138 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 02:45:27.00 U11bxgjm0 116/117

少女「明日も、まだこの家にいてくれる??」

「ああ」

少女「じゃあね、明日、あなたのギターが聴きたいわ」

「ああ、お安い御用だ」

少女「熱もきっと下がってるだろうし、ね」

「じゃあ、おれも一つ頼みごとがあるんだが」

少女「なあに??」

「あの苺が食いたいな」

少女「うふふ、どうしようかな」

少女「…特別に、許してあげる♪」


★おしまい



139 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 - 2010/10/31(日) 02:52:03.75 U11bxgjm0 117/117

人いるんだろうか
もしいれば、ありがとうございました

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