1 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 14:52:54.01 Pekhsey30 1/25



  秋山澪はピック売りの貧しい少女である



「ピックゥ! ピックはいりませんか!! ピック買って下さああァい!!!」

「あっ、そこのお姉さん、ピック買ってもらえませんか!!」

OL「えっ? いや、別に……」

「お願いしますっ!! これが売れてくれないと、私・・私・・もう生きていけなくて・・・」ウルッ

OL「ごめんなさい。そういうのはちょっと……」ソソソ

「待ってください! ピック! ピックさえあればいつの日か・・!!」

OL「あの……ご、ごめんなさいっ!」

  タタタタッ....


「ああっ・・そっ、そんな・・まだ今日一個も売れていないのに・・・くそう、ちくしょう・・・」



元スレ
澪「ピックゥ!! ピック買って下さああァい!!!」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1289022774/

3 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 14:54:54.38 Pekhsey30 2/25

「でも・・負けちゃだめだ! なんとしてもピックを売らなくちゃ・・!!」


「ピックはいりませんかああァ!! ピックゥ・・あ、そこのお兄さんっ」

リーマン「ん? はぁ、なにか?」

「ピックいりませんでしょうか!!」

リーマン「え? ピックって、あの弦楽器なんかに使う?」

「正確には撥弦楽器です! 楽器が音を生む母としたら、ピックは父みたいな存在です!!」

リーマン「あ、あー、そうなんだ。でも残念だけどうちにはそういうの置いてないし」

「ない、だと・・・。まさか、嘘でしょ・・信じられない・・・」

リーマン「と、いうわけなんで」

「ででででででも!! だったら是非この機会にピックから交流を深めてみても」

リーマン「あーもう。しつこい勧誘は嫌いなんだよねぇ。他所いってくんない?」プイッ スタスタ


  ヒュウウウウウウ~....

「・・・・・・ちくしょう」

「何が悪いっていうんだ・・・ちくしょう・・ピックに少しも罪なんてないのに・・・」


5 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 14:58:03.99 Pekhsey30 3/25

カップル「イチャイチャ キャイキャイ アンアン」

「くそ・・年の瀬だからって浮かれやがって・・・。ちくしょう・・ちくしょう・・!!」

「ようし。ここは雪玉を作って・・中心にピックを入れて・・・ふふwジュネーブざまぁww」

「これでも食らええェ!! しあわせものに・・・天誅うううゥをおおおおォ!!!」


  ブオオオォンッ!! シュルッ!! ヒュウウウウゥゥゥゥ....


「ドベアジェット!!!!」

「わ・・・し、しまった、コントロールが・・・」

「おいコラァ! そこの薄汚い女、なにしてくれるぅ!」

「わわわわ・・きっと、ピックを粗末にしたからピックの神様が罰を与えたんだ・・・そうだ、そうに違いない・・・」ガクガク

「おいそこの、聞いてるのか? 今結構怒ってるんだぞ!」

「あああ・・・ピックさん、いえピック様ごめんなさい。次は絶対に外したりはしません・・・!!!」

「ってそっちじゃねえだろ!」


6 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:01:18.37 Pekhsey30 4/25

「ええと・・それで、一人だけの方、お怪我はありませんか??」

「いちいちムカつく言い方をする奴だな……」

「で、なにいきなり見ず知らずの人に雪玉とか投げつけてるわけ?」

「それは・・・まぁちょっとした鬱憤を晴らしたくなって、つい・・・」

「あっ、でも! あの雪玉に当たったということは、あなたがピックに対して酷いことをした報復だったという」

「あるわけねぇだろオンドルァ!」

「ひいっ!」

「私はドラマーなんだ。だから使うのはドラムスティックだ。ピックは専門じゃない」

「ドラマーだって・・!?」

「そうだ。だからあんたの言ってるピックの報復とかいうのは……」

「きっとドラムが走りすぎているからだ!! だから、特にベースのピック経連からマークされていて」

「しつこいわこのボケナスビ!」クワッ

「きゃぅんっ!!」


9 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:04:38.76 Pekhsey30 5/25

「そんで、こんなくそ寒い路上でどうしてピックなんか?」

「それは、財産がこれしかないので・・・たくさん買って、全部売りさばけば大儲けだって・・・」

「なるほど可哀想な子だったのか……」

「はい! 可哀想な子です! だから」

「って堂々と言われるとそういう気もなくなるわ!」

「そ、そんなぁ・・・」シュン

「・・・あの、実はおばあちゃんが病気で寝込んでいて、その・・・お薬を買ってあげないと」

「えっ? そんな事情が……?」

「はい。もうピックりとも動けなくて、いつピックり逝ってしまうか分からない状態で。ピックニックにも行けなくて」

「途端に胡散臭くなったな、オイ」

「だからお願いします! ピックを、一つでもいいからピックを!!」

「……分かった。じゃあその嘘っぽい事情に免じて雪玉を当てたことは許してやる。だがピックは買わん」

「うう・・そんなぁ・・・ぐずっ」


11 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:07:54.22 Pekhsey30 6/25

「はいはいもう行くから。弟と映画見る約束なんだ。はぁ、全くどうしていつも弟となんかと……」

「お互い寂しい身ですね・・・」

「うるへぇ! なんかお前に言われると腹立つ! んじゃもう」

「・・・あっ、あっ、あああっー!!!」

「おま、いい加減に……」

「違う! ちが違うんです! 悪気はないんです、ただ・・・」

「ただ……?」

「そのおでこに刺さったピックを、返してもらえないかなぁって・・・」

「お、で、こ?」スリスリス..コツッ

「…………あ、本当だ。きれーに刺さっとる」

「ピク美ちゃんが、私以外の人間に初めて好意を抱くなんて・・!!」

「名前つけとるんか! まぁともかく、抜いてしまえば……。む、むむ……あれ?」

「ぬ、抜けない!?」

「・・・・・・ふふw」キラーン


13 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:11:17.59 Pekhsey30 7/25

「ふんぬーっ! ふんぬーっ!」

「あのぉ、あもし抜けないのでしたらぁ、買い取っていただかないとぉ・・・」ワクワク

「ぬわーっ! 駄目だこりゃ。完全に根元までグサリといってやがる……」

「……って、ハッ! もしかしてお前、これが目的ではじめから」

「えっ、ちっ、違います違います! あなたに当たってしまったのは本当にただの偶然で・・・」

「つまり相手は誰でもよかったってことか!」

「あああああ違うんです!! 私可哀想な子だから頭のほうもちょっと」

「黙れこのピック詐欺師! お前には一銭も払わないからな!」

「くそっ! もうこれ以上構っていられるか」ダッ

「ああっ・・ピック! 私のピック! しかもそれ一つしかない鼈甲のやつ! ピク美ちゃぁん!!
  摩擦音を最小に抑え、しかも決め細やかさを残しつつダイナミックにアタックできる、一番高いのおおおォ!!!」

「んなもん知るか!」ダダダッ


  ヒュルルルルルルウウゥゥ~....


「・・・・・・」ポツーン

「・・・死にたい」


15 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:14:31.11 Pekhsey30 8/25

  ビュウウウウウゥゥゥ~

「うう・・大量の山盛りピック・・・。この中で一番鋭いピックなら、手首切って死ねるのかなぁ」

  あのー

「へへっ。やっぱり駄目だ。こんな可愛い子たちを、私みたいな汚れた血で染めるなんて・・・」

  ぐあい悪いんですかー

「こうなったら、例えいたいけな子を騙しても・・・。ふふっ。私が、絶対ににお前たちの買い主を見つけてやるからな」

  笑いながら泣けるってきようですねー

「それにしてもさっきからよく分からない幻聴みたいなものが・・・」


「もおおおおっ! おきゃくさーん! しゅーてんですよー!」

「わあぁ降ります降ります! ・・・って、あれっ? ここ駅じゃない!! ていうか誰っ!?」

「誰、って言われても……。たまたま通りかかっただけなんだけど」

「あ、そうなんだ。ふぅん・・・。ね、ねぇ、きみ! いや、あなた!!」

「うん? なあに?」

「ピッ・・・ぐっ、駄目だ! この子、なんて純粋な目をしてやがる! 私は・・こんな子をカモになんて・・!!」

「……ほえ?」


16 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:17:46.64 Pekhsey30 9/25

「んー。なんかよく分からないけど、困ってるなら、私でよければ相談にのるよっ」ニパッ

「そうだん・・? こ、こんな薄汚れた私の話を聞いてくれるのか!?」

「……汚れてる? そんなのあんまり関係ないよ。私は可愛いものが好きで、見つけるのが得意なんだ~」

「そんな、可愛いだなんて・・。確かに顔出ちには凄く恵まれたほうだって薄々感づいてたけど・・・」

「あ、うん……。でっ! こんなところでなにやってたの?」

「・・・あのな、ピックを売ってるんだ。でも全然誰も買ってくれなくて」

「ぴっく? ふぅん。道端で売ってる人はじめて見たかも」

「所詮底辺の仕事だったんだ・・。これでビッグになれるって、信じ込まされて・・!!」

「・・・あと、実はおばあちゃんが悪い人に騙されてて、このままじゃ利子が膨らむ一方で・・!!」

「……そうなんだ。大変なんだね。むう、でも困ったな……今ちょうどお財布が」

「いや・・いいんだ。ピックをピックとして使ってくれない人じゃないと、ピックとして生まれたピックが可哀想だから・・」

「だったら! 私なんてぴったr……」


  オネエチャーン ドコー? オネイチャアアアアン!!


「あっ、憂!」


17 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:20:49.16 Pekhsey30 10/25

「あっ、お姉ちゃん! も~、随分探したんだからぁ」

「でひひ、めんごめんご」

「ほらもう帰らないと時間が……って、え……。そちらの方は?」ジトー

「あ、ここっこ、こんばんわ・・・。はは・・」

「可愛い子でしょ! ねぇ憂、私のお財布持ってるでしょ? 早く出しt」

「ちょっ、お姉ちゃん! ちょっとこっちきて!」グイッ

「えっ、なっ、どどうしたの?」ズルズル

「・・・・・・」


「お姉ちゃん、最近お小遣いすぐ使っちゃうみたいだけど、いっつもああいう人に使ってるの?」ヒソヒソ

「そうでもないけど……。ああいう人ってどういうこと?」

「それは、言い方悪いけど乞食とかそういう人。いい、お姉ちゃん。ああいう人にお金あげちゃだめなの」ヒソヒソ

「えー。どうして?」

「甘やかすからちゃんとした仕事に就こうとしないんだよ。それに、臭いし汚いから、ね!」ヒソヒソ


「・・・なに話してるか分かる自分が嫌いだ・・嫌いだ・・・」メソッ


19 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:23:50.71 Pekhsey30 11/25

「はい、お話し終了っ! 分かったらお返事は?」

「むうううぅっ! 分かりましたぁ……」

「・・・・・・」

「それじゃあ失礼します。ほら、お姉ちゃん。ギー太が寂しい寂しいって言っておうちで待ってるから」

「・・・ぎーた? ぎーたー・・・まさかギター・・!?」

「あっ、うん、まぁ……ギー太っていうギターがあるんだけど、言い出すタイミングが」

「・・・それを先に言わないとだめじゃないかああああああァ!!!」

「わ! なんか人が変わった!?」

「は、早く行っちゃお!」

「持ってるなら持ってるって最初に言ってよ! ピック必要だよ!! ピック求めてるよね!?
  なに勝手に決めつけていたんだ・・・ワタシ!! ちょっ、買って! ピック買って! 一つ騙されたと思って!!!」

「お姉ちゃん! 早くこっち!」

「ふええぇ、怖い、怖いぃっ!」

「あっ・・ちょっまっ・・・!!! あぁっ・・ピックを粗末にする者はピックに泣くんだぞおお!!」

「ふええぇん!」スタタタッ


20 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:27:20.26 Pekhsey30 12/25

「・・くそっ!! くそッ!! あそこで気持ちを抑えていれば、今度買ってくれたかもしれないのに・・・」

「なにやってるんだ・・・馬鹿、馬鹿ぁ。・・このザマが、これまでの私の人生のツケ・・!!」


  ゴォーン! ゴオーン! ゴオォーン!!

「うわ、もうこんな時間!? ・・・次が駄目だったら、もう今日は諦めるしか・・・」

「ようしっ!! これで終いだと思って、最後は気合入れていくぞ・・・うんっ!!!」

「……」テクテクテク

「・・・!!? って、あんなところにギターを背負ってる女の子がいるじゃないか・・」

「これはまさしく天戒!! 神様の思し召しだ!! 待ってろ、今行く・・!!」ダンッ


  バッ! ザザザ...キキイィ!!

「わっ! なに!?」

「ピックゥ!! ピック買って下さああァい!!!」


21 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:30:24.65 Pekhsey30 13/25

「ピックって……あのピックのことですか?」

「そうです! その背中のギターですよね・・お願いします!! いっぱいあるので、好きなの選んでいいので!!」

「は、はぁ……。まぁ見るだけでしたら構いませんが……」

「ありがとうございますぅ!!」パアァ

「凄い笑顔だ……。それで、ええと、どこですかピック?」

「よいしょっ・・・これですっ!!」ズーン

「多っ! あ、でも、これだけあれば掘り出しものも……」

「どれがいいですか? 色の多さなら、その辺の色エンピツより負けていませんよ!!」

「は、はぁ。色はあんまり気にしないので、素材ですかねぇ……」



  ガサゴソ ガサゴソ

(安物が多いなぁ。中古も混じってるっぽい。もしかしてこの人……)

「ど、どうですか・・。なにか気に入ったものは・・!!」ワクワク


23 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:33:37.04 Pekhsey30 14/25

「あのぉ、いつもこういう売り方してるんですか?」

「こういうっていうと・・・どういう?」

「ですから、全部出して好きなのどうぞーって。良さそうなの一つもないんですけど」

「……もしかして、出し惜しみとかしてません?」

「あ、いや、ええと・・・ついさっきまであったんですけど・・・」モジモジ

「さっきまで?」

「実は・・最後の隠しピックのピク美ちゃんを雪玉に入れて投擲しちゃって・・・」

(……どういう状況だったんだろう……)

「とにかくですけど、全然いいのないです。っていいますか、これほとんどベース向きじゃないですかっ!」

「えっ・・!? ピックに向き不向きとかあるんですか?」

「当たり前です! おにぎり形とかドロップ形とか、厚みもかなり重要ですが、なんといっても素材命ですね! 

「つまり!! つまりこの子たちにも個性があるっていうんだな!!?」

「え? はぁ。そりゃあそうですけど」

「そうか! ピク助・・ピク次郎・・ピク恵にピク子!! みんな似てるようだけど実は違うんだな!!
  私は嬉しいよ・・・社会の歯車にあてられるような、無個性ピックになんて育っていなくて・・・!!!」

「この人なんか気持ち悪い……」


24 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:37:04.58 Pekhsey30 15/25

「あの、よく分からない感動中のところもう一ついいですか?」

「はひ?」

「あのですね、毎回「好きなのどうぞ」じゃ良いものから買われていくに決まってるじゃないですか」

「そんなんだから安物中古しか残らなくて苦労するんですよ。例えば玉石混交でセット売りとかしないと」

「すいません・・。私、可哀想な子なので、その辺のことよく分からなくて・・・」

「……はぁ。そうですか……」

「あっ! でもでも! 可哀想さ具合だったら凄い自信ありますよ・・!!」

「実は、おばあちゃんの新しい旦那さんが、通帳と印鑑奪って行方をくらましちゃったりとか!!!
  ・・あとあと! 実はおばあちゃんの遺産をもらえる人が急に増えたりとか・・!! 他にも色々ピーチクパーチク!!」

(本当かなぁ……?)

「まぁ色々大変そうなのは分かりましたから……頑張って下さい。私もう」

「えっ!? 同情してくれないんですか・・? ピック買って、優越感満たしてみようとか思っちゃったりいかがですか・・!?」

「…………」ゾゾゾ

「やっぱりこの人気持ち悪いーっ!」ダーッ



「・・・あっ、あっ・・」ポツーン


25 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:40:09.14 Pekhsey30 16/25

  シーン・・・・ ビュウウゥッ! ・・・シーン・・・

「・・・寒い。・・・眠い。でも、お腹へった・・・もう駄目だぁ・・・」

「あぁ・・今頃ほとんどの人たちは暖炉の効いた、屋根のある、ふかふかのベッドで・・・」

「もう真夜中・・・人がいなかったら、売るもの売れないじゃないかぁ・・・」


  ワァーユキヨー! サイトウミテー スゴイマッシロー♪ 

「ん? あれは・・・?」



「やっぱり雪は見るものじゃなくて触るものねっ。そー……つ、冷たいいっ!」

斉藤「お嬢様。そうあまりはしゃがれませんよう」

「まぁ斉藤。お屋敷に閉じこもってばかりでは運動不足になってしまうわ」

「こういう時くらいは……そぉれっ! うふふ、斉藤のお髭が真っ白しろ♪」



「・・ふんっ!! 箱入り娘のお嬢様かっ! ちくしょう・・自慢しにきたのか! ちくしょう・・」


27 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:43:10.55 Pekhsey30 17/25

「あら……。ねぇ斉藤、あの子、あんなところでなにやってるのかしら?」

斉藤「ハッ。あの様な輩は闇に紛れ、下賤な商いを主としているのです。決して近づかれませんよう」

「でも、見たところ、私と年格好ほとんど同じくらいの女の子よ。まさかそんな……」

斉藤「左様。ああいった娘たちは末端として利用されているのです。ですが小さくとも悪なのです」

「そう……。話しかけてみたかったのだけど、残念ね」

斉藤「さあさあ。明日も早朝からピアノの先生がいらっしゃいます。そろそろ帰りましょう」




「・・・はぁ。私も生まれ変わったら、お嬢様になりたいなぁ・・」

「そしたら・・毎日使い捨てに鼈甲ピックを使って、ピックを敷き詰めたピック風呂に浸かって・・・どゥへへw」


  ドビュウウウウフォオオオオオッ!!

「ざぶぅッ!! へっ・・へっ、へっぐじぃ!! ううぅ寒い、下手なこと考え込んでると凍え死んじゃう・・」

「・・・そうかっ! ピック! 寒いなら、こいつを使ってずっと動いていればいいじゃないか!!」


29 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:46:18.11 Pekhsey30 18/25

「ベー助!! 出番だぞっ!!」


  ベベンベンベン「ハッ!」 ベンンベンベンベ「ヤッ!」


「こうやって体を動かし続ければ・・・続ければッ・・・」

「あぁ、そういえば今日売り損ねた子たち・・・みんな楽器が使えるっぽかったな・・・」

「はじめにドラムの恫喝デコで、次にギターの見せかけ偽善者で、次もギターで毒舌ちびすけ、
  それからピアノ・・・キーボードもできるかな、あのファッキンお嬢様・・・」

「なんだ、完璧じゃないか・・!! これで一つのバンドが組めるぞっ!!」

「ああっ、もし違う世界で出会っていれば・・きっとあのメンバーで演奏を・・・」



  モヤモヤ モヤモヤァ....

「・・んっ。なんだ!? 目の前に眩しい霧が立ち込めてきたぞ・・・」


  そのとき彼女は見たのである。自分を見捨てた少女たちが、楽器を持って微笑んでいる姿を


「まぼ・・ろし・・?? いや、違う、本物!! 本物だっ!!!」


31 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:49:21.49 Pekhsey30 19/25

「なんだ! さっきからそこにいるなら、いるって言ってくれればいいじゃないか!!」

『・・・・・・』

「ちょっ、どうして黙ってるんだよ。さっきまでの威勢の良さはどうした・・!?」

『・・・・・・』

「ほおら、唯なんて呆れて声もでないじゃないか。全く、律らしくないぞっ!!」

『・・・・・・』

「あっ、梓ごめんな。真面目に練習しなきゃな。ようし、それじゃそろそろ・・・」

『・・・・・・』

「ああ、ムギ、分かってるよ。照れくさいけど、いつもフォローありがとうな・・・///」


「よおし!! 武道館に向けて、私たちの青春をはじめるぞ・・っ!!」

「・・・じゃあまず、第一曲目ッ!!!」


   ...........


「ねーし!!」


33 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:52:46.91 Pekhsey30 20/25

  そして一夜が明けた。道端にあの少女が、ぴくりとも動かずに横たわっていた

「えーっと、確かこの辺りだったはずなんだけど……」


「おー、いたいた! ……って、おい、大丈夫か? おい、昨日のピック売り!」

「こんなに、こんなに冷たくなって、まさか……」ガシッ

「し、死んでる……!」


「えーとー、どこだっけかなぁ。この辺のはずなんだけどー」

「あっ、見つけたぁっ!」

「ん? えっ? ちょっ、誰だお前」

「ほぇ、私? 私はね、昨日ピックを売ってもらおうとしたんだけど、色々あって買えなくて。
  でね、今朝ギー太の練習してたらピックが割れちゃって、やっぱり売ってもらおうと思って来たんだ~」

「……なんだけど、ピック売りの子どうしたの? 寝ちゃってるの?」

「ああ、寝ちゃってるんだ。永遠の眠りの中に……」

「!? そっ、そんな……」


34 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:56:15.31 Pekhsey30 21/25

「実は私も昨日、ピックを買ってくれと言われたんだが、色々あって金を払わずに持って帰ってしまって。
  後から、やっぱり返したほうがいいって思って、来てみたんだけど……」

「そうだったんだ……」



「えーと、この角を曲がったところに」テクテク

「こんにちわー。昨日のピック売りさーん。……って、あの、あなたたちは?」

「あ、もしかしてお前もそのクチか。でも、残念だけど、こいつはもう……」

「えっ……ちょっ、ピック売りさん!? まさか!」ユサユサ

「駄目だ。死んでる」

「う、嘘……。ちょうどパパから、ピックをが大量に欲しいって聞かされたところだったのに……」ウルウル

「泣きたいなら、泣いていいんだよ」ギュッ

「うっ、もっと、もっと早く来れていたら……」ポロポロ

「私だって、そう思ってるさ……クソッ!」


36 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 15:59:15.86 Pekhsey30 22/25

「しゃらんらしゃらんら~、お屋敷抜けだしてきちゃったぁ♪」

「これならうるさい斉藤にとやかく言われずに済むわぁ」



「こんにちわ~。街角のピック売りさんっ。……って、あら、皆さんは?」

「おっ、また仲間が増えたみたいだな」

「昨日はお話できなかったから、改めて来てみたんだけど。どうして皆さんしんみりしているの?」

「あっ、なんて白い顔になって、まさか……!?」

「うん。残念だけど、そうみたい」

「そう……。そうだったの……」



「・・・・・・」チーン

一同「…………」シーン


37 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 16:02:31.29 Pekhsey30 23/25

「そういえばこの子、ベース持ってるみたいだけど」

「ベースか……。一回くらい、こいつとリズムビート刻んでみたかったな。相棒のドラマーとして」

「あなたドラムできるんだ!? そしたら、私がリードギター弾きたかったな」

「私だって! リズムギターなら任せてください!」

「あら。そうしたら私はキーボードで参加しちゃおうかしら」

「なんだ、みんなほどよくパートが分かれてるじゃないか! こいつがまだ生きてたら、みんなで一緒に演奏できたのにな……」

「そうだね。もし生きてたら」

「うぅ……それ以上言わないで下さい。また涙が」ウルウル

「まぁ。なきむしさんなのね」

「そっ、そんなことないですぅ!」カアァ



  『 ピックゥ!! ピック買って下さああァい!!! 』



一同「えっ!?」


39 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 16:05:34.71 Pekhsey30 24/25

「ピックゥ! ピックはいりませんか!! ピック買って下さああァい!!!」

「き、君は……君もピック売りの少女か!」

「あっ、そ、そうです! ピック売ってます! 一つでいいので買っていただけませんか・・!?
  好きなの選んでもらって構わないので!! うちの死にかけのおばあちゃんのために・・・!!!」

「はいはい! 買います、一つ買います!」

「私は二十個くらい!」

「わあぁ・・!! あっ、ありがとうございますっ!!」パアァ

「ねぇ、ピック売りさん。もしかして……あなたもベースが弾けたりするのかしら?」

「ベース・・当たり前ですよ!! ベースが弾けなきゃピック売りは務まりません!!」

「よしきた! お前を今日から私たちのバンドに招待する!」

「あっ、いいねぇ! でも、まだお互いのことよく知らないし、とりあえずお茶にしようよぉ」

「まぁそれは素敵ね♪ 紅茶とお菓子ならたくさん用意できるわぁ」

「皆さん・・どうして見ず知らずの私にそこまで・・・」

「理由なんてなんだっていいんだよ! さぁ、行こっ!」



「・・・・・・」ヒュオオオォ


40 : 以下、名... - 2010/11/06(土) 16:08:39.25 Pekhsey30 25/25



 こうして一人のピック売りの少女は天へと召されていった....

 しかし忘れないで欲しい。彼女の犠牲が別の誰かを助けたことを....


 おわりである



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