樹海
幽霊「は、はなしてくれ!!俺はもうこんな世界とはオサラバするんだ!!」
少女「だめだって!!死んだっていいことないよ!!」
幽霊「はなせ!!楽になりたいんだよぉ!!」
少女「だめだよ!!!生きていれば必ずいいことあるよ!!」
幽霊「うおぉぉぉ!!!」
少女「だめぇぇ!!!」
幽霊「―――くそ……また死ねなかった……」
少女「はぁ……はぁ……もう、死ぬなんて考えちゃ……だめ、だよ……はぁ……」
幽霊「くそ……死にてぇよぉ……」
元スレ
幽霊「鬱だ死のう」少女「死んじゃダメー!!」
http://hibari.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1318627128/
少女「どうして首つりなんかしようとしてたんですか?」
幽霊「……この不景気で働き口がなくなって……事業も失敗……借金だけが嵩んじまった」
少女「それで自殺を……?」
幽霊「……君は?」
少女「あ、申し遅れました。私、ボランティア団体『ノー!自殺会』の者です」
幽霊「なんだい、その団体?」
少女「貴方のような自殺志願者を瀬戸際で止めるために動いています」
幽霊「余計な御世話だ……もう死なせてくれよ……」
少女「しかし……」
幽霊「お前みたいなガキに大人の苦労はわかんねえよ」
少女「……」
幽霊「今日はもう帰る」
少女「あ、待ってください」
幽霊「……?」
少女「貴方のこと、もっと聞きたいです」
幽霊「……どうして?」
少女「話せば楽になることもあります。明日への希望が見出せることもあります」
幽霊「ねえよ」
少女「否定するのは簡単です。でも、話したことで貴方が失うものなんてなにもないはずです」
幽霊「……」
少女「さあ、喫茶店でゆっくりとお話しましょう?」
幽霊「……ちっ。わかったよ」
喫茶店
カラーン
店長「いらっしゃいませ。開いている席にどうぞ」
少女「いつもすいません、マスター」
店長「今日もつれてきたのか?」
少女「はい」
店長「そうか」
少女「どうぞ」
幽霊「ああ」
店長「ご注文は?」
幽霊「エスプレッソ」
少女「エスプレッソとカフェオレを」
店長「少し待っててくれ」
少女「ここ、良い雰囲気だと思いませんか?」
幽霊「ああ……そうだな」
少女「私、ここで貴方のような人の話をいつも聞いているんですよ?」
幽霊「そうなのか……」
少女「私、まだ中学生ですけど……それでもお話を聞くことはできますから」
幽霊「……」
少女「友達にも「お前は聞き上手だな。床上手でもあるかもな」って言われます」
幽霊「それセクハラされてるぞ?」
少女「はぁ……喉が渇いたぁ……ちょっとすいません……ごくごく」
幽霊「……」
少女「ふう……じゃあ、どうぞ」
幽霊「なにを?」
少女「貴方の身の上話です」
幽霊「……」
少女「嫌ですか?」
幽霊「なんで見ず知らずのお前に話さないといけないんだ?」
少女「私は小学校からずっと書道を習っています」
幽霊「は?」
少女「これでも初段なんですよ?すごいと思いません?」
幽霊「あ、ああ」
少女「字が綺麗なこともよく褒められます」
幽霊「そうか」
少女「はい。次は貴方の番」
幽霊「いやだよ」
少女「なんでー!?私のプライベート話したのに!?」
幽霊「いやいや」
少女「むー」
店長「はい、お待たせしました」
少女「ありがとうございます」
幽霊「どうも」
店長「がんばれよ?」
少女「はい」
幽霊「……」
少女「―――えっと、私の趣味は漫画を読むことです」
幽霊「……」
少女「最近はまった漫画は、ゾンビの女の子が主人公の家に押しかけてくるところから始まるやつです」
幽霊「へえ」
少女「で、そのゾンビの女の子がまた天真爛漫で可愛いんですよ」
幽霊「そうなのか」
少女「はい。次は貴方の番」
幽霊「……(ズズ」
少女「―――持っている漫画で一番好きなのは、女子高を舞台にしたやつで」
幽霊「もういい。そんな話をされても俺のことを話す気にはなれない」
少女「話す気があるからついてきてくれたんじゃないんですか?」
幽霊「……」
少女「あ、アニメも好きなんですよ、私」
幽霊「……」
少女「魔法少女物とか欠かさず見てますね」
幽霊「そうか」
少女「……どこで働いていたんですか?」
幽霊「……」
少女「これだけ話したんです。それぐらいいいと思いますけど」
幽霊「君が勝手に喋っただけだろ」
少女「それでも聞いたことには違いありません」
幽霊「……うぜぇ」
少女「どうぞ」
幽霊「部品工場だ」
少女「へえ」
幽霊「そこで社長もやってた」
少女「おぉ。すごいじゃないですか」
幽霊「……終わりだ」
少女「……私には兄が一人います」
幽霊「……」
少女「最近は一緒にお風呂に入ってくれなくて、少し困ってます」
幽霊「いや……普通は入らないだろ」
少女「え?なんでですか?」
幽霊「お前の体に訊いてみろ」
少女「もしもーし。私の体さーん。どうしてお兄ちゃんが一緒にお風呂、入ってくれないのー?」
少女「―――それはね。お兄さんが君のいやらしいボディを意識しちゃうからだよ?」
少女「きゃー、お兄ちゃんのエッチ!―――みたいな?」
幽霊「わかってんじゃねえか」
少女「はい、どうぞ」
幽霊「どうぞって……」
少女「……」
幽霊「三十半ばで部品工場を立ち上げた……初めは上手く行ってたが、景気の煽りを受けてな」
少女「倒産……ですか?」
幽霊「その通りだ」
少女「―――私、カステラに目がないんですよ」
幽霊「……」
少女「特に近所のケーキ屋さんにあるカステラは絶品なんです。そう思いません?」
幽霊「カステラ……ああ、そういえば俺の娘も好きだったな」
少女「そうなんですか?」
幽霊「ああ、いつも買っていってやってた」
少女「娘さんは?」
幽霊「……まだ5歳だ」
少女「じゃあ、娘さんのためにも生きないと」
幽霊「もう嫁とはとっくに離婚した……」
少女「……」
幽霊「すぐに再婚して、幸せそうな家庭を築いていたよ」
少女「離婚の原因は?」
幽霊「俺の経営が上手くいかなかったからだな……将来を不安に感じたんだろう」
少女「……」
幽霊「……(ズズッ」
少女「―――私、休日はよく散歩に行きます」
幽霊「散歩?」
少女「はい。近所に緑化公園があって、とっても綺麗なんです」
幽霊「へえ……」
少女「昔はよくお父さんとお母さんに連れていってもらいました」
幽霊「ふーん」
少女「その公園でいつもお母さんが作ってくれたお弁当を三人で食べてました」
幽霊「そうか」
少女「はい」
幽霊「……で?」
少女「あ、えと……肩車とかもしてもらいましたね」
幽霊「よく覚えているな」
少女「なんとなくなんです。お母さんから聞いた話も混じってます」
幽霊「そうなのか」
少女「はい」
幽霊「……俺も昔は同じようなことしてたな」
少女「そうなんですか?」
幽霊「ああ……嫁が弁当をつくって……公園にいって……貧乏だったけど、幸せだった」
少女「今からでも幸せになれますよ」
幽霊「無理だな。もう俺を雇ってくれるところなんて……どこにもねえよ」
少女「……」
幽霊「……(ズズ」
少女「私が小学校に上がったとき、お父さんから文房具一式を買ってもらいました」
幽霊「……」
少女「それがとても嬉しくて、そのときの筆箱はまだ使ってるんですよ?」
幽霊「へえ……大事に使ってるんだな」
少女「私の宝物です」
幽霊「そうか……」
少女「貴方にも守りたい物ってあるんじゃないですか?」
幽霊「……もうないな」
少女「そんなこと……」
幽霊「俺が守りたかった宝物は、家族だ。―――でも、失った」
少女「……」
幽霊「嫁の再婚相手は大企業に勤めているエリートだって聞いた」
少女「……」
幽霊「そんな男が父親なんだ……俺が今更出しゃばっても仕方ないだろ?」
少女「そ、そんなことありません!!」
幽霊「……なんで?」
少女「娘さんはきっと本当のお父さんのことも大好きなはずです」
幽霊「そんなの君には分からないだろ?」
少女「……な、なんとなくそう思うんです」
幽霊「そうか……そうだといいな」
少女「……」
幽霊「……(ズズッ」
少女「私、癖があるんですよね」
幽霊「癖?」
少女「はい」
幽霊「どんな?」
少女「無意識に親指をしゃぶる癖です」
幽霊「恥ずかしいな」
少女「えへへ」
幽霊「いや、照れるな。治そうとしろ」
少女「うーん……それが中々治らなくて」
幽霊「いいか。親指を常に意識することが大事だ。俺の娘も長いことその癖が続いていたから、分かる」
少女「具体的には?」
幽霊「一番良いのは輪ゴムとかを親指にはめとけばいい。ゴムの味が不快に感じ、次第にしゃぶらなくなる」
少女「本当ですか?」
幽霊「それで娘の癖は治った間違いない」
少女「じゃあ、今度試してみますね」
幽霊「ああ、そうしろ」
少女「……」
幽霊「……(ズズッ」
少女「私のお母さん、昔は看護師さんだったんですよ」
幽霊「へえ、そうなのか?」
少女「はい。今はもう辞めちゃったんですけど」
幽霊「俺の嫁も看護師だったぜ?」
少女「おぉ!そうなんですか?」
幽霊「ああ、あいつのお陰で家計はだいぶ楽になってたな」
少女「でも、意外と安月給なんですよね?」
幽霊「そうなんだよな」
少女「あはは、いつも愚痴をお父さんにこぼしていたみたいですよ?」
幽霊「俺の嫁も同じだ」
少女「あなたの所為で私がこんなに不幸なのよーとか」
幽霊「もっと稼いでくれれば私も楽できるのにーとかな」
少女「あはは」
幽霊「懐かしいな……」
少女「ですね」
幽霊「え……?」
少女「あ、いえ」
幽霊「……娘は元気だろうか」
少女「はい。きっと元気ですよ」
幽霊「……まだ五歳だからな……嫁の再婚相手に迷惑かけていないかだけが心配だ」
少女「……」
幽霊「……(ズズッ」
少女「やっぱり、まだ心残りがあるじゃないですか」
幽霊「……」
少女「娘さんのこと、心配なんですよね?」
幽霊「……そうだけど」
少女「なら、もっと生きるべきです」
幽霊「……」
少女「生きて、娘さんに元気な姿を見せてあげてください」
幽霊「無理だよ……もう俺には娘に会う資格はない」
少女「貴方は父親です。それで充分じゃないですか」
幽霊「……うるせえ。お前に親の気持ちがわかるかよ」
少女「……」
幽霊「……(ズズッ」
少女「駅前のカステラ……もう食べれないんですよね」
幽霊「そうなのか?」
少女「もう随分前に潰れました」
幽霊「……変だな。この前まで繁盛してたぞ?」
少女「不景気の煽りってやつですね、きっと」
幽霊「そうか……あれだけ客がいてもだめなのか」
少女「はい」
幽霊「娘は残念がってるだろうな」
少女「はい。お父さんが買って来てくれた、カステラをもう食べれませんから」
幽霊「でも、新しい親父がもっといいカステラを買って来てくれるはずだ」
少女「私はあの店のカステラが一番だと思います」
幽霊「そうか」
少女「はい」
幽霊「……あ、そういえば。あの店で一度、娘の誕生日ケーキを買ってやったことがあったな」
少女「いつのときですか?」
幽霊「4歳だったか……でな、そのとき手紙をもらったんだ」
少女「……」
幽霊「汚い字でなんて書いてあるか読めなくて……」
少女「なんて書いてあるか聞いたんですか?」
幽霊「そうそう。そしたら「ごめんなさい」って謝られてな」
少女「そうですか」
幽霊「……悪いことしたと思ってる」
少女「そうですか」
幽霊「傷ついんだろうな」
少女「その一言で字が綺麗になってるかもしれませんよ?」
幽霊「そんな馬鹿な」
少女「わかりませんよ。貴方は娘さんに会ってないんですから」
幽霊「あはは、たった一年ほどじゃ、変わらないだろ」
少女「でも十年なら?」
幽霊「は?」
少女「十年なら、きっと変わります」
幽霊「ああ……そうだろうな」
少女「はい」
幽霊「十年か……十年経てば、君ぐらいになってるんだろうな」
少女「そうですね」
幽霊「はは……きっと美人になってると思うよ」
少女「親バカ、なんですね」
幽霊「……(ズズッ」
少女「……マスター、おかわりください。同じものでいいので」
店長「分かった」
店長「どうぞ」
幽霊「……」
少女「どうも」
幽霊「……君のお父さんはどんな人なんだ?」
少女「……大きな会社に勤めています」
幽霊「そうなのか」
少女「はい」
幽霊「いい父親か?」
少女「ええ。とっても。お兄ちゃんも、最初は戸惑いましたけど、よくしてくれています」
幽霊「最初って?」
少女「本当のお兄ちゃんじゃないんです。お父さんの連れ子で」
幽霊「ああ、そうなのか」
少女「はい」
幽霊「じゃあ、親が再婚したのか」
少女「はい」
幽霊「なるほど……君も苦労したんだな」
少女「いえ……」
幽霊「……(ズズッ」
少女「娘さんに会いたくないんですか?」
幽霊「……君だって今更、本当のお父さんに会いたいって思わないだろ?」
少女「できることなら、会いたいです」
幽霊「そうなのか……?」
少女「はい」
幽霊「本当のお父さんは?」
少女「十年ほど前に……亡くなりました」
幽霊「そ、そうか……すまない……」
少女「自殺……したんです」
幽霊「……!?」
少女「貴方と同じように樹海で首を吊って」
幽霊「……」
少女「私はまだ幼かったので父親の死が良くわかりませんでした」
幽霊「だろうな」
少女「でも、最近になって本当の父親にはもう会えないことが理解できました」
幽霊「君がその変な団体に入っているのは、お父さんの所為か?」
少女「そうかもしれません。自殺する人に自分の父を重ねているんだと思います」
幽霊「なるほど」
少女「だから、貴方を見て止めなきゃって思いました」
幽霊「……」
少女「自殺なんてダメです。娘さんに会えなくなりますよ?」
幽霊「それは……」
少女「この世に未練を残したまま死んでも、きっと成仏なんてできません」
幽霊「俺に……未練なんて……」
少女「娘さんのこと心配しているって言ったじゃないですか」
幽霊「……」
少女「生きてください」
幽霊「ダメだよ」
少女「……」
幽霊「こんな落ちこぼれ……成長した娘が見たら、きっと嫌いになる」
少女「そんなこと……」
幽霊「娘に嫌われるのは、死ぬことより辛い……」
少女「……そんなこと……」
幽霊「お前には分からない。それが親の気持ちだ。こんな姿、見られたくない」
少女「……違います」
幽霊「え?」
少女「貴方の元気な姿が見れたら、それでいいんです。また笑顔で娘さんを肩車したらいいじゃないですか」
幽霊「勝手な事をいうな!!」
少女「……」
幽霊「そんな綺麗事……言うな!!」
少女「このまま死ぬんですか?」
幽霊「こんな屑……生きてても仕方ないだろ?」
少女「……」
幽霊「だから……俺はもう死ぬんだ」
少女「……」
幽霊「俺にはもう……何もない……」
少女「娘さんの気持ち……考えないんですか?」
幽霊「……」
少女「娘さんが成長して、貴方が死んでいることを知ったとき、どれだけ悲しい思いをするか、考えましたか?」
幽霊「そ、れは……」
少女「泣いたりすることはないかもしれません。けれど、あの優しかった父親がいないと分かったら……寂しいって思います」
幽霊「……」
少女「頑張って字を綺麗にするために習字をしたのに、最も褒めてもらいたい人がいない」
幽霊「……」
少女「大好きなカステラを嬉しそうに買って来てくれる人がいない」
幽霊「……」
少女「あの公園で昔のことを笑って話せる人がいない」
幽霊「君は……」
少女「そんなの悲し過ぎます……」
幽霊「……」
少女「だから……生きてください」
幽霊「……ごめん」
少女「……っ」
幽霊「やっぱり……自分の娘に胸をはって生きていける自信がない……」
少女「そんなの……!」
幽霊「……君がよくても、俺がダメだ。ごめん……」
少女「……また、死ぬんですか?」
幽霊「……また?」
少女「……」
店長「おい」
少女「……もう……だめ……」
店長「今回も失敗か……」
幽霊「……?」
少女「もう……何回も……あなたは、死んでます……」
幽霊「え……?」
少女「今回で……貴方は、50回以上……死んでます」
幽霊「意味が……」
少女「私が貴方を止めたのは偶然じゃありません。死ぬ場所が分かっていたからです」
幽霊「……」
少女「何度も自殺を説得してきました……貴方が死んだことを自覚してしまう前に……」
幽霊「何の話だ?」
少女「……どうして気がついてくれないんですか!!」
幽霊「……!?」
少女「自分が死んだと自覚してしまうと……未練を残したことにも気が付き……この世に戻ってくる」
幽霊「俺は……死んだのか……」
少女「自覚する前に貴方の未練を断ち切りたかった……」
幽霊「……」
少女「初めて貴方を説得するときは、自分のことを正直に話しました」
幽霊「え……?」
少女「でも、貴方は全く信じてくれなかった。―――誰に聞いたんだ。嫁の知り合いか。って」
幽霊「お、い……」
少女「だから、少しずつ思いだしてもらおう……私のことに気付いてもらおうって……」
幽霊「……」
少女「……」
幽霊「そうか……すまん」
少女「だから……お母さんに捨てられるんです……鈍感」
店長「……」
幽霊「あの人は?」
少女「マスターは成仏の方法を教えてくれた人です。住職でもあるので」
幽霊「……」
少女「……はぁ……今回も失敗した……」
幽霊「俺はまた繰り返すのか?」
少女「はい」
幽霊「……また君は俺を助けようとするのか?」
少女「……」
幽霊「……どうしてだ?」
少女「―――お父さんに会えるから」
幽霊「……」
少女「……こうして話すのが、好き……だから」
幽霊「お前……」
少女「最後にお喋りして、貴方が成仏できるなら、私は嬉しい……」
幽霊「……」
少女「あ、見て。これ」
幽霊「その筆箱……」
少女「貴方に貰ったもの……まだ現役」
幽霊「そうか……ありがとう……」
少女「あとね……ほら」
幽霊「おお……本当に字が綺麗だな。俺とは大違いだ」
少女「私、頑張ったんだよ?」
幽霊「そうか……」
少女「……」
幽霊「よく……がんばったな……えらいぞ?」
少女「うぅ……ぅ……パパ……」
幽霊「こんなダメな親父で……本当に……すまない……」
少女「……ぅ……うぅ……なんで、し、んじゃうのよぉ……」
幽霊「すまない……」
少女「ぐっ……うぐ……」
幽霊「……」
店長「では、そろそろお帰り願おう」
幽霊「……」
店長「このままでは娘さんをどこかに連れていってしまうかもしれないかならな」
幽霊「そうですか」
少女「……」
店長「あなたはもう何度も娘さんを泣かしている。……まあ、今言っても貴方は忘れてしまうが」
幽霊「そうなのか……?」
少女「うん……」
店長「それでも彼女は諦めようとしない。亡き父のことを本当に慕っているようだ」
幽霊「……」
少女「……パパ……」
幽霊「もうやめろといっても、聞かないんだろうな」
少女「ごめん……」
幽霊「強情さは母親譲りか」
少女「パパも、でしょ?」
幽霊「ああ、そうかもしれない」
少女「―――またね」
幽霊「……ああ」
少女「―――大好き」
幽霊「―――愛している」
店長「……消えたか」
少女「ありがとうございました、マスター」
店長「また来週も来るのか?」
少女「はい」
店長「そうか……諦めないんだな」
少女「大好きな人が何度も苦しむのは……嫌ですから」
翌週 樹海
幽霊「は、はなしてくれ!!俺はもうこんな世界とはオサラバするんだ!!」
少女「だめだって!!死んだっていいことないよ!!」
幽霊「はなせ!!楽になりたいんだよぉ!!」
少女「だめだよ!!!生きていれば必ずいいことあるよ!!」
幽霊「うおぉぉぉ!!!」
少女「だめぇぇ!!!」
幽霊「―――くそ……また死ねなかった……」
少女「はぁ……はぁ……もう、死ぬなんて考えちゃ……だめ、だよ……はぁ……」
幽霊「くそ……死にてぇよぉ……」
少女「―――死なないで……お願い……」
幽霊「……ああ」
少女「え……」
幽霊「……死んだら、娘に……会えないな……」
少女「……はい。さ、喫茶店でゆっくりお話しましょう?」
END