1 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:00:07.267 4gJal0vV0 1/38

―会社―

「おはようございます」

同僚「おはよ――」

同僚「え」

「……」

同僚(手首に……包帯巻いてる!)

同僚(これってまさか、まさか……リストカット!?)

(うふふ、さっそく気づいたみたい!)

元スレ
女「手首に包帯巻いたら……みんな私に優しくしてくれるかも!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1602068407/

2 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:03:09.075 4gJal0vV0 2/38

同僚「あ、あのさ……」

「はい?」

同僚「その手首……」

「手首がどうしました?」

同僚「い、いや……(あんまり触れない方がいいよな)」

同僚「頼みたい仕事があったんだけど……やっぱいいや! うん!」

「そうですか」

(やった! 効果テキメン!)

4 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:06:02.858 4gJal0vV0 3/38

課長「君ィ、こんなミスしちゃ困る……!?」

「すみません……」

課長(手首に……包帯!?)

課長「いや、いいんだよ……このぐらいのミスはよくあることさ」



OL「よかったら、これ食べない?」

「いいの? ありがとう」

OL「だから元気出してね」



(みんな優しくしてくれるようになったわ! あとは――)

5 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:09:12.673 4gJal0vV0 4/38

―自宅―

「ただいまー」

「お帰り」

「ニャーン」

「ちょっと遅くなっちゃった。すぐご飯にするから」

「ああ、お腹減っちゃったよ。お前もだろ、なぁ?」

「ニャーン」

「ごめんねえ。キャットフード出すからね」

「おいおい、人間の飯を先にしてくれよ」

(うーむ、特に変わった様子はないなぁ……)

6 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:12:09.811 4gJal0vV0 5/38

TV『ここで変わったニュースです』

TV『最近、都内で包帯を全身に巻いた“ミイラ男”の目撃情報が相次ぎ……』

「なんだこりゃ」

「ホントに変なニュースだね」

「ニャオーン」

「大丈夫、ミイラなんているわけないんだから。これだってどうせイタズラでしょ」

「じゃあ、今晩も……いいだろ?」

「もう……」

(包帯巻いても、この人は変わらないか)

8 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:15:25.439 4gJal0vV0 6/38

―会社―

同僚「悪いんだけど、これ急ぎで頼むよ!」

「はーい」

OL「ごめーん、これ手伝って!」

「分かったわ」



(うーん……会社でも包帯の効力が切れてきたな……)

9 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:18:10.827 4gJal0vV0 7/38

―ドラッグストア―

「あったあった、包帯」

「今度は両手首に巻いてみよう!」

(そしたら、きっと彼だって……)



???「……」

10 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:21:28.435 4gJal0vV0 8/38

「両手首に巻いて、と……」グルグル

「やめろ……」

「え?」

ミイラ男「……」

「……きゃあっ!?」

(全身に包帯を巻いてる……!)

(こいつ、まさか……ニュースでやってたミイラ男!?)

11 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:24:26.486 4gJal0vV0 9/38

「な、なにか用ですか?」

ミイラ男「包帯巻くのをやめろ……」

「なんで……?」

ミイラ男「いいからやめろ……後悔することになる……」

「やめないわよ!」

「私はこの包帯で、みんなに……彼に大切にしてもらうんだから!」

タタタッ…

ミイラ男「……」

12 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:28:37.612 4gJal0vV0 10/38

―自宅―

「ただいまー」

「お帰り」

「ニャーン」

「私ね、さっき……」

「どうした?」

「ううん、なんでもない」

「そっか。じゃあ早くメシにしてくれよ。腹減っちまった」

「うん、分かった」

TV『強盗を繰り返していた青少年グループが、警察に保護され……』

(あーあ、私も保護してもらいたいわ)

13 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:31:19.160 4gJal0vV0 11/38

―会社―

同僚「包帯が両手首になってるぞ……」

OL「また自殺未遂したのかも……」

ヒソヒソ…

(会社では効果テキメン! 包帯を増やしたかいがあったわ!)



―自宅―

「猫も寝たし、今夜もたっぷり楽しもうぜ」

「しょうがない人ね……」

(だけど、この人は変わらないか……)

14 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:33:56.398 4gJal0vV0 12/38

―ドラッグストア―

(私は諦めない!)

(もっと! もっと包帯を巻けばきっと……)

「包帯ください!」

店員「かしこまりました」

店員(こんなに買うの……? よほど怪我する人なんだな……)

17 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:38:06.976 4gJal0vV0 13/38

「……あ!」

ミイラ男「前より包帯を増やしたな……愚か者め」

「また来たの!? なんなのよもう!」

ミイラ男「包帯巻くのを……やめろ」

「……!」

「私はやめないわよ!」タタタッ

ミイラ男「……」

18 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:40:27.824 4gJal0vV0 14/38

―会社―

「うふふ……これだけ巻けばきっと……」



ヒソヒソ…

同僚「彼女、どうしちまったんだ? どんどん包帯を増やしてるぞ」

OL「いくらなんでもおかしいわよ……」

課長「ううむ、単なるファッションならいいのだが……」

同僚「いや、よくないでしょう」

19 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:43:45.661 4gJal0vV0 15/38

……

(両肘や首にも巻いてみたけど、彼には効果なし……)

(だったら次は――)

ミイラ男「やめろ」

「出たわね、ミイラ男!」

ミイラ男「包帯巻くのをやめろ」

「だから、やめないっていってるでしょ!」

22 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:46:52.108 4gJal0vV0 16/38

「なんなの!? 私を口説くつもり!? あいにくミイラのコスプレするような変態に興味ないのよ!」

「失礼するわ」スタスタ

ミイラ男「俺みたいになるぞ」

「え?」

ミイラ男「あまり意味もなく包帯を巻いてると……俺みたいになってしまう」

「……!?」

24 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:50:21.835 4gJal0vV0 17/38

「あなたみたいってどういうこと?」

ミイラ男「お前がなぜ包帯を巻くか、俺には手に取るように分かる」

ミイラ男「包帯を巻くことで、周囲から心配されたり、チヤホヤされたいんだろう?」

「なんで……分かるの……」

ミイラ男「なぜなら、俺もお前と同じ道をたどった人間だからだ」

「……!」

25 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:53:37.842 4gJal0vV0 18/38

ミイラ男「俺は元々、地味で平凡な人間だった……」

ミイラ男「しかし、目立ちたい、特別扱いされたいという思いは人一倍強かった……」

ミイラ男「だが、なんの取り柄もない俺が、特別扱いされるなど夢のまた夢……」

ミイラ男「もちろん、犯罪に走る度胸もない」

ミイラ男「そんな時、俺は自分の人生で“唯一主役になれた瞬間”を思い出したんだ」

「いつよ?」

ミイラ男「小学校の頃、腕を骨折した時だ」

27 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:56:31.932 4gJal0vV0 19/38

ミイラ男「子供にとって、骨折した奴ってのは死地から生還したヒーローみたいなもんだ」

ミイラ男「目立たない子供だった俺が、あの数日間だけはクラスの人気者になった」

『すっげえ包帯!』 『大丈夫かよ……』 『痛かった?』

ミイラ男「思い出せば思い出すほど、“もう一度味わいたい”という気持ちが強くなっていく」

ミイラ男「そして……ついに俺は怪我もしてないのに包帯を巻き始めた」

ミイラ男「巻いて巻いて巻きまくった! 映画に出てくるミイラ男のように!」

「……」ゴクッ

ミイラ男「そうしたら――」

28 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 20:59:24.632 4gJal0vV0 20/38

ミイラ男「俺の体はこの通りだ」シュルルッ

「え……!?」

ミイラ男「どうだ、本物のミイラみたいだろう? 全身干からびて、醜くて……完全に化け物だ」

「包帯を巻いただけで……?」

ミイラ男「お前は俺のことをただの包帯マニアとでも思ってただろうが――」

ミイラ男「包帯を巻いたことで、俺は本当にミイラ男になっちまったんだ!」

ミイラ男「世の中にはコスプレしてるうちに、自分こそが本物と思うようになり、体質すら変わる人間もいるという」

ミイラ男「俺にもあの現象が起こっちまったんだろう……」

ミイラ男「俺はもう人じゃない……。街をさまようしかできない哀れな“ミイラ男”なのさ」

「……」

29 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:02:21.035 4gJal0vV0 21/38

ミイラ男「その証拠にほら!」ガシッ

「きゃっ!」

ミイラ男「お前の手首の包帯をほどいてやる」シュルルッ

ミイラ男「やっぱりな……」

ミイラ男「お前の手首にもうっすら傷がついてる! リストカットなんかしてないのに!」

ミイラ男「このまま続けたら、お前も俺みたいになるぞ! だからもう包帯巻くのはやめろ!」

「……」

30 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:05:16.224 4gJal0vV0 22/38

「色々と身の上話してくれたところ、申し訳ないんだけど――」

ミイラ男「?」

「この傷、元々よ」

ミイラ男「へ?」

「私は元々リストカットしてたってことよ。薄い傷だから、誰も気づかなかったけどね」

ミイラ男「え……」

「ああ、それと……あなたもなかなかひどい体だけど、私だって似たようなものよ」ヌギヌギ

ミイラ男「わっ、いきなり脱ぐなよ!」

31 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:08:16.276 4gJal0vV0 23/38

「どう?」

ミイラ男「なんだこりゃ……!」

ミイラ男「服で隠れてる部分は、傷だらけ・痣だらけじゃないか! なんでこんなことに……」

「これ、みんな彼氏にやられたの」

ミイラ男「彼氏……!?」

「いえ……あんな奴、彼氏なんかじゃないわ……。悪魔よ!」

34 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:11:24.605 4gJal0vV0 24/38

ミイラ男「説明してくれないか」

「私の彼、ひどい男でね……」

「私の家に住みついて、自分は働きもせず、一日中家に引きこもって、ゲームやネットして……」

「仕事から帰ってきた私に暴力振るうの。毎晩のように……」

「私がこれ見よがしに包帯巻いても、なーんにも変わらなかったわ」

ミイラ男「たしかに悪魔みたいな奴だな……」

ミイラ男「だけど、そんなの逃げればいいだけの話じゃないか? 逃げて、警察や行政に相談すれば……」

「ダメなのよ」

35 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:14:18.393 4gJal0vV0 25/38

「猫が人質にされてるから」



『今夜も楽しもうなぁ……オラァ!』バシッ!

『いだいっ!』

『いいか……もし、部屋に警察やらどこぞの役人が来るような事態になったら……』

『この猫を殺すからなぁ……絶対殺す! こんな猫、一瞬で首ヘシ折れるからなァ!』

『ニャーン…』



「……ってね」

36 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:17:49.398 4gJal0vV0 26/38

ミイラ男「……」

「……というわけ。私はあの男から逃げられないのよ」

ミイラ男「一つだけ方法がある」

「はぁ? 猫ちゃんを見捨てるなら無理よ。あの子は私の大事な――」

ミイラ男「そうじゃない」

ミイラ男「警官や役人を連れていったらアウトなんだろ? だけどミイラならどうだ?」

「どういうこと……」

ミイラ男「俺が……お前の彼氏を倒してやる」

「……!」

38 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:21:13.916 4gJal0vV0 27/38

……

「……」ドキドキ

ミイラ男「……」

「本当に大丈夫?」

ミイラ男「ああ。いつも通り、帰ればいいさ」

「……うん」

「ただいまー」

ガチャッ

39 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:24:20.086 4gJal0vV0 28/38

「お帰り、遅かったな。なにやってたんだ?」

「うん……ちょっと人に会ってね」

「人ぉ?」

「この人なんだけど……」

ミイラ男「よぉ」ヌウッ

「わっ!?」

「なんだこいつ!? てめえ、なに変な奴連れてきてんだよぉ! ふざけんなよぉ!」

「猫殺してやるぅ!!!」ガシッ

「ニャッ!」

「あっ……やめてぇぇぇぇぇ!!!」

41 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:27:29.684 4gJal0vV0 29/38

ミイラ男「……」

「もうダメだわ……! 猫ちゃんが……!」

ミイラ男「ああ、もう終わってる」

「え」

「……」ボケー…

「ニャーン」

「あれ……? どうしちゃったの……?」

ミイラ男「ミイラの攻撃手段といえば決まってるだろう? “呪い”をかけたのさ」

ミイラ男「俺は憎しみを抱いた相手に呪いをかけることができる」

「呪い……!」

ミイラ男「さっきのあんたの話を聞いて、こいつにはムカついてたからな。あっさりかけれた」

42 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:31:15.167 4gJal0vV0 30/38

ミイラ男「俺の呪いを受けた者は、体じゃなく心が干からびる……」

「……」フラフラ…

フラフラ… フラフラ…

「行っちゃった……」

ミイラ男「死にはしないが……フラフラと町をさまよい歩くだけだ。俺みたいにな」

「今までも、誰かにかけたことがあるの?」

ミイラ男「街で強盗を繰り返してたチンピラどもを……数人な」

(そういえば、そういうニュースがあったような……)

43 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:34:02.366 4gJal0vV0 31/38

ミイラ男「ああ、それと傷跡を治してやる」

「え?」

ミイラ男「俺の包帯であんたの体を包めば――」シュルルルルッ

ギュッ

ミイラ男「ほどく」シュルルッ

「え……」

ミイラ男「ほら」

「すごい! 傷が治った!」

「ニャーン!」

ミイラ男「どうだ、ミイラだってなかなかやるもんだろ」

「ありがとう!」

45 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:37:06.721 4gJal0vV0 32/38

ミイラ男「さて……これで俺の役目は終わりだ。じゃあな」

「ま、待って……」

ミイラ男「ん?」

「あなたは……私たちを助けてくれたわ。ちょっとぐらいお礼させてよ」

ミイラ男「いいよ、お礼なんて」

「ニャーン」

「ほら、この子もあなたに感謝してるし」

ミイラ男「変わった女だな」

「あなたと同じ程度にはね」

46 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:40:14.371 4gJal0vV0 33/38

「あなたは人間に戻りたいと思ってるの?」

ミイラ男「そりゃ思うさ。早く人間に戻りた~いってなもんだ」

ミイラ男「だけど、戻る方法なんてあるわけない」

「そうかなぁ」

ミイラ男「え?」

「ミイラってようするに干からびた死体でしょ? だったら水飲みまくれば治るんじゃない?」

ミイラ男「……へ」

48 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:43:18.792 4gJal0vV0 34/38

ミイラ男「バカな……そんなんで戻れるわけが……」

「そんなんでって、あなた包帯巻いただけでミイラになったじゃない」

ミイラ男「ド正論!」

ミイラ男「よーし、やってみるか!」

「はい、水!」

ミイラ男「よしきた!」グビグビ

「ほら、もっと飲んで飲んで!」

ミイラ男「まるでわんこそばだな……」グビグビ

50 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:46:06.593 4gJal0vV0 35/38

ミイラ男「ゲェーップ、もう飲めない……」

「どう?」

ミイラ男「分からん……気持ち悪い」

「歩くのも辛いほど?」

ミイラ男「ああ……胃袋がチャプチャプしてる。動くのもしんどい」

「じゃあ、しばらくこの家に留まりなさいよ」

ミイラ男「ああ、そうさせてもらう」

ミイラ男(なんだか、上手く乗せられた気がするなぁ……。いや、飲まされた、か)

51 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:49:13.415 4gJal0vV0 36/38

しばらくして――

―会社―

「よし、終わった!」

「それじゃ、お疲れ様でーす!」

同僚「おう、お疲れ」

同僚「彼女……最近すごく元気になったな。包帯巻くのもやめちまったし」

OL「彼氏でも出来たのかな」

課長「それとも、長年抱えてた悩みが解決したのかもしれないねえ」

53 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:52:42.214 4gJal0vV0 37/38

「さあ、お水を飲ーんで! 飲んで! 飲ーんで!」

ミイラ男「飲み会のコールじゃねえんだから」グビグビ

ミイラ男「ぷはっ! おおっ……肌がちょっと瑞々しくなってきたような!」

ミイラ男「人間時代に戻ったような! ……気がする」

「でしょ!」

「じゃあ、今夜のご飯はアジのミイラね」

ミイラ男「干物っていえよ」

54 : 以下、5... - 2020/10/07(水) 21:55:19.886 4gJal0vV0 38/38

ミイラ男「だけど、住む場所を与えてくれたのは感謝するよ。ありがとう」

ミイラ男「あのまま街を徘徊してたら、きっともっと大騒ぎになってた」

「どういたしまして」

「“ミイラとりがミイラになる”って言葉があるけど――」

「あなたはミイラになるかもしれなかった私を助けてくれた……」

「だから……きっといつか人間に戻れるよ!」

ミイラ男「ハハ……だといいけどな」

「ニャーン」








おわり

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