私はベンチに座り、空港ロビーを行き交う人々を眺めていた。
人と荷物の集まる場所である空港。
そして、ホリディシーズン真っ盛りの今。
ロビーを行き交う人の数も普段の何割か増しのように見える。
でもだからと言って、ただ全体の雰囲気がせかせかした余裕の無いものになっているかと言うとそれも違っている。
例えば、今、私の目の前を通り過ぎて言った家族。
こどもが両親の手を引いて、一歩でも速く飛行機に乗りたいと言う感じで飛び跳ねている。
両親も子どもが他の利用客の迷惑にならないようにと言う節度を感じさせるはしゃぎ方をしていたので、それを叱り付ける事もせず、逆に合わせる様にしていて。
こどもも、そして両親もこれからの楽しい休暇に心を躍らせているに違いない。
その幸福を絵に描いたような家族の様子を見て微笑まないでいられる人と言うのは、そうはいないと思う。
だから、私もそれを見て微笑むの。
元スレ
紬「ね、私を連れ出して?それで一緒に踊るの」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1308926080/
紬「ね、私の休日はどうなると思う?」
旧知の人に会うと言うイベントをこれから迎える私の心臓は緊張のためか、いつもより少しばかり速い鼓動を刻んでいた。
私が選択した異国の地で暮らすと言う人生は、当然旧知の人に会うと言う機会を少なくしているとこ
ろがあって、今回だって相手の方が来てくれると言う事でなければ、こう言う流れになっていない。
紬「もう、そろそろね…」
インフォメーションボードは、彼女の搭乗している飛行機の到着を知らせていた。
?「やっほー、ムギちゃーん」
来た!
私は思わずベンチから立ち上がって、声のした方を見る。
ああ、会うのは久々だけど、あの頃と全然変わっていないように見える。
あの頃学校で見ていた姿と違って、休日なのでやっぱり少しくだけた格好をしているけれど。
・・・
・・・
紬「先生、お久し振りです」
さわ子「ムギちゃんも久し振り…」
先生は少し目を細める。
紬「ん、何です…?」
先生はいたずらっぽい笑みを浮かべて、私の疑問に答える。
さわ子「いや、あまりのオーラに圧倒されてました」
先生…。
さわ子「あの頃も綺麗な娘だと思ってたけど…、ちょっと今からガン見するわね?」
紬「先生…、止めて下さい…、ちょっと恥ずかしいですよ…」
さわ子「うふふ、良いじゃないのぉ、久し振りなんだし」
先生は、私を頭頂部からつま先まで、観察するように見る。
さわ子「ふーむ、ホント、感心する程隙が無いわね…。着てるものもそうだし、パーフェクトって感じで、ねー?」
紬「せ、先生…、ひゃっ、ちょっと、そんなとこ…、触られたら…」
さわ子「あの頃はちょっと、ぽっちゃりしてたし、正直澪ちゃんほどでは無いと思ってたけど、ほら
ここらへんもすっきりして…、うーむ、これほどの逸材とは思わなかったなー」
それがあの頃からの、先生得意の冗談だって言うのは分かったけど、私は一応の抗議を試みる。
紬「あ、あの…、先生…」
先生は、私の言葉を遮るように目の前にピッと指を立てる。
さわ子「私とムギちゃんはもう先生と生徒じゃないわ」
紬「じゃ、じゃあ、なんでしょう…」
さわ子「友達?」
友達…、それはとても魅惑的な響き。
紬「え、ええ、そうです!もう、先生と私は友達です!ね!」
さわ子「だから、これからは、先生ではなく、あの頃のりっちゃんや唯ちゃんみたく、さわちゃんと呼ぶこと」
さわちゃん…。
さわ子先生をちゃん付け…。
素敵!
私はドキドキしながら、その言葉を初めて発音する。
紬「さわちゃん…」
さわ子「なぁに、ムギちゃん」
紬「さわちゃん」
さわ子「何?」
紬「さわちゃん!!」
ああ、なんと言うこの高揚感。
だが、一言発する毎に上がっていく私とは逆に、さわちゃんのテンションがどんどんと下がっている事に気付く。
紬「さわ…、ちゃん…?」
さわ子「ごめん、この年でさわちゃんはきつかったかも…。ムギちゃんももうあの頃の私と同じぐらいになってるんだし…、でも私なんか未だに一人身だし…」
えっと…。
あ、さわちゃんが…、萎んじゃう…、ちっちゃく…。
さわ子「さわちゃんは無し。さわ子でお願い」
紬「さわ子さん…」
さわ子「うん…、そうね、それが良いかな」
紬「さわ子さん」
さわ子「はい、ストップ」
あ、これ、さわ子さんの「突っ込み」よね。
紬「はい!」
さわ子さんは、少し怪訝な顔で私を見る。
ふふ、私「突っ込み」されるのが夢だったの~って?
・・・
さわ子「凄い車!私なんかまだちっちゃいのに乗ってるのに!」
さわ子さんは駐車場に止められた私の車を見るなり、さっきまでのロウなテンションはどこへと言う
感じで、興奮を隠さない。
私の車は父が就職祝いにと、プレゼントしてくれたものだった。
紬「自分のお金で買ったものじゃないですし…」
さわ子「だって、アストンよ!ボンドカーじゃない!」
あまり大袈裟な驚き方をされて、私は反応に困ってしまう。
そんな私の様子を察してか、さわ子さんはクスリと笑うと、私の肩に手をおく。
えっと…、わたし、そんなに困ったような顔してたました?
さわ子「少し羨んで見ただけだから」
紬「いや、それだと、やっぱり…」
さわ子「ふふ、冗談よ。じゃ、お願いね、ムギちゃん」
紬「わかりました」
さわ子「スピード出しても良いわよ」
紬「あら、私はいつでも安全運転主義ですよ?」
さわ子「でも、こんな車乗ってると?」
うふふ、さわ子さんはやっぱり一枚上手と言う感じ。
・・・
さわ子「凄い加速」
紬「予測してたの違います?」
さわ子「う、うん」
さわ子さんがあまりに驚いたようだったので、私は少しアクセルを緩める。
さわ子「免停は?」
紬「幸いな事になった事が無いです」
さわ子「そう、それは良かったわ」
さわ子さんは少し疑うような様子を見せながらも、納得した様子を見せ、それから大きなあくびをする。
さわ子「少し、寝ていい?」
紬「ええ、このペースで飛ばしても二時間は掛かりますから」
さわ子「信じてるわ、ムギちゃん」
紬「はい、任されました」
さわ子さんはそう言うと、シートを倒して目を閉じたようだった。
私はさわ子さんが持ち込んだ昔の空気に、何となく微笑みを浮かべてしまう。
・・・
前を走るトラックが近づく。
紬「前がクリアじゃないと、ちょっとね…」
私は車線変更し、そして一気にパスしようと、シフトダウンのためにパドルに手を掛ける。
だが、視界の隅にさわ子さんの寝顔を捉え、思いとどまる。
紬「起こしちゃう…、かな…」
隣に人を乗せている時ぐらいは、ちょっとばかりのんびり運転をしても良いかも知れないし…。
さわ子「ね、ムギちゃん?」
紬「起こしちゃいました?」
さわ子「ううん、きちんと寝れてた訳でもないから」
さわ子さんは、目を閉じたまま言葉を続ける。
さわ子「ね、ムギちゃんはこっちに来て、どれぐらいになる?」
紬「そうですね…、もう…、五年ぐらいですか?」
さわ子「そう…」
さわ子さんはそれっきり、口をつぐむ。
私は気付く。
さわ子さんが、自分の疑問を私にぶつけるかどうかを迷っている事に。
私は、となりのさわ子さんのことが気になりつつも、一段シフトダウンしてギアを踏み込む。
その瞬間、Gが私達を覆い、そしてフロントガラスから見える視界は少し狭くなる。
・・・
紬「着きましたよ、さわ子さん」
さわ子さんは長いフライトの影響かそれなりに深く眠っていたようで、まだきちんと覚醒し切れてはいないようだった。
さわ子「あ、うん…」
さわ子さんは起き抜けの緩慢な動きで窓の外を見る。
さわ子「…、ねえ、ムギちゃん?」
紬「はい…?」
私は、さわ子さんが先ほどのしようとしていたであろう質問を今ここでするのか、と身構える。
さわ子「意外と普通の家ねえ?」
紬「それは…、って、はい?」
さわ子「えー、だってだって、車はこんなんだし、実家はあんなんだし、別荘もあんなんだし、それ
に、こんな片田舎だもの。それで、ムギちゃんの家って聞いたら、もっと凄い、古城!みたいなの想像するもんじゃない?」
私は思わず噴出してしまう。
紬「ふ、ふはっ、ふふ…、うふふ」
さわ子さんは私の反応に少しだけ拗ねたような顔をする。
さわ子「え、え、普通の反応でしょ?!」
・・・
さわ子さんはティータイムスタンドを見て、はしゃいだ様子を見せている。
さわ子「これよねー、本場って感じで、この二段のスタンドがねぇ…、あー、テンション上がっちゃうなぁ、スコーンも良い香りだし…、これ焼き立てよね?」
紬「はい。生地は作りおきのものですけど」
さわ子「じゃ、頂きまぁす」
さわ子さんはスコーンに手を伸ばし、二つに千切るとハンガリー直輸入のアカシア蜂蜜をたっぷり塗って、口に放り込む。
さわ子「美味しい~。もう、最高…」
紬「ふふ、ありがとうございます」
さわ子「くるみ入りなのが、また良いのよねぇ」
紬「ええ、プレーンだと少し食べでが無いですし、ドライフルーツや栗だと蜂蜜やシロップを塗ることを前提にするとお菓子っぽくなり過ぎちゃうかな、って」
さわ子さんは、感心したような視線を投げかけてくる。
さわ子「ムギちゃん」
紬「はい、何でしょう?」
さわ子「私のところにお嫁に来ない?」
上手い返しが出て来なくて私は少し口ごもる。
紬「えっと、いや、その…」
さわ子さんは、そんな私の様子をおかしそうに見ていたかと思うと、クスリと笑う。
さわ子「冗談よ。ほんの冗談じゃない」
紬「そ、そうですよね」
そうだ、きっとほんの冗談。
そこには何の意味もあってはならない。
さわ子さんは、私がそんな風に考えているのを知ってか知らずか、スコーンを三つほど、ビックリするようなスピードで平らげる。
さわ子「あー、美味しかったわ。それに紅茶もね。久し振りに入れて貰ったムギちゃんの紅茶、やっぱり最高だったなぁ」
紬「お粗末さまでした」
さわ子「お風呂借りて良いかしら。安い南周りの飛行機使ったから、ほぼ二日お風呂に入れて無い感じなのよ」
紬「あ、はい、一階の突き当たりのとこです」
さわ子さんは、椅子に掛けていたシアサッカーのサマージャケットを抱えると、鼻歌を歌いながら部屋を出て行こうとする。
さわ子さんのそんな様子を微笑ましく眺めながら、テーブルの片付けをしようとした私に、さわ子さんは足を止めて声を掛けてくる。
さわ子「ねえ、ムギちゃん?」
紬「はい…、何で…、しょう…?」
さわ子「ここには一人で?」
紬「ええ、今は」
さわ子「そっか…」
私は変な想像をされると嫌なので、必死で言い訳をしてしまう。
紬「ち、違いますよ?!ルームシェアをしてたんです」
さわ子さんは、ただニコッと笑う。
さわ子「え、私何も言って無いし、何も思ってないけど?」
それにしてはちょっとその表情が怖すぎますけど?
そう、ルームシェアをしていただけですもの。
さわ子さんは、フッとと真顔に戻って言葉を続ける。
さわ子「ねえ、この部屋って…」
紬「はい」
さわ子「ちょうど、あの部室と同じぐらいの部屋の広さね。お茶会をするにも丁度良い広さ」
私が言葉に詰まっていると、さわ子さんはちょっと不思議な笑いを見せて部屋を出て行く。
だから私、さわ子さんの出て行った扉にベロを出してやるの、ベーって。
・・・
私の同性愛者としての人生は、今から遡ること十年ほど前、周囲のストレートな人間達が異性に興味を持つのと同じ頃にスタートしている。
性に目覚めたばかりの同性愛の少女に取って女子校の生活と言うのは、途轍もなく魅惑的な社会だった。
男性の目の無い空間における、女の子の振る舞いと言うのは非常に奔放なものになる。
そう言う振る舞いを洗練されていないと感じる人もいるのだろうが、私にとっては今でもそのような瞬間こそが生命力を感じさせ、その娘達が一番魅力的に感じさせるものだと思っている。
私は既に、自分のセクシャリティを自覚していて、かつその欲求は強くはっきりとしたものだったので、自分がその欲求を満たすためにはどうすれば良いかと言う事を他人から教えて貰う必要は無かった。
確か、それは新緑の季節、五月の放課後の事だったと記憶している。
私は頭の中で何度も描いたファンタジーを現実のものをとすべく、行動を開始した。
紬「ねえ、○○さん」
同級生「琴吹さん?」
紬「ね、この後って何か用事あるかしら」
同「いえ、何も無いですけど」
紬「そう…」
同「えっと…」
紬「ねえ、聞きたい事があるの。聞いても良いかしら」
同「えっと、なんでしょう…、か…?」
紬「○○さんは、お付き合いしてる男性の方って…、いるの…かしら…?」
同「い、い、いないですよ!?な、な…、急にそんなこと…」
紬「そう…。○○さんてクラスの周りの方より大人びて見えたから…、その、ごめんなさいね」
同「い、いえ、構わないです。あ、あの…」
紬「何かしら?」
同「琴吹さんもそんな事に興味持つんですね…?」
紬「あら、意外?」
同「ええ」
そうして、その娘はクスリと笑う。
どうやら、私はその娘の心の内側へ侵入することに成功したようだった。
その娘は図書部に属していて、あまり恋愛などに積極的な娘には見えなかったけれども、その娘が休み時間でさえ惜しいと言う様子で開いていたのは、古典的で現在はその価値の何割かを失っているし、表面的にはそう見えないかも知れないが、紛れも無く『恋愛小説』ばかりだった。
私のその一歩は、その娘がそう言う事に興味を持っていて、尚且つそこにファンタジーを抱いている事を事前に知った上で慎重に選ばれたものだった。
そして、私はその娘と次第に打ち解けるようになり、その最初のステップから二ヶ月程経った時、単刀直入にキスしないか、と誘いを掛けた。
彼女がどのような人間であるかをある程度リサーチしながら、最初のキスまで二ヶ月を掛けるなどと言うのはその後の私から見れば、馬鹿げた試用期間であると言う他無い。
でも、(もちろん、これも今の私から見ればだが)当時の私は未だ幼く、そう言う場での「クィア」としての口説き方などと言うものを良く知らなかったのだ。
私が知っていたのは、自分自身がその時何を欲しているかと言う事だけであり、それを同性相手にしたがっていると言う事だけであった。
だから、私は単刀直入に、直裁的に、直感に従ってありのままの言葉で尋ねた。
紬「ねえ、○○さん、変なこと言っても良いかしら」
同「何、琴吹さん?」
紬「私○○さんとキスしたくなってしまったの…」
同「?!」
彼女はその拙い誘いに乗って、私とキスをする。
それは私の人生の中で最も甘美な経験の一つだったと思う。
・・・
私達のキスはおおよそ三分間にも及び、その間私達は抱き合い、制服越しにお互いの体温を感じ合った。
空調の効いた図書室とは言え、西日の差し込む窓際でのその行為は、私達を激しく汗ばませ、そしてその仄かに立ち上る汗の匂いがまた私達をより高ぶらせ、私はすぐに二度目のキスをせがむ事となった。
今でもしばしば考えるのは、もし彼女がその場で違う対応、例えば私を「変態」呼ばわりしたりとか、人を呼んだりとかしていたら、どうなっていたかと言う事だ。
おそらく、二度とそう言う行為を試そうとは思わないか、もしくは、その後何年にも渡って、いや未だにそれを試す事も出来ず悶々とした人生を送ったかもしれない。
そして、今と言う地点から巻き戻して見れば、その方が良かったのかも知れないと思う部分もある。
だが実際には、そのキスとそしてそこから地続きのセッ○スは、マジカルで、それはその魅力を持って、私を一瞬にして虜にしてしまったのだ。
・・・
一般的な話をすれば、自分のセクシャリティを積極的に公表する人と言うのは、今この時代でも尚稀な事だと思う。
それが、セクシャルマイノリティに属するようなものであれば尚更の事で、表面的には無いものとして扱われている。
そして、世間的な風当たりと言う面から考えても、決して暖かなものではない。
だが、こうした私を取り巻く周囲の環境にも関わらず、私は同性愛者としての生活をこれ以上無い程に満喫する事が出来ていた。
中学の時、私がパートナーとした女の子の人数と言うのは、ざっと数えるだけでも、両手の指の数を優に超える。
私はその頃、ストレートな娘がパートナーを手に入れるよりもずっと簡単にそのパートナーを手にしていたのだ。
その理由の一つとして、私が当時通っていたのが、上流階級の子弟ばかりを集めた女子高と言う事にある。
それぐらいの年齢で、かつ同性のみによって構成される社会では、同性相手に擬似的な恋愛感情を持つと言うのは決して珍しい話では無い。
その仕組みに関して説明するならこのような形になると思う。
同年代少女ばかりの狭い社会において、異性間の交流を規制すれば、それはすなわちロールモデル、指導者の不在をも意味し、異性間の恋愛をより困難なものにする。
とは言っても、人の性愛を求める心性と言うのは留められるものでは無く、故にそこでは、女の子同士は互いを共犯者として仕立て上げ、自分たちの中に対象を作り上げ、擬似的な恋愛共同体を稼動させる。
共犯者達は『唯一の活路として、一つの禁断の世界を組織する事を受諾する。そこで生きる事を受諾する』と言う訳だ。
そして、私はその秘密の世界を誰よりも上手に生き抜く術を知っていた。
つまり、学校は私のセクシャリティとそれに付随する欲望をカモフラージュするのにはもってこいの環境で、私はそれを利用して相手を調達し、その性的な欲望を思う存分満足させることが出来たのだ。
・・・
紬「おはようございます、さわ子さん」
さわ子「おはよぉ…」
さわ子さんは、眠そうな目を擦りながら起きて来る。
紬「朝食用意出来てますよ」
さわ子「ありがとぉ…」
私は、さわ子さんが席についたのを見て、ご飯を茶碗に盛り付ける。
さわ子「おお…、この日本から遥か離れた地でふっくらツヤツヤで立ってるお米に出会えようとは…」
紬「ああ、日本からまとめて送って貰ってるんですよ」
さわ子「それにしたってよ?」
さわ子さんがあまりに感動して見せるので、私は少し恥ずかしくなってしまう。
さわ子「嫁に来ない?」
また、ジョークですか?
紬「あ、えっと…」
さわ子「冗談よ、冗談」
紬「ですよね~?」
さわ子「りっちゃんの真似?」
紬「似てます?」
さわ子「どうかしら?」
ええ、さわ子さんのさっきの問いも昨日と同じようにほんの冗談で、だから私はそれに冗談で返すの。
・・・
さわ子「ムギちゃん、決まってるぅ!」
さわ子さんは、支度を終えた私の格好を見てまた、本気か冗談か分からない大袈裟な賞賛を私に浴びせる。
私もお返しにさわ子さんの格好を褒める。
紬「さわ子さんのガムブーツも良い感じじゃないですか」
さわ子「ふふん、これ別注でスネーク型押しなのよ」
紬「トップスは、えっとヘンプ素材ですか?」
さわ子「そう、一応中綿はプリマロフトなのよ。ちょっと、大袈裟だったかしら。こっちの夜は寒いって聞いてたから」
紬「用意するに越したことないですけど、まあ、本当に寒ければ向こうでも露天の人たちが色々売ってますし、車の中に戻るって手もありますから」
さわ子「お、経験者は語るって感じね」
紬「うふふ、私も最初のフェスに別荘ルックで行ってた頃とは違いますから」
さわ子さんは改めて、私の全身を繁々と眺める。
さわ子「足元はスニーカーかぁ。どっちか迷ったのよねぇ」
紬「そこは機能よりも合わせ重視で、やって見ました」
さわ子「そっか、ムギちゃんパンツはバギーだもんね」
私はちょっと、いたづら心を起こしてお返しする。
紬「さわ子さん、動き辛くないですか?」
さわ子さんは、ふふんと笑って私の反撃をすかして見せる。
さわ子「ムギちゃん綺麗になったけど、まだまだ子どもねぇ」
紬「そうですか?」
さわ子「女のファッションは心意気なのよ。一つのスタイルなのよ。例え少しばかり動き辛くても、お尻がきつくてもスキニーをブーツインして見せる」
紬「なるほど」
さわ子「あんまり、真剣に聞かないで。単にケイト・モスを見て野外フェスはガム・ブーツだって思っただけだし」
私は、さわ子さんに少しだけやり返したくなってもう一回だけ、教えを請うような真剣な表情で言ってやった。
紬「なるほど、女の道の勉強になります…、っぷ」
…、そのつもりだったけど、どうも噴出してしまってその目標は達成出来なかった。
さわ子さんも私の目論見が失敗したのがおかしかったようで、一緒になって笑い出す。
・・・
さわ子「あの車で行くの?下擦っちゃわない?汚れちゃわない?リセールバリューが下がっちゃわない?」
さわ子さんは心配してくれているようだ。
何か余計なところまで。
でも、それに関してはまったく心配がない。
紬「いえ、今回は…」
さわ子「まさか、別の車?!まさかの二台持ち?」
さわ子さんは大袈裟に驚いて見せる。
でも、ガレージを見たらその驚きは消し飛んでしまうに違いない。
私のあのこう言う時専用の「ロックモービル」を見たら。
・・・
さわ子「…、なんて言うか…、随分と…、使い込まれた…」
紬「ええ、ルームメイトが出て行く時に置いて行った車ですから」
さわ子「途中で止まったりしない?」
紬「一応、機関は年二回きっちり見て貰ってますから」
さわ子「買い換える方が安くついたり…」
紬「何か愛着が湧いちゃって…」
さわ子さんは何か探るような目になる。
紬「あ、いや、ルームメイトのことも含めてさわ子さんの期待するような話は何も無いですよ?」
さわ子「ぶー。良いじゃないちょっとばかり勘繰ってみたって」
紬「さわ子さんは全てをそこに繋げようとし過ぎですよ」
さわ子「ムギちゃんも、あと数年したら分かるわよ」
さわ子「今から考えてみたら、あの頃はまだ甘ちゃんよ。ほんのねんねだったのよ」
私は、さわ子さんの遠くを見るような目に負けて、言葉を中断させた。
紬「じゃ、じゃあ、行きましょうか」
さわ子「なによぉ、異国の地で少しぐらい黄昏てみたって良いじゃない」
紬「まあまあ、続きは車の中でお聞きしますから」
私は、さわ子さんを車の助手席に押し込む。
それから運転席側に回り、私がドアを開けようと手を掛けると…、
鍵は閉められていた。
そして、さわ子さんは鼻の頭に皺を寄せてニヤリと笑う。
これが、丸頭の子がでか鼻の女の子に説いて見せた愛と言うものなのかしら?
愛?
さわ子さんが私に?
ほんの冗談。
お互いに冗談を仕掛け合うだけ。
・・・
荒れた農道からのキックバックを押さえ込むために、パワステ無しの重いハンドルと格闘する私に、さわ子さんは少しだけ、ほんの少しだけ心配そうな感じで声を掛けてくる。
さわ子「そう言えば、チケットは大丈夫なの?」
紬「さわ子さんともあろう人が、愚問ですよ?」
さわ子「あれ、私何か変な事言った?もしかして、私が用意するって話だった?」
紬「私、こっちに来てフェスに参加料なんか払ったことないんです」
さわ子さんは私の言葉に含まれた真意を探ろうと、私の横顔を見つめる。
紬「別に父の会社が主催企業に名前を連ねているとかそう言う事じゃないですよ?」
さわ子さんは、少し悩むような表情を作る。
紬「こう言うのはですね…」
さわ子「こう言うのは?」
紬「塀を乗り越えて入っちゃえば良いんです」
さわ子さんは小鼻を一瞬膨らませて…、少し興奮したような声を上げる。
さわ子「ああ…」
紬「それがロックンロールの理想ってものじゃありません?」
・・・
私は最初の成功以後、私がキュートだと感じる生徒に片っ端から声を掛けて回った。
勿論、全員が全員私の誘いを受けてくれる訳では無かったが、こう言うものは何と言うか理論より経験なので、だから片っ端から声を掛けて回ると言う私の判断は結果的に正しくて、つまり私は短期間のうちに上手に誘うコツのようなものを身に付けてしまっていた。
私が話しかけ、探りを入れる。そこで相手の反応から、「誘い」に乗って来るかを瞬時に判別する、そんな能力をだ。
先ほど述べたように、彼女らもまた私と同様に「飢えて」いたので、彼女らはかなりの高い確率で私のその「誘い」に喰い付いて来た。
私はその体験がいかに気持ち良かったかと言う事、男の子とのそれのように次の日まで続くような「変な感じ」を残さない事、そして「肉体的には何ら汚れる事が無い」と言う決め文句をオブラートに包みながらも事細かに語って見せた。
そして、そこに相手が拒否感を示さなければ、続けて女の子がどうすれば気持ち良くなるかを知り抜いている相手にされる事がいかに最高かと言う事を説明した。
紬「ねえ、貴女はそんな経験ってした事あるかしら?」
後輩「無いです…」
後輩は私の表情を伺う。
私を見上げるその瞳は、私からの次の一手への期待に潤んでいる。
つまり、分かりやすく言うと私の目論見は成功したのだ。
こうして私は同性による不特定多数との性交と言う独自ブランドの開拓者として、その学校を開拓し続けた。
だが結局、このブランドが私に内部進学を断念させ、桜が丘女子高等学校と言う偏差値レベルから言ったら、私が通っていた学園の高等部からは少し劣る高校へ進学させる事となった。
これに関して説明するなら、勿論当時の年齢的なものを考慮に入れたとしても、私の無思慮に過ぎる快楽主義は周囲の人間関係を解き様が無いほどに複雑に絡み合わせてしまったので、そこからの逃亡を選択せざるを得なくなったのと言う事だろうか。
・・・
私とさわ子さんは車を田舎道の脇に止めると、生垣を乗り越え、鳴り響く音を頼りに一直線に張られた金網の方へ向かう。
何百エーカーと言う会場の周囲を完全に覆う事の出来る塀や金網なんてものは存在しない。
どこかに、途切れる箇所が出来てしまうし、そうでなくても…。
さわ子「あ、あったわよ!ムギちゃーん!」
金網の周囲を探っていたさわ子さんが私の名を呼ぶ。
そう、別に態々金網が途切れる箇所を探さなくても、誰かが金網に穴を開ける。
それは、愛と音楽と自由への道。
そうやって、私達は突破して行く。
・・・
桜が丘高校に入学した私は、また同じ事を繰り返す訳にもいかず、その上、以前の学校とは大きく違う環境であったため、どう振舞ったら良いかも分からず、右往左往して結局何も出来ない日々を過ごす事となった。
父母にとっては私の桜が丘への進学は大いに不本意であったと思われるので、私がそこで他の学生の色に染まらないように、同級生達と距離を取る生活を送るのは、望ましいものであったのだと思う。
お目付け役の斉藤の方は、以前のようにやたらとハイテンションでリムジンに乗り込む私を諌める必要が無い事を、どうにも寂しがっているように見えた。
周囲に溶け込めない状況。
そこから来る憂鬱さを家に持ち帰るのも、父母の意図通りになってしまっているように思えて何だか癪にさわったし、斉藤の寂しそうな表情を見続けるのもあまり気分が良いものでは無かった。
紬「そう言えば、積極的だったのって、音楽系の部活の子が多かったのよね…」
斉藤「お嬢様?」
紬「何でも無い」
斉藤「そうでございますか」
紬「耳聡い」
斉藤「何かおっしゃりましたか」
紬「いーえ、何も」
斉藤「そうでございますか」
紬「そう言えば…」
斉藤「はい、なんでしょう」
紬「部活を始めようかと考えているんだけど…」
斉藤「…」
紬「何か問題あるかしら」
斉藤「いえ、良いアイデアかと思います」
紬「音楽系の部活が良いと思うんだけど、何が良いかしら」
斉藤「私には、何とも」
紬「つまらないの」
斉藤「申し訳ありません…」
紬「そうね…、!」
私は、その時ふいに閃いたのだった。
私の弾くピアノに合わせて女の子が歌う姿と言うのは、中々に官能的な事なのでは無いかと。
背をしゃんと伸ばして、お腹に力を入れて発声する女の子たち。
とても美しい光景。
紬「そうだ、合唱部が良いわ、そう思うの」
斉藤「ええ、良い考えだと思います」
紬「そうよ、そうよね」
・・・
結論から話せば、私は合唱部には入らなかった。
と言うのも、何故だか分からないけど、間違って入ってしまった音楽室を占拠していた二人組から軽音部と言うものに誘われたてしまったからだ。
少し迷ったけども、それまでの私にまったく縁の無かったロックンロールと言うものに興味を惹かれて、私はその誘いを受け入れた。
勿論それだけでは無くて、そう、そこに何がしかの性愛が無かったなどとは間違っても言えない。
つまり、りっちゃんも澪ちゃんもすっごく素敵な女の子だった。
この娘たちと仲良くなりたい。
まず、それがあった。
でも、それはそれまでの感覚とはちょっと違っている。
ただ、その場で身体を重ねあわせるだけでなく、一生その関係性の中で生きていきたいとまで思ったのだ。
だから、私は二人の誘いを受けいれて軽音部に入部した。
思うに私は、その日恐らく生まれて初めて「友人」と言う人間関係を得たと言って良い。
・・・
たとえ同性愛者であっても、家族や友人を持ち何らかの共同体に属して生きると言う事は当然欲するところである。
中学時代の私は、小学生より持ち上がりで当たり前のようにあったその周囲の環境のためか、そう考えた事が無かった。
だが、高校生になり、誰も知り合いのいない環境に放り込まれたことで、そこで初めて私はその重要性を実感する事となり、そして共同体に属していないと言う孤独感が私の足をあの音楽室へ向けさせた。
中学時代の私ときたら、あのような環境が永続的に続くと思っていた。
あのような環境とは、ストレートの女の子をハンターである私が、生物学的頂点として一方的に狩る狩猟場としての人間関係と言う事だ。
今にして思えば、それはその頃私が自覚していなかった孤独や疎外感の裏返しだったのだと思うが、私は彼女らを獲物としてしか見ていなかった。
単なる性欲の捌け口でしかなかった。
友人では無い。恋人でも無い。
そんな同級生達に遠慮容赦は必要ない。
今にして見れば、私はりっちゃんと澪ちゃんと出会って初めて自分の心の住処を見出す事が出来たのだと思う。
・・・
そして、軽音部が人数の不足から公式の部活として未だ認定されず、日々何となくの勧誘などを続ける中、あの日がやって来た。
それまでの人生をひっくり返すような衝撃を私に与えたあの日。
これまでの人生でも、あれを超える衝撃を受けた事はない。
それはある放課後の事だった。
りっちゃんが一人の女の子の手を引いて音楽室に入って来る。
キッズモデル的な肢体、振舞い。
私が今まで知らなかった子。
私は魅了された。
一瞬で恋に落ちた。
初めての恋。
私は自分の恋のために、りっちゃんと澪ちゃんの二人は廃部を免れるために唯ちゃんを引き止めた。
そこからが私に取っての特別な日々。
ロックンロールと言う不気味な音楽は私を縛り付けていた上流階級的な抑圧から解放してくれた。
そして友人達は、私に暖かさをくれた。
つまり、それは音楽と自由(この二つは不可分で)、そして愛をあの音楽室が与えてくれたと言う事。
結局、高校三年間で唯ちゃんへの愛の告白どころか、皆に自分のセクシャリティをカミングアウトする事も出来なかった。
そこは、セクシャリティと言う点は除外せざるを得ないけれど、私が初めて手に入れた孤独や疎外感を感じず、生きられる場所だった。
それを万が一にでも、失うような選択を取れようはずも無かった。
にも関わらず、いや、だからこそ素晴らしい掛け替えの無い日々だった事には変わりはない。
けれど、人は楽園をいつか追放される。
またしても、周囲の環境が永続的なものであると言う私の認識が甘ったれたものであると言う事を思い知らされる事となったのだ。
一生の関係だと誓い合っていた私達は当然揃って大学に入学する事となった。
ある種閉ざされた時空間である地方女子高とは違う開かれた社会。
開かれた窓から様々な風が流れ込んでくる。
不穏な風も流れ込んでくる。
飲酒、喫煙、合コン…etc。
まずは、りっちゃんが対バンでやったライブをきっかけに、共演バンドの中の一人と付き合いだした。
私は少しだけショックを受けたのを覚えている。
恐らく、りっちゃんと澪ちゃんが付き合いだすのではないか、いや、そうなったら良いな、と微かな希望を抱いていたからだと思う。
それから、澪ちゃんが合コンで知り合った他大学の男の子と付き合いだした。
酷い言い方をするようだけど、相手は人畜無害であることだけが売りのような男の子だった。
この時は、りっちゃんの時ほどはショックを受けなかった。
私はりっちゃんと澪ちゃんをセットで捉えていたし、たとえ澪ちゃんが世の99%の男の子に幻滅しているようなタイプでも、りっちゃんが押し切るような形でなければ二人がそう言う形になるとは思えなかったからだ。
となると、りっちゃんが男の子と付き合いだした以上は、澪ちゃんが随分な妥協をしたとしても、男の子からの誘いを受け入れるのは時間の問題で、りっちゃんのある意味青天の霹靂とも言える報告の時とは違って、澪ちゃんに関しては覚悟を固める時間があったのだ。
・・・
梓ちゃんが一年遅れてN女子大に入って来て、五人で飲んでいた時の話だったと思う。
律「なあ、ちょっと重要な話があるんだけど」
澪「なんだよ、律、そんな真剣な顔して」
唯「おお、りっちゃんが真剣な表情!受験の時以来だね」
梓「なんですか、どうせ下らない事なんだから勿体振らないで、さっさと話して下さいよ」
律「中野…、お前とはその内きっちり話を付けなきゃならないようだな…」
梓「はいはい、分かりましたから、さっさと話してくださいよ、その重要な話ってのを」
律「あのな…」
私は、酔っている振りをして、返事をしなかった事を良く覚えている。
澪「ん、どうした?」
唯「りっちゃん?」
律「昨日、アイツと一緒に出かけたって言ったじゃん?」
唯「アイツって彼氏さん?」
律「…」
りっちゃんは皆が聞き取れないような小声で何か呟く。
でも、私には聞き取れた。
澪「律?」
梓「律先輩?」
唯「りっちゃん?」
りっちゃんは、最初より少しだけ大きな声で報告をする。
律「やった…」
あーあ…。
澪「り、り、り、りりり…」
澪ちゃんは、りっちゃんの一言が何を示しているか分かって、真っ赤になっている。
唯「へ?何何?」
唯ちゃんは、分かって無いみたい。
梓「もう…、律先輩は…」
梓ちゃんも分かってて、恥ずかしいのだろうけど、それを表に出さずに呆れたような表情を作っている。
そう、人の性愛を求める心性を留める事は出来ない。
そのりっちゃんの告白に影響されたのか、焦らされたのか分からないけど、唯ちゃんがその一月後に男の子と付き合いだした。
その失恋は、私に全てが終わってしまったかのように思わせた。
私は年老いた自分が、小雨そぼ降る中、レインコートの襟を立て暗い夜道を一人歩いている姿を想像する。
私に声掛けてくれる人は誰もいない。
私を照らす灯りも無い。
それが私の人生の末路のように思えた。
・・・
Boooom
Boooooooom
何十キロ離れたところまでだって届くような低音が轟く。
田園の中で踊り狂う数万の人々。
煽る必要も無いほど上がりきった観客。
さわ子さんは、鬨の声を上げてそこに突入していく。
私もそれに負けじと続く。
さわ子「あはは、ムギちゃんも来た!」
紬「ええ、ロックンロールタイムですから!」
人々の足は泥を跳ね上げ、私のパンツの裾は早くも泥塗れ。
パンツインを選択したさわ子さんの選択は正し過ぎるぐらい正しいかった。
・・・
どのような形で両親や皆に留学を言い出したのかは良く覚えていない。
その理由は随分適当にでっち上げたものだったと思う。
両親は海外に出るのは良い事だ、と諸手を上げての賛成。
私の桜が丘への進学さえ不満だった両親の事だ。
よりステータスの高い海外留学は望むところだったのだろう。
皆はどうだったろうか。
りっちゃんと梓ちゃんは戸惑いつつも応援してくれて、澪ちゃんは酷く混乱していたように思う。
唯ちゃんは、涙を流して引き止めてくれて、その事自体は嬉しかったけど、でも、唯ちゃんへの失恋が原因なのだから、少しだけ苛ついたのも事実だ。
紬「私はもっと悲しかったわ、唯ちゃんが…、唯ちゃんさえ私の傍にいてくれたら、こんな事言い出さなかったのに!」と言う風に。
つまり、私が取った行動は、失恋と言う人の世界観を大きく揺るがせる出来事と対面した時に多くの人が取るありがちな行動でしかなかった。
所謂、自棄になると言うやつ。
・・・
私の旅立ちの日。
皆が空港まで見送りに来てくれた事を覚えている。
私はまずりっちゃんを抱きしめた。
紬「りっちゃん、ありがとう。りっちゃんが私を新しい世界に連れ出して、自由と愛を与えてくれた。いくら感謝してもし足りないぐらい」
律「あ、うん…。そ、そんな風に改めて言われると、照れるな…」
りっちゃんは、少しだけ照れたように、でもいつもみたいに照れ隠しに大袈裟にもしない。
ただ、悲しげな表情のまま、頬を赤らめただけ。
それから、澪ちゃんに。
紬「澪ちゃんはりっちゃんと仲良くね。やっぱり二人がHTTの両輪だと思うの」
澪「ああ、分かってる」
澪ちゃんは、力強く頷いたわ。
梓ちゃんは小さくてとても抱き心地が良かった。
紬「梓ちゃん」
梓「は、ひゃい!」
紬「そんな風に緊張しないで」
梓「き、緊張なんてしてないです」
紬「うふふ…。一回だけあずにゃんって呼んじゃおうかな」
梓「え?!」
紬「冗談よ」
梓「そ、その…」
紬「ん、なあに?」
梓「…、また…、戻ってきますよね…?」
…。
紬「…、ええ、勿論よ…」
梓ちゃんは私が返答に少し間を開けた事に凄く不安そうな顔になった。
まだ、将来的にどうしようなんて具体的に決めていなかったけど、ただ梓ちゃんの不安を解消させるためだけに私は梓ちゃんの望む言葉を言ってあげたの。
そして、唯ちゃんの方へ向き直る。
私の特別な人。
もう、唯ちゃんの目じりには涙が浮かんでいた。
唯ちゃんの方から私に抱きついてくる。
私は唯ちゃんの耳元に唇を寄せる。
そして…。
・・・
さわ子さんは助手席で寝袋に入って、既におだやかな寝息を立てている。
紬「ふふ、ここだって、結構大きな音してるのにね」
私達は会場の周囲で開かれている無数の小さなパーティに移動して来ていた。
昼間から大量にアルコールを摂取して踊りまくったさわ子さんは、夜も早い内に睡魔に取り付かれてしまったようで、それだったらと言う訳で車に戻り、でも、少しでも音楽を楽しもうと、私達は今このようにチルスペースのサウンドシステムの近くに車を止めていた。
サウンドシステムのスピーカーからは柔らかいソウルミュージックが流れる。
私は外の空気を少しだけ吸いたくなって、助手席にさわ子さんを残したまま、車から降りる。
私が車を降りたところを見計らったように、レイブグル(導師)のような人がフレンドリーな様子で近づいて来る。
…。
あはは。
・・・
どこにいたって私は食物連鎖の頂点に立つわ。
だから、大事なもの全てを、そして自分の心さえも投げ出してこの国にやって来た時、私はもう一度自分の独自ブランドを復活させることに決めた。
今度は自分の全てを動員しての総力戦。
向こうの人から見ればエキゾチックな外見も、長期の私費留学を可能にする財力も、全てを一つの目的に注ぎ込む。
相手も私をただ一時のパートナーとしてしか見ないのだから、私も彼女らを尊重しない。
それが私の生き方なのだと意気込んでいた。
だが、私も大人になっていたし、以前と違い周りもベテランばかりだったので、次第にそこまで気を張る必要が無いのだと言う事が分かってくる。
ただ、シングルの同性愛者として、そう言うグループに入って、自分とマッチする相手を探せば良いだけ。
さわ子さんが勘ぐったルームシェアをしていた相手と言うのも、この頃付き合っていた内の一人で、いまや私のものとなった、オンボロなロックモービルもその娘が持ち込んだものなのだ。
あの頃、私は失恋の痛手から回復して、全てを手に入れたと思っていた。
愛情もあり、彼女らとうろついたパーティやフェスが音楽を与えてくれてもいた。
そして、一番大事な事だけど「多幸感」もあった。
それは、指先が触れ合うだけで、幸福が全身を駆け巡るようなあの感覚を与えてくれる大切なもの。
それらが、私を満たしてくれると思った。
皆ニコニコしてハグ。
キュートな女の子達もいっぱい。
アーリーティーンエイジャーの娘達なんかもやって来て私にキスしてくれる。
私もキスを返す。
男の子達にもハグされる。
でも、それも赦しちゃう。
下心が無いってのが分かるから。
偽りのベールは剥がされる。
そこは掛け値無しに「真実の世界」だった。
皆踊り狂っていた。
狂っていた。
ハッピーなクラウド達は飛び跳ねて、そして自分達の服が汚れるのも気にせず転げまわる。
物憂げな顔して隅から眺めている娘なんか一人もいない。
トイレの中ではもっと酷い事になっている娘がいる可能性はあったけど、私はそんな事は気にも留めなかった。
そこにいる皆を愛していて、そこにいる皆が私を愛していてくれた。
「うわっ…、来てるチョー来てる」
「ねえ、最近ずっとハッピーじゃなかったんだけど、やっと笑えるね」
「クラクラする…、あ、眩しい!」
「ホント最高ー、ドゥードゥルドゥードゥル」
「飛ぶぞ飛ぶぞ飛ぶぞぉ!!」
「鼻の穴焼けそぅ…」
「チョー、ヤバイ!」
週末ごとにあの家に集まる。
決めてから出かける事もあったし、あの庭でやった事もあった。
ともかく、最高だったと思う。
音楽室と同じぐらいのサイズのあの部屋が、私が置き去りにして失くしてしまった部分に丁度嵌まるような形で、私を満たしてくれているのだと思えた。
つまり、あの家が私の全てになっていた。
そんな中、私はその内の一人の女の子に絞って本格的に付き合い始めた。
彼女のことは「私達の場所」で何度か見かけたことがあると言うぐらいだったけど、良くある話で、何時の間にかちょっとした知り合い気分だった。
チルスペースで、二人して並んで巻紙を巻いたり、ジョークを言って笑いあったり。
ある日、家に帰っても、身体から「多幸感」が抜け切らないままで、ベッドに入っても眠れなかった時、彼女の事が頭から離れなくなって、だから、私は起き上がって彼女に電話をしたのだ。
正式にパートナーにならないかって。
彼女は私を思い浮かべてオ○ニーするのにも飽きてたところなのと、笑いながらちょっと下品な事を言って、私の申し出を受け入れてくれた。
まだ、残っていたアレの影響もあって、その時の私と来たら、天にも昇る様な気分だった事を良く覚えている。
だけど、その頃にはもう全てがシンプルでは無くなってしまっていた。
シーンは殉教者を要求し、その数はどんどんと増える時期を迎えていたの。
「トイレでやんのが最高なのよねぇ」
「粗いまんまでやると酷いよ?」
「あはは、粘膜駄目になり過ぎてんじゃないの?」
「スピードがひっついた鼻糞ほじってる子見ちゃった。随分な間抜け顔でさぁ…」
「目が霞んで良く見えないんだけど、ここんとこに何て書いてあんの?」
「アミル、アミル回してよ」
「ぶちのめされた時用のクサ回してよ、必要でしょ?」
・・・
ハイになっている私は、車のルーフに登る。
紬「星、綺麗だ…」
日本まで続いている空。
その高揚した気分のまま、DJのかける曲を口ずさむ。
1曲、2曲、3曲、4曲…。
何時の間にか、何人かが私の車の周りに集まって来て、そしてまたその内の何人かが私の後を追うように口ずさむ。
そして、最後にLove Is The Massageを。
楽しい!
歌い終え、一息を付く。
高校時代のあのとてもマジカルなライブを少しだけ思い出す。
一人が拍手し始める。
それに続くように何人かがパラパラと。
気付くと周りの皆が私に向かって拍手をしてくれている。
え、え、え?!
何時の間に寝袋から起き出したのか、さわ子さんも混じっている。
さわ子さんは、周りの人らよりもずっとオーバーアクションで私を称賛してくれ、さらには指笛を鳴らしたりして、周囲のダンサー達を煽る。
DJは私に視線を送って来る。
私は困惑してさわ子さんを見る。
さわ子さんは舌をペロリと出してウインク。
私は胸を張る。
DJはターンテーブルに新たなレコードを乗せる。
イントロ。
クラシックなディスコ調のロックンロール。
でも、皆を躍らせるスペシャルな一曲。
さわ子さんとダンサー達はイントロが流れ出した瞬間に拳を突き上げた。
"私は耐えている"
"一人の夜を過ごしてる"
"ああ、こんなに君が恋しいのに"
"ずっと、呼びかけてくれるのを待ってるのに"
"一人きりのベッドで待ってるのに"
"君にキスしたいなって思って、待ってるのに!"
・・・
あの日、私と彼女はいつものように出かけ、彼女はいつものように、タブレットを口に放り込んだ。
私は彼女が、自分がどれだけ情け無い顔になるのかって言う事を周囲のダンサー達と競い合うようになってきているんじゃないかと感じていた。
つまり、何となく、彼女のスタンスが気に食わなくてなって来ていたので、当て付けにその日はそれを摂らなかったのを憶えている。
彼女はその事にちょっとだけ不満そうな顔をしたけれど、効きだしてしまえば、私とのそんな感覚の相違さえどこかに飛んで行ってしまう。
その日、彼女とダンサー達に取って不幸だったのは、前日に、近くでオーバードーズで病院に運び込まれたティーンがいて、そして、警察は次に開かれたパーティを絶対に潰してやろうと手薬煉を引いていた事で、要するに夜が更けピークを迎えんとする頃に警察の手入れが行われたと言う事だった。
私は、彼女と別れて車に戻り、スカンクを決めて、カーステから流れるロウなダウンビートに身を任せている所だった。
突然、私の車は明滅する青い光の中に投げ込まれる。
最初、何が起きているかさっぱり分からなかった。
窓が乱暴に叩かれ、私がビクビクしながら開けると、制帽を被った男が車をすぐ動かすように高圧的な口調で命令して来る。
激しく明滅する青い光と男のその高圧的な口調に、私は少しバッドに入ってしまい、運転する事に恐怖を感じたが、何とか周囲の車にぶつけないで動かす事は出来た。
私の作った一台分の車が入れるスペースを通り、回転灯から青い光を放ちながら車は侵入して行く。
その連なるパトカーは、まるで黙示録に描かれた全ての終わりの時に訪れると言う蒼ざめた馬のようだった。
私は何時の間にか横に座っている彼女に気付く。
彼女も警察の突入から何とか逃れる事が出来たらしい。
どれぐらいたったか分からないものの、夜は明けていた。
私達の車の周りを囲んでいたパトカーもその仕事を終え、既に帰路に付いたようだった。
夢の国は消え失せ、住人達も消え失せた。
私達二人は座席から、寒々とした気分でその光景を見ていたのを覚えている。
取りあえず、私達は二本分のジョイントを巻き上げ、残りの全てはトランクの中敷きの下に押し込んで車を発進させた。
車が田舎のでこぼこ道を走っている間、私達の間で交わされる言葉は何も無かった。
家に帰りついても、私達は何の会話も交わさなかった。
いつも同じにしていたベッドでは無く、彼女は来客用のベッドに、私は自分のベッドに潜り込む。
そして、私が目覚めた時には彼女の姿は無かった。
トランクの中敷きの下に隠したブツとともに、彼女の姿は煙のように消え失せていた。
エンディングへと向かうための後日談ときたら実に喜劇的なもので、彼女はその少し後で都市部を襲ったコカインの嵐に巻き込まれたと言う。
共通の友人から聞いた話によって補足すれば、こう言う感じらしい。
伸びきった犬みたいに両手両足を大の字にする形で武装警官に制圧され、懐を探られる彼女。
そして、そこで彼女の懐から見つかったものの前では、得意の無実を装う演技もまるで意味の無いものだった。
コカインのディーリングを理由として、元パートナーが刑務所に放り込まれたと言うエンディング。
そんな風に夏の恋の物語は終わりを迎える。
夏の恋から醒めた。
結局、パーティの時間は終わって私は父の会社の現地法人に就職する事にした。
無難な着地だった。
高校時代に皆で誓った「HTTを続けて行こう」と言う約束を失恋と天秤に掛けて、一人逃げ出した私に相応しい末路。
夏の恋も幻だった。
人々を結びつけるポジティブなヴァイブ?
ただ、Eをやってただけよね。
それが外で通用する訳がない。
Eを摂取して、会場の外に出て街の酔っ払いに「Hallo!」
あはは、きっと酷い目に合わされるわ。
・・・
車のルーフから飛び降りた私とさわ子さんはハイタッチする。
それからハグ。
さわ子「格好良かったわよ、ムギちゃん」
私は、呼吸を整えながらさわ子さんに微笑み返す。
紬「最初は合唱部に入ろうと思ったぐらいですから」
演奏&視姦専門で、ですけど。
それから、私達は再びDJのスピンする曲に合わせて踊る。
チルスペースだった筈なのに、DJはアップリフティングな曲を回し、どんどん上げていった。
私の行動がそのパーティを動かしたのは間違い無かった。
・・・
そんな恋の終わりに落ち込んでいた私を元気付けてくれたのは、やはり私の原点であるあの人。
唯ちゃんのCDを偶然入ったショップで見つけたときは本当に驚いた。
そこは好事家のためのセレクトショップで、新しいもの好きのための音源なども数は絞られているが入荷するようなところだった。
そこでは、アメリカのインディーロックや、ドイツのアンダーグラウンドなダンス、都市部のレベルミュージックなどが無造作に並列的に置かれていた。
そんな中にただ一枚並べられていたCD-R音源。
そんな中から何で分かったかって?
それは、分かるわ。
私の大好きな、一番大切な人の名前だもの。
懐かしい声。
でも、そのサウンドも歌詞も私の知っているものじゃなくて、だから私を打ちのめした。
私も少しばかり色々な世界を覗いたから、その凄みが分かった。
・・・
電話をするのが怖かった私は、裏にプリントされたアドレスへメールを送る。
すぐにメールは帰ってきた。
りっちゃんから。
澪ちゃんも梓ちゃんもいなくて、唯ちゃんの側にいるのはりっちゃんだけ。
りっちゃんは「あはは、ちょっとすれ違いがあってさ…」と、自嘲気味に話してくれた。
その言葉に翳りはあまり無くて、もう新しい道を生きているみたいだった。
きっと、唯ちゃんだけが一人私達の帰ってくるのを待っている。
小雨の中でも、空を見上げて雨が止むのを待つみたいに。
私の呪いの言葉の通りに待ち続けていたのだ。
電話をするのが怖かった私は、裏にプリントされたアドレスへメールを送る。
すぐにメールは帰ってきた。
りっちゃんから。
澪ちゃんも梓ちゃんもいなくて、唯ちゃんの側にいるのはりっちゃんだけ。
りっちゃんは「あはは、ちょっとすれ違いがあってさ…」と、自嘲気味に話してくれた。
その言葉に翳りはあまり無くて、もう新しい道を生きているみたいだった。
きっと、唯ちゃんだけが一人私達の帰ってくるのを待っている。
小雨の中でも、空を見上げて雨が止むのを待つみたいに。
私の呪いの言葉の通りに待ち続けていたのだ。
・・・
さわ子さんは上着も脱がずにソファに倒れこむ。
さわ子「明日起きれるかな…」
紬「ファンデ落とさなくて良いんですか?」
さわ子「意地悪言わないでよぉ…」
さわ子さんはそこまで言葉を発した所で眠りに落ちる。
私は、それを確認して居間を出た。
そして、何をするかと言えば…、あはは、自分の部屋に戻りリズラに手を伸ばすの。
・・・
唯ちゃんがツアーでこっちに来ると聞いた時は、全てを諦めた振りをしていたけど、さすがに心が躍ったものだ。
当然、会う約束を取りつけた。
澪ちゃんはいないみたいだったけど、梓ちゃんは唯ちゃんの元に戻って来ていた。
唯「ムギちゃん!!」
紬「唯ちゃん!」
ライブが終わったばかりのテンションを維持したままに唯ちゃんは、駆け寄ってくると、私をギュっと抱きしめてくれる。
私は、隠していた気持ちがバレてしまわないようにと、少しだけ遠慮がちに手を回す。
唯ちゃんと私はしばらく抱きあう。
梓ちゃんがちょっとだけ、不満そうな顔してるけど、気にしないわ。
私の数年分の気持ちだって、少しぐらい報われても良いと思わない?
唯「ね、ムギちゃん、私、まだこうして音楽やってるよ、ムギちゃんが言った通りに」
紬「うん、凄い…、と思う…」
唯ちゃんは私の言葉に照れたようにはにかみの笑顔を見せる。
それはあの頃と同じ笑顔。
でも、私は唯ちゃんの目の下のグラデーションを描くそれに気付く。
あの娘たちと一緒のそれに。
唯ちゃんのハイテンションも単なるアシッド・ハイ。
だからって、私に何が言えるの?
ねえ、良い治療院を知ってるんだけど、って?
バカみたい。
もう私達全員があの頃と違ってる。
ねえ、私に何が言えたって言うの?
・・・
さわ子「じゃあ、また…、来年かな?」
私は、微笑んで返す。
紬「何時来て頂いても構わないですよ?」
さわ子さんは、苦笑する。
さわ子「そんなに休み取れないわよ」
紬「ふふ、私も首になっちゃいますしね」
さわ子さんは一頻り笑った後に、真剣な顔になる。
さわ子「皆のこと知ってるんでしょ?帰ってらっしゃいな」
紬「なんの事です?」
私は、そ知らぬ顔をしようとして、でも、それに失敗してしまう。
さわ子さんは、少し私を哀れむような表情を作った後で、また笑顔になる。
さわ子「もう、大人だものね、皆もムギちゃんも」
そう言って、さわ子さんはゲートに消えていく。
私は手を振って見送る。
見送る。
見送る…。
ただ、あのお行儀の良い桜が丘高校に私達ほどおかしな事になってしまった生徒がいなかったと言うだけで。
でも、私はそんな素敵なさわ子さんの助言も聞かず、部屋の隅でリズラを巻いてるばかり。
ふふふ。
どうしてだろう、自分で選択したことなのに、涙が出てくる。
・・・
私は、携帯電話の鳴り響く音に起こされる。
どうやら、車の中で眠ってしまっていたらしい。
携帯のディスプレイが懐かしい人の名前を表示させる。
?「ムギ?」
紬「うん、聞いてる」
?「私達、戻っても良いんじゃないかって思うんだ」
紬「うん」
?「ちがう。そうじゃないんだ。今更に格好付ける必要なんか無い。戻らなきゃ行けないし、戻りたいんだ」
紬「うん」
?「『うん』以外言ってくれよ」
ごめんね澪ちゃん、自分が泣いているのを隠したくて、それ以外の言葉が出て来なかったの。
紬「うん、澪ちゃん…。私も…、戻りたいな…」
澪「戻れるさ、きっとあの場所に」
私は、飛行機の予約をする。
一番大きいトランクに身の回りのものを詰め込む。
リズラやスカンクはもういらない。
勿論、ティーセットは忘れない。
私と澪ちゃんは、唯ちゃん達のいるホテルのロイヤルスイートの前に立つ。
そこには全てがある。
私の全てが。
さあ、覚悟を決めよう。
彼女達を救い出す。
そして、その後に唯ちゃんに告白する。
それからは?
サイコロに任せることに。
どういう結末になろうとも後悔はしない。
私はドアを開くと光の中に飛び込む。
私個人に取って言えば、「友人」に何か良きことを為すのは最高にハイな事で、そしてきっと、世界中の人に取ってもそうなんだろうなって。
それは、ストレート、ゲイ、そしてビアン、あらゆる人種に関わらず、共通する祈りのようなものだと信じる。
そうやって、私達は自分の人生を祝福していくの。
皆の身体に手を回す。
私達五人はあの頃のように一つになるように抱きしめ合う。
私は、そして君は音楽に身を委ね、手を振り上げ、フロアに靴底を叩きつける。
そうね、そうやってダンスは続いていく。
だから…。
“Pick Me Up,I’ll Dance Dance Dance,Dance To The..."
145 : VIPに... - 2011/07/07 23:28:51.70 pqfdInRF0 113/114トラックリストみたいな。
タイトルとラスト
http://www.youtube.com/watch?v=gBKbrlK9mD0
Melba Moore - Pick Me Up I'll Dance
Love Is The Massage
http://www.youtube.com/watch?v=VsaeDvR22-U
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MFSB And The Three Degrees - Love Is The Message
私は耐えている
~
君にキスしたいなって思って、待ってるのに
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The Rolling Stones - Miss You
パーティやフェス
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