1 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:05:21.648 q4gKytVX0 1/21

「くそぉぉぉぉぉっ!!!」

「!」ビクッ

「また……詩コンクールに落選……」

「自費出版した詩集も全然売れない……」

「俺はとろけるような甘い詩を書いて、みんなを幸せにしたいのに……」

「なぜだ! なぜ俺の詩は受け入れられないんだ!」

「お兄ちゃん……」

元スレ
妹「詩人を目指してるお兄ちゃんが虎になっちゃった!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1603717521/

4 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:08:50.056 q4gKytVX0 2/21

「俺には才能がないのか!?」

「そんなことないよ!」

「お兄ちゃんには詩の才能があるよ!」

「例えば、この『雨上がりにエンゼルが虹の橋をかけてくれた』のくだり、とってもステキだもん!」

「うるさいうるさいうるさぁい!」

「お前にだけ認められても意味がないんだ! 皆に認められなきゃ意味がないんだ!」

「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」

バリバリバリバリバリッ!

(お兄ちゃんが……スパークし始めた!?)

5 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:11:40.063 q4gKytVX0 3/21

シュゥゥゥゥゥ…

「ガルルルル……!」

「お兄ちゃんが虎になっちゃった!」

「グルルルルル……!」

「お兄ちゃん、あたしだよ! 分からないの!?」

「グ……グ……グ……!」

「ガオオオオオンッ!」

「キャーッ!」

6 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:14:26.798 q4gKytVX0 4/21

「くっ、こうなったら――」

「ガオオオオオオオッ!」

「えーいっ!」グサッ!

「いでえええええっ!」

「あ、戻った」

「お前、兄を刺すなんて……! なんてことするんだ!」

「よかったー、あたし料理人だから包丁持ってて」

9 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:18:37.728 q4gKytVX0 5/21

「あれ? なんか、俺……姿変わってないか?」

「はい、鏡」

「ん……わあああああっ! 虎じゃん! 早く警察を! いや猟友会呼んでぇ!」

「それ、お兄ちゃんだよ」

「へ……?」

「お兄ちゃん、虎になっちゃったの! 山月記の李徴みたいに!」

「なんだってぇ!?」

11 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:21:39.725 q4gKytVX0 6/21

「どうしてこんなことに……」

「きっと詩のことで悩みすぎたんだよ……。その悩める心がお兄ちゃんを虎に……」

「これからどうすればいいんだ……」

「とりあえず、今は詩のことは忘れて休も?」

「そしたらいつか人間に戻れるよ」

「ああ、ありがとう……」

12 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:26:03.790 q4gKytVX0 7/21

「はい、夕ご飯」

「いただきます」モグモグ

「ん……」

「あれ? 口に合わない? お兄ちゃん、ご飯とみそ汁大好きじゃない」

「ああ……やっぱり肉が食いたい」

「食事の好みも変わっちゃうのか……」

「食えないわけじゃないんだがな」

14 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:29:28.507 q4gKytVX0 8/21

「すいませーん」

シェフ「なんだい?」

「廃棄するお肉もらっていいですか?」

シェフ「そりゃかまわないけど……食中毒起きても責任は取れないよ」

「分かってます。じゃあ全部いただきます!」

シェフ「全部!?」

17 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:32:29.439 q4gKytVX0 9/21

「ほら、お肉」

「うまいうまい!」ガツガツ

「よかったぁ~」

「……」ガツガツ

(ものすごい食べっぷり……)

「もっとないの?」

「えー!? あんなに食べたのに!」

18 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:35:16.847 q4gKytVX0 10/21

「今日もお肉もらってきたよー」

「ありがとう」

「……」

(このままじゃまずい……)

(このままじゃ妹に養われてるだけの情けない虎になってしまう)

(“ニー虎”になってしまう!)

(何とかしないと……)

20 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:39:28.854 q4gKytVX0 11/21

「……よし!」

「あれ、お兄ちゃん。ペンなんか持ってどうしたの?」

「俺……詩を書くよ!」

「えっ、ホント!?」

「ああ、詩で悩んで虎になったんだから、詩を書けば元に戻れるかもしれないし」

「頑張って、お兄ちゃん!」

21 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:44:06.369 q4gKytVX0 12/21

「うーん……」

「ううーん……」

(花……咲き乱れる花……)

(花が咲き乱れる野原で……走りまわる女の子……)

(そこへ駆けつけてくる……王子……虎に乗った王子様……違う!)

(白馬に乗った……タイガーマスク……そうじゃない!)

(白馬に乗った王子様が……女の子に……タイガーアッパーカット……)

「ダメだダメだダメだダメだダメだ!」クシャクシャ ポイッ

24 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:47:31.778 q4gKytVX0 13/21

「くそっ! どうしても自分が虎ってのが邪魔をする! まともな詩にならない!」

「ねえ……」

「ん?」

「お兄ちゃんが虎になっちゃったのは仕方ないことだし、いっそ虎として詩を書いてみたら?」

「虎なのに人みたいな詩を書こうとしたら、やっぱり無理が出る気がするんだ」

「虎であることを受け入れるってことか……」

「やってみるか!」

25 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:50:07.043 q4gKytVX0 14/21

(虎になったつもりで……いや、既になってるんだけど)

「ガルルルルル……!」

「ガオォォォォォォン!」

「!」ピコーン

(おおっ、フレーズが浮かんできたぞ!)

「血に飢えた牙で……獲物の喉笛に……肉をむさぼる獣……」カリカリカリ

26 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:54:58.014 q4gKytVX0 15/21

「いかがでしょう……?」

編集者「どれどれ……」

「……」ゴクリ

編集者「おおっ、これいいですよ! どれも野性味にあふれていて、素晴らしい詩だ!」

「ホントですか!」

編集者「さっそく出版して売り出しましょう!」

27 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 22:58:14.391 q4gKytVX0 16/21

(お兄ちゃんの詩集は大ヒットした!)



客A「こんな獰猛なポエム見たことない! 斬新すぎる!」

客B「読んでるだけで、血が沸き立ちますよ!」

客C「これを虎が書いたなんて信じられない!」



(だけど――)

28 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 23:01:55.103 q4gKytVX0 17/21

「――違う!」

「違うんだ!」

「お兄ちゃん……」

「こんなのは俺が書きたかった詩じゃなぁい!」ビリビリッ

「俺はもっと……もっと! 人間時代の俺はもっと……!」

「うわあああああああああああ!!!」ダッ

「お兄ちゃん!」

29 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 23:04:19.998 q4gKytVX0 18/21

「お兄ちゃん!」

「うわあああああん!」グルグルグル

「うわああああああああああん!!」グルグルグル

「うわああああああああああああああああん!!!」グルグルグル

「お兄ちゃんがグルグル回り始めた……」

「あ……!」

31 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 23:07:28.790 q4gKytVX0 19/21

「お兄ちゃん!」

「ん?」

「お兄ちゃんの一部が……バターになってる!」

「あ、ホントだ! 回りすぎて溶けちゃったのか」ドロ…

「いい匂い……」

「ちょっとなめてみてもいい?」ペロッ

「大丈夫かよ、こんなのなめて」

32 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 23:10:23.543 q4gKytVX0 20/21

「うんま!!!」

「!」

「このバター、うんま!」

「マジかよ」

「このバター、もっと出せる?」

「ああ、なんとなくコツは掴んだからな」

「よーし、自分が全部バターにならない程度にやってみる!」グルグルグル

(このバターがあれば……!)

34 : 以下、5... - 2020/10/26(月) 23:12:33.377 q4gKytVX0 21/21

「当店の新メニュー、あま~いパンケーキをお持ちしました!」

女性客「甘くておいし~! 頬がとろけちゃう!」

男性客「一口ごとに幸せな気分になるよ」



(俺はとろけるような甘い詩を書いて、みんなを幸せにしたかったけど……)

(妹のおかげで少し夢が叶ったかな)







おわり

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