兄「くそぉぉぉぉぉっ!!!」
妹「!」ビクッ
兄「また……詩コンクールに落選……」
兄「自費出版した詩集も全然売れない……」
兄「俺はとろけるような甘い詩を書いて、みんなを幸せにしたいのに……」
兄「なぜだ! なぜ俺の詩は受け入れられないんだ!」
妹「お兄ちゃん……」
元スレ
妹「詩人を目指してるお兄ちゃんが虎になっちゃった!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1603717521/
兄「俺には才能がないのか!?」
妹「そんなことないよ!」
妹「お兄ちゃんには詩の才能があるよ!」
妹「例えば、この『雨上がりにエンゼルが虹の橋をかけてくれた』のくだり、とってもステキだもん!」
兄「うるさいうるさいうるさぁい!」
兄「お前にだけ認められても意味がないんだ! 皆に認められなきゃ意味がないんだ!」
兄「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」
バリバリバリバリバリッ!
妹(お兄ちゃんが……スパークし始めた!?)
シュゥゥゥゥゥ…
虎「ガルルルル……!」
妹「お兄ちゃんが虎になっちゃった!」
虎「グルルルルル……!」
妹「お兄ちゃん、あたしだよ! 分からないの!?」
虎「グ……グ……グ……!」
虎「ガオオオオオンッ!」
妹「キャーッ!」
妹「くっ、こうなったら――」
虎「ガオオオオオオオッ!」
妹「えーいっ!」グサッ!
虎「いでえええええっ!」
妹「あ、戻った」
虎「お前、兄を刺すなんて……! なんてことするんだ!」
妹「よかったー、あたし料理人だから包丁持ってて」
虎「あれ? なんか、俺……姿変わってないか?」
妹「はい、鏡」
虎「ん……わあああああっ! 虎じゃん! 早く警察を! いや猟友会呼んでぇ!」
妹「それ、お兄ちゃんだよ」
虎「へ……?」
妹「お兄ちゃん、虎になっちゃったの! 山月記の李徴みたいに!」
虎「なんだってぇ!?」
虎「どうしてこんなことに……」
妹「きっと詩のことで悩みすぎたんだよ……。その悩める心がお兄ちゃんを虎に……」
虎「これからどうすればいいんだ……」
妹「とりあえず、今は詩のことは忘れて休も?」
妹「そしたらいつか人間に戻れるよ」
虎「ああ、ありがとう……」
妹「はい、夕ご飯」
虎「いただきます」モグモグ
虎「ん……」
妹「あれ? 口に合わない? お兄ちゃん、ご飯とみそ汁大好きじゃない」
虎「ああ……やっぱり肉が食いたい」
妹「食事の好みも変わっちゃうのか……」
虎「食えないわけじゃないんだがな」
妹「すいませーん」
シェフ「なんだい?」
妹「廃棄するお肉もらっていいですか?」
シェフ「そりゃかまわないけど……食中毒起きても責任は取れないよ」
妹「分かってます。じゃあ全部いただきます!」
シェフ「全部!?」
妹「ほら、お肉」
虎「うまいうまい!」ガツガツ
妹「よかったぁ~」
虎「……」ガツガツ
妹(ものすごい食べっぷり……)
虎「もっとないの?」
妹「えー!? あんなに食べたのに!」
妹「今日もお肉もらってきたよー」
虎「ありがとう」
虎「……」
虎(このままじゃまずい……)
虎(このままじゃ妹に養われてるだけの情けない虎になってしまう)
虎(“ニー虎”になってしまう!)
虎(何とかしないと……)
虎「……よし!」
妹「あれ、お兄ちゃん。ペンなんか持ってどうしたの?」
虎「俺……詩を書くよ!」
妹「えっ、ホント!?」
虎「ああ、詩で悩んで虎になったんだから、詩を書けば元に戻れるかもしれないし」
妹「頑張って、お兄ちゃん!」
虎「うーん……」
虎「ううーん……」
虎(花……咲き乱れる花……)
虎(花が咲き乱れる野原で……走りまわる女の子……)
虎(そこへ駆けつけてくる……王子……虎に乗った王子様……違う!)
虎(白馬に乗った……タイガーマスク……そうじゃない!)
虎(白馬に乗った王子様が……女の子に……タイガーアッパーカット……)
虎「ダメだダメだダメだダメだダメだ!」クシャクシャ ポイッ
虎「くそっ! どうしても自分が虎ってのが邪魔をする! まともな詩にならない!」
妹「ねえ……」
虎「ん?」
妹「お兄ちゃんが虎になっちゃったのは仕方ないことだし、いっそ虎として詩を書いてみたら?」
妹「虎なのに人みたいな詩を書こうとしたら、やっぱり無理が出る気がするんだ」
虎「虎であることを受け入れるってことか……」
虎「やってみるか!」
虎(虎になったつもりで……いや、既になってるんだけど)
虎「ガルルルルル……!」
虎「ガオォォォォォォン!」
虎「!」ピコーン
虎(おおっ、フレーズが浮かんできたぞ!)
虎「血に飢えた牙で……獲物の喉笛に……肉をむさぼる獣……」カリカリカリ
虎「いかがでしょう……?」
編集者「どれどれ……」
虎「……」ゴクリ
編集者「おおっ、これいいですよ! どれも野性味にあふれていて、素晴らしい詩だ!」
虎「ホントですか!」
編集者「さっそく出版して売り出しましょう!」
妹(お兄ちゃんの詩集は大ヒットした!)
客A「こんな獰猛なポエム見たことない! 斬新すぎる!」
客B「読んでるだけで、血が沸き立ちますよ!」
客C「これを虎が書いたなんて信じられない!」
妹(だけど――)
虎「――違う!」
虎「違うんだ!」
妹「お兄ちゃん……」
虎「こんなのは俺が書きたかった詩じゃなぁい!」ビリビリッ
虎「俺はもっと……もっと! 人間時代の俺はもっと……!」
虎「うわあああああああああああ!!!」ダッ
妹「お兄ちゃん!」
妹「お兄ちゃん!」
虎「うわあああああん!」グルグルグル
虎「うわああああああああああん!!」グルグルグル
虎「うわああああああああああああああああん!!!」グルグルグル
妹「お兄ちゃんがグルグル回り始めた……」
妹「あ……!」
妹「お兄ちゃん!」
虎「ん?」
妹「お兄ちゃんの一部が……バターになってる!」
虎「あ、ホントだ! 回りすぎて溶けちゃったのか」ドロ…
妹「いい匂い……」
妹「ちょっとなめてみてもいい?」ペロッ
虎「大丈夫かよ、こんなのなめて」
妹「うんま!!!」
虎「!」
妹「このバター、うんま!」
虎「マジかよ」
妹「このバター、もっと出せる?」
虎「ああ、なんとなくコツは掴んだからな」
虎「よーし、自分が全部バターにならない程度にやってみる!」グルグルグル
妹(このバターがあれば……!)
妹「当店の新メニュー、あま~いパンケーキをお持ちしました!」
女性客「甘くておいし~! 頬がとろけちゃう!」
男性客「一口ごとに幸せな気分になるよ」
虎(俺はとろけるような甘い詩を書いて、みんなを幸せにしたかったけど……)
虎(妹のおかげで少し夢が叶ったかな)
おわり